皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
レッドキングさん |
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平均点: 5.28点 | 書評数: 935件 |
No.495 | 3点 | こわされた少年- D・M・ディヴァイン | 2021/09/11 10:31 |
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ディヴァイン第四作。原題は「His Own Appointed Day=己自身の宿命の日」だが、内容は「スコットランドから消えた少年」。優れた知性と詩的感性を持ちながら、自身が養子であることを知らされ「屈折」し、ある日突然に行方不明となった少年。前三作までの一人称叙述は姿を消し、事件を追う警部と義姉の二視点三人称叙述で話が進む。容疑者達・・養父母、義姉、教師達、少女、友人、実父、養父の愛人、刑事・・のパズル完成ビックリ感がイマイチ。 |
No.494 | 4点 | ロイストン事件- D・M・ディヴァイン | 2021/09/09 20:11 |
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ディヴァイン第三作。第一作の弁護士、第二作の医師ときて今回またも弁護士(元だが)が主人公。「ロイストン事件」て題だが内容は「父の殺人者」で、過去の「不正」裁判事件をめぐり殺された父親弁護士の事件。父親殺しで逮捕されたエリートぼんぼん異母弟(義弟ちゃうぞ)を助けるべく、真犯人捜しに奔走する主人公。犯人摘発ロジック相変わらず冴えてるが、前二作に比べてミステリアスな緊迫感に欠け、アリバイ時間トリックのショボさは第一作を上回る。一人称叙述なのに、今回は「あのネタ」頭をよぎりもしなかった。ところで、お題の「ロイストン事件」の方だが・・あんな奴を糾弾するためなら、あれ位の「不正」ありじゃないの? 熱血主人公や被害者父には悪いが・・・ |
No.493 | 6点 | そして医師も死す- D・M・ディヴァイン | 2021/09/06 20:08 |
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ディヴァイン第二作。処女作の弁護士に続き今回は医師の一人称叙述。共同経営者の不審死を追う、容疑者でもある医師と、怪しげな人物達・・若き未亡人、医師の婚約者とその親、被害者の娘と息子、未亡人の賭博狂従兄、胡散臭い市長・・。こんどこそあのネタ?(クリスティの名がチラつく)疑いつつ、二人の女の間をフラフラ揺れ動く主人公にイライラしつつ、ラストでの意表を突くWhyWhoWhomパズル完成が見事。※医師の最後の女選択・・病める時も健やかなる時にも富める時も貧しき時も・・にグッときた(後悔すっかもしれんけどね) |
No.492 | 6点 | 兄の殺人者- D・M・ディヴァイン | 2021/09/05 18:49 |
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ディヴァイン処女作。夜遅くに共同経営者の兄に呼び出された弟弁護士。そこには兄の殺害死体が・・弁護士として「男」としてヤリ手だった兄は恐喝屋でもあった。審査員アガサ・クリスティー推奨のコンクール応募作品。第一人称叙述ものなので、まさかあのネタ?・・てことはなく、あっちの方のネタのアリバイトリックもので、兄嫁・別居妻・元カノ・秘書と美女4人の豪華容疑者メニューから、まるでクリスティー作品の様な人物入代りオチが待っていた。
※こんな事を言うのヤボだが、「他にはいません、犯人はこの部屋にいるのです」とはいい切れなくね? |
No.491 | 7点 | 忌名の如き贄るもの- 三津田信三 | 2021/09/04 13:22 |
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「~の如き~もの」シリーズ長編第八弾。山間寒村の旧家の秘密・・「厭魅の~」思わせる・・に、リレー式目撃証人の「密室」殺人トリックを絡めて、長いがスッキリとしたWhoWhyHowミステリに纏まる。最後には「首無の」同様にホラーどんでん返しオマケも付く。どっこい、まーだまだ終わってなかった三津田信三。
(ここいらで麻耶雄嵩にも長編力作を一発期待したい・・・) |
No.490 | 6点 | 碆霊の如き祀るもの- 三津田信三 | 2021/08/31 13:08 |
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「~の如き~もの」シリーズ長編第七弾。陸の孤島の様な極貧漁村に伝わる怪談伝承。四つの怪談発祥場所で起きる四つの事件・・不可思議な餓死、目撃による密室事件、足跡なき密室殺人、そして完全な密室内の死。怪談と連続事件の関係は何なのか。四つの怪談語りの冒頭と、伝承に隠された村の秘密解明は実に魅力的だが、事件の方は・・うーん、第一事件のHowが面白いかなあ。第四の完全な密室事件の真相には逆の意味で驚いたが(それをやんのか)・・ |
No.489 | 5点 | バトラー弁護に立つ- ジョン・ディクスン・カー | 2021/08/28 15:32 |
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ちょいと席を外した瞬間に刺殺されていた謎のペルシア人。二人の視線の壁をくぐり抜けた「密室」殺人・・てっきり「孔雀の羽根」やポール・アルテ「カーテンの陰の死」トリックだと思ってたら・・・あらら。
フェル、メリヴェールにできないからって、バトラー出すと、まあ、ジェイムズ・ボンドかドラゴンかとばかりに動くこと動くこと、カーが最も精彩放つのって、実はアクションシーンではあるまいか。 |
No.488 | 4点 | 雷鳴の中でも- ジョン・ディクスン・カー | 2021/08/25 19:20 |
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かつて「ヒトラー山荘」に招かれた程の伝説の女優。時を経て容色衰え、なお益々盛んな男への情欲。山荘でのかつての容疑者が自屋敷では被害者として謎の死を遂げて・・。見どころはただ一つ、殺人トリック・・「薔薇の名前」の「舌」以前に、この作品では「鼻」がポイント・・で、殺人現場に「いた」事が無罪のアリバイになる、という画期的な殺人トリック。※奇しくも皆川博子と同じく「薔薇とナチス」が物語の背景を彩っている。 |
No.487 | 4点 | 象は忘れない- アガサ・クリスティー | 2021/08/21 12:30 |
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十二年後に掘り返される元軍人夫婦の心中事件。「あれ一体何だった」Whatダニット。双子とカツラときたら「あれ」で、当然そのまんまのはずなく驚きのツイスト予想するが・・・まんま「あれ」で逆に驚かされた。象は忘れない、でなく、犬は忘れなかった、のオチであった。クリスティー長編最後の採点で1点オマケ。
てことで、アガサ・クリスティーの全長編ミステリ66作(メアリなんたらロマンス除く)の採点修了したので 大変に僭越ながら、私的アガサ・クリスティー長編ベスト15 第一位:「ポワロのクリスマス」 第二位:「シタフォードの秘密」 第三位:「ゼロ時間へ」 第四位:「ゴルフ場殺人事件」 第五位:「メソポタミヤの殺人」 第六位:「書斎の死体」 第七位:「忘れられぬ死」 第八位:「予告殺人」 第九位:「葬儀を終えて」 第十位:「 アクロイド殺し」 第十一位:「ホロー荘の殺人」 第十二位:「そして誰もいなくなった」 第十三位:「死との約束」 第十四位:「終わりなき夜に生れつく」 第十五位:「五匹の子豚」 |
No.486 | 7点 | 薔薇密室- 皆川博子 | 2021/08/16 20:36 |
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第一次~第二次欧州大戦期ポーランドを舞台に、人体と薔薇の合成(!)がテーマのSF風怪奇手記と、ポーランド人少女の戦時手記の二視点叙述で語られる歴史奇譚ミステリ。薔薇と梅毒とナチズム、耽美と異形とホワットダニット、熱情と狂気とフーダニットの華麗なるモザイク。おぞましくも素晴らしい「孤島の鬼」「ドグラ・マグラ」・・1点オマケ。
※「死の泉」のゲーリングに続き、今回はヒムラーのみならずヒトラーまで登場の出血大サービス付き。 |
No.485 | 5点 | ローズガーデン- 桐野夏生 | 2021/08/11 11:54 |
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女探偵ミロシリーズ短編集
*「ローズガーデン」・・タイトル作だがミステリではないので採点対象外。 *「漂う魂」・・水商売女とオカマだらけのマンションに現れる自殺した女の幽霊の正体は?・・3点 *「独りにしないで」・・超美人中国人ホステスに入れ込み殺された冴えない青年の事件のツイスト&ホワイ・・7点 *「愛のトンネル」・・SM女王バイトでひと財産築いた「天使の様な」女学生の事故死を巡るフー・ホワイ・・4点 で、全体で、5点。 ※探偵含めて汚れた世界を這いずりまわる鼠達の話って心地よい。 |
No.484 | 6点 | 水の眠り 灰の夢- 桐野夏生 | 2021/08/10 20:33 |
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女探偵ミロシリーズの外伝で、ミロの義父(と実父)の若き時代が舞台。私立探偵ではなく「トップ屋」(=週刊誌特ダネハンター)達が主役のハードボイルド。若き義父が偶々遭遇した連続爆破事件と、やはり偶々遭遇した女高生殺人事件。事件の真相を追ううちに、二つの事件が一本の糸に紡がれて、いかにもハードボイルドなフー・ホワイ・ホワット顛末が鮮やかに決着。
※ミロって、ジョアン・ミロとは無関係と思ってたが、祖父は画家でママもイラスト屋だから、意外と関係あるかも。 |
No.483 | 7点 | アルモニカ・ディアボリカ- 皆川博子 | 2021/08/06 07:40 |
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1775年ジョージ三世下の英国。天使の飛翔と見まがう空中浮遊死体の胸には「アルモニカ・ディアボリカ(=悪魔のハーモニー)」の文字が。さかのぼること14年前、洞窟内で催された伝説の楽器を使った御前演奏会。そこで起きたという謎の事件。その場にいた誰もが口を噤む事件とは何だったのか。「開かせていただき光栄です」の5年後が舞台の続編で、前作からの主要人物の過去と現在、洞窟演奏会と精神病院患者達、歴史浪漫とWHAT「WHO」ダニットミステリの複雑な連結の糸が紡がれる。この続編には1点オマケつけて7点。 |
No.482 | 7点 | 開かせていただき光栄です- 皆川博子 | 2021/08/01 14:23 |
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時は1770年、場所はロンドン。外科医と弟子達が解剖中の娘の死体が、四肢切断された少年死体に入代り、さらに顔無し男の死体まで現れて・・・。同じ歴史ミステリでも「死の泉」はミステリアスな歴史奇譚だが、こちらは歴史浪漫を纏った本格ミステリ・・・消失トリックや多重ツイスト、盲目の名探偵まで出て来て、オマケなしでも7点。 |
No.481 | 3点 | ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿- S・S・ヴァン・ダイン | 2021/07/26 16:55 |
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※ヴァン・ダインは「探偵小説」を「ミステリー小説」から分けて定義する。「探偵小説は文学作品には属さない・・それは、なぞなぞやパズルの領域に属するものだ・・」 作者は読者に全ての手掛かりを前もって「公正に」明示し、結末まで読み終えた読者が、頁をめくり返して、全てのパズル断片が隠されることなく提示されていたことに納得できるものでなくてはならない。それこそが「探偵小説」で、「ミステリー小説」(=サスペンス・ファンタジー・ホラー・冒険小説・アクション・ハードボイルド etc)とは席を同じゅうせず、の所以となり・・。まあ、さして異論ないが、彼言うところの「探偵小説」、自分なら、「本格ミステリ」と呼びたいかな。
※叙述トリックミステリについて。ヴァン・ダインは「作者は読者を故意に騙してはならない」とお堅い戒律を掲げる。でーも「探偵・ヒロインが犯人であってはならない」なんて不文律は昔々に破られ・・だって元々、猿や蛇が犯人でもいいんだもん・・「叙述者が犯人であってはならない」「叙述中に書かれない断片があってはならない」「読者が誤解するような叙述があってはならない」とかも破戒の憂き目に遭っている今、叙述・・第一人称であれ第三人称であれ・・で明確に虚偽(=反事実)が書かれてさえいなければ、「anything goes」だなあ。 |
No.480 | 5点 | ニューゲイトの花嫁- ジョン・ディクスン・カー | 2021/07/25 06:10 |
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舞台は今から二世紀昔の英国。西洋はナポレオン時代の終焉。謎の馬車に拉致された若き貴族が連れ込まれた部屋には刺殺死体が。殴打され失神から目覚めた場所からは件の部屋は「消失」していた。冤罪で死刑判決を受け、執行直前に、死刑囚との偽装結婚を模索していた富豪令嬢との婚姻を受け容れる。が、思わぬ運命の変転から、爵位を相続し自由の身となるのみならず、令嬢の婿として莫大な遺産も手にすることに・・・。
ミステリとしては、「消失した部屋」のトリック・・ホームズ短編のあのネタ・・の解明とフー・ホワイの骨格だが、「三銃士」か「モンテクリスト伯」かと思うくらい面白く、かつ、カーのドタバタ活劇も全開で、1点オマケ。 |
No.479 | 4点 | 騎士の盃- カーター・ディクスン | 2021/07/22 22:09 |
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ヘンリー・メリヴェール卿最後の事件。完全な密室内にあった莫大な宝飾的価値の盃。侵入者は何故にそれを「盗まなかったのか」のWhyダニット。密室トリックは、清張や東野が使ったら茶化したくなるレベルのシロモノだが、趣旨はあくまでもWhy。この作も明らかに短編向けのネタで、メリヴェール卿ドタバタ引延し劇は・・ちと息切れかな。
で、カーター・ディクスン全長編(カー除く)25作の採点修了したので、私的カーター・ディクスンベスト7(9) 第一位:「貴婦人として死す」 第二位:「孔雀の羽根」 同二位:「青銅ランプの呪」 第四位:「九人と死で十人だ」 第五位:「第三の銃弾」 第六位:「一角獣殺人事件」 第七位:「プレーグコートの殺人」 同七位:「弓弦城殺人事件」 同七位:「ユダの窓」 |
No.478 | 7点 | 死の泉- 皆川博子 | 2021/07/20 20:11 |
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ナチズム・・能天気な伊ファシズムや粗暴な日本軍国主義とは違い、また、アウシュビッツ殺戮に「薄められた」ナチでもない・・「原液」のナチズム。「優越民族の繁栄と劣性種族の絶滅」超えて、近代ヒューマニズムの善悪の概念を超越し、神と悪魔の領域に至り、永遠なる瞬間の「存在」と「時間」を夢想する、ニーチェ・ハイデガーの理想にまで至ったの真のナチズム。小説の主人公は、そんなナチズム信仰を声楽の「声」に見出したサイコな生化学者で、ナチズムに絡み取られ残酷な運命を生きた男女の、大戦末期から戦後十数年に至る、おぞましくも見事な「ピカレスク浪漫」が展開する。ミステリとしては・・・うーん、エピローグ数頁の大どんでん返しに2、3点オマケして・・・ |
No.477 | 3点 | 恐怖は同じ- カーター・ディクスン | 2021/07/14 16:36 |
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冤罪殺人事件に巻き込まれ、二世紀昔にタイムスリップした男女。18世紀においても20世紀と全く同じ状況の殺人犯人として逃亡する羽目に・・・。世紀を跨いだ過去は、既にして別の世界だから、カー十八番のホラーとドタバタの融合が「熔合」にまで至っている「グロドタ」異世界描写はなかなか効果的。たーだ、密室トリック、ちとチンプすぎ。 |
No.476 | 4点 | 第三の女- アガサ・クリスティー | 2021/07/10 21:47 |
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「誰かを殺してしまったかもしれない・・」病的な娘の奇妙な訴え。大富豪の父、継母、老親類とその秘書、若きハンサム、ルームメイトの二人の娘・・・殺された(る)の誰?フームダニットが、手品の様な人物入代りトリックで決着。60年代後半カウンターカルチャーに動じないポワロ・オリヴァコンビの老道化ぶりがなかなか。
てことで、アガサ・クリスティー60年代の長編ミステリ全7作の採点修了したので 私的「60年代アガサ・クリスティー」ベスト3 第一位:「終わりなき夜に生れつく」 第二位:「親指のうずき」 第三位:「カリブ海の秘密」 |