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青い車さん
平均点: 6.93点 書評数: 483件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.103 7点 ふたたび赤い悪夢- 法月綸太郎 2016/02/17 23:34
『頼子のために』事件での痛手を引きずる探偵・法月綸太郎が、危機に陥ったアイドル・畠中有里奈こと中山美和子を救うため奮闘。歪んだ家族の悲劇に正面から立ち向かい、ついにわずかな希望の光を見出す。
ファンなら絶対に外してはならない記念碑的なストーリーの大長篇です。この感動的なプロットの緊密さは法月作品随一で、600頁を長さを感じさせず読ませてくれます。作者は失敗作と謙遜していましたが、これがなければ今の探偵・綸太郎はなかったと言っていいでしょう。冷たい推理機械であることに疑問を抱き、悩み、そしてついに古風な名探偵であり続けることを選んだ綸太郎の最重要のステップといえます。

No.102 7点 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題- 法月綸太郎 2016/02/16 23:35
『法月綸太郎の功績』など他の短篇集と比べると小粒なのは否めませんが、キレのあるトリックはちゃんと堪能できます。個人的ベストは『冥府に囚われた娘』です。
以下、各話の感想です。
①『ギリシャ羊の秘密』 メインの仕掛けは他愛のない言葉遊びですが、それを成立させたアイテムや、「犯人が勝手に」メッセージとして受け取ったというひねりも面白いところ。
②『六人の女王の問題』 読者に推理できない難解な暗号ですが、これを作成した作者の労力は凄かったことでしょう。暗号を作った動機や事件の真相など、異色な要素が目を引きます。
③『ゼウスの息子たち』 ①②で今ひとつだったプロットと神話の関係性が一番強い作品です。疑似餌の配置が巧妙で、意外な犯人を導き出す推理が華麗に決まった秀作。
④『ヒュドラ第十の首』 ゴム手袋の凝った推理がよくできています。しかしそれだけに終わらず、さらに突っ込んだ推理をすることで犯人を炙り出す二段構えの造りが魅力です。
⑤『鏡の中のライオン』 鍵となるピアスの扱いは非常に面白いです。伏線の弱さを除けば、意外な方向からひっくり返る事件の構図が楽しめる好編といっていいでしょう。
⑥『冥府に囚われた娘』 練られたプロットの見事さで読ませる作品。ドラッグが事件に関与しているという点は作者のあとがきでも触れられているとおり『都市伝説パズル』と共通していますが、似て非なるアプローチです。

No.101 5点 冷たい密室と博士たち- 森博嗣 2016/02/16 22:33
以前、法月さんの『雪密室』の書評で書いたのと似た感想が第一に浮かびます。密室トリックが破綻はないものの面白みに欠け、あまり惹かれるものではありません。また、作者独特の文体やユーモアはけして嫌いではないのですが、プロットに間延びしているのが目立ちます。200頁の中篇をさして必要でない萌絵のピンチなどを挟むことで倍の分量に薄めたかのような印象。本作は連続ドラマのシナリオに採用されましたが、どちらかといえば次作の『笑わない数学者』のほうが観たかったです。

No.100 7点 殺人方程式- 綾辻行人 2016/02/16 22:10
Amazonのカスタマー・レビューを覗くと、トリックが陳腐と上から目線で批判している人がいましたが、それは完全に的外れでしょう。確かにトリックは特に真新しいものではありません。しかし、本作の命がハウではなくホワイであることは少しでもちゃんと読めば明らかです。そして死体の運搬理由は少なくとも僕は体験したことのないもので驚かされました。良作だと思います。ただ、図解に無理に方程式を入れる必要はなかった気も。物理的に説得力を持たせるという狙いでしょうか?

No.99 6点 暗黒館の殺人- 綾辻行人 2016/02/16 21:52
暗黒館の描写はいいです。読んでいる間は最高に楽しかったのは確か。ただし、肝心の推理が2000枚超の大作にしてはかなり物足りないです。トリックに利用されたあの道具は現代の本格ミステリーで用いるには古臭い上、明らかに軽量級です。それに江南君や島田潔が大活躍するのかと思いきや壮大な外伝に過ぎなかったとは、ガッカリじゃなかったといったら嘘になります。また、気になる人物がその後どうなったかわからず、放置しっぱなしだったのもいただけません。しかし、最後明かされるあの人物の正体は、館シリーズ随一のサプライズで、そんな不満を多少払拭してくれました。

No.98 7点 黒猫館の殺人- 綾辻行人 2016/02/16 21:32
世間の評価はそれ程ではないのであまり期待せずに読みましたが、予想外に快作と感じました。メイン・トリックはこれまででもっとも大胆と言えるのでは。そして、その叙述がかなり力技であるものの殺害トリックを解くのに必要不可欠であるところに感心しました。鮎田老人の正体が想像つきやすい、伏線が文章で浮き気味、などの弱点を差し引いても素直に面白かったと言えます。そして何よりもインパクト大だったのが、犯人の異常な信念が生み出した殺害動機です。復讐や怨恨などのエモーショナルなものでも、いわゆるサイコパス的なものとも違う、その異質さにはおぞましさを覚えました。

No.97 6点 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー 2016/02/15 23:28
ミス・マープル初登場作品。田舎の小さな村を舞台に、嫌われ者の老軍人が殺害されるという設定はいかにも古き良き探偵小説といった趣です。犯人特定のロジックに根拠が乏しいクリスティーにありがちな弱さはあるものの、最後にパズルのピースが綺麗にはまる快感は健在です。ただし、ハッタリがなく地味な印象は否めません。もっともクリスティーはヴァン・ダイン流の衒学的描写やディクスン・カー流の怪奇趣味とはそもそも無縁で、わざと無駄な装飾を省いているともとれます。

No.96 7点 ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー 2016/02/15 23:04
トリックが前面に押し出されたクリスティーにしては珍しいタイプの作品。あまり話題には上らないものの、実は他のどれよりも犯人が意外な異色作でもあります。「もっと凶暴な殺人を」というリクエストから生まれたそうですが、私はこんなのも書けるんですよ、という作者の表明を見せられた気がします。

No.95 5点 パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー 2016/02/15 22:52
最後、伏線らしい伏線もなく急転直下犯人が判明するという構成上の問題が本格ファンからの支持を得られない原因でしょう。単純に読み物としてみれば、死体の出所から屋敷に疑いを向ける展開や、ミス・マープルの代わりに活躍するアイルズバロウ女史の冒険はちゃんと面白く、傑作の素質は十分あります。もっと推理のとっかかりがあったなら評価も違ったのでは。

No.94 8点 クドリャフカの順番- 米澤穂信 2016/02/15 22:37
前作から引き続き学園ドラマとしてどんどん面白くなっています。文化祭のドタバタ劇を読んでいるだけでも最高に楽しいです(特に料理バトルのくだりが面白い)。ミステリー的に見ても、トリックがABCパターンの発展形として独創的なのに加え、犯人の心中のデリケートな描き方は作者の面目躍如といった感じです。表面的なラノベ感やアニメ化されたということもあってか、このシリーズは変な色眼鏡をかけて見られがちな気がしてなりません。大人の鑑賞にも耐えうる小説として、ぜひ本格ファンにもお勧めしたい作品。

No.93 7点 愚者のエンドロール- 米澤穂信 2016/02/15 22:22
最後から二番目の答は以前テレビの推理クイズで同じものを観たことがあったので、これが真相だったらガッカリだと思っていたんですが、ちゃんともう一捻りしてくれたので安心しました。あのリストが伏線になるんだろうなあ、とは薄々わかっていましたがこの着地はなかなかに意外。ミステリー度が上がると同時にホータローを始めキャラクターたちにも愛着が出てきて、確実に『氷菓』よりパワーアップしています。

No.92 10点 下り”はつかり”―鮎川哲也短編傑作集〈2〉- 鮎川哲也 2016/02/15 22:04
数ある鮎川哲也による鉄道トリックもののひとつの頂点と言っても過言ではない『碑文谷事件』を始め、これまた傑作ぞろい。同じ鉄道ものでは『下り”はつかり”』も素晴らしいです。直球な本格ミステリー『誰の屍体か』、作者の稚気がふんだんに盛り込まれた『達也が嗤う』、非ミステリーで奇妙な味の『地虫』『絵のない絵本』とヴァラエティーに富んだ充実ぶりです。
そんな中でも一際輝いているのが『赤い密室』です。周到なトリックによるミスディレクションが利いた紛れもない傑作であり、今まで読んだあらゆる密室ものの中でトップクラスの完成度を誇っています。おそらく、これからも僕の中で本作を超える密室ミステリーは現れないでしょう。

No.91 10点 五つの時計―鮎川哲也短編傑作集〈1〉- 鮎川哲也 2016/02/15 21:43
どの作品も高水準ですが目玉はやはり表題作『五つの時計』。一見難攻不落な鉄壁のアリバイを着実な推理でひとつずつクリアしていく鬼貫警部の活躍が冴え渡っています。特に蕎麦屋の時計のトリックは単純ですが完全に盲点でした。人間がいかに簡単に錯覚に陥る動物であるかも示した傑作短篇です。
その他も後の密室ものの礎を築いた『白い密室』、鉄道トリックの無限の可能性を見ることができる『二ノ宮心中』や『急行出雲』、星影龍三シリーズ屈指の傑作『道化師の檻』など本格を語るなら外せない名作が目白押しです。あと、個人的には逆転の発想で事件がひっくり返る快感がたまらない『早春に死す』も推します。

No.90 7点 貴族探偵- 麻耶雄嵩 2016/02/13 22:52
自らは情報収集はおろか推理すらせず、すべて使用人任せの名探偵という人を喰った設定が目を引きます。しかし、内容はしっかりヴァラエティに富んだ麻耶雄嵩流のパズラーが集まっており、作者のファンなら間違いなく面白く読めるでしょう。逆に破天荒なトリックに慣れてない人は許せないであろう作品も一部あります。
以下、各話の感想です。
①『ウィーンの森の物語』 あるハプニングにより横滑りする犯人の行動を読み解く手際はなかなかです。ちゃっかり糸に関してフェアなヒントを提示しているのも抜け目がありません。
②『トリッチ・トラッチ・ポルカ』 アリバイ・トリックはさらりと書かれていますが、よく考えるとかなりぶっ飛んでいます。
③『こうもり』 本短篇集のなかでもっとも世評が高い作品です。何と言ってもアンフェアに見えてまったく嘘を書かず、ぬけぬけと成立させた叙述に尽きます。最初に推理を読んだとき、一瞬何が起こったのかわからなくなりました。
④『加速度円舞曲』 ロジックで攻めまくる、地味ながらも純度の高いパズラー。車の位置という些細なことから次々に推理を紡ぎ出していくステップが気持ちいいです。
⑤『春の声』 ロジカルな推理を突き詰めた結果、到底信じられないような真相が導き出される、いかにも作者らしい力作かつ怪作です。

No.89 4点 パニック・パーティ- アントニイ・バークリー 2016/02/13 20:39
これは評価が難しいですね…。どう読んでも本格ではないですし、それ以前にミステリーかどうかすら怪しく思えます。タイトル通り「パニック小説」とでも分類するべきではないでしょうか。とにかくトリックもへったくれもない内容で、大して分厚い本ではないのにものすごく長く感じました。この本の面白さがわからない僕はまだ未熟で読みが浅いのでしょうか?少なくとも『毒入りチョコレート事件』『第二の銃声』と肩を並べるにはだいぶ見劣りする、というのが正直な意見です。

No.88 9点 毒入りチョコレート事件- アントニイ・バークリー 2016/02/13 18:53
 はじめて読んだバークリー作品です。あまり小説的でない地味な殺人事件について、登場人物たちが六通りの推理を披露するという特殊なスタイルをとっています。はじめの二人あたりの推理は粗さが目立ちますが、後半に向かうにつれて推理と指摘する犯人の意外性が増していきます。ミステリーの手がかりはどうとでも解釈できるという問題提起とも取れますが、単純に読み物としても楽しめバークリー入門に最適な一作です。
 ちなみに芦辺拓氏をはじめ、別の解を考える人もいらっしゃると聞きましたが、そういう試みは個人的に興醒めな感じがして好きではありません。

No.87 8点 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー 2016/02/13 18:36
カーが不可能犯罪ものの可能性を突き詰めた結果生まれた名作。大がかりな奇術的トリックが圧巻で、恥ずかしながら100パーセント理解できたとは言えませんが、とにかく凄かったと覚えています。
本作の一番の問題は不可能性を深めると同時に、犯人を隠蔽することになったあの錯誤です。これはどう考えてもご都合主義な偶然で支えられたもので、怒り出す読者もいるかもしれません。ただ、そこも何でもアリで大いに結構、というカーのサービス精神の表れでもあるのでしょう。僕個人としてはちょっと納得いかないのも確かなので最高点を付けるのは控えました。

No.86 7点 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー 2016/02/13 18:22
 密室の王者カーが生み出した心理トリックものの傑作として名高い作品。トリックは新鮮で、初読のときは確かに感心しました。しかし、変な言い方ですが本作は「すっきりし過ぎ」な印象で、いい意味でのカーらしい装飾過多が影を潜めているのは少し寂しくも感じます。あくまで個人の意見ですが、カー(ディクスン名義含む)の代表作には『三つの棺』『ユダの窓』『曲がった蝶番』などを推したいです。

No.85 7点 孔雀の羽根- カーター・ディクスン 2016/02/13 18:10
本作のメイントリックは物理的な面で疑問を呈する人もいるそうです。確かにアレがうまいこと部屋に入って〇〇する、というのは出来すぎではあります(ネタバレしないようにぼやけた言い方になっています)。しかし、カーの作品を読んでそんな細かな瑕疵をあげつらうのは野暮でしょう。リアリティを愚にもつかないものと断じている作家なのですから。実行可能性の問題に目をつむれば、伏線の妙を堪能できる良作に仕上がっていますし、本作は密室トリックの新たなヴァリエーションを素直に喜んで読むべきではないでしょうか。

No.84 4点 死刑台のエレベーター- ノエル・カレフ 2016/02/13 15:58
文庫の扉のあらすじで「絶対ダメだろ!」と思うほど話の核心に触れるネタバレがされていたので少しも楽しむことができなかった恨みのある作品。てっきりその先に何かあると思っていたのですが、まんま真相とは…。これが『アクロイド』のように巧みな伏線を拾いながら読める作品なら良かったのですが、これのように非本格で皮肉な味を見るべき作品では絶対にいけないミスです。作者の落ち度ではありませんが、厳しめな点数で。

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青い車さん
ひとこと
正面からロジックで切り込むタイプの作品を愛好しています。ただ、横山秀夫『半落ち』なども夢中になったので、面白ければ何でも読む、というのが本当かもしれません。
雰囲気重視の『悪魔が来りて笛を吹く』『僧正...
好きな作家
エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、D・M・ディヴァイン、横溝正史、泡坂妻夫...
採点傾向
平均点: 6.93点   採点数: 483件
採点の多い作家(TOP10)
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク(46)
アガサ・クリスティー(39)
エラリイ・クイーン(33)
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