海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

青い車さん
平均点: 6.93点 書評数: 483件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.283 8点 聖女の救済- 東野圭吾 2016/11/09 14:11
 小難しいトリックを用いなくても、斬新な長篇が書けるということを証明しており、犯人もほぼ絞られていてWhoの楽しみを捨てているのに、なお面白く読めます。トリックが不合理・不自然に陥らず、犯人の心理や動機と有機的に結びついているのも良かったです。あと、今回は草薙刑事がいつになく活躍を見せてくれます。伊達に売れているわけではない、と改めて感心。

No.282 6点 誰か Somebody- 宮部みゆき 2016/11/09 14:02
 数々の作品が映像化され、今や日本の推理小説界を代表するひとりといっても過言ではない宮部みゆきさん。なのに特に理由もなくまったく読んでなかったことに気付き、いちばん最初に読んだ作品です。自転車事故が事の発端とは、装飾過多の本格ミステリーと比べると明らかに小粒。主人公・杉村も個性に乏しく、その先にこれといって大事件が起きる訳でもありません。しかし、驚くほどスムーズに気持ち良く読めたこと、人間の心の光と陰をしっかり読ませ、かつゴタゴタした感はまったくなく収束されていることなど、プラスのポイントは多いです。作者の確かな実力を感じました。

No.281 9点 戻り川心中- 連城三紀彦 2016/11/03 13:39
 有名な『戻り川心中』目的で読みましたが、それ以外の4篇も極めてレベルが高いのには驚き。どれが表題作になってもおかしくないほどです。格調高い文章と鮮やかな反転の数々に圧倒されました。どこか乾いた印象の話が多かった『夜よ鼠たちのために』よりも好みです。

No.280 8点 メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 2016/10/26 17:11
 『遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる』をベストに挙げる人も多いですが、僕はあまり感心しませんでした。そんなのアリかよ、という気持ちが、ぶっ飛んでるけど面白い、に勝ってしまいました。むしろメルカトルが私立探偵もののパターンを壊して見せたり、限りなくアンフェア寄りの犯人当て小説を書いてみたり、といった他の作品の方が捻りとして好きです。
 あと、あまり話題にならない『シベリア急行西へ』を個人的に推します。ストレートな論理展開が好みで、かつそれを麻耶雄嵩が書いた、ということに貴重さを感じるからです。メルの強烈なキャラを楽しみたい人には物足りないでしょうが、作者には単発でいいのでこういうのをもっと書いてほしいです。

No.279 7点 厭魅の如き憑くもの - 三津田信三 2016/10/26 16:53
 賞やランキングを総なめにした作者のシリーズ第一作。こういう人は少ないかもしれませんが、刀城言耶のキャラクターが好きです。彼の存在が奇怪な連続殺人の殺伐さを緩和してくれる気がします。内容の方も終盤にかけてのエンジンの掛かり方が凄まじく、神の視点を利用した伏線もユニークです。ダミー推理の方にもちゃんと多少の根拠に基づいている点もまた感心させられます。総じてこれ以降の諸作の要素をいくつも含んだ秀作です。

No.278 7点 自宅にて急逝- クリスチアナ・ブランド 2016/10/24 21:27
 本格ミステリーとしては非常にオーソドックスな一族もの。事件自体に派手さはないものの、戦時下ならではの劇的な演出など、見せ場は多くあります。また、クリスチアナ・ブランドはどの作品でもそうですが、登場人物が生き生きと描かれています。クセのあるなしに関わらず魅力的で、最後に浮かび上がる犯人の心の陰の部分もすばらしいです。ただ、足跡トリックの弱さが唯一残念でした。

No.277 8点 はなれわざ- クリスチアナ・ブランド 2016/10/24 21:11
 この小説の真の「はなれわざ」はトリックそのものではなく、あまりに堂々と提示されたヒントとそれに伴うミスディレクションにあります。ブランドはトリック・メイカーというよりテクニシャンとして達者な作家であることが良くわかる最上の一作でしょう。終盤における圧巻の多重推理はもはや彼女の独壇場だと思います。

No.276 7点 今はもうない- 森博嗣 2016/10/23 23:14
 事件そのもののパートと、犀川と萌絵のディスカッションのパートに分かれていますが、後者を「どうでもいい」「なくてもいい」ものとしているところに作者ならではのセンスを感じました。それをふまえると「今はもうない」という象徴的なタイトルは絶妙と言えます。
 事件の概要はかなりシンプルで、絵解きは最後あっさりと片付けられています。中盤のいくつもの仮説が出ては覆される繰り返しは面白いのですが、真相を知ってしまうと、それに見合う長さだったのか疑問も残ります。とはいえ、今回も興味深く読めたので、小さな素材をここまでのヴォリュームに膨らませるのが森博嗣の腕というのも確かだと思います。

No.275 5点 アヒルと鴨のコインロッカー- 伊坂幸太郎 2016/10/23 22:54
 登場人物にちょっと理解しがたい性格の人が多く(いちばんまともなのは椎名かな?)、正直素直には楽しめない読書でした。話の主題というかテーマもよく掴めず、何を主張しようとしているのかが伝わってこなかったのも評価を下げる要因です。何より、広義の推理小説としても奥行きが乏しいです。オールタイム・ベストにランクインした作品ですが、これより『重力ピエロ』の方がずっと好きでした。

No.274 7点 シャドウ- 道尾秀介 2016/10/23 22:39
 『ラットマン』の方を先に読んでいたことで、作者の手法を多少なりとも知って読むことができたのは幸運でした。この本も生々しく死やセックスを感じさせられ、身構える人も多そうですが、なんだかんだで多少の救いを残したラストで安心しました。叙述トリックも物語において効果的に機能しており、作者のストーリー作りの冴えを感じます。

No.273 8点 折れた竜骨- 米澤穂信 2016/10/23 22:29
 異世界本格、とでも言うべき世界観ですが、作者が初めて挑んだとは思えないほど雰囲気の作り方が手馴れていることに驚かされました。設定が謎解き部分を侵食せず、両者がきちんと溶け合っている点もプラスに評価。米澤穂信の代表作といって間違いないでしょう。

No.272 8点 疑惑の霧- クリスチアナ・ブランド 2016/10/21 21:53
 これまたクライマックスにかけての密度が凄まじく、容疑者が二転三転する様はブランドの独壇場といった感じです。アリバイ工作が大して重要でなく、誰もが犯人であっておかしくないという状況がよくできています。
 本作の最大の見どころはいわゆる「最後の一撃」で、ラスト二行を読んだら数秒後にじわじわと効いてきます。直接犯人を名指しするのではなく、あえて婉曲に表現しているという洒落た趣向でした。相変わらず文章が重たいパートも多いですが、未読の方はどうか投げ出さず我慢して読んでほしいとおすすめします。
 あと、タイトルの霧(原題にもロンドンの霧という意味があるそうです)のイメージが作中に色濃く出ているのも非常に好みです。

No.271 7点 真実の10メートル手前- 米澤穂信 2016/10/20 23:03
 『さよなら妖精』の主要登場人物のひとり、太刀洗万智を主人公に据えた連作短篇集。内容に重なりはないので『王とサーカス』を飛ばして読んでも問題はありません。
 どの話も何らかの読みどころがあり、一定の水準をクリアしていると思います。ただ、突き抜けた傑作も見当たらず、本来の作者の実力を発揮しているとは言えません。「もっとやってくれるだろう」という気持ちが残り、米澤穂信の愛読者としては肩透かしにも感じました。

No.270 9点 死の接吻- アイラ・レヴィン 2016/10/18 14:21
 今まで読んだ中で、もっともサスペンスに満ちた小説でした。
 「犯行に至るまでの心理」「誰がやったかの謎」「事件がどう終着するか」と、三部構成でそれぞれ違った見せ場があります。特に、第二部の最後ですべての真相が割れたかと思いきや、残りの3分の1でもなお読者側に対しスリルを維持してみせた作者の筆力は圧巻です。あらすじだけ取り出すとジメジメしたサイコスリラーっぽいですが、胸の悪くなるような表現はほぼないと言ってよく、純粋にストーリー運びのキレで読ませてくれます。翻訳ものとしては異例の読みやすさも特筆もので、とにかく無類の面白さです。

No.269 6点 秋の花- 北村薫 2016/10/17 23:04
 円紫師匠の活躍は控えめですし、長篇にしては薄い本ですが、不思議と充足感が得られます。一応ミステリーらしい謎はあるものの、その奥に論理では割り切れない人間の情が隠れているところに、普段好んでいるジャンルとは別格の感慨が味わえました。読むごとにこのシリーズへの愛着が増していっています。

No.268 7点 九マイルは遠すぎる- ハリイ・ケメルマン 2016/10/17 22:32
 表題作に関して、ロジックのこじつけや無理やり感もよく指摘されていますが、そこは長所ではあってもけして短所ではないと思います。『九マイルは遠すぎる』で作者がやりたかったのは、机上の空論でどこまで自由に遊べるかの挑戦ではないでしょうか。そして、そういう意味ではかなり高水準な短篇です。それは『おしゃべり湯沸かし』も同様。ただ、トータルで言うと印象に残らない短篇も多く、出来にムラがあります。もうひとつかふたつ、必読レベルの作品があれば凄まじい短篇集になったのでしょうが。

No.267 6点 天狗の面- 土屋隆夫 2016/10/17 21:59
 初めて読んだ土屋隆夫作品。煙草の箱や風の吹いた時間などそつなくまとまっていますが、突き抜けたポイントがないのも確かです。横溝や鮎川などの作品にはどれも何かしらユニークな要素があったので、それらと比べると物足りなさは否めません。探偵役の白上矢太郎が個性に欠けるのもそうですが、特に肝となる毒殺トリックが大体想像ついてしまったのは惜しいですね。むしろ、一緒に収録されていた短篇の方に印象的なものが多かったように思えます。

No.266 9点 ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド 2016/10/11 00:20
 きわめて完璧に近い仕上がりです。衆人環視の殺人という魅惑的な題材に強く惹かれますし、華麗さとおぞましさが同居したトリックといい、ヒリヒリするほどスリリングな終盤といい、マニアを痺れさせる要素が詰まっています。また、消去されるダミー推理も何らかの根拠に基づいているところも手際の見事さが光っており、驚異的でした。『緑は危険』と並ぶブランドの傑作。

No.265 7点 硝子のハンマー- 貴志祐介 2016/10/10 23:50
 なかなか凝った構成です。第一部の最後で殺害トリックに気が付き、第二部では犯人が犯行に至るまでの経緯を描いています。すごいのは、下手をしたらダラダラしてしまいそうな第二部が緊張感を保ったまま読めたところです。事件関係者の描写は少ないものの、青砥純子は生き生きしていますし、榎本径の喰えない性格もいい味を出しています。監視カメラをどうクリアするか熟考し、不可能を排除し、最終的には論理的にトリックを解明する、手堅い流れもすばらしかったです。アクロバティックさには欠けますが。あと、象徴的なタイトルの付け方も秀逸です。

No.264 6点 夏のレプリカ- 森博嗣 2016/10/10 23:39
 いわば外伝的なストーリーで、今回の主役は犀川でも萌絵でもなく簑沢杜萌とするのが正しいでしょう。『幻惑の死と使途』の裏側でこんな事件が起きていたのか、と思いを巡らして読むのはなかなか楽しいものでした。
 読み終わったあと振り返ると、事件の内容に対して長すぎるのも否めません。ひとつの逆転の発想で一刀両断に解決されるわけですが、それは中盤あたりで誰かが気が付いても良さそうに思えます。事件にもう少し奥行きというか複雑さが欲しかったかな。とはいえ、500頁飽きずに読めたので、特別大きな不満でもありません。シリーズが好きなら押さえておくべきです。

キーワードから探す
青い車さん
ひとこと
正面からロジックで切り込むタイプの作品を愛好しています。ただ、横山秀夫『半落ち』なども夢中になったので、面白ければ何でも読む、というのが本当かもしれません。
雰囲気重視の『悪魔が来りて笛を吹く』『僧正...
好きな作家
エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、D・M・ディヴァイン、横溝正史、泡坂妻夫...
採点傾向
平均点: 6.93点   採点数: 483件
採点の多い作家(TOP10)
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク(46)
アガサ・クリスティー(39)
エラリイ・クイーン(33)
有栖川有栖(32)
法月綸太郎(22)
米澤穂信(17)
綾辻行人(13)
カーター・ディクスン(12)
麻耶雄嵩(12)
S・S・ヴァン・ダイン(12)