皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
風桜青紫さん |
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平均点: 5.62点 | 書評数: 290件 |
No.90 | 5点 | 鳴風荘事件- 綾辻行人 | 2015/12/29 03:36 |
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一作目に比べればやや地味で、トリックの難易度も低いんだが、それでも、まあ、楽しめます。今回は無垢(?)な人妻みーちゃんが可愛いです。というかみーちゃんを可愛く書こうとしたであろう綾辻行人の努力がなんかいいです。そんなみーちゃんでも話の都合上ぼこぼこにされるのは、麻耶雄嵩ほどシビアじゃないにしろ、本格作家だなあ、といったところ。 |
No.89 | 6点 | 殺人方程式- 綾辻行人 | 2015/12/29 03:26 |
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一般向けの刑事小説を書けと言われてこんなもんを生み出してしまうのはさすがアーヤと言うべきか。飛鳥井兄弟とかみーちゃんとかキャラも頑張ってる感があるんだが、やっぱり注目は「死体の切断理由」についての推理。切断理由だけをとって見ればありふれたものであっても、それがメイントリックと絡み、そこから犯人が解き明かされる。この構造がなかなかよく出来ていて、正直アーヤの作品じゃ一番本格っぽい楽しみかたができるんじゃないかと思います。こういうもっと読みたいけど、館シリーズの江南くんが「機械トリックなんかつまらん」と言ってくれてるから、アーヤ自身はあんまり好みではないのかも。残念。 |
No.88 | 5点 | カササギたちの四季- 道尾秀介 | 2015/12/29 03:01 |
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木更津&香月ペアを思い起こさせるカササギさんと日暮くんの間抜けなやりとりが微笑ましい。仕掛けはそこまで強くないけど、まあ気楽に読めるライトミステリとして○。といっても初期作のような野心的な仕掛けはもう書く気がなくなってるように見えてくる。飽きたのかな。文庫の解説で米澤が「連城三紀彦を読んで、ミステリであることは小説としての何かをあきらめることではない、と思った」なんて書いてくれてる(米澤は小説としての何かを書いてるつもりなのだろうか)が、連城三紀彦も道尾秀介もミステリ捨ててるからねえ……。まあ、連城三紀彦も最終的にはミステリに戻ってきたんだし、道尾さんにもそれを期待しておこう。 |
No.87 | 3点 | 月と蟹- 道尾秀介 | 2015/12/29 02:46 |
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ミステリ作家としての道尾秀介は認めてるんだが、「ブンガク」の書き手としての道尾秀介はそうでもない。先行きを期待させる筆運びがなきゃ、少年のヤドカリ焼き世界をよく描いていたところで退屈。面白さも小説としての技術も落選した『龍神の雨』のほうが充実してるんじゃないかと思う。作家としてキャリアを積むうちに優れた「ブンガク」を描いてみたいって気持ちが生まれてきてしまうのかもしれないが、あまり歓迎すべきことじゃないです。 |
No.86 | 5点 | 光媒の花- 道尾秀介 | 2015/12/29 02:22 |
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直木賞狙いが露骨になってきたあたりの作品なのであまり期待していなかったんだが、まあまあ楽しめた。『冬の蝶』は単体ではベタな話だが、『虫送り』と『春の超』によって人物のその後が描かれることで、思春期の青年の全能感(米澤みたいで嫌な表現だが)が挫折する様子が浮き彫りになっている。趣向としては悪くない。親子の意思疏通のむずかしさを描いた『風媒花』も悪くないんだが、やはり同じテーマでは『龍神の雨』のほうが優れていたように思う。どれも悪くないけど、やっぱ小手先で描いた感があるかなあ……。 |
No.85 | 4点 | 球体の蛇- 道尾秀介 | 2015/12/29 02:02 |
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「ブンガク」を志した瞬間にストーリーが退屈になる好例。「道尾は『球体の蛇』から文章がよくなった」なんて意見をけっこう聞くんだが、道尾秀介ほど実力のある作家ならこういう「いかにも」な文章は、やろうと思えばいつでも書けたのではないかと思う。もちろんサヨの子どもらしい残酷さがにじみ出た人物造形なんかは道尾らしさが出ていて、なかなか興味(割り箸を鉛筆削りにぶちこむとかね)をかきたてるけれども、それでも作品ひとつを支えるだけの力があるとは思えない。直木賞とるための実験作にしか見えないわけです。まあ、後の作品で結果的にとれたから、試みとしては悪くなかったんだろうけど。 |
No.84 | 6点 | 龍神の雨- 道尾秀介 | 2015/12/29 01:48 |
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里枝さんの人物設定がよくできています。なかなかいい人だけど、接しづらい空気がよく出てるんです彼女。それでいて子どもたちを心配してる気持ちがよく伝わるので、辰也はなんとも嫌なガキなんですが、嫌いになれないのです。それが物語の先行きに不安を呼び、リーダビリティを生み出すわけです。こういう青春ものを書かせるとやはり道尾秀介はうまいなあ、と思う。道尾秀介の味がよくでた作品なんだが、その分、他の道尾作品の影がちらついてインパクトが薄れたかな。でもまあ、面白かったです。 |
No.83 | 5点 | 鬼の跫音- 道尾秀介 | 2015/12/29 01:29 |
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軽く読んだが、まあ、道尾秀介は話作りがうまい。ホラーものというより、短編ミステリとしてそこそこの出来。『冬の鬼』は時間が遡っていくという話の形式が不安を生み、読書意欲をかきたてる。趣味の悪いラストも良し。ホラーチックな不気味な設定も現実めいた怖さに転写する『悪意の顔』もなかなかよかった。S君はその名のとおりのサディストだ。どの作品も一定水準の面白さではあるが、出色は特にないといったところか。 |
No.82 | 5点 | カラスの親指- 道尾秀介 | 2015/12/29 01:02 |
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道尾秀介の最高傑作と呼ばれる作品がこの系統のオチだったのが残念。詐欺師たちの生活が楽しめたのは確かなんだが、その部分に思い入れがあったぶん、結末は驚きよりも拍子抜けが先行してしまった。コンドームを買うだの、男を連れ込むだのの、ミスリード(?)の露骨さも鼻につく。人物の印象を変えるためにトリックを使うのは、さすが道尾秀介といったところだが、骨組みがあまりにご都合主義だと萎えてしまう。まあ、このオチを受け入れられるか否かで印象は変わるでしょう。エンタメ小説としては○。 |
No.81 | 5点 | ラットマン- 道尾秀介 | 2015/12/29 00:50 |
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ちょっと期待が大きすぎたかもしれない。たしかに青春小説としてはよくできてる(年増バンドマン同士の絡みとか妙に共感できる)し、二転三転するどんでん返しも見事だとは思ったんだが、「犯人が誰か」という謎かけの構造が前面に出てきているぶん、先行きを予測しやすい。スマートなどんでん返しは、道尾作品でも良くできた部類なんだが、驚きという点では物足りなかった。まあ、これは、こっち(読者たる風桜)も道尾秀介の作風に慣れてきてしまったこともあるのかも。まあ、道尾さんがこの作品以降、脱ミステリ系に作風を変化させ始めたのは、それはそれで残念なんだけど。 |
No.80 | 4点 | ソロモンの犬- 道尾秀介 | 2015/12/29 00:36 |
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「バーベu」の露骨ぶりと、道尾教授のトカゲには変な笑いが出てきた。こういうのを森見登美彦的というかは知らんが、大学生をモデルにした青春小説としては、そこそこ楽しめます。主人公いいやつっぽいし。とはいってもミスリードの露骨さが鼻につきすぎたうえに、その回収の仕方もイマイチだったので、そう、気の晴れるような読後感じゃなかったかな。幻覚でした。ってなネタはそれをメイントリックにしていなきゃ受け入れられないわけです。 |
No.79 | 5点 | 花と流れ星- 道尾秀介 | 2015/12/29 00:29 |
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『流れ星のつくり方』の評判がいいので手にとって見たんだが、割と早い段階で真相に気づいてしまったため、素直に驚くことはできず。テイストは悪くないんだけど。逆に、大して評判いいわけでもない他の四作品がなかなか楽しんで読めました。主役の三人組、変な癖がないから、結構気に入ってるんだよね。さすがに道尾さんはもう続きを書く気になれないんだろうけど。しかし凛は道尾くんに冷たい。いいやつじゃん、あいつ。殺人事件を茶化したり、冬にアイスクリームを買ってくることをのぞけば。 |
No.78 | 6点 | 片眼の猿- 道尾秀介 | 2015/12/29 00:22 |
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むしろ道尾秀介は「ミスリードがうまい」というふうに評価されていたのか……!? この作品に限らず、道尾作品というのはどれもミスリードが露骨だし、むしろ下手な部類ではないかと思う。冒頭の電車でのやり取りについても、読者を引っ掻けたいという魂胆が見え見えで、読み返せば「なんだかなあ……」という気分になる。でもまあ、この作品は面白いです。私立探偵ものとしては人物も話運びもなんとも月並みなんだが、変に凝っていないぶん、さらさらと読めるし、話は先行きが気になるし、結末にもニヤリとさせられます。まあ、書くほうもサラッと書くことを意識したんだろうけど、王道の面白さをよく捉えていらっしゃる。 |
No.77 | 6点 | 骸の爪- 道尾秀介 | 2015/12/29 00:08 |
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「登場人物に魅力と個性が感じられない」という意見もあるようだが、そもそも登場人物の魅力や個性ってなんやねんって話になる。もしそれが登場人物に「天才」だの「人類最強の請負人」だのインチキ臭い設定をつけたり、登場人物の名前を「ピラミッド水野」だの「大爆笑カレー」だのとふざけたものにすることを指すのだとすれば残念である。作風からいって道尾さんはそういったメフィスト的なしょうものない外観よりも物語のプロットで勝負する作家だし、キャラ立てもよくできてる部類じゃないかと思う。月並みな設定でも真備くんも道尾くんも愛らしいのです。仏師の摩耶ちゃんはなんだか可愛いのです。黒髪で陽気で関西弁で仏像マニアとは、やはり、道尾さんはよくわかっていらっしゃる。同時期の作品である『向日葵の咲かない夏』や『シャドウ』に比べると形式的なストーリーだが、伏線回収の筆運びが見事。なんちゃって百鬼夜行シリーズだった前作に比べて内容も充実してるし、まあ、楽しめる一冊です。 |
No.76 | 7点 | シャドウ- 道尾秀介 | 2015/12/28 23:35 |
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道尾秀介の作品は露骨なミスリードに首をかしげることも少なくないんだが、この作品に関しちゃミスリードと話運びがうまく噛み合っていて面白かった。「狂ってるのは貴様のほうだ!」とかもう書いてる側のノリが伝わってきてたまらんです。主人公サイドの人間模様がなかなかよく出来ていて楽しめる一方、犯人の描写がテキトーで、ラストには「んん!?」といろんな意味で驚きましたが、まあ、リアリズムよりもプロットを意識すりゃ仕方ないのかな(笑)。後のリアリズム(言ってしまえば「ブンガク」。ああ嫌だ!)を意識した直木賞受賞前後の道尾作品に比べりゃこっちのがイキイキしてて楽しいです。というわけでこれが道尾さんのベスト作品。 |
No.75 | 7点 | 向日葵の咲かない夏- 道尾秀介 | 2015/12/28 23:22 |
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大した読書量もないだろうに「新本格しか読んでことのない自称ミステリ好きが好みそうな作品」と本気で書いてしまう自称ミステリ好きが嫌いそうな作品。冒頭から伏線がころつに提示されてるからオチは十分に予測できるし、駅員とのやり取りなんて結末を予測して読めばすぐに見破れるだろうに、はて、どこらへんがアンフェアなんだろう。少なくとも風桜が頭をからっぽにして読んでいても見破れるレベルのトリックでした。しかし種明かし前に気づいたからといって興ざめしたわけでもなく、なんというか、「そんなんアリかい」と笑えます。友だちの感想を聞いていると「残酷な話で嫌になる」ってな意見が少なくないんだが、果たしてそうだろうかと感じる。ウマル・ハイヤーム的に、実際の世界というのは悲しいことだらけなんだから、自分の内面世界だけでも楽しくありたいもんでしょう。作者本人から話を聞く機会があったとき、「マッチ売りの少女」を意識したという意見がうかがえたが、まあ、納得しました。ミチオの世界はキモくて愉快で楽しそうなのです。 |
No.74 | 5点 | 背の眼- 道尾秀介 | 2015/12/28 22:57 |
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「あなたを祓います」って、どこの古本屋ですかあんたは。話が妙に長い。手首を切るシーンがえぐい。昆虫好きな凛がなんかかわいい。作中の道尾くんもスルメ食ってていいやつ。真備くんも悪くないぞ(笑)。いろいろ粗も多くて手作り感があるんだが、道尾さんの「こんな話が好きだぜ!」って感じが伝わってきていいです。 |
No.73 | 6点 | 満願- 米澤穂信 | 2015/12/28 20:11 |
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『夜警』は「こんな人間おるかい!」ってな、ふざけた話なんだけど、印象的なエピソードと伏線がよくからんでおり、なかなか良くできた本格ミステリ短編です。この水準の話が続いてくれれば、風桜の米澤嫌いも治るかもしれないと思ったんだが、まあ、話にアクセントがないからか無理矢理毒を押し込んだような『死人宿』に萎えてしまい、世にも奇妙な物語のつまらない回みたいな『関守』でがっくりしてしまい、有栖川有栖の使い捨て短編みたいな『満願』を退屈しながら読み終えたときには「これがこのミス1位……?」と首をかしげてる自分がおるわけです。
別に風桜はそこまで連城が好きなわけでもないけど、これを「連城三紀彦の再来」と呼んでいいものか疑問。リアリズムをアピールしながら到底有り得ないような話を書くのは確かに連城三記彦的なんだが、連城の作品はもう少し説得力があると思うのよ。たとえば親子をあつかった作品でいうと、『能師の妻』や『花衣の客』なんかは、たとえ現実にはありえん話でも、結末にいたるまでの登場人物の心の動きがよく伝わってくるから、なんとなく納得してしまう。けど『柘榴』は明らかに男のせこい妄想で書いたような「女の怖さ」だから、人物に共感が出来なくて、あんなオチを出されても、なんというか、イラついてしまうのです。父への偏愛の根拠が「ごはん食べたあとキッスした」と「声がエロい」だけじゃね……。直木賞の選評で女性作家からの風当たりが強かったのも納得。あと、これは私見だけど、女の子は傷がついてるほうが(乱歩や彬光的な意味で)エロいので、強めにしばいたところで、月子の弱々しいかわいさが倍増するだけじゃないかと思う。このあたりの感情が計算できないようでは、夕子は読書好きといっても、電撃文庫ばかり読んでいたのではないだろうか。なんにしろリアリズムに向いてないであろう作風の米澤を「連城三紀彦の再来」とかいうのは納得がいかんわけです。あえていうなら、『万灯』は米澤の色がよく出てて好感が持てた。やれるところまでやりたいみたいな変な義務感で主人公がつっ走って、どんどんダメな方向に行ってしまうところ。結末はツッコミどころ満載でも、妙に殺伐とした世界観や、主人公の心の動きが妙につたわってきて楽しめた。米澤本人はこういうタイプの人間だからかは知らんが、説得力という点ではこの作品が強かったんじゃないかな。まあ、結末はツッコミどころ満載だが、エンタメ作品だしこれぐらいは許してもいいだろう。 なにやらけっこうな長文になってしまったが、まあ、えてして嫌いな作家というのはこのように言いたいことが増えてしまうわけです。米澤の短編集なら、『儚い羊たちの祝宴』のほうが非現実味を前面に出してるぶん、鼻につかないし、内容も充実していたかな。まあ、話運びは巧みだから読んでる分には退屈しない。『夜警』だけなら7点。総合で6点といったところ。 |
No.72 | 3点 | 黄昏の囁き- 綾辻行人 | 2015/12/21 07:32 |
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犯人は意外なのだが、伏線の出し方が小出しだし、動機も例によって微妙だからいまいち納得できない。叙述トリックについても、恒例すぎて、「ああ、まだやってなかったっけ」という感じ。滑稽さの入り交じった気味悪さは確かにあるんだけど、いまいちトリックとストーリーの肝がからみあってる気がしないのよ。殺戮シーンも前二作を踏襲してるんだろうが、なんかマンネリ感が出ていてどうも退屈。テイストの強さは前二作に勝っているとは思えないし、いまいち面白さがわからんかった。 |
No.71 | 6点 | 暗闇の囁き- 綾辻行人 | 2015/12/21 07:23 |
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亜希のキャラ造形がなかなかいいのよね。こういう罪悪感をじわじわとかきたてるような存在。罪悪感が嫌悪感に変わって、それが異物のような恐怖感に変わっていくって感じの。救いがあるようなないような後味の悪さも印象深い。 |