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クリスティ再読さん |
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平均点: 6.40点 | 書評数: 1325件 |
No.45 | 3点 | 大富豪殺人事件- エラリイ・クイーン | 2020/11/25 09:20 |
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中編2作を収録なんだけど、最初の「大富豪殺人事件(殺された百万長者の冒険)」は、クイーンの名前をミステリファン以外にも有名にしたラジオドラマ・シリーズ「エラリー・クイーンの冒険」の初回放送に当たる台本を、ノベライゼーションしたものである。ラジオ台本はダネイ&リーで書かれたものだけど、ノベライゼーションは別人の手になるもののようだ。「推理の芸術」によると「匿名のライターによって、読むのがつらくなるような子供向きの散文小説に書き換えられ」と文章が酷評されている。まあ訳文だとらしくなく薄口の印象。この60分のラジオドラマでは「視聴者への挑戦」があって、ドラマを止めて当初は有名人(リリアン・ヘルマンとか写真家のバーク・ホワイトとか)をスタジオに読んで推理させていたそうだ...けど、このノベライゼーションでは「読者への挑戦」は入っていない。エラリーの推理(正解)も大したものじゃないしね....ラジオドラマでも駄作の方だろうけども、第1作、というのがあってのノベライゼーションなんだろうか。
で「ペントハウスの謎」はこのラジオシリーズが成功したことで、映画にクイーンが再進出したコロンビア映画のシリーズの第2作を、やはりノベライゼーションしたもの。第1作が「ニッポン樫鳥」が一応原作だったが、これはとくに原作なし。オリジナルのスパイ小説風スリラーのシナリオに、最後にラジオドラマの「三つの掻き傷」(ノベライゼーション・録音ともにないそうだ)をエラリイの推理として加えたものだそうだ。まあ確かに、小粒だけど推理自体はクイーンらしさはないわけでもないか。でも、日中戦争での国民政府を応援するアメリカの立場を背景にしたスリラーの筋立てには、クイーンはまったく関係していないようだし、ノベライゼーションにも無関係のようだ。 ヒロインのニッキー・ポーターが不愉快なバカ娘。エラリイの足を引っ張ってばかりのような印象。ダネイが回想して「どの一作をとっても、残りのどの作よりもおぞましい」と評した映画シリーズだったようだ。 まあだから、一応ダネイとリーが両方とも関与はしているけども「クイーンの基準」を満たしているとも言い難いようにも思う。「恐怖の研究」レベルと見た方がいいだろうね。 興味本位だがこのシリーズの映画題名を列挙しておこう。「名探偵EQ」「EQのペントハウスの謎」「EQと完全犯罪」「EQと殺人の輪」「EQ危機一髪」「EQ絶体絶命」「EQ対スパイ組織」の7作作られた。 |
No.44 | 6点 | クイーンのフルハウス- エラリイ・クイーン | 2020/10/25 21:48 |
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パズラー作家の短編というのは、長編と比較したときの存在意義をどう捉えるか?というのがクローズアップされるような短編集だと思う。
「ドン・ファンの死」は...まあこれ、ダイイングメッセージもロジックも易しいと思う。すっきりはしているけどね。その分メロドラマ風。長編にして...う~ん、あまり魅力がないのでは。 「Eの殺人」「ダイイングメッセージが何を伝えうるか?」という限界みたいなものを提示しているのが面白いといえば面白いけど、駆け足すぎて不発になってるように思う。 「ライツヴィルの遺産」こういう話になると、妙にメロドラマ風になるのが? 推理としては...無理筋だと思うんだけどなあ。最後の罠も意味不明だし。 「パラダイスのダイヤモンド」は、小品でダイイングメッセージも日本人にはどうでもいいし、推理に内容がないんだけど、「これぞリーだね」と思わせる文章の華麗さが、いい。評者とかはリーの文章が好き、が結構ウェイトが高いんだよ。 「キャロル事件」は、皆さんご指摘のように「災厄の町」とかああいうライツヴィル物らしさがある話。人情探偵エラリイになっちゃてるわけで、小説としては悪くないんだけど、たぶん本作が長編になったら文句をつけたくなる人が多いのでは...なんてヘンな心配もする。ロジックは通ってはいるんだけど、長編でこれをやると、肩透かしみたいなことになるように思う。短編で「よかった」のでは。 ちなみに「推理の芸術」では「ドン・ファン」「Eの殺人」は執筆がリーではなくてバウチャーではないか、と疑っている。絶対、リーじゃない。作品によって、かなり文章に差が激しいのを感じる。 |
No.43 | 5点 | 間違いの悲劇- エラリイ・クイーン | 2020/02/16 15:48 |
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作品にならなかったシノプシス「間違いの悲劇」を含む、落穂ひろい作品集である。中では「動機」が面白い。「ガラスの村」で「九尾の猫」事件が起きたような...犯人の動機も動機だし、探偵役もあか抜けたエラリーじゃダメで、やや泥臭いメロドラマで正解だと思う。これだけ50年代の油が乗った頃の作品で、なぜか収録漏れしていたもののようだ。
でダイイングメッセージを中心にしたパズルが3つ、パズルクラブのパズルが3つ、でどれも一種の「解釈学」みたいなもの。でいうと「仲間はずれ」は名前だけを分析しただけでも、3つのモノを2:1に分けるやり方は、いくつでも考えられてしまうから、正解なんてないんだと思うんだよ... で問題の「間違いの悲劇」。どうも皆さんドルリー・レーンの四大悲劇に関連付けたがり過ぎてるように見受けられるんだが、このタイトルは、シェイクスピアの「間違いの喜劇」のモジリでクイーンは付けていると思うんだよ。ドルリー・レーンもクイーンたちにとっては40年も前の話なんだからねえ。「推理の芸術」が暴露したところによると、「最後の悲劇」でバーナビー・ロスが「終わった」のは単に出版社とのトラブルが原因で、しれっと5作目を書くプランがクイーンの二人の中にはあったらしい。名探偵なんて復活するのが昔からの定番(苦笑)。本人たちよりもファンの方がコダワリを持ちすぎているように感じるんだよ。事実、この梗概から小説化するのを試みた有栖川有栖が寄せた「女王の夢から覚めて」も、訳者の飯城勇三の解説も、ドルリー・レーンの話なんて一つもしていない。最終第4期のエラリー・クイーン作品として、見るべきだと思うんだよ。 内容については、これがちゃんと小説になっていたら、プロットの綾もいろいろあって面白かったのでは?とは思う。公序良俗に反する○○ってのを、エラリーがちゃんと承知しているのにニヤリ。ミステリはご都合的に使い過ぎているからね。ただし、これを「小説」と思って読もうとすると、黒人劇作家ディオンの役割がまったく不明だし、R.D.レインに結びつけられた「今日の世界の狂気」もよくわからない...有栖川氏が小説化をあきらめたのも、まあ仕方のないことではないかなあ。 第4期のクイーンって、小説の中での「犯人の機能」に工夫があって、犯人像がオーソドックスじゃない作品が多いから、本作もそういう路線の中で捉えるべきなんだろう。クイーンは最後まで、クイーンらしかった。 |
No.42 | 4点 | 恐怖の研究- エラリイ・クイーン | 2020/02/04 22:25 |
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ハヤカワでのクイーン長編作品リストには、本作がカウントされているので、ハヤカワ的には正典扱いである。しかしネヴィンズの「推理の芸術」では「二百万ドルの死者」同様に「エラリー・クイーン名義のペーパーバック長編(いわゆる「外典」)」にカテゴライズされている。エラリイが登場するからには、本作の外枠部分はダネイ&リーのものではあるが、量的にも質的にも、大したことはない。
「推理の芸術」によると、ジェイムズ・ヒル監督、ドナルド&デレク・フォード兄弟脚本の映画「恐怖の研究」(1965英)があり、そのノベライゼーションの権利をランサー社が取得した。ノベライズを依頼されたカーが体調不良を理由に断り、それがクイーンの元に来たらしい。で、実際の映画ノベライゼーション部分はポール・W・フェアマンというSF作家が執筆している。「推理の芸術」では内容が結構違う...なんて書いているが、Wikipedia の映画の内容紹介で見るかぎり、そう違わないみたいだ...クイーンが書いた外枠物語を含め、クイーン監修、という名義貸し程度のもののようである。このランサー社がペーパーバック外典クイーンの最後の版元ということもあって、断れなかったとかオトナな事情があるような雰囲気。 内容的には、とにかく薄味。フェアマン執筆のホームズvsリッパーの本編の方も、ノベライゼーションを割り引いてももう少し小説らしい描写をしてよ、と思うくらいにペラペラの話。ホームズ&ワトソンと名乗っても、どうもそういう香りがしない。パスティーシュは愛こそすべて、って思うんだよ。これじゃタダのお仕事。 外枠のエラリーの話の方は、内容的にもダネイ&リーらしさはあるから「代作?」というような疑問は浮かばない。ただし、ここで扱う謎が大したものではないし、最後にエラリーが推理する内容も全然意外じゃない。あの本編内容で、何を推理すればいいんだろう?というくらいのもの。お約束通り、映画の真犯人をひっくり返してみせる。 まあだから、クイーン的にはリレー長編の解決篇を不本意ながら引き受けさせられた、というくらいに捉えた方がいいのだろう。 |
No.41 | 7点 | エラリー・クイーンの国際事件簿- エラリイ・クイーン | 2018/06/23 20:52 |
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雑誌の連載カラムのかたちで発表されたショートショートくらいの規模の犯罪実話集である。本作がきわめて興味深いのは、ダネイが一切かかわらないリー単独の仕事だ、ということである。クイーンというと、プロット=ダネイ、小説としてのリアライズ=リー、という分担だと言われる。ダネイは別なライターと組んでの作品がいろいろあるのだが、リーの単独作は実質本作きりである(まあハウスネームの方は監修していたらしいが)。評者結構なリーの文章のファンだから、楽しみにしていた...
で本作、期待に違わないくらいに面白い。とくに前半の「国際事件簿」が、いい。実話のショートショート(平均で文庫8ページほど)なので、状況説明が終わればいきなり解決、というシンプルさの制約のなかで、国際色豊かで奇譚といった方がいいような奇抜さと残酷さを楽しむことができる。新青年で昔人気を博したモーリス・ルヴェル(「夜鳥」で文庫がある)のような味わいだ。狭い意味での犯人対探偵のミステリではなくて、もっと人生な味わいが深いスケッチである。国際色豊か、というのも犯罪実話なので文化的な軋轢を覗かせる作品もあってそういう面の興味も深い。個人的には「モンテカルロ クルーピエの犯罪」(カジノのディーラーに不正の疑惑が...)なぞロアルド・ダール風のオチ付き掌編で、好きだなあ。あと「エルサレム 聖地の受難」はクイーンがたまに覗かせる神秘主義の香りがする。 後半の「事件の中の女」は国際色はなくなるが、残忍さでは前半を上回る。名古屋のタリウム少女事件に似た事件を扱った「女王陛下の沙汰あるまでは勾留」など異常性格者の犯罪が目につく。結構シリアルキラーの話もおおくてグロ味があるので苦手な人は何である。 この2つの中間に2つ「私の好きな犯罪実話」と題して、サイレント期のハリウッドで起きたテイラー事件(チャプリンとも共演した喜劇女優メイベル・ノーマンドが没落するきっかけになった..)と、ベンスン殺人事件のモデルになったエルウィン事件を取り上げている。それこそこれは、若き日のリーにショックを与えた事件だったに違いない。そうだね、ベンスンも実話ベースという切り口で読むのも面白いのかもね。 |
No.40 | 8点 | エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン | 2018/05/02 22:12 |
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クイーンも本作やって一区切り、と考えているのだが、この「新冒険」、「冒険」よりもずっと面白いな。あの評判の悪い第二期での最大の傑作じゃないかしら。
「神の灯火」はあとでちゃんと触れるが、ポーラ・パリス登場のハリウッドシリーズ系作品は、30年代のアメリカの都市住民のエンタメ感覚をうまくキャッチできているように感じる。小説として実に小洒落ているな。「ハートの4」とかの長編がムリして書いてる感が強かったわけだけど、最後の4短編あたりキュートにまとまった都市小説の良さを愉しめる。「トロイヤの馬」なんてそれこそ詩的正義、というものだ。最初の4本が代表するホームズ的短編からの脱皮がこの作品集の只中で行われたようなものである。 で問題の「神の灯火」だが、ライナッハは要するに「十日間の不思議」のディートリッチの原型みたいなキャラで、「奇蹟」というものの人間理性に対する在り方を問うような狙いがある。本作は大技が注目されるあたりだけど、本当は手品的な大技がミスディレクションでしかないあたりに、本作の真の価値がある。「奇蹟」という神の手品に対して、信仰と理性がせめぎあうさまを、後期クイーンは何度も繰り返すことになるのだ... 一応クイーンの真作長編+冒険+新冒険でのコンプを記念して、ベスト5を選ぼうか。「十日間の不思議」「シャム双生児の秘密」「ガラスの村」「Xの悲劇」「第八の日」。ごめんね異端なのはわかってるよ。 |
No.39 | 8点 | Xの悲劇- エラリイ・クイーン | 2018/03/11 21:59 |
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今更言うのは本当に気が引けるくらいのものなのだが、本作は面白い。今回ほぼ半日でツルツルと読んでしまった。本作の面白さというのは、モダン都市の面白さであって、市電、渡し船、汽車と交通機関を殺人の舞台としたスピード感を感じさせる舞台設定の妙、都市の交響楽としての都市小説の良さである。
国名だって「オランダ靴」や「エジプト十字架」が、ブルジョア家庭の相克みたいな要素がまったくなくて、クリアな面白さがあったのと、本作は似ている。日本のファンは妙にブルジョア家庭の悲劇ベースの家モノが好きなんだけど、実はそういう要素は、クイーンの中でも退嬰的な部分であって、本当のいい部分はこういう都市小説の良さなのだと思うなぁ。(そういう意味だと後期で都市小説にちゃんと取り組んだのが「九尾の猫」くらいしかない...これは残念なことかも) 評者前から言ってることだが、ドルリー・レーンというキャラは嫌いだ。特に本作とは、合ってない。エラリイでもよかったのでは? まあ評者のレーン嫌いは、どうもキャラとして大げさで、アメリカ人の文化コンプレックスが凝ってできたようなキャラだから..というあたりから。ハムレット荘って「ドルリーランド」だな。 うんこれでクイーン真作長編はコンプ。「新冒険」は絶対やるけど、「恐怖の研究」とか「間違いの悲劇」は気が向いたら、くらいにしたい。あそれでも「国際事件簿」はしたいなあ。 |
No.38 | 7点 | エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン | 2018/01/22 22:36 |
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パズラーの短編集、というとどう長編とは違うメリットを見出すのか、が工夫のしどころなのだが、この短編集だと個々の短編の内容以上にまとまりの良さみたいなものを感じる。「~の冒険」という題名の付け方はホームズ物を連想させるわけで、ある意味ホームズ・オマージュの決定版を目指して書かれた、と見ることもできよう。
それぞれの話の膨らませ方・味の付け方にいろいろヴァラエティがあって、楽しめるのがいいところである。個人的には「見えない恋人の冒険」が田舎町を舞台にした後年の作品を連想させて、そういう田舎町ならではのストーリーとトリックなっているのがいいところだと思う。松本清張風のリアリティのあるトリックなのでは。「双頭の犬」や「七匹の黒猫」の怪奇趣味とか、クイーンにしては意外な持ち味だったりするのも佳い。何やかや言って「短編集としての短編パズラー集」という面では、その精華といったもののように感じる。 まあだから「新冒険」だと「神の灯」というキラーコンテンツがあって、「神の灯」ありき、になりかねない作品集なんだけど、「冒険」は全体のまとまりで楽しむものなのだろうね。 |
No.37 | 8点 | Yの悲劇- エラリイ・クイーン | 2018/01/14 15:53 |
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XとかYとか本サイトに書き込むようになる直前に再々読くらいの感じで読んでたから、今さら書くのもややこしいから何だ...となってしまってたが、ちょっとネタも思いついたので書くことにしよう。
(失礼、結構バレます) 直前にヴァン・ダインの例の作品を読んでいたため気が付いたことでもあるのだが、あの作品の犯人は作中でちゃんと年齢が書かれていないのだけども、ハイティーンくらいと解釈するのもあながち不自然じゃないんだよね。で最〇の事件で〇〇者を装うとか、閉鎖された部屋とか、学習参考書とか、一般的なイメージ以上に、直接的な「いただき」なモチーフが多いように感じる。評者はトリックの特許先願争いみたいなものは不毛なスノビズムとしか感じないから、「それよりも小説の中にどれだけうまく埋め込めるかを競おうよ」と思うだけのことで、本作の方が元ネタよりもずっとうまく書けていることは間違いない。 で評者は実は、皆さんのクリスティの「〇〇〇〇家」に対する批評の辛さ、が気になるのだ。皆さんの大好きなクイーンの本作が「先行作の模倣」の要素がかなり大きい作品なのに、クリスティの「〇〇〇〇家」をそう咎めるのは、ダブル・スタンダードも甚だしいのではなかろうか。どっちか言えばクリスティの方の方が自分独自のテーマをいろいろと盛り込んだ、定型的でないモダンなミステリになっているように評者は見てるんだが....いかがなものだろうか。 というわけで、本作読むんなら、クリスティの「〇〇〇〇家」もトリック・マニアな視点じゃなくて、ちゃんと読んでもらいたいなぁ、と感じる。なので、評者は「〇〇〇〇家」よりも少し低い評点にしたいと思うのだ。 あ、あとどうせ読むなら、で今回は平井呈一の翻訳(講談社系)で読んだ。べらんめえなドルリー・レインというお楽しみ。古風な訳ではあるが、なかなかの名調子でドルリー・レインの自称が「小生」である。 こいつはのっけに一本、剣呑喰らったね、ハッタ―嬢。あいにくとね、小生、ちと妙癖がありましてね。(大久保康雄だと「いたみ入ります、ハッターさん。不幸にも私は妙な道楽がありましてね」) いいなあ。日本語の豊かさを感得する翻訳である。このバーバラの形容として、「起居振舞にどことなく、暢達なリズムに近いものを身につけている」し、「この人の心の奥には、かんがりとした火が燃えていて、それが外面にほのかにさしいで」...と古風ながら実に味のある「創作性の強い訳」になっている。ホラーの教祖として言うまでもなく有名なのだが、平井呈一って凄いな。ただ本作だと今どき言葉狩りにひっかかる単語が連発になってしまうので、新しく出るわけがないから古本とか図書館で探すしかないだろう。原著の罪である。 |
No.36 | 6点 | レーン最後の事件- エラリイ・クイーン | 2018/01/02 18:31 |
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クイーンというと、何か「最後の」がつく作品がやたらと多い印象がある。「最後の一撃」「最後の女」でしかも本当の最後の作品はロスタイムめいた「心地よく秘密めいた場所」だし..で本作を評者のクイーン読書(まあ長編だけだが)のラストにとっておいたのだ。
どうせ4大悲劇なんて昔に読んでて、犯人とかトリックとか手がかりとか全部頭にはいっている状態での再読である。結構憶えてるもんだなぁ...と感しきり。 で今回読んだ感想だが、国名初期もXYZも、基本的に起きてしまった事件の捜査プロセス小説なんだけども、本作はエジプト十字架同様の「進行中の事件」ということになる。なのでいわゆる「読者の推理ポイント」とかハッキリしないタイプのミステリなんだよね。ここらが本作今一つパズラーマニアのウケが悪い原因のように感じる。とある身体的な欠陥が事件のキーになるのだが、クイーンの医学知識はというと、いい加減なものが多いので真に受けない方がいい。ちょっとアレは...とは思うけども逆に妙なサイケ感が出ていいじゃないか。 あとちょっと気になったのだが、エールズ博士がシェイクスピア=ベーコン説の信奉者、という話があったけども、この人の身元を考えるとかなり蓋然性が薄いと思うんだがどうだろうか(ちょいと細かい話過ぎるかな)。まあどうせなら、シェイクスピアの死因とかそういう方面をもっと突っ込んで歴史ミステリ色を付けても面白かったかもね(どうも本作のネタは「推理の芸術」によるとクイーンのでっち上げらしい)。 というわけで、本作、興味を引っ張っていく小説面で退屈しないで読めるのが良いあたりだが、殺人の犯人氏がどうしてその家に手紙があると確信しえたのか?および真相を秘匿した心理的な動機が、今一つ納得いかない。全体的な企画物だから仕方がないかな。本作は悲しい結末を迎えるけども、それはギリシャ悲劇的な意味での「悲劇」というよりも、市民的な間違い(能力が足りない事による失敗)による自死なのだから、「ロミオとジュリエット」を悲劇と呼びづらいように、本作も市民劇としてのコメディアなんだからね。そもそも悲劇三部作の後はサチュロス劇と相場が決まっている。「ヤコブのひげ」はシレノスの山羊ひげではなかったのか? |
No.35 | 5点 | アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン | 2018/01/02 18:03 |
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国名シリーズも本作の後は「シャム」とか「チャイナ」とか、「読者への挑戦」の意味が薄い作品になってしまうので、「国名」らしい捜査プロセス小説の最後の作品、ということになると思う。皆さんあまり評が芳しくないが、評者の希望は「この推理だったらお願いだから写真を付けて!」ということになる。ベルトの推理なんて言葉の描写でどこまで伝わるんだろうか。分からないのが当然な気がする。絵がちゃんとある射入角度の問題は、これ捜査当局が当然引き出していい結論なので、わざわざ名探偵の推理、とされると困っちゃうな...というわけで、謎の構築、というあたりでそろそろ手詰まり感が出てきているように見受けられる。「映画万歳」なわりにどうも知識は中途半端のように感じる。あまり納得のいく犯人ではない。
良い点は舞台装置が派手で「衆人環視の殺人」のハッタリが効いていること。「ローマ帽子」が舞台を生かしきれなかったっことの反省もあるのかな。西部劇が「劇」なことって日本じゃあまり知られていないから、なかなか貴重な小説かもね。 |
No.34 | 6点 | フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン | 2017/11/25 00:23 |
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本作のイイところというのは、デパートを舞台として、「二十世紀の大都市の交響楽」といった感じの、都市小説としての香りがあるところだろう。まあこれが「ブルジョア家庭の秘密」といったより古めかしい要素で薄まるのが残念と言えば残念(そういう意味では評者は「Xの悲劇」を買うなぁ)。
本作は、火曜に事件が発覚して、木曜には解決しているんだよ。超短期戦というべきである。こういうスピード感が本作の「モダンさ」を象徴しているようだ。なので、小説的には本作は、意外に長さを感じない良さがある。まあ、ハッタリといえばハッタリなんだけど、最後の謎解き場面なぞやはり演出的になかなか盛り上がる。 ただ、パズルとしては...弱点多いなぁ。パズル、と銘打つ限りは「ちゃんと解ける」というのが必要なんだけども、本作の推理だと必ずしも犯人を絞り切れないように感じるな。犯人を最終的に名指す決め手は...これを決め手にするのはちょっと予断というか決めつけが過ぎるように感じる。まあハッタリの効いた演出の流れがいいから、何となくごまかされちゃうのだけども、「読者への挑戦」の時点ですでに分かってることをほぼ繰り返している(ショールームに死体を動かした理由とかはなかなかいい推理だと思う)ことが多く、新しい材料で犯人を特定しようとする肝心の部分が弱いように感じる。「謎の小説的構成」が必ずしもうまく行っていないのでは。 それとこれはバランスの難しい話だが、マジメに尋問を優先して退屈になってしまった「ローマ帽子」を反省したのか、現場尋問を適当に切り上げてエラリイ仕切りでのアパートメント捜査に描写を費やしたことで、捜査描写が恣意的でややいい加減になってしまった印象があること。「オランダ靴」くらいのバランスが一番しっくり来るように感じる。 |
No.33 | 7点 | クイーン警視自身の事件- エラリイ・クイーン | 2017/11/24 22:48 |
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本作、ミステリというよりも、変形のゴシック・ロマンスだと思って読んだ方がいいように感じる。
というのも、本作で一番説得力がある部分は、定年退職したクイーン警視と、ヒロインのナース、ジェシイとの恋愛描写だったりするからね。というか、ハンフリー氏って、ガチのゴシックロマンスの敵役キャラだと思うよ...としてみると、本作は第二期の上滑りした駄作群(ハートの4とか悪魔の報復とかね)に対する、成熟したクイーンの回答、というような気がするのだよ。ロマンスと冒険を、リアルで地に足の着いたかたちで実現できた...まあそれが男女の年齢を足して100歳を超える、熟年の恋だったとしてもね。 まあだから、本作の謎解きはおまけ。ヒロインが犯人に襲われて危機一髪ヒーローに救出される。それで十分。 だがどうしても警察には言いたくない。言ったが最後、この事件はわたしの手から離れてしまう。ジェシイ、これはあんたとわたしと二人の事件だ。 くぅう、こりゃ殺し文句だ。いいじゃないか、ハーレクインだって。 (本作エラリイが登場しないせいか、バリバリの真作なのに本サイトでも書評が異様にすくないなぁ。中期じゃ面白い方だと思うけどね。) |
No.32 | 7点 | 第八の日- エラリイ・クイーン | 2017/10/31 00:26 |
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最終期のクイーンでは一番面白いのではなかろうか。というか、最終期はそれまでの作品のコラージュみたいになってしまって、「あ、前にあってねこんなの」となりがちなのだが、本作はそうでない、ユニークな小説である。
本作のクイーナン・コミュニティは、洗礼者ヨハネ関連では?と考えられている死海文書で有名なエッセネ派からヒントを得たような、オリジナルの原始共産制宗教コミュニティである。ネバダ砂漠の中に隠れ、外界とは交渉を持たずに、それでもオアシスの恵みによって安定した独自の社会を築いている。所有も物欲もなく、すべてが必要に応じて分配されるユートピアに、エラリイが迷い込む。「教師」によると、ある「トラブル」が共同体を襲うが、エラリイはトラブルに対して「道を開く」ために呼ばれてきたのだという....予言の通り、果たして殺人が起きた! というわけだが、そういう「ユートピアでの殺人」のために、エラリイとしても大いに勝手が違う。エラリイは通常の殺人捜査の手法によって犯人を突き止めるのだが、しかしこれは後期のパターン通り、誘導された真相であり、エラリイは何か大きな力に操られるかのように、「偽りの真相」による告発と断罪を先導する。しかしそのさ中にエラリイは本当の真相をつかむがそれは...なのだが、本作の独自なところは、「真相」が真相であるためには、それが社会によって意味を与えられるのでなければ、何の意味も持ちえない、ということなのである。今回のエラリイは失敗すらさせてもらえないほどに、その推理は無力なものでしかないのだ。 なので本作は、砂漠の蜃気楼のような「探偵の悪夢」だろうか、かなり皮肉な寓話みたいなことになっている。ほんとはね、「ミステリの真相」というも実は「ミステリが真相を見出す小説」であるがゆえに、たまたま小説のオチになるだけのことなのだよ。 |
No.31 | 10点 | 十日間の不思議- エラリイ・クイーン | 2017/10/30 23:48 |
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ミステリというのもある意味「ジャンル小説」というか、ある「お約束」があって、読者もその「お約束」を期待し、作者も「お約束」の範囲内で上出来な商品を提供する、という側面があるわけだけど、評者なぞはそれでも「作者の意欲とジャンルのせめぎあい」みたいなものを見たい、と感じているわけだ。
本作は、はっきり言って「本格」ではない。「クイーンだから本格ミステリだ」というのは、いささか固定観念(というか消費者としての期待か)が過ぎるというもののようだ。だから評者は常々、作品を作品として、独立に捉えて、読者の期待であるとか予断であるとかから離れて(まあそれができるのが再読の良さなのだが)作品に即して良い面を見つけていきたいと念願しているのだ。 評者は本作は好きだ。ミステリというよりも、小説としての充実感が本当に半端ない。クイーンの全作品の中でも、文章はピカ一だ。ほぼハードボイルド並みの簡潔な文章の畳みかけで綴られている。 しかしだれかが離れ家の電燈をつけたらしく、その光が、女が髪の毛に指をつっこむように暗い庭園にさしていた ...ちょっとロスマクを思わせるような渋い文章である。ハードボイルドの一人称文体が謎解きについて「探偵が知らないことは書けない」という大きなメリットがある、ということをロスマクは明らかにしたわけだが、その視点で見るとき、例の鮎川哲也の批判は評者は的外れだとおもうのだ。というのも、本作はハワード視点の冒頭を除いて、エラリイの限定3人称で通していて、地の文と見えるものも実際にはエラリイの意識のフィルターを通した描写と言うべきなのだ。少なくともエラリイはそう認識した、でイイわけで、「神の視点での真実」とは何も関係がない。まあ評者、本音を言えば「ミステリでの神視点三人称は使用禁止」にしたいくらいのものである..だって、犯人の視点で書かないのは作者の恣意になるからね。 なので、本作のテーマというのは、本当はそういう意識(というか虚偽意識)の問題であって、「あなたの考えは本当はあなたのものなのか?」という哲学的なテーマが背後にある。一見リアルな客観と見えるものさえも、実は「操作された現実」でしかない、という疑惑に包まれたら最後、「あなたの世界」は崩壊するのかもしれない。だからこそ、デカルトは「我あり」を確立した直後に、「神の誠実」を論証なしに認めて世界の客観性を救ったのだが...本作の「神」は残念ながら不誠実である。それゆえ理性=エラリイは神の死を宣告せざるを得ない。そうしなければ「世界」は混淆した主観の中にグズグズと崩れ去るからである。本作のテンションは、そういう「世界」の危機感の賜物なのだ。 結論:本作はクイーンがミステリの形式を媒介にして、ミステリを超えたものにアクセスしようとした「超ミステリ」の1冊ということになる。これは例外的な小説だ。 |
No.30 | 6点 | 靴に棲む老婆- エラリイ・クイーン | 2017/10/09 19:53 |
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「エジプト十字架」やって直後に本作である。当然お題は「あかね書房懐かしい」。まあエジプト十字架はその後にもオトナ向きで読み直したが、さすがに本作は読み直していない。それでも決闘の話とか何となく覚えていたなぁ。「パンは出さずにスープで済ませ、鞭で叩いてベッドに..」は子供心にビビったものだよ。
まあ本作、館モノのパロディみたいなものだ。館モノ、マザーグース、操りの問題などなど、クイーンがしたかったことが雑然と並んでいる感じだ。それでも本作を子供向きの原作に選ぶセンスはなかなかよろしい。漫画的だから、どうリライトしてもファンタジックで楽し気になるよね。 今回評者は結構楽しく読んだな。漫画的なキャラは立ってて、ユーモアあるし、例の拳銃の手品はそうセンス悪くない。しかしねえ、犯人逮捕の後で残りページの量を見て、「あまだ少しある」って気づいたら、やはり黒幕がいるんだよね...とついつい予測しちゃうのは、いい加減クイーンにスれ過ぎているような気がする。もう残りわずかだが、自戒。 |
No.29 | 7点 | エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン | 2017/10/09 19:30 |
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まあ今更に今更な名作、ということにはなるんだけど、今回読み直してこの前作があの閉鎖的な室内劇だった「ギリシャ棺」なのが信じられないくらいだ。クイーンもよっぽど書いててストレス溜まったのかしらん。
そういうわけで本作はロマネスクな大活劇である。ロジック派の皆さんには申し訳ないが、本作のロジックって小ぶりでわかりやすいのが多く、言うほど面白いものはないように感じる。クイーン=ロジック、って予断で読み過ぎている印象を受けるなぁ。 ただし、本作はそれまでのクイーン国名シリーズが欠いていた、キャッチーでロマネスクな長所がある。バルカンの血の抗争を背景にしながら、それを移民国家アメリカの問題としてモダンに扱っているセンスがいい。何やかんや言って、国名シリーズあたりというのは、「(いわゆる)本格ミステリ」の概念確立期なのであって、書いている時点ではまだまだ流動的なものだったようにも評者は思うのだ。古めかしい因縁話ではなくて、「本格ミステリ」である以上に、アメリカを股にかけた開放的でモダンなエンタメとして、本作は「古典的なほどに」よくできてると思うよ。だから国名シリーズの流れから見ると、本作あたりを最大の異色作と見るべきなのであって、決して「国名シリーズの代表作」ではないのでは?なんて思うのだ。 |
No.28 | 6点 | スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン | 2017/09/24 20:06 |
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国名シリーズ最終作になるわけだけども、前作の「チャイナ」に引き続き、謎の設定と解決が、ヴァン・ダイン的捜査プロセス小説+読者への挑戦、という国名シリーズの定石からの「ずれ」が甚だしくなっているように感じる。国名シリーズはもう限界だったわけだな。しかし「死体が裸の理由」がなかなか丁寧な推理による解明があるとか、いい部分はあって、そうそう駄作というわけにはいかないちょっと困った作品ではある。
(少しだけバレるかも) というのは、本作だと、ある意味「メタな推理」で、小説としてのオチなどを考慮して推理すると、犯人は明白なんだよね。しかし、「死体が裸の理由」を巡る推理は結構難易度が高い、というアンバランスなところがある....パズラーで「メタな推理」をしちゃうのは、禁じ手かもしれないけど、こういう小説だとやっぱり読んでて、どうしても計算にはいっちゃうんだよね...そういうあたりで「どんなもんか」なモヤモヤを感じる上に、本作で良い詳細の部分でも、偶然の要素の処理がうまくできているので、エラリイの推理を聞いて納得はするんだけども、犯行が過剰に技巧的、という懸念は残る。 だから本作の「犯人に同情の余地あり」というエラリイが推理機械でなくて...の部分は、これだけ技巧的な謀殺だったらいくら何でもダメでしょう? まあだからこういう「情」の面は「途中の家」でもう一度「国名的」な中に、本作よりもうまく取り入れられて、「災厄の町」につながる、という流れを感じる。 |
No.27 | 4点 | ハートの4- エラリイ・クイーン | 2017/09/24 19:46 |
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ハリウッドもの、なんだけどね、皆さんハリウッドらしさが出てると評されるけど、評者に言わせると全然らしさが出てない。ポーラ・パリスみたいな地獄耳のゴシップ・コラムニストというと、ルエラ・パーソンズとかヘッダ・ホッパーとか、スター並みの存在感で恐れられた人(エピソードはずっとエグい)がいたりするわけだ。クイーンお得意の「呼ばれて行ったけど6週間音沙汰なし」のプロデューサーは、ハリウッドの第二世代の代表者のアーヴィング・ソールバーグがモデルで、この人はフィッツジェラルドの「ラスト・タイクーン」のモデルとしても知られる人だ。ここらへんのエピソード選択とか表面的なもので「ホントにハリウッド行ってたの?」級。まあハリウッドと言いながら撮影シーンがちゃんとないんだからねえ、もっと頑張ってほしいなぁ。
で..読んでてもどうもストーリーも冗長。トランプによる警告とか、後期の作品でもよくこの手の「謎のプレゼント」は多いけど、意外にサスペンスが盛り上がる...って具合にはいかないことのが多いように感じる。考えオチだからねこういうのは。 本来のミステリ部分が良ければそれでも...なんだけど、本作、犯人&動機をまともに隠せてないと思う。何か見え見えな真相でがっかりさせられる。 ふう、ここらへんの作品どれもこれも駄作なんだけど、その中では「ドラゴンの歯」が一番読める気がする。あれは恋愛担当をボー君に振って、エラリイはホント脇役だからね。そのくらいのバランスの方が話がうまく流れると思うよ。 |
No.26 | 6点 | チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン | 2017/09/03 21:51 |
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評者クイーン長編もそろそろ終わりに近づいてるね。後期を先にやって最近になって国名シリーズに集中した理由は、単純に国名シリーズはほぼ昔読んでる(それと入手性がいい)だったわけ。で、だけど、やっぱ真相憶えてるんだよ....40年も昔に読んだキリでもね。本作も読んでると「ああこれあれがあれで...」なってしまってた。
まあだから、本作の読みどころは、あべこべ衣装をめぐるチェスタトン的論理と、大仕掛けな物理トリックが作り出すファンタジックなイメージ、ということに尽きると思う。物理トリックを「リアリティがない!」とかお怒りになるのは筋違いで、具体的な絵として想像してみると...シュールで華やか、綺想って感じで面白いじゃん。珍しく映画原作に売れた理由もそれじゃないかな。しかし中盤の展開が真相解明にまったく寄与していない、という長編構成上の問題があるから、もっと奇抜で似合った背景に変えて、100ページくらいの中編にまとめたら、切れ味のいい大傑作になったかもしれない。ヴァン・ダイン的な捜査プロセス小説の枠組みと、クイーンのしたいことが矛盾しだしてるのが本作の本当の難。 けど、エラリイのウンチクはどの作品でもトンチンカンなものばっかりだから、最近少々ウンザリしだしてる... |