皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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クリスティ再読さん |
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| 平均点: 6.38点 | 書評数: 1661件 |
| No.1641 | 7点 | 袋小路- ジョルジュ・シムノン | 2026/08/26 07:45 |
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| ロマン・デュールの中でも「非ミステリ」系の名作だと思うよ。いや確かに事件もあって逃亡劇もあるんだが、本質的には「非ミステリ」だと思う。
というか、ミステリの論理では話が全く動いていない小説だね。近いタイプは「片道切符」とか「新しい人生」。なんだけども人間が犯す「悪」という視点では、「雪は汚れていた」に近いニオイを感じていたりもした。結構終盤展開は「雪は汚れていた」に近いんじゃない? 大金持ちの中年女性ジャンヌの愛人兼使用人として「囲われる」主人公ウラディーミル。ヨット「エレクトラ号」の船長待遇なんだけど、「自由」の象徴かもしれないヨットさえ全然出航もせずにメンテナンスと浜辺のビストロで飲んだくれる日々。そしてジャンヌの反抗的な娘エレーヌがヨットに居座って、ウラディーミルをあからさまに蔑視する。まあ「エレクトラ」って母を殺す娘の話なんだけどもねえ。ロシア革命から一緒に逃れてきた相棒のブリニはそのエレーヌと? で、かなり特徴的なのは多少の同性愛ニュアンスがあること。これは主人公のウラディーミルとブリニ、それにエレーヌと看護婦ブランシュにそんなニュアンスを感じるところがある。まあ事件の説明も論理的な動機でもないし、もちろん同性愛感情といった「わかりやすい」言葉で説明できる問題でもない。同性愛感情で説明するならば、逆にロシア人風来坊がコートダジュールの享楽的な環境への違和感で説明してもいいくらいだろう。「嫉妬」と説明するけども、どちらか言えば「平時に乱を起こす」ような脱出願望込みのしなくていい「反逆」の部類なんだろう。しかしその脱出願望もリアルか、といえばそうでもない。そういうラストなんじゃないのかな? という具合に、主人公の行動は小説がちゃんと説明していないし、またわかりやすい小説的辻褄もない。しかしその心理はシムノン読みとしては「腑に落ちる」ところがある。 (まあブリニくん、ラストシーンの後には迷惑っぽい感情を抱いたのでは?ちなみに評者はあの看護婦は苦手キャラ) |
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| No.1640 | 6点 | 天狗の面- 土屋隆夫 | 2026/08/22 16:53 |
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| 今回は光文社「土屋隆夫コレクション」で。なので「『罪深き死』の構図」などの1956年までの初期短編やエッセイも。
土屋氏というと、やはり文学派ということになる。本サイトだとパズラー作家としての側面ばかりが話題になりやすいが、後年の社会派系作品に触れるまでもなく、全盛期のパズラー作品でも文学派カラーは濃厚なんだよね。この本収録のエッセイ「文学としての探偵小説」でも乱歩の「一人の芭蕉の問題」を引いて探偵小説文学論を述べているし、お気に入り作品は乱歩「心理試験」、木々「文学少女」、シムノン「黄色い犬」だとしているわけでもある。戦後派でも高木彬光を「トリックと骨格だけ」とケナしてもいる。 ではその作者の文学、って何だ、という話もなる。 処女長編である「天狗の面」については、まさに井伏鱒二調でもある。とくに特高に拷問を受けて発狂した青年には「遥拝隊長」の面影もある。さらにメタな語り口など、これ以降の沈鬱なロマン主義から見ると、異端的な処女長編ということにもなる。まあミステリとしては、トリックの骨格が見えやすいこともあるし、やはり筆致は達者でも戯作っぽいあたりが乱歩賞では嫌われたのかな。 やはり「そうり大臣を命ず」が哀切だね。東京裁判で発狂して東条英機の頭を叩いた大川周明のイメージが重なる。 でこの本に収録された初期の短編も、やはり「『罪深き死』の構図」を別にして、パズラーではない。若書きっぽい社会正義への志向が見えて、広義の社会派と見た方がいいんだろう。まあ「『罪深き死』の構図」だって濃厚な文芸味が未消化でパズラーの枠組みに押し込められているようなものだしなあ。そんな中では無邪気な犯罪として、のちの「危険な童話」に通じる「恐ろしき文集」がいい。 文学性とミステリを見事に総合したのは、結局、松本清張という怪物だったわけだけど、それが実は乱歩の「もう一人の芭蕉」だったようにも思うのだ。 |
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| No.1639 | 7点 | 感傷の終り- スティーヴン・グリーンリーフ | 2026/08/21 08:50 |
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| さてタナー2作目。サンフランシスコ1980年代初め。デビュー作「致命傷」ではラルフ・ネーダーみたいな消費者運動から始まっていたけど、要するにこの人、「意識高い」系ハードボイルドなんだ。
同じようにリベラル系ハードボイルド作家で、モーゼズ・ワインで有名なR.L.サイモンと立場が似ている、といえば似ているが、サイモンがかなり「意識高い」を斜めに見て(自虐的に)バカにしているのに対し、この人はなんかマジメなんだよね(苦笑) まあ本作、大金持ちの老人の依頼で、その息子を探す話だが、この息子は過激派組織のリーダー格で放火の結果女子学生が焼死した件で指名手配中...でも老人はその息子に遺産を相続させたい!いやいや、周囲は猛反対、でもタナーは受けた依頼で誠実に息子の後を追跡する、といった話。 なんだけど、中盤からはガラっと「そう来るか!」的な展開でジェットコースター。ややびっくり。格段に前作「致命傷」よりも面白い。 R.L.サイモンは今や保守・リバタリアン系の政治評論家として、ガチのトランプ支持者に転向しているわけだが、そりゃモーゼズ・ワインがリベラルを見るシニカルな視線の当然の帰結なんだよ。本作の「失われた十年間だったんだ。七〇年代には、みんな何ひとつまともなことがやれなかった」というタナーの述懐もまさにそういうリベラルによる自己懐疑の表れなんだ。でもグリーンリーフはサイモンよりも明らかにスノッブな趣味であるから、そこらへんは「むかつく」(笑) 「きみは、親父さんが(抗がん剤副作用で)吐き気のひどいとき、何をのんでいたかわかるか?」「何だ?」「マリファナさ」「冗談だろう」「いいや」 まあこういう話なのさ。 |
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| No.1638 | 7点 | 秘書綺譚- アルジャナン・ブラックウッド | 2026/08/19 15:21 |
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| ホームズ期三大ゴーストハンターは、カーナッキ(ホジスン)、サイレンス博士(ブラックウッド)、モリス・クロウ(ローマー)で大方の異議はなかろうが、やはりブラックウッドのホラーというジャンルへの貢献度は、サイレンスもの以外でも突出していることになろう。
この短篇集は処女短篇集「空家」(1906)収録作をメインにしながら、後年の作品を補った日本独自編集のもの。サイレンスものはなく、「空家」で幽霊屋敷探訪をメインとし、ジム・ショートハウスが狂言回しとなる作品をすべて収録。 サイレンスもの第一作「霊魂の侵略者」も幽霊屋敷だから、ブラックウッドはまさに幽霊屋敷のエキスパート、と呼びたくなるくらいのバリエーション。とくにブラックウッドはマジメなオカルティストだから、現象をリアルに丁寧に描写する良さが目立つ。やはり相方は大事だね。「霊魂の侵略者」のお供は犬と猫だが、「空家」はシッカリ者のジュリア叔母。この叔母の反応が、何というかとてもイイ。「窃盗の意図をもって」では幽霊屋敷に慣れているはずのショートハウスが、若者の「わたし」から描かれれる。ショートハウス自身が取り込まれかける大失態で、これがなかなかリアル。この2作がショートハウスものでは断トツにいい。「約束」は秋成の「菊花の契り」だなあ。洋の東西を問わない話だ。 で「秘書奇譚」はホラーとしては不条理な雰囲気のもので、怪現象が起きているか微妙な話。再読だが以前創元の「怪奇小説傑作集1」で扱った時も「見ようによってはコメディ」と書いているけども、一種パロディ的な印象を受けるなあ。「怪物くん」みたい? 「炎の舌」は怪現象を絡めた道徳的教訓譚みたいなものか。いやXとかにぜひ機能を導入してもらいたいものだ(笑)「野火」は怪異譚というよりも汎神論的傾向のある詩人の内面を描いた散文詩的な作品。これはこれで作者の真情あふれる作品じゃないのかな。「転移」は「オド(生体精気)イーター」系の吸血鬼譚。人間でも吸血鬼な叔父vs吸血鬼的な土地のガチンコ対決! というわけで、バリエーションが広く、それぞれ独自の味わいのある話を多数収録。気軽に楽しめるが、中身はなかなか本格ホラーでしっかり描かれている。 |
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| No.1637 | 6点 | 闇の奥- ジョゼフ・コンラッド | 2026/08/18 13:36 |
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| そりゃジャンルはさあ「ホラーだ、ホラーだ...」だからホラーだよ(苦笑)
で、やはり一種の実存的ホラー小説だと読むべきだなあ。とくに光文社古典新訳文庫ではそういう解釈を採用しているようにも感じるんだ。 まるで地球がすさまじい速度で宇宙の中を飛ぶ音が、不意に聴こえ始めたかのようだった。 とかねえ、文明(社会)から切り離された緑の「魔境」での孤独と実存の問題として、一種のコズミック・ホラー的な含意を出しているように感じるんだ。だから「地獄の黙示録」でのカルト的狂気の支配ではなく、原作ではそのような立場にたまたま置かれてしまったクルツという男の恐怖と衰弱の物語であるかのように読めてしまう。いやこの物語を「西洋人には理解できないアフリカの闇」ととらえること自体が、オリエンタリズムの産物だ、とも批判できるわけだ。 コッポラの「地獄の黙示録」には「予防接種を打った子供たちの腕をベトコンが切り落として積み上げた」とカーツが語るきわめて印象的な残虐場面がある。しかし、この話は実のところベトナム戦争でのアメリカ側の都市伝説的なプロパガンダでしかない。おそらくは「闇の奥」の舞台であるベルギー国王の私有である「コンゴ自由国」で横行した、天然ゴムの採取ノルマ未達の黒人の手足を切断した非人道的刑罰にも影響を受けているのだろう。そして、この刑罰自体はこの小説で描かれているわけではない。 アフリカには闇はない。西洋人の心の中に闇はある。それが「ホラー」なのである。 |
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| No.1636 | 7点 | 死の扉- レオ・ブルース | 2026/08/16 11:44 |
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| 現代推理小説全集で紹介されて、初期の創元文庫に収録されたから、意外に知名度のある作品。1950年代のイギリス新本格、と言われたらそれだけで納得してしまうタイプの作品でもあるね。雰囲気的にはエドマンド・クリスピンをもう少し軽いユーモアにして静的なパズラーにした感じ。いやこういうタイプの方が、今のマニアにはウケやすいんじゃないのかな。
本作だと現実の事件への言及もあり(解説だと珍しいそうだが)、リアリティのある事件をスモールタウンにうまくはめ込んだような印象が強いな。まあだから推理難度は低いけど、そのぶんゆったり楽しめるようなもの。浮上してくるキャラがそれぞれちょいとした悪徳を告白しちゃうあたり、どっちかいえば「のんびりとした悪徳」といった感覚で、逆説的だが妙に楽しい。 会話にウイットがあるのがいいなあ。パブリック・スクールで歴史を教えるキャロラス先生が素人探偵を買って出るわけだが、「しっかり~」とかヘンに応援されていたりするのがノンキというものだ。相方になる複雑な家庭出身の生徒のルーパートくんが素敵。ちょいヒネてワルぶっているあたりにキュン! いやね、被害者の老婆が裏社会ともつながった悪婆なんだけども、ちょいピカレスクっぽいといえばそうか。不良青年のうち一人はテディボーイだから、頭はリーゼントかしらねえ。ペットショップ経営の女性二人はビアン夫婦かしら。毛深い牧師とか、耳の大きな校長とか、巨人女看守とか、かなり登場人物の多い小説だけど、キャラはそれぞれ工夫があって楽しい。ミステリマニアの農場主とかちょいメタ風味。 というわけでリーダビリティ高く、そつなく面白い。 |
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| No.1635 | 7点 | おかしな死体(ホトケ)ども- 海渡英祐 | 2026/08/15 15:12 |
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| 吉田茂警部補ってちょっと不遇の名探偵かもしれないなあ、と思って取り上げたいんだ。1970年代前半というと、都筑道夫が「退職刑事」やら「なめくじ長屋」やらキリオン・スレイやら、様々な名探偵を創造していた頃のわけだけど、呼応する動きは意外に乏しかった。だから吉田茂警部補が唯一の都筑派名探偵だったのかもしれないよ。その後の亜愛一郎もこの系譜で理解するのが正しいんじゃないのかな?
とは言え、確かにロジックもあるけども、吉田警部補はやや直感的すぎるきらいはあるかな。それ以上に「おかしな死体ども」と総括される、「動きまわる死体」「浮気する死体」「酔っぱらった死体」「仰天した死体」「気まぐれな死体」「下痢をした死体」「迷いこんだ死体」「怪獣好きな死体」といったタイトル(とそのファンタジックな他殺状況)について、合理的な回答を出してみせるという力技をやっている。この志向はクイーン的というよりカー的と見るべきだろうね。 というわけで本作って一種の「本格ミステリのミッシングリンク」みたいなものだよ。もう少し知られてもいいと思うんだ。 どうかな、ロジック的には「酔っぱらった死体」がいいかな。アリバイトリックとして興味深い視点があるのが「動きまわる死体」。話としては中編の「怪獣好きな死体」が長い分面白い。 |
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| No.1634 | 4点 | 華麗なる醜聞- 佐野洋 | 2026/08/14 16:47 |
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| 協会賞受賞作。社会派、と言えばそうなるかもしれないが、某国大使が女性スキャンダルを起こした「ハイ・ホステス」という謎の職業と、秘密厳重な「壮年病クリニック」、連続爆弾(というより焼夷弾に近い)事件を起こす「是政小僧」の謎...といった要素を組み合わせて、政財界の暗部を中央日報の記者グループが追跡する、という話。なんだけどもねえ、追跡プロセスはそれなりに興味深いところもあるが、意外な真相とかそういうことはない。読んでいてかなり不完全燃焼感が強い。一応メタフィクション的な仕掛けがあると言えばあるが、効果的とも言えない。
今年は最後に佐野君の実績賞といったところで、意見がまとまった。「華麗なる」だけでは貫目不足というわけだろう。 と日影丈吉の選評が全てみたいな気がする。いや予選には「三重露出」とか「虚無への供物」とかあるんだよ。それでも候補作は佐賀潜「恐喝」、星新一「夢魔の標的」、中島河太郎「日本推理小説史」。なんかよくわからない。選評を見ても作品の話をしている選考委員が少ない。 ぶっちゃけ本作、賞に値しないと思う。最後に提案されるスパイ小説的な解釈も辻褄は割と合っていても、随分いかがわしい話でもあるなあ。 (社会部記者たちがやたらと世間師的なのに、昭和感が強い) |
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| No.1633 | 7点 | 三人のこびと- フレドリック・ブラウン | 2026/08/13 17:21 |
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| さてエド&アム・シリーズの第二作。ブラウン大好きサーカス話...と思うと、細かいことを言うと違う。作中では「カーニー(Carny)」と「カーニバル」の略で呼ばれている。ギョーカイでは同じような移動型娯楽施設であっても、アクロバット芸中心の曲馬団のサーカスと、こういうCarnyと呼ばれる移動型遊園地とは区別されていることが、少しだけだが触れられている。要するに夜店の香具師の大規模なグループのようなものだな。「シカゴ・ブルース」の後、エドくんはアム伯父とともに、アム伯父の身過ぎ世過ぎの稼業であるこの業界に飛び込む。
香具師でも昔はよくお化け屋敷や見せ物小屋があったように、このカーニイでも小人がいたり、チンパンジーが芸をしたり、キレイな女の子が踊って見せたりするわけだ。そんな中で、降って湧いたように小人の他殺死体がこのカーニイに出現する。しかしカーニイの小人である「モート少佐」は全然知らない小人...そして移動した先では病気になってたチンパンジーが水死体で発見、さらに黒人少年ダンサーが...と「なぜ小人(小さな人間)ばかりが殺されるのか?」というミッシングリンクものとして話が展開する。 いやノリはねえ有名な「笑う肉屋」と同タイプの、「確かに説明つくけど、誰も想像しないよ、そんな真相!」というもの。いや実は「復讐の女神」の中にちょいと似た話は確かにあるんだけどもねえ...う〜ん(苦笑)やられた、というのが正直なあたりかな。 とはいえドラマ部門の充実感があるのがイイあたり。カーニーの「ポーズ・ショー」でお色気を振りまく女子二人に想いを寄せられる果報者のエドくんの「青春の惑い」がしっとりと描かれ、それに対してまさに「世間師」と呼ぶべきアム伯父の酸いも甘いも噛み分けた肖像が対比される。ナイスなコンビであるのはいうまでもない。 いやイイねえ、このシリーズ。シリーズ全体のファンになりそうだ。 |
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| No.1632 | 6点 | 女体愛好クラブ- ミッキー・スピレイン | 2026/08/12 11:39 |
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| タイトルがまあモノ凄いので、評者も持ち歩く時にカバーをかけたよ(苦笑)
タイトルがそうだし、豊満な美女が奇抜な死に方(特殊な毒・鞭打ち)で見つかるとかさあ、ネタは秘密クラブなのはお約束というもの。だからそういうあたりは期待しすぎると肩透かしになるんじゃないかな。 それ以上に、ハマーの捜査が手堅くて、初期作品だと捜査の方がお約束ぽかったのが、ちゃんとリアルに感じられていい。色々な筋にアタックしては途切れ、再度アタックしては...というプロセスを楽しく読ませていく。本作だとファッション業界とか外交官とかそういう世界も関わるから、ハマーだってタキシード着て、美女をエスコートして、レセプションに出たりするんだよw 本人も柄じゃないとはわかっているさ(苦笑) 復活後はヴェルダ姉さんが出たり出なかったりだけど、なぜか登場しない「ねじれた奴」の次作の本作では、ちゃんとヴェルダ姐さんは出る。「味見した」と明言されているので、ヴェルダ姐さんと結婚カウントダウンなくせに、捜査途中で出会う女性2名と浮気。両方ともイイ女度がなかなか高い。ゴージャス美女と変人アーチストで、速攻でハマーの肖像画を描いてそれからベッドイン。男冥利というものだなあ。1967年作品だから、ビート族からヒッピーに移り変わるあたりのグリニッジ・ヴィレッジだからねえ。スピレインだからって時勢に無関心じゃないんだよ。 だから猟奇のようで猟奇じゃないです。ハマーが落ち着いたイイおとこになっているよ。 |
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| No.1631 | 7点 | 忌まわしき悪党- レックス・スタウト | 2026/08/11 12:39 |
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| さてウルフものでも、名作に挙げられることがある作品だ。ウルフの「モリアーティ教授」である、アーノルド・ゼック初登場作。というわけで期待は高まる。事件自体はオンエア中のラジオトーク番組で、ゲストが出されたドリンクを飲んだら毒死した、という極めて派手な事件。これはね~期待するな、という方がおかしい。
プロットとしては、その毒の仕掛けが誰をターゲットにしたものか?というのが二転三転する興味。ウルフも中盤で2回ほど鮮やかな推理をして、行き詰った局面を打開する。その推理が結構笑える真相を暴いたりするしね(苦笑) で最終的なウルフの推理も、人間がこのような状況ではこう動くだろう、という弱めなロジックだけども、蓋然性があって無理のないもの。だから、あまり思い込みで断定せずに、プロセスをしっかりと集まった人々で実証して、真犯人を追い詰めていく。そういう丁寧さがウルフもののイイところだとは思うけど、日本の本格ファンはこういう動的な枠組みでの推理の物語の面白みを、スタティックな本格概念から外れるためにどうも見逃していたようにも感じるんだ。 というわけでシンプルによくできた話だと思う。ヴィランのゼックくんも、ウルフを絶賛しちゃうよ(笑)対決はまた後程。今回は前哨戦だ。 |
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| No.1630 | 6点 | 枯草の根- 陳舜臣 | 2026/08/09 17:03 |
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| このところ初期乱歩賞を追っているが、やはり初期の乱歩賞は、小説的充実感+パズラーといった要素で選んでいるようにも感じるよ。社会の中で新しい賞がどういう役割を果たすのか?という点でシビアだったようにも思うんだ。こういう傾向が初期乱歩賞作家に作家として大成する人を輩出した理由だろう。
とはいえね、純粋にミステリとしては食い足りない。伏線が丁寧すぎてトリックは明白。動機は推測が難しすぎる。カットバックされる旅行者夫妻の仕掛けがあざとすぎるのが、気に入らないなあ。その代わり文章は評者のように漢文脈の好きな人は気に入る。キャラも悪かない。探偵役の陶展文のキャラの味付けも穏当で適切な造形。個人的には相方の朱漢生ののんびりっぷりが好き。というか、決まり文句の評言の「悠々たる大陸的風格」ってものの、その裏側を当事者としてリアルに描いたような気もするんだ。 評者は神戸に10年くらい住んでいたから、土地勘もあるしね。震災前の神戸の雰囲気があるなあ。陶展文の店のあるあたりは、阪神大震災でも古いガッシリとしたビルが多くて、よく揺れたわりに持ちこたえたビルがいくつもある地帯だよ。あと興味深いのは、地元市会議員で地域ボスの造形。いや神戸って都会のわりに田舎なんだ。そういう地域性がよく出ているよ。 (5点か6点か迷った) |
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| No.1629 | 7点 | 悪女イブ- ハドリー・チェイス | 2026/08/08 08:34 |
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| これ面白い。ほぼ一気読みのページターナー。
ツンデレな娼婦に引っかかって破滅する男の話。ほんとそれだけ。でも面白くてたまんないな(苦笑)キャラ造形のうまさでグイグイと読ませる。チェイスってこんな技アリ作家だったんだ。 いや、こうも思うんだ。悪女モノって悪女が悪女でないから悪女だったりする面白さを追求する小説なんだろう。先行する皆さんのご感想でも「イヴって悪女?」という疑問を呈されているわけで、全くその通りなんだよね。客観的に見ればハードボイルドに自分で立っている女性だよ。潔さとかカッコよささえも感じるな。言い換えると「悪女」ってのは騙されたバカな男の頭の中にしか存在しないものだ、という普遍の心理と不変の真理を証明するようなものだ。 逆に主人公をどうにかささえようとするキャロルがいじましい。いい女じゃないか。悲しいけど素敵だと思うよ。 だからこそさ、最終章の「賢者タイム」で大爆笑。そういう小説。主人公の執事のラッセルくんのナイス助演賞。 |
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| No.1628 | 7点 | 反動分子- ジョルジュ・シムノン | 2026/08/07 11:13 |
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| 確かに異色篇だねえ。
瀬名氏は雰囲気をコンラッドの「密偵」に比較したけど、評者はグリーンの「密使」みたいに感じたな。おっと「密使」の方が翌年か。でもまさにグリーン調エンタメといった雰囲気の小説だ。 無政府主義者のイデオローグとして活動したが現在ベルギーに亡命中の主人公シャヴ。現在は劇場監督をして細々と事実上の亡命生活を送っていた。そこに現れた同志の「男爵」。新たにパリの無政府主義者組織に加盟した外国人過激派が、爆弾テロの企画をしていて、弟のように気にかけていた若者ロベールがそれに巻き込まれているという話が。シャヴはロベールと話して爆弾テロを止めようとフランスにひそかに帰国して奔走する... というまさにスリラー仕立ての話。 シャヴは元気がなくなり、自信も揺らいできた。ここでなにをしているか、ブリュッセルに妻と息子がいるのに、どうして自分に関係のないことに介入しに来たのか、と考えてしまう。 と無政府主義者として警察に捕まるリスクを冒して、仲間の計画を止めようとするわけだ。さらに「男爵」のドジによって計画が警察に漏れ出し、無政府主義者たちはジャヴを「裏切者」として警戒している...果たしてロベールはジャヴのいうことに耳を傾けるのか? いやさあ、似たようなことが最近あって、評者も今絶賛傷心中だったりするよ。若い人は過激な主張に感染して年寄りを不要扱いしがちなんだよなぁ。エコーチェンバーというか、閉鎖的な言論空間だと、過激な意見が幅を利かすのはどうしようもないんだ。世代差だと思ってあきらめるしかないのかな。 すまぬ、身につまされてしまったよ。 (けど「反動分子」というタイトル。無政府主義者というとウルトラ自由主義・個人主義のわけで、ちょっと適切じゃないようにも感じるよ。無政府主義者グループからしたらジャヴの方が「反動分子」なんだが、本書の警察側は無政府主義者たちを「反動分子」と呼んでいたりする。ちょいと違和感) |
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| No.1627 | 4点 | 蒸発 ある愛の終わり- 夏樹静子 | 2026/08/05 10:45 |
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| さて協会賞受賞作だけどもねえ。
パズラーとしてのポイントは、1)航空機からの人間消失、2)電話を使ったアリバイトリック、3)電車時刻表トリック、の三点セット。それにちょっとした文芸設定とメロドラマ。 (あからさまではないけども、バレます) アリバイトリックは全般的に「ああそうだよね」的なもの。人間消失は理詰めで大体推測がつくけど、具体的な手順は特殊な知識が必要。 とくに電話トリックについては昭和を生きていた人なら大概見当がつく。なので捜査当局がピンとこないのがおかしいよ。「改め」がちゃんと書いていないので問題だけども、「話し中」と「相手が出ない」は昭和の電話のシステムだと電話局では区別ができず、また受け側からの「どこからかかった」という記録が電話局でも調べられない、という課金ベースの電話システム上の問題があるようだ。そういうあたりを「都市のハック」として突っ込んでいると面白いんだけども、本作はそういう視点はない。 あと文芸設定について。どうやらロキタンスキー症候群の話みたいだが、これ自然妊娠がそもそも難しいよ。一応手術で満足は得られるようだけど、ケアが大変なようでもある。それを別にして、家族的な問題でもいろいろと矛盾する部分が出るから、ちょいとシラケるところがあるなあ。というわけで、ロキタンスキーが名前がついたのが1983年のようなので、情報不足は仕方がないんだろうけども。病気を母性に絡めて語るのは「悪しき社会派」というものだ。 「真犯人」はメロドラマの当事者である探偵役の冬木氏自身だよ。反省とかないのかなあ。それにもどうもモニョる。 というわけで、本来5点をマイナス1点。 |
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| No.1626 | 7点 | 死への旅券- エド・レイシイ | 2026/08/04 10:03 |
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| いやあ、いいねえ。
レイシイというとヒューマンないい作品が多い人だが、本作の主人公は養女の娘を男手一つで育てる私立探偵バーニー。私立探偵というと刑事上がりと相場が決まっているが、バーニーはもともと自動車整備工。でもローンをブッチして逃げる車オーナーを探し出すために私立探偵の免許を取った男。そして気は優しくて力持ち! ダニー、力持ちってのはみんな正直だ。 最後には盲目の元プロレスラーのダニーと組んで活躍!とまあ、ボンクラ魂が燃えに燃える。ガンで先立たれた妻の弟のスワン警部補が軽い気持ちで「義兄に稼がせてやろう」と紹介されて、バーニーは動機不明の二重殺人の捜査を引きうけさせられたわけだ。畑違いの殺人事件!まあだからハッキリ言って自信があまりない(苦笑)でも愚直なまでの誠実さが、いいんだなあ。まさに「早すぎたネオ・ハードボイルド」という感覚。 これも「レイシイといえば」のカットバック技法だけど、本書では犯人側の背景などを説明してるだけ。巧妙な脱法ビジネスではあるけども、昔は手続きがいい加減だから成立していたようなものだな。偶然運悪く殺されることになるというあたりが、アイロニカルな非情さのように感じられもする。 そういうわけで面白い、という以上に大変共感する話。レイシイいいなあ。 (父が殺人事件の捜査をしていると知って、興味シンシンになる娘ルーシーがかわいい爆) |
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| No.1625 | 7点 | ロールスロイスに銀の銃- チェスター・ハイムズ | 2026/08/02 21:15 |
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| 墓掘り&棺桶でも後半戦で、本作以降は早川ではなく角川に移籍。とはいえ、チェスター・ハイムズは本作の映画化(日本公開1971年)に合わせて、大多数の作品が1971年に一気に翻訳紹介されている。こんなこともあるんだな(苦笑)映画はメジャー製作のいわゆるブラック・エクスプロイテーション映画でも、「黒いジャガー」に先行する先駆的な作品になる。映画は当時ヒットはしたが、「黒いジャガー」や「スーパーフライ」ほどの影響力はない。
本作の特徴はやはり、当時の黒人運動が掲げたアフリカ帰還運動が扱われていることかな。ミステリだもん、それをネタにした詐欺もあるわけだ。 牧師という触れ込みで前科者ディーク・オマリーは、アフリカ帰還のための応募者と資金を募る運動で絶大な人気を誇っていた。資金集めのための集会が突如マシンガンを持った白人によって襲撃される...集めた資金が奪われてそれを追跡するが、逃げられてしまう。しかし、いろいろと後ろ暗いディークも逃亡し、墓掘り&棺桶コンビがこれを追跡する.... こんな話が軸。いったん逮捕されたディークも「無罪の牧師を解放せよ!」という信者たちのデモ隊が警察署を襲撃して、ドサクサにまぎれて逃亡するとか、アフリカ帰還運動が対立する団体のデモと鉢合わせてして一触即発なのを墓掘り&棺桶が強硬に収めるとか、そういうあたりが読みどころかな。だから本作はハイムズの「社会派」なところが強く出ている作品でもある。 だからかミステリ以上に社会小説、といった感触の方が強いかな。1970年代のNYハーレムだからねえ、いわゆる「警察小説」のジョーシキは通用しづらい世界でもある。 映画は緩め。黒人俳優上がりのオジー・デイヴィスの監督作。原作を要領よく端折りつつまとめている感じ。やはり当時のハーレムの街やクラブ・バーなどを描いているのが興味深い。クライマックスはやや改変していて、なんとアポロシアターの舞台の上で決着がつく。ゴスペルとかモータウンとか関心があれば興味深いと思うよ。 とはいえ主演俳優コンビがあまり墓掘り&棺桶っぽくないな。硫酸火傷の痕の残る棺桶とはいかないだろうけど、もう少し強面するフランケンシュタインっぽくてもいいかなあ。映画ではもっぱら墓掘りが暴力、棺桶が止め担当。原作はそんなことないからね。やはり原作では墓掘り&棺桶コンビの心理は掘らないし、それがハードボイルドでいいんだがね。そうすると映画で人が好さそうな感じが出ると「らしく」ない。 「経験から生まれる感情さ。あの言葉が読めたら、世界じゅうの犯罪は全部解決するよ」 「じゃ、出ようぜ。ジャズはしゃべりすぎていけねえや」 よくお分かりで(笑) |
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| No.1624 | 8点 | 汽車を見送る男- ジョルジュ・シムノン | 2026/07/31 14:33 |
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| 古い本なのでどうか、とも思ったが入手はそう難しくなかったな。そりゃ先行するお二人の絶賛ぷりを見ていれば、無理してでも読みたくなるよ。ロマン・デュールの犯罪小説系では「雪は汚れていた」に次ぐくらいの名作じゃないかな。
とはいえ、シムノンの作品系列としては比較的「よくある」系なんだよね。平凡だが穏健でそこそこ成功した立場にある中年男が急に仕事と妻子を捨てて逃亡する話なんてシムノン十八番というべきだし、警察やマスコミに対して「自分がよくわかってない!」という不満に満ちた手紙を送るのもシムノンあるあるだ。新しい生活の中で「理解されない異邦人」として暮らすも定番。というわけでシムノンとしてけして画期的とか珍しい話ではないんだ。 やはり本作のいいところは、それまで誠実に港湾の船舶雑貨商の支配人として勤め、妻子を養っていた平凡だが有能な男が、上司である経営者が女遊びと使い込み、さらには麻薬密輸などの悪事の結果逐電する現場に遭遇し、「現実の底が抜ける」ようなショックを受けて、「なら自分も『絶対の自由』を謳歌して何が悪い?」とハッチャける話なんだ。そういう「自由」がテーマであることが正面に打ち出されていることが、「観念小説」に近い体裁になっている。これがカミュの「異邦人」と誰もが比較したくなるところなんだよね。 わたくしは退屈な四十年を堪えて来ました。四十年間、わたくしは喫茶店の窓硝子に鼻をぺちゃんこに押しつけ、人がお菓子を食べているのを、腹をへらして見ているいたずらっ子のようでありました。今では菓子は、取るだけの元気のある者はいつでも取れるものだ、ということがわかりました。 まあ港湾関係者だから当然暗黒街(ミリュー)とも付き合いがないわけはないんだろうけども、お堅いオランダのブルジョア気質からそういう現実にも目をつむっていたんだろう...とも想像するんだけど、パリに逃亡してミリューの一味にかくまわれることにもなる。しかし、ミリューにしても主人公は「どうにもよくわかないヘンな異邦人」として、警戒される結果にしかならなくて、飛び出してしまう。本人はチェスが強くて実務的な才能は当然あるから、逃亡生活にパターンを作らないように気を付けて行動するなど、なるほどと思わせる「自らを超然と吟味する」心理描写もある。一方報道される「なんかおかしい人だった」というような証言にイラっとして投書したり、報道が減っていくことに逆に不安になるとか、自意識過剰な小心さのリアルも面白い。 だからちょっとした喜劇みたいに読むべきなんだろうな。「男の首」のラディックという悪のヒーローを描いてしまったことに、シムノン自身がヘンな罪悪感を抱いて、「いやああいうカッコよさは違うんだ!」と何度も何度も「カッコわるい」バリエーションを作り続けているような気がしてならないんだ。 |
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| No.1623 | 6点 | 招かれざる客- 笹沢左保 | 2026/07/29 13:49 |
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| さて先に「危険な関係」を読んだから、なんとなく「やらなきゃね」で取り上げることになるなあ(苦笑)。中学生の頃に読んだものの再読。トリッキーな作品のせいか結構よく覚えていたりする。
とはいえ、実はアリバイトリックとか一種の密室トリックについては完全に記憶喪失。しっかりと記憶に残っているのが「招かれざる客」のタイトルに絡む動機面とそれを利用した仕掛け。いややはりそういう小説なんだと思うよ。女性の情念がベースにあるあたりが、最初から作者の持ち味炸裂でもあるわけだ。 というわけで、作品的には昭和ミステリの佳作、という評価は昔も再読の今も変わらない。二部構成がやや単調かなあ、とか亀田くんが事故死して突如打ち切りになった最初の捜査が甘めじゃない?とか、思う部分もある。確かに女性の情念をうまく絡めたミステリ作劇に達者な部分があることを否定しはしないのだけど、やや通俗的なロマンに依りすぎている部分も感じる。だから乱歩賞ライバルの「危険な関係」のアプレ満開な現代っ子たちと比べた時に、どうしても古臭く見えるのは仕方がないんだな。 これは競争相手が強すぎた、というしかないよ。 評者は小技コンビネーションはミステリの書法としてはかなり好き。動機に絡めた仕掛けが作劇の軸になっているのも好感。逆に古くなっているのは表面的な社会派要素であり、風俗としての扱いにしても「危険な関係」には及ばない。 (今回光文社文庫「笹沢左保コレクション」で。なので亀田くんの自動車事故とか郵便局勤務・全逓労組でのヤミ専従の話が、作者の実体験にかなり取材している由。なるほどのリアリティ) |
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| No.1622 | 7点 | 棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇- アンソロジー(国内編集者) | 2026/07/28 11:12 |
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| 「狼の一族」がアメリカ篇で、ややSF味のホラ話をひねった切れ味系だとすると、このイギリス篇でSFファンタジー風は確かにそうでも、やや心理主義的なブンガク味が出てくるあたり、国民性というものなのかな?で「棄ててきた女」に関しては、たとえばヒュー・ウォルポールとかジョン・メカトーフとかL.P.ハートレイとか19世紀生まれのやや古めの作品も収録しているあたりが特徴といえばそうなのかな。評者に言わせれば「奇妙な味」とは、戦前のアメリカのエンタメの主力がパルプに代表されるジャンル小説の形をとっていたのが、戦後のスリックマガジン(高級雑誌)にジャンル混合的なエンタメ短編のかたちに変化した現象みたいにとらえていたんだが、イギリスとなると出版状況が全然違うこともあって、こういうセレクションになるのだろうか。実際、雑誌初出を拾っているより、短編集からの収録が多い。
「トリフィド時代」で有名なウィンダムの「時間の縫い目」はまあ、うまくまとまったタイムトラベル物を、かつての貴族の没落に絡めて描いた技あり作。いいけどまとまりすぎると奇妙な味ではないかもしれない。SF。 カーシュ「水よりも濃し」は奔放でマスキュリンな伯父に虐められる情けない甥がアレルギーを使って復讐しようとする話だが、やはりネタの復讐よりもこの伯父甥関係の妙なリアリティに面白みがあるんじゃないのかな。犯罪小説? メカトーフの「煙をあげる脚」はコテコテな怪談をひねってナンセンスな味わいに転化させたようなもの。バカみたいな良さがある。ホラー? ジョン・キア・クロス「ペトロネラ・パンー幻想物語」は「赤ちゃんコンクールが人生を過ごす場所」になった女性の話。いやこれ個人的には皮肉と不気味なわけのわからなさで好きだ。ジャンル? ウォルポール「白猫」はまあ、飼い猫と女主人の関係でまあクラシックな味わいというべきか。ホラー。 ハートリー「顔」は理想の顔だけに執着する究極のメンクイ男と、その顔の女の微妙な関係性の話。「なぜ」が欠落したあたりに面白さがあるのかな。? エイクマン「なんと冷たい小さな君の手よ」は引きこもり気味の画家が電話でかかってくる女性の声に執着し続ける話。ホラー。 コッパード「虎」、サンソム「壁」、スパーク「棄ててきた女」と短めの作品が3作続き、これらはジャンル分化しないところに味わいがあるのかな。そういえば「壁」は「キートンの蒸気船」だねw ウィリアム・トレバー「テーブル」は、骨董商が売り主の複雑な事情を手玉に取るような話だが、事実上イギリスでのユダヤ人差別を扱ったシリアスなテーマを、奇譚風に描きなおした手腕を見るべきか。ジャンル? バージェス「詩神」はタイムトラベルならぬタイムトラベルで並行世界のシェイクスピアの真実をめぐる歴史SF。ハッチャけた味わいだあな。 でラストのリチャード・カウパー「パラダイス・ビーチ」は、完璧なイリュージョンを作り出す装置をめぐるSF風の話なんだけども、実はこれ読みようによって完全犯罪の話になるという凝ったもの。素晴らしい。 というわけで、アメリカ篇より落ち着いた雰囲気もあるかな。全体的に少しアメリカ篇より古めのセレクションかもしれない。 |
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