皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.537 | 8点 | しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術- 泡坂妻夫 | 2016/05/09 21:27 |
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ストーリーそのものはね、別に詰まらなかぁないけど読まなくてもいっかな人生は短いし、
ってなくらい。 もちろん、例のアレはね、大したもんだと思いますよ、 マジックそのものである基本トリック案出もさる事ながら、 それを実行に移す意志力、完遂させる技倆、そして期待に応えた完成度、こりゃあ、驚きですよね。 短いし、読みやすいから、別段苦も無く鮮やかに騙される体験が出来ますよ。お試しを。 |
No.536 | 8点 | 片眼の猿- 道尾秀介 | 2016/05/09 19:20 |
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流石に展開が速い、もう終盤のどんでん返しかとドッキリさせるような反転が早いうちからpop-up快調。「カラス」を少しだけ若くした質感。削ぎ落としを露骨には感じさせないが抑えた言葉数、高速で進める読みやすさで濃密な内容を披瀝、しかも途上には緩急の整えどころまで設えてあるんだ、基礎分厚き者の余裕だぜ。
短いミスリード、割と長い伏線、妙に魅力あるチョイ役、谷口社長。。かなり長い伏線ないしミスリードもある。変わった子か。。まさか『絶対に映像化できない』なるコンセプトが先行した作品じゃなかろうな?それも、別の意味で映像化出来ないって方からインスパイアされたとかじゃ。。しかしまあ 何というか、豊潤たる叙述トリックですよね。これだけのジョトリを重ねておきながら嫌味な後味が(おいら的には)全くしないってんだから凄いなあ。そっか、四菱が某人物(とその仲間達)をそこまで畏れるのには、そんな理由も。。 しっかしまあ、こんだけ言葉数を絞った小説でこういうナニとなればだ、正味の話 o(^_^)o 伏線でもミスリードでもナニでもない部分のパーセンテージって両手で数えるほども行かないんじゃないか? ま、ミスリードの突起がゴツゴツししてるから多少とも手馴れた読み手にとっちゃあまるっきり根底から騙されるってわけにも行かなそうだけどさ、こりゃ何かあるとかナニが逆だとか、何となしに少なくとも頭の片隅だろうけどさ、それでもやっぱりですよ、色々明かされるタイミングもジャストだし、こりゃあぐっと来ますよ。思いのほかとて~も長い伏線ないしミスリードもあったな。。 主人公の口癖「言葉の綾」。。たしかに事件そのものはあっさりしたもんだけどさ、バカ●●トリックも本当にバカで笑うけどさ、だけどそっちのミスリードがこっちのミスリード(どっちのミスリードだ?)に引っ張られるからこそのミスリードだったりして、決して叙述の罠だけ宙に浮いてるわけではないしね。 ただ、そのへんのナニに納得出来過ぎちゃって、再読したくはならないけどね。。 いいの別に。 あと、こういう素敵な暗号の謎はいいな本当に、って思ったよ。 そしてこの題名だ。 しかし冒頭近くの二人の青年ね、小説的にね、いい仕事したねえぇ~ 読後、餃子が喰いたくなるかどうかは微妙だね。 |
No.535 | 6点 | 深夜の散歩- 評論・エッセイ | 2016/05/07 17:59 |
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どれもこれも、ミステリのおもしろさの真髄を外して外枠のハイブラウな遊戯に明け暮れるからこそ零れ落ちる、余分な興味とでも呼びたい論述の行方の追い駆けや、知識の拾い集めの愉しさこそが本書の美点、ではなかろ~~か?
中村真一郎のカーター・ブラウン’論’ならぬ’論ぜず’が見事に(ちょっとしたトリックを使って)論じていない、そして作品群への興味を持たせる事には成功しているのが素晴らしい。 もう三十何年ぶり、久ッ々(ひっさびさ)に再読してみると、その一篇がやけに良い。全体的には柔らかに華やかな福永武彦のパートが最も面白い。ちょっと硬めの丸谷才一も悪くない。 ま後追い読書分や知識系の確認にはともかく、純粋に愉しむぶんには一回だけ読みゃじゅうぶん。 |
No.534 | 5点 | あなたに似た人- ロアルド・ダール | 2016/05/07 00:37 |
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奇妙な味とか言うより、折り目正しいまともな古典作品群に見える。’ライター’の一件にしろ’羊肉’の話にしろ、はみ出してない拡がらない、安定しちゃってる感じがちょっとね。。作りがしっかりしているから名作として味読も出来ようが、昔の喩えで恐縮だけど「沢口靖子さんは絶世の美人だけど女性としての魅力は云々」みたいな、個人的にそんな感じ。 (比較対象じゃないかも知らんが)シャーリー・ジャクスン派の私としては、長澤まさみより水川あさみの方が遥かにいい私としては、琴線にヒットまではしない。やはり童話作家こそ本領の人なんだな、って思いますよ。 とは言え読んで損は無かろう。 |
No.533 | 9点 | けものみち- 松本清張 | 2016/05/06 12:28 |
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清張は通俗でも充分殺せる。
割烹旅館に住み込む不遇美女に纏わった後ろ暗い手探りの蠢きから始まって、、突然或る事件が起きるタイミングの衝撃波の煌めき!同種のショックは忘れた頃ふたたび襲う。そしてみたび。。。 「まるで往来と同じだ」 「遠近法の計算」。。心理戦のリアルタイムカットバック描写にシビれる場面もある。展開の意外性にヤられた咄嗟の指紋抹消シーン!まさかの疑惑まみれ展開が終盤でもない中盤でもない絶妙無比なその瞬間に急襲! エログロとは異なるキモエロシーンのしつこさには辟易したが、悔しい事に途中から慣れてしまった。 古の某氏を思わせる闇のフィクサーを中心に据え。。ながらも社会派の色は背景に薄く塗る程度かな、と思えばなかなかどうして、と思わせておきながら。。ストーリーの駒をタイミング良く動かすのが本当に上手いねえ、清張さんは。或る人物の「真実は曲げられませんからね」なる平凡な台詞に込められた或る強靭な意図、いや思い過ごしか。。と保留していたら、かなり後になってその真意を思い知らされた。 終盤に入ると言うには微妙に早い頃合い、それは無いでしょうと言いたくなる、キリキリ来る違和感のすれ違いシーンが、いやいやその外枠にはもう一つまた相当に巨大そうなすれ違いの構図、この外限が見えない感覚に読み手は圧倒される。 しかし。。。。。。。清張さんってのはよほど、言外の屈辱をやり過ごして嘗めまくって昇華させ尽くして最高無比の栄養にまんまと変容させ続けた人なんだな。 いやいやこの本は東野圭吾ファンに受けが良さそうだ。圭吾さんがこの本大好きなんじゃなかろうか。物語と犯罪の構造こそ全く違えど「白夜行」に大いに通じる何かが底にある。しかし準主役級の刑事が途中から予想外に気持ち悪いメタモルフォーゼを見せる所は大いに違う。白夜行の笹垣刑事はけものみちの久恒刑事(字面ちょっと似てるが響きは違う)を外観はほぼそのままで内面というか全体像を、物語の機微を曇らさない限界まで極力格好良く仕立て直したある種理想の存在だったのではあるまいか? 出て来るんだよねえ「黒革の手帳」なる言葉が、メタ絶妙と名付けたくなる深淵のタイミングで。 疑心暗鬼の独りよがりな応酬を乱反射させる清張の罪無き悪意。。 「世の中は不思議なものだ」だってさ。どの悪党(?)の台詞だったか。 最終局面で意外性を大いに含むバイオレンスアクション展開(!)となるが、その末に明らかになる、真の黒幕、ではなく真犯人、でもなく’最後に残る者’が実に意外! いかにも終盤の前半終わりあたりで’意外にも’あっさり抹消されそうな人物が、まさかあんな悪どさを道連れに、、残るとは! 最後まで生き残ると思われた或る人物のまさかのいきなりの最期、と対になった残酷な意外性には柔らかな心理の盲点を衝かれる。 と前後して別の或る人物がチョイ役と見えて実は黒幕、とまでは言えんが意外と’分かっていた’側の人物である事が露呈、ところがその露呈の直後に。。 と目を瞠らざるを得ない意外意外の急展開に唖然としているうち物語は瞬殺のエンド! この最後の最後にぶん殴られる衝撃の構図は果たして清張当初の構想通りか、それとも。。。 さて本篇、「わるいやつら」の巨悪版とも見えましょうが、この物語内で展開される犯罪は決して巨悪ではなく、巨悪の前々々準備段階(という意味でやはり糾弾すべき?巨悪の構成部分)とは言えても飽くまで、殺人を含むとは言え、小規模の悪行に留めて描写敷衍されたもの。その特徴にこそ通俗的手触りが強く残るが、冒頭で触れた通りそれでもじゅうぶん重厚な殺人的快感をくれるのが清張余裕の底力。 8.6強の9点。 |
No.532 | 8点 | さむけ- ロス・マクドナルド | 2016/04/28 22:35 |
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つかみは緩いし、最初の男女の絡みは駆け引きとも突き放しとも呼べないくらいチャラい。時に見える言説の出しゃばりも 気を効かした比喩もマーロウのトーキンロッキンブルーズに較べたらオヤジュゲグ特区送りみたいなもんだ。まるで先達のハードボイルド名手達に憧れるが資質の追い付かない作家がHBもどきの薄い本格を書いてるかのよう。出だしから軽く二百頁以上はそんなもん。だがしかし、それでもこの小説に読ませる力があった。。。。。。。“レフティ・ゴドー”なんて小むずかしい洒落を言われて巨人軍魅惑の00番、曲者後藤(右投左打)を思い出した。冒頭の失踪事件で謎を引っ張るのかと思いきや、失踪人は第二の事件の重要参考人としてあっと言う間に発見されちまう。ところがこれが単純に『第二の事件』と思ったら大間違い(なのだが、全体真相が暴かれて見ると、実は。。!?) ! 古代だったら殺される。。蜘蛛の濡れた足のようなものが首筋に。。聖堂のように保存するだろう。。あなたはずいぶん複雑な生活をしていらっしゃるのね。。悲劇はたいていそうしたものです。。。終盤近く差し掛かってやっと魅力的なフレーズ群があぶり出され始める。それにしても本作で見せるアーチャーの無色透明な媒介感は。。ヴァン・ダイン作品中におけるヴァン・ダインに匹敵するんじゃないか?
謎追いの道筋がぐにゃぐにゃ捩れて絡み合うのは確かにハードボイルド流儀かも知れん。だからこそ一見HBより本格風ムードの愛憎ギラギラ連続犯罪ストーリーがいつしか「初めに見せてくれた主題を置きっ放しにしてないか?」と軽く疑いを持たせもするのだろう。 或る会話の中でアーチャーが返したジョーク「まあ似たようなもんですがね」には笑った。結局、主人公は誰だったんだ。 しかし気持ち悪い結末だな。。。。 この動きの激しい急襲サプライズ・エンディングはまるで山田風太郎が少し生真面目に書き過ぎたかの様な内容で、リアリティが皮膚感覚で迫るぶん気持ち悪さも前面に出ちまっている。だけど確かに吐き気よりは寒気だ。 米国式に言やぁ私立探偵小説=ハードボイルドなのかも知れないが、日本の心の分類で言えば本格じゃないかなあ、これは。少なくともわたしにはHB的魅力はさほど感じられない。しかし最後の台詞は流石になかなかだった。 7.500でぎりぎりの8点。 やはり魅力はある。 |
No.531 | 5点 | 地下球場- 佐野洋 | 2016/04/21 12:29 |
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黒い鞄を狙え/ロスからの男/強打者牽制
常勝川上哲治監督が携行するという『黒い鞄』の謎を追う表題作。連続V記録更新中の読売巨人軍が実名付きで登場するが、現実人気球団をダシに使ってかなり踏み込んだ想像話ゆえか、なんとも歯切れの悪い終わり方。ミステリ腹に落ちない。 他二作は軽い娯楽作。悪くはない。 |
No.530 | 6点 | 10番打者- 佐野洋 | 2016/04/21 12:19 |
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急映、大毎、太陽ロビンス、金星スターズ、巨人の加倉井に坂崎、後楽園にはアンラッキーネット(!)。。魅惑のアーリーデイズプロ野球用語がポンポン飛び交う中、速やかにクールに展開する戦後ニッポン陰謀物語、の飽くまで一側面、に軸足置いたサスペンス・ファンタジー。 星野組はプロ化を意向するも頓挫、ですって。。
序章 彼との出会い 第一話 不均衡計画 第二話 ウイニング・ボール 第三話 盗まれたサイン. 「桜機関」の「桜氏」(どちらも仮名)なる衆議院議員にして正体不明のフィクサーの下に職を得た「私」は、氏の幅広い暗躍領域の中で『(戦後復興した)日本プロ野球人気を今度こそ定着させる』というミッションのために奔走する。(その真の目的は、果たして。。) 氏と「私」の出逢いを描いた序章と第一話は、社会派に振れ過ぎない政治スリラー的様相でスイスイ進行。(森村誠一だったらどんなに熱く脱線しまくったろうか) かと思うと第二話、出だしのつかみどころの無さは底知れぬ陰謀のようで日常の謎のようで。。急に社会的要素が蒸発してしまったかのような微妙な中弛みを見せつけ、核心はまさか色事絡みかと匂わせ、、 と思うと唐突な感動秘話に向きを変えて締める。。なんだこりゃ? 二話三話と連作が進むに連れ黒幕から主人公(共に十数の歳を取り)へと物語上での存在感が軽くシフトする、かと思いきや。。 第三話ではやにわに謎解き要素が色濃くなるが、最後の最後で急にリアリティの薄いトンデモ陰謀論に転んで終わっているのは。。 週ベ(週刊ベースボール誌)連載時色々あって、ひとまず冗談めかしといて様子見、という事なのかしら? なんて穿った見方をせずにいられませんね。 (まさか、佐野流の『逆トリック』ってやつだったりして) ちょっとバランス悪い連作集だけど、まずまず。 |
No.529 | 7点 | 雲なす証言- ドロシー・L・セイヤーズ | 2016/04/20 02:33 |
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話も最終ラウンド法廷シーンに至り、味方どうしの不思議な証言合戦に目を瞠る。捕われの兄の証拠提示をぶっつぶそうとする弟(ピーター卿)の意図は何?
『実は○○でした』だけの結末だったら苦笑で終わろうが、何故○○とは見えない(××と見える)状況に導くような証言群がもたらされたのか、という経緯の複雑さが面白くてね、どことなくカー「三つの棺」の真相をもうちょっとシンプルと言うか工程少な目にしたような、いや事件は全く異なるモンなんですけどね、そんなものにちょぃと近いフレイヴァを感じてしまいましたよ。 ゆるやかに歩み出すようで序盤より無駄口を排し、無駄口とは似て非なる拡がり豊かなユーモアと論理遊戯のみを披瀝するスタイル(解説にもあったが彼女のコピーライター経験が活きているのかも)でいつの間にか古風でロマンティックな物語が展開。 しばぁらく積読してた本なんだけど、読前はなんだか退屈そうな気がしてね、ちょっとヘヴィな別の本(非小説)読む時の、上質な退屈が取り柄のチェイサーっぽくやってやろうと思ったんだが、読み始めたらこれがアナタ、面白くてねえ、すっかりこっちがメインになってしまったのですよ。 『橋と壜』のグレッグ・スミスって主人が気になる(実は『橋と壜』は聞き間違い)。 「広場のあんだらほう」も何だか。。 あとその、ピーター卿だか誰だったか口ずさんでたバッハの複雑な一節ってのが何の曲のどの部分なのか、気になるわァ〜 |
No.528 | 6点 | 歪んだ朝- 西村京太郎 | 2016/04/19 01:08 |
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第一長篇「四つの終止符」より更に前、最初期の隠れた名短篇である表題作は、社会的テーマをミステリ興味そのもので染め上げており秀逸。叙情性が強く、それなりの文学的感慨もある。
歪んだ朝/黒の記憶/蘇える過去/夜の密戯/優しい脅迫者 (角川文庫) 表題(作)のインパクトの割にバラけた雰囲気の統一感無き作品集だが、悪くはない。 ドタバタサスペンスからちょっと感動の終結に至る「優しい脅迫者」は(締まりが甘く、さほど出来が良いとは言えないが何故か)忘れ難き味わい。 読ませるデビュー作「黒の記憶」が収められているのも特筆事項。 |
No.527 | 7点 | 遭難者- 折原一 | 2016/04/18 12:26 |
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【敢えてネタバレをはさみつつ】
登山登録、各種届、捜索記録、哀しみの手記、告別式次第 等々。。 凝りに凝った構成(オリジナルハードカバーでは製本意匠にまで及ぶ)は叙述の罠に非ずして、物語に奥行きを与えるための温情ある一種賑やかしのギミックだった。。従って山岳ミステリそのものに興味薄い人にとっては最後にガックリ来るのも致し方無し。 自分も、お山のお話が好きだからこそ、このまさかの逆反転(!)に感慨(逆感慨?)もあったし山岳ならではのサスペンスやミステリ興味に引き摺られて7点も献上したものの、そうでなかったら「ぬるい結末だなぁ~、でも途中まぁまぁだったから」と5点も行きゃいい所だったことでしょう。 某氏こそ怪しいんじゃないか、名前からして。。 などと目星を付けつつ読者目線の捜索は進行。中途より「探偵役」「引き継いで第二の探偵役」と見える人物による叙述群が不穏な雲行きを告げるが。。 ラストシーン近くの「聞いてくれたかしら」には明るい気持ちで泣けました。本当に、こだまのように繰り返し泣けたなあ。。勢いで参考資料のページまで泣けて来るよ。一々の叙述ギミック(言葉を換えて繰り返すがトリックではない)が感動のラストシーンに収斂してくれて本当に嬉しい。 一君にありがちなしゃらくさい叙述引っ掛けとは一線を画する渋い作品でもあるし、ぜひ山好きの老い先短い父に読ませたい所。文庫解説を、山と渓谷誌元編集長神長幹雄氏が書いてらっしゃるのがまた泣かせる。彼がミステリに相当の理解と洞察を見せてくださったのも最高だ。 また繰り返しっぽくなっちゃうけど、前述の”凝りに凝った構成”に絡まってもしや/まさかと思った性別錯誤云々。。が全くの読者勇み足だったのは。。そりゃあ構わないが、そこだけでなく全くヒネリの無いナニだったのは。。ま個人的には結末良しで全て良いんだけど、またまた繰り返しになりますが、叙述トリックに引っ掛かって愉しみたい人で、且つ山岳ミステリに興味の無い人(私の場合は前者にのみ該当なのでセーフ)には薦められません。本サイトでの低評価(私が採点する直前で平均3.33点!)にも不思議は無し。 |
No.526 | 10点 | ブラウン神父の童心- G・K・チェスタトン | 2016/04/13 01:13 |
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シャーロック・ホームズをビートルズに喩えるとすると
ブラウン神父を喩えるべきはボブ・ディランではないか。 前者は熱狂的ファンが世界中に凄まじい人数いる。 後者は熱狂的ファンの数は限られるかも知れないが 仮に本人が意識していなくとも 根本的なところで影響を受けてしまっているミステリー作家/ロックアーティストの割合が 前者とは比較にならないくらい高いのではないか。 という事に、あるとき思い当りました。 さて、本短篇集、文章の襞と言う襞にミステリの三大栄養素(それは何だ!?)や各種ビタミンやミネラルがびっちりと詰まっています。「ブラウン神父」が「黒死舘」より遥かに多くの新たな推理小説をインスパイアして産み出した事に、流石の乱歩さんも異論ありませんよね? 形の上では新教側、しかし実態は旧教にほど近いイングランド国教会が支配的なかの国での緩やかなマイノリティとして生きるカトリックの神父さん。このスタートラインの立ち位置からして、ただ単に物事を逆さまにするのではない、奥深い逆説言論の濃縮ジュースが今にも噴出しそうで、むずむずして来るではありませんか。 我が旧約聖書。。 ←いい加減なイメージですみません |
No.525 | 10点 | 白夜行- 東野圭吾 | 2016/04/12 05:50 |
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こないにオモロい小説、無いで。。。。。。。。 ジョーが燃え尽き飛雄馬は去るも清張新作まだまだ出る、既に第四次の中東戦争、ジャイアンツ九連覇も長嶋不振、そないな時代、皆の心に何かが起こる予感ですって。。準主役級、重要脇役群多数登場し丁寧に印象深く書き分けられるが、主役の二人だけ一切の直接心理描写を棄てた徹底ハードボイルド文体で描かれる為まるで奥行きある切り絵細工の様に明らかに他から浮かび上がって(時に奥まって)見える、彼らが何を話し合い、お互いをどう思っているのか、一切触れられず。。 苦笑を噛み殺す、か。。泣き声を受け「0から9に変更」やて。。! 桐原はなかなか面白い奴だ、圭吾さんはこういうのが好きなんだろうね、なんて序盤は呑気に構えていたもの。。 主要登場人物(のベアまたは三人以上)が次々に入れ替わるエピソード繋ぎのタペストリーはよく出来たDJセットにも通じる小気味良さだ(元々は連作短篇集だってんだから!)。気付かないうちミステリの毒素にじわじわやられて行く仕組みだナ。 悪知恵実行はピカイチでもいざと言う対人振る舞いは最低のバカが登場、まさかそれすらも故意なのか。。 読後、いや読了ちょぃ前から目に入るもの九割方がこの物語のアナロジーと映って仕方無かった。大阪の刑事が東京風煮込みのうまさを認めるシーン、沁みたねえ。お次は納豆の天ぷらと来た!山手線田町駅近くの大阪風串揚げ屋でも納豆包み串揚げやっとったな。ぐいっと来た台詞「私は誰の敵でもありませんよ。」
セブンイレブン日本上陸一号店、ゲームプログラムにも著作権が必要や、聖子ちゃんカット似おぅとるよ、阪神優勝の年の大阪の物語、バブルか。。 終盤に至るにつれ 時の流れが等比級数ばりに加速しやがる(この長さの小説でやられるとエネルギーの大きさも甚大だ、クソ!)。昔の事件捜査経緯をつらつら語るセミ半七捕物趣向の部分もまた良し。。そして終結部(と言っても全体が長いだけに長い!)で濃縮あらわに本格推理海域へと舵を切る。サムシングってやつがキラキラだ。。これは東野圭吾が松本清張の域に突入した作品ではないのか。「砂のなんとか」を彷彿とさせられずにいらりょうか?だが清張の裏を張って(いや、これは書かないでおこう)。残りページがか細くなっても結末予想が全く落ち着かないこの泡立ち感こそ清張マナーへのオマージュそのものか?そのくせ行方知れずの嫌な予感ドミノ倒しは一部の隙も無いんだぜ?最終ラウンドで初めて顔を見せたまさかのチョイ役がやっぱり、まさかの鍵を握る動きを見せるのか!?あまりにも意外な人物って誰や誰や!!これぁもはや、体感的に大河ドラマやないかーーー(墜落) 悲劇ながらもあっさり済ませたラストはね、いかにも「小説は終わっても登場人物の生活は終わらない(死んだ者を除いて)」という大事なことに意識を向かせるかの様でね、良いと思いますよ。推理クイズもどきの消失トリックを挿んで来るのさえ、哀しい結末と相俟って絶妙な道具遣いになっているしね。 雪穂さん、これからが本番やね。 |
No.524 | 6点 | 結晶世界- J・G・バラード | 2016/04/12 03:15 |
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隠喩の鬼やで。。。。。。
この「重大事」への過渡期の蠱惑的光景は何を目的に延々と書かれたろう?(文章は短いが読むのに時間が掛かる) 例えば日本がこれから速やかに徴兵システム(皆兵ではなく狙い撃ち制?)へ移行するとしたら、やはりその過渡期だけはこれほどまでに観察する人をじっとりと魅惑し麻痺させてしまうのだろうか? そういうことの隠喩にこの物語を引くべきだろうか? 「三つの三角関係」という構図は結晶構造にとって数学的意味を持つか? 幾何学的仄めかしの数々。。「小数点以下第何位と決断と」の看過し切れない関係。「最後の」という言葉が象徴性を匂わせ幾度も使われる物語終盤。。露天商が商売上がったりになった理由。。! そしてこの不思議な別れのラストシーンだ。 たとえば「白夜行」の主役ふたりはこの本を読んでいただろうか。 そういやこの話には「生きる屍の死」を思わせる流れが少し有るが、「死」の意味は違う。。(と言い切れるだろうか) ああ、この物語の奥の深さは、岸田今日子さんにライヴ朗読でもしていただかない限り真髄の理解が難しい作品ということなのかも知れません。個人的に読中面白さに夢中になる類ではないが、読了後一気にずしりと載って来られる作品。忘れられないね。 再読はしたくない。映画を観たい。 |
No.523 | 5点 | 水晶の栓- モーリス・ルブラン | 2016/03/31 23:56 |
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大袈裟に煽るばかりで手に汗は握らないが、敵役どぶろっく、いやドーブレック氏独特の不気味な存在感に引っ張られるサスペンス小説。
例の隠し場所は。。。。 如何にも時代小説がかった(?)場所で別段驚きゃしないんだけど。。 これ実際に目の前で「そこ」から出されたら驚くだろうなあ。 |
No.522 | 6点 | ルパンの告白- モーリス・ルブラン | 2016/03/30 12:30 |
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ジュヴナイルでちょこちょこ読んでたかも知れないが。。 具体的な記憶には無い。 高校ん頃だったか、あらためて創元推理文庫を読んだ時の印象が強い。その印象とは。。ホームズ短篇の面白どころを一通り読み直した後で 「おお、ルパンがホームズみたいな事やってる!」 的な、いい意味でホームズ短篇の質の良い代用品のような。宇多田ヒカルがなかなか新曲出さなかった隙を突いた倉木麻衣のような、サム・クック亡き後のオヴェイションズの様な。まあ流石にホの字さん初期の様なワン&オンリー力は無いけど、詰まらなかったりガッカリさせられたりはしない。やはり、ホの字もそうだが結末のみならず(冒頭はもちろん)途中の色んなところに意外性ってやつがチャキチャキ登場するのが良い(緩い意外性も多いが)。 ロックスター的派手派手しい大個性の探偵役が細切れな事件解決に勤しむ短篇集ってのも乙なもの。 あまり高得点はあげられないけどね、ごめん。 |
No.521 | 7点 | 少女- 湊かなえ | 2016/03/29 12:09 |
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こういうのは無理にミステリと決め付けず行くのがいいよ ふふ〜ん えっ?! って騙されるからね。
キーワードの「因果応報」が似合うもの、とてもそうは言えない理不尽なもの、直接間接、意識無意識、正気狂気(?)、いくつもの痛め付け合いが躍動するストーリーはミステリ枠だからこそゆったり愉しめる暗黒世界。湊さんという人、シャーリー・ジャクスンの嫌嫌煉獄をより強力な(本格めいた)ミステリ興味で糖衣コーティングして、甘く(ミステリっぽく)したぶん嫌ァぁ~な毒性も丁度いいぎりぎりまで上げておきましたよ、いいですね患者さん? みたいな感じがしますよ。それにしても読みやすい。自由律短歌のの分かり易い連なりをすらーっと流され読みする様に高速熟読してしまいました。 【ここよりネタバレの要素芬々】 物語のほぼ中間地点で二手に別れたストーリーが早くも合流してしまうのはオッと思いました。Vでなく、ましてⅡでもなくYの形で行くのね(まさかのXではなかろうな)。。と単純に捉えて済むものでもありませんが。 主人公たる二人(+もう一人?)の少女たちの性格等書き分けが明瞭で無いため、交互に一人称で来られても混乱しがちなのは故意なのか恋なのか。。まるで誰かと誰か(と誰か?)が実は同一人物では?? と無意識に疑わせてるみたいじゃないか。。物語の中にちょっとした入れ替わり趣向があったり、誰と誰が同じ人(及び、何かと何かが同じもの)と明言したり仄めかしたり、そのへんとの合わせ技なのかしら。。 ま、かなり最後の最後まで「あれ、紫織って子の役どころは?登場人物のバランス悪くない??」って不思議に思っちゃってましたからね、やっぱりしっかり騙されたってわけですね。面白いですよ、この人の本。 ちょっと分かりにくいかなって思うのはね、あの親子の「その後」ごく短い間がどうだったかってのと、あの教師が何故「盗作」したのか、っての、この二点についての説明と言うか納得させが生煮えなんじゃないか、ってね。 さほど気にはならないけどさ。 |
No.520 | 4点 | 誰がロビンズ一家を殺したか?- トマス・チャステイン | 2016/03/28 13:14 |
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複雑で難易度高いのはいいけれど、これを当てっこ懸賞でやられても何が何だか五里霧中で萎えること萎えること。もっとチラリズムというか真相(少なくとも真犯人)見えそで見えない際どい所で読者に挑んでくれたらなあ。でもそれだと「正解者の中から抽選で50名様に魚肉ソーセージ半年分プレゼント」みたいになっちゃうからダメだったのか。私もボナンザさんに同じく、今となってはやはり正解篇付きの文庫本が欲しい所ですね。
んで問題文がやっぱり普通の推理小説じゃなくて、長~~い推理クイズ(アメリカによくある「話の長い推理クイズ(ゲーム?)本」の極端なやつみたいな)的風情なのが、単に小説に懸賞付けたのとは違うってのをはっきりさせてていいんだけど、そのやり方がどうも何かしらうざったい。どうせカタルシスもセンスオヴワンダーも無い、ややこしいだけの真相なんじゃないの? って思っちゃってね。 |
No.519 | 6点 | その子を殺すな- ノエル・カレフ | 2016/03/28 11:25 |
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マドンナ・ウナボンバ(いけねえ、爆弾だ)!
ちょいとドタバタなタイムリミット・サスペンス。敵方ギャングを抹殺する為の爆弾を仕掛けたサッカーボールが『運び屋の失態(Échec au porteur ←仏語原題)』により、或る少年が別れた父親(少年は離婚と知らない)からプレゼントされたばかりの大切なボールと入れ替わった!!厄介な事に二つとも同型の新品だ!行く手にはもどかしいすれ違いがいっぱいだ!!四つ昔前のコード型スリラーなのかこれは!?!? 半ばより警察小説の色合いがせっかちながらも濃厚に参戦! 親子の愛情や男の友情物語が無骨ながらも細やかに。造形豊かなちょい役共もよく動き喋り、考えを巡らし勘違いをし、魅力たっぷりだ。。主人公は入れ替わる。だから誰なんだそのスタンって黒幕(?)はよ!? 「自動車競走選手」「片輪者」「キャマンベール(チーズの名)」「ちんばを引く」等々、古きを懐かしむには良い翻訳語もちらほら(新訳は出てるんでしたっけ?)。サッカー攻撃陣のインナーってのはトップ下の事か? 或るおかみさん曰く「(亭主は)あれでもアナーキストだったんですよ」って。。ジョークなのか違うのか気になる台詞。 警官が、恋人の安否を憂うジャクリーヌの耳にいきなり受話器を当てがうシーンも印象深い。 悪ガキがパトカーに乗って夜間のパリ市内を突っ切って行くシーンは本当に楽しそうだ!それも車中じゃ電話による父親の証人訊問が進行中! イチロー主演の古畑任三郎ワンシーンを思わせる病院の場面もあった。 誰やねんジュリアンて。レノンの息子か? 最初からネタバレされてる爆弾ドカンの条件は。。時間でも無けりゃ、高度ならぬ、温度か!そこだけ取りゃ大味な推理クイズのネタにもならあな。しかし結末は。。ブラウン神父の逆説力はスリラー乃至サスペンス方面にも多大なる影響の手を。。ってか? この結末も充分推理クイズっぽいんだけどさ。 物語は本田翼のショートヘアの様にバッサリ終わった。 予想外に不幸な死人も何人が出た。 さようなら、楽しかったよ。 ところで古い創元推理文庫のカバー(白帯+パラフィンの上に紙カバーという過渡期の二重装丁は初見)、日下弘さんのイラスト、仏語/英語で言うfootball(サッカー)じゃなくて米語のfootball(アメフト)の楕円ボールになってますよ!! |
No.518 | 6点 | クロフツ短編集1- F・W・クロフツ | 2016/03/25 02:12 |
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抒情と言ったら大げさ、薄っすら漂う雰囲気が魅力的。そこに倒叙ミステリクイズ的タイムリミット感に後押しされたスリルが噛み合い、通常の短篇集には見られない密かな愉しみを撒き散らす。言ってみりゃきれいな推理クイズ本。シムノン「13の秘密」に通ずる良さがあります。原題’Many a Slip(失敗いっぱい)’なる本国英国での企画短篇集。
床板上の殺人 /上げ潮 /自署 /シャンピニオン・パイ /スーツケース /薬壜 /写真 /ウォータールー、八時十二分発 /冷たい急流 /人道橋 /四時のお茶 /新式セメント /最上階 /フロントガラスこわし /山上の岩 /かくれた目撃者 /ブーメラン /アスピリン /ビング兄弟 /かもめ岩 /無人塔 (創元推理文庫) 真相が明かされてみれば本当にちょっとした、常識の延長の様な解決の話が目立つが、そんな日常感さえ愛おしく味わえる対象になっているのはやはり作者の誠実にして端正な筆運びに依るもの。わたしは最後の二篇「かもめ岩」「無人塔」がその犯罪舞台のうら寂しい仄暗い口数の少ないムードも手伝ってか、特に印象深い。そんな二篇で〆るのがいい。 こういう本こそ何度も読み返しちゃうんだよな。。 |