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斎藤警部さん
平均点: 6.70点 書評数: 1303件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.963 6点 動く標的- ロス・マクドナルド 2020/06/29 12:50
「わたしをロマンチックな気持にさせないでもらいたいな。」
HB的魅力の面では、チャンドラーからシビレの感覚を少し差し引いたようで特筆も出来ないが、それより何気にクリスティ的な、そしてドラマチックな犯人隠匿術にやられる。
「友情のために。質の違う友情のために。」
リュウ・アーチャー、手探りのデビュー作。 個性は薄いが、悪かあない。
「ほかの男の仕事を継いでやってるんだ」 「お父さんの?」 「ほかの男と言っても、若いころの自分自身のことさ。若いころは。。。。」

No.962 6点 銀座殺人事件- 島田一男 2020/06/26 12:14
第三の顔/白い通り魔/血を盗む女/たそがれ慕情/運命の罠/黒い虹/白夜の決闘/銀座殺人事件 (廣済堂文庫)

人情譚と呼ぶには少しばかり熱過ぎる友情の混じる、泣ける話だとか。。 「たそがれ慕情」、「黒い虹」それぞれの自首ホワイダニットはチクショウ堪らなく泣けるなァ。。。。 ジェンダーの微妙な線を突いてくる話もちょっと目立った。 目方は無いが底は深めの、謂わば軽社会派めいた作品も目立つ。 庄司部長刑事(デカチョウ)の味わい深さで勝負あり。

No.961 8点 グリーン・マイル- スティーヴン・キング 2020/06/24 14:10
コロナが世界の中心になる少し前、今年の一月から毎月一冊ペースを崩さず読みました。初めてのキングです。第六巻の折返しあたりから、読了する寂しさの予感が押し寄せて怖くなりました。初めはゆったりと、徐々に展開を速めながらも、余裕たっぷりの巨大な運動エネルギーで旋回し続けるストーリーテリングの力量は流石です。フラッシュバック群と力を張り合うかの様に現れる時折の強烈なフラッシュフォワードで、何事か?!と幻惑させられた後の節々の違和感、それにより増す推進力も素晴らしい。本格推理とは違うがフーダニット的興味もあり。ある種の⚫️⚫️誤認⚫️⚫️トリックが深い感慨をもたらす最終コーナー。ある人物の処刑シーンに前後して他の登場人物のその後の死にざまを冷静に羅列する所にも、深く遠い感慨がある。語り手の妻が或る「作戦会議」に加わり熱弁を振るうシーンは、終結間際のあの回想シーンで、一気に涙を誘う起爆剤に化けましたねえ。。。。 このラスト、わたしには良しの方角を向いていました。○○○○たことはそれだけで素晴らしい。だが締めの一文もまた素晴らしい。 まさか、生きていたとは。。。振り返れば、タイトルの重みが尋常でありません。。。。  “あのときのコーフィは、夕方の沐浴をおえたあとの赤ん坊のように清潔で、さっぱりとしていた。”

No.960 8点 双頭の悪魔- 有栖川有栖 2020/06/18 19:50
悪いことをして、考えられる限りの物的証拠を抹殺し、状況証拠を払拭しても、犯罪を取り巻く大きな場には、目に見えないウィルスのような何かが疎在し、同じく目には見えないロジックという太さの無い糸でそのサムシングが達人の手に拠り正しく紡ぎ合わせられたが最後、悪いことは露見してしまう!それはつまり、スリリングなロジック展開で追い詰められる愉しさ。。。殺人の舞台が二手に分割され片方にはもう片方の状況が分からないという趣向と、だからこそ三度も挿入される「読者への挑戦」、この二つの適度な見栄え、見得切りに刺激されてこその、ロジックの輝き。 天才探偵が事件(A)を解決、凡人探偵群が事件(B)を解決、ところが天才探偵が更に事件(A+B)を解決!という構造も素晴らしい。 たしかに、そのロジックの奥深さ華麗さに較べると、動機ってやつがいまいちドキドキさせてくれない恨みはチラつきますが、、丁度良い緊張感が最後の最後まで持続するんだから、良しとしましょう。 真犯人、現実世界ならともかく、本格ミステリの中で悪魔呼ばわりするほどか?なんて思うけど、二人の先輩が区別付かなかったけど、あほらしい茶番もヘンてなもんだけど、そういう微妙な突きの弱さの諸々が気にならないのは、やはりトリックやプロットの派手さ豪快さではなく、ロジックの精妙さ美しさで勝負している作品であるがゆえでしょうか。 淡い恋愛要素も邪魔をせず、むしろ小説を心地よくしてくれる。江神氏いいねえ。エピローグのさりげなさも素敵。 頭に残る物語全体風景の美しさは、個人的に「獄門島」に近いものがあります。

「月光」「孤島」がまったく響かなかった私ですが、シリーズ第三作「悪魔」はお気に入り。 「ローマ」「オランダ」が響かず(「フランス」はちょっと好き)「ギリシャ」「エジプト」でいきなりガツガツンと来たEQと、個人的にやはり通じるものがあります。 本作の表題、「お主も相当の悪よのう」的な言い草に掛けてあるのかと思ったら、そうでもないみたいですね。 そうそう、本作の真相全体構造(●●殺人に一ひねり半?)はデジタルビジネスの栄え始めた今こそ心に沁みる、その犯罪ビジネスモデルの拡がりの予感に胸が震えるってえもんです。

No.959 7点 アデスタを吹く冷たい風- トマス・フラナガン 2020/06/01 18:00
謂わば金田一さんとは正反対の実力派問題解決職人。事件の真相だけ晒してサヨウナラなんて無意味な事はしませんし出来ません。 しかしだからと言って、仮に彼が老後の世界旅行でジャパンの八ツ墓村を訪れたとしたら、事が連続殺人に発展する前に真犯人を捕縛しただろうかと言うと。。。金田一さんとは全く別の視点から、しばらくは犯人のなすがままに放っておいたかも知れない。そんな危ない懐深さを覗かせる名探偵、それが下記4篇に登場する、地中海に面する東欧某国(地理的にはスロヴェニア、クロアチアあたり?)のテナント少佐なる警察官です。

アデスタを吹く冷たい風 The Cold Winds of Adesta
国の革命史に関わる密輸事件。妙に推理クイズっぽいセコさへの予感もチラツいたけど、最後までシブミは持ち堪えた。 7点

獅子のたてがみ The Lion's Mane
スパイ容疑で、テナントの部下により射殺された医師。。途中から晒される大きな逆説には読者の悪い心を刺激しワクワクさせるものがあるが、最後に明かされる小さな逆説は、、ちょィとギャフンな劣化版ブラウン神父が唐突にお茶を濁したみたいで、どうかなあ。でも真相自体はちょっと凄い、怖いんだ。 6点

良心の問題 The Point of Honor
これぞ逆説。 4篇中では抜群のミステリ深度を感じます。ナチスの亡霊に絡んだ、動機不明の殺人案件がハードに躍動。 8点

国のしきたり The Customs of the Country
奥行きのある密輸トリック顛末に起因し、急襲する激しい暴力と、表裏一体の爽やかな後輩指導、そのシーン展開に打たれる一篇。 “その夜はじめて、テナントは腹の底から、ほがらかな笑い声を立てた。そして、手をのばして、バドランの太い猪首をたたきながら、「大尉」といった。「きみも相当、のみこみのわるい男だな。」” 7点

4篇どれを取っても、テナントと複雑な思いで相対する人物の心理描写が際立っています。 テナントの目的は真相を暴く事には無い、では何処にそれがあるかと言うと、、、 国のため、とは言い切れない。 国への反逆でもない。 人民のため、と言うのはおそらく違う。 自らの保身のため、、もあるだろうがその分量は控えめか。(単純に目的は正義と言ってしまっていいのかも?) 革命前は王政側の大佐で革命後も”党員”ではない片脚義足の強面の狼。 こんな激渋設定の探偵が捌く事件が、時々(ミステリ文脈的に)安易な道に迷いかける微妙さも少しあるが、、とにかく退屈とは無縁の面白さ。‘幻の名作’みたく喧伝されるのを受けて気張って読むことも無いと思うけど、シリーズがこの4作しか無いというのは、相当に惜しまれる!!(パスティーシュでいいから、誰か引き継いで書いてる人いないのか。。) 

以下3篇はノン・シリーズ

もし君が陪審員なら Suppose You Were on the Jury
落語調の掛け合いで進む小噺。 個人的にはグッと来ないダール流儀のオチだが、好きな人も多いでしょう。 6点

うまくいったようだわね This will Do Nicely
同じ小噺ならこっちが味わい深い。 「わたしがこのひとを殺したのも、やはりそういったところに、理由があるのよ」 6点

玉を懐いて罪あり The Fine Italian Hand
これは。。。。沁みる。 ブラウン神父の衣鉢をしっかり継いだ、偉大なる歴史小品。乱暴なようで繊細な外交の駆け引きにも、あの聾唖者尋問の名シーンにも、とにかく痺れました。。 蟷螂の斧さんが伏字で疑問を呈せられた部分、気付きませんでしたが仰る通り。まして相手もあった事ですし。。(実は相手はいなかった可能性も有り?!だとしたら。。) とは言え相手は地域の独裁者、あらゆる可能性は闇の中なのでしょう。。。 最後の大オチは、、全く気付かなかった!!(笑!) 8点

No.958 8点 ゼンダ城の虜- アンソニー・ホープ 2020/05/28 11:50
幼少の頃ジュヴナイル翻訳で拾い読みして数十年ぶりです。 当時、おそらく父が子供のころ買い与えられた既に”黒い本”を譲り受けたもので、「あゝ無情」なんかと一緒に本棚に並んでいたものでした。「とりこ」という不思議な言葉に出遭ったのはこの背表紙だったと思います。あらためて通読してみると、こんなにもカラフルでポジティヴな力に溢れた明るい冒険物語だったのか、と感動。 ストーリーの力点が明瞭に絞り込まれている事もあってか、恋愛や友情、忠義にかかわる直接心理描写がこんなにも濃厚(!)でありながら、展開も文章も実によく締まっており、むしろ’もう少し一服しながらでもいいんだよ~’などと、あまりに早く過ぎ去ってしまう物語の俊足振りを恨みに思うほどです。それだけに終結に押し寄せる、惜しまれる気持ちもひとしおでした。 こんだけやっといて、主人公が実は生来の怠け者(?)って設定も面白い。準主、姫、悪役、脇役、みんな造形が迫る魅力のラインナップ。 クリスティ再読さんおっしゃる様に、ミステリ読者の視界からも漏れて欲しくない、素晴らしく楽しい必読書ですね。 続篇のタイトルロールが本篇のあの名悪役!というのも想像を掻き立ててたまりません。でも律儀に四年後まで待とうかなw 9点に大きく迫る8点です。

No.957 8点 過ぎ行く風はみどり色- 倉知淳 2020/05/22 20:00
この話は好きですよ。 泣けるねえ。 ロジックが整然として小綺麗(探偵がこんななのに!)、だけどトリック実行を考えるとやたら嘘くさかったりバカだったり。。それでも許せちゃう。謂わば逞しき机上の空論。 或る登場人物に纏わる事情と、それに拠った或るトリックについては、早い段階で自然と仮説が立ってしまいましたが、念のため何箇所か読み返してみて、あ、やっぱり違うのか、仄めかしのミスディレクションか。。なんて思ってたもんで、アレが明かされた時はちょっとアンフェアでないかとも感じたが、、それ以上にスッキリした気分になれたので大いに満足。衝撃とは違うけど、つまりソレだったって事はおそらく、或る登場人物を取り巻く未来もああなって来るんだろうなぁって嬉しい予感がキラキラし出して。。。。キラキラ感を醸し出す或るトリックにこそ包み込まれて守られた、それ自体は全然キラキラしてないチャチい◯◯◯◯偽装、という不思議な構造も面白い。 日本人ならではの曖昧なアレか。。。。 脳科学(?)とか、浅草の呑み屋とか、徒労に終わった発掘作業とか。。。。猫丸先輩も話が進むにつれどんどん魅力的になりやがるぜ。そうそう、彼がヤマっ気たっぷりのバイトに精出したりでなかなか現場に現れないってのが、実は。。。。 本作の大トリック成立に、ごく自然ななりで、大きく寄与してるわけですな。。 読み返してみれば、泣かせる伏線も所々にこっそり咲いていたんだなぁ。。’おみやげ’の件とか。。 ←そこのおかげで主人公(?)の存在感がやっと主人公らしくなった(笑)。逆に言うと、この主人公(?)の薄い存在感は読み返してみてやっと浮かび上がる、って事か。奥深いような、単にバランスおかしいだけのような。。。祖父から祖母への深い謝罪の思いの話もストーリーの中でさっぱり拡がらないし。。そうそう、真犯人が主人公(?)に罪をなすり付けようとしてるようにしか見えなかった流れも、パンチの効かない中途半端なダミーでどっかに消えたし。。 一家の大金持ち感はほぼ皆無だし。。 ほんとうに、詰めてないというかバランスおかしい要素が目立ち過ぎ!! 。。。 それでも、冒頭と終結を結ぶ、このまばゆい美しさが全てのアンバランスや不格好さを超えて本篇を感動の一作に仕立て上げたのではなかろうか。チャッカリしてやがらァ。 最後に、江守森江さんの書かれていた 「作品の肝であるトリックは、緑でなく『みどり』と平仮名表記なタイトルに滲ませている。」 。。 こんな泣かせる考えオチ書評がありますか。泣かせる叙述トリックそのものじゃないですか(ぁ言っちゃったか)。。  7.8点相当。

No.956 8点 炎に絵を- 陳舜臣 2020/05/15 19:30
病で死期近い異母兄から..その妻を通じて雪辱を託された..若き日の父の汚名は…..中国辛亥革命の資金横領逃亡!! “遠くから彼をうごかしているものを振りきって、このそば近くにいるものを摑みたい。―――” あの「遺書」、つまりはそういうことかよ。。。殺人犯人はこの『表題』に気付いてないんだよね。。そう思って物語を見渡すと、深いねえ。。。。 悪玉の造形の複雑さに較べ善玉たちが単純に描かれ過ぎの気もするが、まあいいでしょう。このアンバランスな関係は本筋悪事と産業スパイ事件の間にも言えるが、後者も物語を面白く彩ってくれたわけだし、まあいいでしょう。 くすぐりのユーモアも興味を加速。「ああ、つまりムードがあるってことですね」…. それにしても大いなる⚫️⚫️。いくつもの大いなる家族愛。 ただちょっと、看過するに大き過ぎる偶然要素がある。。 “世間というものは、こんなふうにして、なにかかんじんなものを素通りして、都合のよい型のなかへ、すべてを投げ込んでしまう。” ラストでは何とも珍重すべき、良い意味で微妙な気分になりました。 この終わり方、爽やかと感じる人と、暗黒への第一歩と見る人と、分かれるようですね…………

No.955 8点 マクベス- ウィリアム・シェイクスピア 2020/05/10 21:43
「これで悴の鐘は鳴らしました。」  時は戦国、11世紀スコットランド。初期アサル朝を舞台とした、怖ろしく展開の速い殺戮と後悔と復讐の物語。 二つの謎(謎々?)が地味にストーリーを貫通、最後に化ける所はミステリぽい。がミステリそのものではなく、後世のミステリやクライム小説等々に巨大な影を投げ掛けているのであろう小さな巨篇。 流石に深く巧みな修辞と、日本語訳でも伝わる詩情。 戯曲ならではの直接心理排除も殺伐極まりない物語によく合っている。 さて本作、現在の公認史実と比べると、当時の事情(ジェームズ6世絡み)により、大きく捻じ曲げられているようですが。。 これは歴史を学ぶ良い切っ掛けとするが吉。  弾十六さんが教えてくれましたが、思わぬ所でRobert Johnsonつながりだったとは。。本作にも十字路で魂を売り渡したような人物が登場しますね。

No.954 7点 その妻- 明野照葉 2020/05/08 11:36
「馬鹿じゃないの!」 本作の結末を驚きと見るか、驚き無しと見るか。。私は後者。おまけに終盤寄りからツイストレスエンドの嫌な予感に悩んだが、そこ行く迄とその後(終結部)の熱さにヤられた!! “からだの外側にではなく、内側に鳥肌が立ち、怖気が走っているような感じがした。。”  これで本気の反転が最後に隠れてたら相当な。。。 神田さん、蓮花さん、「妹」を始めとする親族たち、会社のおじさん、デザイン業界周り、、何もかもひっくり返す鍵を握れそうな人物がうようよしてるのに、もったいない。。 「馬鹿じゃないの!」 本作は、或る特殊な状況下で離れ離れに暮らす夫婦を廻る、疑惑と怨念と復讐の物語。いや、中心にいたのは本当に彼等か。。。?? 「馬鹿じゃないの!」 この強烈なサスペンスを引き摺ったまま本格ミステリ領域に雪崩れ込んで欲しかったなあ。それでも7点は行く。抜群のリーダビリティです。

No.953 7点 銀座幽霊- 大阪圭吉 2020/05/06 22:00
三狂人 7.3点
奇想熱波の予見の果ては、あらぬ小さな結末へ。だがその奇想の幻こそ、心に刻む。

銀座幽霊 6.2点
濃密な文章の旨みと、してやられるチョィと浅い物理トリック。ドラマチックな種明かしと小癪なオチが連なるエンドはなかなかいい。

寒の夜晴れ 7.6点
足跡トリックは物理心理の両面からなかなか興味津々。そしてこの人情悲劇! 後付けだろうと心を揺さぶる。

燈台鬼 7.1点
この人の海や港の話はいいなあ。アマリア・ロドリゲスが聴きたくなる。創元文庫、初出雑誌の挿絵も良し。大味な大型物理トリックと、深く刺さる人情物語。この二つが恐ろしく噛み合ってないが … 同名の南條範夫人気短篇とは、表題の意味方向からして全く異なる内容です。

動かぬ鯨群 6.5点
湊町の殺人(コロシ)で始まるサスペンス展開が魅力。事の真相、半分は意外豪快だがもう半分は当たり前過ぎるかな。。でもいいさ。

花束の虫 7.8点
ホゥムズ風犯罪暴露譚。乱闘の形跡らしき足跡に秘められた経緯が興味深い。眼前に浮かびあがる岸壁の風景も素晴らしい。やはり圭吉っつぁんは海浜地域の話がいいねえ。圭吉っつぁんにしてはチョィとハッタリ効かせた部分が天晴レなんだが、このハッタリスピリットが物語全体に沁み渡ってたらそれこそ準ホゥムズ級の傑作になってかもなあ。惜しい!

闖入者 5.6点
大胆な心理的物理大トリックが登場するが、物理のほうの大胆な壮大さに比べて心理のほうがちょっと、、イリュージョンでチャンチャカチャンか。色々とバランス悪くてこけるわア。ミステリ要素とは別に、物語風景の美しい部分は心に残る。

白妖 5.8点
ミステリの根幹はチャンチャンもいいとこのズッコケいじわるクイズ(おゝ死語)だが、暗闇情緒と、最後唐突に姿を顕す(申し訳程度の伏線あり)人情余韻はなかなか。

大百貨注文者 3.5点
ずっこけバカミス。この底の浅い真相はほとんど意外な結末の域。物語の締めだけは、多少いい感じ。

人間燈台 8.8点
これほどに胸熱な物理トリックがありますか!! 人情と残酷と物理が奇蹟の三つ巴を形成。 表題が絶妙に際どい半ネタばらしなのも納得。 人情派事件の迸(ほとばし)りを受けてみよ! 最後の台詞も最高に清冽です!

幽霊妻 6.0点
何やら不可能犯罪めいた謎めきのナニは、そこのそれか?! 怪しからんのは自死、ではなくそこに追い込んだ素朴故に厄介な疑いだ!! ずいぶんとギャフンな結末だが、不似合な義憤が溢れ出て仕方無し。

No.952 7点 ウェルズSF傑作集1 タイム・マシン- ハーバート・ジョージ・ウェルズ 2020/05/05 19:15
塀についたドア
美しく愉しそうな楽園の描写が沁みる。寓話的側面は微妙。

奇跡を起こせる男
ドラえもんみたいな無際限お気楽ドタバタ。 オチに至るまで、何もかもドラえもん。 悪くない。

ダイヤモンド製造者
擬随想のようなショートショート。 時代の空気が魅力。

イーピヨルニスの島
寓話風哀しき冒険譚。頗る短い話だが、独特の気が遠くなるよな遠大感がある。

水晶の卵
小宇宙の話と思いきや。。小市民的仄暗さの中に沈んだ宇宙のファンタジーは奇妙に壮大。

タイムマシン
センスオヴワンダーと、勇敢な智恵の中篇。 魁偉なる一品。 何故本作が古くならないのか、小説家でなくとも、考察を巡らしてみる価値が充分にあり。

全体の半分を占める表題作への評価に引っ張られ、この点数。

No.951 9点 盗まれた手紙- エドガー・アラン・ポー 2020/05/03 11:12
隠しのトリックにしても有名な「アレ」ってだけじゃなくリスク回避の念には念が入っているし、捜し出す方だって単に「アレ」に気付いたってだけじゃなく事件解決理論と実践の濃やかなハーモニーが薫ること薫ること。犯人、探偵双方の行状に備わったその冒険性も相俟って(挟まれた演説も猛威を揮う)、誠に読み応えのある知性横溢ミステリに仕上がっています。隠し場所の興味のみならず、手紙の盗まれた経緯の機微がまた素晴らしい。だが探偵の仕掛けた「盗難●●●●●●●●おく」という大トリックとその狙いの効用こそ本作最大の肝でしょうか。いくつもの滋味深い逆説が大に小に交差する絶景の一篇。ブラウン神父の直系尊属にあたる作品ですね。物語の締めがまたグッと来ます。
※弾十六さんの註釈群が凄く良いです。「鍵」の件は私も気になっています。どうも有り難うございました。

No.950 7点 すばらしい新世界- オルダス・ハクスリー 2020/04/28 18:56
「快適さなんて欲しくない。欲しいのは神です。詩です。本物の危険です。自由です。美徳です。そして罪悪です。」

本作のメイントリック(??)、と呼びたくなる安定社会の創造メソッド、これぞ逆転の発想!! 。。。 ところが、事故は起きる。。おかげでこの物語は存在した。。。あれ!? これはシンプルでもナイーヴでもない逆説の物語、いや、むしろ逆説なんかじゃあないんじゃないか!? 個人的に(終結間近までは)ただただエンタメ書として愉しめました。まるで作者の意図を飛び抜けて、本作中の世界統制官共にまんまと誑し込まれたようだ(った)。。。。???  地球社会の基盤がとても二十六世紀中葉に見えずフューチャーノスタルジアに浸れないのは残念だが、そこが却って良い。しかしその頃はデーモン小暮も十万六百歳近くなってるのか、生きてれば。 作者自身も後年語っている様だが、やや若書きというか、”ジョン”や”バーナード”を始め主要登場人物の辿る道にもう少し選択肢の幅の陰影が染み渡っていても良かったかな。そこを犠牲にした代わりに、この重く心を揺らす印象深いラストシーンが生まれたのかも知れないが。。でもそこで天下の奇書になり損ねた、業の深過ぎる涙の書になり損ねた感はある。 “チャリングT”には笑ったがちょっとしつこい。 シェイクの引用やたらに頻繁(表題も)。 ブラッドベリの短篇で、たしかポオの諸作や何やらと並び”禁書”として羅列されてた本ですね。 ジョージ・オーウェルが、上流出身たる著者の教え子だったそうですね、イートン校で。 新型コロナウイルス支配下の世で読むと余計に沁みるような気がする箇所が、いくつもありました。

“沈黙があった。悲しいにもかかわらず ーー いや、悲しいからこそ。というのは、悲しみは三人が互いのことを大事な友達だと思っている証拠だからだ。三人は幸福な気分だった。”

No.949 6点 痛み かたみ 妬み- 小泉喜美子 2020/04/27 18:55
痛み La Peine/かたみ Le Mémento/妬み La Jalousie/セラフィーヌの場合は/切り裂きジャックがやって来る/影とのあいびき (オリジナル短篇集6篇)
またたかない星/兄は復讐する/オレンジ色のアリバイ/ヘア・スタイル殺人事件 (中公文庫増補4篇)

ミステリ、パラミステリ、ファンタジー、サスペンス、奇妙な味、、水増し推理クイズさえ快い。 おっとガチの推理クイズもあった! お洒落で魅力のストーリー展開なんだけど、着地点の地盤がちょっと柔らかい、でもそこがいい、みたいな作が目立つ。 意外性より形式美で勝負の作も際立つ。 読者を、カットバックの手際が予想外の方向へ振り回したり、じんわりするエンディングが暫し包み込んだり。。 本格味のある某作、アレの正体については伏線もしっかりあったんだな。。 増補4篇の内、2篇は露骨にオマケだが、ブラウン神父的味わい深い逆説ものもあったりする。

No.948 4点 QED 百人一首の呪- 高田崇史 2020/04/23 11:30
智恵と知識のバカの妙なる融合暴走!! 革命チックなようで微妙なアリバイ顚末。 犯人像も微妙。 中身も形もバランスおかしい。 文庫の解説陣、ちょっと無理してないか? でも愉しく読めました。 但しそれは久方ぶりに百人一首の歌世界に一気にドバァーと浸らせてくれた恩恵に多くを負う。(百人一首の謎解き自体は、まあまあ)

No.947 7点 D坂の殺人事件- 江戸川乱歩 2020/04/15 18:33
二癈人/D坂の殺人事件/赤い部屋/白昼夢/毒草/火星の運河/お勢登場/虫/石榴(ざくろ)/防空壕  (創元推理文庫)  

道徳ってのは一大事なんだなあと思いが沁みわたる。 道徳律あってこその不道徳ファンタジーでいっぱいの短篇集。 

変格の鬼、乱歩さんの本格力作「石榴」はグッと来る。旅情も効いている。 「虫」の馬鹿に悍ましい展開には初期アシュ・ラ・テンペルがよく似合う。 「表題作」地味ながら堅実。 何度読んでも笑っちゃう「某作」。 どれも読んでも損は無がっぺ。

No.946 6点 数奇にして模型- 森博嗣 2020/04/09 19:55
まず、登場人物表に大きな謎がある。 ●●●、●●●ど●●●●ようだ。

「まあ・・・・・、少し残念」

国枝君の大演説には驚いたが、代わりに恋も冷めたかな。

「ただね、あなたが、それを生き方や人生に密接に関係しているみたいな理由で断ろうとしたから、わたしは反論しているだけなの」

表題の意味が序盤からじわじわ染み込んで、はらはら剥がれ溢れ落ちてくるのが熱い。中盤にはかなりにマブい推進力。 ラス前シーンの、ある人物に ‘時間が無い’ という設定も心地良かった。

“世にも不思議なこの動機は、しかし、他のすべてを掛け合わせた数よりも、はるかに大きな素数で、何ものによっても割り切れなかった”

だが、どうにも拭い切れぬ或る種の気持ち悪さと、折角の真相意外性と真犯人意外性が何だかすれ違って衝撃薄め合っちゃった感じ、この辺がどうにもなあ。原理はなかなか斬新と思えるだけに。。 まあ、面白いミステリですよ。     ← 或ることについてはわざと触れませんでした

「煙草のことですか?」
「煙草のことだ」

エピローグの最後、 アッと思わせておいて、 沁みますねえ。。 

No.945 6点 姫椿- 浅田次郎 2020/03/31 19:18
獬 (xie) /姫椿/再会/マダムの咽仏/トラブル・メーカー/オリンポスの聖女/零下の災厄/永遠の緑   (文春文庫)

日常のトワイライト・ファンタジー8篇。中には”イヤ”だったり厳しいのも混じるが、それもどこか優しい。きれいなパラミステリに触れたい人へ薦めます。

まあでも、日常(?!)の反転物語としていちばんグッと来るのは、中ではちょっと異色の力強さで泣かせる「マダムの咽仏」かな。

No.944 6点 松本清張あらかると- 評論・エッセイ 2020/03/29 11:51
“私たち編集者には、女性に関するなまな感じは絶対見せようとはされなかったですね。きれいごとですまされました”  鼎談篇より

エッセイ調の巻末解説集(+上記鼎談)。その昔阿刀田氏自身が編んだ「松本清張小説セレクション(全36巻)」に書いたもの。評論のSOWには遠くとも、丁寧な語りの積み上げに清張愛がひしひしと。 読んでない作が読みたくなる。
この類の書だから仕方無いが、ときおり妖怪ネタバラシも出没するだでに、注意。  

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.70点   採点数: 1303件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(57)
松本清張(53)
鮎川哲也(50)
佐野洋(39)
島田荘司(36)
西村京太郎(34)
アガサ・クリスティー(34)
島田一男(27)
エラリイ・クイーン(26)
F・W・クロフツ(24)