皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
バードさん |
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平均点: 6.14点 | 書評数: 324件 |
No.204 | 5点 | 幻想運河- 有栖川有栖 | 2020/04/27 15:36 |
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空間的に隔てた大阪、アムステルダム両所で起こったバラバラ死体遺棄事件、という本格色の強そうな本作。当然本格よろしく、探偵役があっと驚く真相を解明するものだと思って読み進めたら、まさかの真相を明示せずに終了。
悪いとは言わないが、「そう来たか」という感じ。 異国の地で暮らす者同士の親しいようで他人事な距離感を描いた一つの物語としては面白かったが、私が有栖川さんに求めているのはこういう話じゃないんだよね。 本作は(私の基準だと)解釈を読者に委ねすぎだと思う。 例えば、 ・遥介の超能力 ・水島の殺害方法(恭司の推理は証拠無し。余談だが恭司が主張したアリバイトリックは上手い手と思えなかった。) ・水島殺害の動機(美鈴の予想だけ) ・美鈴の自殺理由 などである。登場人物の見解が述べられているものもあるが、いずれも予想の域を出ない。もちろんあえて語らないことで物語に深みを出す作戦なのだろうが、全体的にもう少し白黒つけて欲しかった。 |
No.203 | 6点 | 続813- モーリス・ルブラン | 2020/04/22 19:39 |
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『813』の書評を投稿したのが2019/06/08なので、10ヵ月以上空いてしまった。
『813』と同様、訳が古く少し読みにくかった。私が読んだ新潮の第一版は1959年。翻訳家の感性が今と違うのだろう。 本書のストーリーはご都合主義全開のルパン劇場で、ルパンのキャラがはまらない人には退屈な展開が続く。特に七人の盗賊を丸め込むシーンなどは、流石に敵がまぬけすぎる(笑)。 しかし最後にはなんとも渋い展開が待っており、全体としてはメリハリがきいている。 ルパンが特別嫌いじゃなければ、『813』と本書は楽しめるんじゃないかな。 最後に点数に関してだが、『813』よりも一点低い理由はルパン=ルノルマンというネタに比べ本書のサプライズが弱かったから。事件の真犯人は途中で読めたので。 |
No.202 | 6点 | 不連続殺人事件- 坂口安吾 | 2020/04/15 07:00 |
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本書はネタバレくらった上で読んだので書評は簡単に。
角川文庫版の法月さんの解説によると安吾さんが特に重きを置いたのは合理性だそうだ。確かに犯人の行動理由には相当気を使っていたように思える。作者のこだわりがにじみ出ているのは良作の証だろう。 本作の不満点は登場人物一覧が無い事である。これだけ多くの容疑者候補が登場するのなら、ぜひ付けて欲しかった。(多分当時の日本は海外と違い登場人物一覧を付ける文化が無かったのだろうが。) ネタバレ済みに加え一覧不備もあり、碌に考えずに読んだので、犯人を一意に当てられる構造なのかはよく分からない。発表当時には一部読者に対し「犯人当ての挑戦」があったそうだが、直感では別解もありそうな気も・・・、どうでしょう。その内時間が出来たらゆっくり検証してみたいです。 |
No.201 | 5点 | 月館の殺人- 綾辻行人 | 2020/03/29 12:23 |
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(再読シリーズ8)
本屋で見かけ僅かに見覚えがあったので自宅を漁ったら見つかった。たしか館シリーズにはまっていた頃に本書もシリーズ作と誤認して買った。まんまとミスリード狙いのタイトルにひっかけられた迂闊な読者です(笑)。 所有していたことすら忘れていたので、ほぼ初読の感覚での再読。 <以下ネタバレあり> 吹雪で外界と隔離された館に胡散臭いメンバーが集まり連続殺人が起こる、という王道ミステリの構成。ミステリ的ギミックが豊富に盛り込まれており、いかにも「原作:綾辻行人」らしい物語である。 好きなギミックの一例は、 ・読者視点だと一つ目の大きな種明かしである、列車が動いていないと判明するシーン(上巻ラスト) ・現場検証が進み弁護士が疑われる展開(犯人のミスリード役としての機能) である。大した事ないという感想の人もいるかもしれないが、個人的には悪くないミステリだった。 しかし、本書の評価がまずまずなのは「漫画」の命であるキャラクターがイマイチだったからである。 (人気漫画の『名探偵コナン』が完全にキャラクター人気で売っているように、ドラマ、映画、漫画といった視覚からも情報が入る媒体では、登場人物のキャラクター性が小説に比べ重要である。) 本書は主人公、脇役共にキャラ付けが今一つで、例えば容疑者役のテツ共である。こいつら全員質の悪い鉄道オタクというキャラで嫌な感じの奴らなのよ。で、序盤から終盤までこいつらの鉄道オタ悪ノリギャグがちょいちょい挟まれるのだが、嫌な奴のギャグほど寒いものもなく、読んでいて冷める要素だった。そういうギャグを繰り返すなら、なんとなく憎めないキャラ付けをするべきだった。 (綾辻さん原作物だと『Another』のアニメなんかは上手くキャラ付けできていたと思う。) シナリオそのものが悪いのではなく漫画への落とし込みが上手くなかったという印象。 |
No.200 | 3点 | ボトルネック- 米澤穂信 | 2020/03/29 12:20 |
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コンパクトにまとまっておりささっと読めたが、ミステリ、SF、青春物、どれとして読んでも中途半端で、これだという個性が無かった。
肝であるパラレルワールド設定が効果的に働いていない気がする。また、ボトルネックというタームの意味が説明された中盤で想像したまんまのオチで、意外性という点でも物足りなかった。内容もすぐに忘れてしまいそう。 |
No.199 | 8点 | カーテン ポアロ最後の事件- アガサ・クリスティー | 2020/03/27 11:23 |
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シリーズの締めに始まりの地、スタイルズ荘を選ぶとは・・・、ファンのツボを押さえた実に粋な計らいだね。
あの小憎たらしくも溌剌としていたポアロが老いと病で弱っている様子が象徴的だが、全体を通し暗めな雰囲気の本作。ヘイスティングズがポアロの手足となり捜査をするも、Xが巧みに暗躍し事態は好転しない。そして最後は・・・。 非常にやり切れない物語で読み終わってもスカッとしない、がこの構成がシリーズ物の最後特有の喪失感につながっている。作者の計算通りなのだろう。 ミステリ的に好みでない仕掛け(最後の犯人が〇〇〇)もあるが、それらを枝葉の問題に追いやる堂々の完結ではないか。点数は一ミステリとしての出来と、シリーズ最終作としての出来両方を考慮した。 |
No.198 | 3点 | まどろみ消去- 森博嗣 | 2020/03/22 06:55 |
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がっかり。
「一発ネタ思いついたからとりあえず話にした。面白いかどうかは知らん。」 という印象。出来の良いものと悪いものの差が激しく、かつ打率も低かった。 森さんのシリーズを追ってる人でもスルーでよいと感じたので、短編集としての評価は個別の平均からマイナス1。『詩的私的ジャック』、『封印再度』、本書、と3連続で外しており、森作品にトライする気力が低下してる今日この頃(悲)。 <個別の書評> ・虚空の黙禱者(4点) 本短編集の中では地味。特にコメントなし。 ・純白の女(2点) 精神が不安定な女の一人称視点なので、全体的に何を言っているのかが分かりくい。オチも大した事なく悪い意味ですぐ読み終わった。 ・彼女の迷宮(4点) 一つ前の話に比べると筋が分かりやすく読んでいてストレスは無いが、面白くもなかった。むしろ作中作の方をきちんと読みたい。 ・真夜中の悲鳴(5点) 森さんお得意の工学部が舞台の話。工学部の描写に妙なリアリティがあるのは森さんの職業柄当然とはいえ流石です。建物の振動が実験結果にのってしまうのもあるあるで思わず苦笑した。 個人的には読みやすく、本短編集の中では好きな方。 ・やさしい恋人へ僕から(3点) まず、個人的にこの話のようなすかした語り口調が嫌いということもあり、ストーリーの点数は1点。 だが、スバル氏に意識を向けさせて、メインのネタである主人公の性別から意識をそらさせる構成は地味に上手い気がする。だから2点分おまけ。 ・ミステリィ対戦の前夜(4点) 知ってるキャラが出てきて一安心したが、悲しい事に岡部君の原稿はつまらなかった(萌絵と同じ感想)。どうやら私は限定された読者ではなかったようだ。 ・誰もいなくなった(6点) この話は好きですね。 ここまでの話に比べ非常に王道な話で、いい意味でさくさく読めた。 消えた30人のインディアンの謎は、犀川が答えを言う前になんとか正解でき、にんまり。 ただ、作中で萌絵が述べているように、作者のフィルタを通した文章を読むのと実体験には大分差がありそうだ。自分もミステリィツアー参加者側だったら、騙される気しかしないわね。 ・何をするためにきたのか(1点) 初読時:は?意味わからんのだが。 二回目:この話はゲームのフラグやキャラの内面を書いてるのかね? 二回読んだが、ただただ意図が分からない話だった。作者に聞きたい、「何のためにかいたのか」。 ・悩める刑事(8点) 本短編集のマイベスト。シンプルな仕掛けで読者を欺く王道の〇〇トリック。この話で一番のヒントは 「自分は刑事になるか、そうでなければ刑事の妻になる」 という文章です。これは見事な伏線ですね。素晴らしい。 ・心の法則(5点) これも初読時は話の筋がよく分からず、二回読んでなんとなく把握できた。意味が分かると中々面白かった。ジャンルはホラーもので合ってるよね? ・キシマ先生の静かな生活(3+1点) 理解はできるが共感できない話だったので、心情描写で魅せる作品としてはイマイチ。 そもそも、ずっと自分で研究したいのなら大学なんぞに勤めない方がいい。昇進するに従い研究に割ける時間が減るという話は、理工系の者なら誰でも知っていることなので、「キシマ先生可哀想」とはならず、「アホちゃう?」と感じた。 ただ「学問には王道しかない」という言葉には100%同意です。このフレーズに+1です(笑)。 |
No.197 | 5点 | 10分間ミステリー THE BEST- アンソロジー(出版社編) | 2020/03/22 06:52 |
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講談社が出している「自選ショート・ミステリー」と同様のコンセプトの本。収録作の9割が4点(イマイチ)~5点(まぁ楽しめた)の間だった。ショートショートの難しさを考慮すると、6点(楽しめた)超えが少ないのはしょうがない。
本編の他に「このミス」大賞作家50人分の著書一覧がついており、お得感満載。 <4点~5点外の作品書評> 越谷友華 「刑法第四五条」(6点) 普通の小説では、逮捕する、されないのために警察と犯人が攻防を繰り広げるが、本短編では逮捕後の刑期に関する駆け引きをしており、一風変わっていて面白かった。 また、刑法の勉強にもなった。 伽古屋圭市 「記念日」(7点) 主人公が思い出を語る中に潜む罠のスイッチが途中でONに切り替わる。その境目に気付けず自然に騙された。気付いた時には騙されているというのが、質の良い叙述物なんでしょうね。 柊サナカ 「靴磨きジャンの四角い永遠」(6点) タネ明かしで「なるほど、そういうことか!」と腑に落ちる。純粋に話が好き。 塔山郁 「獲物」(3点) 残念ながら本アンソロジーワーストです。 中身が際立って酷いわけではないのだが、タイトルがいかん。このタイトルで素直に女の子が獲物だと思う読者はいないでしょ。書き出しとタイトルでオチまで読めてしまったので、他の作品より評価が低い。もう少し工夫が必要と思う。 影山匙 「脱走者の行方」(8点) 本アンソロジーのマイベスト。これも綺麗に騙された。 タクシー内から交番に場面が移る所に間を入れており、当然読者はそこで何かあったと考える。そういった読者心理を逆手にとった仕掛けがお見事。読後感も良く、総合的にvery good。 <もう一押しあれば6点だった作品> 加藤鉄児「五十六」 拓未司「澄み渡る青空」 篠原昌裕「最低の男」 水田美意子「七月七日に逢いましょう」 堀内公太郎「ゆうしゃのゆううつ」 |
No.196 | 6点 | 孤島の鬼- 江戸川乱歩 | 2020/03/18 00:05 |
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本書は序盤から中盤にかけて雰囲気が大きく変わる。普通(?)の殺人事件の捜査をする『D坂』のような序盤と、中盤以降の冒険もの(横溝さんの『八つ墓村』に近い?)が滑らかにつながる見事な構成で、本書は両雰囲気を一冊で楽しめるお得な作品である。
また、かたわ者や同性愛者といった登場人物達が不気味さを醸し出し、作品に良い味付けをしていた。乱歩さんにこの手の題材を書かせると自然と筆が乗るのか、良い感じ。私が読んだ創元推理文庫には竹中英太郎さんの挿絵があるが、これも不気味さの演出に一役買っていた。 ただし、面白いが手放しに褒められない、というのが本書に対する私の総評だ(理由は後述)。 文庫版の背表紙には、本書が『パノラマ島奇談』や『陰獣』に並ぶ乱歩さんの長編代表作、とあるが、コンパクトな『陰獣』の方が本書よりも好き。(『パノラマ』は未読。) テーマや事件を考えると、7~8点に到達するポテンシャルがあったはずなのだが、惜しい作品という印象。 手放しに褒められない理由 ・大胆な省略がある一方、もったいぶる、回りくどい言い回しが多すぎてテンポが悪い。乱歩さんらしいこれらの文章表現は、短編や小噺では語り手に親しみを覚えさせる表現としてプラスに機能しているが、長編で多用されると、早く言えよ!とイライラ。 ・序盤の殺人事件の真相がしょぼい。(書かれた時代を考慮すると致し方ないですが。) ・ストーリー展開が全体的にご都合主義すぎる。 例えば終盤で「偶然」生きていた徳さんに「都合よく」再会して、おまけに事件の真相まで語ってもらうというのは中々にご都合主義よね。これ以上の列挙はあえてしないが、他にも都合の良すぎる例はあるように思える。 |
No.195 | 9点 | ダ・ヴィンチ・コード- ダン・ブラウン | 2020/03/13 07:35 |
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いや~面白かった。
しつこい蘊蓄、専門知識が無いと解けない暗号、神の視点を持つかの如く機転が利きすぎる登場人物達、と普通ならば低評価の原因になりそうな要素がてんこ盛りなのだが、面白かった。 上記のようないくつかの問題を抱えているにもかかわらず楽しめたのは、扱っている題材(宗教の歴史、絵画、科学など)が自分の趣味とマッチしていたのが大きい。宗教関連のバックグラウンドを知っていればより楽しめたと思うと、そこは悔しいが、それを差し引いても非常に豪華な一品だった。 ただ本作の評価は、あまりにも読者の題材(宗教の歴史、絵画、科学など)への興味に依存しており、趣味が合わない人にはてんでダメだろう。幅広い支持は集めにくいと思うのだが、映画の評判はどうだったのかな? 題材以外での加点ポイントは ・ソニエールの徹底的にダブルミーニングをこさえた暗号 やりすぎ(笑)な気もするが、守っている謎を考慮すればこの難解さも妥当か。また、ダイイングメッセージ以外は急ごしらえの暗号ではないので、凝りすぎでも不自然さは少ない。 ・導師の正体 聖杯の行方に次ぐ本作の肝となる謎。エンタメとしての面白さの大部分はこの謎が担っており、ここで驚けないと本作の評価は辛くなりそう。私は迂闊だったので、見事に裏をかかれましたが、勘のいい人なら当てちゃいそうだな~。これについてはボケっと読んで、素直に驚いた方がいいかも(笑)。 である。 最後に、ラングドンはシリーズキャラクターということを巻末の解説で知ったが、象徴学者というマニアックな設定のキャラで何話も作るのは大変そう。他のも読んでみようかしら。 |
No.194 | 6点 | クビキリサイクル- 西尾維新 | 2020/02/26 11:26 |
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最近、勘(笑)が冴えているのか、事件の表面は途中で看破できた。
(見破れた部分:真犯人&共犯者(Who)、首を切った理由(小さいWhy)、倉庫からの脱出方法(How)) ただし最終パートで明かされる、事件の根幹のWhy部分に対する推理までは読み切れなかった。最終パートが無く、表面的な解決で終わっていたら5点だったが、そこで終わらず裏があったので1点加点。 最後にキャラクターに対する印象であるが、西尾流のキャラ付けは、はっきりと好みが分かれるものと思われる。本作に関しては設定ばかりが先走り描写が薄いという印象で、私の好みではないですねぇ。ただし、キャラが薄いことの副産物か、無駄話や余計な蘊蓄が少なく、全体的に読みやすかった。 |
No.193 | 5点 | 北の夕鶴2/3の殺人- 島田荘司 | 2020/02/22 14:36 |
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吉敷シリーズ3冊目。
島田さんはロープを使った物体輸送トリック好きなのかな?同作者の短編集、『御手洗潔の挨拶』、にもほぼ同じネタがあったので本作は途中でトリックの見当がついた。大がかりだが、力業すぎて綺麗なトリックと思えなかった。 ただ本作の印象と違い、同じトリックでも短編集の方では悪くないと感じた。トリックにも親和性の高い作風、低い作風があるのだなあと痛感。(結局は魅せ方ってことなんですかね?) 勝手に予想しておいて天邪鬼かもしれないが、本作のようにびっくりトリックが売りの作品で予想した答えが正解じゃ面白みが無い。私の想像を超える真相を見たかった。 ストーリーや雰囲気は6点だが、上記のようにメイントリックで肩透かしをくらったので1点減点。 |
No.192 | 6点 | 宝島- 真藤順丈 | 2020/02/19 07:23 |
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1952~1972年(沖縄返還)の沖縄島を舞台にした話で、2019年の直木賞受賞作。
舞台が舞台だけに反戦物かと思いきや、そういった主張を押し付けてくる作品ではなく、戦争直後特有の理不尽な世界に身を置く主人公三人の感情の機微を丁寧に描いた作品である。ただし、終始暗い雰囲気の中で進行するので、描かれる感情は負の感情(喜怒哀楽の怒と哀)の割合が多く、そういう意味で主人公らの感情の起伏が小さい。それに引きずられる形で作品としてもややメリハリに欠けていると思う。 まあ、ほぼ怒と哀に関するイベントだけで一本書き上げた点が評価されたのかもしれないが。 点数の内訳は5(物語) + 1(雰囲気・オリジナリティ) = 6。 本作独自の雰囲気(沖縄訛りの語り口や語り部の正体など)は結構好き。また、少し長いなぁ、とは思ったが減点するほどではないかな。 (共通点はタイトルだけですが、新旧「宝島」対決は旧に軍配です。) |
No.191 | 8点 | 宝島- ロバート・ルイス・スティーヴンソン | 2020/02/19 07:21 |
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本作は宝の地図を手に入れた一団が財宝の隠された島に乗り込み海賊達と宝を奪い合う冒険ものであり、主人公であるジム少年の予期せぬ行動が味方陣営、海賊陣営双方をかき回す。
古い作品であるが、現代視点でも高く評価できる設定とストーリー展開であった。不満な点は少ないが、あえて挙げると、古い本ゆえに意味が分かりにくい古風な言い回しが散見される点である。 ・設定 宝の地図や海賊といった少年心をくすぐるタームが散りばめられており、まるで自分も冒険しているかのようにワクワクさせられる。また、生き残るために最善を尽くし、かつ余計な心理描写がなくさっぱりとしたキャラクター描写も好印象。特に海賊のまとめ役ジョン・シルヴァーのキャラ付けが良い。 ・ストーリー展開 その場その場での各人物の思惑が有機的に絡み合い、流動的な人物関係を形成している。テンポよく敵が味方化、味方が敵化し、先の読めない良質な物語となっている。(この様な面白さは『ドラゴンボール』のナメック星編に通じていると思いました。) 一例としては、ジムとハンズが一時休戦して船を制御した直後に、再び敵対し主導権を取り合う場面が好き。 (共通点はタイトルだけですが、新旧「宝島」対決は旧に軍配です。) |
No.190 | 6点 | 水鏡推理- 松岡圭祐 | 2020/01/31 22:06 |
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文科省のタスクフォースに配属された主人公とヒロインが研究不正を暴き、詐欺師まがいの研究者や役人をとっちめる勧善懲悪物。読んでて冷める程ではないが、実在の組織(文科省や理研など)を舞台にした話にしてはご都合主義すぎる展開と思った。リアリティに重きを置く読者にとっては、嘘くせーと、放り投げたくなる展開かな。
私のように上記の欠点をそれほど気にしないタイプなら、爽やかなキャラ描写と中々に凝った手品の小ネタで十分楽しめるだろう。また、話の構成が基本に忠実で、しっかりと読者の裏をかくよう練ってあり、個人的な加点ポイント。 |
No.189 | 3点 | 僕と先輩のマジカル・ライフ- はやみねかおる | 2020/01/16 19:26 |
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本作の分類はミステリ要素のあるラノベ(と思う)。ラノベの肝は一にも二にもキャラクターだろう。本作のキャラは、流され気質な主人公とぐいぐい来る不思議系ヒロインと突飛な行動ばかりする先輩、というもの。解説の恩田さんによると、当時のすれた読者にはこの配役が新鮮だったそうだ。しかし、言葉は悪いがこの程度では今のすれた読者は見向きもしない。多くの作品が生み出された結果、本作のキャラは使い古されたテンプレとなってしまったからである。つまるところ本作は時の流れに勝てなかった作品である。
ただ、現代視点では低評価だが、15年以上も前にこういったキャラ物を世に出した点は素晴らしい。時代が本作に追いつき、そして追い越したのである。 (個々の話へのコメント) 第一話、第二話は2点。第三話は5点。第四話は4点。 開幕から日常会話が続く一話、二話は非常に退屈で何度かギブアップしそうになった。一方序盤から謎が登場する三話、四話はストーリーで引っ張ってもらえたので、それなり。ENDINGについては、四話の良い話風の締めからコメディ要素を絡めて綺麗に落としており、上手いと思った。 |
No.188 | 4点 | 青の炎- 貴志祐介 | 2020/01/14 17:21 |
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ぐいぐい読ませる貴志さんの筆力は流石だったが、『さまよう刃』や『春にして君を離れ』の書評にも書いたように、やはり読んでて楽しくない小説は苦手よ。本書は最後まで秀一への救いが無く、きつかった。ただ、作者の狙い通り(?)秀一に同情的になっていることを踏まえると、きっといい作品なのだろう。(倒叙物は読みなれていないので、正しく評価できてないかもですが。)
本作で一番好きなシーンは秀一がブリッツ用に電気工作をしてる場面である。自分でモノを作ってるイメージをしながら読んだ。あとがきによると、本作の殺人法は確実に失敗するらしいのだが、何が問題なのだろう?200Vもかかれば普通人間は死にますがね。そこが一番興味深い。ちなみに100V位は案外大丈夫でした(実体験)。ただ、『ミステリーを科学したら』の中で由良さんも嘆いていたが、殺人法を実験するわけにもいかんしな~(笑)。 |
No.187 | 8点 | グリーン家殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2020/01/12 18:49 |
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古き良きミステリで面白かった。個人的にこのプロットで共犯に逃げていない点は高評価。(結果的に杞憂だったが、第三の事件でおいおい共犯か?と眉をひそめました(笑)。)
本作は途中で真犯人が何となく分かった。犯人って何かしら自分の都合の良いように物語を動かそうとするから不自然な言動や行動が増えがちよね。今回の犯人もレックスの証言に後からのっかった件しかり、夫人の脚の件しかりと、各所で墓穴を掘ってるし。 解決編の前にほぼ全ての謎の見当は付けられたが、凶器の消失に雪が絡んでいたのは思い至らなかった。雪は単に足跡ギミック用と思っていたので・・・。 |
No.186 | 6点 | シャーロック・ホームズの帰還- アーサー・コナン・ドイル | 2020/01/12 18:38 |
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がちがちのロジックを期待して読んだ結果、『冒険』では肩透かしをくらったので、本作は初めからホームズのキャラクター小説として読んだ。そのおかげか『冒険』よりも楽しめた。『帰還』>『冒険』という趣味嗜好は本サイトの平均点(2020/1/12時点)とは逆ですが、個人の嗜好なのであしからず。
延原謙さんの解説には『六つのナポレオン』と『金縁の鼻眼鏡』の二編が人気とあるが、これには私も同感である。(自分にはホームズ物を読むセンスがないと思われるので、この一致には一安心。)また、上記の二作品以外だと『踊る人形』と『第二の汚点』が面白かった。 各短編の平均は5.5点だが、出来のよい二作品が後半にあり、飽きを感じにくい良い構成と思ったので短編集としては6点。 各話の書評 ・空家の冒険(5点) 事件そのものよりも、ホームズの復活が重要な話。復活の仕方は今の作家がやったらぶっ叩かれそうな後出し方式で、作者の苦闘を感じさせる。こんな無理やりな復活劇を書かされた作者にゃ同情の念も沸くので1点おまけ。 ・踊る人形(6点) ホームズと暗号ものは相性いいのかもと思った。 暗号を解くにあたっては膨大なデータベースとひらめきが重要と思うが、ホームズはこの二つを備えているので瞬時に暗号を解いても違和感がないからである。そういったシナジーもあり、この話は面白かった。 (延原謙さんの解説によると人形の暗号にはドイルの転記ミスがあるようだが、自分は暗号ものを真面目に考えずに読むので、言われるまで気が付かなかった。) ・美しき自転車乗り(5点) ・プライオリ学校(5点) ・黒ピーター(5点) これら3つはコメント無し。良いとも悪いとも思わなかった。 ・犯人は二人(4点) なんの工夫も無く単に忍び込んだだけ。つまらなかった。 ・六つのナポレオン(7点) 犯人が何かを探しているという話の腰が『冒険』の『青いガーネット』に似ている。明るい所で像の破壊を行った理由は納得できたし、犯人が探し物をしていることの伏線としてもシンプルで上手いと思う。 ・金縁の鼻眼鏡(8点) 実行犯が教授の部屋から現れるというサプライズを決めつつ、唐突感がですぎないよう伏線が張ってある。眼鏡を失ったら細い草の上を歩けないという推理には非常に説得力があるし、ホームズの捜査も意図が明快で読んでてストレスが無かった。非常に出来が良いと思った。 ・アベ農園(4点) 犯人が真相を語った後で、ホームズが犯人特定にいたった材料(船員特有の紐の結び方など)を開示するので後出し感が強い。伏線を事前に張っていた『金縁の鼻眼鏡』に比べると書き方が下手かと。話の内容は嫌いじゃないですが。 ・第二の汚点(6点) 法律を超えた自分の正義を持っているホームズのキャラが好き。 事件の解決を含めストーリーが面白かったので6点。 |
No.185 | 9点 | 赤い指- 東野圭吾 | 2020/01/05 09:58 |
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メインの仕掛けは同作者の『容疑者x』に似ている。
本書と『x』とを比べると互いに勝っている点(以下参照)があり、総合的な出来は互角と感じた。本書の人間ドラマに心を打たれたので、私個人は本書の方が好き。ということで、『x』よりも一点高い、9点とする。 ・本書が勝っている点 1 : 殺人事件そのものを強引にすり替えた『x』に対し、本書では犯人だけを置き換えるので、ほぼ無理がない。仕掛けはシンプルなほど良いというのが、私の信条なので、本書の仕掛けの方がhighレベルと思いました。 2 : 家庭内の憎愛がテーマなので、万人が感情移入しやすい。一方、『x』の犯人の愛は共感できない人も多そう。 ・『容疑者x』が勝っている点 1 : 『x』は、仕掛けの種を最後まで隠す構造なので、真相解明で大きな衝撃を読者に残せる。本書の展開ではそういう効果は期待できない。 2 : 物理トリックでごり押しする作風のガリレオシリーズで、毛色の違うトリックを披露した点。一方加賀シリーズでは、本書の発売当時、既に『悪意』などが世に出ており、本書ぐらいの仕掛けに対しては耐性のある読者も多かっただろう。 |