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いいちこさん
平均点: 5.67点 書評数: 541件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.20 6点 透明人間の納屋- 島田荘司 2021/11/16 20:16
これはテーマの選定と、プロットの構築力の勝利だろう。
本格ミステリとしては至ってチープであるにもかかわらず、サプライズを演出している。
こども向けミステリーとして執筆していること自体が、一種のレッドへリングとして機能している点に至っては、見事と言わざるを得ない。
これだけ内角高めのストレートを投げられると、外角低めに切れるスライダーを打つのは難しい。
小品であるがゆえに、これ以上の評価は難しいが、著者の類まれな力量が光る、一読の価値がある佳作

No.19 4点 天に昇った男- 島田荘司 2019/11/03 20:05
1個の物語を構成し、読ませる筆力はあるものの、ラストシーンには愕然とした。
変化球でゴマカシてはいるものの、その本質は夢オチそのものではないか。
読後に本作の全体像を俯瞰すれば、結局ファンタジーの枠組みを借りた死刑廃止論文でしかなく、この評価が妥当と思料

No.18 6点 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 2018/09/05 09:32
提示された謎の不可解性、(フーダニットの要素は皆無なので)ハウダニットの意外性、その論理的な解明プロセス等、著者の本格ミステリの基本がしっかり抑えられた作品。
一方、犯行計画自体は非常に綱渡りで難易度が高く、そのフィージビリティは大いに疑問。
真相解明の決定打となった鉄道運行に関する犯人の不知も、これほど緻密な計画を策定した犯人像に照らして違和感が拭えず、現地警察の捜査で判明しなかったというのも無理筋に近い印象。
また、最終盤の犯人への罠も、あれほど鮮やかに犯人が騙されるかというと疑問が残る。
以上、骨格は堅牢であるが、細部の甘さを減算してこの評価

No.17 6点 火刑都市- 島田荘司 2018/01/25 14:48
評論家が必ず著者の代表作の一つに挙げ、著者自身もそれを自認し、自画自賛している一方、市井のファンからは、「一定の評価はするものの、奇想天外なトリックがなく、犯人の動機を構成する主題に納得できず、サスペンスも弱い中途半端な作品」と評されることの多い本作。
一連の犯行の不可解性と、そこに秘められた謎(=本作の主題)、それを盛りあげるストーリーテリングの妙(改稿を重ねた全集を読了したからかもしれないが)は高く評価するものの、本作の主題が本件犯行動機に成り得るか、仮に成ったとして本件犯行のような態様を取るか、という点には疑問を感じた。
ご都合主義的な登場人物の配置や、その魅力の乏しさも減点材料であり、この評価

No.16 6点 毒を売る女- 島田荘司 2017/09/22 19:44
サスペンス作品の揃った短編集。
本格長編のような壮大なプロットと驚愕のトリックはないものの、サスペンスフルな展開と意外性に満ちた真相が光っている。
小粒ではあるものの、一読の価値のある佳作

No.15 3点 龍臥亭事件- 島田荘司 2017/07/03 16:18
ミステリとしてはご都合主義を超えて、もはや空想的と呼ぶべきレベル。
津山事件の描写には、作者の高い筆力が反映され、日本論・日本人論として見るべき部分もあるのだが、参考文献を無批判にコピーしているとも考えられ、作者の作品として評価することはできない。
また、本作の性格に照らして、ボリュームが多すぎるのも大きな難点。
以上、作品として読ませる部分もあるのだが、その評価は批判的にならざるを得ない

No.14 6点 死者が飲む水- 島田荘司 2016/12/06 18:55
犯行プロセスのあざとさや偶然性の介入、人物造形の弱さ等に難を感じるところだが、メイントリックが相応のサプライズを演出しているのは確かでこの評価

No.13 3点 眩暈- 島田荘司 2016/08/29 19:09
冒頭に提示される謎の不可解性・不可能性は相変わらず抜群で、傑作を予感させるのだが、肝心の真相解明でその予感が見事に裏切られた。
明かされた真相は決してアンフェアではないのだが、登場人物の不可解極まる行動や、必然性のない異様な偶然の集積でしかなく、言葉を選ばずに言えば「作者による強引な辻褄あわせ」とさえ感じる。
肝心のメイントリックは、作品中盤以前に明らかにされ、しかもそのヒントが露骨すぎるために、解明されるまでもなく察せてしまう。
その後、膨大な紙幅を費やして解明されるのは、作品の本質から言えば枝葉・ディテールであり、読者が作品冒頭のテンションを維持することは難しい。
作者の高い力量を認めるが故に酷評しているが、「暗闇坂」以降、文字どおり坂を下っていく作者の低迷期を象徴している作品

No.12 6点 御手洗潔の挨拶- 島田荘司 2016/03/03 14:20
「紫電改研究保存会」が残す抒情感、「ギリシャの犬」における暗号の合理性の高さが見どころ。
「疾走する死者」はメイントリック自体が長編作品で複数回使用したトリックの使い回し、かつ使用方法で明らかに見劣りする点で強く推せない。
「数字錠」では確率に関する欺瞞が目を覆うレベルで、数学の素養が乏しいのかと思わざるを得ない。
いずれの作品も本格としての骨格はやや脆弱で、長編に比してかなり小粒な印象だが、作品の完成度・水準のブレは小さく、確かな力量を垣間見せた

No.11 5点 切り裂きジャック・百年の孤独- 島田荘司 2016/01/13 17:02
(以下ネタバレあります)
1世紀の時を隔てたロンドンとベルリンを往復しながら、真相を解明するプロットは、傑作「写楽 閉じた国の幻」を想起させるが、真相の衝撃度や合理性、犯行のフィージビリティの点などで遠く及んでいない。
本件原因を猟奇殺人以外に求める立場であれば、5人の連続殺人が立て続けに発生し、それで殺人がストップしたことから、「怨恨」に辿り着くのはそう困難なことではない。
次に、5人もの娼婦が殺害され、性的暴行の痕跡が皆無であるとしたら、犯人が女性であることは当然想定される真相であり、警察がそれを全く顧慮しなかったとは考え難い(「ハサミ男」と同様)。
死体が切開されている理由も、猟奇殺人でないのであれば、現実の犯罪ではともかく、ミステリの世界では真っ先に疑うべき真相である。
こうした意外性に乏しい真相に対し、一方では意外性を演出するため平々凡々とした犯人像を選択したため、その動機の納得性や犯行経緯の合理性に疑問が残り、手際の異様な洗練とのギャップも激しい。
死体によって損壊の度合いが大きく相違する点も、単に犯行が露見しそうだったためという褒められない結論。
一方で、犯行動機や犯人の人物像に対する掘り下げも弱く、サスペンスとしての盛り上がりもいま一つ。
題材の選択や目の付け所が興味深く、5点の評価としたが、ワンアイデアに賭けた作品でありながら、そのアイデアが弱く、これ以上の評価は付けられない

No.10 6点 涙流れるままに- 島田荘司 2015/09/11 19:14
(以下ネタバレを含みます)
ヒロイン通子の半生を丹念に描きたい、冤罪事件の惨禍を描き出すことで持論である死刑制度廃止を広く世間に訴えたい、吉敷と通子に幸せになってもらいたい、という想いありきの作品で、本格部分のコアは極めて小さく添え物程度。
シリーズ集大成の位置付けから、ハッピーエンドが半ば既定路線として推測されるなか、本格ミステリとしての伏線が予定調和的に回収される様は、エンターテインメントとして面白みや緊迫感に欠けると言わざるを得ない。
以下は個人的な好みの問題ではあるが、通子の半生はあまりにもショッキングで悲劇的ではあるものの、本人が長年にわたって真実に向き合わず常に逃げ回ってきた、どうしようもない意思の弱さが招いた、文字どおり自業自得とも言えるもので、自らの職を賭して冤罪事件の解決に挑み、通子の問題を悩み抜きながらも、これさえも解決に向けて手を差し伸べた吉敷の高潔さ・意思の強さ・責任感を考えると、2人が何事もなかったかのように結ばれる結末には違和感。
また、警察の吉敷に対する処遇も、気持ちはわかるがあまりにも荒唐無稽で、警察に懲戒解雇されながらも民衆のヒーローとして、親子3人天橋立でひっそりと暮らす結末が相応しいように思う。
作者のほとばしるような想いと筆力を鑑みてこの評価

No.9 6点 ネジ式ザゼツキー- 島田荘司 2015/04/03 11:20
本格ミステリとしての核は小粒であり、かつ強引さとアラが目立つので5点の評価。
ただ、冒頭に示される謎(タンジール蜜柑共和国への帰還)の壮大さ・不可解性と、それを生々しいリアルな犯罪に落とし込むプロット、物語世界に力強く引き込んでいく求心力の強いストーリーテリング、島田作品に特有の不幸な境遇に翻弄されながら懸命に生きる登場人物の生き様に好感。
以上、本格ミステリとしては評価し辛いものの、読物としての抒情性を買ってこの評価。
キライな作風ではないのだが、著者に求めているものはこれではない。

No.8 6点 写楽 閉じた国の幻- 島田荘司 2014/08/11 18:46
読了した当時、本作が指摘した東洲斎写楽の正体が著者独自のアイデアであると誤認し、プロットには顕著な破綻が見られるものの、その奇想は突出していると極めて高く評価した。
しかし、それは私の勉強不足であり、その真相には多数の前例があることを知った。
それをふまえて、再度本作を評価するならば、着眼点以外に評価すべき点がなく、プロットの破綻ばかりが目に着く印象。
本題に無関係の導入部が延々と続き、肝心の重要な伏線が回収されず、それを後書きで紙幅が足りなかったとエクスキューズしている点。
現代編だけで読者を説得できる材料が十分に整っていたにもかかわらず、蛇足と言うべき江戸編が存在している点。
読書時点で前例があることを知っていれば、さらに評価が低くなったであろうことは明白だが、読了当時の興奮を考慮して6点とする
数多い読了作品のなかで、とりわけ評価が難しく、ほろ苦い印象の残る作品となった

No.7 4点 漱石と倫敦ミイラ殺人事件- 島田荘司 2012/05/03 19:42
ミステリとしては小粒なうえに大味な内容で評価に値しない。
ただ本作はジュヴェナイル向け本格ミステリとして総ルビ版で出版された点でも明らかなように、若き日の作者の稚気を楽しむべき作品だろう。
ホームズを愛する人なら一読の価値がある。

No.6 3点 暗闇坂の人喰いの木- 島田荘司 2012/02/24 19:31
御手洗シリーズを書きたいと思いながらも、社会派トラベルミステリ全盛の時代ゆえに心ならずも吉敷シリーズを書かざるを得なかった作者が、約9年ぶりに書き下ろした御手洗長編と聞いていた。
それがこれだとしたらファンとしてあまりにも残念。
島荘の作品だからハードルを上げた訳ではなく、公正に評価してこの点数であり、正直言ってスコットランド編以外は評価に値しなかった。
島荘中期作品の世評を残念な意味で裏付ける作品。
未読の方は「占星術」「斜め屋敷」「異邦」の後は「北の夕鶴」に向かうべきだろう。
(以下ネタバレを含みます)
プロットとボリュームだけを膨らませた「北の夕鶴」の劣化版と断ぜざるを得ない。
メイントリックは完全に同作からの借用。
しかも同作で物理的に不可能との指摘を受けたからか、実現可能性を高めるためにトリックを複雑化させたことで衝撃は希薄化し大きく劣化した。
2つの殺人の奇怪な状況をすべて●●で片付け、地下室との奇妙な一致についても何ら説明しないなど、論理的解決を放棄している。
さらに第2の殺人における犯人の犯行経緯・状況(特に死体運搬と遺書)は全く説明がつかないもので荒唐無稽と言わざるを得ない

No.5 8点 北の夕鶴2/3の殺人- 島田荘司 2012/01/03 16:11
序盤に示される大きな謎と徐々に明らかになる不可能犯罪。
義経伝説、夜鳴き石、鎧武者、心霊写真等、これでもかと提示されるいかにもなガジェット。
これらのプロットを奇想天外な大技トリックで一刀両断にするカタルシス。
島田荘司の方程式どおりに描かれた渾身の王道本格ミステリだろう。
メイントリックの物理的可能性は彼なら許容範囲だし、それを問題にさせない強烈なインパクトがある。
制限時間がもたらすサスペンスフルな筆致と、切ないラブロマンスも作品に華を添えていて素晴らしい。

No.4 10点 占星術殺人事件- 島田荘司 2011/12/28 20:31
某作品によるネタバレを理由とした低評価も散見されるが、本作に帰責する訳ではない。
とすれば主たる瑕疵は最序盤(手記)のリーダビリティの低さと、中盤の的外れな捜査の中だるみだろうか?
それでも冒頭に示されるアゾート幻想がミスディレクションとして強烈に機能。
散発的に起こる連続殺人に対し、先が見えない捜査がもたらす閉塞感が却ってリーダビリティを支える。
ラストに明かされるシンプルでエレガントなメイントリックがもたらす説得力、衝撃度は古今無双。
壮大かつ緻密なプロットを完璧に昇華させる極上のカタルシスは別格中の別格。
本格ミステリ界の金字塔的作品

No.3 7点 異邦の騎士- 島田荘司 2011/12/27 19:42
みなさんのご指摘どおり。
ミステリとしては強引さと無理が目立ち水準程度のデキ。
しかし恋愛小説として他にない強い感動を残す。
島田荘司はこんな作品も書けるのか・・・
立技でも寝技でも超一流の作者の凄みを感じた

No.2 7点 奇想、天を動かす- 島田荘司 2011/12/25 11:07
本格と社会派の融合的作品。
本格部分は剛腕島田の真骨頂とも言うべき物理系大技トリック炸裂。
毎度毎度こんなことが思いつく筆者に感心しきりだが、多少の無理を感じなくもない。
一方、社会派部分は主張の当否はともかく、運命に翻弄された主人公の数奇な人生に感慨深く読ませるものがあった

No.1 7点 斜め屋敷の犯罪- 島田荘司 2011/12/23 08:37
プロットやストーリーは水準レベルだが、数ある著作の中でも代表格というべきアクロバティックなメイントリックが傑出。
伏線も張られておりフェアな仕掛けであるが、それ以上に実現可能性を問題にしない豪腕が光る。
これだけで一読の価値がある

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いいちこさん
ひとこと
評価にあたっては真相とトリックの意外性・納得性を最重視しつつ、プロットの構想力・完成度、犯行のフィージビリティ・合理性に重点を置いています。
採点結果が平均6.0点前後となるよう意識して採点するととも...
好きな作家
東野圭吾、麻耶雄嵩、京極夏彦、倉知淳、奥田英朗。次点として島田荘司、有栖川有栖、法...
採点傾向
平均点: 5.67点   採点数: 541件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(31)
麻耶雄嵩(21)
島田荘司(20)
奥田英朗(15)
宮部みゆき(15)
倉知淳(15)
京極夏彦(14)
有栖川有栖(13)
アガサ・クリスティー(13)
東川篤哉(11)