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HORNETさん
平均点: 6.30点 書評数: 1063件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.18 7点 網走発遙かなり- 島田荘司 2024/02/25 19:30
 このたび刊行された完全改訂版。
 連作短編として共通した登場人物が出てくるとはいえ、それぞれが独立した一編であり、作品の毛色も違う。どの作品も、昭和の香りが色濃く出ており、興趣をそそった。
 経済的成功者と平凡な家庭を隔てる格差から武器な老人の話へと展開する「丘の上」、都会の喧騒にまぎれて怪しげに動き回るピエロの動きから謎解きが始まる「化石の街」、乱歩に耽溺した女性の行き過ぎた詮索が疑惑をもたらす「乱歩の幻影」、四十年前に殺された父の真相に迫るタイトル作。
 本当に、四者四様の面白さで、非常にお得な短編集だと感じる。 

No.17 5点 ローズマリーのあまき香り- 島田荘司 2023/08/14 20:45
 1977年10月、世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。しかも殺されたのはニューヨークで行われていた講演の2幕と3幕の間、それなのに殺されたはずのクレスパンは最終幕まで舞台で踊っていたと、観客みんなが証言した。「クレスパンだからこそ、死後も最後まで踊り続けたのだ」―まことしやかな伝説と化しながら事件の真相が分からないまま時は過ぎ、20年後。世紀の謎は、名探偵・御手洗潔の手に委ねられた―

 7年ぶりの御手洗シリーズ、そりゃとりあえず読む。謎の不可能度は高く、謎解きへの期待はかなり高まるが、一方で不要な挿話が多く、御手洗登場までも長い。つまり不必要に長い。
 作風は同氏「摩天楼の怪人」を彷彿とさせる。ただ「この不可能にしか見えない状況がどんな『驚愕の』仕掛けによって解き明かされるのか?」という膨らむ期待に応えるものとしては、真相はイマイチだったかもしれない。
 とはいえ、氏の代名詞ともいえる「御手洗シリーズ」の長編を書き続けていることにはうれしさを感じる。可能な限り続けてほしい。どのみち絶対読む。

No.16 5点 鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース- 島田荘司 2019/04/07 17:06
 錦天満宮の鳥居が両側の建物に刺さっていることから思いついたネタを小説にした、という感じだろう。科学的な知識はないながら、なんとなく漠然と思い描いていた真相だった。
 もともと短編だったものを長編にリライトしたものなので、話としてそれほどの厚みは感じない。よく言えば読み易く、すぐに読了できる。
 ミステリ以上に、工場の従業員国丸と、幼い少女・楓のつながりが胸に刺さる話だった。そういう意味ではイイ話だった。

No.15 5点 摩天楼の怪人- 島田荘司 2018/11/25 18:26
 往年の大女優、ジョディ・サリナスが死に際に御手洗に残した謎。サリナスの女優としての成功譚は、その道を阻む邪魔者を排除する「ファントム」によって支えられ続けてきたのだという。さらに、数十年前に起きたプロデューサーの銃殺事件の犯人は自分だという。しかし、犯行のあった夜は停電中でエレベーターは動かなかった。1階のプロデューサーを殺害するには、30階以上上に住むジョディには階段で昇り降りするしかないが、ジョディのアリバイの空白は10分ほど。挑戦的にその謎を突き付け、ジョディは天に昇って行った―

 そこに住むブロードウェイ関係者が次々に殺されていく高層タワーマンション。ビル中のガラスが割れ、その時に転落死した建築家。そして、ジョディの不可能犯罪と、これでもかと不可思議な事件のオンパレードで、その解決はいかに図られるのか、期待と若干の不安をもって読み進めたが・・・結末は、「悪くはないけど目から鱗というほどでもない」といった感じ。
 事件の真犯人については「そうきたか」という思いはあったが、種々のトリックは、発想の面白さは認めるけどやはり「飛び道具」の感が強く、種明かしをされてもうなずくしかない。
 またこれまでの書評にもあるように、途中にあった「地下帝国」の話は何だったのか?伏線にするつもりで書いていたけど捨てたのか?最後まで何の関りもなく終わってしまって、非常に不思議だった。

No.14 5点 UFO大通り- 島田荘司 2018/11/12 21:27
 印象に残ったのはタイトル作よりむしろ「傘を折る女」の方だった。
 ラジオに投稿された不思議な女性の話。「ある雨の夜、ベランダから外を見ていたら、白いワンピースの女性が横断歩道に傘を置いて車に踏ませて折り、もと来た方へ帰っていった」。このエピソードを聞いた御手洗潔が、安楽椅子探偵よろしくその事情を推理し、ひいては殺人事件の真相を看破する。
 謎めいた冒頭に魅かれ、謎の女性側で描かれる事件の描写はスリリングで、単純に楽しんで読めた。傘を折ったあとのエピソードとそこからの御手洗の推理はちょっと偶然と一足飛びが過ぎる感はあるが、面白いのでまぁよい。

 表題作「UFO大通り」はもっと現実離れしてる感じだった。

No.13 7点 龍臥亭事件- 島田荘司 2014/11/09 10:13
 御手洗潔シリーズでありながら、探偵役は石岡がやり、御手洗はほとんど登場しない、というスタイルはファンとして面白いものだった。(京極夏彦「百鬼夜行シリーズ」で関口が探偵役になるような感じ?)
 「津山三十人殺し」を題材に扱った作品では横溝正史の「八つ墓村」が有名だが、あちらよりもこっちの方が事件そのものに色濃く関わってきている印象。読んでいくほどに不気味で陰惨な雰囲気が高まっていき、長い話だったが飽くことなく読み進められた。
(ネタバレ要素含む)
 トリック、真相についてはアクロバット的な印象だが、「斜め屋敷」でもそうだったので、こうした大胆な構えはミステリの世界ならではだと思い、私は嫌いではない。次々と人が死んでいき、長い話の中でどんどん謎が積み上げられていってしまうのだが、事もなく平坦に過ぎる部分はほとんどないという意味で楽しかった。石岡からの手紙だけで真相を看破する御手洗は、いくらなんでも天才すぎると思ったが。

No.12 7点 星籠の海- 島田荘司 2014/04/27 07:38
 御手洗潔シリーズがちゃんと新しく刊行されることにまず感激。ただ、これが最後のなのか…?
 初めの登場から30年(?)を経過し、御手洗も次第に時代に順応し、「変人」感が和らいできているような印象を受ける。が、常人には理解できない、一足飛びに結論にたどり着く推理は健在で、往年のファンにとっては「待ってました」という感じだろう。
 瀬戸内海の小島に次々と漂着する全裸死体の謎から、カルト宗教団体の陰謀に迫るというストーリーだが、複線的な物語が最後に一つに結び付いていく展開の妙はさすが。歴史ミステリも絡めながら、壮大な構想をここまで形にできることも、やはりさすが。
 事件に関わる謎が最後に解き明かされるという形ではないので、ミステリとしての魅力よりも、複雑に絡み合う諸要素が一つの筋につながっていく面白さの方が強い。上下に分かれた厚みのある作品だが、リーダビリティは高く、飽くことなく一気に読み進めることができる。

No.11 4点 アルカトラズ幻想- 島田荘司 2012/12/23 19:14
 猟奇的な事件から始まり、冒頭の章はかなり引き込まれたが、それは裏を返せばこの事件に関しての真相解明を期待してのこと。2章、3章と物語がまったく別の方向に行くことに、不安とわずかな期待をこめて読み進めたが・・・という感じ。
 確かに、本編とは直接関係がないけれども第2章の論文は普通に面白かった。しかし、「写楽」ではそれが謎解きの核心にかかわるものであったのに対し、本作品ではそれはただの薀蓄だった。もっといえば、題名から見ても3章、4章&エピローグだけで十分一物語として成立する。逆に言えば、1・2章は不要。というより、1章を読んで読み進める以上、まるで関係ない方向に話が展開している3章・4章も、最後はそこ(1章)に立ち戻るという期待を込めて読んでしまう。それが見事に裏切られた。3・4章だけであったらそれなりに満足ができたかもしれないが、1章から読んでいると非常に消化不良な読後感であった。

No.10 7点 異邦の騎士- 島田荘司 2012/03/25 07:26
 「本当はそういうことじゃないんだろう・・・」とまでは思ってはいたが,「そういうことだったとまでは分からなかった」。真相が分かり,安堵する思いと,なんとなく悔やまれる思いがない交ぜに。ミステリの仕掛け,ヒューマンドラマ両面から評価できる傑作。ちょっと都合よすぎる点もあり差し引いたが,全体の面白さ,読後感のよさからこの評価。

No.9 5点 ゴーグル男の怪- 島田荘司 2012/01/04 19:31
殺人事件の周辺に見え隠れする、ゴーグルをして町を疾走する謎の男・・・という、怪奇小説といってもいいような設定は、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズみたいな雰囲気。(表紙の絵もそんな感じ)もともとはTV番組の企画で作られたものを加筆修正したらしいので、そういう仰々しい、絵的にインパクトのあるものにしたのかな。
 さまざまな登場人物の思惑や過去が倒錯する展開は、それなりに読み応えがあって面白かった。結末は一抹の消化不良感が残らないこともないが。

No.8 6点 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 2011/09/18 22:08
 吉敷竹史シリーズ。山陰地方を走る6つのローカル線と大阪駅に、流れ着いた女性のバラバラ死体が。なぜか首はついに発見されなかった・・・。
 犯人は作中でほぼ確定し、路線・時刻のトリックを解明するハウダニット。とはいえ、時刻表のややこしさを単純化する配慮が要所になされ、割とややこしくて面倒臭いという感じはなく読み進められた。
 「天才肌の名探偵」御手洗潔と対照的な、地道で泥臭い吉敷竹史のキャラクターがよく出ている。よって、ストーリーの展開もまさに地道な捜査をそのままなぞるようだが、それが分かりやすい。トリックの妙もさることながら、犯人をあぶり出す最後の過程も趣向が凝らされていて、メイン以外にも謎解きが楽しめる作品と言える。

No.7 10点 写楽 閉じた国の幻- 島田荘司 2011/03/20 15:31
 久しぶりの10点満点。
寛政6年に彗星のごとく現れ,その年の内に姿を消した謎の浮世絵師,東洲斎写楽。その正体についてはこれまで多くの研究者が諸説を唱えてきたが,それらとは全く異なった推理が本書で展開される。
 氏としても初の長編歴史ミステリであったと思うが,私自身も読むのは初めてだった。しかも江戸時代の浮世絵文化という,ほとんど自分には知識のないジャンルが舞台とされているので,はじめは及び腰でもあったが,読み進めるうちに謎にどんどん引き込まれていった。作品で,写楽や歌麿の描き方について説明されているくだりがあるが,実際に見てみたいと,図書館で浮世絵や写楽の本まで借りて,夢中で読んだ。
 述べたように,浮世絵文化や研究史に知識はないので,この島田氏の推理しか知らないわけで,これまでの諸説と比較することは出来ないが,少なくとも史実や文献に基づいた推理は非常に説得力を感じさせるとともに,見事なまでに一本につながっていくさまは,何か背筋が震える感じさえした。
 虚構ではない,史実の謎を追う楽しみと,自分の見聞が広がっていく楽しみを存分に味わえた。

No.6 5点 ら抜き言葉殺人事件- 島田荘司 2011/01/16 08:56
 作家・因幡沼の「ら抜き言葉」にクレームを付けていた女性笹森が自殺と見られる状況で死に,因幡沼の刺殺体も発見。吉敷竹史が地道な捜査によりその真相を解明するフーダニットミステリです。
 吉敷竹史シリーズは初めて読みましたが,天才肌の御手洗潔とはまた違った泥臭い魅力があっていいですね。

No.5 7点 御手洗潔の挨拶- 島田荘司 2011/01/16 08:52
 一つ一つの短編がよく練られており,御手洗潔シリーズのショートストーリーを楽しむには最適です。「疾走する死者」は「読者への挑戦状」もあり,しかもそれが解けたので楽しめました。隅田川での捕り物を描いた「ギリシャの犬」も暗号解読を主体にしていて面白かったです。

No.4 6点 死者が飲む水- 島田荘司 2011/01/10 20:23
 一介の刑事・牛越が,トランクで贈られてきたバラバラ死体殺人事件の謎に挑む。ご丁寧に,捜査が空回りしている段階も全て描かれていて,退屈といえば退屈でしたが,現実味があるといえばそうともいえます。またそれにより,牛越刑事の愚直さが描かれていると考えれば,物語として無駄な部分とは感じませんでした。

No.3 9点 斜め屋敷の犯罪- 島田荘司 2011/01/10 20:17
<ネタバレの要素あり>
 トリックとしてはすごいというかバカバカしいというか・・・ですが,この発想がすごいと私は思います。タイトルが秀逸という他の方の意見にも同感です。ところで,本当にこのトリックは現実的にうまくいくのでしょうか・・・?
 ただ,トリックの仕掛けの部分は,読んでいるときから「何か匂うな」とは思っていました。
 何かのイベントで,この屋敷の模型が披露されたそうで。是非見てみたかったです。

No.2 7点 Pの密室- 島田荘司 2011/01/10 20:12
 御手洗潔を知っているか,知っていないかで評価が分かれる作品だと思います。ということは,言い換えれば純粋にミステリ要素での評価はそれほど・・・ということでしょうか。私は島田荘司および御手洗潔が好きですので,その幼少期の話というだけで面白く読めました。こんな園児がいたら怖いですけど。
 コナンみたいでした。・・・ところで「Pの密室」のPは何なのでしょうか。「ピタゴラス」?

No.1 10点 占星術殺人事件- 島田荘司 2011/01/08 21:05
 推理小説界で一度しか使えない空前絶後のトリック。島田荘司の独創力・頭脳にただただ脱帽。早く読み進めたいはやる思いを,御手洗のペダンティズム,奇異な行動に妨げられた感じもしますが,それを差し引いても最高傑作!さすが島田荘司です。

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HORNETさん
ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.30点   採点数: 1063件
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