皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1163件 |
No.203 | 7点 | 館島- 東川篤哉 | 2012/06/03 18:50 |
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※ ネタバレ気味注意!!
作者らしいユーモアタッチでありながら、推理の過程や手がかりの散逸具合など秀逸で、ミステリとして上質な作品と感じる。メイントリックはバカミスともいえるものだが、個人的にこういうのは好き。島田荘司の某有名長編ミステリを彷彿とさせる。 登場人物のキャラクター等は相変わらずだが、作者の違う一面が見られる作品とも言える。 |
No.202 | 6点 | 山魔の如き嗤うもの- 三津田信三 | 2012/06/03 18:40 |
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忌み山と言われる金山をめぐる揖取(かじとり)家と鍛炭(かすみ)家の対立がもとで、六地蔵の童謡に見立てた連続殺人が起こる、という本シリーズらしい雰囲気は期待に応えるもの。ラスト前に、消去される推理も全て丁寧に論じられ二転三転するのもお決まりのパターン。その、どんでん返しにつぐどんでん返しも十分に楽しめた。
ただ、本作は特にあまりにもご都合主義的なきらいがあった。犯人のたどった道筋も、あまりにも危なすぎるのではないか(逆に言えば偶然に助けられすぎではないか)とも感じる。トリックや仕掛けの面で現実離れしているのは、こうした探偵小説的な本格ミステリではむしろ歓迎だが、偶然要素が現実離れしているのは、読者に対してある意味アンフェアな気がしないでもない。 |
No.201 | 5点 | はやく名探偵になりたい- 東川篤哉 | 2012/04/30 09:42 |
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ここまでの書評(2012/4/30現在)が全部「5点」なのが一番分かりやすくこの作品評を示していると思う。まぁ、格段よいわけでもないが、楽しむことはできる。烏賊川市の私立探偵鵜飼杜夫と、弟子の戸村流平のドタバタコンビが活躍する、とても作者らしいユーモアミステリシリーズ。肩の力を抜いて楽しんで読める。「七つのビールケース」などは、仕掛けとしてもなかなかのものだった。一作目「藤枝邸の完全なる密室」は「何だそりゃ」と笑ってしまうが、こういうのこそが作者の持ち味といえる。 |
No.200 | 9点 | 幻の女- ウィリアム・アイリッシュ | 2012/04/30 09:35 |
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以前から本棚にあったのだが、ずっと放置していた物をやっと読んだ。感想は、「不朽の名作」といわれる評価に納得。確かに、時代を感じさせる大味な所はあるが、そんなことは気にならない。息つく暇もない展開、巧みな筆致、高いリーダビリティ、40年近く前に書かれたものなのに今でも全く色褪せない。期待させておいて振り出しに戻ることのくり返しで、やきもきする感もあったが、それがラストの仕掛けをより引き立たせた。「幻の女」の正体は(作品としての評価とは別にして)、自分は明かされたほうがスッキリするタイプ。 |
No.199 | 8点 | ビブリア古書堂の事件手帖2- 三上延 | 2012/04/30 09:15 |
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面白さは前作から全く色褪せず。微妙に進展していく主人公と栞子の関係、そこに登場する主人公の元カノ、ベールに包まれた栞子の家庭事情など、自然な流れで物語が展開し、その中に謎が散りばめられている。どれも精緻な仕組みになっているうえに、心温まる要素も盛り込まれていてよい(特に元カノの家庭の話がよかった)。
ただ、栞子の母親の話は・・・・かな。 |
No.198 | 8点 | ビブリア古書堂の事件手帖- 三上延 | 2012/04/30 09:03 |
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古書にまつわる、それにかかわる人たちの謎を、古書堂店主・篠川栞子が安楽椅子探偵ばりに解き明かしていく。一冊の本ごとに一つの謎解きが展開され、最後には栞子自身にかかわる大きな謎が解き明かされる。
ミステリとしても秀逸な上に、栞子の口から語られる古書の薀蓄も面白い。文句なしにライト・ミステリの傑作。 |
No.197 | 6点 | 犯罪- フェルディナント・フォン・シーラッハ | 2012/04/30 08:49 |
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いわゆるミステリの短編集とはちょっと違う毛色。多様な犯罪事例を、いろんな立場から描いた小噺集といった趣。無駄な装飾がなく、淡々と事実が描かれている文章展開がリーダビリティを高めている。肩に力を入れず読みはじめ、そして引き込まれて読んでしまう。時間を置いて再読しても、また楽しめそうな作品集。 |
No.196 | 5点 | チヨ子- 宮部みゆき | 2012/04/30 08:35 |
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ミステリではなくホラーファンタジー。1作目の「雪娘」が中でも一番ミステリらしかったか。これまで単行本に収録されなかった短編を寄せ集めたものにも感じる。まぁ面白さは作品による。この「雪娘」「いしまくら」あたりがよかった。表題作「チヨ子」はイマイチ。 |
No.195 | 8点 | ブラウン神父の童心- G・K・チェスタトン | 2012/03/25 07:53 |
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トリックがメインに据えられたミステリ通好みの短編集。書かれた時代もあって,科学的なものや変に込み入ったものはなく,純粋に人の裏をかくようなトリック主体でその点も好ましい。また,そうした時代を考慮に入れると,ミステリについては浅学な私でもこの作品の歴史的価値は十分に感じる。「見えない男」などは,その考え方は,後のミステリで手を変え品を変え用いられたものになるだろう。
そうした「歴史的な価値」ということを抜きにしても,現代でも十分に楽しめ,改めて作品の質の高さを感じさせられる。文調も海外翻訳物としては,むしろ読みやすいと感じる。チェスタトンのミステリ界での名声に納得する一冊となった。 |
No.194 | 7点 | 異邦の騎士- 島田荘司 | 2012/03/25 07:26 |
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「本当はそういうことじゃないんだろう・・・」とまでは思ってはいたが,「そういうことだったとまでは分からなかった」。真相が分かり,安堵する思いと,なんとなく悔やまれる思いがない交ぜに。ミステリの仕掛け,ヒューマンドラマ両面から評価できる傑作。ちょっと都合よすぎる点もあり差し引いたが,全体の面白さ,読後感のよさからこの評価。 |
No.193 | 8点 | ジェノサイド- 高野和明 | 2012/03/25 07:13 |
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新薬研究者であった亡き父の研究を引き継いだ(というか手渡された)大学院生が,その研究にまい進するうちに,それがコンゴ紛争地帯での秘密作戦,合衆国政治,そして人類存続の問題にまでつながっていく。ネットを介したリアルタイムの戦場とのやりとり,国を越えた人々の熱いつながりなど,いろんな側面から存分に楽しめる。
主人公と,李正勲とが協力して困難に立ち向かう姿がいい。世界規模のスケールの大きな舞台と,それを描く精緻な構成,作者の作品にかける意気込みが見事に昇華している。読後感◎。 |
No.192 | 5点 | 消失グラデーション- 長沢樹 | 2012/03/25 06:44 |
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女子バスケ部員がクラブ棟の屋上から転落し、その後姿を消してしまう。事故か自殺か殺人か・・・背後には、女子バスケ部員である被害者と部員との確執が。学園に侵入する窃盗犯「ヒカル」の話も伏線としてうまく絡められている。
学校という身近な舞台と,登場人物のキャラクター,軽妙な筆致で苦なく読み進められる。が,作者の仕掛けが,事件の真相とはあまり関係ない気もする。そういう点で,騙された感はあるものの,ミステリとしての評価はそこそこ。 |
No.191 | 6点 | 長い廊下がある家- 有栖川有栖 | 2012/03/25 06:35 |
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表題作のトリックは読めた。雰囲気のある作品で,中篇程度の長さもちょうどよい。「ロジカル・デスゲーム」が,偶然にも読む前日にその類のパズルをやっていて,「こんな偶然もあるんだな」と読みながら笑ってしまった。そのことを差し引いても面白い短編だった。
全体的に氏の作品としては水準作。 |
No.190 | 7点 | ユリゴコロ- 沼田まほかる | 2012/02/11 11:29 |
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幾人もの人を殺めた過去が告白された「ユリゴコロ」と題される手記を発見した主人公が、亡くなった母のものではと探っていくうちに、さまざまな真相が見えてくるという話。
手記の内容が衝撃的で、主人公とともに興味をもって読み進めてしまう。たどり着いた真相は、予想しえるものではあったが、現在のストーリーともうまく絡めてあって面白い。手記の内容からはノワールの要素が強いかと思っていたが、結末に近付くにつれハートフルな要素が色濃くなっていき、読後感も良好、いい意味で裏切られる展開だった。 |
No.189 | 6点 | 鍵のかかった部屋- 貴志祐介 | 2012/02/11 08:59 |
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密室ものを集めた作品集。「佇む男」は分かった。表題作「鍵のかかった部屋」「歪んだ箱」は奇抜で込み入ったトリックという感もあるが、面白いアイデアともいえる。「密室劇場」は完全なお笑い。自分はこれが一番面白かった。 |
No.188 | 4点 | オーダーメイド殺人クラブ- 辻村深月 | 2012/01/29 11:06 |
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クラスのヒエラルキー内で、「リア充女子」のアンと、「昆虫系男子」の徳川。どこを立ち位置として自分を保っていくか、そのために乗り越えなければいけない女子の陰湿な権力闘争。そういうリアルな中学生の現実がよく伝わり、臨場感もあって面白い。が、その中で生きていくのか、それを超越したいのか、中途半端な主人公にだんだんとやきもき(イライラ)してくる上に、肝心のオーダーメイド殺人も結局は・・・って感じでラストに消化不良の思いが残った。ミステリと言うよりはブラックな青春小説という感じ。 |
No.187 | 7点 | 毒入りチョコレート事件- アントニイ・バークリー | 2012/01/29 10:46 |
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チョコレートによる婦人毒殺事件の真相を、「犯罪研究会」のメンバー6人が順に推理する。それぞれの推理がまさに六者六様で楽しませてくれる。物語全体が事件の謎解きに終始しており、無駄のない文章であることも読み進めるにあたって心地よかった。
「理論的推理小説」と銘打ってあるように、6人のメンバーが順に推理を開陳することで、フーダニットのロジック品評会のような様相を呈しているため、ロジックを楽しむタイプの読者にも好まれるのでは。 そのロジックは、「こういうことをするのは・・・な人だ」的な、多分に主観的な要素もあるが(例えば3人目の発表者・ブラッドレーが挙げた犯人の条件など顕著である)、物理的・客観的な視点でそれらの難点を指摘することは、こういう古典作品にはそぐわない。彼らのいわば「プロファイリング」を受け入れたり、時には疑問を抱いたりしながら、味わうことに楽しみがある。主人公のロジャー・シェリンガムが4番目で、それさえも覆されていく展開に作者の独創性も感じ、今読んでも十分に楽しめる一冊だと思う。 |
No.186 | 7点 | 真夏の方程式- 東野圭吾 | 2012/01/22 07:48 |
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それなりによくできた話だと思うのだが、採点を見てもさほど高評価でないのは、作者に対する期待が大きいからだろう。ミステリの出来としては並か、よくて中の上程度だと思うが、湯川と恭平少年のやりとり、心温まるつながりが色づけされている点で物語の味わいが増した。少年との別れの場面で、湯川が少年に伝えた一言に素直に感動した。学者然とした難解な物言いが小学生によく理解できるな、という無粋な感想はこの際置いておこう。
個人的には、成実に思いを寄せる男たちの結末も多少気になった。ミステリとしては、関係者の過去を探っていく段階がちょっとうまくいきすぎな感じもしたが、かといってそこで右往左往するさまを描いても無駄に長くなるだけなので納得する。 |
No.185 | 10点 | 本格ミステリ・フラッシュバック- 事典・ガイド | 2012/01/22 07:25 |
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町の図書館で、背表紙の「ミステリ」という言葉が目に留まって借りてみたら、どうしても手元に置いておきたくなり、その後購入した。本格衰退期と言われる、清張の「点と線」から綾辻「十角館の殺人」までの期間にあえてスポットをあて、埋もれた名作を掘り起こすという趣旨がよい。変に編者の嗜好を反映させず、マニア好みの本格作家から多作の売れっ子作家まで幅広く取り上げている点も、自分の嗜好でその中からつまみ食いができてありがたい。
その年に発刊されたもののランキング本、作家が自身の好みで選定したガイド本、ミステリ史に残る名作を挙げたガイド本などと一線を画す本書の存在意義は大きい。最近の話題作からミステリにめざめ、これから過去の作品を読んでいこうという人にもその道標になるだろう。私も、このサイトに次いで貴重な読書案内を得た思いである。 |
No.184 | 6点 | 死にぞこないの青- 乙一 | 2012/01/22 06:13 |
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いじめが生まれていく過程、その描写が妙にリアルで、読んでいて目が離せない。大学生と変わらないような若くてガキっぽい担任教師、はじめ人気があったが次第に評判を落としていく様子、その教師の意図的な個人攻撃にのっかる生徒たちなど、ありそうで怖い。単純で短いストーリーなのであっという間に読めるし、それなりに楽しめる。手元に読む本が尽きたときなどにオススメ。 |