皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.33点 | 書評数: 1174件 |
No.274 | 5点 | レーン最後の事件- エラリイ・クイーン | 2014/01/04 01:08 |
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うーーーーーーーん……ビミョーな読後感……。
まず、リーダビリティは高い。この四部作、作が進むごとに読みやすくなっている気がする。これは一気に読めた。他の翻訳物に比べて、登場人物が多くないのが要因として大きい。あと、一本の筋を追い続けるシンプルな展開なのもその理由かな。 ただ、読み終えて全てが分かると、推理が足踏みしている部分が不要に長い。まぁ事件も進行しているわけだから時制的には適当なのかもしれないけど……引っ張った結果、後出しの(今さら)〇子とか(しかも推理や捜査からでなく、サム警視の指示による当局捜査の結果)、失踪していた警備員がただ発見されただけとか、その長さに応え得るような伏線の回収には感じられなかった。 (ここからは勘のいい方にはネタバレになります) そして肝心の犯人ははっきり言って全く意外でなかった。むしろ予想通りでしかも嫌。ペイシェンスが目覚まし時計のおかしさに気づいたのに、周囲にそれを明かさず胸にしまった時点で何となく分かってきたし、彼女が不安定になって失踪したことでほぼ確信に変わった。だいたい、本の帯に「前3作はこのために書かれた」なんて謳っているのもよくないよ。この無責任な宣伝文句、四部作の中で一つだけテイストが違う題名、「意外な犯人」というキーワードで予測できてしまうし。 そしてその終わり方が、「嫌」。読み進めるのは面白かったし、四部作としてよく構成されたと思うけど、結末が悲しいというより「嫌」だった。 |
No.273 | 8点 | ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン | 2014/01/01 13:02 |
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前評判や序文から、「若かりし日のエラリイの失敗談」ということはわかって読んでいたが、にしても面白かった。廃案になる第一の推理にしてもそれ単体でよく仕組まれていて面白いし、二転三転する以降はさらにクオリティが増す感じ。長編とはいえ、そういった意味では何本ものストーリーが味わえているようで、なんか得した気分だった。
タイプライターの論理はさすがに我々には分からないし、空さん、miniさんご指摘のように色盲の論理は根本的に間違っているなど、気になる点もあるが、その筋書きというか組み立てが精緻で「さすが」。クイーンが最も脂ののっていた時期の力作というのを実感する。 これを読むまでは「エジプト十字架」が一番好きだったが、大きくそれを越えた感じがした。 |
No.272 | 6点 | 宰領- 今野敏 | 2013/12/28 12:21 |
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竜崎らしさ全開のシリーズ第5作。縦社会の警察機構で、処世術に奔走する周囲に惑わされず、原理原則を貫く竜崎の生き方が作品の魅力。だからミステリ要素は二の次、三の次かな。
今回は国会議員の誘拐。政治的要素が絡むとますます対応がややこしくなる警察機構で、その中をうまく立ち回ろうとする同期で幼馴染の伊丹、神奈川県警の幹部たち。そうした姿勢を「理解できない」とする竜崎はある意味「天然」ですらあると感じるが、結局そんな竜崎の姿勢に周りも感化されていくというお決まりのパターン。が、お決まりと分かっていても読んでいて胸がすく。勧善懲悪の時代劇に近いものがあるかな。 とにかく読みやすい、面白いは間違いない。このシリーズは今後も必ず読みたい。 |
No.271 | 8点 | 読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100 - 事典・ガイド | 2013/12/28 12:05 |
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書評家・杉江松恋が、一九〇〇年代から現代までの海外ミステリおいて必読の一〇〇冊を挙げ、「あらすじ」「鑑賞術」「さらに興味をもった読者へ」といった項目で一冊ずつ紹介していくガイド本。
必読といってもそこはさすが書評家、「この人と言えばこの作品」というような、スタンダードな作品の羅列ではない、玄人らしい作品の選出である。 一言でいえば、「玄人好みの作品を、初心者向けに紹介した本」といえるだろうか。 だから、例えば海外古典に興味をもち始め、クリスティでいえば「そして誰も…」や「アクロイド」、ヴァン・ダインなら「僧正…」「グリーン」、クイーンなら国名シリーズなど、一般的に有名な作品(いわゆるベタなところ)から手を付けはじめた人で、「次はどんなものを…」と思う人には非常に有用なものになるのではないかと思う。 巻末30ページほどにまとめられている第二部「さらに楽しい読書のすすめ」も、その趣旨は百冊に取り上げなかった名作の紹介だが、ポーから始まるミステリの系譜が簡単におさらいできて、そういう意味でも上記のような人に向いていると思う(まぁ自分がそうなのだが)。 カバンか何かに携帯していて、時間のある時にチョイチョイ読んでは楽しめる、お買い得な文庫本。 |
No.270 | 5点 | このミステリーがすごい!2014年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2013/12/28 11:41 |
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法月綸太郎は好きだし、この作品もまぁ面白いのだが、これが1位になるというのは、今年は不作だったか…というのが正直な感想。「私のベスト6」のコーナーが結構好きで、特にミステリ作家を輩出している京大ミス研のランキングがいつも気になるのだが、以前は一般のランキングと全く違う独特の選出だったのに、その毛色がなくなってきて面白くなくなってきた。
巻末の海堂尊の特別抄録は面白いが、最新作の切り売り(?)なのか、おいしい気もするしとって付けたような感じもする。 まぁでもワンコインで買えることを考えると買って損はないかな。 |
No.269 | 8点 | 代官山コールドケース- 佐々木譲 | 2013/11/11 20:13 |
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17年前に起きた代官山アパート女性殺害事件。当時被害者の恋人であった男が水死体で発見され、被疑者死亡で解決されたことになっていた。しかし、時を経て起きた強姦殺人で、この代官山事件の被害者の部屋に残っていたDNAと同じDNAが検出された。17年前の捜査は誤りだったのか?解決したとして処理されているこの事件を公的に再捜査することはできず、極秘指令として捜査を命ぜられる水戸部。当時の関係者に聞き込みを進めていくうちに、被害者の新たな人間関係が見えてくる―。
関係者を順に聞き込み、そこから探り出した人間関係をしらみつぶしにあたっていく。新たに明らかになる事実と、再検証する証拠を照らし合わせて組み立てられていく推理。主人公水戸部と組むことになった女性捜査官朝香、親友の科捜研中島らの有能ぶりにも快哉。派手さはないが、地に足の着いた推理が進んでいく様子は、十分に読みごたえがあり、非常に佐々木譲らしい作品である。 |
No.268 | 6点 | 水族館の殺人- 青崎有吾 | 2013/11/11 19:58 |
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キャラ立てされた登場人物によるコミカルな展開の中に、しっかりとしたロジックが組み込まれている内容は健在。殺人のシーンは非常に残酷・劇場的で、一時の海外古典のような事件の幕開けもよかった。
ただ精緻なロジックが氏の真骨頂なのは間違いないが、個人的にはここまでなくてもいい。現場の状況や些細な違和感を一つ一つ解決していく、裏染天馬の推理の克明な描写が軸となっているのだが、その長さの割には真相に意外性がない。一つの事件を解決するプロセスなら、もうすこし精選して短編、中編ぐらいでもいいと思う。このシリーズの短編とか出てほしい。 |
No.267 | 5点 | 堕天使拷問刑- 飛鳥部勝則 | 2013/11/11 19:39 |
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衝撃的・劇場的な冒頭で惹きつけられ、矢継ぎ早に繰り出される謎でずっと引っ張られる。そんな感じだった。オカルトな要素が、「まさか『Another』みたいな感じ?」と疑わせたが、そうではなかったのでまぁよかった。現実と虚構が入り混じったような不思議な雰囲気だったが、たまにはこういうのも悪くはないかな。ただ、トリックはちょっと無理がありすぎという感想。 |
No.266 | 5点 | 教場- 長岡弘樹 | 2013/11/11 19:26 |
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数年前に読んだ「傍聞き」がとても印象に残っていたので期待して読んだ。警察学校を舞台としたシリーズ短編。さまざまな思惑が交錯する警察学校生同士の関わり、駆け引き。その中で一喜一憂し、生き残りのために格闘する学校生たちだが、最後にそのすべてを見透かしていた風間教官に気づかされる―。
こうした設定やシリーズ短編集という形が、柳広司の「ジョーカーゲーム」とイメージが重なる。だから知らず知らずのうちに比較してしまう。たぶん人間としてはこっちの風間教官のほうが好き。でも、突き抜けた超人ぶりや、舌を巻く仕掛けという点ではもう少しという印象だった。 |
No.265 | 8点 | ある閉ざされた雪の山荘で- 東野圭吾 | 2013/11/11 19:12 |
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個人的にはこのころの東野作品は大好き。ヒューマンドラマの要素も色濃く入ってくる最近の作風もそれはそれで好きだが、ミステリ的な挑戦色の濃いこうした作品は本格ミステリファンの嗜好にぴったりだと思う。
タイトルからしてそそりますね。そしてその期待通り。中途半端に現実的になるより、思い切った虚構でミステリの面白さを追求しているところがいい。またこういう作品書いてくれないかなぁ。 |
No.264 | 8点 | 死神の浮力- 伊坂幸太郎 | 2013/11/11 18:13 |
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(ネタバレというか結果示唆的要素アリ)
伊坂作品の中でも人に一番勧めたのが「死神の精度」。その続編、しかも長編が出るとは・・・ 人間の死にクールな態度で接する死神・千葉。のはずなのだが、結果的にとっても温かい処置を施しているという前作からのスタイルは健在。「グラスホッパー」「マリアビートル」のように、基本勧善懲悪のスタンスの小気味よさ、痛快さにもその千葉のキャラが大いに寄与している。 娘を殺した憎き犯人に復讐を企てる夫婦に関与する千葉。人情のかけらもない、サイコパスともいえる犯人の、狡猾で余裕たっぷりの態度にイラつくストレスを、最後に完膚なきまでにすっきりさせてくれる。 シリーズとして続けてくれることを望む。 |
No.263 | 6点 | 論理爆弾- 有栖川有栖 | 2013/11/11 18:05 |
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ミステリというよりはサスペンスの要素が強いという各方面の書評通り。もともとロジカルなフーダニットに作者の魅力を感じてファンになったので、新境地の開拓よりももともとの路線を望んでしまう。
ただ、基本平易な文体なのでリーダビリティは高く、楽しく読めるのは確か。犯人が明らかになった時には少し背筋がゾクッとした(予想はできていたが)。まぁ、基本ファンなのでなんだかんだいってもいい。 |
No.262 | 4点 | セカンド・ラブ- 乾くるみ | 2013/08/30 20:50 |
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一作目は「ただの恋愛小説としか思えない展開」の中で、ラストで「実は仕掛けが施されていたこと」自体が衝撃で、その仕掛けの内容や巧みさは二次的なものだったと思うので、2作目にあたる本作では、もう読み手として「そういうことが起こる」ことを予想してしまっている以上、どれだけその仕掛けを手の込んだものにしても前作は越えられないと思う。そして、やはりその通りだった。
けど、もしこのシリーズ(?)っぽい3作目が出たとしたら、たぶんやっぱり何かを期待して読んでしまうと思う(笑) |
No.261 | 4点 | 完全なる首長竜の日- 乾緑郎 | 2013/08/30 20:34 |
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着想は確かに面白い。だが、物語の前半で仕掛けが分かると、要は「あとはどこまでこれが続くか」、逆に言えば「どこで切られるか」だけの話。そもそも弟の自殺未遂の真相が作中で明らかにされない時点で、そのへんの真相は何となく見当がついていた。正確に推理できていたとはいえないが、真相がわかっても「ああ、やっぱりそういうことね」という感があったことは否めない。
ただ、センシングなどの虚構の近未来設定はよく考えてあったと思う。まぁそいういう意味でもSF要素が濃い作品。 |
No.260 | 8点 | 葬式組曲- 天祢涼 | 2013/08/30 20:21 |
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「〇〇の葬式」と題された各章で、視点人物が入れ替わっていく構成が、真相に関わっていくその仕組みが秀逸。スゴイ。葬式という形態が否定された近未来の日本という設定も面白く、各章単品でも楽しめるが、やはりこれは一冊を通して一作品となっている面白さこそ肝。作者の構成力、考えられた仕掛けに舌を巻いた。 |
No.259 | 7点 | 厭魅の如き憑くもの - 三津田信三 | 2013/08/30 20:08 |
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本シリーズの後続を読んでから、第1弾の本作を読んだ。刀城言耶初登場がこれか・・・と思って読むとそういう点でなかなか面白い。今よりさらに遠慮がち、自信なさげな感じがするのは気のせいか。どちらにせよ、頭脳がキレるのに謙虚な態度は変わらず好感がもてる。
何かの書評で初期は土俗的・民俗学的要素が濃いと評されていたが、自分はあまりそういう感じはしなかった。神々櫛村、谺呀治家と神櫛家、神隠し、「カカシ様」などの、ムラ社会、呪術的文化は確かに「濃い」が、決して難解な感じはしなかった。むしろ(あたりまえであるが)本作の大きな魅力である。巻頭に村の見取り図があって内容理解の一助として大いに役立った。 このシリーズは全部読みたい。 |
No.258 | 6点 | 体育館の殺人- 青崎有吾 | 2013/08/30 19:56 |
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赤川次郎のような(そこまでではないか)、ユーモアも交えた軽快なテンポで、いかにも新人らしいフレッシュな感じが好感をもてる。とはいえ、真相解明に至るまでのロジックは非常にしっかりとしていて、本格ミステリに憧れをもった若者の渾身の作というのがよく伝わってくる。ラストの真相も、ある程度予想の範疇だったが、これによって作品の深みも一段増している。
今後の活躍に期待がもてる新人の登場。 |
No.257 | 7点 | 禁断の魔術- 東野圭吾 | 2013/08/30 19:47 |
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単なる謎解き・トリックだけではなく、そこに人間の悲哀や感動を絡める点で、非常に秀逸な存在だと感じる作品集だった。一章「透視す」は、義母に育てられたホステスの、二章「曲球る」は戦力外になったプロ野球選手の、家族との絆が感じられる感動的な話で、すごくよかった。ラストの「猛射つ」は中編と言っていい長さ。湯川の母校の後輩の、これまた悲哀の感じられる秀作だった。 |
No.256 | 6点 | 虚像の道化師- 東野圭吾 | 2013/08/30 19:39 |
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平均的にクオリティが高く、まずハズれないのはさすが。ただ、自身が推理して読むタイプの読者(私もそう)は、ガリレオが物理学者ということで、トリック・真相が科学的なことに帰結するのは仕方ないのだが、そういうものははじめから推理を放棄してしまう。だから、本作品でいえば後半の「偽装(よそお)う」「演技(えんじ)る」のようなタイプの作品が好き。いずれにせよ、ガッツリ長編を読む時間も気力もなく、でも読むなら没頭して読めるものを、というときに最適。 |
No.255 | 6点 | 密室蒐集家- 大山誠一郎 | 2013/06/30 09:43 |
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「柳の園」「少年と少女の密室」「死者はなぜ落ちる」「理由ありの密室」「佳也子の屋根に雪ふりつむ」の5編。密室殺人事件にあたっている捜査陣の前に表れる「密室蒐集家」と名乗る男。それまでの事情を聞くだけで「わかりました」とずばり真相を当てる。確かに密室トリックに特化した,無駄のない謎解き主体の展開は心地よく,本格好きにはその姿勢からして好感が持てる。しかし,「密室トリックを成立させるため」のあまりにもできすぎた偶然が多い。言い換えれば,「この密室状況を説明するためにはこうするしかつじつまが合わない」というような,「密室状況成立ありき」のスタイルで,その現実離れした状況を密室蒐集家が一足飛びに(論理的ではあるが)言い当てる様にはあまり緻密さを感じない印象も残った。 |