皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1121件 |
No.461 | 7点 | トリック・ゲーム- 事典・ガイド | 2017/09/28 20:01 |
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直前の、斉藤警部さんの書評を見て何かが記憶を刺激した。「点描の不気味な挿絵・・・?内外名作のネタバレ・・・?」
「・・・あぁ、昔読んだぞ、確かソレ!!」・・・ってな感じで思わずAmazonで購入してしまった。やっぱり、若き日に読んだヤツだった。 「謎解きだけ、手軽に楽しみたい」というときには最適。ただ、名作長編を限られたページで抜き出しているものも多いので、「ソレは背景があってこそでしょ」と感じるものもある(年を経て原作を読んだから言えること(笑))。実際、そういうものは「解答」の説明が長い。 基本的にはこういうのスキ。でもやっぱ、超有名作品のネタバレも平気でされてるから「これから内外名作を読むぞ!」という方は、ある程度読まれてからの方がいいかも。そうしたら、伏せられている「作品名当て」も楽しめますよ。 |
No.460 | 7点 | 暗い宿- 有栖川有栖 | 2017/09/24 14:37 |
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宿をテーマにした、火村&作家アリスシリーズの短編集。
廃業する民宿の下から掘り出された白骨(「暗い宿」)、石垣島のホテルで開催される犯人当てゲーム「ミステリー・ナイト」に集った人たち(「ホテル・ラフレシア」)、鄙びた旅館に表れた、顔全体を包帯で包み、サングラスをかけた不気味な男(「異形の客」)、豪華ホテルで突然災難に巻き込まれた火村(「201号室の災厄」)と、様々な趣向が凝らされたオイシイ作品集。 一番本格ミステリの色が濃いのはやはり「異形の客」か。ボリュームも本書では一番だが、それに見合う謎解きの面白さがあった。表題作「暗い宿」は、一種のジメジメ(?)した雰囲気がそれらしくてよかった。 全作品を通じて、「落としきる」一歩手前で話を終わらせており、余韻があってよいと思う人もいれば、すっきりしないと感じる人もいるかもしれない。ただ「ホテル・ラフレシア」の終わり方はちょっと悲しすぎた。 それにしても、(取材を兼ねているとはいっても)気ままに、時間に縛られない一人旅を堪能するアリスを見ていると羨ましい。きっと読んだ多くの人が、旅に出たくなる。 |
No.459 | 7点 | 殺人方程式- 綾辻行人 | 2017/09/24 14:10 |
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死体の切断理由、移動させられた理由など、猟奇的犯行と不可解な状況の「ホワイ」が納得のいく形、しかも丁寧な伏線の上で説明されていて、久しぶりにド直球の本格ミステリを楽しんだ。特に、死体移動の理由が秀逸な仕掛けに感じた。
トリックは、スケールは大がかりで手口は細かい。詳細な仕掛け等は分かりようもない感じがしたが、大体「どこからどこへ」ということが看破できればまぁ満足、かな。何気ない描写にきちんと伏線がちりばめられていて、さすがだなと思った。 犯人は分かったが、残っている最後の謎の真相にはちょっと面食らった。突発的で、脈絡のない偶然の犯行(?)という感じがして、あまりすっきりしなかった。探偵役が双子で、入れ替わって推理をすることも、特に必要な設定とは感じない。 というように、やや不要な装飾がある感はするが、「謎解き」の魅力は十分。これぞ新本格、という作品だった。 |
No.458 | 8点 | パレートの誤算- 柚月裕子 | 2017/09/24 13:41 |
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物語の題材は、「生活保護受給者」。市役所の福祉課に勤める牧野聡美は、ケースワーカーとして受給者の定期訪問をすることになる。心の底には、生活保護受給者に嫌悪を抱いているからだ。しかしそんな聡美に、頼れる上司の山川は、「やりがいのある仕事だよ」と励ましの言葉をかける。尊敬する上司の言葉に背中を押された聡美だったが、その直後に、その山川が訪問先のアパートで不審な死を遂げる―
生活保護、という昨今話題になているテーマを取り上げ、切り口としたのは素直に面白かった。ケースワーカーとして訪問する件では、受給者たちの横顔も描かれていて興味深い。「貧困ビジネス」と言われる、暴力団が受給者と結託してお金を得ようとする不正受給のことなども書かれ、制度の裏表がよくわかる。 終盤の真相に迫る急展開のくだりで真犯人はわかったが、明らかになった真相から、山川の不審な行動についての説明もきちんとつけられ(腕時計のこと以外は…)、納得のいくものだった。 かなり面白かった。 |
No.457 | 6点 | 怪しい店- 有栖川有栖 | 2017/09/18 19:36 |
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火村&作家アリスシリーズの短編集。相変わらず、短編というサイズに程よい適度な仕掛けのパズラーで、安心して読める。
「古物の魔」…骨董屋の店主の撲殺事件を解くフーダニット。最後、犯人を追い詰めていく火村の推理が心地よい。無難に面白い。 「燈火堂の奇禍」…アリスが立ち寄った先で前日に起こった強盗事件の真相を解く。ちょっと日常の謎テイストの、面白い仕掛け&真相。 「ショーウィンドウを砕く」…倒叙モノ。喫茶店のくだりで、ほぼ看破できる。(これはどういう意味で「店」に関係する作品とされているのか?そっちのほうが謎だった(笑)) 「潮騒理髪店」…火村が調査先で立ち寄った理髪店での、日常の謎。昭和の映画のようなシーンと、鄙びた村の雰囲気にほっこりする作品。 「怪しい店」…「みみや」と称して悩みある人の話を聞くことを生業としていた女性の殺害事件。本短編集ではもっとも本格的。 有栖川氏の短編集なので、基本水準が下がることはなく、安心して読めます。 |
No.456 | 5点 | わざわざゾンビを殺す人間なんていない- 小林泰三 | 2017/09/17 16:42 |
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人間が死後、活性化遺体=「ゾンビ」になるという現象がウイルスによって現実化し、蔓延しているという設定によるSFミステリ。
ある企業の、研究成果発表の場に、担当となっていた社員が現れない。すると別室から悲鳴が聞こえ、駆けつけてみると当の社員は「ゾンビ」になっていた―。ゾンビになったということは、直前にその社員は死んだということ。事故なのか?それとも事件=殺人なのか?図々しく警察の捜査に自ら首を突っ込む謎の探偵・八つ頭瑠璃が、身を賭して謎の解明に挑む―。 ・・・というように、虚構のSF世界を下敷きにしたフーダニット。真相・トリックがきちんと「ゾンビ世界」設定であるからこそ、になっているのはよかった。 ただ、昨今「これまでにない仕掛けのミステリを・・・」という意気込みからか、こうした特殊設定を生かしたネタの作品は多くて、Amazonその他で絶賛されているほど衝撃はなかったのが正直なところ。(ちょっと前に、白〇智〇の「お〇す〇人面〇」を読んでいたから、なんとなくダブったというのもある) ちょっとズレた会話を含むテンポの良い展開には好感がもてた。個人的には「ゾンビイーター」のリーダー格の女がかっこよかった。 描写はかなりグロいというか、気分悪くなるところもあるかも。 |
No.455 | 5点 | 真夜中の探偵- 有栖川有栖 | 2017/09/16 11:06 |
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北海道が「日ノ本共和国」となり日本と対立し、警察の締め付けの中、探偵行為が違法とされた世界設定での、空閑純(ソラ)シリーズ第2作。
探偵行為により投獄された父親を案じながら、失踪した母親の行方を追うソラは、依頼者と探偵との仲介役を務めていた男、押井照雅に会う。押井のもとで母親の最後の依頼について情報を得、母親捜索に向かおうと考えていたソラだったが、そんな折に押井邸に出入りしていた元探偵・砂家兵司が殺害される事件が起こる。 砂家は、水を満たした棺のような木箱に密封され、溺死させられていた。なんのためにそのような方法で殺害されたのか?犯人は誰なのか?探偵をめざすことを決意したソラは、推理を巡らせる―。 有栖川作品らしい、トリック解明に主を置いたオーソドックスなミステリ。トリックは看破できたが、犯人・動機は後出しの感があったので、分かりようがないかなぁ。でもまあ、中編レベルの長さで、サクサク読めるのでそれほど重厚な仕掛けでなくても満足できた。 |
No.454 | 4点 | 失われた過去と未来の犯罪- 小林泰三 | 2017/09/16 10:47 |
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ある日突然、全人類の記憶が10分ともたなくなり、世界がパニックとなる。自分が誰であるか、などの基本的な情報は残っているが、10分おきに「あれ?今何してたんだっけ?」「ここはどこだ?」ということの繰り返しになる。そういう状況(短期記憶喪失)になったということの理解も毎回しなくてはいけないので、しばらく世界は麻痺するが、やがて少しずつ状況把握をし、対策が積み重ねられ、数年後には身体に挿し込む「外部記憶装置」が開発され、人々はそれに頼って生活するようになる。
しかし、この身体に挿し込む「外部記憶装置」は、ある肉体に挿し込めば「その人」なれてしまう。例えば肉体が死を迎えても、「外部記憶装置」が破壊されず残されれば、他の人の体で「再生」することもできる。結局、人格とは、「人」とは、記憶なのか?魂というものは存在するのか?そもそも生とは、死とは、現実とは何なのか?・・・そんな感じの一種の哲学的(?)な内容に話が及んでいく。 「大忘却」が起きてからのさまざまな場所でのエピソードが脈絡なく描かれる展開が続くので、正直ややこしい。いくつかのエピソードは、結局そのまま置き去りにされていると感じる(「あの話は何の意味があったの?」って感じで)何が描きたかったのかよくわからなかった。 |
No.453 | 7点 | 作家刑事毒島- 中山七里 | 2017/09/16 10:15 |
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犬養隼人の元先輩であった毒島は、ある事情でいったん退職し、なんとミステリ作家となったが、兼業という形で刑事として再雇用された。
出版業界の人間が苦手な犬養は、業界にからんだ事件を相棒の高千穂と毒島にことごとく振る。本作はそんな毒島と高千穂を主とした連作短編になっている。 一編ずつフーダニットのミステリになってはいるが、初めから容疑者は数名に絞られ「犯人はこの中の誰?」という、オーソドックスな展開。作品の面白さはそれ以上に、毒島のまさに「毒」のあるキャラと、出版界に関わる人々や人間模様の酷さにある。 「中学生の作文」のような作品を大作と信じて疑わず、賞への応募作を落とす審査員を逆恨みする作家志望者。新人賞を獲ったはいいが、自身の文学観とやらをこねくりまわずだけで一向にその後の作品が出ない「巨匠病」の新人作家。作家への偏執的なストーカー・・・等々、そうした人たちを、笑みを浮かべながら飄々と糾弾する毒島の物言いが痛快で、笑わずにいられない。 (因みに、「いっぱしの書評家よろしく書評サイトに投稿するネット書評者」というのも登場するのでなかなか耳が痛い(笑)) ミステリとしての書評なので、これでも抑えめの採点。読み物としてはサイコーに面白かった。 最後の、奥付のページ(「この物語はフィクションです・・・」のくだり)を是非見てほしい。爆笑必至です。 |
No.452 | 2点 | QJKJQ- 佐藤究 | 2017/09/03 22:26 |
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第62回江戸川乱歩賞受賞作。
正直、よさがあまり理解できなかった。 家族全員が猟奇殺人者、という設定で、主人公の市野亜李亜をはじめその母、兄、そして父の殺人者としての姿が描かれる序盤は確かに規格外で、その後への期待が高まる。しかしこんな展開は・・・私には合わなかった。簡単に言えば、「抽象的、観念的」。 私の大好きな有栖川有栖、今野敏の両氏が絶賛しているのが釈然としなかった。池井戸潤の評に最も共感する(まぁ立場が同じなんだから当たり前か)。 興味が沸いて諸サイトでの書評を見たが、絶賛といっていいぐらい評判がいいので、ますます自分の審美眼に自信がもてなくなった。 |
No.451 | 8点 | 乱鴉の島- 有栖川有栖 | 2017/09/03 21:09 |
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しばしの息抜きを、と下宿のばあちゃんに押され、知り合いが民宿を経営する島にアリスと行くことになった火村。ところが、目的の島の奥にある、別の島に着いてしまい、しかもしばらくは迎えが来ない。その島には著名な文学者とその取り巻きが滞在していたが、明らかに火村たちを部外者として煙たがっている。過剰なまでのその様子に、何かしらの秘密めいたものを感じる火村・アリス。するとそこにさらなる闖入者、今をときめく若き起業家が。火村たちへのもの以上に、はっきりと拒絶の意を示す滞在者たち。この島の集まりは何の集まりなのか、起業家はそこへ何をしに来たのか、不可解な雰囲気のまま過ごすうちに、第一の殺人が・・・
・・・というように、雰囲気たっぷりの序盤から前半。電話線が切られ、携帯も圏外で、迎えの日までは外部との連絡は不可、というお決まりのパターンもファンとしては「よしよし!」。「?」と感じる登場人物の言動のちりばめ方も上手く、興味が途切れることなくページを繰り続けることができた。 犯人の取った行動の意味付けや、それを解き明かす火村の推理の筋道も私としては十分納得できたし、非常に面白かった。惜しむらくは、動機。完全に、物理的に犯行可能な人間を突き詰めるというロジックだったが、これだけの謎めいた人間関係を描く作品なので、動機もそこに絡んでくるものであってほしかった。完全に取って付けたあと説明だった。 でも、やっぱり、有栖川有栖先生はいい! |
No.450 | 6点 | 狩人の悪夢- 有栖川有栖 | 2017/09/03 20:47 |
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久しぶりの火村シリーズ長編、まずは楽しんだ。今まで通りの、純粋な王道のフーダニットが最近逆に希少な気がして、そんな中での有栖川作品はファンにとっての寄る辺になる。
今回は、緻密に計算し、やり遂げた犯人の手口を読み解くのではなく、火村曰く「散らかっている」(だったか?)犯行の跡を読み解いていくというものだった。落雷をはじめとした不測の事態に右往左往したうえで、半ば場当たり的に弄した策の跡をたどっていく道筋となる(だった)ので、精緻なロジックを好む読者が正面突破しようとすると難しかっただろう。かくいう私も、はっきりいって各事象を全く結び付けられず、ただただ火村の推理を追うだけだった。 不測の事態に応急的に、場当たり的に対応するということは、実際の犯罪では大いにありそうなことで、そう思うと面白く読み応えがある作品だと感じた。(ただ小説のような綿密な「トリック」を犯人が計画するようなことはまずないだろうが) |
No.449 | 7点 | 虹果て村の秘密- 有栖川有栖 | 2017/08/20 19:11 |
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そうなのかなーと思ってて、先行書評をみてやっぱり。ジュヴェナイルなんですね。でもそれだからシンプルで、非常にオーソドックスなフーダニット。安心して読めるし、普通に面白かった。
最近複雑な事件様相・人間関係での物語展開がスタンダードみたいになってるから、こういう分かりやすくて推理しやすい、適度な長さの話を久しぶりに読むとホッとする。 真相に迫る前の間(要は読者に考えさせる時間帯)もこうであってほしいし、それまでの手がかりの示し方も過剰にあざとくなく自然で(でもわかったけど)、いいね。 変に「今の流れについていかないと…」ってなって、「今までにない何かを…!」とやっきになっていくよりも、ファンが求めているとおりのものを揺るがずに示してくれる。やっぱり有栖川有栖はいいなぁ。 |
No.448 | 4点 | 東尋坊マジック- 二階堂黎人 | 2017/08/20 18:19 |
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彼の短編では何度も読んでいると思うのだが、長編の一作品を読むのは今回が初めて。正直、簡単だった。
おそらくメインとなる東尋坊での銃殺事件だが、わざわざ衆人環視のもとで実行されることや、撃たれた人物がすぐには発見されないくだりから、早々から大体のトリックは見当がついてしまった。 にしても、未解決事件「冥妖星」とのリンクは、あまりにも偶然が過ぎるだろう。まぁ物語なんだからあんまり口うるさく言いたくはないのだが。 ただ、サイトでの他の投稿者の方の評価もかなり厳しいので、二階堂氏の作品中でももともとキビシイものだったと考えて、これに懲りずに機会があれば他作品も読んでみようとは思う。 |
No.447 | 6点 | バーニング・ワイヤー- ジェフリー・ディーヴァー | 2017/08/20 17:09 |
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今回の凶器は「電気」。目に見えないながら、一瞬にして命を奪う威力をもつ凶器に相対するシーンは読んでいるこちらも緊張する。いつもながら、それぞれの作品にはっきりした題材というか、テーマのようなものをもたせる作者の腕は秀逸だと思う。
物語は電力会社へのテロともいえる犯行に立ち向かう本筋と、メキシコに逃亡を図った「ウォッチメイカー」を逮捕するという複線との二本立てで進められている。ウォッチメイカーはやはり特別な作品らしく、ちょいちょいこうやって「その後」がストーリーに出てくるので、そういう点ではこのシリーズ作品(ライムシリーズの方)は順番通りに読んだ方がよいのかも。 リーダビリティの高さは相変わらずで、またそれもチープな感じではないので、今回も十分楽しく読めた。ただイマイチ得点が上がらなかったのは、私は今回の「どんでん返し」がちょっと飛び道具というか、奇を衒ったものに感じてしまったので…。ちょっと読者の予想を超えることに行き過ぎてないかな? |
No.446 | 4点 | 迷路荘の惨劇- 横溝正史 | 2017/08/20 16:48 |
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没落した華族が盛期に建てた、抜け道やからくりが仕掛けられた通称「迷路荘」に、関係者が一堂に集まる機会がもたれ、そこで連続殺人の惨劇が起こる。
客人が来る前日に、怪しげな片腕の来訪者があり、そのことに不穏さを感じた館の主人は金田一を呼び寄せるが、案の定、ついたその日から殺人劇が繰り広げられる。 横溝らしい舞台設定ではあるのだが、何故か期待するおどろおどろしい雰囲気に欠けた。なぜかなぁと考えてみると、関係者一人一人を呼んでの事情聴取があまりに冗長でちょっとうんざりしてくる上に、そこでやけにアリバイが検討される割には、結構真相ではそのへんはざっくりしていたから、余計に無駄に感じたことかなぁ。 事件自体も、第一の殺人は不可解な謎が多くあり、「らしい」感じがしたが、第二以降はそうでもなく、お決まりの洞窟やらなんやらでごちゃごちゃしてきて、何となく尻すぼみの展開に感じた。(結局、抜け道のはしごにやすりをかける細工をしたのは誰だったの???) 一言で言えば「無駄に長い」印象があり、読み進めるのがちょっと面倒になった。 ただラストは好きなタイプのひっくり返し方だった。 |
No.445 | 5点 | 三つ首塔- 横溝正史 | 2017/08/18 21:14 |
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題名に世間が(私も)イメージする横溝作品らしさを感じて、期待して手に取ったのだが、ミステリとしてはいま一つかもしれない。
胸糞が悪くなるような愛憎劇と濡れ場の連続、その合間にサクサク起こる殺人劇と、そういうテイストは十分「らしい」のだが、真相がちょっと一足飛び過ぎ。 雰囲気的に「そうなんじゃないの」とは推測できても推理はできない。そもそもミスリードとなる「真犯人以外の人物」についてはアリバイが検討されていたのに、最後にいきなりの種明かしで出てきた真犯人は、どうやって、どのように犯行を重ねていたのか?の検討や説明、さらにはそれまでの伏線もほとんどないと感じる。 一方で、当初ダントツで怪しい主人公格の男性が、良い印象に変貌していくさまこそ、意外に感じてうまくだまされた。「騙し」だと思ったら「騙し」じゃなくて本当だった、という逆の意味で。 |
No.444 | 6点 | 夜歩く- 横溝正史 | 2017/08/18 20:57 |
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話題になっているように、海外某作品で物議を醸した「あの手法」を横溝正史が使うとは… 良くも悪くも、イメージではなかったので驚いた。
ただ、先行の海外某作品は、はっきりと一か所、そのために記述をごまかしている部分があるのに対して、この作品ではそれはない(よね?)。そもそも創作文章の体なので、そういう部分を描いていないというだけのことだが。よって、後発であったこともあって、最後の種明かしでそれほどアンフェアという印象はないのかもしれない。しかし考えようによっては、海外某作品はその「ごまかし」の部分がある意味読者にとってのフェアな(?)手がかりになっているともいえるのだが(とはいえ何といっても最初の試みなので、そんな可能性は一顧だにせず読んでいる読者にとってはやはりアンフェアに感じたこともあるだろう)。 刀の密閉状況のトリック、首の部分の発見のトリックなどは、その場のちょっとしたことの流れでいくらでも破たんする、綱渡りのような(運に頼る部分の大きい)もののように感じるが、猟奇的な事件、複雑に絡み合う親族関係など、横溝テイストがこれでもかと凝縮されており、全体的には満足できた。 |
No.443 | 7点 | 家蝿とカナリア- ヘレン・マクロイ | 2017/08/18 20:14 |
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劇中に舞台上で殺人事件が起こるという、まさに「劇的」な展開は古典的な作品にでありながら読者を引き込む。
時代や国が違うため、情景を思い描いて読むのが難しいとは感じるが、文章としては仰々しさや余計な虚飾がないので抵抗感なく読めた。 タイトルが謎解きのキーそのものなのだが、それがどう真実への筋道になるのか容易にはわからないという自信がなす業だろう。 真相、そこに至る推理過程も十分面白い。やはりマクロイは手練れである。 |
No.442 | 5点 | ウツボカズラの甘い息- 柚月裕子 | 2017/07/24 21:16 |
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異なる時系列の二つのストーリーが交互に展開され、後半に一致をしていくというパターンだが、「どうつながるか(つまりどういう仕組みなのか)」は前半でたいだい見当がつき、実際思った通りだった。
そもそも偶然昔の同級生に出会い、そこから化粧品セールスの看板にあっという間に上り詰める展開から胡散臭すぎる。顔も覚えていないような同級生(実際、同級生じゃなかったわけだが)の誘いに、なんの疑いももたずに乗っていくことなんてあるのか?(現実の詐欺を見ていると、いや、あるのだろう、とも思うが…)ただ少なくとも、場所を変え、乗り継いで乗り継いで成功し続けることなどないだろう。 また、細い細い線をたどって真相に行きつく捜査が、ちょっとご都合主義すぎるかな(かといってリアルに、辿って、間違えて、また辿って…を繰り返していても小説にならないとは思うが)。 まぁ要するに、発想がまずあり、それを限られた紙面で形にしたらこういう話になった、ということかな。読んでいて退屈はしなかったし、少なくとも楽しめたのは間違いない。 |