海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

HORNETさん
平均点: 6.32点 書評数: 1153件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.753 7点 死のカルテット- ルース・レンデル 2020/10/27 19:56
 「悪い」めぐりあわせが連鎖する、レンデルのノンシリーズらしい物語。
 ただ、主人公のグルームブリッジにとっては悪いめぐりあわせばかりではなかった、というかむしろ悪に踏み出してしまったからこそめぐりあえた喜びがあったということなのだが。まぁ、そういった幸と不幸との板挟みというか、両極端というか、そういった込み入った展開もやはりレンデルらしい。
 彼女のノンシリーズのサスペンスが好きな人は、概ね好む話ではないだろうか。

No.752 5点 黙示- 今野敏 2020/10/04 12:27
 古物収集家の家から、ある指輪が盗まれたという。持ち主の館脇友久は、その指輪を手に入れるのに4億を使った。しかし、指輪は鉄と真鍮でできたものとのことで、なぜそんなに価値があるのかと萩尾警部補は疑問に思う。すると館脇は、それは考古学界で伝説の「ソロモンの指輪」だからだ、と答えた。
 何かを隠しているような館脇。途中から捜査に加わった捜査一課からの横槍。事態が混迷を深める中、萩尾と、コンビの秋穂の、盗犯刑事としての嗅覚が働く。

 このシリーズの面白さは、萩尾の三課刑事としてのプロフェッショナルぶりにあるのだが、本作はなんとなくその魅力が薄かった。同じところをずーっとめぐっているような展開で、物語に深まりがなく、短編でよかったのではないかと感じた。

No.751 7点 白昼の悪魔- 鮎川哲也 2020/10/04 12:02
 「五つの時計」が非常に有名作品らしいが、その他の作品も全体的に高水準で、謎解き主体の「推理小説」を堪能できた。
 7編のうちの6編は筆者の得意とするアリバイ崩し(犯行時刻誤認)に関するもの。「五つの時計」はもちろん、表題作「白昼の悪魔」、「古銭」、「首」なども面白い仕掛けだった。
 前出の書評にもあるように、「そこまで周到に準備するか?」とやや凝りすぎに感じるものもあるが、謎解きを堪能すると思えば十分に楽しめた。

No.750 5点 この謎が解けるか?鮎川哲也からの挑戦状2- 鮎川哲也 2020/10/04 11:42
 昭和前半の、テレビドラマの匂いがぷんぷんするシナリオで、それだけで結構興趣をそそられる。
 一般視聴者を対象にしたエンタメなので、小説で展開するような精緻な仕掛けは望むべくもないが、短いタームで確実にヒントを示して唯一無二の解答を引き出せるようにするというのはむしろ別の意味でハードルが高いかもしれない。
 一話目の「おかめ・ひょっとこ・般若の面」は、文章では分かりようがない(?)気がしたが、概ね楽しめた。犯人の失言が解明のもとになる「制服の少女」「騎士と僧正」などは、謎解きドラマ的には面白かったんじゃないかな。

No.749 6点 絵に描いた悪魔- ルース・レンデル 2020/09/26 18:45
 ノンシリーズの処女作となる本作。
 とある町を舞台にした狭い人間関係の中で、その愛憎が織りなすドロドロした感じはこの頃から健在。ただ、この後のノンシリーズ作品で見られる、人の異常性や秘められた嗜好性などの点ではまだまだ振り切れていないとは思う。
 しかし、ノンシリーズ作品はサスペンスという評価が定まるレンデルだが、本作はフーダニット(&ハウダニット)のミステリとして成り立っている。そのトリックも真犯人も、十分に意外な仕掛けだった。
 ノンシリーズ作品を今後もこまめに読み続けたい。

No.748 7点 九度目の十八歳を迎えた君と- 浅倉秋成 2020/09/26 18:28
 まもなく30歳を迎える会社勤務の男・間瀬は、ある朝駅のプラットフォームの向かいに高校の同級生・二和美咲の姿を見た。信じられないことに、彼女は18歳の姿のままで、高校へと通学する途中だった。学生時代、二和に淡い恋心を抱き、玉砕していた間瀬は、信じられない二和の姿にその真相を探ろうと動き出す。

 謎を解くべく高校時代の同級生の話を聞いて回る間瀬の行動が、いつの間にか「現実に落ち着いた同級生たちの、魂の解放」行脚になっているところが面白い。二和が18歳にとどまり続ける真の理由を探ることが主のミステリになっているのだが、その真相は正直やや陳腐に感じた。しかし、30近い社会人が、甘酸っぱい青春時代を振り返っていくその過程に、多くの読者が共感したり、切なさを感じたりするのではないだろうか。私自身もその一人で、楽しく読み進めることができた。

No.747 7点 サーチライトと誘蛾灯- 櫻田智也 2020/09/13 18:48
 昆虫好きのおとぼけ青年・魞沢泉(えりさわ せん)が探偵役の短編集。
 どこかかみ合わないユーモラスな会話でテンポよく展開しながら、しっかりとしたミステリ。あとがきによると作者は泡坂妻夫の亜愛一郎をこよなく愛しているそうで、それを意識したとのこと。
 短いストーリーの中にも無理なく、さり気なく手がかりが散りばめられ、しっかりとした解決編になっていると思う。私としては、表題作(第10回ミステリーズ!新人賞)と、「火事と標本」がよかった。

No.746 6点 筋読み- 田村和大 2020/09/13 18:39
 第16回「このミス」優秀賞受賞作。
 警視庁捜査一課の飯綱は、都内で起きた30代女性の殺人事件の捜査本部にいた。事件は自首してきた男の犯行として起訴されようとしていたが、飯綱はそれに反発し、捜査本部を外された。そして、管理官の命によりある交通事故の捜査に充てられる。その交通事故は、車からドアを開けて飛び出してきた男が対向車にはねられるものの、同じ車から降りてきた者たちがその男を再び車に乗せて走り去ったという不可解なものだった。車の行方を追う飯綱だったが、そんな折に殺人事件の捜査本部から信じられない連絡が。それは、自首してきた殺人事件の被疑者と、車ではねられて連れ去られた男とのDNA型が一致したという、ありえない事実だった。

 筋読みの飯綱、「ヨミヅナ」が二つの事件のつながりを明らかにすべく活躍する。十分に面白かったが、警察小説としては平均水準かな。DNA型の一致という最大の謎と、真犯人の解明(事件の真相解明)という二つの命題がある中で、展開としては後者が主眼で、前者のDNAの謎は冒頭にぶち上げられた割にはあまり重要視されていなかった印象。

No.745 7点 我が家の問題- 奥田英朗 2020/09/13 18:18
 家族、とりわけ「夫婦」を題材にした、コミカルかつハートウォーミングな短編集。小粒ながら作者らしい巧みな語り口で、読んでいて非常に楽しい。
 ラスト2編、「里帰り」と「妻とマラソン」なんかはホントによかったなぁ。「絵里のエイプリル」だけ深層が分からないままで、ちょっともどかしいけど、これも奥田氏の技巧なのかな(解説によると)
 家庭生活や妻の問題を取り上げる話は、昨今はブラックな内容になるものが多い中、ハッピーエンドで統一されている本短編集は非常に読後感が良かった。

No.744 6点 この謎が解けるか?鮎川哲也からの挑戦状1- 鮎川哲也 2020/09/06 19:28
 昭和の時代にテレビで放映された犯人当て番組の台本(?)を書籍化したもの。昭和の「推理小説」的な興趣、当時のテレビの雰囲気が楽しめた。
 短時間のテレビ視聴者向けのため、藤原宰太郎の推理クイズ本のような謎の質・レベルであり、その点で評価を高くすることはできないが、上に記したような感覚で、鮎川哲也の軌跡や時代を楽しむ娯楽として評価させてもらった。
 もちろん、自身で推理を巡らす行為自体も楽しかった。

No.743 4点 ビッグ4- アガサ・クリスティー 2020/09/06 19:16
 本サイトでも分かるように、クリスティ作品ではすこぶる評価が低い。世界的な巨悪組織との戦いというスケールの大きな活劇は、目の前で起きた事件を精緻に推理していくという読者が期待するモノとは大きくかけ離れているからだろう。ましてや、ポアロシリーズであればなおさら。
 事件はたくさん起きて、殺人もたくさんあるのだが、一つ一つの事件の推理が一足飛びの大味で、悪の組織「ビッグ4」との壮大な裏のかきあいの活劇に軸足が置かれている。クリスティもこういうのを書くのだなぁという興味深さは逆にあったが、ファンの評価が低くなりがちなのもうなずける。
 そんないろんな意味を含めて、一読の価値はあったかな。

No.742 8点 迷惑なんだけど?- カール・ハイアセン 2020/08/30 21:14
 ハニー・サンタナは息子のフライと暮らす妙齢のシングルマザー。ある日、夕食の団欒時に迷惑なセールス電話がかかってきたが、迷惑さを隠そうともしないハニーの態度にコールセンターの男は罵声を浴びせて切る。正義が侵されることに異常な怒りを感じる癖のあるハニーは、電話をかけてきたコールセンターの男・ボイドを探し当て、手の込んだ復讐を企てる―
 
 一人の女性が、ある男に一杯食わせるために策略を巡らせるという設定は「復讐はお好き?」と通じるものが。そして見栄とプライドだけは高いが、中身はからっきしのクズ男と、それをあしらう女をコミカルに描くハイアセンの真骨頂が存分に出ていた。
 次がどうなるのか、ハラハラする展開の中でも笑いが止まらない。メチャ面白い。

No.741 5点 首の鎖- 宮西真冬 2020/08/30 20:54
 題材も内容もそこそこ読ませるのだが、いかんせん主人公・瞳子のうじうじした煮え切らなさ、お相手の顕の主体性のなさ、不倫相手でもと担任・神田の助平さにいらいらしっぱなし。ストレスたまった。
 瞳子の不遇の元凶である両親には結局何の鉄槌も下されず、その意味でもモヤモヤ感が残ったままのラストとなった。
 同氏の他作もダークな側面はあるが、ラストには救いがある感じだったので、ダーク一辺倒の本作はちょっと不満だった。

No.740 8点 復讐はお好き?- カール・ハイアセン 2020/08/29 14:16
 ジョーイ・ペローネは、結婚記念として行った豪華客船の旅の中で、夫・チャズに海に突き落とされた。夫・チャズは「くず」だった。
 奇跡的に一命をとりとめたジョーイは、助かったことを隠したまま、屑のチャズに復讐を誓う。

 ジョーイが海に落下するシーンで物語が始まり、その後もテンポの良い展開がずっと続き、550ページの間ずっと飽きさせない。ジョーイのきっぷのよさや俗っぽい物言いも好感がもて、一方でダメ男・チャズのくずっぷりも笑えてしまう。
 チャズを精神的に追い詰めるためのあの手この手のジョーイたちの作戦と、下手な推理で状況を読み誤り、勝手に自滅していくチャズとのズレ感が絶妙で、よく仕組まれていて面白いと感じた。

No.739 5点 修羅の家- 我孫子武丸 2020/08/29 14:02
 借金やらなんやらで何人もの人間の弱みを握り、それらの人たちを「家族」と呼んで一つ屋根の下に暮らさせ、その上に女帝のように君臨して支配する異常な女、逃れられない奴隷たち。
 いくら弱みを握られているとはいえ、日中普通に外に出されるような状態で、このような拘束を維持できるだろうか…。一人の青年が、「家族」として隷属させられている同級生の女性を救おうとするところから展開に光が見えてくるが、最後の終わり方はなんだか尻切れトンボの感がした。

No.738 7点 教室が、ひとりになるまで- 浅倉秋成 2020/08/29 13:49
 私立北楓高校で、1カ月の間に2年生の生徒3人が続けて自殺した。不幸な偶然かと思いきや、3人の遺書には「私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります。」という同じ言葉が書かれていたという。学校に不穏な空気が流れる中、2年生の垣内友弘のもとに一通の手紙が。そこには「北楓高校には代々、4つの特殊能力が受け継がれており、その一つ『嘘を見抜く能力』を今回、友弘に引き継ぐことにした」との内容が。信じられない内容だったが、翌日それが本当であることを体感する。では、他の3つの能力を受け継いだのは誰なのか?連続自殺はその能力を使った「殺人」なのか?同級生に探りを入れながら、事件の真相に迫ろうとする―

 友弘以外の3つの能力がどんな能力なのか、そして誰がもっているのか、さらには3人を自殺に追い込んだのは誰か、と、謎が幾重にも重なっており、それを一つずつ解きほぐしていくストーリーは展開に退屈さがなく、非常に面白かった。
 特殊能力の内容も、主人公の「嘘を見抜く力」のように、強大過ぎない加減で、それが謎解きによく作用していたと思う。

No.737 6点 友達未遂- 宮西真冬 2020/08/16 16:12
 星華高校は女子は女子らしくという教えで規律に厳しい、全寮制の女子校。一之瀬茜は親に逃げられ、預けられた祖父母にも疎んじられて半ば追い出される形で入学させられた。星華高校には同室の3年生が新入生の面倒見役としてペアになる伝統があり、茜の面倒見役「マザー」は、学校で誰もが一目置くマドンナ、緑川桜子だった―

 暗い家庭事情を抱える茜だったが、桜子をはじめとする同室の女子3人もそれぞれに親との確執、郷里への蔑み、学校への恨みなどそれぞれに闇を抱えていた。その中で互いに疑心を抱えたり、手を取り合ったりしながら、それぞれの道を見出していく青春群像劇。物語の展開に沿ってキャラクターが変わりすぎるきらいはあったが、最終的によいまとまりかたでもあったので、読後感は良。

No.736 5点 誰かが見ている- 宮西真冬 2020/08/16 15:48
 幼稚園児の我が子を愛せず、ブログで理想の親子像を騙ることで鬱憤を晴らしている主婦、年下の夫が結婚したとたん求めてこないことに寂しさと不安を募らせるキャリアウーマン、嫌な上司の理不尽な振る舞いに不満を溜め、結婚退職を日々夢見る保育士―さまざまな心の闇を抱えた女性たちの行為が交錯していく。

 最近よく見るようになった「常に他者との優越ばかり気にし、鬱々と不満を積もらせている女性」もの。読み進めている間は真梨幸子のイヤミスを彷彿とさせた。
 ただ本作はダークに振り切って救いのない終わりになることはなく、最後はハッピーエンド。そこに作者のスタンスが表れていた。
 一般市民の日常を舞台として、その中に潜む邪気を描くこうした作品はサクサク読めるし、前述のように読後感もよいのでまぁよかった。

No.735 7点 まるで天使のような- マーガレット・ミラー 2020/08/16 09:40
 サスペンスというより私立探偵もの。
 とあるきっかけから小さな町で5年前に起きた事件の真相を探ることになった私立探偵クイン。そこでは、パトリック・オゴーマンという男の失踪と、地味な女性による銀行での横領事件という2つの事件が立て続けに起こっていた。クインは調べを進めるうちに、2件の事件は関連しているのではないかと推察をはじめる。

 新興宗教団体の修道士やシスターたちの名前が仰々しくて少し煩わしいが、クインが奔走して少しずつ様相が解き明かされていく過程は退屈せず、読み応えがあった。
 幸い自分は、「最後の〇〇」というような本作の宣伝文句を見ずに読んでいたので、ラストは純粋に驚くことができた(笑)

No.734 6点 嘘をつく器 死の曜変天目- 一色さゆり 2020/08/16 09:18
 早瀬町子は一大決心をし、会社勤めを辞めて陶芸家・西村世外の窯元に弟子入りした。人間国宝の候補と目される世外だったが、同じく陶芸の道に進んだ次男・久作を後継にすることには迷いがあるようだった。そんなある日、世外は何者かに殺されてしまう。町子は美大の先輩で保存科学の専門家・馬酔木を頼り、世外とともに葬られた真相を追う。

 美術・芸術を題材としたミステリを得意とする作者、今回の舞台は陶芸界。幻の名器「曜変天目」をキーパーツとしながら、背景に新興宗教や陶芸界のライバル、後継ぎ問題などを絡ませ、一本筋ではない展開になっている。
 本筋は世外殺しの真犯人を追うフーダニット形式で、ミステリとしてもしっかりした作りになっていた。

キーワードから探す
HORNETさん
ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.32点   採点数: 1153件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(50)
有栖川有栖(45)
中山七里(41)
エラリイ・クイーン(37)
東野圭吾(35)
横溝正史(22)
米澤穂信(21)
アンソロジー(出版社編)(19)
佐々木譲(18)
島田荘司(18)