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[ ハードボイルド ]
天使に見捨てられた夜
村野ミロシリーズ
桐野夏生 出版月: 1994年07月 平均: 6.33点 書評数: 6件

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講談社
1994年07月

講談社
1997年06月

No.6 7点 Tetchy 2021/06/12 00:20
最近でもAVに騙されて出演させられるレイプ被害が問題になっているが、本書はなんと26年前にその問題を扱った作品である。四半世紀以前に既に問題視されていたのは寡聞にして知らなかった。
AVも多々あり、普通AV女優が出ているものから、素人ナンパ物、そして特殊な趣味嗜好に特化した企画ものまで様々だ。その裾野は幅広く、全てを網羅するのは困難だろう。従って星の数だけAVがあれば星の数ほどAV女優もおり、そして1作のみで終わる女優未満のモデルもゴマンといる。本書に登場する一色リナもそんな泡沫モデルの1人である。

さて本書を一言で表すならばそれは“今を生きようと足掻く女たちの物語”だったことだ。
本書に出てくる女性たちは様々で主人公の村野ミロはじめ、依頼人の渡辺房江、彼女がレイプ被害を訴えるための神輿としようと考えているAVモデルの一色リナ。そして渡辺の活動を陰ながら支援するセレブの料理研究家八田牧子。
四者四様の女性たちの生き様がミロの捜査で語られる。そして彼女たちの印象はミロの捜査の成り行きでガラリと変わってくる。

依頼人を反故にして男と寝る女性探偵に自身の身体を傷つけることでしか金を稼げない女性からサイコパスへと転ずる失踪人。これは今までになかった新しい女性探偵小説かもしれない。しかしこれらの設定からは主人公含め一切共感を生まないことも凄いが。

女と男の因果が絡み合った事件を地道に紐解いていく村野ミロ。しかし12年ぶりに再会した彼女に対して、私は当時抱いていた主人公ミロに対する嫌悪感は結局変わらなかった。
女性探偵という物に私がか弱き女性が魑魅魍魎の社会の暗部で孤軍奮闘する姿を先入観として持っているのかもしれないが、この村野ミロは男に対する警戒心が弱いのがどうしても腑に落ちないのだ。
例え敵であっても女は相手が魅力的であれば寝る、それが女という生き物なの、という村野ミロの倫理観、もしくは作者のメッセージが私には気に食わない。大人の女の不思議さを演出しているようだが、逆に村野ミロという女性の安っぽさを感じてしまうのだ。私ならば強がっていても女性は男には弱いことを出すならば、生理的には嫌だが、ミロが求めるのではなく、レイプされる方を選ぶ。そしてレイプされて心が折れそうになっても、それが男の世界で生きていくことを選んだリスクであると立ち直る、そういう女性探偵の方がよほど共感できるのだが。
最悪なのはミロが依頼人の要求を無視して自分の欲望を満たし、挙句の果てに依頼人を死なせてしまうことだ。

私は女性探偵物をあまり読んだことないのだが、こんなひどい探偵はいないのではないか?これではただの男日照りの淫乱女である。そしてその事実を警察と実の父親にも知られ、ミロは更に深い自己嫌悪に陥るのだ。

登場人物の1人、レンタルビデオの店主がこんなことを云う。
アダルトビデオとは人の不幸を笑う物なんだと。
つまり本書は男たちの欲望で女たちの人生が蹂躙されていると暗に訴えているように思える。
“天使に見捨てられた夜”とは即ち男たちの欲望に蹂躙された女たちの夜だ。西洋では赤ん坊は天使によって連れられるイメージが描かれているが、なるほど望まぬして得た赤ん坊はまさに天使に見捨てられた存在なのかもしれない。

しかし男と女がいる限り、この“天使に見捨てられた夜”は必ずある。判っちゃいるけど、止められないのよ。それが男と女なのだから。

No.5 5点 HORNET 2020/10/27 20:27
 作者としてはかなり心を砕いて何気ない登場のさせ方をしたのだろうが、タイトルからしても、何気なさを意識しすぎて却って際立ってしまっている運びからしても、落ちぶれミュージシャンが事件の核に絡んでくることはあまりにも明白。まぁ「どうつながるのか」は確かになかなか見えなかったからそれだけで興趣を削ぐことはなかったけど。
 ミロのフットワークがいい割には、展開に時間がかかりすぎな気もする。物語を厚いものにしようと無理に右往左往して引っ張っている感もある。尽きない臨場感とスピード感で飽くことなく読めはしたが、必要以上に寄り道をさせられた感じもある。
 真相は予想外で、いい裏切り方ではあったが、長い引っ張りを経て最後に「一気に」ひっくり返したような感じも受けた。

No.4 6点 2020/04/06 22:08
タイトルは、作中で殺されるミュージシャンの曲名です。この殺人事件は、ミロが依頼された失踪人探しとは当然無関係と思われたのですが、その棺の中に入れられていたビンが、失踪AV女優の出演ビデオに映っていたものとそっくりだったことから、何らかのつながりがあるのではないかとの疑惑が出てきます。
そういった細かい点を地道に調べていく調査小説として、なかなか楽しめます。ただ、そのビンの中身「雨の化石」については、化石の基礎知識さえ得た後は、図書館巡りなどせず、さっさと専門家に現物を見せろやと言いたくなりましたが。ミロに協力する彼女の父親や同性愛者の隣人トモさんなど、登場人物たちの魅力が、作品自体の魅力もアップしています。
ところでミロって、スペインの画家みたいな名前ですが、第2の依頼人宅にはダリの絵がありました。ツグジ(藤田嗣治のことでしょう)のデッサンの方は、それに気づくなんて、ミロ美術に詳しすぎ。

No.3 7点 レッドキング 2020/03/22 22:04
女流ハードボイルド・ミロシリーズ第二弾。失踪したAV女優の行方を追う女探偵が出会ったのは、落ちぶれたミュージシャン殺人事件と依頼者の死。そして明かされて行くAV女優の正体と殺人事件の犯人。登場人物を、前作「顔に降りかかる雨」のキャラ造形に微妙にダブらせながら、フーダニット関心をダミーに誘導する手際が心憎い。
AV女優の生立ち過去を巡る「火車」(思えばこれもハードボイルドの匂いがした)や松本清張風味もGood。
※実際に騒ぎになったエピソードや懐かしきAV界大物(「ナイスですねえ」)モデルが分かりやすい。

No.2 7点 TON2 2012/11/05 20:21
失踪したAV女優の捜索依頼を私立探偵・村野ミロに持ち込んだのは、フェミニズム系の出版社を経営する渡辺房江。ミロの父善三と親しい弁護士を通じてだった。やがて明らかにされていくAV女優の暗い過去。都会の闇にうごめく欲望と野望を乾いた感性で描く女流ハードボイルドの長編力作。

No.1 6点 884 2004/05/10 18:30
・『天使に見捨てられた夜』講談社
『顔に降りかかる雨』の続編。
 読後感が悪いです。


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