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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1706件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.746 7点 フォックス家の殺人- エラリイ・クイーン 2020/06/26 12:00
 後出しの情報が色々出て来たりして、パズラーとしてはいまひとつ。“調べる過程”の物語としては面白い。しかしこの設定なら“いつ毒が混入したか”と言う不可能性をもっと強調したほうが良かったんじゃないの。それでは謎が簡単過ぎる?

 ACのアレに、アニマルつながりで元ネタを示して挑戦している?

No.745 8点 紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人- 歌田年 2020/06/18 12:28
 人はしばしば自分の興味の対象ばかり見る。場面の端々で紙の種類を気にするマニアックな主人公は“特殊な人のリアリティ”を上手く表現していると思う。敢えてさらりと描くことで可笑しみを醸し出す文体をものにしているのも心強い。
 調査が色々都合良く進み過ぎだろと言う部分はあるが、或る種の予定調和がアリになる作品世界がそれなりに成立しているのであまり気にならず、事件を手繰り寄せる手捌きの爽快感のほうが胸に残った。

No.744 7点 50億ドルの遺産- 山田正紀 2020/06/18 12:26
 あれっ?――“この島に隠されている五十億ドルの兵器のことでも、あちこちで、いいふらすことにしますかね”
 第三章で主人公がこんな風に駆け引きを試みるが、それはプロジェクトにとっても望ましいことである。どこまで事情を知っているか不明、と言う不安材料はあるが、内幕を打ち明ける程のことではない。相手が冷静なら、勝手にし給え、で放り出されるところ。

 寄せ集め集団によるハンド・メイドの戦術は山田正紀の十八番。毎度気持が昂る。

No.743 6点 眠りの神- 犬塚理人 2020/06/18 12:22
 しっかり書かれてはいる。それが仇になって少々優等生的? 安楽死については調べたものを出しただけと言う感じ。こういうテーマ故に思い切った暴論を示すことに二の足を踏んだ感がなくもない。ベーシックな筆力はある人だと思うので、もっとぶっ飛んでもいいのではないか(個人的には、死を美化するキャラクターをもっと前面に出しても良かったかと)。

No.742 7点 死者が飲む水- 島田荘司 2020/06/18 12:20
 この動機は単なる八つ当たりでしょう。但し、それゆえの“殺人者になどなりたくはなかった、運命にあやつられているような気がした”と言う心情は、さほど緻密ではない計画をその場の流れで決行したような犯人に見合っている気がした。
 “実の子だから”との理由で容疑者から外すのは作者の手抜きだな~。きちんとロジックを考えるのが面倒だった?

No.741 5点 三幕の殺意- 中町信 2020/06/18 12:17
 一応及第点だが、読み進める為のエンジンが弱かった。魅力的な登場人物がいないせい?
 題名のせいでどうしても構成に目が行くが、“三幕”という概念が物語に於いてそんなに重要? 第二幕と第三幕の境目が何故あそこなのか、良く判らなかった。

No.740 8点 ペルシャ猫の謎- 有栖川有栖 2020/06/11 12:27
 表題作、私は高評価します。“現実に起きる現象だから小説や芝居に取り入れられているんです”――その通り! 目撃証言だけで有罪判決は出ないだろうが、コレで濡れ衣を着せられたら、目撃者も“嘘”を吐いているわけではないだけに、対処するのは大変だ。
 他の短編はいまひとつ。

No.739 8点 猫には推理がよく似合う- 深木章子 2020/06/11 12:25
 ミステリ風猫小説。かと思っていたら、豈図らんやきっちりしたミステリに仕上がっていた。スの付く名前のス入り猫。室内飼いなら巣入り猫。エピローグは期待通り!

No.738 9点 奇術探偵 曾我佳城全集- 泡坂妻夫 2020/06/11 12:24
 なにしろ20年に亘って書き継がれたシリーズなので、こうしてまとまると、ミステリ作家としての泡坂妻夫の全盛期と低迷期が一望に収まってしまうのが罪なところ。

 “奇術は楽しんで見るのが一番いいんです。もっと上手な見方は、その場の雰囲気をもっと楽しくするように、奇術師に協力する”
 判っちゃいるけどやめられない、ネタバレしつつ揚げ足取り。
 「消える銃弾」道具まで作って、明らかに計画的犯行。なのにその道具の後始末は御粗末。持ち出して処分出来なくなった突発的事由、なんてのがあれば良かったのでは。
 「花火と銃声」解決編がちょっと説明不足。①壁の中の銃弾を見付けるのに警察は金属探知機を必要とした。事件当時には更にカレンダーが掛けられていた。それを犯人が自力で発見出来たのか? ②事前に被害者から聞き出しておいたなら、弾痕の位置・カレンダー両方について告げるほうが自然な気がする。その場合、佳城は推理で“(カレンダーは犯人が)予想しなかったもの”と述べているが、その蓋然性は高くないと思う。③犯人は前回の殺人について、死体を秘かに処分する、という方法でとりあえず隠蔽に成功している。今回その手は使えなかったのか?
 「だるまさんがころした」「浮気な鍵」で紹介される錠のマジックや“夢のエキスプレス”は、ただ単に“そういう仕掛けがある道具”ということではないのか。凄いのは作った人であって、所有者がそれを持っているおかげでマジシャンとして評価される、と言う価値観は良く判らない。

No.737 6点 倒錯の死角−201号室の女−- 折原一 2020/06/11 12:21
 母親の行動は不自然で説得力が足りない。真相解説の部分がくだくだしい。しかし作者の志の高さは判る。

No.736 7点 キングを探せ- 法月綸太郎 2020/06/11 12:20
 トランプのランク(番号)と被害者の名前の共通性に、犯人も捜査陣もこだわっているのが可笑しかった。しかもそのおかげで被害者の絞り込みに成功しちゃうし。そもそも件のトランプを後生大事に保存していたことと言い、犯人が捜査陣に対してフェア・プレイを心掛けています、みたいな感じで妙。

No.735 7点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2020/06/04 11:52
 メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧、と言う状況で読み返すと、本作は一幕の舞台劇の如し。いやむしろTVのドッキリ企画か。役者による芸風の違いも(それなりに)書き分けていて見事。肩に力が入ってつい失言しちゃう人。素のままで通したようなハマリ役。そして別人格を演じ切った名優。
 国際色豊かな登場人物達についてのさまざまな偏った片言(イタリア人はナイフを好む、とか)からは、国粋主義や階級社会に対する痛烈な皮肉を感じた。

No.734 6点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2020/06/04 11:51
 殺人発生以前からポアロが巻き込まれている設定だが、巻き込んだ人物の考え方は“作者の都合”のようで不自然に感じた。
 
 ところで、7章の冒頭。
 ポアロ「尋問はしたのでしょうな?」
 ジャップ警部「しましたとも、そして、あの十四人が一人残らず云々~」

 これは次作についての大胆な伏線か、それとも自分が何気なく書いた台詞に触発されてアレを思い付いたのか。

No.733 6点 津軽路に死の雪が舞う- 青柳友子 2020/06/04 11:50
 情炎ミステリー、と謳われている。ボクシング、性風俗産業、イタコ、の三題噺と言った趣で、更に旅情あり男たちの三角関係ありとなかなか読ませる。ミヤちゃんのキャラクターは美味しいね。
 ところが後半は雲行きが怪しい。徐々に明らかになる、主人公の人生の裏側で起きていた諸々は色々強引で、腑に落ちるとは言えなかった。
 総じて古いタイプの劇画(池上遼一とか)みたいな印象。前半は良い意味で、後半は悪い意味で。因みに、題名は内容に全然合っていない。

No.732 5点 新 顎十郎捕物帳- 都筑道夫 2020/06/04 11:48
 揃いも揃って下手人達は無駄に芝居っ気が過ぎるものだから、何故そこまでやるの? と言う話ばかり。そんな中で、「えげれす伊呂波」は地味ながら筋がすっきり通っていて良し。「きつね姫」の理屈も面白い。「浅草寺消失」でEQ「神の灯」に挑戦するも、これは都筑の完敗だ。

No.731 3点 イナイ×イナイ- 森博嗣 2020/06/04 11:47
 犯人が事件を、誰に対して、何の目的で、どのように見せかけたかったのか、まるで判らない。私の理解力の問題ではなく、辻褄が合っていないからだと思うのだが。
 エピローグでの小川令子の“もっとうまく(商売として)立ち回る方法はなかっただろうか”と言う発想は、ミステリっぽくなくて面白い。

No.730 8点 山椒魚戦争- カレル・チャペック 2020/06/02 12:11
 昔の風刺SFだが、古さを理由に手加減して読む必要は感じなかったし、発表当時の世界情勢など特に意識しなくとも作品自体が純粋に面白い。グロテスクなイメージの山椒魚が愛らしく感じられ始めた、かと思うと当初とは別のニュアンスでグロテスクに変わり、それはつまり人間の鏡像である。と、ざっくり言ってしまえばありがちなアイロニーだが書き方が巧みなので読まされてしまう。

No.729 6点 砂時計- 泡坂妻夫 2020/06/02 12:09
 職人モノの一編になかなか鮮やかなミステリ的仕掛けが施されていて、そうすると他の作品にも同系統のものを期待してしまうのが人情ではないか。しかし他の職人モノはあくまで職人モノであり肩透かしを食らった。ならば問題の一編を職人モノの末尾に配しミステリ短編との橋渡しにすべきで、途中に割り込む形の芸能モノ2編は最初に置こう(最後に置くと、ミステリ要素の無さがやはり肩透かしだから)。
 と言う感じに収録順にも配慮してくれると印象がまた違うと思う。ミステリも職人モノも泡坂妻夫作品として同じ扱いで読んで欲しい、みたいな編集意図を感じるがなかなかそうもいかないのよ。

No.728 6点 時空旅行者の砂時計- 方丈貴恵 2020/06/02 12:09
 SF設定を組み込んだミステリと言うのはもはや珍しくもないので、その点だけ取り上げて変に騒ぐことはないし、普通のミステリと同列に並べて正当に評価することが出来る。本作は本格ミステリとしては結構王道で、手を抜かずに色々組み立てていると思うが、優等生的であるがゆえの物足りなさ、パターンをこなしている感じ、も否めなかった。内容ではなく書き方の問題が大きいかと。
 あのSF系トリックには、そんな手があったかと感心した。一方、Tさんの死因が日記と異なるのにはどういう意味があるのか。タイム・パラドックスは苦手だ。
 第四章の筆談はもっと筆談っぽい文体にしたほうが演出上良いと思う。

No.727 7点 修羅の家- 我孫子武丸 2020/06/02 12:07
 ああ気持悪い(褒め言葉)。ふーん、実録小説みたいなものを狙ってるんだな、でも最初の章でネタが読めちゃうよ……と舐めていたら予想外のところへ飛んで、成程やっぱりミステリの人だなぁと感心しつつ、やはり気持悪い。最後は雰囲気モノにせずもう少しきちんと締めたほうがいいと思う。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1706件
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