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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1953件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.993 5点 男の首- ジョルジュ・シムノン 2021/06/12 12:41
 変な話だ。そんな“実験”、アリか? 死刑判決を下した陪審員は安直だが、メグレも彼のどこに首を賭ける程の信頼を見出したのか?
 語られる真相は存外に面白い。しかしメグレの口による間接的な説明なので、どこか薄い膜の向こうを見ているようで勿体無い。この手の心理は、倒叙形式か、そこまで行かずとも犯行前後の諸々を直接描写出来る形で書く方が良くない? こういうのは我が国の新本格勢のほうが上手く書くなぁ。

No.992 6点 シャーロック・ホームズの回想- アーサー・コナン・ドイル 2021/06/12 12:41
 “そうか、ホームズ物語ってこういう感じか”と第1集を読んでそれなりに判ったので、然るべき向き合い方で挑む。つまり、捻りの無い実録風犯罪小説兼時代風俗小説として、期待し過ぎずあるがまま流れに任せるが吉。コツが摑めたので前巻よりは楽しめた。
 外国語の暗号も「グロリア・スコット号」ぐらい簡単なら面白い。「ギリシャ語通訳」で証人の安全を確保する前に広告を打っちゃうなんて対処が雑だよ兄貴。「最後の事件」の最後の手紙に涙。

No.991 7点 消えた断章- 深木章子 2021/06/08 11:19
 被害者達のうち、“失踪者を探し回っているのが脅威だった”とされるSYが殺された理由がよく判らない。そもそもこの人は存在意義が希薄で、ポッと出て来てすぐ殺されちゃった。余分なエピソードなのでは。

 クリスティ談義は某長編('37年)を暗示しているのか。

No.990 7点 他人の顔- 安部公房 2021/06/05 10:01
 病気で、怪我で、または生まれ付き、顔を失って仮面で生きる男女――御馴染のこのキャラクターの在り方に、ここまで深く潜ったのは初めて。某作も某作も、犯人にはそんな苦悩があったんだねぇ。入れ替わりも楽じゃない。一読、ゴシック系ミステリの見え方を変えてしまう、なかなかの劇薬。仮面製造会社の妄想が昨今のフェイクニュースやマスク社会を射抜いており可笑しい。

No.989 6点 ヴェロニカの鍵- 飛鳥部勝則 2021/06/03 11:17
 確かに一人の画家の死が描かれるものの、それと関係の乏しいサイド・ストーリーにもページが費やされ、読み終えて振り返るとミステリとしては歪な形で、それも作者は承知の上のようだが、謎がポツンと孤立する配置ではなく周囲との有機的なつながりがもっと欲しかった。某が冷静に対処していれば死ななかったかも、と言う皮肉な指摘には唸らされたけどね。

No.988 7点 石の血脈- 半村良 2021/06/01 12:29
 前半はSF伝奇ロマンと言うより企業サスペンスみたい。めまぐるしく場面が変わり、相関関係の把握が大変。結末では作者が息も絶え絶え。ケルビムの居並ぶ異様な情景はもっと堪能したかった。
 雑誌連載じゃないのだから全体をもう少し俯瞰的視点で整理して、ラストにこそじっくり紙幅を費やしても良かったと思う。特に昔の知人を消して行くところ。“あんた、好い人だな”会沢は助演男優賞。

No.987 5点 飢餓同盟- 安部公房 2021/06/01 12:28
 革命を志す秘密結社のアレコレ。面白い場面が無くはないが、思索的な深みも、物語としての興趣も、中途半端で物足りなかった。誰かが安部公房を模倣して書いたものの本家には及ばず、と言った印象。

No.986 6点 交換殺人はいかが? - 深木章子 2021/06/01 12:27
 この作者の長編には非常にパターン化された人物が多く登場してしばしば鼻に付いて感じられるが、パターンでもキャラクターがあるだけまだましなのだと気付いた。本短編集に於ける事件関係者は、事件を構成する役割があるだけの記号と化している。
 トリックが漫画的だったり純粋な推理クイズに近かったり(共に悪い意味ではない)して、そういう記号扱いが嵌まっているものもあるが、幾つかはもっと長くして人物に厚みを持たせた方が説得力が増すと思った。

No.985 5点 涼宮ハルヒの暴走- 谷川流 2021/06/01 12:27
 ハルヒは世界からドッキリを仕掛けられ続けているようなものだから、企画が尽きる前に一つ上の階層を引き込み新たな展開を図る――順当な策だけど、地味になっちゃってない? 謎の数式もなんだかどうでもいいような答だ。一方、SF的不条理をまるで含まない「射手座の日」が結構いい。

No.984 7点 親しい友人たち- 山川方夫 2021/05/30 11:27
 純文学なんか書く人だから、ミステリについての理解が多少的外れでも責められないよね。これは玉石混交でも仕方ないかな。

 と言う偏見の下に読み始めたら、その打率の高さに驚いた。全33編のうち、省いても良かったかなぁと言うものは5編程度。起伏の少ない心理的ミステリも純文学の血を感じられて悪くないが、はっきりと犯罪小説している「三つの声」が(緩い部分もあるけど)一推し。

No.983 7点 菩提樹荘の殺人- 有栖川有栖 2021/05/28 12:27
 有栖川有栖の文章はやはり良い。あちこちに挟まれた批評もナイス。
 「探偵、青の時代」。最後の mew の使い方がいいね。
 表題作。警察が抜いた池の水、元に戻しておいてくれないんだ……。

 余談:とあるCDを聴いていて、ふと気付いた。
 「哀愁トラベラー」作詞:高柳恋 作曲:渡辺真知子
 コマチ刑事の名前の由来はコレ? 偶然かな?

No.982 5点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている キムンカムイの花嫁- 太田紫織 2021/05/28 12:17
 第弐骨。疑惑の残る自殺が、実は本当に自殺だった場合、後から証明するのは結構難しい。まぁミステリでそんなオチはそうそう無いか。真相とされた遺体二つの動きはちょっと出来過ぎ。

No.981 7点 白の協奏曲- 山田正紀 2021/05/25 12:40
 こういう“撤去作戦”が実施されたら、私はどうするだろう。火事場泥棒のほうが怖いな~。テレビやラジオを聴取する義務は無いのだから、そんな指示は知らないぞと言い張れる。居留守を使って数日部屋に籠もるか。
 物凄い大金とか財物とか、人間一人の身の丈とあまりにスケール感の違う欲望を見ると、その対比に哀しみを感じてしまうことがある。結末の“散骨”の場面もそんな感じだった。
 第一楽章で説明される“囚人ゲーム”はちょっと説明不足。
 楽団員は全員男性なので表紙のオブジェにはミスがある。

No.980 5点 石の眼- 安部公房 2021/05/25 12:39
 全体を貫く灰色の空気感。謎の成り立ちが曖昧で、人々はその周りをぐるぐる回っている。戯画的な雰囲気にいきなり厚みのある思考が切り込んで来たりして落ち着かない。
 “謎”とはそれを載せるなにがしかの土台があってこそ成立するわけで、そこを不確定にした本作は結果的にミステリに対する批評、と言うにはしかし中途半端で、最終章で何故あんな行動に出るのか不可解。そしてそれでこそ安部公房。

No.979 8点 石ノ目- 乙一 2021/05/25 12:39
 魔法のような4編。登場人物が不自然な行動を取っても普通に読めてしまうところが凄い。

No.978 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている わたしのおうちはどこですか- 太田紫織 2021/05/25 12:38
 第弐骨。不自然な行動に至る自然な動機と状況が上手く設定されていると思う。
 第参骨。心の動きに対して行動が非常に不自然。特に鴻上は何故あんなに頑なだったのか。

No.977 7点 ウは宇宙船のウ- レイ・ブラッドベリ 2021/05/23 10:38
 レイ・ブラッドベリの作品には、作者が“文章の人”であることの功罪が如実であると思う。なんてことの無いストーリーがこの人の言葉で語られた途端に鮮やかな幻想に姿を変える(「霧笛」「太陽の金色のりんご」)一方で、魅力的な設定を尻すぼみにまとめてしまう(「長雨」「霜と炎」)バランス感覚の欠如は多分表裏一体。
 本書は自選集で、作者の見方はやはり読者とはズレてるものだなぁと思わせるセレクト。

No.976 4点 元彼の遺言状- 新川帆立 2021/05/23 10:30
 著者からのメッセージ→“令和の女は強いぞ!”
 ――でもこの主人公を“強い”と評するのはかなりのアイロニーだとしか思えない。そして、“商品”としての側面も含めたこの小説の在り方として、そのアイロニーは使いどころを間違えているんじゃないか?
 語り手が業突く張りなので、地の文で“誰だって、お金が欲しいに決まっている”等と内心が語られる。それがどうにも言い訳がましい。また、彼女の凄腕ぶりを示す場面があまり見当たらない。いちいち他者を値踏みするさまが鼻持ちならない。かといって本人にそれだけの美学も見られない。
 あれやこれやの伏線は上手く回収されているし、面白いことは認めざるを得ないが、好きにはなれなかった。あのメッセージがなければ“拝金主義者が顰蹙買いつつ大暴れ”みたいな話としてもう少し素直に楽しめたかもしれないが、広告で興味を持ったのに広告のせいで楽しみ切れないとは皮肉だ。
 と言うかこの主人公、“残念な人”キャラが売りじゃないの? GS美神令子じゃないの? 版元のサイトを見たら、推薦コメントにその手の屈託が全然無くてびっくりした。

No.975 6点 ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人- 東野圭吾 2021/05/23 10:15
 軽妙で読み易く出来の良い、しかし普通の娯楽作品。
 ノートは託されたものであって、純粋な盗みではないよね。

No.974 7点 モルグ街の美少年- 西尾維新 2021/05/21 14:59
 終わる終わる詐欺常習犯の作者であるが、『美少年探偵団』アニメ化(美術のソーサクにもちゃんと声優がいるんだ……)に伴い案の定番外編の登場。単なるファンサービスみたいなものだが私はファンなのでサービスされました。眉美ちゃんの口が更に悪くなってないか。で、内容は青柳碧人『ヘンたて』の変奏。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1953件
採点の多い作家(TOP10)
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