海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1971件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1911 8点 撮ってはいけない家- 矢樹純 2025/02/19 12:31
 作者の筆力が十全に発揮されたホラー・ミステリ。新機軸に挑んだ為に想定外のポテンシャルが活性化したのか?
 伏線はそれなりに拾った心算だったが、それを超えて張り巡らされた蜘蛛の糸に翻弄された。オカルティックなのに合理的な語り口が怖さを増幅する。解決編で怒涛の情報量に溺れかけたので、そのへんもう少し余裕を持って整理されていたら、とは思う。

No.1910 5点 あらゆる薔薇のために- 潮谷験 2025/02/19 12:30
 メインの謎は “昏睡病の真実”。それに対して、殺人事件の謎は見劣りする。病気の問題に的を絞って、もっと詳細に書き込んだ上で完全にSFにした方が、真相で驚けたんじゃないだろうか。
 最も魅力的な登場人物は、中盤に差し掛かってようやく前面に出て来るあのアスリートさん。せめて彼女が最初から活躍していれば……否、それはもう別の話になっちゃうか。

No.1909 5点 アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー 2025/02/19 12:30
 こんなに紙幅を費やすサイズの事件ではない。そもそもこの人、語り手三人を書き分けるなんて器用なことが出来る作家じゃないよね。コンセプト先行で頑張り過ぎたか、長く延びた割に効果は上がらなかった。
 フェル博士の推理の筋道は “搦め手” って感じで邪道? だけど出入り口のトリックや台詞の手掛かりは面白い。せめて3分の2に収めれば疲れる前に読み終われただろうに。

No.1908 5点 東京ー神戸2時間50分 そして誰もいなくなる- 西村京太郎 2025/02/19 12:29
 変な話。やんちゃな権力者が無茶苦茶やって、しかし十津川警部も負けていない。最終ターゲットは勘で判ってしまったが、その手を使うなら、途中経過はもっと真面目にやったほうが良いだろう。
 クイズ付き。イマイチ厳密でない問題文や解答が含まれる気はするが、それはともかく難しい。あんな知識全然持ち合わせが無いよ……。

No.1907 4点 君のクイズ- 小川哲 2025/02/19 12:28
 いやはやクイズを題材にしてここまで人生に切り込む内省的な小説が成立するなんて。
 と言う点では高く評価したいのだが、具体的な事例、と言うか種明かしに関してはイマイチ辻褄が合わない気がするのだ。
 十五問目(仏教において~)の段階でスコアは6-5、コレで勝負が決まる可能性もあった。そして良く見ると、この問題文は疑惑の十六問目(ビューティフル~)と条件が同じなのである。
 “優勝がかかった問題で『ゼロ文字押し』をする” のが狙いなら、何故十五問目で実行しなかったのか。
 因みに十一問目(モンスター~)も同様。要は作者の詰めが甘かったってことだよね。物語の本質に関わることではないが、よりによってそんな問題を採用するなんて……。
 あまりに出来過ぎなポカなので、寧ろ “本庄絆は予知能力者で、全て踏まえた上でこの終わり方を演出した” と言う裏設定を作者が用意しているんじゃないか、と勘繰ってしまう。だって本庄が二問誤答したからこそ十六問目まで縺れ込んだのである。

No.1906 7点 大樹館の幻想- 乙一 2025/02/14 14:45
 いやしくも本格ミステリを謳いながら、こんなに舞台の構造が曖昧なのも珍しゅうございます。
 常に靄がかかったように、ふわふわと無効化される境界条件。一つの館に “無数の部屋” が存在するパラドックス。発想もさることながら、それを成立させてしまう乙一先生の筆致は見事と言う他ございません。

 しかしながら、犯行の骨格だけ抜き出せば、ツボを押さえているとは言え、良くある本格のプロットだと言わざるを得ないのではないでしょうか。
 更に話が進むと存外に俗っぽい事情も顔を見せ、あまりと言えばあまりの落差に眩暈を覚えました。

 それこそが狙いなのやも知れませんが、私は幻想のまま、天上界のまま押し通しても宜しかったかと思惟致します。ミステリの枠など突き抜けて戴きたかった! 御主人様の至高の世界の終焉には、もっと高尚で形而上的な動機を期待していたのでございます。

No.1905 7点 動くはずのない死体- 森川智喜 2025/02/14 14:44
 表題作は素晴らしい。物語としての展開も、明かされた仕掛けも面白い。こういうの大好き。
 「フーダニット・リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」。作中作を読み解く類の話も好きなんだけど、今回改めて気付いた、こういうのは普通のミステリ以上に一字一句にこだわって読まないと楽しみ切れない。おかげで消耗した。
 「幸せという小鳥たち、希望という鳴き声」は何が狙いなのか良く判らなかった。たいしたことない “事件” で目を晦ませておいて(こちらもたいしたことない)叙述が本命、ってこと?

No.1904 6点 スリーピング・マーダー- アガサ・クリスティー 2025/02/14 14:43
 てっきり “彼女自身が下手人だった” と言う真相かと思った。意図的な殺人かはともかく、子供の体重でも紐を伝わって首の一ヶ所にかかれば死ぬことはあり得る(そもそも死因は未確認だ)。記憶が曖昧なのはショックのせいだし、父の行動はそれを庇おうとした故である。調べが進むうちにそれに気付いた夫あたりが、調査を中止するにも遅過ぎてやむなく証人の口を封じた、と。
 うーむ、そんな話、読んだ記憶があるような……その作者も本作を読んで私と同じことを思ったんじゃないかなぁ。

 “猿の前肢” がどうもイメージ出来ない。画像検索して、結末で明かされる小道具を考慮すれば納得。“前肢” と言うか、腕は含まない手首から先、毛が生えていない掌の部分のことだよね。毛むくじゃらの腕をイメージしてたけどそこではない。作中の言い方でちゃんと通じてたんだろうか?

No.1903 6点 エンドロール- 潮谷験 2025/02/14 14:43
 “自殺討論会” までは素直に楽しめた。
 しかしそれ以降、話が今一つ広がらず。社会への影響を視野に含めている一方、事件はクローズドな人間関係の範囲内に留まってしまった。かと言って単なる殺人事件としてはミステリ的にさほど面白いものではない。革命と言うよりは内ゲバの話か。

No.1902 4点 メグレとマジェスティック・ホテルの地階- ジョルジュ・シムノン 2025/02/14 14:42
 動機が腑に落ちないなぁ。彼女と彼を会わせたくなかったから。でも、会ったって不都合はまぁ無いのだ。
 勿論、二人が話し合えば、脅迫の件と両者間の齟齬は明らかになる。しかし第一に、メグレが言う通り、犯人は巧妙に自分の存在を隠している。メグレが事の次第を把握出来たのは、警察にタレコミがあったからである。一般人の二人が真の脅迫者を見付けるのは困難だろう。
 第二に、万一正体がバレたとしても、脅迫ネタを握っている犯人の立場が強いのは変わらない。何故、強請る側が強請られる側を殺すのか。

 それに関連して:当時の銀行は、手紙一通で、入金はともかく小切手発行まで可能だったの? ザルじゃない?

No.1901 5点 そして誰かがいなくなる- 下村敦史 2025/02/07 12:37
 “ミステリなら殺人が起きそうな館ですね” みたいな台詞はもう百万回読んだぞ。その手の “登場人物がミステリ愛好家でミステリっぽい事件のミステリっぽさを意識している物語” としては、ごくパターン通りでしかも地味。今時のキャラは “ミステリなら殺人が起きそうな館ですね、とミステリに登場する招待客なら言うところですね” と言わなきゃ。
 せめてこれ、“御津島磨朱李” 名義で出せなかったんだろうか。

 “ソレってアレのパクりじゃん” とか我々はフツーに言うし、余程のケースでないとそんな騒ぎにはならないよね。作家はナーヴァスなのだろうか。盗作云々については、あまり具体的に記述していないせいもあるが、そこまでの大問題だとは思えない。故にホワイについての違和感が残った。

 本棚の写真が興味深い。ぼやけているが、何となく判別可能な題名やレーベルもあり。どの程度意図的なんだろうか。

No.1900 6点 そして誰かいなくなった- 夏樹静子 2025/02/07 12:36
 本歌取りはネタバレを内包するので、ことミステリに於いては如何なものか。
 とは言うものの、固いこと言わずにファンの為のお楽しみ企画ってことで良いんじゃないの、なんて気持になる程度には、上手く描かれていて面白かった。まぁ元ネタはミステリ界の課題図書みたいなものだし。

 犯人の心情として、動機の切実さの割りに、犯行の演出で結構楽しんでない? (架空の)罪状がワルの悪行自慢みたいだったり、死に方が限界にチャレンジするみたいだったり。TVに出ていた有名人の設定とか、必要?
 しかしこれは同時に、心情として、そうして無理にでも気持を揚げておかないと二進も三進も行かない程、しんどかったんだろうなぁ、とも解釈出来る。作者はどういう心算だったんだろうか。

No.1899 8点 そして二人だけになった- 森博嗣 2025/02/07 12:36
 本作は、講談社ノベルスの一連の森ミステリィの上位数作に匹敵する傑作。ラストを除けば。
 矛盾する二つの真相を無理矢理重ね合わせた、量子論的結末? 勅使河原潤と言うキャラクターに関する二つの行く末を、どちらも捨てられなかったか。物語作家としては明らかに甘えだが、エピローグで言い切っているように “そうしたかったからそうした” のであり、その結果射殺されても否やは無かったのだろう。まぁ死んで償う程ではない。
 JDCのアレ、それとも麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』と比較すべきか。ただ、その問題点を除くとミステリとして非常に魅力的であるだけに、無理が痛々しい。
 盲目のフリをする描写には、教えられること多し。

No.1898 7点 そして誰もいなくなるのか- 小松立人 2025/02/07 12:35
 良い意味で食べ易い一品。一つのアイデアを誠実に展開して、掌に収まる範囲で綺麗に纏めていると思う。犯人の失言にはすぐ気付いたが、成程そこで振り返ると幾つも伏線が見えて来る。私にはちょうど良い難易度で気持良く頷けた。終わらせ方も良い。

No.1897 6点 そして犯人(ホシ)もいなくなった- 司城志朗 2025/02/07 12:34
 “他殺競走” と言うアイデアが、概ね台詞で説明されるだけなのがあまりにも勿体無い。もっと作品の中心に据えて、一喜一憂する賭博者を直接描写する場面を増やせばいいのに。叙述トリックを上手く使えば、あの事後従犯が本当に配当金稼ぎの為に殺したかのようにミスリード出来たのでは。

No.1896 8点 翼とざして- 山田正紀 2025/01/31 13:05
 記憶喪失は “安易” でコレならOK? と突っ込みたくもなるが、山田正紀ミステリにしては自家中毒を起こさず走り切った。まぁ “アイデンティティの揺らぎ” は何度も使ってるネタだから、たまにはビシッと決めないと。犯人の気持にはグッと来たね。最大の謎はサブタイトル?

No.1895 7点 スメラミシング- 小川哲 2025/01/31 13:04
 こんな意味不明な表題を掲げて、強気だこと。全6編。どれも濃度は高い。が、必ずしも高ければ良いってものでもないなぁ。そこも含めての作風ではあるが、量と質のバランスが取れているのは「ちょっとした奇跡」くらい。ちょっと変わったボーイ・(スライトリー・)ミーツ・ガールでコレは絶妙。予想したオチそのままだったが、それでもグッと来た。
 表題作はもっとじっくり、長編でもいいくらい。“ソムリエ” 呼ばわりには噎せるほど笑った。
 「神についての方程式」で語られるアカデミックな諸々は事実? 勉強になりました。でもそれなら、小説の半分が学術書からの引用ってことだろうか。実は私、時々この人の文章に “中身があるのに実際以上に舌先三寸に見せたがっている” ような印象を受ける。物語の語り手、が読む記事、の中の講演、と言うマトリョーシカ構造も、内容を冗談めかす為の方便ではないだろうか。

No.1894 5点 リア王- ウィリアム・シェイクスピア 2025/01/31 13:03
 これは悲劇なのだろうか。勢いで三女を勘当して権力を手放す王。権力者は何を考えているか判らないくらいの方が権威が高まったりもするが、この人は単なるコドモである。引っ込みが付かなくなっただけで、綸言汗の如くとばかりにそれを押し通すから結果として戦争まで起きる。
 権力システム自体が悲劇を起こし易い構造を内包していると言う喜劇、だろうか。とばっちりで追放されたり目を抉られたり家臣はつらいよ。リア王よりグロスター伯の悲劇。

No.1893 6点 アクナーテン- アガサ・クリスティー 2025/01/31 13:01
 これは作者の趣味なのだろうか、結構リラックスして自由にポリティカル・ロマンの翼を広げた印象を受けた。台詞を通して現代社会に物申す、みたいな部分はまぁいいや。
 知識が無い私にしてみれば、古代エジプトなんて或る意味で異世界みたいなものだから、『レーエンデ国物語』みたいな心算で楽しんだ。

 友人たるホルエムヘブの存在感がやや薄いせいで、最後の決別の場面は必要以上に大仰な感じだ。前提として強固な関係性があってこそ、ああやって “引導を渡す” みたいな形が映えるのだけれど。アクナーテンに接する時は一歩引いていたから判りにくかったか。
 アクナーテンが吟ずる詩はどうなんだろう。“格調高さ” って却ってビミョーな感じになることがあるし、へぼ詩人が得々と自己陶酔している喜劇にも見える。

 訳文については、どういう基準で考えるべきか。古代の王宮だから儀礼的で品位ある言葉遣いなのはもっともだ。ただ、耳で聞いたときに意味が捉えづらそうな語彙(横溢、閑暇、咆哮……)がたまに現われるのは配慮が足りない。“読む戯曲” だと割り切れば無問題だけど……。

No.1892 4点 闇に消えた男 フリーライター・新城誠の事件簿- 深木章子 2025/01/31 13:00
 主人公のフリーライターがどういう経緯で事件調査を引き受けることになったのか。そして最終的に指摘される犯人。両者を見比べると、どうもおかしな話になって来る。
 その立場で状況的に何の対処もしないわけには行かなかった、と言うことかも知れない。でも作中でその点についての言及が皆無。まぁ読者にしてみれば、説明されたって不自然さは否めないわけで、やはり役割分担による登場人物の配置が良くないのでは。
 例えば、探偵役が警察官や(当該事件を報道する為の)マスコミ関係のような、否応無しに外部から押しかけて来る圧力なら、この問題は発生しなかったと思う。

キーワードから探す
虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1971件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(109)
西尾維新(73)
アガサ・クリスティー(72)
有栖川有栖(51)
森博嗣(50)
エラリイ・クイーン(48)
泡坂妻夫(41)
歌野晶午(29)
小林泰三(29)
皆川博子(25)