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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1783 7点 クロコダイル路地- 皆川博子 2024/08/23 13:15
 あくまで個人(しかも下っぱ)の視点で描いたフランス革命前後。しかしそもそもの生活環境の不潔さや不合理さに、どういう勢力が、どういう主張が、どういう根拠が、と言った事柄がどうでも良くなってしまう。結局 “そのカネをよこせ!” と言うのが革命だ、と思った。
 誰が主人公と言うわけでもない長々しき作品ゆえ、復讐にせよ裁判にせよ物語の核とは思えない。もう少し “決着” らしいものが欲しかった。しかしそれが “歴史” なのか。単にライフゴーズオンでは読者があっちから帰って来られない。
 貧民の子供達が臨時収入を見世物に費やしてしまうのがとても不思議だった。

No.1782 7点 わが一高時代の犯罪- 高木彬光 2024/08/23 13:14
 ネタバレするがミステリ的には微妙であって、それは真相の一部が伝聞でしか伝えられていない点である。ドン・キホーテの死の状況はあれが真実なのか。
 反戦運動に対する憲兵の追及が厳しくなると、彼との交遊がリスキーだと感じる者もいるだろう。組織内での内輪揉めだってあり得る。それゆえ例えばあの二人が彼を追い詰めて自決を強いたのかもしれない。もしそうであっても、それ以降の展開(偽装工作)は作中の通りで成立しそうである。

 と言うイチャモンはあるのだが、それでも尚、コレはなかなか凄い。
 いかにも “作者の体験が反映されています” って感じだが、一高と言う “場” への愛慕、時代の影、そして青春への挽歌。魂を削って書き付けたような熱を孕んだ文章。色鮮やかなリアリティと随所に埋め込まれたリリシズム。やれば出来るじゃないか。下駄を鳴らして奴が来る。神津恭介は蛮カラ気質の中で目茶苦茶浮きそう。

 ところが併録の短編はどれもダラーッとしていて、別の人が書いたんじゃないかと思うくらいなのだった。

No.1781 7点 スフィアの死天使 天久鷹央の事件カルテ- 知念実希人 2024/08/23 13:13
 専門知識を適度に噛み砕いて面白く読ませている。リアリティの度合いも題材を鑑みると丁度良い塩梅ではないか。
 ワトソン役・小鳥遊の察しの悪さはイラッとするねぇ。ああいう凡庸さを書くのって、主役の奇矯なキャラクターより難しそう。匙加減は今一つで、反応がわざとらしく感じられること多し。

No.1780 6点 キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人- 森川智喜 2024/08/23 13:06
 奇天烈な設定に呼応して個性的な、しかもしっかり面白いロジックを展開。しかしオチは、ピースを嵌める代わりに力業で握り潰してしまった感じで満足出来なかった。

No.1779 5点 腕貫探偵- 西澤保彦 2024/08/23 13:06
 目の付け所 “だけ” は良い。一話につきワン・ポイントは面白いアイデアを用意しているが、それを成立させる為に残りの部分では幾つもコジツケを積み重ねている。まぁそれはこの人のいつもの作風であって、それを承知で読む私はそのコジツケがまだ致命的ではないと思っているのだろう。

No.1778 7点 イレブン殺人事件- 西村京太郎 2024/08/15 13:02
 個性的とは言えないが、“公式に素材を代入しただけ” みたいなパターンではなく、一編ごとにアイデアを練って書かれた感じで好感が持てる。
 「死体の値段」だけは今一つ。手掛かりがわざとらしいと言うか、死亡時刻くらい計算に入れて偽証しろよと思った。最後まで企みが成功しちゃう話でも良かったなぁ。
 テキトーな表題は何とかならなかったのか。一編一殺ではないから実際はもっと多いしね。

No.1777 6点 五人目の告白 小林泰三ミステリ傑作選- 小林泰三 2024/08/15 13:02
 “ミステリ傑作選” と言っても小林泰三だからねぇ。一般的なものとは基準がまるで違うのである。
 SF傑作選である『時空争奪』と印象はほぼ同じ。どのジャンルを書いてもべったり “小林印” の刻印を押したような強烈な作風だから、ミステリだSFだと言うのはさほど重要な区分ではないのに、そこで区分してまとめてしまったわけで、コンセプトに無理があったんじゃないか。

 “入門編” としての機能性には少々疑問符が付く。“自己認識の混乱” は作者が多用したネタだが、だからと言ってこんなに重複して採らなくても。それより超限探偵とか因業探偵とか安楽探偵とか入れれば良かったのに。
 “ミステリ世界の地図” があるとして、その辺境にこんなものばかり書いている偏狭な小説家がいた、と言う記念碑にはなっているだろう。

No.1776 6点 巫女島の殺人- 萩原麻里 2024/08/15 13:01
 この人達、何の権限も無いのに余所の事情に土足で踏み込み過ぎ。島の人が怒るのも判る。語り手は無神経な自己陶酔キャラだ。
 祀りに焦点が集まった結果、殺人事件が添え物みたいに感じられる。
 “島の秘儀” とは、事実としてオカルティックな事象が起きているのか、プラシーボ効果的な心理現象なのか、解釈の余地が残る。

 以上の要素は必ずしもマイナスではなく “そういう話” として楽しめるのだが、“中央の権力がマイノリティを蹂躙している” ようにも見える。

No.1775 6点 2084年のSF- アンソロジー(国内編集者) 2024/08/15 13:01
 表題はジョージ・オーウェル『1984年』の百年後、の謂。
 と言っても当該作のトリビュート集ではなく、【仮想】【環境】など題材は様々。そもそも未来を想像して描くのはSFの身上そのものであって、実はアンソロジーとしてのテーマ性がそこまで色濃く感じられるわけではない。明らかな駄作は流石に無いが、構成や文体に実験性を取り込んだ作品はあまり効果が上がっておらず、言ってしまえば “もっと普通の書き方をしたほうが面白くなったんじゃないの” と思う。
 23編中7編くらいは “SF風新本格ミステリ” と分類可能かも。安野貴博「フリーフォール」が素晴らしい収穫。

No.1774 4点 将棋殺人事件- 竹本健治 2024/08/15 13:00
 色々アイデアは詰め込んでいるけれど、使い方が拙い。一つ一つ駒を並べて、しかしそれを動かさないまま、最後に登場人物が作者の意図を代弁してまとめてしまった感じ。
 作中に掲載されている詰将棋 “無双第九十四番”、盤に駒を並べて実演してみた。するとびっくり:盤面全体に駒を配置しているくせに、詰める手順では右半分しか使っていない。これはつまり、本作には謎解きに使われない余計なネタも沢山含まれていますよ、と言う密かな宣言なのである。

No.1773 7点 ファイナル・オペラ- 山田正紀 2024/08/09 11:49
 山田正紀は神だけでなく仏も狩るのか。
 物語の核がなかなか定まらないのは大問題。ようやく見えてきたのは堅固な構築物ではなく川面に揺らぐ影のようだった。多重解決をあそこまで繰り返してしまうと、残る真相はもうアレしかない、と言う形で先が読めてしまうのには困ったな。
 過剰な表現も強引な暗合も呑み込んで作者が突き刺したかった一つの祈り。つまり狂気とは狂った世界に対する正常な反応である。儚き者よ、物狂え。

No.1772 7点 シュロック・ホームズの冒険- ロバート・L・フィッシュ 2024/08/09 11:48
 私はシャーロック・ホームズが大好きと言う程ではない。それを考慮に入れると、本作の方が原典より好きかも。

 翻訳で判りにくくなっている洒落や拾い損ねているネタはあるだろう。何しろ訳者が “この表現はこういうネタだ” と気付かないとそれを意識した上手い訳にはならないのだから大変だ。
 しかしそれを差し引いても、物語の構造がユーモアを内包しているので充分に楽しめる。見当違いの推理なのに総合的には事件の平仄が合ってしまい関係者が何となく納得してしまう作りが巧み。“ホームズのパロディ” と言う看板が無くてもちゃんと成立しそう。
 これが更にナンセンス度を増すと、中川いさみのギャグ漫画になると思う。って、もっと知名度のある例を挙げないと伝わらないかな~。

 アーサー卿の或る種のイイカゲンさが数多の二次創作を許容している面もあるわけで、結果的に無二の豊饒さを誇るホームズ世界に敬礼。

No.1771 5点 あなたに聞いて貰いたい七つの殺人- 信国遥 2024/08/09 11:48
 好きなタイプではあるけれど、それだけに同系統の作品を沢山読んだので、第一章の設定だけで色々見当が付いてしまう。と言う皮肉な状況が私の中で既に出来上がっていて参ったね。
 計画は不自然、推理は恣意的、と感じられた。冤罪を上手く着せるには、あの人も殺しちゃうべきでは。本格ミステリと言うよりもサイコ・サスペンス的なキャラクター小説? 不自然さを帳消しに出来る程の突破力は無かった。

No.1770 5点 謎のクィン氏- アガサ・クリスティー 2024/08/09 11:47
 シリーズものとしての枠組みのヴァリエーションを工夫しているところが良いし(降霊術で呼び出すくだりが最高)、その中に収めた個々の事件も再確認してみると決して悪くないけれど、読み物としては淡々としているせいか結局クィン氏の印象しか残らず、しかしそれだけで良しと出来る程に素晴らしいキャラクターではないのである。

No.1769 4点 怪物率- 森晶麿 2024/08/09 11:46
 拠り所とする世界観をふにゃふにゃに留めたまま進行する怪物狩り、と言うコンセプトはまぁ良いとして、何を血迷ったかベタベタなラノベのマナーは、そっちの基準でも好センスとは言えないのではないか。その奥に隠されているやもしれない深遠なる企みも私には見抜けなかった。

No.1768 8点 切断島の殺戮理論- 森晶麿 2024/08/01 13:35
 おっと麻耶雄嵩かと思ったら白井智之だった、と思ったら実は小林泰三かも。何処までも逸脱した無謀な飛躍を、私はポカンと見上げるしかない。この発想は大好きだ。
 “欠落” を抱えた島民達があまりに記号的なのは如何なものか。様々な不便さがあったり、それを補う慣習が生まれたり、と言った生活感が皆無。ポリコレ的に身体障害者を描きづらい、みたいな事情だったらつまらない。しかし題名通り “理論” の物語ならば、必要なのはまさに “記号” なのだろうか?

 ところで “鷹丘裂季” の発音が “高岡早紀” なのはわざと? イヤ、法月綸太郎じゃあるまいし……。

No.1767 7点 マヂック・オペラ- 山田正紀 2024/08/01 13:34
 歴史には疎いので……勉強になりました。それはつまり、“定説を引っくり返した妄想” に驚くだけの素養が足りないと言うことであって、架空の国の戦争系ファンタジーでも読んでいるような気分だった。

No.1766 7点 ぼくらは回収しない- 真門浩平 2024/08/01 13:34
 総じて良く出来ているし、読ませる引力がある。で、私は殺人を扱った話が好きなので、やはりそちらに目が行ってしまうのだ。特にこうして混在する短編集の場合、ミステリ的な良し悪しより題材で評価しちゃう傾向が強いなぁと改めて気付いた。
 密室の物理トリックは初めて読むパターンで感服した。それでいて真相がアレってのは、“大駒を捨てて、と金で王手” みたいな大胆な戦略じゃないか。

No.1765 6点 蔭桔梗- 泡坂妻夫 2024/08/01 13:33
 泡坂妻夫の職人もの/恋愛小説はどれも、構造と言うかストーリーのリズム感のようなものがワン・パターンだと感じる。ミステリならそもそもパターンに則った文芸形式であるから気にならない部分なのに、ミステリ度が薄まるにつれて鼻に付くようになってしまうのかも。そのへんに関して、こちらから一歩、意識的に作品世界に歩み寄らねば読めなかった。
 とはいえ、直木賞受賞作にしては意外に楽しめた。

No.1764 5点 ランボー・クラブ- 岸田るり子 2024/08/01 13:33
 悪くはないが、こういう話は諸々の作家で何冊も読んだ。“曖昧な記憶” と言う題材は使い勝手が良いのだろうか。
 “回りくどい” と作中人物も言っているが、その真相の説明が最後にドバーッと来て疲れてしまうのは、やはり書き方が拙いのだと思う。二件の殺人事件が “記憶の謎” のついでみたいに感じられてしまい被害者が気の毒だな~。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1843件
採点の多い作家(TOP10)
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