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[ ホラー ]
血腐れ
矢樹純 出版月: 2024年10月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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新潮社
2024年10月

No.2 7点 パメル 2025/09/29 19:44
人間の心の闇や家族の複雑で歪んだ関係性が生み出す不気味さや後味の悪さを存分に味わえる6編からなる短編集。
「魂疫」夫を大腸癌で亡くした芳枝のもとに、義理の妹・勝子が奇妙なことを言い出す。亡くなった夫への想いや、義理の妹に対する複雑な感情が交錯する中で、不可解な現象の真相が明らかになる過程と、その後に待つ戦慄の結末が印象的。
「血腐れ」幸菜は子供の頃、嫌がらせを受ける少女・晴香との縁を切るための縁切り神社で血を用いた儀式を行った過去を持つ。大人になった今、妻と不仲になった弟とキャンプに来たその場所は、あの縁切り神社の近くだった。土俗的な恐怖や、家族間の秘密が交錯する物語。過去の因習や現代の人間関係に影を落とす時、「縁切り」という願いが持つ危険な代償について考えさせられる。ホラーとしてだけなく、謎解きミステリとしても優れている。
「骨煤」父親の介護を一手に引き受けていた次男と、介護せずに高圧的な態度をとるだけだった長男。そんな兄弟の前に、父親の遺骨が黒く煤けているという不可思議な現象が起こる。ホラーというよりは、家庭のドロドロとした人間関係とそこからくるイヤな感じが支配する作品。とはいえ、怖さやイヤさの点で物足りなさも感じる。
「爪穢し」NPO法人で働く真面目な姉と、元アイドルで現在は引きこもり気味の妹。姉は妹に頼まれて通販で購入したネイルチップが、何度捨てても戻ってくるという奇怪な現象に襲われる。姉妹の複雑なコンプレックスや嫉妬が生み出す心理的ホラーで、呪いの品の不気味さとそれに翻弄される心理描写が緊迫感を高め人間の狂気を感じさせる。
「声失せ」ウェブライターの主人公は、叔父とともに祖父の実家であるお寺を訪れる。その寺には「撞いてはいけない鐘」があり、鳴らすと神隠しに遭うという伝承があった。鐘にまつわる伝承の真相と、現代の人間のトラブルが巧妙に結びつけられ、後半から急激に増す不気味さと、真相を知った後の不気味さが増幅する。ミステリとしての意外性やオチもいい。
「影祓え」原因不明の高熱で入院する息子を看病している母親は、同じ病院で難病の息子を看病する里香と出会う。彼女から「憑物による呪い」について聞かされる。病院という不安の募る空間で、我が子を想う母の愛と不安が極限まで煽られ、やがて想像を超える恐怖に発展する。ホラー映画にしてもいいぐらい完成度が高い。後味の悪さだけが残らないように、最後には少し気分が晴れるような展開も含まれている。

No.1 7点 虫暮部 2025/03/28 11:24
 どれも面白く怖く良く出来た作品だが、短編集としてこうして一冊にまとまると似通った印象になってしまう。“家族の物語” であると言う共通点のせいか。また、私にとってホラーはあくまで “周辺ジャンル” なので、読み方の解像度が低いのかもしれない。ミステリ色の強い「声失せ」が一番良いと思ったし。


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矢樹純
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