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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1603 8点 花闇- 皆川博子 2023/12/14 13:32
 三代目澤村田之助――幕末に、絶大な人気を博しつつも、四肢を失い、しかしなお舞台に立ち続けた女形が実在した。と言う軽い知識はあったけれども、同時に思っていた。そんなことが可能だったの?
 差別的ではあっても綺麗事抜きで妥当な疑問だろう。本書はそれに、そこそこ答えてくれた、かな。

 高慢ながら芸には真摯。そんなキャラクターをこれでもかとばかりに示し、読者の心に浸透した頃合を見計らっておもむろに手足を奪う。史実だから仕方ないけど作者は鬼か。
 田之助が中心であることは間違いないが、時代に押し流される歌舞伎界の群像劇でもある。中でも大道具師の忠吉の才気は忘れ難い。長谷川! と声が掛かって嬉しいね(私は武将より参謀に惹かれる傾向があるのだが、これも?)。
 しかし役者は改名・襲名が多くてややこしい。叙述トリックに使える。

 知識が乏しいのでどこまでが史実か判らないのだが、期待したより飛躍が少なく、リアリティに対し忠実に書かれている印象。截断後の舞台の様子も意外なほど冷静に描写されている。
 それがこの人の作風だし時代小説のマナーだ、とは知りつつ、そこにもう一歩の何かがあれば、と惜しむ気持も少しある。

No.1602 6点 蜃気楼・13の殺人- 山田正紀 2023/12/14 13:30
 全体を包む大きなトリック。それを成立させる背景の設定等には、関係者が色々と無茶をする理由がきちんと感じられた。
 しかし物理的トリックは……ランナー消失はともかく、串刺し死体や空飛ぶトラクターをあんな説明で片付けるなら、寧ろ無くても良かったのでは。

No.1601 5点 図書館の殺人- 青崎有吾 2023/12/14 13:30
 ①意外な犯人を一応論理的に指摘してはいる。
 しかしあの人を犯人にするなら、相応の動機が必要だったと私は強く思う。被害者との関係がアレだからではなく、“守る為” に殴打した直後に掌返し、ってのが不可解。
 読者には推理不可能な事情が犯人の告白で明らかになるパターンでもいいから。事情を一つでっちあげるくらい、やれば出来ることでしょう。

 ②イニシャルK氏が図書館に忍び込んだ時、“テンキーのカバーは開いていた” “事務室やカウンターのドアは開いていた”。一方、死体発見場面の記述を見ると、“いつもは閉まっている” とのこと。K氏は自分が不正行為をする立場で、誰かが中にいる可能性を考えなかったのか。

 ③殺人のタイミングで、被害者の従妹が図書館の前に来ていた。K氏と遭遇するが、彼女はK氏が探していたまさにその人である。
 と言う状況が全くの偶然で成立している(私は、あまりに作為的だから従妹が犯人だと思った)。

 ④問題の本と被害者を結び付ける直接の証拠は無いのだから、脅迫のネタにはならない。本を挟んで被害者とK氏が睨み合う構図は、両者とも考えが偏っていて、夜中に忍び込む理由を作る為のこじつけに思える。

 ③が最も気になる。個人の気持で説明出来る事柄じゃないからね。
 総じて、全体を俯瞰した視点でチェックしないまま発表してしまった感じ。

No.1600 5点 皆殺しの家- 山田彩人 2023/12/14 13:29
 なんじゃそりゃ、な真相の連続。
 いや、第一話が “被疑者死亡により真実は不明” と言うオチで、それならアリだとも思ったのだ。あくまでゲームとしての推理でリアルな決着を付けないスタイルなら、ちょっとした独自性とも言えそうだし。
 ところが以降は決着を付けちゃっている。それであれらの真相は微妙だな~。

No.1599 5点 死人の鏡- アガサ・クリスティー 2023/12/14 13:28
 「厩舎街の殺人」はシンプルにまとめたことが良い効果を発揮していると思う。このタイトルはアンフェアに見せかけてポアロの台詞に注目するとフェア?
 表題作の真相は意味が判らない。計画的犯行なのに、開けたまま撃って、その後で慌てて偽装工作。そもそも、犯意が有ろうと無かろうと、開けたドアは閉めるのが普通だと思う。つまり、偽装自体は面白いが、それが必然性を持つ状況設定が出来ていない。

No.1598 7点 天動説- 山田正紀 2023/12/07 13:56
 角川ノベルズ版は全2巻。戎光祥出版から合本で復刊。
 初出が雑誌連載なおかげか一話ごとにしっかり山場が盛り込まれ、安心して読めるエンタテインメント作。最終話のちょっとした飛躍も効いている。
 “鉄太郎” が次男であることが最後まで気になったが、結局何の伏線でもなかった。“心の臓だ!” って言い方がツボ。

No.1597 5点 七つの時計- アガサ・クリスティー 2023/12/07 13:54
 冒険ごっこ、って感じ。死者が出ているにもかかわらずふわふわした若人達の言動。退屈のあまりロシアン・ルーレットが生まれた逸話を想起した。求婚が一番のサプライズ。この秘密結社の元ネタはGKC? とか勘繰り過ぎちゃいけないね。

No.1596 5点 奇岩城- モーリス・ルブラン 2023/12/07 13:53
 ラスト3分の1(暗号解読&奇岩城攻略)は面白かった。全て我が物だとばかり宝物を並べる様に、ルパンの圧倒的な孤独を見た。
 哀しい結末は、今時の気遣い重視のコラボレーションと比べて、作者の思い切りの良さに結構感心。どのみち読者だってこれをホームズの公式エピソードに数える気は無いんだから。

No.1595 5点 風ヶ丘五十円玉祭りの謎- 青崎有吾 2023/12/07 13:53
 柚乃と早苗と香織と鏡華と……キャラクター小説的要素にばかり目が行っちゃって謎解きは邪魔。シッシッ、あっち行け天馬。

 “髪がボサボサで眼鏡をかけた中年のお父さんが、少女漫画チックなキャラクターを巻き込んで暴れ回っていた” →岡田あーみん? 食べながらアレを読むってどういうチャレンジャーだ。

No.1594 5点 タカイ×タカイ- 森博嗣 2023/12/07 13:52
 死体を高く掲げたホワイとか曖昧な真相とか、面白そうな要素は含まれているが、わざと面白くない書き方をしてそれこそがクールだと思っていそうな感じが面白くない。
 あと、事件関係者と小川が同級生だった、そういう人間関係の偶然をフィクションで使うのは好きじゃないな~。

No.1593 8点 世界でいちばん透きとおった物語- 杉井光 2023/11/30 12:54
 この手の作品を読むたび思うのだが、一作だけ別名義でイコール語り手にすれば?
 こんなしょーもないことを思い付き、あまつさえ実行してしまった時点でスタンディング・オヴェーション。その上で、仕掛けに正当性を持たせる為の設定が上手く出来ている。割と典型的なキャラクターばかりだが、噛み合わせ方が良いので物語としても面白い。

 ただ、宣伝文句が……。

No.1592 7点 ジャグラー- 山田正紀 2023/11/30 12:53
 『ジュークボックス』の、続編、とはちょっと違うな、緩やかな姉妹編? どちらもJで始まる七文字。
 初期作品の “神” の代わりに、ここでは “言語” そして “コンピュータ” が触媒だ。
 “現実” も脳と言うセンサーのフレームに限定されたヴァーチュアル、との認識に則るなら、1~2章では日本中を巻き込んでいるかのような闘争が、3章では噂話レヴェルの遠景に後退する格差こそ本作のキモのように思う。重層構造のミステリに通じるところもある。
 ただ、個人的にはアメ・コミ(映画も含む)に馴染みが無いので、“余所のネタ” で終わってしまった。アトムやドラえもんで書いてあればなぁ……。

No.1591 6点 巫女の館の密室- 愛川晶 2023/11/30 12:52
 本作に限らず、謎の文書が送られて来て云々の設定は、物語の複数の軸が最後に一つにつながる妙味がある反面、何故そのようにまどろっこしい伝え方をするのか納得しづらい。
 思えば根津愛は文書の内容を鵜呑みにして、初対面の相手に対する反感を事前に募らせている。ならば謎めいたアプローチは “名探偵の操縦法” と言えなくもない。

 そしてこれを言うと野暮なんだけど――密室トリックに関する愛の推理は、“犯人は抜け穴から出入りしてはいない” ことを前提にしている。それを踏まえた上で諸条件から “真相はこれしかない” と断じているわけで、真相や犯人を示す直接的な証拠は無い(よね?)。
 “警察が抜け穴の有無をきちんと調べた” と言っても、相応の規模の特殊な建物で、しかも十年前の話である。調査の無謬性と真相の突飛さを並べて、前者を優先する(=調査結果はあくまで正しいから、そこから導かれる真相はどんなに突飛でも真実である)のは、ミステリの約束事としてはアリだけれど、今回のそれは却ってロジカルさを殺いでいる気がするのだ。

 ところで、確認しようが無いことを “史上初” とかは書かない方が良いと思う。そんなに自信があったのだろうか。
 “刑事になりたがる理由” もピンと来ない。犯人はアレで説得されたのか……?

No.1590 6点 炎舞館の殺人- 月原渉 2023/11/30 12:52
 おいおい、悪魔憑きの犯行か。
 それはともかく、ちょっと効率的に書き過ぎではないか。ところどころで “必要な手続きをこなしているだけ” に感じられて残念。せっかく雰囲気のある舞台を作ったのだから、もっと味わいを重視しても良いのでは。いや、そうすると本格度が下がっちゃうのかな~?

No.1589 6点 探偵ガリレオ- 東野圭吾 2023/11/30 12:51
 シリーズ連作であること自体が弱点。確かに不思議な現象だけどどれも科学的に説明が付くんでしょ、と言う視点でつい読んでしまう。
 しかし、第一章の妹の件とか、第二章で犯人の意図ではなくああいうものが生じた巡り合わせとか、科学ネタ以外の外堀が面白い。そのへん書き方が上手いね。

No.1588 7点 弔鐘の荒野- 山田正紀 2023/11/24 14:16
 手堅い下請け企業謀略もの、かと思ったら後半で大いなる飛躍、しかし無体なツギハギではなくシームレスにつながって、一つの物語として自然に成立しているあたりは流石。死者はどうあるべきか、AIが問題になる現在、改めて読むと発表時よりリアルに考えさせられた。“橋を渡る/渡れない” の例えが切ない。あの政治家の “想像力の無さ” も凄いな。

No.1587 6点 水族館の殺人- 青崎有吾 2023/11/24 14:14
 出た、忍切蝶子さまっ! 爽やかで傲慢そうで実は生真面目そうな実力者。台詞がいちいち様になって決まってる。対する佐川部長だって負けてないぞ。“そういうところは嫌い” と言ってのけるのは愛だね。うーむ、どっちのキャラも美味しい。強敵と書いて友と読む。竜虎相打つ決勝戦は事件のせいで見損なってしまったが、非公式の頂上対決なんて贅沢な。

 あ、殺人の方は、手掛かりがやたらチマチマしている。容疑者が属性だけ貼り付けたロボットみたいで、11人は流石に多過ぎ。EQ的ロジックを重視した結果そうなってしまう(こともある)のは判るが、もっと上手く書いている作家だっているわけで。試行錯誤の途中経過、って感じ。

No.1586 6点 相馬野馬追い殺人事件- 皆川博子 2023/11/24 14:14
 フーダニットはなかなか意外なところを突いている。事件を二つ重ねた煙幕に引っ掛かった。犯人は、一人殺したら歯止めが利かなくなって行動のハードルが下がってしまった感じ。犯人じゃなくても板挟みで素直に供述出来ないとか、皆がバラバラなことを考えて錯綜して行くとか、面白いドラマ。
 しかし、描き方がごちゃごちゃし過ぎ。しばしばページを遡らないと状況が判らなくなってストレスの多い読書になってしまった。

No.1585 4点 第三の女- アガサ・クリスティー 2023/11/24 14:13
 どうしてもネタバレしちゃうなぁ。
 犯行計画全体の構図としては良いんだけど、その真ん中に余計なトリックがドンと鎮座している、と思う。
 金髪の鬘を使ってあんなことをする必要があるのだろうか? ポアロはアリバイ云々と言うが良く判らない。読後に振り返ると “犯人は多忙で疲労困憊したんじゃないかな” と言う印象ばかりが残っている。

No.1584 5点 夜獣使い 黒き鏡- 綾里けいし 2023/11/24 14:11
 何がしかの美意識をアピールしているのは判るが、個々のエピソードが表層をなぞっているだけに思える。かと言って “すべてはどういうことであったのか” だけが重要、と割り切るのは本末転倒っぽい。第壱、肆、陸話あたりに絞ってもっと掘り下げれば良かったのでは。

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虫暮部さん
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