皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
|
---|---|
平均点: 6.22点 | 書評数: 1971件 |
No.1731 | 5点 | 複製症候群- 西澤保彦 | 2024/06/22 12:36 |
---|---|---|---|
〈ストロー〉はどこかで川と交差しているわけだから、溺れて流されたサトル1号がいずれ接触してコピーが生まれる筈。水中に生み出されたコピーは直後、流れに煽られてまた〈ストロー〉に触れてしまう可能性が高い。するとコピーのコピーが生じ、それがまた〈ストロー〉に触れてしまう。と言う風に多重コピーが繰り返されそう。
と言うのが伏線になると思ったんだけどなぁ。 結局、人間のコピーは、生じたらすぐ殺しておくのが正解だろう。と言うか誰かがその結論に辿り着くのを期待していた。 ミステリではなくパニックSFだと思えばまぁ許容出来るか。 |
No.1730 | 7点 | 愛と髑髏と- 皆川博子 | 2024/06/14 12:59 |
---|---|---|---|
幻想的な犯罪的な短編集。理屈で割り切れない機微をロジカルに(?)描いているものが幾つか。割り切れないまま描いているものが幾つか。“判らなさを楽しむ” にはあまりにも人間が生々しいので、“何故そうなる?” と口走ってしまう私。修行が足りません。 |
No.1729 | 7点 | 渋谷一夜物語(シブヤンナイト)- 山田正紀 | 2024/06/14 12:58 |
---|---|---|---|
発表順ではない作品配列がなかなか効いているんじゃないか。サスペンスから少しずつ捩れて条理が失われ、徐々に足場がズレて行く感覚で意識がキーンと冷えるようだった。“幕間” で一旦リセットしたのが異化効果と言えなくもない。平均値の高さ故に却って突出して目立つ作品は無いが、「死体は逆流する」の “動機” が出色と言うか何と言うか。 |
No.1728 | 7点 | 垂里冴子のお見合いと推理- 山口雅也 | 2024/06/14 12:56 |
---|---|---|---|
小説のユーモアとはしばしばメタ的なものになりがちだと思う。例えば “垂里冴子” なるネーミングにしてもストレートに笑えるわけではなく “そういう洒落ですよ” と言う作者の意図を読者が共有することで成立しているのである。
本作をユーモアの側面から見ると、その辺の匙加減はやや甘いけれど、“共有” へ読者を誘う居心地の良い雰囲気作りに長けておりそこに救われている。中でも冬の章の類友エピソードが良い。 まぁその割に深刻な真相ばかりだが……。 |
No.1727 | 6点 | 浴槽で発見された手記- スタニスワフ・レム | 2024/06/14 12:56 |
---|---|---|---|
積み重なる不条理劇は、体制批判である、社会風刺である、世界そのものの隠喩である、スパイ合戦そのものが一歩引いて見れば無意味な道化芝居である。そりゃあ判るよ。でもあまり安易にそうやって済ませて何でもアリに堕するのも考えもので、手綱は相応に締めておく必要もあるなぁと私は少々反省したのだ。作家を甘やかしてはいけない。
本作は、ナンセンスのヴァリエーションが増えたのと、不条理さが徐々にグレード・アップして行く構成のおかげで、『捜査』よりは読み進めるハードルが低い。静と動のバランスで読ませるセンスも良い。作者も学習したんだと思う。 しかしラストをきちんと纏めていないので、形式を模倣しただけ、思わせ振りに答えをチラつかせただけ、と言う疑惑も拭えないのである。 |
No.1726 | 5点 | 仮面舞踏会- 横溝正史 | 2024/06/14 12:55 |
---|---|---|---|
横溝マナーを排して “普通の” ミステリを書こうとしたような作品。強烈な個性はマンネリズムと紙一重なわけで、違うことをやりたい気持は判る。分厚くて展開が地味、なのにスイスイ読めたのは流石の筆力。
しかし、“これもまた良し” とならないのが表現の残酷なところ。本作を読んで、やはり横溝はおどろおどろの表層こそが本質(変な言い方だけど)なのだと改めて思った。読者を怖がらせようと言う意志が無いと、ここまで半平みたいにフヤフヤした歯応えになるなんて。 |
No.1725 | 8点 | VR浮遊館の謎ー探偵AIのリアル・ディープラーニング- 早坂吝 | 2024/06/07 13:18 |
---|---|---|---|
こいつは参った。ダミー推理に誘導されて “見破ったり” と鼻を高くした途端に本命で撃沈。割と細かいネタまで拾えた心算だったのに、それが皆フェイクだとは……ただ、妙にのんきなラスト・シーン。ゲーム性のイメージが強過ぎて、実際に人死にが出ていることが忘れ去られちゃってない? |
No.1724 | 6点 | ぼくらの世界- 栗本薫 | 2024/06/07 13:18 |
---|---|---|---|
私は、全てをメタ化しかねない “狂言芝居” は本格原理主義者にとって寧ろ鬼門じゃないかと思うのだ(→探偵役がマッチポンプではない証明が出来ない)。だから全ての始まり、あの人がああいう計画を立てた、と言うことがどうも腑に落ちない。
“ぼくら” のモラトリアムの終わりに、人の “業” の事件を重ね合わせたのも、ちょっとズレている気がする。確かに薫くんは当事者だけど、信とヤスは時系列的に重複するだけの別エピソードって感じで、エピローグが浮いてるじゃないか。 ところで、冒頭でミステリ6作のネタバレ予告をしているが、本当に問題なのは筒井康隆『大いなる助走』である。結末の展開をバラしてるんだもん。 |
No.1723 | 8点 | ぼくらの気持- 栗本薫 | 2024/06/07 13:17 |
---|---|---|---|
“行きあたりばったりの犯行” と言う設定の恩恵に作者も甘えたか、少々雑な真相ではある。状況証拠ばかりで、あの人を教唆者=主犯であると断じるには弱くない? “誰が何をどこまで知っているか” は重要な視点だが、情報がどこでどう伝わるか網羅するのは困難で、客観的な扱いの難しさも無視出来ないと思う。
しかし人物と時代風俗の描写はグンバツ。サブカルのC調なフィーバーと表裏一体たるナウなヤングの普遍的青春の蹉跌がビューティフル。 |
No.1722 | 6点 | 雀蜂- 貴志祐介 | 2024/06/07 13:16 |
---|---|---|---|
楽しめた。一言のボケも無いのに全編がスラップスティックな喜劇。緊迫すればする程に可笑しさは募る。と言うのが作者の意図で、ラストは無くても良かったオマケじゃないかなぁ。 |
No.1721 | 5点 | 六月六日生まれの天使- 愛川晶 | 2024/06/07 13:16 |
---|---|---|---|
記憶喪失を題材にすると此処は何処私は誰と言った手続きにどうしても一定の紙幅を取られてしまうので似通った印象になりがち。きちんとしたルールに基づく症状の現われ方は、人間と言うよりAIが誤作動しているようだ。
真相はさほどの驚きでもなく、どんな話でも一部を隠して語ればこの程度の不可解さにはなるよなぁ、と言ったら意地悪に過ぎるだろうか。 性描写はカタログみたいであまりエロくない。 |
No.1720 | 6点 | 羅刹国通信- 津原泰水 | 2024/05/31 15:15 |
---|---|---|---|
遺作ではなく、比較的初期に雑誌連載された長編が初単行本化。作者による加筆訂正は行われていないよう。幻視文学と言うか犯罪小説と言うか “罪の意識” 小説。
解釈がどうのと言う以前に、灼熱の異界が強烈。墨井先生も危うげで目を惹かれる。放置したままのエピソードもあって、結末はこれで良いと思うが、寧ろ中盤に入るべきもう一山が行方知れずになっている感じ。その意味でやはり未完。 |
No.1719 | 6点 | 時計じかけのオレンジ- アントニイ・バージェス | 2024/05/31 15:14 |
---|---|---|---|
この主人公には同情や共感が毛ほども抱けない。“体制の犠牲者” みたいな側面を加味しても尚、自業自得だと思う。
第3部4章、ミリセントにぶちのめされて、助けを求めた先で更に皮肉な再会があり、困惑の状況に絡め取られる。私は “そうか、こういう形で袋小路に追い詰めることこそ作者の狙いだったのか” と胸を躍らせたのだが、御都合主義的な流れで解放されてしまった。えー、そんなんでいいの? 幻の最終章の是非など些細な問題で、その前、第3部6章の生ぬるさが大問題。主人公が全身不随になって、口述筆記で書かれた回想がこの本、と言う叙述トリックなら良かったのに。 |
No.1718 | 5点 | 捜査- スタニスワフ・レム | 2024/05/31 15:13 |
---|---|---|---|
警察小説と言うか “警察(の)小説”。捜査内容ではなくその外枠をウダウダ描くコンセプトは良いが、描かれる内容がさほどでもないので前半で飽きてしまった。作者に思索的なイメージがあるので深読みしたくなるらしいが、イヤイヤこれは “脱線だけする物語” と言うメタ的ユーモアによってミステリの形式主義を揶揄しているんでしょ。 |
No.1717 | 5点 | 光源氏殺人事件- 皆川博子 | 2024/05/31 15:12 |
---|---|---|---|
“オブセッション” なるアイデアは光る。しかし物語の奥の方に折り込み過ぎ。なかなか表面に出て来ないので、それに対するアクションと併せて最後にドバッと説明する形になってしまった。せめて物語中盤で明かさないと、驚きをしみじみ味わう暇も無い。
しかも謎解きが非常に駆け足なので、作者にとっては “推理小説形式にすれば多少は売れるから” と言う、恋愛模様を書く為の方便に過ぎないのではないか、と思ってしまった。 |
No.1716 | 5点 | 私、死体と結婚します- 桜井美奈 | 2024/05/31 15:11 |
---|---|---|---|
熱心に何か調べる一方で、死体に話しかけながら食事をする主人公。怖い……違和感が急激に募る展開、スピーディに纏めたのは正解。深みはあまり無いが、良い意味で読み易いし、自分の強みを上手く生かせていると思う。
英語翻訳が物凄い特殊技能みたいに扱われているのに苦笑。まぁストーリーの都合上、あれらを読めちゃったら困るか。 |
No.1715 | 6点 | 名探偵に乾杯- 西村京太郎 | 2024/05/24 14:09 |
---|---|---|---|
アガサ・クリスティ『カーテン』のネタバレ有り。
まず、密室その他、別荘に於ける(真の)トリックについて。普通のミステリなら噴飯物だが、このパスティーシュ・シリーズと言う舞台に限ってはその意味が逆転する。犯人の動機と相俟って、見事な批評である。拍手。 但し、“読者への挑戦” を付けるべきではなかった。これはフェアプレイの地平を飛び越えたところに位置する真相であって、見抜くのは無理でしょ。他の作品のトリック当てで読者がこの回答を提出したら “真面目にやれ” と言われるでしょ。 『カーテン』新解釈について。併読した立場で言うと、原典の文言を尊重しつつ、それなりに辻褄の合った結論を示しているとは思う。特に動機は上手いところから掘り出している。そういう “裏読み” は楽しいよね。 但し問題は、ヘイスティングズが手記中で “都合の悪いことを省く” のみならず “嘘を記述する” ことも許容してしまった点。 『名探偵に乾杯』の説に従うなら、犯人Xの暗示にかかり人を殺しかけたこと、及び無自覚なまま別の人物の死に関与したこと、と言う自身の恥を晒すようなエピソードがまるまる嘘なのだが、そんな捏造をする理由は説明されていない。ヘイスティングズは今になって小説家として開眼したのか? そして、謎と真相との構造上の関係性がシリーズ前作に類似しているのが引っ掛かる。どちらか一作だけならもっと高評価出来た。本作は『カーテン』を受けて生まれたものであって、もしかしたら “書かれる筈では無かった最終作” なのかもしれないけれど……。 |
No.1714 | 8点 | カーテン ポアロ最後の事件- アガサ・クリスティー | 2024/05/24 14:09 |
---|---|---|---|
【ヘイスティングズ大尉の告白】
ある人物の死に関して私が果たした役割を、ポアロはただの偶然だと説明している。ところが実のところ、その人が皆にアレを振舞ったあの時、何故か私には判ったのだ。 この人は何かをやった、と。 説明できる根拠は無い。言葉でも動作でもない何か、その場にいたからこそ伝わる雰囲気、第六感。そんなものだ。殺人者Xを意識するあまり、違和に対して敏感になっていたのかもしれない。 もとより100%の確信などは持ちようがない。それでもその場で騒ぎ立てるべきだったか。しかしそれがポアロの対X戦略にどう影響するか読めなかった。かといって座視するにはあまりに強い胸騒ぎであった。 なにより熟考する猶予など無かった。アレが飲まれるほんの数瞬後までに対応を決めねばならない。 と偶然にも、私以外の全員がバルコニーに出て、部屋には私一人が残されたのだ。その僥倖が背中を押した。私は素早くアレをまわした。二つのアレが入れ替わった。ただの思い過ごしなら、何も問題は生じない。仮に懸念が当たっていたとしても、それは自業自得ではないか! その後の成り行きは手記の通りだ。私はこれっぽっちも疑われず、ポアロでさえ私が意図せずにあの状況を作り上げたものと推理した。なにしろ全ては私の心の中のことであり立証しようがないのだから。 断っておくが私は手記に何も嘘は書いていない。語り手が自分に不利な事柄を省くのは前例があり、非難には当たらないはずだ。 してみれば、これは私がポアロに勝った、ということになるのだろうか? しかし今にして思えば、ちょっとした状況証拠がなくもない。 もしも入れ替わりに気付かなかったというならば、私は目の前を回転木馬よろしく流れるアレを全く見落としたことになる。自分の目の代わりとして呼んでおきながら、なんとも信頼してくれたものだ。 いや……それともポアロは、判った上であの推理を記したのだろうか? 誰も気付いてはいない、安心したまえ――と、敢えて勝ち逃げをしないことで最期のプレゼントに換えたのだろうか……? (※16-Ⅳ、18、19、後記、などを鑑みるに、『カーテン』は大尉の手記だとするのが妥当だと思います。) |
No.1713 | 7点 | イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ- 山田正紀 | 2024/05/24 14:08 |
---|---|---|---|
作中で語られる五人の物語には読み応えがあるけれど、それを支える外枠の部分は上位の物語と言うより構造の説明でやや動きに欠ける。とは言え学術用語を駆使した時空バトルは散文的で逆説的に詩的(かもしれない)。前年の『オフェーリアの物語』に続いてアルチュール・ランボーをサンプリング。嵌まってたのかな~? |
No.1712 | 6点 | オフェーリアの物語- 山田正紀 | 2024/05/24 14:06 |
---|---|---|---|
呪師霊太郎シリーズの種子を、言の葉の影響力強めの特殊な土壌に蒔いて着床させたもの? 諸々の概念が宙に浮かんだような、それとも、上下感覚を曖昧にしたまま、謎が謎であると言う一点をよすがに頁は進む。人形に似た人間の物語。ところで表紙の人形は切り絵なんだってさ。 |