皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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kanamoriさん |
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| 平均点: 5.89点 | 書評数: 2460件 |
| No.2400 | 6点 | 屍の記録- 鷲尾三郎 | 2016/07/21 18:31 |
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| 京都伏見にある老舗の造り酒屋・本間家に招かれた探偵小説作家の牟礼順吉は、旧友の新也から、社長である実兄が不可解な状況下で失踪した事件の相談を受ける。話を聞けば、本間家では日露戦争当時の三代目当主をはじめ、都合3件の失踪事件が発生しているという(表題作の長編)---------。
日下三蔵編”ミステリ珍本全集”の最終巻になった第12回配本は、短編「文殊の罠」などで知られる鷲尾三郎。本書には「屍の記録」と「呪縛の沼」の長編2本に、中短編4作品が収録されています。(ここでは表題作のみ寸評します) 「屍の記録」は、講談社が企画した書下ろし長編探偵小説全集の公募枠いわゆる”十三番目の椅子”を、鮎川哲也(中川透)の「黒いトランク」等と争った応募作を改題した作品(のちに「死臭の家」と再度改題された)。 地方にある名家の広大な敷地を舞台に、狐様の祟りという怪奇趣向を交えて、衆人環視下の人間消失という不可能トリックを主軸に置いた古色蒼然たる探偵小説です。現代的作風の”推理小説”「黒いトランク」とは、かなり対照的な作風なんですが、ひとつ珍しい共通点があって、「黒いトランク」では鬼貫がトリック解明に際して例えた”風見鶏のロジック”が有名ですが、「屍の記録」でも、順吉が人間消失トリックの真相に気付くきっかけが風見鶏なのです。これは面白い偶然の一致ですね。 その肝心のメイントリックの真相がかなり脱力感を伴うのがアレですが、過去の失踪事件にそれぞれ時代を反映する動機が隠されているのが面白いですし、古き良き探偵小説の雰囲気が十二分に味わえます。 |
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| No.2399 | 5点 | 崩れた直線- 陳舜臣 | 2016/07/18 09:24 |
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| ミステリ系の作品8編からなる短編集。個々の書誌データが掲載されていないのですが、”あとがき”の内容から推して昭和40年代の直木賞受賞前後の、作者が精力的に短編を量産していたころに発表された作品を収録したものと思われます。
表題作の「崩れた直線」は、作者の創造した名探偵、中華料理店主の陶展文が登場するやや長めの短編。身内が殺人事件に巻き込まれたことで展文が探偵に乗り出す。中国拳法の弟子である新聞記者の情報収集に依存する部分が目立ち、ダイイングメッセージの真相も含めて、読者が推理に参加できる形になっていないのが少々残念ですが、ファンなら十分楽しめる作品。 富豪の未亡人で美術商でもある謎めいた女性ルー夫人の思い出が語られる「ミセス・ルーの幽霊」が編中のベスト。その過去のエピソードが、意外な形で現在の隠された犯罪に結びつく構成の妙を評価します。 そのほかでは、「縞の絵筆」や「闇に連れ込め」のようなトリッキィなものもありますが、作者と思しき「わたし」が、神戸の華僑社会で生きた印象深い人物の過去の物語を、当時を知る老人から聞くという構成の作品がいくつかあり、それらはミステリ要素があまりないです。 |
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| No.2398 | 6点 | 現代忍者考- 日影丈吉 | 2016/07/13 18:16 |
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| 新聞社の論説委員・江木は、向かいのビルの8階の窓から人が墜落するのを目撃するも、地上には死体や事故の痕跡が見当たらなかった。ところが後になって、そのビルの9階空部屋にダンサーの死体が出現、さらにはプレスビルの密室状況の控え室で、新たに殺害死体が発見されて--------。
どういうタイプの小説なのかを推測するのが難しそうなタイトルが付いていますが、あらすじ紹介のとおり、人間消失、密室殺人、幽霊殺人など不可能犯罪の興趣にあふれた本格ミステリです。「ささやく影」「ひらいたトランプ」「怯えるタイピスト」「闇からの声」「赤毛の男の妻」など、各章のタイトルが海外ミステリ作品から採られ、それに合わせた内容になっているのが洒落ています。 また、新聞記者コンビ、アメリカ人の探偵、所轄の警部と、探偵役を複数人置き、三者三様のアプローチで事件に対峙する構図も当時としてはユニークで(探偵役たちの推理合戦や多重解決ものでないのは残念ですが)、車椅子の腹話術師をはじめ他の登場人物も存在感があります。 完成度にやや難があるとはいえ、これだけマニア受けしそうな趣向を備えていながら、初出当時の評判が散々だったのが不思議ですが、作者に求められているタイプの小説ではないということと、人間消失や幽霊殺人が”トリックのためのトリック”だったり、密室のトリックが乱歩の通俗ミステリを思わせるバカミス的な道具立てなのが低評価の理由かもしれません。新本格を経た現在の読者には、それなりに受けそうな気がしないでもないですけど。 |
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| No.2397 | 6点 | 怪盗ニック全仕事(3)- エドワード・D・ホック | 2016/07/12 18:44 |
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| 泥棒にして探偵役、〈怪盗ニック〉ことニック・ヴェルヴェットが登場する短編87作品を発表順に収録する全集(全6巻)の3巻目。このシリーズは早川書房から日本独自編集で4冊出ていますが、この創元社版の3巻目は本邦初訳4作をはじめ、いままで個人短編集に未収録だったものが半数以上占めているのは嬉しい。
どのようにして盗むか(ハウダニット)の部分は、ややご都合主義が目立ち、手段もパターン化されていて、それほど力点は置かれていません。やはり当シリーズに一貫する魅力は、なぜ価値がないもの(あるいは奇妙なもの)を大金を出して盗ませようとするのか?という謎(ホワイダニット)にありますね。 シリーズも30話を超えると(本書には第31話から44話までの14作を収録)、新鮮なアイデアは少なく、マンネリを感じることは否めないのですが、往年のファンであれば、安心して楽しめる作品集です。本書では、恋人のグロリアの存在を活かすプロットがいくつかの作品で見られるのが、作者の工夫かなと思います。また、依頼された仕事が終わったあとに意外な展開をみせる作品が多いのも特徴的です。 収録作の個人的ベスト3は(再読が多いのですが)、「きのうの新聞」「感謝祭の七面鳥」「田舎町の絵はがき」あたり。また、「駐日アメリカ大使の電話」は、日本が舞台で、7月に皇居のそばで凧揚げをするシーンが出てくる異色作ですw |
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| No.2396 | 6点 | 虚構の男- L・P・デイヴィス | 2016/07/07 20:05 |
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| 住民わずか9人の閑静な小村で、毎日小説の構想を練ったり散歩したりして暮らすアラン。隣に住むリーから50年後の世界を舞台とする次回作のヒントをもらい気分も上々だったが、ときどき不可解な現象を体験したり、誰かから監視されているような感じが気になってきて--------。
国書刊行会の〈ドーキー・アーカイヴ〉という、ジャンルに拘らない”変な小説”ばかりを揃えた新叢書の第1回配本作品。読書メーターなどのミステリの感想で、「なにを書いてもネタバレになってしまいますが.....」で始まる寸評を時々見かけることがあって、「じゃあ何も書かないで!」と、ひとり密かにツッコミを入れていたりするわけですが、本書もそういう類いの小説です。 なにを書いてもネタバレになってしまいますので、本来、上のようなあらすじ紹介は余分かなと思いますし、ジャンル投票で〇〇に分類、特定してしまうと、中盤の展開の意外性を半減させてしまう恐れもあります。また「虚構の男」というタイトルも本書のキモの部分を暗示していて、勘のいい人にはネタバレになってしまいかねないので、本書の場合タイトルも表示しないほうががよかったかなと思いますw 冗談はさておき、第1章の牧歌的な雰囲気からは想像できない中盤以降のブッ飛びな展開の連続は(読者を選びそうな怪作とはいえ)個人的には楽しめました。色々なジャンルの混合型スリラーという点で、ジョン・ブラックバーンを引き合いに出しているのも分かりますし、不条理な世界に置かれた〇〇な主人公という設定でジョン・フランクリン・バーディンの某作も想起させます。翻訳にしては文章は読みやすく、(偶然か狙ったのかは分かりませんが)ある意味で今年(2016年)読まれることに意義がある作品と言えますね。 |
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| No.2395 | 7点 | 埋葬された夏- キャシー・アンズワース | 2016/07/05 18:21 |
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| イギリス東部の海べり、リゾート・ビーチのある町で殺人事件が起き、16歳の少女コリーンが犯人として裁かれ療養施設に入れられる。そして20年後、新技術によるDNA検査によって新たな証拠が出てきたことにより、弁護士から再調査を依頼された元刑事の私立探偵ショーンは、悪徳が潜む町アーネマスを訪れる---------。
現代と過去の2つのパートが交互に並行して描かれる。 ショーンが地元新聞社の女性編集長の協力を得て関係者を訪ね巡り、事件を洗い直す私立探偵小説としての現代パートと、3人の少女を中心にした友情と愛憎関係、思春期ならではの心の葛藤を描くノワールな青春小説としての過去パート。この2つのパートのエピソードを交錯させながら、徐々に事件の背後にあるものを明らかにし、ゼロ時間に収斂させていく構成が非常に効果的です。 ”20年前の夏、この町で本当は何が起きていたのか?”という謎を中核に置きながら、読者に対して”誰が殺されたのか”を明示しない「被害者探し」の趣向も組み込み、さらには、当時の重要人物である残りの2人の少女は今はどこに?という副次的な疑問が終盤近くまで読者につきまとう、これらの重層的な謎がサスペンスを高めて、否が応でも読む者を駆り立てます。 過去の事件の真相自体は(途中からある人物の側からの視点が入ることもあり)予想の範疇を超えるものではありませんが、一応の幕が下りたあと、ラスト2ページで明らかになる事実が衝撃的で、これには心が震えるほどの深い感銘を受けました。ああ、そういう物語だったのか....と。 |
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| No.2394 | 5点 | 飛鳥高探偵小説選Ⅱ- 飛鳥高 | 2016/06/30 21:06 |
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| 主として昭和20年代から30年代に、雑誌「宝石」を中心に作品を発表した兼業作家・飛鳥高の作品集。2巻目の本書は、長編の「死を運ぶトラック」を目玉に、昭和30年代後半に発表された短編10編が収録されています。初期作の「犯罪の場」のようなトリッキィなものはなく、通俗的で社会性を持った作品が多い。
「死を運ぶトラック」は、昭和34年発表の長編第2作。「幻の女」タイプのアリバイ奪取の趣向が前作に続いて再び使われていたり、殺害トリックの解明が伏線なく唐突になされていて、謎解きミステリとしてはあまり高い評価はできませんが、松本清張ばりの社会派要素を背景にした一人の刑事による捜査小説として読めばそれなりに面白い。もう一人の主人公である元やくざのトラック運転手の存在が、最後に意外な形で効いてくるのも良。抒情性とアイロニーという作者の持ち味がよく出ている作品。 短編では、盗みに入ったアパートの部屋で死体を発見した泥棒が、現場の状況からロジカルに犯人像を推理する「鼠はにっこりこ」が良い。途中までの展開は、ローレンス・ブロックの泥棒バーニイ・シリーズを連想させる軽妙さがありますが、結末の後味の悪さは好みの分かれるところかも。 そのほかでは「大人の城」「猫とオートバイ」が印象に残った。ともに、ちょっとした不良少年を主人公にしたクライム・ストーリーで、この時期の作風を代表するような作品といえそうです。 |
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| No.2393 | 6点 | 闇と静謐- マックス・アフォード | 2016/06/28 18:24 |
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| BBC放送局の開局記念式典に招待されたジェフリーとリード首席警部は、ラジオドラマ「暗闇にご用心!」の生放送中に、照明を消したスタジオ内で新進女優が急死する事件に遭遇する。スタジオは鍵がかかっており、殺人だとすれば中にいた6人の俳優スタッフが容疑者となるのだが---------。
素人探偵ジェフリー・ブラックバーンが登場するシリーズの第3弾。 2部構成になっており、前半部の第1巻は死亡した女優メアリ・マーロウの過去と、彼女の死因を巡る考察で終始しており、ややテンポの悪さを感じるものの、犯行方法が判明することによって起きる構図の逆転(解説では”容疑者のダイナミックな転換”)という最後の引きで一気に盛り上がります。物語中盤でのこのような形の反転は、あまりお目にかかれない趣向だと思います。 後半に入り、”誤った推理”によって犯人像が二転三転するプロットになり、個人的には「ギリシャ棺の秘密」を想起したのですが、本書には国名シリーズのほとんどの作品と重なる要素がある、と指摘した大山誠一郎氏の解説を読んで”目から鱗”。クイーン作品との類似点を一つ一つ採り上げ、鮮やかに分析したこの解説は圧巻で読み応え十分です。邦訳第1作の「魔法人形」が出たときには、作者をディクスン・カーに例えていたのですが、もはや”豪州のエラリー・クイーン”と称する方がいいように思いますw 殺人方法やアリバイ工作にはツッコミどころがあり、クイーンの国名シリーズと比べてロジックの緻密さに物足りなさを感じますが、邦訳3作の中ではまずまずと言える出来栄えかなと思います。 |
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| No.2392 | 6点 | 殺人交響曲- 蒼社廉三 | 2016/06/24 18:56 |
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| 日下三蔵編”ミステリ珍本全集”の第11回配本は、戦記ミステリ「戦艦金剛」で知られる蒼社廉三。本書には「殺人交響曲」「紅の殺意」の長編2本に、単行本初収録になる中編ヴァージョンの「戦艦金剛」、ほか4篇の短編が収録されています。
表題作の「殺人交響曲」は、楽団のバイオリン奏者が轢き逃げ事故を装い殺され、その現場で拾った謎の楽譜3枚を巡って、4組の男女がアレコレ暗躍するといった音楽ミステリ。人間関係がかなり錯綜しており、その人物相関図を整理するだけで大変。また、明確な主人公が置かれておらず、どの人物に焦点を絞って読めばいいのか分からないことが、リーダビリティを下げているように思います。後半になって、ようやく連続殺人が起こり、本格ミステリらしくなるのですが、全般的に通俗スリラー色の強い作品でした。 中編版の「戦艦金剛」は、長編版ではやや冗長に感じられた戦局情報が最低限に抑えられており、戦艦の砲塔内での密室殺人を中核に置いた端正な本格ミステリになっています。 短編は意外なことに全てSF小説。「地球が冷える」と「地球よ停まれ」は、暗黒星や彗星の接近による人類の終末危機、「大氷河時代」はタイムスリップもの、「宇宙人の失敗」は宇宙人侵略ものと、いずれもテーマ自体は定番で新味はないのですが、素朴な味わいがあってそれなりに楽しめました。 なお、「紅の殺意」は別途改めて寸評したいと思います。 |
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| No.2391 | 7点 | ルーフォック・オルメスの冒険- カミ | 2016/06/22 18:18 |
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| フランス製のシャーロック・ホームズ・パロディ。名探偵ルーフォック・オルメスが、奇想天外な34もの怪事件を、あれよあれよと謎解いていくユーモア連作短編集で、74年ぶりの新訳完全版です。各話とも10ページほどの掌編で、演劇シナリオ風になっていることもあって、カッパえびせん並みにサクサクと読めます。
ギロチン台やボートが空を飛び、運河の水の中を自転車が走る。巨大な赤ん坊が人を襲い、人体の中から骸骨だけが盗まれる------ありえない奇想とナンセンス・ギャグに溢れた、これぞバカミスの聖典と呼ぶにふさわしい作品集です。これらの数々の奇想の連打で連想してしまうのは、われらの島田荘司センセーです。これまで島荘が信者から”本格ミステリ界の神(カミ)”と崇め奉られているのが個人的にはピンとこなかったのですが、なるほどダブルミーニングだったのですねw 当シリーズで感心したのは、ありえない馬鹿馬鹿しい設定にも関わらず、それを前提にしたそれなりにロジカルな推理が展開されるところで、とくに第2部に入り、宿敵〈怪人スペクトラ〉との知的闘争編はミステリ的にも面白い作品が多い(ような気がする)。なかでも、怪人の脱獄トリックを扱った「トンガリ塔の謎」と、おバカすぎるトリックが炸裂する「血まみれの細菌たち」がお気に入り。で、一番笑えたのは「死刑台のタンゴ」かな。 「機械探偵クルク・ロボット」と同様に、そのまま日本語にすると分かりずらいギャグを、大胆にアレンジした翻訳の高野氏の功績も素晴らしい。また、氏が本書のナンセンス・ギャグの本質を、古典落語の滑稽噺(「頭山」や「粗忽長屋」)の近似だと見たのは慧眼だと思いますね。 |
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| No.2390 | 6点 | 家庭用事件- 似鳥鶏 | 2016/06/20 23:29 |
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| 市立高校に通う”僕”こと葉山君が関わった”日常の謎”を、伊神先輩が快刀乱麻を断つ推理で謎解いていく〈市立高校シリーズ〉(と、称するらしい)の連作短編集。
1話目の「不正指令電磁的なんとか」では、パソコン内のワープロ文書が、プリントアウトされたとたん内容文言が入れ替わる、という摩訶不思議な謎が提示されるが、真相が明かさせると特殊知識に依存しただけのトリックという感もあります。次の「的を外れる矢のごとく」は、学校内の弓道場から的枠が盗まれた事件の犯人探し。動機の隠蔽とさりげない伏線が巧いと思うものの、編中ではあまり印象に残らない。 「家庭用事件」では、葉山君と妹の亜理紗が暮らすマンションの部屋が原因不明の停電に見舞われる。これは小品ながら、意外な真相を導き出す伊神先輩のロジック展開にキレがある。 「お届け先には不思議を添えて」は、宅配便で出したダンボールの中身が入れ替わるという不可能興味が強烈で、複数の仮説とロジックが展開される編中で最もパズラー志向が強い作品。ただ、アンソロジー『放課後探偵団』で読んだときには犯人の意外性もありましたが、この連作の中に入ると「またか!」となってしまいますねw で、最終話「優しくないし健気でもない」が、他の作品とまったく手触りの異なる問題作。これは先入感なしに読むのがベターだと思いますが、熱烈なシリーズ愛好者ほど受ける衝撃が大きい、とだけ書いておきます。 |
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| No.2389 | 6点 | 灯火が消える前に- エリザベス・フェラーズ | 2016/06/18 22:55 |
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| 戦時下、灯火管制が敷かれたロンドン。刺繍作家のセシリーが主催するホームパーティに招かれたアリスは、初対面のセシリーの友人たちの間のギクシャクした雰囲気が気になっていた。やがて、いつまでたっても姿を現さない招待客の一人、劇作家のリッターが、間借りしている最上階のフラットで撲殺死体で発見される-------。
論創社から出たエリザベス・フェラーズ今年2冊目のノンシリーズ作品。 先に出版された「カクテルパーティー」と比較すると、ホームパーティでの殺人で幕を開けるところは似ているといえるのですが、錯綜した謎解きプロットの「カクテルパーティー」に対して、本作の構成は非常にシンプル。 目撃者の証言と凶器の指紋によって、被害者のリッターと一時不倫関係にあったジャネットが早々に逮捕され、裁判で死刑が宣告される。本書の大部分は、ジャネットの犯行に納得がいかないアリスが、パーティ参加者の男女を訪ね歩き、リッターとジャネットの”実像”を浮き彫りにしようとする数章で占められています。この巡礼スタイルでの関係者との問答パートが、地味でやや退屈に感じる部分もあるのですが、終章近くになって、アリスと夫のオリバーの推理のディスカッションから、盲点を突く真相に至る流れでようやく盛り上がります。戦時下ならではのトリックという点では、「爬虫類館の殺人」を連想する読者も多いのではないでしょうか。 |
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| No.2388 | 5点 | 本郷菊坂狙撃殺人- 梶龍雄 | 2016/06/16 18:20 |
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| 本郷の菊坂通りにあるホテル4階の一室で自殺をしようとしていた登志子は、窓から狙撃事件を目撃する。ライフルの本来の標的は現場近くにいた少年だったのではと推測した彼女は、その少年が暮らす名倉邸にメイドとして潜り込むが、少年の飼い犬が轢殺される事件につづき、邸の主人がライフルで射殺される---------。
お屋敷ものの本格ミステリという定型の枠組みのなかで、本作はちょっと思い切った試みがなされていて、そのアイデア自体は面白いと思います。エラリー・クイーンの某作を連想する読者がいるかもしれません。ただ、肝となる隠されたモチーフが、たいていの日本の読者は知識として持っていないと思われるので、こんなに多くの伏線がありましたよと解決編で説明されても、素直に感心できないのが残念なところです。また、”それ”を利用して密室からのライフル銃を取り出すトリックは、さすがに無理があり、万事都合よすぎるように感じてしまいます。 探偵役が自殺志願の若い女性という設定が変わっていますが、単に奇をてらっただけではなく、ラストでちゃんと意味を持たせているのはさすがと思わせます。ヒロインと刑事との関係がもう少し書き込まれていれば、ラストシーンがより映えたのではとも思いましたが。 |
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| No.2387 | 7点 | 呪われた穴- ニコラス・ブレイク | 2016/06/13 18:56 |
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| ドーセット州の村で、複数の住人たちの秘密を暴く匿名の手紙が配達され自殺者まで出ていた。その村にある館に息子たちが住んでいる資本家アーチバルド・ブリック卿は、探偵のナイジェルを雇い事件の真相解明を依頼するが、ナイジェルが調査を進めているさなか、石切場の穴底でブリック卿が変死体で発見される----------。
これは傑作。英国の片田舎を舞台にした匿名の中傷の手紙を発端とするミステリといえば、アガサ・クリスティ「動く指」、ジョイス・ポーター「ドーヴァー③誤算」wなどが思い浮かび、さほど新味はありません。脅迫の手紙を受け取った当人や関係者をナイジェルが一人一人訪ね、手紙の犯人を特定しようとする第1部は地味な展開なのですが、そこからブルック家の兄弟と、近隣のリトル・マナ荘に住むシャンメール姉妹の複雑な関係や、過去からの因縁という事件の背景が徐々に見えてくる構成が見事です。なによりも、車椅子の姉セランディンをはじめ主要人物の造形がしっかりと書き込まれているのが本書の強みです。 第2部に入り、本格的に殺人事件のフーダニットが謎解きの中核になるわけですが、犯人の工作以外に、複数の第三者の善意と悪意による行為が巧妙なミスディレクションになっており、かなりあからさまな手掛かりがありながらも、真相は見抜けにくくなっています。 ナイジェルが事件を再構成しながら推理を開陳するシーンに併せて、村の容疑者たち各々の密かな行動がカットインで描写され悲劇に至るという、終幕の演出もドラマチックで効果絶大です。 |
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| No.2386 | 5点 | 咸臨丸風雲録 福沢諭吉の推理- 海渡英祐 | 2016/06/10 18:42 |
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| 万延元年、遣米使節団の隋行艦・咸臨丸は、勝麟太郎を艦長格に据え、太平洋を横断・サンフランシスコを目指し品川港を出航した。軍艦奉行・木村摂津守の従者として乗船した諭吉だったが、荒天や濃霧による船内の混乱がつづくなか、出航前に殺された水夫の幽霊が出没する騒動まで起きて--------。
乱歩賞を受賞した「伯林 一八八八年」の森林太郎(鴎外)や清水次郎長など、歴史上の著名人を探偵役にした歴史ミステリを十八番とする作者ですが、本書も、若き日の福沢諭吉を探偵役に、勝海舟やジョン万次郎など多くの歴史上の人物が登場する幕末の船上ミステリになっています。 巻末の参考文献一覧を見ると、士官の航海日誌やアドバイザーとして乗船したアメリカ人ブルック大尉の日記、その他多くの研究書が参考文献としてあがっており、史実に基づく歴史小説としてはなかなかの労作だとは思います。 ただ、その史実の枠組みが足かせになって、謎解きミステリの要素が弱く、人間消失トリックを扱ったメインの謎も小粒と言わざるを得ません。船酔いのため勝海舟が終始艦長室にひきこもっていたという有名なエピソードが、意外なところで効いてくるのは上手いとは思いますが、主人公の諭吉をはじめ著名人のキャラクターが通り一遍であまり魅力を感じません。 ということで、歴史小説として6点、ミステリとしては4点、間をとってこの点数にしておきます。 |
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| No.2385 | 5点 | ガラスの城- 松本清張 | 2016/06/07 21:08 |
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| 伊豆半島への社員旅行の夜、三上田鶴子は、敏腕課長の杉岡が旅館近くで女子社員のだれかを抱擁している光景を目撃する。その夜から杉岡は行方不明となり、数日後バラバラ死体となって発見される。田鶴子は独自に調査を始め推理を手記にしたためていくが、別の女性社員も事件を探索していることに気付く--------。
清張の長編ミステリは、漠然と抱くイメージと違って、意外なほど女性を主人公にした作品が多い。本書や「霧の旗」「黒い樹海」など女性誌に連載された関係で読者層を意識したと思われるもの以外にも、「球形の荒野」「黒の回廊」など、かなり多くの作品で女性が探偵役や主人公となっています。 本書も、女性が素人探偵となって独自の調査を行うプロットという点では同じなのですが、2部構成のそれぞれで別々の女性が手記の語り手になっているのがユニークです。会社の派閥・出世競争や不倫というテーマ自体は、2時間ドラマのようなチープ感は否めないものの、ヒロインと呼ぶには華のないオールドミスによる社内の人間関係の”観察者”ぶりが面白いです。 また、社内温泉旅行の殺人と手記形式ということで、どうしても”中町ミステリ”を連想せざるを得ないのですがw そういった仕掛けの部分は(中町信や折原一ならもう少し巧く書いたと思いますが)清張作品としては頑張っていると思います。 |
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| No.2384 | 6点 | 市長、お電話です- 草上仁 | 2016/05/31 18:15 |
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| SF系の短編集。いずれも人類が宇宙に飛び出し、様々な異星人たちと普通に交流がある未来世界を背景にした5つの短編が収録されていますが、作品間のつながりはありません。
「国境を越えて」は、大統領特別技術顧問の大科学者が、生まれて初めて他の惑星へ旅行しようと計画するが、膨大な技術知識が異星人に流出するのを恐れた政府が阻止しようとする話。これは風刺が効いているが、落としどころが何となく予想できてしまうかな。 「ポルノグラフィック」は、被子植物の形態をした異星人から、地球人が猥褻なポルノ雑誌をばら撒いているという苦情を受けるが、それらしきものが見当たらない。巧みな伏線による爆笑オチが見事に決まっている。 「転送室の殺人」は、航行中の宇宙船内を舞台にした意外とまともな密室ミステリ。装置の機能説明が充分でないのはアンフェアな感じを受けるものの、ある手掛かりから真相にいたるロジックが明快なSFミステリの佳作。 「豆電球」は、光るエンドウ豆を育てる異星人のもとに、電気エネルギーの代替として利用することを目論む企業がやって来る。これも「ポルノグラフィック」と同じテーマが隠されていて、異星人に対する印象がラストでがらりと変わる。これが編中の個人的ベスト作品。 表題作「市長、お電話です」は、移住用巨大宇宙船(一つの街のようになっている)を舞台に、忘れられてしまった”電話”という音声伝達システムが、硬直した行政を動かすという風刺的でハートウォーミングな話。 |
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| No.2383 | 5点 | 厚かましいアリバイ- C・デイリー・キング | 2016/05/29 13:40 |
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| エジプト考古学者の未亡人ヴィクトリアが主催する音楽会に参加するため、彼女の邸宅を訪れたロード警視と友人のポンズ博士らは、休憩中に古代エジプトの短剣で刺殺された未亡人の死体を発見する。さらに、邸に併設された密室状況のエジプト博物館で第2の殺人が--------。
マイケル・ロード警視シリーズの第5弾。オベリスト三部作につづく通称〈ABC三部作〉の2作目にあたる本書は、洪水で孤立した高台の邸宅を舞台に、古代エジプト文明のペダントリーを散りばめたコテコテの館ミステリです。ツタンカーメンの墓の発掘以降、「カブト虫」(ヴァン・ダイン)、「エジプト十字架」(クイーン)と、1930年代の米国で古代エジプト文明をネタにした3作の本格ミステリが書かれているのは興味深いですね。 内容の方は、密室殺人あり、完璧なアリバイあり、ダイイングメッセージあり、邸の見取り図や登場人物のアリバイ一覧分析まで備え、本格ミステリのガジェットが盛りだくさんで興味を持たせるのですが........。解決編が近づくにつれて、読む方のテンションが段々に下がってきましたw 密室トリックの肩透かしはある程度は許容できるにしても、タイトルにあるメインの「アリバイ工作」が現代の読者には、そのシステムが分かりようがないのが致命的で、関係者を集めた真犯人を指摘するシーンでは一応ヒネリを入れてはいるものの、真相にあまりカタルシスを感じないのが残念なところです。 |
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| No.2382 | 6点 | 死者と栄光への挽歌- 結城昌治 | 2016/05/24 22:28 |
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| 売れない画家の菊池睦男のもとに、34年前に南方の島で戦死したはずの父親が、一週間前に交通事故死したという知らせが入る。事故死した男は「菊地一郎」名義の古い診断書を持っていたが名前が微妙に違う。釈然としない睦男は男の正体を調べ始めたところ、当時を知る父親の戦友の一人が不審死する-------。
太平洋戦争の実態(とりわけ軍隊と戦犯)を主題にした作者の作品では、直木賞を受賞した「軍旗はためく下に」とか「虫たちの墓」という非ミステリ小説がありますが、本書は同じテーマを内包しつつ、”菊地一郎と名乗る人物はだれか”、”父親だとしたら、なぜ身元を隠していたのか”という謎を中核に置いた本格推理小説として成立しています。 主人公の睦男が、戦友会のメンバーを一人一人訪ねて回る”巡礼スタイル”は「軍旗はためく下に」と共通する構成ですが、同時に私立探偵小説を思わせるところがあり、途中から主人公がシリーズ探偵の真木に見えてきましたw また、証言の中の矛盾点に着目し、些細な手掛りから一気に真相に至る28章の謎解きは、初期の本格モノ並みに読ませます。 主人公と別れた妻をはじめとした周りの人物との会話に軽妙なところがあり、シリアスで重いテーマのわりには読後感は意外と悪くないです。 |
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| No.2381 | 6点 | 手荷物にご用心- サイモン・ブレット | 2016/05/20 18:52 |
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| パージェター夫人は、数か月前に夫を亡くした友人のジョイスを慰安するため、ふたりでギリシャへのパック旅行に参加した。空港でジョイスから預かった荷物の正体が気になりつつ、翌朝、現地の島にあるヴィラで目を覚ました夫人は、隣のベッドで死体となったジョイスを見つける-------。
未亡人のパージェター夫人が素人探偵を務めるシリーズの3作目。 今回一番インパクトがあったのは、ジョイス・ドーヴァーという友人の名前ですが、とくにパロディ的な趣向はありません。なにしろジョイスは早々に殺されるのですから、これはシャレにならないw 犯罪組織の大物だった亡き夫の昔の”仕事仲間”が次々と登場して、夫人の探偵行為をサポートするお決まりのプロットですが、その一人が経営する犯罪者相手の旅行会社で漏れ聞こえてくる客とのやり取りが笑えます。また、パック旅行の俗物的な観光客に対するシニカルな視線もシリーズに共通する要素ですね。 ポケミス200ページ足らずのコンパクトな仕上がりで、本格モノというよりスリラー要素が強い作品ですが、観光だけが生活の糧で血縁関係のある人々だけで構成されたギリシャの小村という舞台が効果的で、ダブルミーイングによるミスリードと、それによる”どんでん返し”が決まっています。 |
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