皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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kanamoriさん |
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| 平均点: 5.88点 | 書評数: 2474件 |
| No.2414 | 7点 | 明日に別れの接吻を- ホレス・マッコイ | 2016/09/04 18:36 |
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| インテリの犯罪者ラルフ・コッターは、デリンジャーのような大物ギャングになる野望を抱いていた。刑務所を脱獄した彼は、逃げのびた町で脱獄仲間トコの姉で脱獄の手引きをしたホリディと暮らし始め、野望実現の第一歩として、地元警察の幹部の弱みを掴み、小さな町を牛耳る計画を進めるが--------。
米国人作家ホレス・マッコイは、長編第1作「彼らは廃馬を撃つ」など1930年代に3作の長編を出すも、さほど評判にならず、戦後になってフランスで再出版されたものが、”文学性”で高い評価を受け、本国アメリカでも認められるようになった作家とのことです。フランスからの逆輸入というパターンは、「イマベルへの愛」のチェスター・ハイムズとよく似ており、不条理なノワールものが大好物なフランスならではという気もします。 本書は、すでに名声を得たあとの1948年発表の長編第4作で、ハヤカワミステリ文庫の裏表紙には、”ハードボイルド抒情派”という紹介をされていますが、今でいうクライム・ノヴェルの範疇にはいる作品だと思います。 クライム・ノヴェルといっても、メインとなる競馬の売上金強奪の場面は意外とあっさりした書き方をしていて、「俺」こと主人公のラルフ・コッターの不条理で屈折した造形が一番の読みどころと言えます。 富豪から差し出される大金を拒否する一方で、薄汚れた犯罪による札束には固執したり、富豪令嬢より男好きの欲深い女ホリディを選ぶ。主人公の思考と行為は不条理で一貫性がなく、結局は選択を誤ったことが最後に破滅に繋がってしまいます。子供の時に受けたトラウマからくるある行為と併せて、この不条理感が”文学性”といわれる所以なんでしょうか。 |
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| No.2413 | 6点 | 敗北への凱旋- 連城三紀彦 | 2016/09/01 20:34 |
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| 小説家の柚木は、二十数年前の戦後まもなく横浜中華街の安宿で中国人娼婦に射殺された元大尉の寺田武史という男に興味を抱き、小説の題材にすべく彼の生涯を調べ始める。やがて、ピアニストでもあった寺田が遺した謎めいた楽譜から、男女の狂おしく哀しい人生と、壮絶な真相が浮かび上がってくる---------。
昭和58年に講談社ノベルズで出版された作者の長編第2作。 玉音放送が流れた終戦の日の夕方、空爆で荒廃した東京の空から、真紅の夾竹桃が雨のように降って来るという、序章の情景描写が映像的で美しいですが、真相を知って読むと一転して禍々しく感じるという、いかにも連城風で印象的なシーンです。 夾竹桃を小道具に、恋愛小説と特異な動機のミステリを結合し、ラストで”あるもの”を葬るというプロットなので、たしかに花葬シリーズの長編版と言えるかもしれません。でも、その壮大なホワイダニットの真相が、有名な海外古典作品を想起させる(設定までよく似ている)のは、独創性という点では減点材料ですね。 楽譜の暗号が重要な要素として提示されているのですが、読者が推理に参加するのは困難で、ましてや音楽の素養が全くない身には、解明説明部分を読んでもチンプンカンプン(死語?)な非常に難解なものです。ただ、もともとミステリの暗号解読はさほど興味がないので、個人的にはそれは本作の欠点とは見做さず、さらっと読み流しましたw |
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| No.2412 | 5点 | 九つの解決- J・J・コニントン | 2016/08/30 18:20 |
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| 濃霧の夜、急患宅に出向いた代診医リングウッドは、間違えて入った家で銃弾を受けた男の死体に出くわし、さらに電話を借りるため赴いた隣家で女中の絞殺死体を発見する。その後、事件の一報を受け捜査に乗り出した警察本部長のクリントン卿のもとに、「バンガローを調べよ」という匿名の電報が届く-------。
警察本部長クリントン・ドリフィールド卿が探偵役をつとめるシリーズの4作目で、先に邦訳された「レイナムパーヴァの災厄」のひとつ前、1928年の作品です。 本書は、医療関係の化学研究所に所属する職員らの人間関係に起因する殺人というプロットで、細かい手掛かりにも大学の化学教授だった作者の経歴が活かされています。(あるヒントが専門的すぎて、普通の読者に分かりようがないという難点もありますが)。 多重解決ものを思わせる邦題がついていますが、さに非ず。邸宅の男とバンガローの女の2つの変死体の死因が、それぞれ他殺、自殺、事故のどれに該当するか、順列組み合わせで9通り考えられるということで、タイトルは事件に対するアプローチの多面性を現しています。ただ、序盤でクリントン卿とフランボロー警部が消去法で事件の形態をいくつかに絞り込む場面はあるのですが、その後はウヤムヤになっていて、この趣向が十分に活かしきれていない気がします。 また、発表された時代を考慮すると、ロジックを重視したパズラー志向は評価できますし、最終章のクリントン卿のノートによる丁寧な推理説明も好感が持てる一方で、匿名の情報提供の内容を暗号にする必然性や、男の死体が邸宅にあった事情など、いくつか腑に落ちない点があるのが残念なところです。 |
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| No.2411 | 5点 | 罠の中- 結城昌治 | 2016/08/27 20:39 |
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| 犯罪者の更生保護施設「新生会」の会長・矢次は、施設の印刷工場で働く収容者からピンハネを続け、社会事業の美名の裏で蓄財に励んでいた。そんなある日、矢次から借金を冷たく断られた軍隊時代の元部下が怪死し、その事件を契機に、旧悪を暴露する脅迫電話や殺人予告につづき遂に殺人が起きる--------。
「ひげのある男たち」「長い長い眠り」に続き、昭和36年に書き下ろし出版された長編の第3作。 今回はノンシリーズですが、軽妙洒脱な語り口と、とぼけたユーモアという作者の持ち味は前2作と変わららない軽本格ミステリです。けっこう重いテーマも隠されていますが、前科23犯のスリの常習者や、女好きのポン引き、大学出でバクチ狂の屑屋ら、施設の収容者である人生の落伍者たちのユーモラスでペーソスも溢れるやり取りで、シリアスな動機が中和されている感がありますね。 一方で本格ミステリの出来栄えという点では前2作よりやや落ちるという印象。 死亡フラグが立ちまくりの矢次を中心に置いた群像劇という構成のなかで、途中から登場するある人物の役割が推測しやすく、ミスディレクションの手法もあまり効果を挙げていないと思えるのが残念です。謎解き面でも、もろもろの伏線の回収については最後に一応の説明はあるものの、終盤のバタバタとした解決がちょっと淡泊に感じてしまいました。 |
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| No.2410 | 6点 | 灯火管制- アントニー・ギルバート | 2016/08/22 22:53 |
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| 弁護士のクルックは、フラットの下の階に住むカージー氏とひょんなことで知り合った。風変わりな言動を繰り返すカージー氏に興味をいだき部屋を訪ねると、地方に住むはずの彼の叔母の帽子と手紙を発見、さらに翌朝カージー氏は突如として姿を消してしまう--------。
”私の依頼人はみな無罪”をモットーとするアーサー・クルック弁護士シリーズの一冊。 巻末解説によると、これまでのシリーズ邦訳作品ではクルックの登場場面が限られていて、人物像が十分に描かれているとはいえないようですが、本作では、クルックが住むフラットの隣人の失踪で幕を開け、同じフラットの空き部屋で女性の死体が発見されるという展開なので、クルックは終始出ずっぱり。戦時中ながら、ドイツの空襲とヒトラーをネタにしたブラック・ジョークを連発するなど、ユーモア感覚と悪辣さを兼ね備えたクルックのアクの強さが存分に見て取れます。 謎解き面では、些細なヒントから真相を引っ張り出す堅実な推理の手際と、少ない登場人物のなかで意外性を生み出すプロットは評価出来ます。目立たないですが助手のビル・パーソンズもいい仕事をしていましたね。 なお、訳者あとがきに本書がシリーズ第20作であると書かれていますが、nukkamさんが書評に書かれているとおり11作目が正当です(原題が似ているので勘違いしたのでしょうか)。 |
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| No.2409 | 7点 | 許されようとは思いません- 芦沢央 | 2016/08/19 20:34 |
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| かつて祖母が暮らしていた村を訪れた”私”は、その地で祖母が起こした殺人事件について回想する。ある理由で村民から村八分の扱いを受けていたうえに、なぜ彼女は末期癌で余命わずかな曽祖父を敢えて惨殺してしまったのか?(表題作の「許されようとは思いません」)----------。
日常の中に潜む狂気をテーマにしたミステリ短編5編を収録。 イヤミス系とか暗黒ミステリという評もありますが、そのテーマ自体をミスリードの小道具に使っている作品もあり、連城三紀彦や米澤穂信の一部作品の系譜に連なるような”ホワイダニット”ものとして秀逸な作品集です。 表題作「許されようとは思いません」は、収録作の中でも隠された動機の異形ぶりが突出していて評価が分かれそうですが、女性読者のほうがより納得性が高いかもしれません。 営業マンが発注ミスを隠そうとしてドツボに嵌っていく様を倒叙形式で描く「目撃者はいなかった」は、終盤にある人物が投げかける一言が重く響く。 「ありがとう、ばあば」では、祖母が子役俳優に育て上げた孫娘から痛烈な一撃を喰らう。かなりブラックなオチは予想の斜め上をいくもの。好みでいえばこれがベストかな。 「姉のように」は、育児ノイローゼから幼児虐待に進むイヤミス系の話ですが、読者の先入観を利用したミスリードの仕掛けの部分が冴えている。 最後の「絵の中の男」は、芸術家の特異な思考形態からくる”ホワイダニット”ものということで、もっとも連城ミステリを想起させる作品ですが、これは落としどころが何となく予測できてしまった。 |
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| No.2408 | 6点 | 白骨の処女- 森下雨村 | 2016/08/17 18:50 |
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| 神宮外苑に放置されていた車の中から帝大生・春木の変死体が見つかる。続いて、新潟の石油王・山津家の令嬢で春木の婚約者でもある瑛子が、血痕と切断された指を残し新潟の海辺にある別荘から失踪した。彼らの友人・永田は、東京の新聞記者・神尾と連携し、事件の真相を追うが---------。
戦前の探偵小説界を牽引した雑誌「新青年」の創刊編集長で、江戸川乱歩らを世に出し”日本探偵小説の父”と称される森下雨村が、出版社をやめ本格的に創作に入った昭和7年(1932年)に発表した”幻の最高傑作”(© 山前譲の内容紹介)です。 本書は、タイトルや漠然と抱くイメージから怪奇幻想もののスリラーのようにも思えますが、アリバイ崩しとフーダニットを主軸にした本格ミステリに分類される作品です。 東京で起きた殺人の時刻に容疑者は新潟から大阪に向かう汽車の中にいたという時刻表トリックは、現在の観点から見ると真相が分かりやすいのですが、「点と線」の四半世紀前の作品であることを考慮すべきで、その先進性は評価できるのではと思います。 動機があまりに大時代的なことや、発端の事件が後の連続殺人と有機的に繋がっていないプロットなど、ツッコミどころはいくつもあるものの、スリリングな展開がつづく後半部は読みごたえ十分です。 |
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| No.2407 | 5点 | ブッポウソウは忘れない- 鳥飼否宇 | 2016/08/14 11:14 |
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| 野鳥の生態を調べる大学の研究室に所属する”ボク”こと、大学生・宗像翼の周りで起きる”日常の謎”5編からなる連作短編集。
奄美大島に住み、地元の”野鳥の会”会長を務めている作者らしく、野鳥の生態の薀蓄と、謎解きとを上手く絡めたライトな作品集になっています。 三匹の猫のなかで、どれが野鳥のヒナを殺したのか?という第1話、ツンデレ美女が書いたラブレターの相手はだれか?という第2話、変わり者の先輩研究員の不可解なケガの秘密の第3話と、いずれも提示される謎はたわいもないものばかりですが、”思い込みや先入観による誤解から生じる謎”というのが、連作を通して共通する要素となっているのが面白いところです。 実験室で発生した事件の犯人を、インコが告発したように見える第4話が、編中で最も本格ミステリをしていて、伏線の回収と意外なところから飛び出す犯人というフーダニットとしてプロットがよく練られてます。また、連作を締めくくる第5話も(だいたい予想がつくとはいえ)ハートウォーミングなラストシーンが印象的です。 |
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| No.2406 | 6点 | 拾った女- チャールズ・ウィルフォード | 2016/08/12 20:16 |
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| サンフランシスコ、夜。俺が働く安食堂にふらっと入ってきたブロンド女は、ハンドバックをなくし無一文だという。ホテルを世話した翌日、金を返しに来た女と再会した俺は、衝動的に仕事を投げ出し、その女ヘレンを連れ出して同棲を始める。だが、酒浸りの貧乏暮らしを続ける2人の胸中に、やがて死への抗いがたい誘いが---------。
いわゆる典型的なファム・ファタールものの恋愛小説です。主人公の”俺”ことハリーは、画家を目指すも挫折しその日暮らしをするダメ男で、”運命の女”ヘレンは、暴力的な夫から逃げてきた強度のアルコール依存症。八方塞がりの二人に未来はない。 はっきり言って先は読めるし、クライム・ノヴェル風の展開になるのもだいたい予想の範疇内ですが、本書のキモは「ラストの2行」で明らかになるある仕掛けです。たしかに、これは最後まで読むと、もう一度違和感があったところだけでも読み直したくなりますね。 ただ、”二度読み必至の恋愛小説”といっても、十年ぐらい前にベストセラーになった某国内ミステリのような、どんでん返しや構図の反転モノではなく、再読すると人物の言動・行為が別の意味を持ってくるという妙味です。解説の杉江松恋氏が書いているように、同じ50年代のアメリカの作品で同じアイデアの技法を使った有名作がありますが、伏線の置き方など、先行する本書の方が巧いかもしれませんね。 |
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| No.2405 | 6点 | プレード街の殺人- ジョン・ロード | 2016/08/09 18:52 |
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| ロンドンのプレード街で突如として発生した謎の連続殺人。被害者は、青果商、パン屋、詩人、酒屋など、何の繋がりもないように見えたが、番号が入ったカードが事前に送られていたという共通点があった。警察は状況証拠から煙草屋のカッパードックに目を付けるが、彼にも6番目のカードが届く-------。
プリーストリー博士(本書の表記は”プリーストレイ”)が探偵を務めるシリーズの一冊。本書は、70作以上あるシリーズのなかの最初期の作品(昭和28年に森下雨村が翻訳)で、昔から、ジョン・ロードの作品の中では、典型的な”ミッシングリンク”ものとしてタイトルだけは有名な長編です。 前後編の2部構成になっていて、煙草屋のカッパードックと隣近所に住む薬草家の二人を中心に、街で次々と発生する殺人事件が語られる前半部は、それなりに面白く読めました。全く見えてこない動機の謎に加え、警察監視下の密室状況の殺人というハウダニットの興味まで用意した”謎の提示”に関しては申し分ないです。 ところが、プリーストリー博士が登場する後半部になると、おやおやとなってしまう。探偵だけが知る情報によって、キモの部分がスルスルと解けてしまうのでは、読者が謎解きに参加する余地がありません。本格ミステリとして成立している要素も残りますが、作者の狙いの方向は、どちらかというと名探偵対犯人というスリラー部分にあったように思いますね。 |
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| No.2404 | 7点 | 宇宙探偵マグナス・リドルフ- ジャック・ヴァンス | 2016/08/06 14:31 |
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| 白髪白髭の老紳士にして、宇宙空間を駆け巡るトラブルシューター、マグナス・リドルフの冒険&探偵譚、全10編を収録した連作短編集。
環境や文化・価値観が異なる様々な惑星を舞台に、ユニークな習性をもつ異星生物、種属が登場するSF作品集で、精緻で色彩豊かな異郷描写と併せて、悪人に対するリドルフ爺の意地悪で容赦ない”お仕置き”で終わるスタイルが特徴的です。また、エラリー・クイーン名義の代作(=昨年「チェスプレイヤーの密室」が訳出されました)を手がけたジャック・ヴァンスだけあって、フーダニットもの、密室殺人、アリバイ崩しと、謎解きミステリの要素を備えた作品も多い。 個人的ベストは「ココドの戦士」か、SF的発想が光る「ユダのサーディン」。最初に置かれた中編の「ココドの戦士」は、シリーズの魅力を過不足なく備えた完成度の高い作品だと思います。 あと、「禁断のマッキンチ」と「とどめの一撃」は、ともに限られた集団の中から犯人を絞り込むフーダニット・ミステリで構成が似ている。容疑者集団が様々な特性を持つ異星人であることで、消去法推理がより効果的に使われているとともに、異形の生物を前にしての”名探偵、皆を集めてさてと言い”という構図がシュールですw 「とどめの一撃」はホワイダニットとしての意外性もあります。 密室殺人と意外な犯人ものの「呪われた鉱脈」や、数百万光年を隔てた壮大なアリバイ崩しの「数学を少々」、これも壮大な集団人間消失トリックもの「暗黒神降臨」は、SF的発想をトリックに活かした試みがミステリ読みにどのように受け入れられるか、読む人によっては微妙なところがあるかも。 |
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| No.2403 | 6点 | 大当りをあてろ- A・A・フェア | 2016/08/02 18:14 |
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| 実業家ホワイトウェルから跡取り息子の婚約者コーラが失踪した案件を引き受けたクール所長とラム君は、手掛かりの手紙の差出人ヘレンが住むラス・ヴェガスにやってきた。ところが、その女性ヘレンはカジノのスロット・マシンを不正操作して稼ぐ詐欺師で、やがてコンビを組む男がアパートの一室で射殺死体で見つかる---------。
大女バーサ・クールと小男ドナルド・ラムの凸凹探偵コンビ、シリーズの第4弾。 このシリーズは、探偵事務所の所長が巨漢だったり、女性にモテモテの若い助手の一人称で構成されているところなど、レックス・スタウトのネロ・ウルフシリーズといくつか重なる部分があるのですが、謎を解くのが助手(次作で共同経営者になるらしい)のラム君なのがいちばん異なる点でしょうか。今回もバーサは調査の金勘定に勤しみ ”ぼく”ことラム君がひとりで奮闘しています。 カジノの従業員でボクサーくずれのルーイがいい味を出していて、ラム君とヘレンの三人組がネバダ州の砂漠で野宿する場面は、本筋とさほど関係しないのですが、なぜか印象に残ります。ふたりの”その後”が示唆されるエピローグにはニヤリとさせられた。 謎解き面では、その人物の行動に不自然さを感じていたので、真相はある程度見当はついていたのですが、ラム君のある行為の理由は意外で、これはいかにもガードナーらしいやり方でした。 |
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| No.2402 | 5点 | 吸血鬼飼育法- 都筑道夫 | 2016/07/28 20:37 |
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| 渋谷に”faa”(ファースト・エイド・エージェンシー)という事務所を構える”なんでも屋”のトラブルシューター、片岡直次郎を主人公にした4編収録の連作中編集(初出時のタイトルは『一匹狼』)。
片岡直次郎が、のちに物部太郎の相棒として登場する「七十五羽の烏」以下の長編パズラー3部作とはだいぶテイストが違っていて、腕っぷしで難題を解決するハードボイルドというか、アクション・スリラー風の内容のものが多い。 警察に包囲された強盗殺人犯の脱出を引き受ける第1話や、強姦願望の男からの依頼を受ける第4話は、悪事にもためらいなく手を出しながら、当初の依頼内容から外れて、ストーリーがどんどん予想外な方向に展開してゆくプロットが面白いです。アクション・シーンで飛び出す”007”ばりのアイデアも凝っていて、「なめくじに聞いてみろ」ほどではないですが、それに近い味わいがあります。 ライフル男に女性とともにエレベーターに閉じ込められる第3話のみ”巻き込まれ”タイプのアクション・スリラーになっていますが、これは平凡な出来で読みどころが見当たらない。 吸血鬼の系譜だと信じる女性からの依頼で、夫の代役として新婚旅行に同伴することになる第2話が、編中ではもっとも謎解きミステリらしい構成になっていますが、真相に意外性はあるものの、ロジックや推理の要素は希薄でした。 |
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| No.2401 | 6点 | ハイチムニー荘の醜聞- ジョン・ディクスン・カー | 2016/07/25 18:35 |
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| 妹2人を早く結婚させるよう父を説得してほしい-----友人のヴィクターからの奇妙な依頼を受けて、ハイチムニー荘を訪れた作家のクライヴは、ヴィクターの父親から、子供たちの中に昔自ら死刑に追い込んだ殺人犯の遺児がいるという、驚くべき話を聞かされる。クライヴがその名を尋ねたその時、書斎に銃声が響き---------。
ヴィクトリア朝の英国を舞台にした本格ミステリ。 ディクスン・カーの歴史ものは、時代背景やロマンス、風俗描写に重点が置かれた冒険スリラー色が強い作品も多いのですが、本書は(男女のロマンスはミスディレクションの道具になっていて)、フーダニットを主軸にした比較的謎解き要素が強い作品です。 メイントリック自体は、それほど新味を感じさせるものではありませんし、読み終えれば真相も意外と単純なものだったと分かるのですが、語り(騙り)のテクニックで容易に真相を見抜けなくなっています。読む人によっては、真犯人の隠蔽の方法がアンフェアとは言えないまでも、あざとすぎると感じるかもしれませんが、各章の終りで興味をつなぐ”引き”のテクニックをはじめとして、作者のストーリーテラー巧者ぶりを再認識させられる仕上がりだと思います。 なお、文庫版巻末の”好事家のための注記”のなかで、ウィルキー・コリンズ「月長石」の完全ネタバレがあるので、未読の人は注意が必要です。(ただし、クリスティの有名某作と比較したカーの「月長石」評は非常に示唆に富む分析だと思います)。 |
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| No.2400 | 6点 | 屍の記録- 鷲尾三郎 | 2016/07/21 18:31 |
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| 京都伏見にある老舗の造り酒屋・本間家に招かれた探偵小説作家の牟礼順吉は、旧友の新也から、社長である実兄が不可解な状況下で失踪した事件の相談を受ける。話を聞けば、本間家では日露戦争当時の三代目当主をはじめ、都合3件の失踪事件が発生しているという(表題作の長編)---------。
日下三蔵編”ミステリ珍本全集”の最終巻になった第12回配本は、短編「文殊の罠」などで知られる鷲尾三郎。本書には「屍の記録」と「呪縛の沼」の長編2本に、中短編4作品が収録されています。(ここでは表題作のみ寸評します) 「屍の記録」は、講談社が企画した書下ろし長編探偵小説全集の公募枠いわゆる”十三番目の椅子”を、鮎川哲也(中川透)の「黒いトランク」等と争った応募作を改題した作品(のちに「死臭の家」と再度改題された)。 地方にある名家の広大な敷地を舞台に、狐様の祟りという怪奇趣向を交えて、衆人環視下の人間消失という不可能トリックを主軸に置いた古色蒼然たる探偵小説です。現代的作風の”推理小説”「黒いトランク」とは、かなり対照的な作風なんですが、ひとつ珍しい共通点があって、「黒いトランク」では鬼貫がトリック解明に際して例えた”風見鶏のロジック”が有名ですが、「屍の記録」でも、順吉が人間消失トリックの真相に気付くきっかけが風見鶏なのです。これは面白い偶然の一致ですね。 その肝心のメイントリックの真相がかなり脱力感を伴うのがアレですが、過去の失踪事件にそれぞれ時代を反映する動機が隠されているのが面白いですし、古き良き探偵小説の雰囲気が十二分に味わえます。 |
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| No.2399 | 5点 | 崩れた直線- 陳舜臣 | 2016/07/18 09:24 |
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| ミステリ系の作品8編からなる短編集。個々の書誌データが掲載されていないのですが、”あとがき”の内容から推して昭和40年代の直木賞受賞前後の、作者が精力的に短編を量産していたころに発表された作品を収録したものと思われます。
表題作の「崩れた直線」は、作者の創造した名探偵、中華料理店主の陶展文が登場するやや長めの短編。身内が殺人事件に巻き込まれたことで展文が探偵に乗り出す。中国拳法の弟子である新聞記者の情報収集に依存する部分が目立ち、ダイイングメッセージの真相も含めて、読者が推理に参加できる形になっていないのが少々残念ですが、ファンなら十分楽しめる作品。 富豪の未亡人で美術商でもある謎めいた女性ルー夫人の思い出が語られる「ミセス・ルーの幽霊」が編中のベスト。その過去のエピソードが、意外な形で現在の隠された犯罪に結びつく構成の妙を評価します。 そのほかでは、「縞の絵筆」や「闇に連れ込め」のようなトリッキィなものもありますが、作者と思しき「わたし」が、神戸の華僑社会で生きた印象深い人物の過去の物語を、当時を知る老人から聞くという構成の作品がいくつかあり、それらはミステリ要素があまりないです。 |
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| No.2398 | 6点 | 現代忍者考- 日影丈吉 | 2016/07/13 18:16 |
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| 新聞社の論説委員・江木は、向かいのビルの8階の窓から人が墜落するのを目撃するも、地上には死体や事故の痕跡が見当たらなかった。ところが後になって、そのビルの9階空部屋にダンサーの死体が出現、さらにはプレスビルの密室状況の控え室で、新たに殺害死体が発見されて--------。
どういうタイプの小説なのかを推測するのが難しそうなタイトルが付いていますが、あらすじ紹介のとおり、人間消失、密室殺人、幽霊殺人など不可能犯罪の興趣にあふれた本格ミステリです。「ささやく影」「ひらいたトランプ」「怯えるタイピスト」「闇からの声」「赤毛の男の妻」など、各章のタイトルが海外ミステリ作品から採られ、それに合わせた内容になっているのが洒落ています。 また、新聞記者コンビ、アメリカ人の探偵、所轄の警部と、探偵役を複数人置き、三者三様のアプローチで事件に対峙する構図も当時としてはユニークで(探偵役たちの推理合戦や多重解決ものでないのは残念ですが)、車椅子の腹話術師をはじめ他の登場人物も存在感があります。 完成度にやや難があるとはいえ、これだけマニア受けしそうな趣向を備えていながら、初出当時の評判が散々だったのが不思議ですが、作者に求められているタイプの小説ではないということと、人間消失や幽霊殺人が”トリックのためのトリック”だったり、密室のトリックが乱歩の通俗ミステリを思わせるバカミス的な道具立てなのが低評価の理由かもしれません。新本格を経た現在の読者には、それなりに受けそうな気がしないでもないですけど。 |
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| No.2397 | 6点 | 怪盗ニック全仕事(3)- エドワード・D・ホック | 2016/07/12 18:44 |
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| 泥棒にして探偵役、〈怪盗ニック〉ことニック・ヴェルヴェットが登場する短編87作品を発表順に収録する全集(全6巻)の3巻目。このシリーズは早川書房から日本独自編集で4冊出ていますが、この創元社版の3巻目は本邦初訳4作をはじめ、いままで個人短編集に未収録だったものが半数以上占めているのは嬉しい。
どのようにして盗むか(ハウダニット)の部分は、ややご都合主義が目立ち、手段もパターン化されていて、それほど力点は置かれていません。やはり当シリーズに一貫する魅力は、なぜ価値がないもの(あるいは奇妙なもの)を大金を出して盗ませようとするのか?という謎(ホワイダニット)にありますね。 シリーズも30話を超えると(本書には第31話から44話までの14作を収録)、新鮮なアイデアは少なく、マンネリを感じることは否めないのですが、往年のファンであれば、安心して楽しめる作品集です。本書では、恋人のグロリアの存在を活かすプロットがいくつかの作品で見られるのが、作者の工夫かなと思います。また、依頼された仕事が終わったあとに意外な展開をみせる作品が多いのも特徴的です。 収録作の個人的ベスト3は(再読が多いのですが)、「きのうの新聞」「感謝祭の七面鳥」「田舎町の絵はがき」あたり。また、「駐日アメリカ大使の電話」は、日本が舞台で、7月に皇居のそばで凧揚げをするシーンが出てくる異色作ですw |
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| No.2396 | 6点 | 虚構の男- L・P・デイヴィス | 2016/07/07 20:05 |
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| 住民わずか9人の閑静な小村で、毎日小説の構想を練ったり散歩したりして暮らすアラン。隣に住むリーから50年後の世界を舞台とする次回作のヒントをもらい気分も上々だったが、ときどき不可解な現象を体験したり、誰かから監視されているような感じが気になってきて--------。
国書刊行会の〈ドーキー・アーカイヴ〉という、ジャンルに拘らない”変な小説”ばかりを揃えた新叢書の第1回配本作品。読書メーターなどのミステリの感想で、「なにを書いてもネタバレになってしまいますが.....」で始まる寸評を時々見かけることがあって、「じゃあ何も書かないで!」と、ひとり密かにツッコミを入れていたりするわけですが、本書もそういう類いの小説です。 なにを書いてもネタバレになってしまいますので、本来、上のようなあらすじ紹介は余分かなと思いますし、ジャンル投票で〇〇に分類、特定してしまうと、中盤の展開の意外性を半減させてしまう恐れもあります。また「虚構の男」というタイトルも本書のキモの部分を暗示していて、勘のいい人にはネタバレになってしまいかねないので、本書の場合タイトルも表示しないほうががよかったかなと思いますw 冗談はさておき、第1章の牧歌的な雰囲気からは想像できない中盤以降のブッ飛びな展開の連続は(読者を選びそうな怪作とはいえ)個人的には楽しめました。色々なジャンルの混合型スリラーという点で、ジョン・ブラックバーンを引き合いに出しているのも分かりますし、不条理な世界に置かれた〇〇な主人公という設定でジョン・フランクリン・バーディンの某作も想起させます。翻訳にしては文章は読みやすく、(偶然か狙ったのかは分かりませんが)ある意味で今年(2016年)読まれることに意義がある作品と言えますね。 |
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| No.2395 | 7点 | 埋葬された夏- キャシー・アンズワース | 2016/07/05 18:21 |
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| イギリス東部の海べり、リゾート・ビーチのある町で殺人事件が起き、16歳の少女コリーンが犯人として裁かれ療養施設に入れられる。そして20年後、新技術によるDNA検査によって新たな証拠が出てきたことにより、弁護士から再調査を依頼された元刑事の私立探偵ショーンは、悪徳が潜む町アーネマスを訪れる---------。
現代と過去の2つのパートが交互に並行して描かれる。 ショーンが地元新聞社の女性編集長の協力を得て関係者を訪ね巡り、事件を洗い直す私立探偵小説としての現代パートと、3人の少女を中心にした友情と愛憎関係、思春期ならではの心の葛藤を描くノワールな青春小説としての過去パート。この2つのパートのエピソードを交錯させながら、徐々に事件の背後にあるものを明らかにし、ゼロ時間に収斂させていく構成が非常に効果的です。 ”20年前の夏、この町で本当は何が起きていたのか?”という謎を中核に置きながら、読者に対して”誰が殺されたのか”を明示しない「被害者探し」の趣向も組み込み、さらには、当時の重要人物である残りの2人の少女は今はどこに?という副次的な疑問が終盤近くまで読者につきまとう、これらの重層的な謎がサスペンスを高めて、否が応でも読む者を駆り立てます。 過去の事件の真相自体は(途中からある人物の側からの視点が入ることもあり)予想の範疇を超えるものではありませんが、一応の幕が下りたあと、ラスト2ページで明らかになる事実が衝撃的で、これには心が震えるほどの深い感銘を受けました。ああ、そういう物語だったのか....と。 |
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