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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1794 8点 ハメット- ジョー・ゴアズ 2012/09/09 20:49
ピンカートン探偵社を辞めて、雑誌「ブラックマスク」の作家として糊口をしのいでいたダシール・ハメットが、元同僚殺しの犯人探しにサンフランシスコの街を駆け巡る異色のハードボイルド。

ハードボイルド小説の先駆者、サミュエル・ダシール・ハメットの若かりし頃のエピソードを織り交ぜながら、1928年のサンフランシスコの猥雑な夜の情景など、オマージュと時代の雰囲気が活き活きと描かれているのが◎。また、このまま終わるのか、と思われた終盤には”どんでん返し”的なミステリ趣向が凝らされている点もポイント高いです。
登場人物では、対照的と言える二人の若い女性が非常に印象に残る。アパートの隣の部屋にすむ娘グッディのハメットへの淡い恋愛感情が物語のいいアクセントになっているし、なによりも、娼家の女中である15歳の中国娘クリスタル・タムの意外な造形が見事です。

No.1793 6点 推理日記1- 評論・エッセイ 2012/09/05 20:48
「小説推理」誌上で長期連載されていた佐野洋氏のエッセイ風ミステリー時評「推理日記」が今年の7月号で遂に終了しました。スタートしたのが1973年らしいので40年近く続いたことになります。作者には”長い間お疲れ様でした”と言いたいですね。
ときには、揚げ足取りとか重箱の隅つつきなどと辛辣な評価をされることもあったエッセイですが、ミステリ読み初心者の時期に初めて手に取ったこともあり、個人的には結構影響を受けた気がします(といっても、パートⅢまでしか持っていませんが)。
本書の内容で印象に残っているのは、草野唯雄「もう一人の乗客」をテキストにした、物語進行上の”視点”に関する考え方ですね。叙述トリックがまだ一般化していなかった時代に、フェア・アンフェアと絡めて視点の問題を考察しているのが新鮮に感じました。
あと、目次を眺めていると、「アルキメデスは手を汚さない」「暗黒告知」などの乱歩賞作品ほか「動脈列島」「スカイジャック」など懐かしい作品が並んでいて、もう一冊の”フラッシュバック”として読み返すことも可能です。先日寸評した「カーラリー殺人事件」も本書を読んで再読したものです。

No.1792 6点 グルーバー 殺しの名曲5連弾- フランク・グルーバー 2012/09/04 17:59
”人間百科事典”ことオリヴァー・クエイドを探偵役に据えた連作ミステリ。
書籍のセールスマンが肉体派の相棒をつれて全米中を回りながら殺人事件に巻き込まれるという基本プロットは、のちのフレッチャー&クラッグの長編シリーズと同じです。違うのは、”あらゆる質問にも答えることができる”という特殊能力をクエイドが持っている点で、毎回のように百科事典から仕入れた知識と機転を使って窮地を脱するのが読みどころの一つです。
語り口は通俗ハードボイルドですが、設定と謎解きのプロセスは本格ミステリで、たとえば、「鷲の巣荘殺人事件」は、脱獄囚4人組に乗っ取られた避暑地の山荘風ホテルという(石持浅海のデビュー長編風の)クローズド・サークルものですし、「不時着」は、雪山に墜落した小型飛行機の乗員乗客たちが山小屋で殺人事件に遭遇するという話でいずれも設定が魅力的です。
また、中編の「ドッグ・ショウ殺人事件」は正統フーダニットでクリスティが好んで使うようなミスリードが巧妙で、これが編中の個人的ベスト作品。
一つ不満な点は、音楽ミステリかと誤解しそうな文庫版タイトルで、やはり当初のタイトル「探偵 人間百科事典」が惹きつけるものがあっていいです。

No.1791 6点 カーラリー殺人事件- 石沢英太郎 2012/09/02 11:51
北海道宗谷岬をスタートし鹿児島の佐多岬をゴールとする日本縦断カーラリーを舞台にした長編ミステリ。競馬場の売上金強盗の強奪金の行方と、愛人を謀殺された男の復讐計画という2本の隠された犯罪を主軸に、参加者のさまざまな思惑を交錯させたユニークなプロットが楽しめます。
クイズ形式のラリーでトラベル・ミステリ的興味を取り入れたり、ラリー参加者(終始マイペースを貫く老夫婦、潜入警察官コンビなど)の群像劇的要素など、色々盛り込み過ぎの感もありますが、最後は関係者を一堂に集め、探偵役で盲目の運転補助者(ナビゲーター)による謎解きもあり、単にサスペンス小説で終っていません。

No.1790 6点 エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ- エドワード・D・ホック 2012/08/29 22:59
ホックが長い作家生活の間に断続的に書いたホームズ譚のパスティーシュ集。すでに同じ版元の原書房からは贋作ホームズのアンソロジーが数冊でていて、いずれもホックの作品が入っているため重複するのですが、本書はシャーロッキアンよりホック・ファンのための作品集という感じがするので良しとしましょう。
パスティーシュといっても文体の模倣は意識していなくて、ホームズ譚の構成を借りた、あくまでも”ホック流ミステリ”です。
個人的お薦めは、隠退しサセックス州で養蜂家となったホームズ宛に”あの女性(ひと)”から依頼が舞い込む「モントリオールの醜聞」と、タイタニック号の船上でホームズが”あの作家”と共演する「瀕死の客船」です。後者はワトソンの手記ではなく、ホームズの一人称で語られるのだけど、最後に明らかになるその理由には思わずニヤリとなります。

No.1789 6点 かげろう忍法帖- 山田風太郎 2012/08/28 20:18
忍法帖シリーズの短編集(講談社文庫版)。同じタイトルのちくま文庫の忍法帖短編全集の第1巻とは少し収録作が異なり、本書は「忍者〇〇〇」で統一された8作品が収められています。

山風忍法帖といえば、奇想天外な様々な忍法による活劇や、お色気シーンが読みどころと思われがちですが、解説の法月綸太郎氏も指摘しているように、短編だとそれらは薬味で、忍者の「人間としての生き死に」を中心に描いたものが目立つように思います。といっても各話の内容は物語性ゆたかでバラエティに富んでおり、なかでもミステリ趣向もある「忍者明智十兵衛」や、家康重臣たちの権謀術数がすさまじい中編の陰謀譚「忍者本多佐渡守」などが印象的です。

No.1788 5点 アルカード城の殺人- ドナルド・E・ウェストレイク 2012/08/25 23:12
トランシルヴァニアの森に建つアルカード伯爵の古城で発生した図書館司書殺しの犯人当てミステリ。ウェストレイクには珍しいフーダニットものですが、実のところは、”ミステリー・ウィークエンド”という一般参加者が出題された謎を解くミステリ・イベントのノベライズです。
推理データとして、十人以上の容疑者の一人一人の証言を順に読んでいくうちに事件当時の状況が分かって来る構成で、各人の怪しげな個性を浮き彫りにする語り口に作者らしさは覗えるものの、決め手となる手掛かりが十分とは言い難く、犯人特定のロジックが弱いのが物足りないです。むしろ、ドラキュラ伯爵、狼男、フランケンシュタイン博士などを想起させる怪奇小説のパロディ的雰囲気を味わうのが吉かと。

No.1787 7点 ビブリア古書堂の事件手帖3- 三上延 2012/08/22 22:34
人気ビブリオ・ミステリの3作目。栞子さんが謎解く古書にまつわる3編のエピソード部分も相変わらずよく出来ているが、今作はシリーズ全体を貫く”篠川家の秘密”に関する伏線を個々のエピソードに絡めた構成になっている。
サブタイトルが暗示する妹・文香の独白風のプロローグとエピローグにある仕掛けを施すところなどミステリ趣向がうれしいし、シリーズものによくみられるキャラクターによりかかるだけの作品になっていないのがいいです。
あと、個人的には、第1話の「たんぽぽ娘」を読んで「年刊SF傑作選2」をダンボール箱から引っぱり出したくなった。これがビブリオ・ミステリたる所以でしょうね。

No.1786 7点 骨の刻印- サイモン・ベケット 2012/08/21 22:16
法人類学者デイヴィッド・ハンター、シリーズの2作目。前作の閉鎖的寒村につづいて、英国最果ての嵐の中の孤島というクラシカルな舞台設定に、死体鑑定のエキスパートを置くミスマッチ的な組み合わせがユニークな謎解きミステリです。
感想を一言で言うと「どんだけひっくり返すんだ!」という感じ。
犯人の指摘があっても残りページを勘案すると、何かどんでん返しがあるだろうと予測はできるのですが、これは想定の遥か上を行く凄まじさでした(最後のサプライズはややあざといか)。一つ気になったのがアンフェアぎみの登場人物表の表記ですが、かといって代替案が思い浮かばないので、これはやむを得ないところでしょうか。

No.1785 6点 仙台で消えた女- 多岐川恭 2012/08/20 18:26
「消えた女」三部作の3作目。時代小説に軸足を移していた作者の最後期のミステリ作品です。「京都」は未読ながら「長崎」がごく平凡な旅情ミステリだったので、あまり期待せずに読みましたが、これは作者らしい捻ったプロットでした。
消えた人妻を追う三人の男女、それぞれ三者三様の秘めた思惑を徐々に明らかにさせながらも、”的の女”瀬戸溶子は最終章近くまで登場させない構成の妙。殺人事件の犯人に関するどんでん返し以上に、彼女は薄倖の女なのか悪女なのかという興味で読ませます。
エピローグの一文がなんとも言えない味がある。

No.1784 6点 疑り屋のトマス- ロバート・リーヴズ 2012/08/18 22:04
酒と女と競馬をこよなく愛する”やくざな大学教授”、トマス・セロンが競馬場での調教師殺しに巻き込まれる、シリーズの1作目。
本筋の殺人事件の謎解きのプロセスはともかく、知的ユーモアと皮肉交じりの語り口が心地いい作品。主人公のトマスをはじめ、文学趣味のギャングのボスなど、ややマンガチックながら登場人物のキャラクターが生き生きしていて読んでいて楽しい。作者自身も執筆当時はハーヴァード大学の教授だったようですが、ベテラン作家の作品かと思えるほど遊び心が溢れていました。

No.1783 6点 欲の無い犯罪者- 井沢元彦 2012/08/16 17:30
古美術研究家・南条圭の推理ノート。最初期の作品集であり作者の意気込みが感じられるミステリ趣向が十分なものがいくつかありました。

「極東銀行の殺人」は、銀行強盗籠城事件という構図がラストで鮮やかに反転。タイトルでメインアイデアの元ネタ(クリスティの某作)を示唆していますが、”東洋銀行の殺人”のほうがより明確だったかも。
「不運な乗客たち」は、列車事故を利用した”蓋然性の殺人”かと思わせてのツイスト、「欲の無い犯罪者」は、誘拐身代金を受け取らず馬券購入に充てさせる”ホワイ”が魅力的で伏線も丁寧な佳作だと思います。

No.1782 6点 百万長者の死- G・D・H&M・I・コール 2012/08/15 18:23
”乱歩が選ぶ黄金時代のベスト10”に一時は挙げられていたという英国古典本格ミステリ。コール夫妻の合作での第1作で、ウイルスン警視シリーズの第2弾です(シリーズの1作目は夫の単独名義)。

超高級ホテルの一室に血痕を残して失踪したアメリカの大富豪の謎を基軸に、舞台をシベリア、フランスと移しながらも、なかなか進展しない地味な捜査の第1部はやや退屈に感じました。ウイルスン警視の言動、株価操作が絡む企業謀略や英仏海峡の密輸なども含めて、作風はクロフツとよく似ています。あれだけ引っ張っておいて真相がコレかよ!という感がなきにしもあらずですが、サブタイトルを”ウイルスン警視最後の事件”と称したくなるような探偵小説としてのラストがユニークです。

No.1781 5点 ナミヤ雑貨店の奇蹟- 東野圭吾 2012/08/12 13:56
閉店した雑貨店を窓口に、過去の人々からの時空を超えた手紙のやり取りによる人生相談の顛末を描く、「トキオ」路線のファンタジー系”ちょっと感動する話”。
連鎖式長編というべきか、個々のエピソードが、ある施設の存在によって結びつき徐々に一つに収斂していく構成の妙はさすがです。ただ、あえて裏の主人公である浪矢の爺さんを登場させないのはいいのだけれど、施設に関係した人々の群像小説のようになっていて、物語全体の焦点がはっきりしないまま話が終ってしまった感もありました。

No.1780 5点 追撃の森- ジェフリー・ディーヴァー 2012/08/08 22:31
全体の8割を占める延々と続く森林の鬼ごっこの部分が読んでいて乗れなかった。例によって細かなトリックの連打でどんでん返しを繰り返しているのだけれどディーヴァーの作品としては驚くまでには至らない。ついついテレビのオリンピック中継に目が行ってしまって読み進めるのに時間がかかってしまった。
作者が”これまでのどの作品よりショッキングな結末”と言っているのが不可解で、終盤は、主人公の女性保安官補ブリンを巡る家族小説、恋愛小説的な趣きが強く出ている印象を受けた。オリンピック柔道競技の旗判定のごとく、青3本が全て白旗に反転するような(笑)鮮やかなどんでん返しとはいかなかった。

No.1779 6点 衣更月家の一族- 深木章子 2012/07/31 22:01
第3回ばらのまち福山ミステリ文学新人賞(長い!)を「鬼畜の家」で受賞しデビューした作者の2作目。

湊かなえ風のイヤミスをイメージしていましたが、意外とトリッキィなプロットのミステリでした。
一見タイトルと乖離した関連性が見えない3つの物語を、前作でも登場した元刑事で私立探偵の榊原が接着剤の役割になって最終章で合体させ、意外な構図を浮き彫りにしていくという構成です。
第2部の3億円の宝くじを巡る犯罪など、個々の話は面白いけれど、メインの仕掛けは分かりやすいのではと思う。プロローグとタイトルで方向性が見えてしまった。「~の一族」となればやはりネタはあれでしょうし。

No.1778 6点 奪回- ディック・フランシス 2012/07/25 23:07
誘拐犯との身代金交渉や被害者側の精神的ケアが仕事という実在する誘拐対策会社をモデルに、その派遣員アンドルーを主人公にした競馬シリーズの22作目。

イタリア、英国そして米国と次々舞台を移して、競馬関係者を標的にした連続誘拐犯の謎の首謀者との頭脳戦を描き、終盤の窮地からの脱出など活劇的にもそれなりに面白く読めるのですが、作者らしさがあまり感じられなかった。具体的には、主人公が組織の一員でプロフェッショナルな人物ということもあるけれど、ヒロインの女性騎手との絡みが中途半端で、首謀者「彼」の人物像も悪党ぶりがあまり伝わってこなかったですね。まあこれは、ディック・フランシスだからの不満なので、冒険スリラーの水準は十分クリアしていると思いますが。

No.1777 6点 本格ミステリ鑑賞術- 事典・ガイド 2012/07/23 21:31
本格ミステリの”読みどころ”を技術論を交えて多角的に紐解いたガイドブック。
テーマは、「フェアかアンフェアか」「伏線の妙味」「ミスディレクション」「犯人特定のロジック」から、「解決の多重性」「叙述トリックの鬼子性」「メタミステリの開拓性」など、本格ミステリのあらゆる要素について、具体的に多くの作品例を取り上げて解析しているので、分かりやすい上に非常に刺激的な内容になっています。特に「フェアかアンフェアか」が個人的に示唆に富む興味深い内容でした。
”具体的に作品例を取り上げ=ネタバレのオンパレード”になるわけで、各章の冒頭に該当作品名を明示しているのですが、その中に未読本があっても関係なく読み進めてしまう面白さがあります。

No.1776 6点 笑うきつね- フランク・グルーバー 2012/07/21 15:59
ボディビルのハウツー本のセールスで全米各地を渡り歩き、ドタバタ騒動を巻き起こしながらも最後に殺人事件を解決する、ジョニー・フレッチャー&サム・クラッグのコンビ・シリーズ2作目。

金欠状態の二人が泊るホテルの部屋での死体発見というシリーズのお約束のような発端から、サイコロ賭博や養狐業者の展示会でのお馴染みのセールス・パフォーマンスと、軽ハードボイルド風のテンポのいい場面展開で飽きさせません。
メインの謎である20年前の少年失踪事件の真相はやや伏線不足といえますが、最終章で関係者を一堂に集めた謎解きが定番を外したかたちで捻っています。

No.1775 3点 君の館で惨劇を- 獅子宮敏彦 2012/07/19 19:09
乱歩と横溝の小説をなぞらえた”見立て連続不可能殺人”ものの本格ミステリ。と書くと、これ面白そうと思ってしまうのですが、残念ながら個人的には今年のワーストに近い内容だった。
”怪奇と残虐美”という乱歩の通俗長編はほとんど読んでないので、続々と繰り出されるウンチク、ネタバレの類いがまず分からないし、お互いに仮面で顔を隠し対峙する探偵と怪人・黒死卿という設定や、探偵のおふざけキャラが受け付けなかった。
唯一、乱歩の未完長編「悪霊」をモチーフにした土蔵の密室トリックが面白いのだけど、前提となる動機がかなり無茶です。この動機で、「健康のためなら死んでもいい」というギャグを思いだした。

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