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[ ハードボイルド ] ハニー貸します ハニー・ウェスト |
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G・G・フィックリング | 出版月: 1966年01月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1966年01月 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | 2020/11/16 04:26 |
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(ネタバレなし)
ロスアンジェルス。何者かに殺された父親ハンクが遺した探偵事務所を受け継ぎ、私立探偵として活躍する「わたし」こと28歳の美女ハニー・ウェスト。ハニーは、彼女自身がかつて少女時代にファンだった映画スター、ハーブ・ネルソンと懇意だった。だが現在のネルソンは尾羽打ち枯らした孤独な老人。そんなネルソンの訃報に接したハニーは、自分から彼の最期の事情を探る。ハニーは、少し前にネルソンを脇役として出演させる話がありながら、結局はお流れになった人気テレビ番組「ボップ・スワンソン・ショウ」周辺の面々に接触。番組の主演スター、ボップ・スワンソンやプロデューサーのサム・エイセズたちと対面するが、やがて関係者一同が集う大型ヨット<ヘルズ・ライト号>の周囲で連続殺人が……。 1957年のアメリカ作品。女私立探偵ハニー・ウェストシリーズの第一弾。 先日、シリーズ第4作『ハニーと連続殺人』を先に読んでしまったばかりの評者だが、シリーズ初弾の本作がそのあと家の中で見つかったので、改めてこっちを一読する。彼女お借り……ではなく、女探偵ハニーお貸しします、だな(原題は「This Girl for Hire」。この娘を雇えます、というくらいの意味か?)。 まだシリーズ第一作目のためか、劇中キャラクターの書き分けは後発の『~連続殺人』の方がこなれが良い気がした。とはいえ、例によって自分で登場人物一覧リストを作りながら読むので、そんなに煩わしさとかは感じない。 ストーリーそのものは、ウン十ページにつき一人のペースで飛び出してくる死体という感じで、実に小気味よく進む。行方をくらました重要人物らしいキャラクターの予期せぬ(中略)、生きているのか死んでいるのかわからない去就不明のキャラクターの謎……など、読み手に与える刺激もバラエティに富んでいて飽きさせない。 さらに物語の流れの上の一部では、ハニーのボーイフレンド兼ライバルのマーク・ストーム警部の推理の方が、主人公のハニーの一手先を読んでしまうなどの軽い意外性もなかなか楽しい。 まあ物語をスムーズに転がすために、ハニーがたまたま遭遇した事態のなかでごくラッキーに手がかりやのちのちの展開に続く伏線を獲得するといった都合のよい部分もないではないが、全体の割合からすればそれは抑えめ。 しかもいやらしいというより陽性のお色気シーンや、女探偵としてのアクション描写も混ぜ込みながら、それらの節目の展開は起伏感豊かに見せてくれている。美人探偵を主人公にしたB級私立探偵ミステリとしては、これはこれで結構なレベルではあろう。 それでシリーズ全体の風評や、先に読んだ『連続殺人』の印象から、どうせまた今回も最後には何かミステリ的にヘンなことを仕掛けてあるんだろうと予期したが、例によってページ数が少なくなっていくなかで事件の真相はなかなかまだまだ底を割らない。それで最後には……(中略)! いや個人的には、すごくウケました。色んな意味で(中略)な真相で真犯人だが、この意外性は実のところ、けっこう好みだったりする(笑)。なんかね、1990年以降の日本の新本格ジャンルでの、中規模のしかし妙に打球の切れがいいファール作品を読まされた感じで(笑)。 ヒトに胸を張って勧められるかというと微妙だけど、ひそかにこっそりと、これを楽しんだ記憶を心の片隅に留めたい一作。そのうちまたこのシリーズを読むのが楽しみじゃ。 最後に、前述のとおり主人公ハニーの年齢設定は、このデビュー編で28歳。6年前に父親ハンクを殺されて以来、数年間、自分自身の探偵稼業のキャリアを積んだとして、ごく自然な年齢である。 そして、かなり後輩の世代のウォーショースキーや、我が国の現役・葉村晶なんかがもっとずっと年上で活躍している現在の視点からすれば、女性探偵としては全然若いんだけれど、日本にハニーシリーズが紹介された当初は、どっかの翻訳ミステリ時評で「ババア」呼ばわりされていた(汗)。要はお色気を売りにする肉体派女探偵なら、若い方がいい、せいぜい20代の前半までとかいう、そういう意味合いだろう。まあ日本に紹介された1960年代っていったら、25歳でまだ嫁にいかなきゃ売れ残りのクリスマスケーキとか言われていた世相だったしな(そういう空気は70~80年代にもまだ残っていたが)。 そういう意味で、1950年代の後半に、デビュー時のハニーの年齢をあえて「高め」に設定したフィックリングは、けっこう早い時代から、自立するキャリアウーマン探偵の造形を実践していたのだと思うよ。 60年代当時の薄っぺらいお色気探偵という見識で付き合うより、のちに隆盛してくるキャリアウーマン探偵たちの原石的な先駆という文脈でハニーの名探偵史上のポジションを捉える方がいいんじゃないかと考える。 【メモ】 ・ポケミス16ページに、老俳優ネルソンの死は「ブラック・ダリア事件」なみの衝撃だという主旨の発言あり。 ・同127ページで、ハニーが、窮地になったらペリイ・メイスンに連絡をとる云々のことを言う(笑)が、これはタイムリーに本作と同年に始まったテレビシリーズを視野に入れたジョークだろう? まさかフィックリング夫妻の脳内設定、あるいはガードナーの了解のもとに、ハニーとメイスンチームが同じ作品世界にいるわけではないだろうし。 (いや、それならそれで、本気で嬉しくて楽しいけれど。つまり、あの『大統領のミステリ』とかを介して、ハニーはファイロ・ヴァンスなどとも同じアメリカの空気を吸っていることになるわけだし・笑。) |
No.1 | 5点 | kanamori | 2012/05/01 18:34 |
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女私立探偵ハニー・ウェストが活躍する通俗B級ハードボイルド、シリーズの第1作。豪華ヨット船上でテレビドラマ・ロケのスタッフ関係者が次々殺されていくというストーリー。
カーター・ブラウンが創造した女探偵メイヴィス・セドリッツを読んだ流れで、同時代のライヴァルといえるハニー・ウェストの本書も読んでみました。読者サービス満点なお色気シーン(これはテレビ映像化できないでしょう)や、アクション場面での女探偵の特技(空手と柔道の違いがあるが)など、キャラも設定もよく似ています。さらには本書を読む限り、本格ミステリ並みのトリックで意外な犯人の設定に拘っているのも同じです。トリックにかなり無理がありますが。 余談ながら、YouTubeで’60年代のテレビ映像「ハニーにおまかせ」も併せて見ました。主演のアン・フランシスの唇の横にあるホクロが色っぽいです(笑)。 |