皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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kanamoriさん |
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| 平均点: 5.88点 | 書評数: 2474件 |
| No.2094 | 4点 | 女はベッドで推理する- 梶龍雄 | 2014/05/19 00:00 |
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| 浮気妻探偵エリ子と独身警部補・黒沢の不倫コンビによる連作ミステリ第1弾。安楽椅子探偵とは別の意味合いのベッド・ディテクティブ・ミステリですw
ノベルズ版200ページ余りに9編も収録されており、各話が短くあっという間に読み終わってしまう。謎解きの伏線ともなっていないお色気・濡れ場シーンも漏れなく入れてきているので、ミステリの解決部分が非常にあっけなく感じる。 使われているトリックも初期作品の使い回しのようなものが散見されるし、2作目の「浮気妻は名探偵」のほうが、もう少しミステリ部分に歯ごたえがあったような気がする。 そういったなかでは、裸の女性が走っていたという児童の目撃証言から真相を導き出す「女とパンティ」がまずまずの出来かな。 |
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| No.2093 | 5点 | 狂った殺人- フィリップ・マクドナルド | 2014/05/18 00:00 |
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| 英国の新興田園都市で、”ブッチャー”と名乗る切り裂き魔による連続殺人が起き、地元警察や新聞社に犯行声明の手紙が届く。ロンドン警視庁のパイク警視は、地元警察と共に捜査にあたるも、さらに第3、第4の犠牲者が------。
ゲスリン大佐はケガの療養中のため、パイク警視が主役の探偵役を務める、いわばシリーズのスピン・オフ的な作品。 本書の犯人は殺人鬼を装っているのではなく、タイトル通りの狂人であることを読者はあらかじめ知らされているので、ミッシングリンクなどのミステリ趣向はない。本格ミステリとはいえず、純然たるサイコ・スリラーで、かつ捜査小説の側面も強い。 警察をあざ笑う犯行予告状や、パイク警視に対する地元警察の敵愾心・不信感が相まって終盤までは緊迫感はありますが、最後に”意外な犯人”を特定したプロセスが曖昧なのでラストがすっきりしない。 本格黄金時代真っ只中の30年代初めに、このような都市型スリラーを書いた先駆性は評価できるものの、ディクスン・カーが10傑に入れるほどの出来とは思えなかった。 |
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| No.2092 | 5点 | ル・ジタン- 斎藤純 | 2014/05/16 20:47 |
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| 日本推理作家協会賞(短編賞)受賞の表題作を含む5編からなる短編集。
音楽を基本的モチーフにして、バイク、ギター、テニス、絵画などの作者の趣味的な小道具を物語に取り入れたものが多いが、ミステリ的には薄味で、なかには普通小説的な作品もありました。 表題作「ル・ジタン」は、CDジャケットの撮影のためパリを訪れた主人公のカメラマンと女性歌手が、盲目のジプシーが持つギターに絡むトラブルに巻き込まれる話。音楽カフェ「ル・ジタン」を中心にしたパリの雰囲気や起伏に富むプロットが読ませる。ハードボイルド風の語りが、ラストの余韻をより引き立てていると感じた。 ただ、他の作品にそれほど印象に残るものが見当たらなかったのが残念。強いて挙げれば準ベストは、ナチス隠匿絵画を巡る謀略サスペンスの「赤いユトリロ」かな。 何年か前に「銀輪の覇者」という冒険小説が”このミス”にもランクインしていたと思うが、このところ作者の名前を見かけない。どうしているのだろうか? |
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| No.2091 | 4点 | 終わりのない事件- L・A・G・ストロング | 2014/05/14 21:15 |
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| ロンドン警視庁の主任警部エリス・マッケイは、デヴォン州の小村に、ある目的をもってやってきた。地元警察の旧知の警部から情報を得て、村に住む特定の3人の人物に注目し、彼らを訪ねることにしたが-------。
どうも雲をつかむような話で、本筋の事件はいったい何なのか判らないまま物語が展開する。 悪徳出版社の代表者を巡る疑惑、続発する女性の失踪、身元不明の水死体の発見など、色々と捜査対象が出現するのだが、エリス警部の訪問目的が中盤まで読者に明かされないため、モヤモヤ感が募るばかりで、いっこうに面白くならない。 有名作曲家でもあるエリス警部が、教会主催のコンサートの手助けをするサイド・ストーリーの場面では本を投げ出したくなった。 エリスと地元警察の面々とのやり取りなど、キャラクター的には悪くないのだけど、謎解きミステリとしてはかなり不満の残る作品。ジャンルとしては、本格というより警察小説+明るめのスリラーという感じで、マイケル・ギルバードの作風に近い印象を受けた。 |
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| No.2090 | 6点 | テンペスタ 天然がぶり寄り娘と正義の七日間- 深水黎一郎 | 2014/05/11 23:00 |
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| 東京で美術の非常勤講師をつとめる賢一は、田舎に住む弟夫婦から一人娘ミドリを一週間預かってほしいと頼まれる。しぶしぶ引き受けた賢一だったが、ミドリは天衣無縫の”嵐を呼ぶ美少女”で-------。
作者のこだわりである言語と芸術(本書は美術)の小ネタを入れながら、東京見物などのふたりの共同生活を通して、終盤までは、独身の30代男が生意気で毒舌全開の正義感の強い小学生に振り回される話で終始する。 物語の背景には連続児童誘拐事件というものもあるが大したことなく、ミステリの要素はほとんどないと言っていいだろう。 かといって「言霊たちの夜」のような爆笑狙いのユーモアに徹した小説とも言えず、正直なところ途中で飽きて少々ダレてしまった。が、最後の急展開からの流れで物語の様相が一気に変わり、結末はベタではあるものの、序盤の展開からは予想できない感動を得られた。 ルネサンス期ヴェネチアの絵画「テンペスタ」に対するミドリの解釈などは暗示的なものを感じる。 |
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| No.2089 | 6点 | 罪深き村の犯罪- ロジェ・ラブリュス | 2014/05/09 18:25 |
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| ここ数十年、犯罪とは縁がなかった平和な村で、突如として村の有力者が絞殺死体で発見される。マルセイユで事件の新聞記事を読んだ保険調査員の「私」は、その生まれ故郷である閉鎖的な小村に帰り、フレシュ警視の捜査に協力するが-------。
”探偵の帰郷”もののヴィレッジ・ミステリ。 主人公ロジェの里帰りを待っていたのは、さらに日曜日ごとに発生する連続殺人。農場経営者に対する労働争議や、狩猟協会のいざこざ、男好きのする女性を巡る愛憎関係など、動機を持つ容疑者にはことかかないが決め手に欠ける状況の中、最後に明らかになる犯人像にはちょっと驚かされる。犯人の行動原理が特殊で意外性がある。 しかも読み返してみると、本筋と関係なさそうなところに堂々と手掛かりが提示されているのでヤラレタ感が強い。 フランス・ミステリといえば、登場人物の心情をねちっこく繊細に描写するイメージがあるが、本書に登場する村人たちは個性的に描きながらも、過度に濃くないので、フランスものが苦手な人も抵抗なく読める謎解きミステリになっていると思う。 ただ、主人公の”青春の終わり”を告げるエピローグが、それほど胸に迫ってくる書き方ではなかったのが、やや残念に思った。 |
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| No.2088 | 5点 | 風ヶ丘五十円玉祭りの謎- 青崎有吾 | 2014/05/06 14:57 |
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| 風ヶ丘高校の校舎内に住み着くオタク高校生探偵・裏染天馬が”日常の謎”に挑む連作短編集。
殺人事件を扱った既刊の長編のようなクイーン流のスキのないロジックを展開して謎解くという趣向は弱い。全体的に論理が雑で恣意的なものが目立つし、犯人がなぜそのような持って回った行為をしたのか納得がいかないものも多かった。 レギュラーとその周辺人物のやり取りは学園もののラブコメを思わせるところもあって、シリーズのファンが気軽に読んで楽しめればいいのではという感じを受けました。 収録作のなかでは、お祭りの屋台の釣り銭が全て50円玉という謎を扱った表題作と、裏染の妹と仙堂刑事の娘の中学生コンビによる番外編「その花瓶にご注意を」がまずまずかなと思う。 次の長編「図書館の殺人」に期待しよう。 |
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| No.2087 | 7点 | ハローサマー、グッドバイ- マイクル・コーニイ | 2014/05/05 00:00 |
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| 政府高官の息子”ぼく”ことドローヴは、夏休暇を過ごすため両親と共に港町パラークシを訪れ、運命の少女・ブラウンアイズと念願の再会をはたす。戦争の影が町を覆う中で、青春を謳歌し愛を深め合うが、ある機密計画が二人を分かつことに-------。
”本書は恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、もっとほかの多くのもの”という作者による”前書き”にある通り、色々な要素がはいった物語となっている(もちろんミステリ要素も)。地球以外の惑星を舞台にしているが、作中の異星人は人間と変わることなく、中盤過ぎまでは(多少の異世界要素はあるものの)、少年少女たちのリリカルな恋愛&青春冒険小説として普通に展開される。 ところが、終盤に入って物語の裏の様相が明らかにされるや、一気に壮大なSF展開に変転する。伏線らしき暗示が多数あるので、ある程度予想はつくが、それでもドローヴとブラウンアイズをはじめ住民たちが受ける運命は衝撃的であった。 そして、「SF史上有数の大どんでん返し」と言われる噂のラスト。一読して意味が読み取れなかったのだけど、なんと第1章の〇〇のエピソードがここで.....という見事な仕掛けに感服です。 |
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| No.2086 | 5点 | 教場- 長岡弘樹 | 2014/05/02 20:42 |
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| 警察学校を舞台にした連作ミステリということで、横山秀夫が得意とするような新機軸の警察小説をイメージしていましたが、特殊設定の学園ミステリといったほうが近い印象。
フィクションだから多少の誇張は許されるとはいえ、戦前の軍隊を思わせるような体罰や、警官を目指す生徒たちがかなり屈折した人物だったりで、リアリティを欠いているため、初めはこの小説の世界に入り込めなかった。ミステリとしても、最初に謎を提示する形ではなく、何が謎なのかも不明なまま物語が進んでいくものばかりなので、取っつきにくいという側面もある。 それでも、話が進むにつれ陰湿さが薄れ、風間教官から受けるイメージも変わってきた。最終話の「背水」はミステリ的にも面白い仕掛けで、エピローグもうまく締めていると思う。 ただ、この作品が昨年の「このミス」2位に相応しいかと問われて首肯するのは難しい。 |
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| No.2085 | 6点 | 夜の人- ベルンハルト・ボルゲ | 2014/04/30 14:09 |
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| 探偵小説作家の「私」(ベルンハルト・ボルゲ)は、従兄弟のヘルゲ・ガイルホルムから誘われ、フィヨルドを臨む海辺の別荘で数名の招待客とともに夏休暇を過ごすことになった。ところが、”ドン・ファン”で有名な主人ヘルゲを中心とする男女関係の軋轢が不穏な雰囲気を生み出し、ついに深夜に悲劇が起きる-------。
「私」の友人で精神分析医のカイ・ブッゲを探偵役に据えたシリーズ第1作。’40年代に書かれた北欧ノルウェー産の本格ミステリという点が珍しい。古いポケミスの訳文にはいつも泣かされるのですが、本書は(英訳版からの重訳ということもあってか)半世紀以上前の翻訳とは思えない読みやすさで安心しました。 本書にはヴァン・ダインを多分に意識したところがあって、心理分析を使った探偵法を採るカイ・ブッゲに、ファイロ・ヴァンスの心理的探偵法を”俗流”と言わせたり、プロットの一部や犯人の立位置にヴァン・ダインの有名作品に重なるところがあったりします。 物的証拠を重視するハンマー警部と対比させ、深層心理的な犯人の手掛かり・伏線をいくつか用意するなど、作者の心理的探偵法の試みはある程度効果を上げているのではと思います。また、最後に明らかになる犯人の造形はけっこう衝撃的で、英米の古典本格ミステリとは一味違うようにも思いました。 |
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| No.2084 | 5点 | 五骨の刃- 三津田信三 | 2014/04/28 20:34 |
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| 五種類の凶器を使った無差別連続殺傷事件が起きた〈無辺館〉に、半年後に肝試しに忍び込んだ男女4人が、その屋敷で得体の知れない恐怖体験をする。メンバーの女性に死相を見て取った探偵・弦矢俊一郎だったが、過去の事件の関係者らを標的に再び連続殺人が起こる------。
死相が視える探偵・弦矢俊一郎シリーズの第4弾。”ホラー&謎解きミステリ”といっても、キャラ立ちラノベ風テイストなので、サクサク読める。 ミステリ的には、死相が現れた被害者候補たちに共通する要素はいったい何か?というミッシングリンク・テーマということになるが、この真相がトホホな内容でいただけない。読者によっては壁本扱いだろう。 ただ、呪術的仕掛けというシリーズの前提を容認できれば、過去の〈無辺館〉事件をミスディレクションにした全体の構図は単純ながらよく出来ていて、この”犯人像”はなかなか意外だった。 |
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| No.2083 | 6点 | ナイン・ドラゴンズ- マイクル・コナリー | 2014/04/26 20:36 |
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| ロス市警のハリー・ボッシュは、酒店を経営する中国人が銃殺された事件を捜査するうちに、背後に中国系犯罪組織が存在することを突きとめる。しかし、重要容疑者の拘束と時を同じくして、香港に住むボッシュの娘が監禁された映像が手元に届く-------。
”ロサンジェルス市警の新宿鮫”(という呼び名は変かなw)こと、ハリー・ボッシュ刑事シリーズの最新作。最近は番外編やリンカーン弁護士シリーズの脇役での登場が続いたので、久々の正統シリーズな感じがする。 上巻はやや淡々とした捜査小説として進むが、前妻エレノアと愛娘マデリンが住む香港へ飛んでからは冒険活劇小説の様相を呈する。これほどハードなアクション・シーンが前面に出るのはシリーズでは珍しく、また捜査のプロの使命感ではなく、父親としての想いや脆弱性が滲み出たボッシュの行動の数々は、シリーズの異色作といえるでしょう。 当初「タイミングが都合よすぎないか」と違和感があった点も真相が分かれば納得がいく。いわば今回のボッシュは、犯人ともう一人の人物とで、二重に操られていたというわけか。 |
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| No.2082 | 7点 | 満願- 米澤穂信 | 2014/04/22 18:14 |
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| 作者の芸達者ぶりが存分に発揮されたノン・シリーズ短編集。先に出た短編集「儚い羊たちの祝宴」と比べると、共通するモチーフによる縛りがないぶん、よりバラエティに富んだ多彩な作風の作品が並んでいると思う。
(以下、ネタバレぎみなので未読の方は注意!) 「夜警」は、佐々木譲を思わせる警察小説だが、交番巡査の殉職事件がチェスタトン風の構図の逆転を見せる。 「死人宿」は、自殺志願者探しというパズラーが最後にアンチ・ミステリ風に変転する。舞台の温泉宿の雰囲気作りも巧い。 「柘榴」は、美人の母親と娘たち、生活能力のない父親という家族関係が離婚調停を機に意外な方向に崩れていく。やはり女は何歳でも怖い。 「万灯」は倒叙ミステリ。殺人を犯した海外勤務商社員がはまる陥穽の意外性で読ませる。 「関守」は、フリーライターが都市伝説の取材で訪れた南伊豆の峠のドライブインを舞台にした一幕劇。これもかなりブラックな味付け。 「満願」は、畳屋の女房が起こした殺人事件を、苦学生時代に助けてもらった過去を持つ弁護士が回想する。達磨の置物など小道具の使い方が巧い。 以上6編、オチがある程度予想できるものがいくつかあるが、いずれも甲乙つけがたい水準以上の出来という評価。好みでいえば「柘榴」と「満願」がいいかな。 |
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| No.2081 | 6点 | ハーバード大学殺人事件- ティモシー・フラー | 2014/04/20 10:29 |
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| ジュピターは美術学科の指導教官・シンガー教授の部屋で、教授の刺殺死体を発見する。警察の捜査に協力しながら、知人が事件に関係していることもあって自身でも探偵活動に乗り出す-------。
”ジュピター”・ジョーンズ・シリーズの第1作。1936年作、約80年前に書かれた本格ミステリにしては古臭さは全くなく、大学生ジュピターの軽口を交えた軽快なテンポの語りは読み心地がいいです。 カレッジ・ミステリ特有の多数の登場人物の書き分けと、現場の学寮の構図がいまいち分かりにくいのですが、関係者を一同に集めた謎解きパートではどんでん返しも用意するなど完成度も高く、大学在学中の若書き作品という感じはそれほど受けません。 戦前「新青年」のアンケートでベスト1に選んだ人もいたそうですが、それほどのものではないにしても、評価の高い第3作ぐらいは論創社あたりから出してもらいたいものです。 |
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| No.2080 | 6点 | 暗い越流- 若竹七海 | 2014/04/17 23:14 |
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| 推理作家協会賞受賞の表題作を含む5編からなる最新短編集。
久々に作者のミステリを読む感じがするが、謎解きを主眼としたものでも、ラストでさらにひとヒネリし、ブラックに落とす作風は相変わらず。いわば、謎解きミステリと”奇妙な味”タイプの融合といったところでしょうか。 女探偵・葉村晶が登場する「蠅男」「道楽者の金庫」の2編は、伏線を活かした編中では割とオーソドックスな謎解きモノ。後者は「ビブリア古書堂」シリーズの某作にプロットが似てしまっているのが気になった。 「暗い越流」と「幸せの家」が、まさに謎解きと”奇妙な味”が融合した作者らしい作品。とくに前者は先が読めない濃密さが良。 「狂酔」は、つかみどころのない男の独白を読み進めていたら、とんでもないネタが最後に飛び出してくる。これがイヤミス度でいえば一番かもしれない。 |
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| No.2079 | 6点 | 殺意が芽生えるとき- ロイス・ダンカン | 2014/04/15 18:39 |
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| 事故で夫を亡くし実家を離れて海辺のコテージで2人の子供と暮らすジュリアの身辺で、幼い娘と息子を標的に不審な災難が次々と起こる。かつて恋人だったロジャーの仕業だと勘ぐったジュリアは、彼の自宅を訪ねるが、そこには銃で撃たれたロジャーの死体が横たわっていた-------。
サスペンス小説の先輩作家であるマーガレット・ミラーやヘレン・マクロイの傑作群と比べると、心理描写やサスペンス展開がオーソドックス、特別な個性が見当たらないので、やや物足りない感じを受けましたが、伏線やミスディレクションを巧みに配したフーダニット・ミステリとしては及第点を付けたい。 状況証拠から犯人はジュリアの家族関係者の中にいるのは明白のように思えながらも、一種の家族小説のような内容でもあるので、読者は心理的に”殺意”の所在を掴みにくいという側面があるのかもしれない。 かなり後味の悪い真相ではあるものの、子供たちの存在がジュリアの救いになっている。 |
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| No.2078 | 5点 | 蝶々夫人に赤い靴(エナメル)- 森雅裕 | 2014/04/13 13:54 |
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| 長崎で結婚式を挙げる友人・尋深のもとに、忘れ物の草履を届けるため新幹線に乗り込んだ音彦だったが、隣席の無賃乗車の老女を親切心で手助けしたことから、「蝶々夫人」と坂本龍馬の愛刀が絡む過去の事件に関わることに-------。
画家・守泉音彦とプリマドンナ・鮎川尋深のコンビによるオペラ・シリーズ第3弾。「椿姫」「カルメン」に続いて、今回は「蝶々夫人」がテーマになっています。 本作の主役は、蝶々夫人のモデルとなった女性の娘と称する元プリマドンナの愛子お婆さんで、音彦のみならず、尋深までも振り回してしまう老女のキャラクターが強烈です。ただ、蝶々夫人や坂本龍馬の愛刀に関わる歴史の謎というミステリ要素はあるものの、刀剣に関する薀蓄部分がマニアックすぎて、謎解きの興味を持続するのが難しかったというのが正直なところ。 それでも、グラバー邸の屋外舞台で結婚式前日に尋深が演じるオペラ「蝶々夫人」、音彦が帰京する飛行機内のラスト・シーンなど、シリーズ通読者にとっては印象に残るシーンが多い。 |
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| No.2077 | 6点 | 服用禁止- アントニイ・バークリー | 2014/04/11 20:37 |
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| ドーセット州の村で隠棲する元電気技師ジョン・ウォーターハウスが突然死する。当初は病死とみられたが、体内から砒素が検出されたことにより、容疑は病弱な妻に向けられる。村の仲間グループの一人で隣家で果樹園を営む「わたし」は、図らずも事件に巻き込まれることに-------。
アントニイ・バークリー後期のノンシリーズ作品。ユーモアを封印し、「わたし」の心理描写を織り交ぜたシリアスな作風は、バークリーというよりアイルズ名義の諸作品に近い味わいがあります。 とはいっても、本書はハウダニット(砒素の混入媒体・経路の謎)とフーダニットを主眼にし、最終章の前には”読者への挑戦”を挿入した本格ミステリで、毒殺?を巡り自殺や事故説を含め、いくつもの仮説が検討されるところは、「毒チョコ」の変奏曲といえるかもしれません。(ロンドンの「犯罪研究会」の動向がチラリと出てくる場面がありますw)。 事件発生から検死審問へとつづく序盤から中盤の物語は、重苦しくテンポも悪いのですが、最終章の”一人多重解決”場面はスリリング。ただ、推理が明確な証拠に基づかないのは残念な点で、結末の付け方も(バークリーらしいとはいえ)賛否が分かれるかと思います。 |
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| No.2076 | 5点 | ぼくらの世界- 栗本薫 | 2014/04/09 18:29 |
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| ”ぼく”こと栗本薫が書いた推理小説「ぼくらの時代」がミステリ作家の登竜門であるホームズ賞を貰うことになった。ところが、その授賞式会場のホテルのトイレで、担当編集者の裸の死体が発見される事件が起きて-------。
”ぼくら”3部作の完結編。第1作のテレビ業界、第2作の少女マンガ出版業界につづいて、今回は推理小説文壇を背景にした謎解きミステリになっている。 裸にされた死体(「スペイン岬の秘密」)、「XY」のダイイングメッセージ(「緋文字」)、凶器のマンドリンなどなど、エラリー・クイーン作品の見立て殺人という趣向が興味を惹きましたが、真相はちょっと腰砕けの感がある。また、(いくら冒頭に警告があるとはいえ)それらのクイーン作品をそこまで突っ込んでネタバラシする必要があったのか疑問に思わなくもありません。 ただ、大学時代のバンド仲間、信とヤスヒコが集うラストシーンは感慨深いものがありました。 |
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| No.2075 | 5点 | 鐘楼の蝙蝠- E・C・R・ロラック | 2014/04/07 18:47 |
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| 作家のブルースは、ドブレットと名乗る謎の人物に付きまとわれ神経をとがらせていた。心配する友人の依頼を受けた新聞記者がドブレットが住む廃屋同然のアトリエを突き止めると、その部屋の壁の中から頭と両手首のない死体が-------。
身元不明の遺体発見と時を同じくして、作家ブルースとドブレットの失踪のみならず、ブルースの妻で女優のシビラまで所在不明になり、マクドナルド首席警部の地道な捜査もなかなか核心に迫らないので、序盤から中盤にかけての展開は何かとらえどころがない。唯一、ブルースの被後見人エリザベスの現代娘的キャラが立っていて読ませるぐらいで、やや起伏に欠ける感じも受ける。 終盤になると、マクドナルド警部が5つの仮説を立てるや、物語も急展開となり捜査小説としてようやく面白くなるのですが-------、しかし、本書は本格ミステリとして読むと次のようないくつかの問題点や疑問点があるように思われる。 (以下ネタバレ) 1、血縁関係を最後まで伏せて動機があることを明示しないのはアンフェアでは。 2、本書のパスポートによるアリバイ工作は現実的に可能とは思えない。 3、死体を損壊し身元不明にした意図がわからない(かえって犯人の目的に不都合のような気がする)。 |
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