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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2046 6点 これ誘拐だよね?- カール・ハイアセン 2014/02/08 22:20
アイドル歌手のチェリー・パイはドラッグとセックスまみれのお騒がせセレブ。そのスキャンダルをマスコミから隠すため、チェリーの替え玉として雇われていたアンだが、熱狂的なパパラッチに人違いで拉致されてしまう--------。
トニー・ケンリックやウェストレイク亡きあと、スラップスティックなお笑いクライム小説の書き手としてカルト的人気のハイアセンの”怪人スキンク”シリーズ最新作。
ハイアセンの作品の特徴は、登場人物たちの濃すぎるキャラで、奇人変人怪人が入り乱れてドタバタ騒動を演出する。
本書では、もとフロリダ州知事の世捨て人で、マングローブが生え茂る湿地帯に暮らすシリーズキャラクターの”スキンク”と、「顔を返せ」で登場した元殺し屋でチェリー・パイのボディガード”ケモ”という、2人の怪人の初顔合わせが見どころかな。
悪徳不動産屋のパンツの中にウニを入れ睾丸をフットボール大にしてしまうスキンクもたいがいだけど、前作で片腕を失くし義手の代わりに電動草刈り機を装着しているケモのぶっ飛び振りもすごい。とくにチェリーのギャル語を矯正する手段が爆笑もの。
かなりクセがあり読者を選ぶ作風ですが、ハマればシリーズを通読したくなること間違いなしの面白さです。

No.2045 6点 不必要な犯罪- 狩久 2014/02/04 18:48
美術大学講師で画家の中杉が女子学生・杏子をモデルに描いた裸婦画がアトリエから消える。一週間後、戻されたその絵画には精密な恥部が書き加えられていた。やがて、海辺のボート小屋で杏子の変死体が発見され、姉の葉子も何者かに襲われる-------。
狩久の生前出版された唯一の長編ミステリ。
”肉体の貪婪”葉子と”精神の貪婪”杏子。容貌は似ているものの対照的な二人の姉妹をめぐる愛憎劇が、妖しく官能的な描写で綴られています。動機はやや観念的なのですが、この作品世界ならアリかなと思います。
メイントリックも逆説的なロジックが効果的で作者らしいです。ただ、取り巻きの男たちの何人かはいかにも脇役という感じがするので、事件の秘められた構図はなんとなく途中で分かってしまうのではと思います。

泡坂妻夫のからくり本「生者と死者」が復刊でちょっと話題になっていますが、それで連想したのが幻影城ノベルスの本書でした。こちらは単にアンカット・フランス装というだけで、カラクリがあるわけではないですが、アンカット本を裸婦画もしくは女性になぞらえると本書のテーマとダブってくるような気もw

No.2044 6点 すばらしき罠- ウイリアム・ピアスン 2014/02/02 20:24
フリー雑誌記者の”私”ヴァンスは、30日間姿を消し逃げ延びるという企画を雑誌社に出し自ら実行する。しかし、成功報酬をもらうため街に戻ってきたヴァンスを待っていたのは、銀行の大金横領と殺人の容疑だった-------。

ポケミスの裏表紙の内容紹介には、”ウールリッチ風の趣向とムード”とありますが、アリバイを証明できず殺人の容疑者になるというプロットは確かに「幻の女」などを思わせるものの、抒情的な雰囲気や強烈なサスペンスはなく、軽妙でテンポのいい「私」の語りや、美女と簡単にいい関係になる展開は軽ハードボイルド風です。
多少都合がよすぎるところもありますが、絶体絶命の状態から、次々と機転を利かせて事件の黒幕を追い詰めていくヴァンスの手際が面白いです。主人公の行動描写が先で、その行動理由が遅れて説明されるので、後付けでナルホドとなりますが。

No.2043 6点 日本推理小説論争史- 評論・エッセイ 2014/02/01 23:53
本書は、2011年〜12年にかけて「小説推理」に連載されていた推理文壇における過去の文学論争史を逆編年体(新しい順)に編成し考察したもので、著者は郷原宏氏。
佐野洋×都筑道夫の「名探偵論争」、乱歩、甲賀三郎×木々高太郎の「探偵小説芸術論争」、松本清張×高木彬光の「邪馬台国論争」などの有名どころが並んでいるが、野次馬的な見地で面白かったのは、やはり「匿名座談会論争」ということになる。

「間違いだらけの笠井潔」と題した”このミス”匿名座談会メンバーによるヨタ話が地雷を踏む結果となる。都筑道夫の評論に対する笠井氏との解釈論争から、「匿名による批評の是非」の方に論点が移ってしまい、覆面を剥がす泥試合になった。
匿名B(茶木)、S(関口)、O(大森)は自ら名乗り出たものの、A(新保?)とD(西上?)の対応が益々笠井氏の逆鱗に触れる。お互いに大人げないのだけれど、背景には”新本格派(探偵小説研究会)”VS匿名座談会メンバーの確執があったらしい。さらに勘ぐれば「本ミス」VS「このミス」ということかもしれないが。
高木彬光の「邪馬台国の秘密」を巡る論争も興味深い。発端は佐野洋の「推理日記」における事実誤認の指摘で、それは何とか改稿で問題が収まるかと思いきや、古代史は専門と自負する松本清張が参入し、”学説無断借用”の疑惑も出てきて雲行きが怪しくなる。”本格派の総師と社会派の巨匠の一騎打ち”は大袈裟だが、奇抜なロジック(詭弁?)で窮地を脱しようとする高木、地道に資料を揃え追い詰める清張という、自身の小説作法さながらwの対決は読みごたえがあった。(さらに、他人の学説の無断借用疑惑があり、どうみても高木に歩はないのだけど)。
著者は、最近このような論戦が見られないと嘆いているが、数年前の「容疑者Xの献身」を巡る”本格”論争について詳しく取り上げていないのは残念だった。

No.2042 6点 悪いものが、来ませんように- 芦沢央 2014/01/31 20:46
不妊に悩む紗英、子育てをしながら彼女を気遣う奈津子。お互いをかけがえのない存在と思い、”共依存”の関係にある二人の女性のあいだに”悪いもの”が現れる-------。

年末のランキング本などではほとんど話題に上がらなかったようですが、Amazonのレビューでは何故か絶賛の嵐というちょっと気になっていたサスペンスです。
二人の女性の独白のような文章が交互に綴られ、合間合間に関係者への取材インタビューが挿入される構成で、不妊、子育て、夫の浮気、母親との確執など、重くて辛い現実が語られているが、ぎこちないというか、なんか変------と思いながら読んでいたら、おおっ、そういうことか!と、まんまと騙されておりました。テーマと仕掛けもリンクしており、そのあたりも良。
湊かなえを軽くしたような”イヤミス”テイストは好みが分かれそうな感じで、どちらかというと女性好みのミステリかなと思う。

No.2041 8点 11/22/63- スティーヴン・キング 2014/01/29 23:16
英語教師の”ぼく”ジェイクは、死期が迫った友人のアルから秘密を打ち明けられる。それは、50年前の過去に通じるタイムトンネル”兎の穴”の存在だった。そしてアルは、自分に代わってケネディ大統領の暗殺を阻止してほしいとジェイクに告げる-------。

1963年11月22日に発生した歴史的事件、ジョン・F・ケネディ暗殺の阻止を題材にした歴史改変もののSF冒険小説にして、哀切感ただよう恋愛小説。
本書が邦訳出版された昨年は暗殺からちょうど50周年にあたり、また長女キャロラインの駐日大使赴任も重なったこともあって、ちょっとしたJFKブームだった。JFKネタの謀略冒険小説もいくつか出版されたが本書はその決定版といえます。
いやあ凄い、でも長かった。上下巻2段組みで1000ページを超える分量もそうですが、兎の穴が通じているのは”Xディ”の5年も前という設定のため、クライマックスの年に到着するまでの物語が長い。別の事件での予行演習や、最愛の女性セイディーとの出会い、実行犯オズワルドの監視など、ジェイクの過去の世界での行動が手記形式で延々と続くので、正直冗長に感じるところもあった。しかし、それらダラスやジョーディの町でのエピソードは最後に生きてきます。そしてエピローグはなかなかの感涙もの。
「過去は改変されることを望まない」------たびたび出てくるこのフレーズが印象に残ります。

No.2040 5点 金糸雀の唄殺人事件- 斎藤栄 2014/01/23 20:23
高校時代に仲間を生き埋めにして逃げた過去を持つ男女5人のもとに、湖畔の保養所へ呼び出す手紙が届く。事件の発覚を恐れるメンバーは現地に赴くが、ひとりが姿を消し二人目は密室状況下で殺される-------。

湖畔の保養所を舞台にしたCCものという記憶があったのだけど、ちょっと違いました。それでも、新本格世代の作家が書くようなゲーム性の強いフーダニットで、密室殺人にアリバイ工作、ダイイングメッセージに〇〇トリック、おまけに「カナリアの唄」の童謡殺人?と、本格ミステリのガシェットがてんこ盛りで読者サービスは満点です。また、真の探偵役が最後になるまで分からない構成はフーダニット趣向をより効果的にしていると思います。
とはいっても、作者は斎藤栄なのでw トリックに無理があったりコント・レベルのものもありますが。そういった細かい粗に目を瞑ればそこそこ楽しめる作品です。

No.2039 6点 恐怖のブロードウェイ- デイヴィッド・アリグザンダー 2014/01/21 18:26
しばらく鳴りを潜めていた連続切り裂き魔”ウォルドウ”から地元新聞社に犯行予告の手紙が届き、マンションで女性の変死体が発見される。新聞社の主筆ハーディンは、ロマノ警部の捜査とは別に謎の殺人鬼を追うが------。

芸能スポーツ専門の新聞社「ブロードウェイ・タイムズ」の編集長バート・ハーディンを主人公とするシリーズ第1作。
設定は、ニューヨークのブロードウェイを舞台にした「シリアル・キラーVS新聞記者」という構図のサイコサスペンスですが、あるトリックとともに、犯人を特定する手掛かりもキッチリと用意されたフーダニットもので、本格ミステリ志向の強い作品です。ネタバレぎみですが、全体の構図自体をミスディレクションにしているところは感心しました。もっとも、現代の観点ではアンフェア認定される描写があるのですが、’50年代という発表時期を考慮すればギリギリセーフでしょうか。
また、登場人物の脇役の多くが過去に生き、酒や賭博に溺れる人生の落伍者や娼婦・ショウガールらで、ブロードウェイの華やかさではなく、ラストの苦い結末を頂点にして全編にただよう哀愁感がいいです。

No.2038 5点 亡霊ふたり- 詠坂雄二 2014/01/19 17:49
遠海市の高校に通う高橋は、かつての大量殺人鬼・佐藤誠に影響を受け、いつか殺人を実行することを夢想する。ある日、所属するボクシング部の練習中に奇矯なふるまいをする女子高生に出会い、彼女の探偵活動に関わることになるが--------。

いわば”ボーイ・ミーツ・ガール”ものの青春ミステリですが、そのガールが名探偵志願の女子高生で、ボーイは殺人者志願の男子高校生。しかも、彼は卒業までに彼女を殺そうと計画するという、なんともシュールな設定です。
しかしながら、女子高生・若月が出合うのは謎ともいえない日常の謎で、真相もカタルシスを感じないものばかりなので、ミステリ要素を期待すると大いに肩透かしを食らう。高橋の行動原理もいまいち理解が及ばないところがあった。
作者のこのところの作品は個人的に消化不良なものが続く。そろそろ初期作のような騙りにみちたミステリを読みたい。

No.2037 7点 不吉な休暇- ジェニファー・ロウ 2014/01/18 16:09
シドニー近郊のアリス伯母さんの果樹園に今年もリンゴ摘みに集まった親類のテンダー家の一族とその友人たち。ところが血縁関係や男女関係の軋轢から不穏な雰囲気が漂いだし、翌朝、果樹園である男の変死体が見つかる-------。

素人女性探偵ヴェリティ・バードウッド(通称バーディ)シリーズの第1作。
小柄でメガネ、冴えない風貌のテレビ局のリサーチ担当職ながら、実は大富豪の娘で弁護士資格を持つ頭脳明晰の女性というバーディの属性がユニーク。二転三転の末、終盤の80ページにわたり繰り出されるバーディの推理の開陳シーンがまことに圧巻のひとことです。クイーン流のロジックというより、人間観察による洞察力はミス・マープル風で、舞台設定とともにこの推理法からも”豪州のアガサ・クリスティ”と呼べるでしょう。
難点は、登場人物が多くひとりひとりの造形を丁寧に描いているために、かなりの長尺になっている点。トリック中心ではなく、人物のちょっとした仕草や言動のなかに、伏線や手掛かりを仕込むタイプのミステリなだけに止むを得ないところもありますが、一気に読み通せないので前段に張られた伏線を憶えていないところがあった。

No.2036 7点 アルモニカ・ディアボリカ- 皆川博子 2014/01/14 22:50
オックスフォード郊外の逓信大臣の所領地で天使のような死体が見つかった。いまは盲目の治安判事サー・ジョンのもとで犯罪防止新聞の編集をしている元解剖教室の弟子たちは、失意のダニエル医師を伴って発見現場に赴くが、現在の事件に14年前の謎の事件とアルモニカ・ディアボリカ(悪魔のハーモニー)と呼ばれる楽器が絡んで来て--------。

18世紀英国を舞台にした歴史ミステリ、「開かせていただき光栄です」の続編。
前回の事件から5年、ダニエル先生の私的解剖教室の5人の愛弟子のうち、例の2人は行方知れず、残りのアルたち3人は、判事と彼の姪で助手のアンの手助けをしているという設定です。盲目の治安判事ジョン・フィールディング卿の推理を中心に、彼らが判事の手足や眼となって行動するプロットは集団探偵モノの趣があります。
一方で、行方不明のナイジェルとエドも重要な役割を担っており、特にナイジェルの過去に触れたパートは、この時代の闇の部分や残酷さを峻烈に描いていて胸に迫るものがありました。
英国人作家が書いたかと思わせる緻密な時代考証と豊かな物語性は今作も健在で、主人公たちのキャラクター造形は前作を踏まえて、より魅力を増してきました。Twitter情報によると第3作も構想中とのこと。ぜひ次作はサー・ジョンと(不仲といわれていたらしい)サム・ジョンソン博士との共演を期待したいw

No.2035 6点 ミステリ絶対名作201- 事典・ガイド 2014/01/13 13:56
瀬戸川猛資氏ほか7名の精鋭書評家による討議を経て選定した海外古典名作ミステリのガイドブック。前年に出版された「ミステリ・ベスト201」と同じ執筆陣で、いわば姉妹編となるが、現代編の「ミステリ・ベスト201」に対して、本書は70年代以前の古典名作を対象としてる。
”絶対名作”とは、時の流れに左右されない今読んでも面白い作品という意味ですが、収録作品の多くが絶版という状況が何とも皮肉的です。出版状況のほうが時の流れに左右されてしまいました。ただ、個人的には絶版本蒐集が大好き人間なので、これはこれで問題ないのですがw
今回、久々に目を通し未読本を数えてみると68冊もありました。本格はほとんど読んでいる一方で、ハードボイルド・警察、サスペンス編には、まだまだ読んでみたい”名作”がいくつもある。またもや探求本が増える結果となりました。

ちなみに、海外ミステリ総合データベース・サイトとして有名な「ミスダス(MISDAS)」には、アメリカ探偵作家クラブ主催や文春の「東西ミステリーベスト100」(旧版)など、諸々のオールタイムベスト表が掲載されていますが、この「ミステリ絶対名作201」も載っていますので、選定作品に興味のある方は覗いてみてください。

No.2034 6点 世界で一つだけの殺し方- 深水黎一郎 2014/01/12 18:15
芸術探偵こと神泉寺瞬一郎シリーズの中編2作収録。表題どおり、どちらも特異な殺害トリックを扱っているのが共通していますが、物語のテイストは対照的なものでした。

「不可能アイランドの殺人」は、家族旅行で訪れた地方都市で、小学4年生の女の子モモちゃんが次々と不可思議な現象に遭遇して...という奇想の連打と特殊な殺人トリックが読みどころ。舞田ひとみが探偵ガリレオしている感もありますが、ブラックな結末が後を引きそう。モモちゃんは今後の作品でも登場するのだろうか。
「インペリアルと象」は、ピアノの歴史などの音楽の薀蓄が満載で読む者の教養を高めてくれる正統の芸術探偵もの。殺害トリックはなんとなく想像がつくが、前段の物語とつなげる構成の妙と、救いのある結末で読後感は良。

No.2033 6点 氷結の国- ギルバート・フェルプス 2014/01/10 18:39
英国の名家一族のなかの変人で、アマチュア人類学者の大叔父ジョン・パー大佐が「私」に遺した日記には、南米アンデスの高地を探検した際に発見した、未知の谷に住む不思議な村民たちとの交流が綴られていた-------。

瀬戸川猛資編のガイドブック「ミステリ絶対名作201」からのセレクト。
同ガイドブックでは”本格”編に分類されていますが、謎解きの要素といっても、未知のインディオ種族の秘密ぐらいで、(それもタイトルから何となく想像がつきます)、どう読んでも”本格”とはいえないと思います。
ゴシックロマン風の枠組みの中に、秘境冒険小説風の大叔父の日記による記録が大部分を占めていますが、最後まで読むと日記の真偽をどう判断するかでガラリと印象が変わる、一種のリドル・ストーリーだと判断しました。(グレアム・グリーンも書評で「懐疑の時代の産物」と書いています)。ジャンル分類がちょっと難しい小説です。

No.2032 5点 烏丸ルヴォワール- 円居挽 2014/01/07 19:01
京都に伝わる稀覯本の持ち主が不審死する。事件の真相とその本の継承を巡る兄弟の争いは、私的裁判”双龍会”で決着をつけることになるが、伝説の龍師”山月”の計略により、瓶賀流は仲間たちとの対決を選ぶことに------。

「ルヴォワール」シリーズの2作目。確かにこれは前作を読んでないとついていくのが厳しい。前作のネタバレもそうですが、最初は龍樹家と周囲の若い龍師たちの人物関係が思い出せず、把握するのに苦労しました。
で、前回と比べると面白さはだいぶ落ちるという評価です。ひとつにはクライマックスの双龍会での対決までの準備段階(ミステリ的には仕込みの部分)が長すぎる。もう一つは、設定された謎が小粒で魅力に欠けること。
もともと、本シリーズは謎解きというよりコンゲーム、ディベート合戦の面白さで読ませるのですが、今回は個人的にその部分が嗜好に合いませんでした。

No.2031 6点 盤面の敵はどこへ行ったか- 評論・エッセイ 2014/01/05 22:01
法月綸太郎氏のミステリ書評集第4弾。作者による”まえがき”にもありますが、2000年以降に色々な媒体に発表した文章を三部構成にまとめたもので、寄せ集めという感もあります。

第1部は、電子出版サイトe-NOVELSの「週刊書評」掲載文を中心としたもので、ハイランド「国会議事堂の死体」、コナリー「わが心臓の痛み」など海外ミステリの書評13編収録。本書の中では書かれたのが一番古く、”フランス新本格”などの言い回しが最早懐かしく感じてしまう。媒体の関係か、氏にしてはエッセイ風のわりと軽妙な内容になっている気がする。
第2部は、内外ミステリの文庫解説の転載が中心なので既読のものが多かったが、なかでは深水黎一郎の「エコール・ド・パリ殺人事件」の解説が秀逸。これが読めただけで十分。
都筑道夫とエラリー・クイーンに関する論考が中心となる第3部が本書のコアとなるパートで、さすがに作者の力の入り具合が違いますw 「黄色い部屋はいかに~」増補版の解説である都筑道夫論は既読なのが残念でしたが、クイーンに関するネタは無尽蔵な感じで、なぜ後期の代作者がSF作家ばかりなのか?など非常に興味深く読めました。

No.2030 6点 十二人の抹殺者- 輪堂寺耀 2014/01/03 13:17
「謹賀死年」「死にましてお芽出たう」------同じ敷地に建つ2つの屋敷、結城家と鬼塚家の全家族12名のもとに殺人を予告する不吉な年賀状が届く。一方の家長が鍵のかかった部屋で惨殺される事件を発端に次々と両一族の者が殺されていく--------。

あの「本格ミステリ・フラッシュバック」で取り上げられた昭和のミステリ作家のなかでも、ひときわ異彩を放つ得体の知れない作家・輪堂寺耀の代表作。昨年半世紀ぶりに復刊された、日下三蔵編”ミステリ珍本全集”の2巻目で読みました。
昭和35年の発表当時でも時代錯誤と見做されたであろうコテコテの本格探偵小説です。密室殺人や雪上の足跡のない死体など、次々と連打される不可能殺人の謎は魅力的です。ただ、その謎を引っ張らず、読者が推理する暇なくその都度解き明かされ、フーダニットの興味主体で展開される構成がちょっともったいない感じを受けます。まあ、「四次元の密室」や「逆密室」という煽りが凄い割には、どの密室トリックも独創性はあまりないのですが。
事件が起こる都度、関係者に訊問を繰り返す同じパターンは単調ながら、名探偵・江良利久一(=エラリー・クイーンのもじりw)と叔父の佐藤警部らとの推理のディスカッションは意外と丁寧だと思います。
併録の「人間掛軸」も名探偵・江良利ものの探偵小説。床間に掛軸のかわりに死体を吊るす連続殺人には、見立て殺人という意味合いはなく、伏線や犯人特定のロジック面も弱いものの、怪奇趣向の冒険スリラーとして面白い、こちらも怪作でした。

No.2029 7点 スノーマン- ジョー・ネスボ 2013/12/30 13:22
オスロに初雪が降った日、ひとりの女性が失踪し、家の外には彼女のスカーフを巻いた雪だるまが置かれていた。既婚女性の失踪事件が多いことに不審を抱いていたホーレ警部のもとに、スノーマン(雪だるま)と名乗る人物からメッセージが届く-------。

ノルウェーのオスロ警察本部、ハリー・ホーレ警部を主人公とする警察小説シリーズの7作目(邦訳は2作目)。またひとり追っかけなければと思わせる、気になる北欧作家が現れた。
犯行現場がカーリング・リンクやスキーのジャンプ台だったり、ノルウェーの情景、風俗・文化を取り入れた、いかにも”北欧ミステリ”という道具立てですが、敏腕警部ハリー・ホーレVSシリアル・キラーという図式で何度もドンデン返しを演出するプロット自体は、北欧モノというより、ディーヴァーやコナリー、カーリイなどのアメリカ産の謎解きサスペンスに近いテイストを感じる。
アルコール依存で一匹狼の主人公というのは、まあ定形ではあるものの、新参者の女性刑事や身辺の人物たちの役割を巧く活かし、ジョットコースターサスペンスとなる終盤は読み応え充分。特に、雪だるまが溶けていくシーンは戦慄を覚えた。

No.2028 6点 ドラゴンフライ- 河合莞爾 2013/12/26 20:11
二子玉川の河川敷で臓器を抜き取られた焼死体が発見された。警視庁の鏑木率いる特別捜査班4人の捜査は、ダムに沈む運命にある群馬県の飛龍村で20年前に起きた夫婦殺害事件が今回の事件に関係することに気付く------。

”踊る大捜査線”風のライトな警察小説と、島田荘司(今は小島正樹?)ばりの奇想が連打される本格ミステリを融合させたシリーズの2作目。
テンポのいい語り口で非常にリーダビリティが高いのがまず良です。群馬の山奥で道に迷った男が見たのが東京にあるはずの我が家、というプロローグの不可思議現象をはじめ、巨大トンボや、死者からの電話など、今回もいくつかの魅力的な謎の提示で読者を引き込みます。ただ、電話の件はメイントリックを気付かせてしまう諸刃の剣かもしれませんが。
飛龍村で育った幼なじみ男女3人それぞれの20年後の運命など人間ドラマとしてもよく出来ていると思います。

No.2027 6点 北極基地/潜航作戦- アリステア・マクリーン 2013/12/24 22:15
北極冠にある英国気象観測基地で原因不明の大火災が発生、米国の原子力潜水艦ドルフィン号が生存者を救助すべく出航した。しかし北極海という自然との戦いに加え、艦内では不可解な事故につづき殺人事件までが発生する------。

”舞台が寒冷地域になるほど物語が冴える”といわれたマクリーンの北極圏を舞台にした冒険小説。
たしかに凍結した北極の海、吹き荒れる烈風との戦いなど、王道の冒険行はスリル満点の内容です。とくにブリザードのなか大氷原の捜索行の場面が圧巻のひとことです。
しかし本書の魅力は、その冒険小説としてのクライマックスを物語の中盤にもってきて、後半はフーダニットものの本格ミステリになっていることでしょう。自らも秘密を抱える主人公、英国海軍の軍医カーペンターが探偵役となり、(後出し情報もありますが)いくつかの伏線も張られたうえ、大団円では関係者を一堂に集めた謎解き披露という構成はなかなかユニークです。

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