皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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kanamoriさん |
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| 平均点: 5.88点 | 書評数: 2474件 |
| No.2254 | 6点 | 生きていたおまえ…- フレデリック・ダール | 2015/04/28 18:51 |
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| 多額の借金を抱える〈私〉ベルナールは、愛情を感じなくなった妻アンドレを小道具にして、金融業者ステファンを殺害する計画をたて実行する。ベルナールの完全犯罪は成功したかに思えたその時、色々な方向から破綻の兆しが訪れて---------。
フランスの人気作家、フレデリック・ダールの初期の傑作サスペンス。スパイ小説やサン・アントニオ名義の軽妙な警察小説も邦訳されていますが、やはりダールの本領はサスペンス小説にあります。 本書は文庫で200ページに満たない小品の作品ということもあって一気読みでした。 ベルナールの殺人計画が倒叙形式で語られる第1部だけでもスリリングで十分に面白いですが、謀殺が発覚以降、やり手の判事ルショワールや女性弁護士シルヴィが登場してからの、物語を二転三転させる第2部が作者の真骨頂でしょう。そのなかで、主人公の心理状況が徐々に変貌していく描写が秀逸で、このあたりはジャン・コクトーが評価するのもわかる文学性を感じます。 フレデリック・ダールといえば、以前は古書店で薄い文春文庫をよく見かけたけれど、最近はほとんど見なくなった。超入手難で知られる「絶体絶命」あたりを文庫で復刊してもらいたいものですね。 |
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| No.2253 | 5点 | 首なし男と踊る生首- 門前典之 | 2015/04/26 18:14 |
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| 嵐の夜、建設現場の資材置き場に入った宮村たちは、そこで大斧を振るう首なし男と生首を目撃する。さらに土砂崩れの修羅場の翌日、近くの古井戸の中で折り重なる複数の死体が発見されるに至り、宮村は、建築&探偵事務所の共同経営者・蜘蛛手を呼び出すが-------。
不気味な”首切り侍”の伝説や、大斧を振るう首なし男、消えては現れる生首など、豪快なバカトリックに支えられた、いかにも原書房のミステリー・リーグ双書らしい作品。 密室状況の首なし男の謎に関しては、偶然を多用したトリックで容認できるとは言い難いが、古井戸の中の三死体に施された工作の真相には感心半分、爆笑半分でなかなか面白いものになっている。おそらくこのアイデアが先にあって、被害者などの事件の構成が考えられたのではと思われる。 物語の合間に挿入された”殺人計画書”は、この種のミスディレクションが頻繁に使われている現状を考えれば、かえって作者の狙いが分かりやすくなってしまっているのが残念なところ。また、章ごとに視点人物が変わることで物語が前後し、展開がギクシャクした感じを受けるのも難点です。 |
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| No.2252 | 6点 | バラの中の死- 日下圭介 | 2015/04/24 18:43 |
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| ”傑作推理小説集”と銘打たれた短編集。既刊の6冊の短編集(1984年~94年刊)のなかから7編が採られている。(『偶然の女』『瓶詰めの過去』収録の3編は初読)
収録作の中では有名どころの、日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した「木に登る犬」と「鶯を呼ぶ少年」がやはり目を引きます。両作品とも、自然豊かな地方の町を舞台に、小学生の男の子が重要な役割をするという構成が共通し、共にラストでどんでん返しを仕掛けているが、個人的には哀切な幕切れが印象に残る後者をベストに推します 「流れ藻」は、新潟の海での心中事件を発端とした錯綜した人間関係と事件の隠された構図を、退職後に元巡査が謎解いていく、清張ばりに読み応えのある力作。 動植物の特徴や習性を事件に絡ませるのが作者の十八番で、そんななかでは「突然のヒマワリ」や「木の上の眼鏡」が最もそれが効果的に使われているように思えた。 総体的に粒揃いの作品集ながら、まだ「紅皿欠皿」「緋色の記憶」といった名作も残っているので、第2弾が出ることを期待したい。 |
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| No.2251 | 6点 | 星読島に星は流れた- 久住四季 | 2015/04/22 18:52 |
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| 女性天文学者サラ・ローウェル博士が住むボストン沖の孤島で、今年も天体観測の集いが催され、6人の招待客の中に家庭訪問医の”俺”も選ばれた。そして、二日目の夜の隕石の落下騒動につづき、翌朝、海岸に浮かんだ招待客の死体が発見される-------。
ランドル・ギャレットのダーシー卿シリーズを思わせるSFファンタジー風のミステリ「トリックスターズ」シリーズが、ラノベ・レーベルにも関わらず一部で注目を浴びた作者による久々の長編ミステリ。 数年に一度、隕石が落ちるという不思議な島を舞台にしているが、ファンタジー要素はなく、かなりオーソドックスな”孤島ミステリ”という印象を受けた。手垢のついた設定に、どんな斬新なアイデアを織り込んでくるのだろうと期待して読んでいましたが、太陽系の惑星や隕石をあるものに見立てたアイデアは面白く、一部で光るロジックも見られるものの、謎解き部分はおおよそ予想できる内容で、真相はややインパクトに欠ける感は否めないかな。登場人物たちは、ラノベ出身作家らしい魅力的な造形で、スラスラと読めるところも良ですが、真犯人が採った犯行方法にはキャラクター的に違和感があった。 |
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| No.2250 | 5点 | 道化者の死- アラン・グリーン | 2015/04/20 21:29 |
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| 人気喜劇役者のジュニア・ワトキンスが、密室状況のホテルの部屋で額に銃弾を受けた死体で発見される。折からの猛吹雪で外界から孤立し警察に通報がかなわない状況下、ホテル支配人のアーサー・ハッチは、コメディアン一座の関係者たちを相手に素人探偵に乗り出す--------。
「くたばれ健康法!」のアーサー・ハッチとジョン・ヒューゴーのコンビ?が再登場するシリーズの第2弾。 ドタバタ劇風のユーモア・ミステリだった前作とはやや趣が異なり、警察を辞めホテルの従業員になっているヒューゴーがほとんど活躍せず、ハッチを探偵役にしたオーソドックスなフーダニットになっています。 ハッチが12項目の疑問点を挙げ、真相に迫っていく終盤は盛り上がりますが、演芸関係者に対する聞き取り調査がつづく中盤の展開がちょっと平板に感じました。犯行動機や、事件の裏の構図は上手く隠されていると思いますが、ワトキンスの閉所恐怖症という要素があまり活かされていないですし、”犯人”が現場を密室にした理由がよく分からないなど、細かい疑問点も気になります。 |
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| No.2249 | 5点 | 異次元の館の殺人- 芦辺拓 | 2015/04/18 22:00 |
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| 地検の菊園綾子は殺人犯とされた先輩検事の冤罪を晴らすべく、宿敵の弁護士・森江春策とタッグを組み、事件関係者が集まった”悠聖館”で起きた密室殺人の謎解きに挑む。トリックを解明し犯人を指摘したその時、時空が歪み、綾子は並行世界へ飛ばされてしまう-------。
容疑者が集う館での密室殺人というベタな本格ミステリの設定に、パラレルワールドというSF設定をぶち込んだ意欲的な作品。 探偵役が、関係者一堂を前に謎解きを披露すると、登場人物や状況が微妙に異なる平行世界にトリップし、また最初から謎解きをやり直すという、見方によってはギャグのような展開が繰り返される。西澤保彦の「七回死んだ男」の”探偵役ヴァージョン”と言えなくもない。 各世界で微妙に状況が変化しているので、密室殺人のトリック解明も異なり、多重解決となっているが、どれも新味のないものばかりなのが残念だ。それらを収斂させた真相というのが作者の狙いというのは分かるが、凝ったわりにはそう面白いとは思えなかった。 |
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| No.2248 | 5点 | 濁った航跡- 陳舜臣 | 2015/04/14 18:24 |
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| 東南アジアの富豪相手に日本人女性を愛人として”輸出”し、貢がせたのちに金品と女性を回収するという”裏稼業”に手を染めていた桃井は、コンビを組む古賀が何者かに殺されたことを知る。やがて高校時代の友人でもある刑事の前島が頻繁に彼の前に現れたかと思うと、第2の殺人が発生する---------。
昭和43年に読売新聞社から”新事件小説全集”という叢書の一冊として出版された長編ミステリ。”女性の海外輸出”やブルーフィルム撮影という裏社会を背景にしていることもあって、全体的に暗いトーンに覆われた作品になっている。 加賀と桃井の裏稼業に関って大金を得た女性たちは、資金を元手にクラブを経営するもの、異国の地で愛人として住み続けるもの、ヒモに大金を絞り取られ堕ちていくものと、その人生模様はさまざまで人間ドラマとしては面白い。ただ謎解きミステリとしては、2番目の被害者が出てきた時点で犯行動機は明らかで、犯人もだいたい見当がついてしまうのが難点-------と思いきや、最後にサプライズが仕掛けられていましたw 伏線らしい伏線が見当たらないサプライズのためだけのドンデン返しという感があるものの、読者を翻弄したいという作者の姿勢はうかがえる気がします。 |
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| No.2247 | 6点 | 太宰治の辞書- 北村薫 | 2015/04/14 18:23 |
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| 小出版社に勤める〈私〉は、新潮社のロビーに飾られたある小説の復刻版を目にしたことを契機に、作家の創作の謎に興味を惹かれるようになる。そして、旧友の正ちゃんから聞かされた太宰治「女学生」を巡って、円紫さんに導かれるまま、太宰の創作の秘密を探索する旅に出ることに---------。
〈円紫さんと私〉シリーズの最新作。前作「朝霧」から17年、小説内の〈私〉も同じように年を重ね、結婚し中学生の息子をもつ中年女性になっているが、謎に対する知的探求心は若い頃と変わらない。 作中に「謎は往々にして、それが謎であることを隠している」という印象的なセンテンスもあるけれど、創作の謎といっても非常に些細で、普通の人ならまったく気にもとめないようなこと。芥川龍之介や太宰治によほど興味をもっていて文学的素養がないと、(とくに前半は)置いてきぼりを喰らうこと必至な内容と言えそう。もちろん本書はフィクションではあるものの、ミステリというより、元高校の国語教師・北村薫が、シリーズキャラクターの〈私〉を借りて書いたエッセイ風の文学評論的なところもある。 文学の素養のない身には、途中まではナンダカナ~という感じでしたが、終盤の、太宰の「女学生」に出てくるロココ料理と掌中新辞典に関する謎の探求行はスリリングで、知的冒険の興趣に酔わされた。真相は二の次で、その探求行というプロセスが面白かった。 |
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| No.2246 | 5点 | ヨット船上の殺人- C・P・スノウ | 2015/04/12 15:03 |
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| 旧知のロージャ・ミルズ博士から招かれ、ヨット船上の仲間内パーティに参加した”わたし”こと退役老軍人のイアンは、翌朝、舵をとっている姿で射殺されたロージャの死体を発見する。イアンの依頼で駆け付けた友人の素人探偵フィンボウは、招待客である5人の男女の中から心理分析で真犯人を絞り込もうとする----------。
洋上の自家用ヨットを舞台にした船上ミステリだと思っていましたが、事件発生後はノーフォークの湖沼地帯にあるバンガローに舞台を移します。nukkamさんもご指摘のとおり、探偵フィンボウの推理法や振る舞いはファイロ・ヴァンスを思わせ、ハンス・グロス著「便覧」を参考にしたトリックは(ヒネリはあるものの)「グリーン家」で使用されたものと同じで、ヴァン・ダインの影響がうかがえるフーダニット作品です。 限定された容疑者との会話と人物観察で、犯人を絞り込むフィンボウの心理分析的探偵法が本書のキモではあるのですが、いまひとつ読者を納得させる明快さは乏しいように思います。自信家のヴァンスとは違って「推理は間違うこともある」と明言しているのは好感が持てるのですが、勘ぐればドンデン返しのためのエクスキューズでもあったのかと思えなくもありませんw |
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| No.2245 | 6点 | ボランティアバスで行こう!- 友井羊 | 2015/04/09 20:45 |
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| 就活のアピールポイント作りのため、東北の震災復興の支援活動としてボランティア・バスを主催した大学生の大石。被災地に向かうチャーターバスには、ボランティアに応募した老若男女が乗り合わせたが、それぞれが色々な思惑を秘めていて--------。
主催者の大学生をはじめ、贖罪のために参加した会社員、教え子の弔いに向かう元教師とその夫、犯罪を犯した逃亡者など、災害ボランティアに関わった人々の内面の秘密を明らかにしていく、6つのエピソードからなる連作ミステリ。 いずれもハートウォーミングな話で、ミステリ成分はたいしたことはない。むしろ東日本大震災に取材した被災者の伝わりにくい感情や、災害ボランティアの在り方など、震災関連の諸々の情報部分のほうに読者を引き付けるものがあります。一瞬ミステリとして書かれたものであることを忘れてしまいそうになるほどです。 しかし、それもこれも作者の巧妙な企みで、ラストに連作ならではの仕掛けが待っていました。まあ定番ではあるし、読んだ人によっては「それがどうした」という感想もあるかと思いますが、それまでの内容からちょっと不意を突かれました。 |
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| No.2244 | 6点 | 私が見たと蠅は言う- エリザベス・フェラーズ | 2015/04/07 18:30 |
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| 夫と別居した女流画家ケイが住むロンドンの安アパートの隣室の床下から拳銃が見つかり、つづいて、その部屋を出たばかりの女性が公園で射殺死体となって発見される。コリー警部補から容疑者とみなされたアパートの住人たちは、それぞれ思い思いに勝手な推理を繰り広げるが-------。
先ごろ復刊されたフィルポッツの「だれコマ」同様、タイトル(=原題は”I,Said The Fly")はマザーグースの”コック・ロビン殺し”の一節から採っています(タイトルの正確な意味合いは、エピローグでのコリー警部補の説明まで待たなければなりませんが)。本作には、ヴァン・ダインが「僧正」でやった童謡殺人のような派手な趣向や強烈なサスペンスはなく、多肢多彩なアパート住人たちによるコージー風で軽妙なやり取りによる推理の披露合戦が最大の読みどころです。また、隠れたテーマである”蠅”の正体にも意外性がありました。 ただ、それぞれの推理そのものは論理性に乏しく、どちらかというと感情的なものが中心で、最終的な解決の仕方も含めてロジックを重視する本格を期待すると少々物足りなく感じるかもしれません。 |
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| No.2243 | 6点 | 僕は秋子に借りがある- 森博嗣 | 2015/04/05 20:57 |
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| 自選短編集。既刊の『まどろみ消去』『地球儀のスライス』『虚空の逆マトリクス』『今夜はパラシュート博物館へ』『レタス・フライ』の収録作の中から13編が採られている。(『レタス・フライ』収録の2編は今回初読)
どんでん返しを仕掛けた意外とマトモなミステリがあるかと思うと、作者の意図がよく分からない不条理小説や幻想風のモノ、私小説風の恋愛小説まであり、非常にバラエティに富んでいる。 ミステリでは「虚空の黙禱者」と「小鳥の恩返し」が甲乙付けがたい出来栄え。好みでいえば、ラスト近くの衝撃的なひとことで戦慄を覚える前者を推す。 小学6年生たちのコメントだけで構成された「卒業文集」は、読み返してナルホド~となるタイプの技巧的作品。 全然ミステリではないが「キシマ先生の静かな生活」は、かなり個性的な理系男の恋愛観や生きざまに新鮮な感動を覚える文芸的な作品。 表題作の「僕は秋子に借りがある」は、主人公の前に突然現れた不思議ちゃん風の女性キャラが、真相を知るとガラリと印象が変わる、ラストの哀切感がたまらない個人的ベスト作品。 |
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| No.2242 | 6点 | 生け贄- 鳥飼否宇 | 2015/04/03 19:03 |
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| 撮影中の事故で足を怪我した植物写真家の猫田夏海は、高知の港湾にある神道系の宗教施設に滞在することになった。ある夜、その白崇教の海に浮かぶ密室状況の本殿で、教主が刺殺される事件が起き、つづいて教団幹部である教主の息子の切断死体が海で見つかる-------。
生物オタクの”観察者”鳶山を探偵役に据えたシリーズ、久々の長編。 ”タイガ”と呼ばれるアルビノ(先天性白皮症)の鮫を崇める教祖一族・明神家の秘密を中核の謎にして、宗教施設内の連続変死事件を描いている。 冒頭に明神家の家系図を置き、過去の因縁や隠れた血縁が真相に絡むところは横溝風で、教主の孫で双子の妹の不可思議体験は三津田信三のホラーミステリを思わせます。また、漁船沈没のトンデモ真相や、メインの仕掛けも含めて、設定やトリック面で他作家の既存作品との類似性が目立つのが気になるところではあります。しかしながら鳶山が登場してからの、海洋生物に関する薀蓄披露から主神の正体に迫る夏海とのやり取りはシリーズの個性が出ており楽しめました。ただ、短めの長編の割には多くのネタを詰め込みすぎていて、後半は駆け足気味なのがもったいない気がしました。 |
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| No.2241 | 6点 | 夕暮れ密室- 村崎友 | 2015/04/01 19:00 |
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| 文化祭当日の朝、男子生徒の憧れの的だったバレーボール部のマネージャー・森下栞が、校舎別棟のシャワールーム内で遺体となって発見される。現場は二重の密室状況のため自殺として処理されそうになるが、疑問を持った部員やクラスメイトたちは真相の究明に乗り出す---------。
第23回横溝正史ミステリ大賞の最終候補作を全面改稿した学園ミステリ。 被害者になる女子生徒の視点で語られる第1章以降、各章で視点人物を入れ替え、部員やクラスメイトたちがそれぞれ異なる立場、視点で事件に向き合い、多重推理を披露していく構成がユニークです。サークル部室に住込むアニメオタク男子とか、性同一性障害の男女生徒のような極端なキャラは登場せずw、恋愛や将来に対する悩みや不安を抱える等身大の高校生による、一昔前の田舎の学校の青春群像劇という感じは個人的に好印象を受けました。 一方で、謎解きミステリの面では少々不満もあります。密室トリックは前例がありそうでなさそうな大技で面白いのですが、犯人を特定するロジックが結構甘いように思います。また真相はいかにも青春ミステリといった苦い内容ですが、逆に言えば少々ありきたりかなという感じがします。 |
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| No.2240 | 6点 | 粗忽長屋の殺人(ひとごろし)- 河合莞爾 | 2015/03/30 18:56 |
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| 落語ミステリ、といっても愛川晶や大倉崇裕が書くような落語界を背景としたものではなく、熊さんや八っつぁんが持ち込んだ謎を、長屋のご隠居が鮮やな推理で解決するという、古典落語でお馴染みのキャラクターがそのまま登場する文字通りの"落語"ミステリの連作です。
長屋のご隠居が名探偵という点では仁木悦子の「横丁の名探偵」という先例がありますが、各編とも古典落語の演目を下敷きにして、そこに隠された謎を創作するという趣向が作者のアイデアといえます。こういう作風のものも書けるのかと、ちょっと感心しました。 収録作は、伊勢屋の器量よしの女房の婿養子が次々と死んでいく「短命の理由」、住人を集めて下手な義太夫を聞かせようとする大店の旦那の真意「寝床の秘密」、熊さんの死体を見かけた八っつぁんが本人に知らせに走る「粗忽長屋の殺人」、死んだ花魁を香を焚いて呼び出す坊主「高尾太夫は三度死ぬ」の4編。いずれもミステリとしての仕掛けは底が浅く真相は割と分かりやすいが、レギュラー三人のボケとツッコミのやり取りが抜群に面白い。また、小噺風のつかみから人情話に持っていく展開や、謎解き後のサゲも”原作”の味を損なわない配慮がうかがえる。 |
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| No.2239 | 5点 | 狼男卿の秘密- イーデン・フィルポッツ | 2015/03/28 18:01 |
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| 父の急死によって、准男爵の称号と広大な領地を引継ぐことになったウィリアム・ウルフは、領主館の図書室で古い詩集を見つける。以前から神秘主義に興味を持っていた彼は、人狼伝説を綴った詩の一節が、近い将来自分の身に起こる”予言”だと妄信し、やがて彼の身辺で詩の内容に沿った不吉な出来事が続発する--------。
怪奇小説をそろえた国書刊行会の”ドラキュラ叢書”(全10巻、紀田順一郎&荒俣宏監修)のなかの一冊。 人狼、狼憑きがテーマで、物語の大半は、オカルティズムに傾倒した若いウルフ卿が、古書に予言された”破滅の日”に向かっていく様を描いている。教区牧師と卿の婚約者であるその娘、従兄弟、領地管理人の元学友など、周辺人物がウルフ卿の精神状態を心配し右往左往するのですが、このあたりは展開がゆったりしすぎて正直なところ読むのが少々苦痛に感じた。謎の血糊や狼男の痕跡などのオカルト要素も出てくるものの、あまり怪奇性を強調しているようには思えない。 ところが、終盤の十三章で様相が一変、思わず「そういう話だったのか!」というような”構図の反転”が控えてました。たしかに、ある人物の退場が唐突で不自然だとは思っていましたが...........。本書が”ドラキュラ叢書”の一冊ということが、図らずもミスリードに繋がる一番の要因になっているかもしれない。 |
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| No.2238 | 6点 | 瀬戸大橋3.64秒の殺意- 池田雄一 | 2015/03/26 18:57 |
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| 病に倒れた大手企業グループの総帥・苅部は、財閥を守るため隠し子の有美子を米国から呼び出し政略結婚を企てる。だが、何者かによる有美子殺害計画を知った苅部は、脚本家の杉山翠に替え玉の花嫁を依頼するも、結婚披露宴のさなか式場ホテルで連続殺人が発生する---------。
二時間ドラマのトラベルミステリのようなタイトルで損をしていますが、前作「21時間02分の密室」と同様に、大掛かりで巧妙なミスディレクションを使った良質の本格パズラーになっていると思います。 主人公や劇団関係者たちが事件に関わる経緯が都合よすぎる点や、タイトルが示唆する豪快なアリバイトリックには、突っ込みどころもあるものの、終章近くで明かされる”裏の構図”は意外性十分です。 探偵役で旅行代理店のツアーガイド・阿久津竹男や、弱小劇団の脚本家・杉山翠など、前作のキャラクターが再登場するのが単なるシリーズ化のためではなく、仕掛けの部分に有効に寄与している点も評価したい。 |
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| No.2237 | 5点 | 球型の殺意- 山村正夫 | 2015/03/24 20:12 |
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| 城南ボウリング・パレスに深夜強盗が入り宿直の職員が殺される。同僚の庄司も負傷するが、状況から強盗を手引きしたとの疑いをかけられ解雇されてしまう。庄司は濡れ衣を晴らすべく犯人探しを続けるも、今度は強盗団の一味と目を付けた男が密室状況で殺害された事件に関わることに--------。
物語は主人公・庄司の執念の犯人探しを中軸に展開しますが、並行して警察の捜査動向の描写があり、さらには犯人側視点のパートが挿入されて、そのなかで強盗団の正体が早々に明らかになります。読者に舞台裏を見せているようなものですから、この構成はちょっと変わっています。 ボウリング場の密室状況下のロッカールームでの殺人という”謎”はあるものの、ジャンル投票を”本格”にするのは迷いました。サスペンス、警察小説、犯罪小説、それぞれの要素が混在しますし、読者が推理をする余地もあまりないので。そのため終盤のドンデン返しは意外というより唐突感がありますね。ただ、某フランスミステリ作品のある趣向に挑戦したと思われる作者の意欲は買います。 |
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| No.2236 | 5点 | ベルリンの女- 高柳芳夫 | 2015/03/22 20:56 |
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| ノンシリーズの短編集。各話ともドイツ、オーストリア、ノルウェー、スイスなど欧州諸国の街を舞台背景にしているところが共通しています。ジャンルは、不正経理や贈収賄事件などの社会派要素を加味した本格ミステリが中心ですが、幻想ホラー風のものや心理サスペンスも収録されています。
表題作の「ベルリンの女」は、取壊し寸前の古いビルの一室が現場となる密室トリックもの。トリックは既視感があるものの、一応の真相が明かされた後のツイストが効いていて、コレが個人的ベスト作品。 「ヴィーナスの山の白い館」は、素人探偵の日本人女性像や古城周辺の情景描写はいいが、アリバイトリックは陳腐と言わざるを得ないかな。「国際電話会社殺人事件」は、社会派の要素が大きい骨太の作品で読み応えがあるが、メイントリックを疑う手掛かりが後出しぎみなのが残念なところ。 本格モノ以外では、ある商社員の凄まじい怨念が印象に残る「ラインの誘惑」が心理サスペンスものの佳作。そのほかの怪奇幻想風のショートストーリー2編はいずれも微妙な出来でした。 |
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| No.2235 | 5点 | 人魚と金魚鉢- 市井豊 | 2015/03/21 10:11 |
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| 生まれながらの”聴き屋”体質の大学生「ぼく」こと柏木と、文芸サークル”ザ・フール”の個性的な面々が繰り広げる連作ミステリの第2弾。もともとド派手なトリックは出てこないシリーズですが、今回はとくに”日常の謎”に徹した構成になっています。
「青鬼の涙」では、法事で家族とともに帰省した柏木が、小学生時代に目撃した亡き祖父の”ある行為”を回想し謎解く。些細なミステリながら雰囲気のいい異色作。 つぎの、聴き屋体質ゆえに真実に気付かなかったという「恋の仮病」は、真相が早々に見えてしまった。 「世迷い子と」では、テレビ番組の撮影中に子供タレントが突如恐慌に陥った理由が謎として提示される。手掛かりが十分ではないが真相には意外性がある。 ザ・フールのメンバーが公園で隠れんぼをする「愚者は春に隠れる」の、謎解きは大した事ないものの、ネガティブなユーレイ部員”先輩”のキャラが全開で楽しめる。 最後の「人魚と金魚鉢」では、学生選抜コンサートの会場を泡まみれにした犯人とその動機を謎解く。これも途中でなんとなく真相が見えるが、爽やかな気持ちにさせてくれる読後感のいい作品。 |
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