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文生さん
平均点: 5.89点 書評数: 420件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.320 7点 君のクイズ- 小川哲 2023/03/04 22:48
クイズ番組で問題文を読み上げる前に正解を答えた謎を、番組を振り返りながら検討していく展開がよく出来ています。短い枚数のなかで勝負の推移、競技クイズのテクニック解説、クイズにのめり込んでいく主人公の半生などがバランよく描かれており、飽きさせません。冒頭の謎に対しても作中に散りばめられたヒントを結びつけて納得いく答えを提示しているのが見事。競技クイズを巡る人間模様を描いたヒューマンドラマ&日常の謎ミステリーとしてそつなくまとめられた佳品です。

No.319 7点 大雑把かつあやふやな怪盗の予告状: 警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル- 倉知淳 2023/03/04 06:54
従来の捜査方法では解決できないミステリー小説のような難事件に対処すべく警察庁は名探偵を特別顧問として契約。ただ、警察組織に属さない探偵は単独で現場を捜査することができないので随行員として警察官を付けることになるが、ミステリー小説を嗜んでいるという理由だけそれに選ばれたのが、キャリア警察官として就任したばかりの主人公で...。

全3篇からなる中編集で、まず癖の強すぎる名探偵たち及び彼らに反目する叩き上げの刑事たちに主人公が振り回されるさまがユーモアミステリーとして秀逸です。ミステリーとしては不可解な犯行から犯人の意図を読み解いていくホワイダニットがメイン。刑事の常識的な視点と主人公のミステリマニアならではの視点とで重層的に事件を検証していく過程がよくできています。

最初のエピソードは小手調べとうこともあってまずまずといったところですが、第2話の表題作は笑いの中にさりげなく伏線を散りばめて最後に意外な真相を提示してみせる傑作です。最終話の見立て殺人も逆説的なロジックが素晴らしい。

No.318 6点 黒真珠 恋愛推理レアコレクション- 連城三紀彦 2023/03/04 05:49
最初の数作は単行本未収録というのが信じられないほどの切れ味鋭い恋愛ミステリーが揃っていてこれはとんでもない傑作短編集なのでは?と思ったものの、その後はトーンダウン。恋愛ミステリーというよりもどんでん返しのある恋愛小説の色が強くなり、肝心の恋愛要素も自分の好みと合わず。
概ね前半の短編は良作で後半の掌編が今一つの印象。
7点が6点かで迷ったけど、尻すぼみだったのが残念ということで6点。

No.317 6点 60%- 柴田祐紀 2023/03/03 03:27
第26回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
暴対法対策で堅気の恰好をしているやくざが絡んできた街の不良少年たちをボコボコにするシーンで一気に引き込まれました。世界中の映画を収集している若頭の柴原や職も家族も失って闇社会に居場所を見出す元銀行員の後藤といった登場人物も魅力的で少なくとも前半はノワールとしてかなりの面白さです。ただ、柴原が敵対するやくざたちを単身で瞬殺するあたりからリアリティがあまり感じられなくなります。それに、チャラすぎる組長のキャラにも違和感が。決してつまらなくはないのですが、本格的なノワール小説を期待していた身としては一部の描写や設定が漫画的で少々軽すぎる気がしました。

No.316 7点 11文字の檻- 青崎有吾 2023/03/02 21:15
収録されている作品のジャンルがバラバラ過ぎて激しく読者を選ぶ作品十ですが、そのなかでミステリーファンにお勧めなのが表題作。
思想犯で捕まった囚人たちが自由を得るためのチャンスとして与えられる11文字のパスワード当て問題。これをいかにして正答するかというロジックが意外性に富んでいて楽しい。文句なしの傑作です。

「加速してゆく」は国内最悪の列車事故、JR福知山線脱線事故を背景にしたミステリーで、謎解きよりも生々しい事故の描写が印象的

「噤ヶ森の硝子屋敷」は密室ものだが、トリックは大したことない。一種のバカミスとしては楽しめた

「恋澤姉妹」は百合小説の傑作

「前髪は空を向いている」はアニメ化もされた漫画『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 』のパスティーシュなのですが、これだけ読んでも意味不明でしょう。通常の短編集には収録しない方がよかったと思う

「your name」「飽くまで」「クレープまでは終わらせない」については割愛

以上、表題作9点、「恋澤姉妹」8点、「前髪は空を向いている」採点不能、その他5~6点でトータル7点といったところ

No.315 7点 ニードレス通りの果ての家- カトリオナ・ウォード 2023/02/24 06:50
本作は英国幻想文学大賞のホラー長編部門(オーガスト・ダーレス賞)を受賞していますが、ホラーというよりもどちらかといえばサイコサスペンスに近い読み味です。物語は、11年前に森で行方不明になった少女の事件に端を発し、森に面した家で娘と一緒に暮らす怪しげな男&その男が失踪事件の犯人である証拠を掴もうと近所に引っ越してきた少女の姉を中心に展開していきます。そして、ユニークなのはその2人に加えて男の飼っている猫が語り手として絡んでいる点です。精神を病んでいるらしい男及び猫の視点で語られる物語は現実味に乏しく、幻想的描写が入り混じったものとなっています。それが凡百のミステリーと一線を画し、幻想文学として評価された点なのでしょう。さらに、驚愕の真相が明らかになる終盤の展開も見事です。仕掛けの根幹をなすアイディア自体はサイコサスペンスの世界ではよくある使い古されたもではあるものの、語り口が巧みで思わず引き込まれいきました。同時に、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかよくわからない結末も味わい深いものがあります。ちなみに、著者の作品は本作で3作連続のオーガスト・ダーレス賞受賞とのことで、過去の2作も読んでみたいところです。

No.314 5点 悲鳴だけ聞こえない- 織守きょうや 2023/02/22 10:19
木村&高塚弁護士シリーズ第3弾の連作短編。
民事の問題を専門家の観点から扱った物語はどれも興味深く、ためになります。ただ、ミステリーとしてはそれほどヒネリが効いているようには思えず、なんとなく着地点が想像できてしまう点が物足りませんでした。唯一例外なのは表題作で、会社でパワハラが行われているはずなのになぜか被害者が判明しないという謎と盲点を突いた真相はなかなか良かったです。それでもやはり、全体的には凡庸な印象。

No.313 6点 オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case- 森博嗣 2023/02/22 09:51
『すべてがFになる』と同じ、クローズドサークルもので、クローズドサークルに対する固定概念を逆手にとったような仕掛けがユニークではあります。しかし、これを成立させるにはなかなか困難だし、その割に『すべてがFになる』ほどのスケール感はなくこじんまりしている点はものたりない。また、最後のサプライズに関しては描写に違和感を感じていたのでうすうす気がついてしまった。
悪くはないけれど、サプライズネタも含めてどちらかといえばファン向けの作品かな

No.312 6点 いけないII- 道尾秀介 2023/02/09 17:17
連作ミステリーの底流をなすホラーテイストな味わいは悪くありません。しかし、各話のラストに用意された1枚の写真が何を意味するのか分かりにくいものが多かったのは残念。個人的には、明確な答えをあえて用意せずに読者に考えさせるタイプのミステリーは嫌いなので、写真を見た瞬間に衝撃的な事実がわかるような工夫がほしかったところです。
とはいえ、写真は謎解き要素の一部にすぎないのでそこがわからなくてもミステリーとして楽しむことは可能ですし、雰囲気的にはなかなか魅力的な作品ではあります。

No.311 5点 キドナプキディング- 西尾維新 2023/02/09 16:49
戯言遣いの娘・玖渚盾(くなぎさ・じゅん)が主役の戯言遣いセカンドシーズン第1弾。

文字通り女の子版戯言遣いといった感じで、シリーズを最初に触れたときのようなインパクトには欠けるものの、キャラクター小説としては安定の面白さです。
しかし、ミステリーとしてはいささか物足りません。まず、事件が起きるのが本編の半分を過ぎてからで、その後もあまり盛り上がりもなく解決してしまうので体感的な満足度は短編ミステリーを1作読んだ程度です。また、本作はシリーズ第1弾の『クビキリサイクル』を意識して同じ首なし死体の事件を扱っているものの、やはり短編程度の小ネタといった感じで元ネタと比べると仕掛けの面白さは大きく劣ります。したがって、過大な期待はせず、今後続くであろう新シリーズのキャラクター紹介編だと割り切って読むのが吉でしょう。

No.310 6点 地羊鬼の孤独- 大島清昭 2023/01/29 08:50
中国に伝わる怪異を忠実に再現した残忍な連続見立て殺人に始まり、被害者同士の繋がりを探っていくミッシングリンク、密室黄金時代シリーズを彷彿とさせる密室殺人乱れうち、京極堂的な妖怪専門家、飄々とした女性警部補と頼りない若手刑事のバディもの、ミステリーの範疇におさまらないホラー要素、意外な犯人などといった具合に多彩な要素で楽しませてくれる作品です。しかし、その反面、面白さが分散し、ウリとなるインパクトには欠ける印象。また、動機がそれなら、もっと犯人の人格やら犯行に至るまでの背景を掘り下げてほしかったところ。本作の描写だけではなぜ犯人がそこまでの犯行に及んだのかが理解しづらく、もやもやします。

No.309 7点 真珠湾の冬- ジェイムズ・ケストレル 2023/01/16 03:31
2022年アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞(エドガー賞)受賞作品。
日米開戦前夜のハワイで白人男性と日本人女性の惨殺事件に遭遇した元軍人のホノルル署刑事が、犯人を追って香港に赴くも敵の罠に落ちて囚われの身となり、さらに進軍してきた日本軍によって東京へ送られるという国際色豊かなスリラー作品です。欧米作品にありがちなトンデモ日本人などの要素は微塵もなく、極めて正確に日本が描かれている点には好感を覚えますし、時代に翻弄される主人公のドラマとしても読み応えがあります。ミステリーとしては殺人事件がなぜ起きたのかという背景の解明に重きが置かれていますが、それよりもむしろ主人公と日本人女性とのラブロマンスが本作の魅力の大きな部分を占めています。特に、事件解決後のラストシーンが感動的。

No.308 3点 ディスコ探偵水曜日- 舞城王太郎 2023/01/15 14:59
怪しげな蘊蓄とぶっ飛んだ推理が詰め込まれた平成版『黒死館殺人事件』というべき奇書。しかし、そもそも『黒死館殺人事件』に全くついていくことができなかった身としてはこちらも同様に楽しめず。
同じ舞城作品でも、切ない青春ストーリーにバカミス要素がほど良く散りばめられていた『世界は密室でできている。』はそのブレンド具合が絶妙で感動すら覚えたのですが、本作は濃厚すぎて味のくどさばかり気になり、面白さを感じることができませんでした。

No.307 4点 暗闇坂の人喰いの木- 島田荘司 2022/12/29 06:29
話はすこぶる面白いのですが、やはり偶然の要素が多すぎるのはいただけません。
個人的に偶然の要素に対しては必ずしも否定的ではないものの、これだけ立て続けに起きるとさすがにしらけてしまいます。
それに、メイントリックが著者の過去作と同じというのも面白味に欠けます。
小さなトリックのアレンジならともかく、あれだけの大トリックを使い回さないでほしかったです。

No.306 5点 教誨- 柚月裕子 2022/12/16 10:34
8歳の愛娘と近所の5歳の少女を殺害して死刑を宣告された母親の心の内を、関係者の証言から紐解いていく展開はよくできています。しかし、最後に明らかになるのは死刑囚の心の真実にすぎず、ミステリー的などんでん返しがあるわけではありません。どちらかといえば文学小説に近い作品です。一種のホワイダニットものといえなくもないですが、ミステリを期待すると、どうしても物足りなさを覚えてしまいます。作品自体は良作といってもいいと思います。

No.305 6点 黒石 新宿鮫Ⅻ- 大沢在昌 2022/12/11 11:13
シリーズ第12弾。一匹狼だった鮫島も遊撃隊的なポジションながらチームで捜査を行うようになり、ハードボイルドっぽさは後退しています。その代わり、自らをヒーローと称し、毒猿とは別の意味でやばい殺し屋・黒石がインパクト大。また、その黒石を背後で操る徐福は終盤まで正体を現さず、ミステリー的な興味を牽引していきます。それだけに、徐福自体は意外と小者だったのが残念です。十分に面白い作品ですが、終盤の展開が少々物足りなかったのでこの点数で。

No.304 7点 毒猿 新宿鮫II- 大沢在昌 2022/12/11 10:30
台湾からやってきた殺し屋の毒猿が規格外の強さで、その暴れっぷりに血湧き肉躍ります。切ないラストにはグッとくるもがあり、滅茶苦茶面白い作品です。ただ、毒猿の強さが格闘少年漫画のラスボスレベルで世界観からやや浮いていたような気も。

No.303 6点 新宿鮫- 大沢在昌 2022/12/11 10:21
キャリア組でありながら出世を捨てた一匹狼の刑事という主人公の設定が秀逸。そのことによって警察小説でありながらハードボイルドという独自のジャンルを構築することに成功しています。鮫島や晶をはじめとして登場人物も魅力的。緊迫感に満ちたストーリーも申し分なしですが、後続の作品と比べるとこじんまりとまとまりすぎている気がします。第1弾ということもあってキャラクター紹介に重きを置いているようでもあり、個人的にはその辺りがやや物足りませんでした。

No.302 5点 密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック - 鴨崎暖炉 2022/12/09 06:46
前作に続いて密室殺人がブームになった背景が語られるがやはり納得ができない。

密室の謎が解けない以上、容疑者の犯行が証明できないのだから無罪判決は当然。それを世間から愚かな判決だとみられて大炎上すること自体がありえない。犯行方法が不明のまま有罪にする方がどう考えても炎上案件でしょう。作中では「密室殺人の場合、犯行が不可能という点では全員条件は同じなのでその件は棚上げしてそれ以外の証拠で犯人を決めればよい」という意見が大勢を占めていた的な説明がなされていますが、そんな馬鹿なとしか思えない。作者は推定無罪の原則を知らないのだろうか。それに、現実でも密室殺人は起きているのに作中の事件を日本初の密室殺人として扱っているのも相変わらず引っ掛かりを覚えます。さらに、密室殺人が次々と起きるために、個々の扱われ方が軽いのも不満。

以上のように基本的な感想は前作とほぼ同じではあるものの、密室トリックが前作よりも奇想天外でバカバカしくなるほどに壮大になっている点は良かった。そのことによって、密室ミステリというよりも一種のバカミスとして楽しむことができました。トリックの発想も『斜め屋敷の犯罪』や『北の夕鶴2/3の殺人』のような島田荘的なところもあるし。今後はトリックの羅列ではなく、一つのトリックをじっくり掘り下げた作品に期待したいところ。

No.301 8点 地球の長い午後- ブライアン・W・オールディス 2022/11/29 05:14
地球が自転を止め、永遠の昼が続く世界。地表は巨大な樹木で覆われ、滅亡した哺乳類に代わって巨大昆虫や肉食植物が跋扈する。
作品が内包するイマジネーションの豊かさに圧倒されました。ストーリーなどはあってなきがごとしですが、そんなことは気にならないくらいに世界観が魅力的です。1962年に発表された遠未来SFの名品。

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文生さん
ひとこと
本格脳なので本格度が高いほど評価も高くなります。ただし、本格好きと言ってもフェアプレーなどはどうでもよい派なのでロジックだけの作品は評価が低めです。トリックやプロットを重視した採点となっています。
好きな作家
ジョン・ディクスン・カー、土屋隆夫、竹本健治、山田正紀
採点傾向
平均点: 5.89点   採点数: 420件
採点の多い作家(TOP10)
ジョン・ディクスン・カー(18)
アガサ・クリスティー(17)
横溝正史(11)
エラリイ・クイーン(11)
カーター・ディクスン(11)
西尾維新(10)
森村誠一(9)
竹本健治(9)
東野圭吾(9)
米澤穂信(9)