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家畜人ヤプー
沼正三 出版月: 1970年01月 平均: 6.25点 書評数: 4件

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都市出版社
1970年01月

角川書店
1972年11月

角川書店
1984年05月

スコラ
1991年10月

ミリオン出版
1991年12月

太田出版
1992年12月

幻冬舎
1999年07月

No.4 7点 メルカトル 2024/04/25 22:14
日本人が「ヤプー」と呼ばれ、白人の家畜にされている二千年後の未来に彷徨いこんだ麟一郎と恋人クララが見たのは__。三島由紀夫、澁澤龍彦らが絶賛した「戦後最大の奇書」最終決定版。
Amazon内容紹介より。

やっと読めました。いやー、長かった。1ページ20行で単行本上中下三冊。全部合わせて1250ページ余り。流石に手こずりましたよ。
『ヤプー』と言えばエログロの代名詞の様に思われていますが、これは官能小説や大衆小説ではなく、解説の荒俣宏によると哲学書だそうです。私には学術書に近い感覚でした。確かにエロもグロも盛り沢山ですが、決して不快な気分にはなりません。耐性がないとちょっとキツイかも知れませんが、平山夢明や白井智之が大丈夫な人なら問題ないでしょう。

ただ、本作はストーリー性が殆どなく小説を読んだ気がしません。ヤプーに関するエピソードや解説がほとんどのページを占め、興味深いものから面白味のないものまで様々。
上巻、中巻はそれなりだとしても下巻はちょっとダレます。印象に残るのは肉便器(セッチン)、子宮畜(ヤプム)、口人形(カニリンガ)矮人(ピグミー)等で、ここぞという時には執拗かつ入念に詳細が描写されます。特にセッチンの話は繰り返し語られるので、余程排泄物に対して何か期するところが作者にはあったと推測されます。しかし逆に言えば本書は排泄物のないユートピアを描いており、汚物を対象にしながら清潔な白人(イギリス人)の世界を構築しているところが凄いです。

第三次世界大戦後の世界(宇宙)は、イギリス人のみが人間として認められ、黒人は奴隷、日本人は家畜(道具)として扱われ邪蛮(ジャパン)の黄色人種は悉くヤプーと呼ばれ、身体を巨大化されたり極小化しされたり、四肢を切断されたりあらゆる改造をされて、白人の為に奉仕させられます。それを受け入れるヤプーも如何なものかと思います・・・そして人間性を完全に剥奪された形で歪なワールドが展開します。白人にとってのユートピアは日本人にとっては、白神信仰(アルビ二ズム)による支配に他なりません。しかし、それに満足しているのも事実なのです。これら二千年後の世界を目の当たりにした麟一郎の運命はいかに、というのが一応物語の根幹ですかね。

因みに私が所持している上巻の古書を開くと、何故か耽美小説の著述家天野某氏の死亡を伝える新聞記事の切り取りが挟まっており、生前本書の著者だと名乗り出ていたらしいのだが・・・。

No.3 8点 文生 2024/03/03 09:55
日本人男性とドイツ人女性の婚約カップルが、極端な白人至上主義&男性蔑視社会である未来帝国に連れてこられるSFストーリー。

日本3大奇書(あるいは4大奇書)をミステリーに限定しないのであれば間違いなくその一角をなすであろうカルト傑作です。さまざまな言説からの引用や蘊蓄が散りばめられていながら『黒死館殺人事件』より格段に読みやすく、奇想天外な物語ながら『ドグラマグラ』より遙かにエンタメ性が高い。性風俗雑誌の奇譚クラブに掲載されたSM小説なので激しく読者を選ぶものの、そのイマジネーションの豊かさは他の追随を許しません。その代わり、物語は単なる添え物であり、あくまでも緻密に構築された壮大な世界観を堪能する作品です。

No.2 8点 虫暮部 2024/03/01 14:00
 誇張ではなく本当に1ページごとに “なんじゃそりゃ” の乱舞。ただその驚きの方向性が、“幻の異端作家の禁断の書” みたいなイメージのせいで “情念のほとばしり” 的なぐしゃっとした混沌を予想していたら、意外にも非常に理路整然として無駄に博覧強記なのだった。
 勿論、突っ込みどころは多々あるけれど、それさえも “作者の中では完結しているのだなぁ” と言う説得力に通じるのだからあな怖ろしや。
 読み始めは当然アイロニーだろうと思っていたが、作者の言によればこれが真のユートピア。これだけ徹底して描かれると圧倒されざるを得ない。何より “最後の選択” で少なからず感動してしまった私の心は大丈夫だろうか。

 食用畜についてはもっと色々なメニューを紹介して欲しかった(ヤプーは人間ではないのでカニバリズムにあらず)。殺したてじゃなくて牛肉のように熟成させた方が美味なのでは? 

 確かにあまりの改造描写でこちらの肉体感覚も歪み精神的負荷の大きさ故に一日一章読むのが精一杯。全49章の長さがハードルではある。が、そこまで隔絶した存在でもない。白井智之や小林泰三や式貴士や団鬼六や駕籠真太郎や根本敬がOKなら本作もいけるのではないか。 

No.1 2点 江守森江 2010/06/14 04:55
「さあ!アナタも明日から口蹄疫感染の恐怖に怯えましょう!」←宮崎県民の皆様ゴメンナサイ。
基本型はSF&SM小説で「奇妙な味」の分野を突き詰めているが、私的にはミステリーの範疇外な扱い(2点)としたい。
作者は、覆面作家で正体には諸説がありハッキリしない。
私が読んだのは全三巻だったが、今では改訂された全五巻版の方が流通している。
「これぞ奇書!」と云える内容で、その手の趣味な人しかトリップできないが、誰が読んでもクラクラとダメージを引き摺る(それ以前に投げ出す方も多数)
ヤプー=日本人で品種改良など家畜扱いされる。
人間が家畜にしている事を、立場を変えて人間がされたらどうなるか?読んで想像すると、いかに普段から人間が平然と酷い行いをしているかが認識できる。
江戸川乱歩の奇妙な味(例えば人間椅子が、家畜人では人間便器)が普通の味に感じられるレベルなので、耐性が無い方は読まずにスルーした方がよい。


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沼正三
1970年01月
家畜人ヤプー
平均:6.25 / 書評数:4