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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1812件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.292 7点 夢の島- 大沢在昌 2010/08/05 22:27
シリーズ外の巻き込まれ型サスペンス。
作者お得意のプロットだと思います。
母と離婚後、音信普通だった父の死、そして父が残した1枚の書きかけの島の絵・・・その「絵」をきっかけに主人公が”嵐”に巻き込まれるーという展開。
「島」の秘密が本作を貫く謎になるわけですが、ヒントが結構多いため、途中で完全に察してしまいます。
その点は割引ですが、最後のサプライズはなかなか良かった・・・
「男のロマン」、「男で良かったぁー」と感じさせてくれる1作。

No.291 5点 日本ダービー殺人事件- 西村京太郎 2010/08/05 22:17
十津川警部が探偵役の初期作品。
ダービーまで無傷の連勝街道を驀進していた1頭のサラブレットをめぐって、八百長疑惑と連続殺人事件が発生、2人の競馬新聞記者と十津川が巻き込まれていきます。
肝心の殺人事件の方は感心できませんねぇ・・・
ラストにひっくり返されるのはまぁいいとしても、真犯人がいかにも唐突すぎて、何の伏線も感じませんでした。(実際ない)
競馬界の体質云々や騎手・馬主の薀蓄なんかは面白く読ませてもらいました。かれこれ30年も前の作品ですが、競馬界はあまり変わってないような気がします。
(余談ですが)1番感動したダービーは、サニーブライアンが勝ったダービーですかねぇー。皐月賞を勝ってもフロック視され、人気薄で挑んだダービーで見事に優勝し二冠馬! 「見たか!」といわんばかりに手を上げた大西騎手の姿に何だか泣けてきたのを思い出します。(普段は地味な騎手でしたから・・・)

No.290 8点 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー 2010/08/05 22:03
カーの作品でも1,2を争う名作(との評判)。
この名作を今さらながら初読しました。
いやぁ、「見事なプロットでした」というのが感想です。
分かってみると、そんなに複雑ではないプロットなんですよねぇ・・・(婚約者の動きが突飛だっただけで)
他の方の書評どおり、「かぎ煙草入れ」が大いなる欺瞞の象徴なので、これに気付くか騙されるかで、最後のサプライズの大きさも違ってくるかもしれません。
全体的にコンパクトにまとまっていて、まったく冗長さのないところも高評価です。
ただ、キンロス博士のキャラがやや薄いような気がしますけど・・・
まずは、「名作」という評価でよろしいかと思います。

No.289 5点 ら抜き言葉殺人事件- 島田荘司 2010/08/01 15:33
吉敷刑事シリーズ。
シリーズ中では、「幽体離脱殺人事件」と並ぶ小品。
本作はタイトルどおり、「ら抜き言葉」を中心に島田氏得意の日本人論を絡ませ、ラストは一応のどんでん返し・・・という展開。
ミステリーというよりは、何となく「エッセー」のような感じもします。
結局、「ら抜き言葉」については、島田氏は絶対反対なのかそれほどでもないのか、よく分かりませんけど、被害者の笹森某が「ら抜き言葉」に病的に拘った理由が「それが女性心理・・・」ということで片付けているのもどうかなぁーと思ってしまいます。
「奇想、天を動かす」以降、吉敷の行動がどんどんストイックになっていきますが、本作もそれがよく出ていて、なかなか興味深いですね。

No.288 6点 赤い帆船(クルーザー)- 西村京太郎 2010/08/01 15:19
初期の「海洋ミステリー」。
この分野は「トラベルミステリー」と並ぶ作者の十八番(おハコ)。
本作の特長は「スケールの大きさ」です。太平洋を縦断した連続殺人事件に十津川警部補(当時)が挑みます。
メインはアリバイトリックになるのですが、お得意の鉄道ではなく、船(クルーザー)と飛行機を絡ませていて、なかなか読ませます。
トリック解明には、クルーザーやヨットレースのちょっとした専門知識が必要になる分、やや分かりにくいかもしれません。
「捨て筋」の方にも信憑性を感じるため、真相についても意外性は十分あるのですが、真犯人については途中からはっきりしてしまうのがやや割引でしょうか。
それにしても、トラベルミステリー以降は「静かで渋いオジサン」というイメージが定着した十津川警部が、本作では血気盛んな青年警部補という感じで書かれていて、それが妙に新鮮でした。

No.287 7点 ラッシュライフ- 伊坂幸太郎 2010/08/01 15:03
作者の遊び心と旨さが前面に出た佳作。
4人の登場人物、4つの物語が順番に語られ、それが少しづつ絡まっていき、ラストで見事に繋がった!
ジグゾーパズル的というよりは、線路のようなものを繋いでいく感じと言えばいいのでしょうか、読了後気付いてみれば、壮大な鉄道路線図が出来上がっていたというようなイメージ・・・(うまく表現できてませんけど)
まぁ旨いですよねぇー。1人1人の登場人物が生き生きしてます。
泥棒の黒澤は哲学的ですし、リストラ社員の豊田はせつなさ満載ですし、示唆に富んだセリフが次々と出てきます。
本作、「小説」としての評価なら十分10点満点に値しますけど、「ミステリー」としての評価ならこれくらいでしょうか。

No.286 6点 黒衣の女- 折原一 2010/07/31 00:43
かなりストレートな叙述作品。
記憶を失ったある女性が持っていた1枚のメモ書き。そこには3人の見知らぬ男の名前が書いてあった・・・
3人の男は次々と殺されていき、この記憶喪失の女性との関係が焦点となっていく・・・という展開。
叙述トリック自体は王道ともいえる「記憶喪失モノ」で、ラストまで読者は仕掛けられた数々の?に付き合わされます。
時間軸をいじっているのも決して悪くはないと思うんですが、ちょっと小粒な感じは拭えませんねぇ・・・
もう少しサスペンス色が出ているほうが話しに引き込まれたかもしれません。
でも決して嫌いではないです。

No.285 7点 シャーロック・ホームズの事件簿- アーサー・コナン・ドイル 2010/07/31 00:34
まさにミステリー界のレジェンド的な作品集。
ただ、世間的に知られた有名作は「ソア橋」くらいで、後は今回初めて読んだ作品ばかりでした。
①「白面の騎士」=よくミステリーに登場する”ある病気”が登場。こんな昔からあったんですね。
②「マザリンの宝石」=何とホームズそっくりの人形が事件解決に一役買ってしまいます。
③「三人ガリデブ」=”ガリガリとデブ”ではありません。プロットは「赤毛連盟」と同種ですが、切れ味は劣ります。
④「ソア橋」=有名作。歴史的なトリックも今読めば「それだけ?」と思わずにはいられませんけど・・・
⑤「ライオンのたてがみ」=ワトスン視点ではなく、ホームズ自らが語り手となる珍しい作品。結構好みのプロット。
⑥「覆面の下宿人」=あまりミステリーっぽくない。
他4作の全10作品。
かなり大時代的で、21世紀の今読むと理解に苦しむ表現もあるにはありますが、意外なほどの読みやすさで、プロットにはやはり感心させられます。

No.284 7点 法月綸太郎の功績- 法月綸太郎 2010/07/25 18:43
講談社のシリーズでいえば第3短編集。
作品レベルに凹凸はありますが、トータルではやはり水準以上の短編集と言えるでしょう。
①「イコールYの悲劇」=「ダイイング・メッセージ」テーマ。冒頭の話が最後になって生きてきます。
②「中国蝸牛の謎」=クイーン風に読めば”チャイナ・マイマイの謎”というわけで、例の「あべこべ殺人」のオマージュです。
③「都市伝説パズル」=良作。ロジック炸裂といった感じでしょうか。
④「ABCD包囲網」=個人的には本作中ベスト。”包囲網”と言うよりは”直線”なのですが・・・不思議な謎が解決と思いきや、さらなるひっくり返しが炸裂します。
⑤「縊心伝心」=ちょっとロジックをこね回しすぎのような気がしますけど(ホットカーペットの件)・・・
ホント、短編はうまいですね
なんで長編書くと×××××?

No.283 7点 ハサミ男- 殊能将之 2010/07/25 18:06
作者デビュー作&第14回メフィスト賞受賞作。
出版直後に初読してましたが、今回再読。中味はほとんど忘れてたので、再読してよかったです。
まずは、デビュー作とは思えないほど高いクオリティにビックリ。
分類するなら「叙述トリック」なのでしょうが、最初は「これって本当に成立するの?」「アンフェアじゃない?」と思わされます。
というわけで読み返してみると、作者の仕掛けと騙しのテクニックに驚嘆&納得させられる・・・という流れ。(基本といえば基本ですが、これぞまさに”ミスリード”)
惜しむらくは、本作以降作品が徐々にレベルダウンしてしまうこと・・・これ以外あまり再読しようという気にならないんですよねぇ・・・

No.282 6点 解決まではあと6人 5W1H殺人事件- 岡嶋二人 2010/07/22 22:54
作者のアイデアが光る連作短編集。
「5W1H殺人事件」というサブタイトルが示すとおり、①WHO(誰?)②WHERE(どこ?)③WHY(なぜ?)④HOW(どうやって?)⑤WHEN(いつ?)⑥WHAT(何が?)という6編のストーリーが続きます。
面白くて相当魅力的なプロットだと思いますし、「どういうふうに収束させるのか」ワクワクしながら読んでました。
その分、ラストはちょっといただけない・・・
もちろん「意外といえば意外」なのですが、いかにも唐突すぎますし、「意外」の方向性に既視感がありすぎでしょう。
実にもったいない。作者の力量なら、もう少しやりようはあったんじゃないかなぁ・・・

No.281 5点 樹海伝説―騙しの森へ- 折原一 2010/07/22 22:44
祥伝社の400円文庫での発表作。
分量的には長編ではなく、中編といった感じです。
良く言えば、その分余計な装飾が削ぎ落とされて、「折原作品のエッセンスだけを残しました」というような内容になってます。
ただ、「だからいい!」と素直に言えないのがファン心理なのかもしれません。氏特有のしつこいくらいの叙述系技巧が薄味になっているのが逆に不満に思えてしまいます。(裏腹ですね)
ラストは割りと分かりやすいひっくり返しになっているので、適度な長さも勘案すれば、氏の入門編としてお勧めできる作品と言えるかもしれません。

No.280 9点 - F・W・クロフツ 2010/07/22 22:32
記念すべき作者の処女長編。
本邦作品へ強く影響を与えたことは周知のとおりで、横溝「蝶々殺人事件」、鮎川「黒いトランク」、島田「死者が飲む水」も同種のプロットをベースにしています。
今回、久々に再読。
まぁ批判はいろいろあるでしょうが、本書が100年近く前に書かれたことを考えれば十分賞賛に値すると思います。
「樽」の動きに翻弄されるバーンリー・ルファルジュの両警部、その2人の後、案外簡単にトリックを見破るラトゥーシュ・・・
アリバイトリック自体は今となっては正直、低レベルとしか見えませんが、「樽」の動きについての作者の仕掛け・欺瞞については十分に唸らされます。
やはり、時代が変わっても読み継がれるべき名作と言ってよいでしょう。

No.279 4点 けものたちの祝宴 - 西村京太郎 2010/07/18 23:18
作者の初期~中期頃の作品に時々見かける手の作品。
分類するなら「ピカレスク小説」とでも言えばいいんでしょうか。
会社社長・その愛人・政治家・暴力団という”悪のグループ”に一人の男が挑んでいくわけですが、途中なぜか美女ばかりに出会い、なぜかすぐにベッドイン・・・という展開。
事件の背景とか真相については中途でほとんど察しがつくので、後はひたすら読み進めるのみ。
ハードボイルドというほど劇的な展開があるわけでもないので、ちょっと救いがない感じでしょうか。

No.278 7点 深追い- 横山秀夫 2010/07/18 23:05
お得意の地方警察署(本作では三ツ鐘署)を舞台にした連作短編集。
①「深追い」=死者のポケベルにメッセージを送り続ける美貌の未亡人の真意は? なかなか悲しいラストです。
②「又聞き」=ラストはなかなかいい話に。
③「引き継ぎ」=個人的には本作のベスト。「トニーの店」のネーミングセンスが笑えます。
④「訳あり」=これもラストがいい。サラリーマンとしては是非こうありたいと思わせます。
⑤「締め出し」=ある老人の”独り言”に驚愕!
⑥「仕返し」=これも面白い。ラストの捻りも見事。
他1編の全7編。
相変わらずの安定感。どの作品も「起承転結」が効いていて、読み手を作品世界に引き込みます。
登場人物が実に人間臭いのも魅力なのでしょう。

No.277 5点 確率2/2の死- 島田荘司 2010/07/18 22:52
吉敷刑事シリーズ。
「分数」シリーズでは最後の作品。
奇妙な誘拐事件と、ある主婦が夫の行動に不審を抱くシーンが交互に書かれ、この2つがどう繋がっていくのかが読み手の考え所となります。
ただ、作品の「深み」はあまり感じられませんねぇ・・・
たまたま、いま巷の話題を独占している”野球○○”が本作品のプロットのベースになっていて、読んでいくうちに「○○親方もこんな気持ちだったのか?」なんてことも想像させられて、そっちの方の感想がメインになってしまいました。
ラストもなんだか陳腐ですね。安手の2時間サスペンスみたいです。

No.276 6点 まだらの蛇の殺人- 阿井渉介 2010/07/15 23:10
「列車シリーズ」終結に続く「警視庁捜査一課シリーズ」の第1作目。
飲んだくれだが鋭い捜査勘を持つ菱谷警部補と若手有望株、堀警部補のコンビが難事件に挑む・・・という展開。
今回は、タイトルからも分かるとおり、かの名作「まだらの紐」を彷彿させる事件がある大富豪の一家に発生します。
なぜか、死因は沖縄に住む「エラブウミヘビの毒」(ハブ毒の数十倍の毒だそうです)・・・犯人はどうやって海ヘビを被害者に噛み付かせることができたのかが大きな謎になります。
実は、トリック自体はそれほどたいしたことはないのですが、事件の裏側にある大富豪一家のある企みがラストで明らかになり、そちらの方に魅力を感じました。
評価はちょっと辛めかな。

No.275 8点 殺意- フランシス・アイルズ 2010/07/15 22:58
「クロイドン発12時30分」、「伯母殺人事件」と並ぶ世界三大倒叙作品の1つ。
作者はアントニー・バークリーの変名です。
まずは、さすが「冠」に違わぬ名作という感想です。主人公の殺人に至る心理、心の動きがこちらに痛いほど伝わってきます。
前半は、殺人までの経緯が結構な長さで語られるため、ちょっと冗長な感じを受けますが、主人公が殺人を決意してからは一転、頁をめくる手が止まらなくなりました。
しかし、主人公ビクリー博士のキャラはよくできてますねぇ・・・とてもひと昔前の異国の人物とは思えません。ズルズルと犯罪に手を染めてしまう弱い性格が心に深くしみ込みました。
ラストの1頁も捻りが効いてます。

No.274 7点 最終退行- 池井戸潤 2010/07/15 22:47
”ザ・池井戸潤”とでもいうべき作品。
冷酷な銀行本部エリート対叩き上げの支店行員・・・という氏の王道パターンです。
本作品では、そこに戦後の「M資金」にまつわる疑惑を絡め、2つの事件が有機的に絡み合うことになります。
ラストはいつものとおり「勧善懲悪」的痛快な結末が用意されていて、小市民の読者にとっては溜飲を下げる思いですね。
やっぱり、経済関係のストーリーは他の作家よりも数段グレードが高い気がしますし、読んでいて引き込まれます。
さらに今回は痛快度が高かったため高評価としました。

No.273 6点 偽りの墳墓- 鮎川哲也 2010/07/10 21:53
鬼貫警部シリーズ。
もともとは短編だったのを加筆修正した作品。(鮎川氏にはお馴染みのパターンらしいですが・・・)
2つの殺人事件(?)が出てきますが、最初の事件の方は、ある「病気」との絡みの中であっさり解決。
問題は第2の殺人の方に・・・ということで、いつもの「アリバイトリック」の登場となります。
今回はいつものようにストレートな「時刻表トリック」ではなく、まさに捜査者(=読者)をミスリードすることで成立する種類のトリック・・・
人間ではなく、○○○の移動を欺瞞させる手口はなかなか鮮やかと言えるかもしれません。
ただ、何となくストーリー自体の盛り上げ方が今ひとつのような気がして(犯人があまりに自明)、この程度の評価になりました。

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