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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1785件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.265 8点 首無の如き祟るもの- 三津田信三 2010/07/01 22:10
刀城言耶シリーズ。
力作ですね。
1頁目からラストまで、作者の”仕掛け”が施されており、作家としてのレベルの高さを十二分に窺わせます。
「首切り」の理由が作品中を貫くメインテーマとなりますが、媛首山での男女首無殺人の「からくり」は見事というほかありません。(久しぶりに読んでてゾクッとしました)
この「からくり」を成立させるための「秘守家の秘密」であり、中途での蘭子や毬子の登場である訳ですよね・・・よく練られていると思います。
ただ、刀城言耶いうところの「(隠された)たった一つの事実」は微妙ですねぇ・・・確かにこれを成立させるための最低条件としての”時代設定”であり”隔絶された土地の隔絶された一家”なんでしょうし、伏線が張ってあるじゃないかといわれればその通りなのですが、結構乱暴な設定かなぁという思いもしました。
その点だけを割引ましたが、本格推理小説を堪能できる作品なのは間違いないでしょう。

No.264 4点 京都着19時12分の死者- 津村秀介 2010/07/01 21:33
「ルポライター浦上伸介モノ」ではなく、京都府警の刑事を探偵役に据えた作品。
ひとことで言うなら、「ザ・トラベルミステリー」とでも書評すればいいでしょうか、とにかくこの頃全盛期ともいえる、アリバイ崩しを主眼にした典型的トラベルミステリーです。
メインの京都~甲府間のアリバイトリックについては、最終的に○○の存在に気付いただけという驚愕の内容!(サブの写真を使ったトリックもなかなかシュールです)
真犯人については、途中で100%察しがつきますが、「ドンデン返し」があるのか?と構えていると、そのまま「やっぱりこいつが犯人でした・・・」ということで終わってしまいます。
まぁ、さらっと読むにはちょうどいい作品かもしれませんが・・・

No.263 5点 暗闇の教室- 折原一 2010/06/27 22:33
前作「沈黙の教室」に続く”ダークサスペンス”シリーズ。(作者がそう言ってます)
叙述系の技巧がこれでもか!というくらい盛り込まれており、「ごった煮」のような作品になってます。
それがうまく回収できていれば救われるのですが、何が何だかよく分からないうちに収束するという事態に!(氏の作品ではよくあるパターンですが・・・)
まぁ、いくらなんでもあれだけの計画的犯罪というか”仕掛け”を施した犯人が「あいつとあいつ」というのは無理がありすぎるような気がしてなりません。(能力的に)
少なくとも「沈黙の教室」のようにまあまあ納得性のあるラストがなければ、これだけの超長編を読むのは「ツライ」の一言ではないかと・・・
それでも決して嫌いではないので、この程度の評点に。

No.262 6点 踊る手なが猿- 島田荘司 2010/06/27 22:23
光文社の短編集第3弾。
4編中2編は吉敷刑事(当時)が登場しますが、主役的扱いではありません。
①「踊る手なが猿」=着眼点が光る秀作。確かに当時ならそうだった・・・今は結構変わってますが(何が?)
②「Y字路」=1作目と同じく「結婚したい年頃女性」が事件に巻き込まれます。現場の見取図がさも重要そうに示されてますが、そんなにトリッキーな話ではありません。
③「赤と白の殺意」=記憶の底に眠っていた過去の記憶が蘇って・・・よくある趣向です。
④「暗闇団子」=作者の作品中の随所に出てくる”江戸はよかった”的趣旨の短編。好みではない。
という訳で、なかなか味わいのある4編ではありますが、全体的なレベルは平均点という感じでしょうか。

No.261 8点 6時間後に君は死ぬ- 高野和明 2010/06/25 23:12
他人の悪い未来(作中ではビジョンと言ってます)が見える男、山葉圭史をシリーズキャラクターとする連作短編集。
作者らしいスピード感のある展開で、面白く読ませていただきました。
①「6時間後に君は死ぬ」: 既視感がなくはないですが、ラストのドンデン返しが見事に嵌まってます。
②「時の魔法使い」: ファンタジー映画のようなテイスト。
③「恋をしてはいけない日」: よくできてます。1編の映画のような味わい・・・
④「ドールハウスのダンサー」: 個人的にはベスト。謎は結局明かされてはいませんが・・・
⑤「3時間後に僕は死ぬ」: 圭史に死のビジョンが! ラストはきれいにまとめました。
全体的には小説というよりも、よくできた映画の脚本のような作品。ミステリー的要素は少ないですが、読後感が非常に良いです。

No.260 8点 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 2010/06/25 22:59
二枚目だけどドジ、どこか憎めない探偵、亜愛一郎シリーズの第1作目。
作者らしい独特の切り口で、キラ星のような短編が並びます。
①「DL2号機事件」: 記念すべき作者のデビュー作。目の付け所が違いますが、そんな人いるかなぁ?
②「右腕山上空」: 一種の空中密室を扱った作品。名作。
③「曲った部屋」: ラストのまとめ方が見事。ロジックが冴えてます。
④「掌上の黄金仮面」: いいですね。短編らしい作品。
⑤「掘り出された童話」: 暗号もの。暗号の手法自体はオーソドックスなものですが、十分楽しめます。
⑥「ホロボの神」: 設定が独特。好きです。
他2編。
遊び心十分な作者の筆力に対して素直に敬意を評します。

No.259 6点 カリブ海の秘密- アガサ・クリスティー 2010/06/25 22:43
ミス・マープルもの。
静養先の東インド諸島にあるリゾートホテル内で殺人事件に巻き込まれて・・・という展開。
「最初の被害者が”誰”を見て驚いたのか?」「ホテルオーナーの妻の奇妙な行動の理由は?」という2点が本作品の大きな謎として立ち塞がります。
まぁ、真相はそれほど突飛なものではなく、納得できる「意外な犯人」が指摘されるわけですが、本来なら完全に脇役的な役柄の登場人物が妙に出番が多いなぁ・・・と思ってたら「やっぱり」という感じでした。
あと、翻訳ものとしては抜群の読みやすさですね。

No.258 5点 消失!- 中西智明 2010/06/20 16:04
実家の本棚の奥から発見!
そういえば初読のとき、「なんじゃこりゃぁ!」と思ったような微かな記憶があります。
というわけで再読。
うーん。やっぱり、これは大学のミス研で発表すべきレベルのような気はしますねぇ・・・(この頃の新本格はそんな作品も多いですけど)
ただ、メイントリック(騙し)だけは評価に値するのではないかと・・・
ラストの捻りは必要ですかねぇ・・・? 無理やりドンデン返しの連続を作り出そうとしているような感じで、意味がないように思います。
発表当時22歳かつ処女作ということを考えれば、及第点で次作に期待!というふうにも言えたかもしれません。(ちょっと甘いか?)

No.257 3点 都市のトパーズ- 島田荘司 2010/06/20 15:53
これはミステリーというよりは「島田流ブラック・ファンタジー」とでも言ったらいいんでしょうか?
「日本人」という人種がどれだけ低級で、「東京」という都市がどれだけ「ヒドイ」のかが、登場人物を通して延々と語られます。
まぁ、現代日本人の「アイデンティティーの欠如」は多くの日本人が共通して感じていることでしょうし、島田氏の辛らつな書き方というのも、いわば”愛情の裏返し”なのかもしれません。
昨今の政局の混迷も嘆かわしい事態ですが、いつまでたっても第三者的目線でしかそれを見ることのできない我々国民の方により大きな問題があるのでしょう。
そんなことを考えさせてくれる作品ではありますが、やっぱり余りにも作者自身の「イズム」を押し付けられるのは読んでいてツライなぁと感じます。

No.256 6点 亡命者 ザ・ジョーカー- 大沢在昌 2010/06/19 00:53
前作「ザ・ジョーカー」に続く連作短編集。
六本木のバーで依頼人を待つ”仕事人”ジョーカーが主人公です。
①「ジョーカーの鉄則」: ジョーカー最初の依頼についての思い出。
②「ジョーカーの感謝」: 途中で敵に捕まり大ピンチに! 
③「ジョーカーと戦士」: ドラクエを想起させるRPG「クエストエンブレム」が依頼の背景に・・・
④「ジョーカーの節介」: ちょっと趣の違う一作。協力者である沢木の娘のために、ジョーカーが一肌脱ぎます。
他2編。
全体的には前作より劣るかなぁという印象。
ストレートな作品というよりは、やや変化球的な作品が多いような気がします。

No.255 7点 第三の時効- 横山秀夫 2010/06/19 00:42
F県警強行班シリーズの連作短編集。
さすがの安定感で、どれも安定して高いレベルの作品と言えます。
①「沈黙のアリバイ」: この中では若干落ちる印象。オチも普通レベル。
②「第三の時効」: 面白い。公安崩れの2班班長「楠見」のキャラはなかなか強烈です。ラストのまとめ方も鮮やか。
③「囚人のジレンマ」: 中間管理職ともいえる田畑捜一課長に同情。でもラストはなかなかいい話に・・・
④「密室の抜け穴」: 2人のライバル、朽木と村瀬がガチンコ対決。警察って厳しい競争社会ですねぇ・・・
⑤「ペルソナの微笑」: 若手刑事、矢代が活躍。
他1編。
どの登場人物もキャラが明快に書き分けられており、作者の筆力に脱帽です。

No.254 5点 サテンのマーメイド- 島田荘司 2010/06/19 00:25
初期のノンシリーズ作品。
作者唯一のハードボイルド作品という触れ込みで、実際はハードボイルドと本格の融合を狙った作品のようです。
内容については「うーん」・・・
ハードボイルドとしてはかなりベタな感じですし、本格物としては謎もトリックも陳腐なレベルとしか言えませんねぇ・・・
この頃は、吉敷物や御手洗物以外にも多種多様な作品を世に出していた時期で、「火刑都市」のようなレベルの高い作品もあれば、本書のように「やっつけ感」のある作品もあるというイメージです。
作品の中にも出てきますけど、人間の生首ってそんなに簡単に取り扱えるものなんですかねぇ?

No.253 8点 七人の証人- 西村京太郎 2010/06/13 23:00
初期作品ですが、十津川警部が探偵役として登場。
本作品はプロットが秀逸だと思いますねぇ・・・
最近の作品からは想像もつかないですが、この頃の氏の作品のプロットは奇抜かつ斬新なものが多いです。(本作品の他にも、「華麗なる誘拐」や「盗まれた都市」など)
本作は過去の事件と現在の事件が、孤島というクローズドサークルで同時進行し、ラストでは十津川警部が見事に真相を看破するわけですが、真相究明まで十分に納得できるロジックになっていると思います。
「七人の証人」についてもそれぞれ個性十分に描かれており、フーダニットの醍醐味を存分に味わわせてくれる良作といっていいでしょう。

No.252 7点 黒い白鳥- 鮎川哲也 2010/06/13 22:45
鬼貫警部シリーズ。
巻末の解説で有栖川氏が語っているとおり、鮎川の鬼貫物ミステリーの完成形といえる作品でしょう。
ストーリーの肝は、やはり「時刻表」を基にしたお得意のアリバイトリックが2つ。
メイントリックの方は、アリバイトリックの定番ともいえる「場所の錯誤」を使ったものですが、そこに「替え玉」というブラフを重ねて読者を煙に巻くところが憎いですね・・・
サブトリックの方は、まさに「時刻表」トリックですが、「時刻表」好きの私にとっては、割と分かりやすい種類のものでした。
本筋とは関係ないですが、有栖川氏の解説でも触れていた、鮎川氏と松本清張氏の作品との相似性という考え方は「なるほど」と思わされましたねぇ・・・

No.251 7点 防壁- 真保裕一 2010/06/06 14:50
命を賭けて職を遂行する4人の男を主人公とした短編集。
①「防壁」:主人公は警視庁のSP。要人警護の最中に一人のSPが狙撃される事件が発生・・・その事件の真相は?
②「相棒」:主人公は海上保安庁の海難救助隊員。杉下右京ではありません。まさに「海猿」の世界です。
③「昔日」:主人公は自衛隊の爆破物処理班に所属。川崎で見つかった不発弾をめぐって過去の疑惑が浮上します。
④「余炎」:主人公は消防士。規則的に発生する放火事件には意外な真相が・・・
やはり命を張った仕事ってすごいですねぇ・・・
男として父親として頭が下がります。

No.250 8点 ブラウン神父の童心- G・K・チェスタトン 2010/06/06 14:41
ほぼ全編にわたってブラウン神父とフラウボウが絡む超有名短編集。(宿敵だったはずが、途中から唯一無二の友人になるのが面白い)
①「青い十字架」: なんのことはない話なのですが・・・
②「秘密の庭」: 2作目で超意外な真犯人が登場
③「奇妙な足音」: 謎自体が面白い
④「見えない男」: 有名作。ブラウン神父の示すロジックがいい。(今読むと真相はすぐ分かりますけど・・・)
⑤「サラディン公の罪」: 意外なラスト。そうきたか!
⑥「折れた剣」: 有名作。「木は森に隠すが、森がないときはどうする?」「○○は××に隠すが、××がないときは」・・・
他6編。
非常に読みにくく理解するのに時間を要する表現もありますが、短編とはこう書くのだ・・・というまさにお手本のような作品でしょう。

No.249 7点 闇に潜みしは誰ぞ- 西村寿行 2010/06/06 14:27
巨匠得意のバイオレンス&アクションですが、本作品は全体的に軽いタッチで、あまり重厚さはありません。
核兵器を製造する際に必要な幻の液体「重水」をめぐって、3つのグループが死闘を繰り広げます。
氏の作品には、”ものすごい特殊能力や訳の分からない××拳法の達人”という現実離れした人物がよく登場してきますが、本作品は普通の能力の登場人物ばかりで、そういう意味では安心?して読み進められます。
キャラとしては、大学の地質学講師「土田明子」の造形が見事・・・荒くれの山男たちの間にさらされ、まさに体を張った活躍をしてくれます(?)
男のロマンを感じたいときにお勧めの一作。

No.248 7点 正月十一日、鏡殺し- 歌野晶午 2010/06/01 23:03
ノンシリーズの短編集。
他の方の書評どおり、ブラックな7つの短編で構成されています。
①「盗聴」: ノーマルな短編。世田谷線は私も好きです。
②「猫部屋の亡者」: 正常だった主人公が徐々におかしくなっていく様子がなかなかの迫力。
③「記憶の囚人」: よく意味が分からないんですけど・・・
④「美神崩壊」: 個人的にはこれが一番ブラック。
⑤「プラットホームのカオス」: ブラック感はそんなにないと思うが・・・
⑥表題作: 救いのない話。女って怖いね・・・
他1編。読後にザワザワした余韻を残す作品になっています。
作者は短編がうまいですね。

No.247 5点 螺旋館の殺人- 折原一 2010/06/01 22:51
「倒錯のロンド」「倒錯の死角」と共通の作品世界で書かれた一作。
「田宮」ってあの「田宮」でしたかぁ・・・読んでいる最中には不覚にも気付きませんでした。
他の作品中では相当不愛想な人物として書かれているせいでしょうねぇ・・・ラストで同一人物だと分かって、まさに「あっ!」と思いました。
プロットは初期の折原作品によくあるパターンです。
けど、ちょっとやりすぎかもしれませんねぇ・・・こういう手のミステリーが嫌いな人にとっては、ラストのどんでん返しは納得できないかもしれません。

No.246 6点 名探偵なんか怖くない- 西村京太郎 2010/06/01 22:41
クイーン、ポワロ、メグレ、明智・・・古今東西4人の名探偵が登場する「名探偵シリーズ」4部作の第1作目。
新装版で再読。
70年代前半に書かれた作品らしく、架空の「3億円事件」を4人の名探偵が推理していくという趣向。
ただし、そこはまだ切れ味鋭い頃の作品ですから、ラストでは2度のヒネリが見事に決まっています。
「読者への挑戦」はちょっとサービスしすぎかなぁという気もしますが、トラベルミステリーでは見られない「洒落っ気」を存分に感じることが出来ますね。
今回、新装版には綾辻行人氏との対談も掲載されていて、そちらも面白く読ませていただきました。
ただし、作中でネタバレしている作品が複数あるので(「アクロイド殺し」や「化人幻戯」など)、未読の方はご注意ください。

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ひとこと
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