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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1812件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.392 8点 御手洗潔のダンス- 島田荘司 2011/01/10 22:16
タイトルどおり、御手洗物の短編集。
久し振りに再読しましたが、この頃の「御手洗物」はよかったなぁ・・・という思いを新たにしました。
①「山高帽のイカロス」=いかにも「御手洗物」の短編といった典型的作品。トリックの奇想天外さも作者らしさがよく出てます。普通の作家なら「空飛ぶ死体」止まりだと思いますが、東武電車まで登場しちゃいますからねぇ・・・(小田急も)
②「ある騎士の物語」=名作「数字錠」などとテイストが重なる暖かい作品。トリックは奇抜ですが、冒頭の地図を見た時点で予想の範囲内。あと、秋元静香に向けて言った御手洗のセリフが秀逸。(なかなか真似できないけど・・・)
③「舞踏病」=これも「御手洗物」らしく実に荒唐無稽である種笑える作品。伏線がかなりあからさまなので、石岡君以外なら真相に迫れるはず。
④近況報告=読者の期待に応えて、御手洗の近況を報告するというレポート?(斬新!) わざわざこんなものを入れる意味はともかく、途中出てくる医学的な話題(DNAとか脳科学とか)はこの後の御手洗シリーズのメインテーマになっていくという意味では興味深い。
以上、3編+1。
やっぱり、御手洗物の短編集ならば「~挨拶」か「~ダンス」が突出してる気がします。
作品が短い分だけ、氏の奇想天外トリックが「唐突で付いていけない」という感覚を与えてしまう面もありますが、個人的には、やはり”島田荘司はこうでないと・・・”という気がしてなりません。

No.391 5点 ジェシカが駆け抜けた七年間について- 歌野晶午 2011/01/10 21:58
「葉桜~」の次作のノン・シリーズ作品。
少々変わった味わいを感じました。
~米国ニューメキシコ州にある長距離専門の陸上競技クラブ。日本人が主宰するこのクラブの所属選手、エチオピア出身のジェシカは、日本人選手アユミ・ハラダの異変に気付いた。アユミは夜ごと合宿所を抜け出し、呪殺の儀式を行っていたのだ。アユミがそこまで憎む相手とは誰なのか。彼女の口から明かされたのは意外な人物の名前と衝撃の過去だった!~

ワン・アイデア一発勝負の叙述物ですよね?
普通の叙述作品では、読者にバレないよう時間軸がズラされるわけですが、本作の場合では設定そのものに「時間軸をズラす(というか解釈の違い?)」仕掛けが施されているということになります。
これを楽しめるかどうかで評価が分かれるということでしょう。
ごく最初に「エチオピア時間」なるものが出てきた時点で、作者の企みの方向性が分かってしまうことになってしまい、個人的な評価は微妙に・・・
あと、作品の構成自体ちょっといびつな気が・・・この章のあそことあの章のこの部分ねじれて・・・というのが正直分かりにくいし、やや唐突。(そもそも、ねじる意味あるの?)
ということで、高い評価はできない作品ですが、やはり「目の付け所」には感心させられますねぇー
(結局、「分身」の件は意味があったんでしょうか?)

No.390 7点 獄門島- 横溝正史 2011/01/06 23:05
金田一耕助シリーズの超有名作。
一応初読ですが、TVシリーズ(古谷一行の)や映画(石坂浩二の)で何度も見てるため、中味についてはほとんど知っている作品。
~ニューギニアで共に戦った鬼頭千万太の最後の言葉を胸に、鬼頭家が網元として君臨する獄門島へ降り立った金田一耕助。耕助がそこで見たものは、雪枝・月代・花子の3姉妹がいる本家と、志保・儀兵衛が取り仕切る分家とが反目しあう一族の姿だった。やがて、千万太の予言どおり血も凍る殺人事件が発生する!~

まぁ何というか、一種の「様式美」というような気がしましたね。
金田一はやはり金田一で、途中、何度も殺人事件を防ぐチャンスがあったのに、いずれも邪魔が入り、結局三姉妹は全員殺されてしまうという展開・・・
例の有名な「見立て」は、やっぱり映像で見るほうがいいですね。「見立て」というと、どうしてもその必然性が問題になるわけですが、本作ではトリック的な意味ではなく、いわば”強迫観念”とでもいうべき背景があり、あまり謎解きの面白みはないところが微妙です。
これも有名なフレーズ、「気○ちがい」(今では放送禁止用語?)については、作中に”これでもか”というくらい繰り返し出てきます。ただ、これも「与作松」が結局、事件に全く絡まないままフェードアウトしたところがちょっと物足りない気が・・・
何となく辛口の書評になってしまいましたが、時代性を考えれば十分に評価できる作品だと思いますし、やはり「様式美」溢れる作品という評価で良いと思います。

No.389 6点 ななつのこ- 加納朋子 2011/01/06 22:48
作者デビュー作の連作短編集。
作中作として出てくる「ななつのこ」を巡って、主人公の駒子が作者である佐伯綾乃に送る書簡の中で日常の謎が鮮やかに解決されます。
①「スイカジュースの涙」=道路に転々と落ちている赤いシミは血かスイカジュースか? 登場人物(と動物)を当て嵌めていけば自然に答えは出てくるような気がします。
②「モヤイの鼠」=わずかの時間に絵画が入れ替わった謎は? 真相は「そんなこと?」という程度。
③「一枚の写真」=アルバムの中から1枚だけ抜き取られた写真の謎? 真相は心温まる内容。
④「バス・ストップで」=ここから本作中での重要人物”瀬尾”が登場。語られる老婦人の謎はちょっとしたこと。
⑤「一万二千年後のヴェガ」=デパートの屋上にあるゴム製の恐竜が空を飛ぶ謎とは? 本筋よりも一万二千年後にはヴェガが北極星になるということの方が「へぇ-」という感想。
⑥「白いタンポポ」=文字どおり白いタンポポの謎とは? 子供は元気ハツラツなだけがいいわけではない・・・ということ?
⑦「ななつのこ」=表題作に相応しいオチ。連作短編集らしく、これまでの話にも一連の”流れ”があったことが分かります。「ななつのこ」にも二重の意味があったんですね。
以上7編。
さすがに評判の作品だけあって、作品世界にどっぷりと浸ってしまいました。
いわゆる「日常の謎」ですが、個人的にはそれほど”ストライク”ではないのでこの程度の評点で・・・

No.388 7点 緋色の研究- アーサー・コナン・ドイル 2011/01/03 13:07
名探偵シャーロック・ホームズ初登場の記念すべき作品。
小学生時代にジュブナイル版で読んで以来の再読。
~異国への従軍から病み衰えて帰国した元軍医のワトソン。下宿先を探していたところ、同居人を探している男を紹介され、共同生活をおくることになった。下宿先はベーカー街221番地。相手の名はシャーロック・ホームズ。2人が始めて手掛けるのは、米国人旅行者の奇怪な殺人事件。その背後に広がる、長く哀しい物語とは?~

プロット云々とうよりは、ホームズとワトソンの出会いや、探偵方法に対するホームズの考え方や姿勢など、それ以外のパートがなかなか興味深かった印象。
本作の白眉は、やはり「動機」について十二分にスポットを当てた「第2部」でしょう。ミステリーが単なる謎解きではなく、一つの「文学、読物」なのだという作者の強い意志を感じさせられます。
まぁ、ミステリー好きであれば、絶対に一度は接するべき作品という扱いでいいでしょう。
作品中の一場面、ホームズがデュパンやガボリオをこき下ろすシーンは、御手洗潔がホームズをこき下ろすシーン(「占星術殺人事件」)とぴったり符号するんですねぇ・・・

No.387 5点 ダナエ- 藤原伊織 2011/01/03 12:56
作者らしい作品が並ぶ短編集。
全体的には他の作品に比べて「やや弱いかな」という感想。
①「ダナエ」=展示中にナイフで刻まれたレンブラントの名画「ダナエ」と同じように、刻まれ硫酸をかけられたある「絵画」をめぐる作品。一人の画家が有名になる過程では、その犠牲となった一人の女性がいた・・・作者らしいプロット。
②「まぼろしの虹」=マスコミ関係者が主人公の作品は藤原氏お得意のプロット。登場する一人の女性がなかなか印象的。
③「水母(クラゲ)」=これもマスコミや映像関係が舞台の作品。あまり印象に残らず・・・
以上3編。
割合暗めの作品ばかりで、死期が迫っていたこの頃の作者の内面が表れているような気がします。
①以外はちょっと駄作かなぁ・・・

No.386 7点 ジーン・ワルツ- 海堂尊 2011/01/03 12:44
クールウィッチ(冷徹な魔女)と渾名される産婦人科医、曾根崎を主役に据えた医療ミステリー。
来月には映画公開も控える話題作(?)
~帝華大学医学部の曾根崎理恵助教は、顕微鏡下体外受精のエキスパート。彼女の上司である清川五郎准教授もその才を認めていた。理恵は大学での研究のほか、閉院間近のマリアクリニックで5人の妊婦を診ている。年齢も境遇も異なる女性たちは、それぞれに深刻な事情を抱えていた。生命の意味と尊厳、そして代理母出産という難問に挑む~

これは深い「テーマ」。
正直、短いスパンで乱発気味の海堂作品は「もう(読まなくて)いいかなぁ・・・」的気分だったんですが、本作は例外で「十分面白く」読ませていただきました。
作品の主題となる不妊治療や人工授精、代理母の問題などは、仕事の関係で一時期リサーチをしていた経緯もあって、曾根崎の主張や、それに敵対する医学界・清川医師の保守的な考え方など、かなり興味深く、また考えさせられる問題だなぁという気分にさせられます。
確かに「ミステリー的要素」はあまりないのですが、そもそも「妊娠」そのものが今でも十分「ミステリー(神秘的という意味で)」でしょうから、まぁそれでよしということで・・・
それにしても、相変わらず海堂ワールドはスゴイですねぇ・・・ この人があの人とつながっていて、この女性はあの関係者で・・・ということですよねぇ。
(続編「マドンナヴェルデ」も楽しみ・・・)

No.385 8点 マリオネットの罠- 赤川次郎 2010/12/29 23:11
実質的に作者の処女長編作品。
(出版順では「死者の学園祭」の方が早いようですが・・・)
~父は私のことを「ガラスの人形」だと呼んでいた。脆い、脆い、透き通ったガラスの人形だと。その通りかもしれないが・・・森の館に幽閉された美少女と、大都会の空白に起こる連続殺人事件の関係は? 錯綜する人間の欲望と息もつかせぬストーリー展開で、日本ミステリー史上に燦然と輝く赤川次郎の処女長編~

赤川次郎に対する世間の一般的なイメージ(「軽い」とか「多作であり駄作が多い)からはかけ離れた作品ですし、読了後の感想は「いやぁー面白かった」の一言でした。
次々と殺人を犯す美人殺人鬼と精神病院を騙る謎の組織、その巨悪に立ち向かう大学院生とその婚約者という構図なのですが、ハッピーエンドで終わるかと思えた後にさらなるサプライズが待ち受けます。
個人的にはいわゆる叙述的なトリックで時間軸がずらされてるのか? という疑いを持ちながら読んでましたが、そういう種類のサプライズではなかったわけですね・・・
まぁ、とにかく「赤川次郎」という作家の力量を改めて認識させてくれる作品ですし、読んで損のない1冊という評価でよいでしょう。
(フェアかアンフェアかというのは別に気にしなくてよいのでは?)

No.384 6点 ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー 2010/12/29 22:57
ポワロ物の長編。
トランプの代表的な遊びである「ブリッジ」が事件を解く鍵になる。
~名探偵ポワロは、偶然から夜ごとゲームに興じ、悪い噂の絶えないシャイタナ氏のパーティーに呼ばれていた。が、ポワロを含めて8名の客が2部屋に分かれブリッジに熱中している間に、客間の片隅でシャイタナ氏が刺殺されていた。しかも、居合わせた客は殺人の前科を持つ者ばかり・・・ブリッジの点数表を通してポワロは真相を追究するが~

一種のクローズドサークル内での事件ですし、最初から容疑者はほぼ4名に絞られています。
ポワロはブリッジの点数表や会話の中から真犯人を特定していく・・・というわけで、容疑者たちの心理が推理の大きな要素になるという展開。
まぁ、確かにラストは作者らしいサプライズが用意されているわけですが、やっぱり全体的に地味な印象はぬぐえず、真相も何となくスッキリしない気がしてなりませんでした。(ポワロの途中の発言も「ミスリード」というよりは、故意に捻じ曲げているといった感じなんですよねぇ・・・)
ブリッジについては別にルールを知らなくてもあまり本筋には関係ありませんのでご安心ください。
以前に二階堂黎人の短編(作品集「ユリ迷宮」中の「劇薬」)を読んでたので、個人的にはルール等理解して読むことができました。

No.383 7点 悪魔はここに- 鮎川哲也 2010/12/25 23:48
星影龍三登場作品をまとめた光文社版の作品集。
4編どれも”小粒ですがピリリと辛い”というべき、高レベルの作品です。
①「道化師の檻」=密閉空間からの脱出が問題となるアリバイ崩し。真相はアリバイ崩しの基本-「時間軸の錯誤」です。
②「薔薇荘殺人事件」=犯人当て小説として発表された作品。なかなかの秀作で、ロジックによる見事な解決が気持ちいい! 「○○○○」を見抜くところまでは迫れましたが、真相はさらにもう一段階捻りがあるんですよねぇ・・・冒頭の場面に騙されてしまいました。
③「悪魔はここに」=「どの殺人現場にも逆向きのものが・・・」というあらすじ紹介を見て、てっきり「チャイナ橙?」と早とちりしましたが、真相はもっと単純なもの。でも分かりやすくて、こっちの方が好きですね。
④「砂とくらげと」=絞殺死体とくらげに刺された死体が同居する現場って・・・かなり突飛な設定ですし、ちょっと偶然要素が強すぎる気はしました。鮎川氏も自分を卑下しすぎ!
以上、4編。
②~④は鮎川氏本人が星影の友人という設定で登場するというサービス振り。その辺も、洒落っ気ある作者らしいとこですね。
②は評判どおりの名作だと思います。
(他の短編集収録作と重なってると思いますが、ご容赦ください)

No.382 6点 鬼面村の殺人- 折原一 2010/12/25 23:28
黒星警部シリーズの長編。
旧タイトル「鬼が来たりてホラを吹く」名のノベルズで読んで以来の再読。
~「あいつを殺してやる!」・・・黒星警部は、フリーライター葉山虹子と訪ねた鬼面村で、そう呟く異様な老婆に遭遇した。なぜか村人はその言葉に震え上がる。翌朝、奇怪な事件が起きた。5階建の合掌造りの家が、1人の男と共に一夜にして消え去っていたのだ!大消失トリック、密室殺人、驚天動地のドンデン返し!?~

本シリーズは、黒星と虹子や竹内刑事(本作では未登場)とのドタバタな絡みを中心に毎回展開されますが、プロット的には本格ミステリーの醍醐味を味あわせてくれるはず・・・
設定からすると、横溝の「悪魔の手毬歌」のパロデイ狙いに見えますが、今回のメインはあくまでも「家屋消失」トリック--
「家屋消失」については、作中でも触れられているE.クイーン「神の灯火」や泡坂「砂蛾家」、あと二階堂蘭子シリーズの短編でお目にかかったくらいで、かなり難しいプロットなのだと思います。
結局、物理的なトリックではなく、「錯誤」を取り入れた解法にならざるを得ず、本作もその線で解決されます。ただ、伏線はそれなりに張ってるのは分かるんですが、基本的に無理がある感じなんですよねぇ・・・(まぁ、これしかないかとは思いますけど)
ラストは、解決と思いきや・・・で2回ほどひっくり返されますので、その辺りはなかなか楽しめるとは思います。

No.381 5点 眠りの森- 東野圭吾 2010/12/25 23:09
「卒業~雪月花ゲーム」に続く加賀恭一郎シリーズの第2弾。
加賀は警視庁の刑事として登場。
~美貌のバレリーナが男を殺したのは、本当に正当防衛だったのか。完璧な踊りを求めて一途に稽古に励む高柳バレエ団のプリマたち。美女たちの世界に迷い込んだ男は死体になっていた。若き敏腕刑事・加賀恭一郎は浅岡美緒に惹かれ、事件の真相に肉薄する。華やかな舞台の裏の哀しいダンサーの悲恋の物語~

前作の後日談も多少織り交ぜてはありますが、一旦教職に就きながらも刑事になった経緯については不明なままです。
ストーリーについてはさすがに東野圭吾というべきで、バレエ団という特殊な舞台設定をうまく絡ませ、読者を引き込んでいきます。
他の方の書評どおり、ラストシーン、未緒に対する加賀の一途な愛情は、やはりたいへんに感動的でした。
ただ、ミステリーとしては評価しにくい・・・
ホワイダニット中心で事件が進みますから、読者にとっては途中から出てくる手掛かりらしきものをもとに、加賀が解決していく過程を見守るだけ、ということになっちゃいます。
(それにしても、悲しい女性ですねぇ・・・未緒。胸が痛くなります。)

No.380 8点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2010/12/22 23:43
国名シリーズ第5弾。
確か小学生のとき図書館のジュブナイル版で読んで以来の再読・・・(当然内容は覚えてませんでした)
~T字型のエジプト十字架に次々と磔にされていく小学校長、百万長者、スポーツマン、未知の男! その秘密を知るものは死者のみである。ついに匙を投げたと思われたエラリーの目が突然輝いた。近代のあらゆる快速交通機関を利用して、スリル満点の犯人の追跡が繰り広げられる~

読み終わってすぐの感想はただ「面白かった」の一言。
他の方の書評どおり、広大なアメリカ合衆国の東半分を縦横無尽に、愛車を駆って走り回るエラリーの姿は、他作品にはない躍動感やスリリング性を感じさせられます。
創元文庫版の解説で山口雅也氏が触れられてますが、この作品が発表された1932年は、「ギリシャ棺」や「X」「Y」も発表されており、まさに作家E.クイーンの最盛期とも言うべき年・・・そんな脂ののりきった作品を堪能させていただきました。
解決場面での有名な「ヨードチンキの推理」は、それだけではたいしたロジックではないのですが、真犯人が残したこの小さな齟齬から、連続殺人事件の謎が一気に解明されるという爽快感こそが本作の白眉でしょう。
「T」の謎自体は、従来の「首切り殺人」の理論を踏襲するものですし、確かに中盤やや冗長な部分もあるため、最終的にはこれくらいの評点で・・・
あと「裸体主義の新興宗教」って結局必要だったんでしょうか??

No.379 5点 オーデュボンの祈り- 伊坂幸太郎 2010/12/22 23:25
作者の処女長編作品。
第5回新潮ミステリークラブ賞受賞作。
~コンビに強盗に失敗して逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸時代以来外界から遮断されている「荻島」には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、島の法律として殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無惨にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか。卓抜したイメージ力、洒脱な会話、気の利いた警句、抑えようのない才気がほとばしる・・・~

とにかく変な作品。
文庫版では、解説担当の評論家吉野氏が「たいへんシュールな作品」と述べていますが、つまりは読み手によって評価が大きく分かれる作品でしょう。
鎖国状態の島や未来が見えてしゃべれる「カカシ」など、およそ現実感のない独特の世界観・・・まさに「シュール」と言うべき感覚--
個人的にいえば、この「シュール感」が今ひとつしっくりこなかったというのが正直な感想・・・
結局、伊坂は何が言いたかったのか?(別にそんな難しい話ではないかもしれませんけど・・・) その辺りが汲み取れませんでした。
ただ、「伊坂幸太郎」という作家を知るには、本作はやはり「はずせない」作品なのは間違いなし。
”合う””合わない”に関わらず、読むべきなのだろうとは思います。

No.378 6点 七度狐- 大倉崇裕 2010/12/17 23:39
「季刊落語」の牧編集長と部下、間宮緑のコンビが活躍するシリーズ第2作。
古典落語の名作に纏わる殺人事件。
~「静岡に行ってくれないかな」。北海道出張中の牧編集長から電話を受け、緑は単身杵槌村へ赴く。ここで名跡の後継者を決める口演会が開かれるのである。ところが、到着早々村は豪雨で孤立無援になり、関係者一同の緊張はいやがうえにも高まる。やがて後継者候補が1人ずつ見立て殺人の犠牲に・・・あらゆる事象が真相に奉仕する惑う事なき本格テイスト~

静岡の山奥の村を舞台に、閉ざされたクローズド・サークルで起こる連続殺人、おまけに落語の古典の「見立て」など、本格物のガジェット満載の作品になっています。
「見立て」については、どうしてもその「必然性」を考えてしまうのですが、本作については、トリックや何かを隠蔽するために仕方なくという必然性ではなく、あくまで「動機」や「事件の背景・経緯」と深く関連したうえでの必然性・・・というわけで、まぁ納得はさせられます。
解決編のサプライズもなかなかのものなので、本来ならもっと高評価でもいいかもしれないのですが、個人的には「どうも評価しにくい」感じ・・・
「落語」というものに全く親しんでないという理由もありますが、クローズドサークル物特有の緊張感とか衝撃が今ひとつ足りないのが原因かもしれませんね。
あと、周りはあの人の正体に本当に気づかなかったんですかねぇ?
(落語に詳しければもっと楽しめるのかも・・・)

No.377 5点 占い師はお昼寝中- 倉知淳 2010/12/17 23:28
ぐうたらな占い師、辰寅と従妹の美衣子コンビが活躍する短編集。
犯罪捜査ではなく、いわゆる「日常の謎」系の話。
①「三度狐」=何とも軽~いお話。その程度、自分で考えても分かるんじゃない?
②「水溶霊」=まぁ、だいたい予想の付くオチ。
③「写りたがりの幽霊」=これもまた軽~いお話。この程度、自分でもっと考えろ!(パートⅡ)
④「ゆきだるまロンド」=個人的には本作ベスト。まぁその程度の謎ですけど、中年男性の恥じらいを理解して欲しいものです。
⑤「占い師は外出中」=辰寅が外出中で、美衣子が代わりに占いを・・・というお話。当然失敗しますけど・・・
⑥「壁抜け大入道」=真相は当然そうなるよなぁ・・・という感想。
以上、全6編。
まぁ、個人的に言えば「好み」からははずれている作品。それなりの面白さ&うまさは十分あると思いますので、こういう手の作品がお好きな方は嵌るかもしれません。

No.376 7点 灰の迷宮- 島田荘司 2010/12/17 23:13
吉敷刑事シリーズ。
久々に再読。
~新宿駅西口でバスが放火され、逃げ出した乗客の1人がタクシーに撥ねられ死亡。被害者・佐々木徳郎は、証券会社のエリート課長で、息子の大学受験の付き添いで鹿児島から上京中の出来事だった。警視庁捜査1課の吉敷刑事は、佐々木の不可解な行動や放火犯として逮捕した男の意外な告白から急遽鹿児島へ・・・アッと驚く犯人像とは?~

タイトルに「灰」がつけば、舞台は必ず鹿児島・・・というわけで、今回も鹿児島という街や人を降灰に絡めて切なく描いてます。
本作、世間的な評価よりも個人的には評価していて、たまたま吉敷刑事シリーズだから割と地味に映ってしまいますが、もし御手洗シリーズとして描かれていれば、もっと派手な展開で評価も違ってたんじゃないかという気がしてます。
それぐらい、ある意味「驚天動地」のトリックというか偶然の連続・・・あえて言うなら「風が吹けば桶屋がもうかる」という格言(?)が頭に浮かんでしまうような偶然(!)が生んだ事件・・・
ただ、ラストは感動的。「涙流れるままに」ほど仰々しくはないけれど、一人の女性の死に涙を流す吉敷刑事を思い浮かべて、何とも言えない気分にさせられます。
留井刑事もそうですが、作者の人物造形の旨さに唸らされる作品と言えそう。

No.375 8点 赤後家の殺人- カーター・ディクスン 2010/12/11 20:34
H.M物の第4作目。
創元文庫版では不気味な表紙が印象的・・・
~その部屋で眠れば必ず毒死するという、血を吸う後家ギロチンの間で、またもや新しい犠牲者が出た。フランス革命当時の首斬り人一家の財宝を狙う企てに、H・M卿独特の推理が縦横にはたらく!~

堅牢な密室や容疑者たちの完璧なアリバイ、血塗られた歴史に彩られた一家、怪奇趣味など、まさに「これぞカー!」と言うべきガジェット満載の作品です。
H.Mを悩ませることになる第1の殺人の毒殺方法については、推理のための材料に伏せられている部分があるため(被害者が○○へ行っていた)、やや不親切かなぁという気がします。
本作については、やはりフーダニットの解法の見事さを味わうべきだろうと思います。
手帳の件や動機についてなど、真犯人を特定できる伏線はきちんと張られてるので、ラストのH.Mの推理に十分なカタルシスを感じました。

途中、フランス革命時代に死刑執行役を務めた一家の歴史(ギロチンですね)などはドロドロした怪奇性も十分に味わえ、乱歩が本作を高く評価していたというのも何となく分かる気がします。
(後家部屋ってそもそも何?)

No.374 5点 アルバイト探偵(アイ)- 大沢在昌 2010/12/11 20:12
謎の多い父親(?)の経営する私立探偵事務所の助手、冴木隆を主人公とするハードボイルド連作短編集。
①「アルバイト・アイは高くつく」=TVドラマの刑事物みたいな展開。父親、涼介って何者?と思わされます。
②「相続税は命で払え」=カッコいいタイトル! 高校生のくせに隆もなかなかスゴイ奴。
③「海から来た行商人」=涼介の正体がほぼ判明。ストーリー的にはややご都合主義。
④「セーラー服と設計図」=”機関銃”ではないけど、散弾銃は出てきます。(古い?)
以上4編。
この後、シリーズ物になる「アルバイト探偵」シリーズの第1弾。
「新宿鮫」シリーズのような硬質で重厚なハードボイルドに対し、六本木周辺を舞台にした本シリーズのような軽いタッチのハードボイルド、どちらも作者お得意の作風ですが、個人的には前者の方が好みですね。(六本木よりも新宿界隈の方がシンパシー感じますし・・・)
本作もちょっと型に嵌りすぎてる感がするんで、やや辛めの評価で・・・

No.373 7点 慟哭- 貫井徳郎 2010/12/08 23:14
作者の処女長編作。
作品そのものに大きな仕掛けが施された作品。
~連続する幼女誘拐事件の捜査は行き詰まり、捜査一課長は世論と警察内部の批判を受けて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリア課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心を寄せる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ。幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを描破した鮮烈デビュー作~

途中までは、「何でこのタイトル?」と思わされますが、ラストでは本当の意味を知ることに・・・
連続幼女誘拐事件についての章と、黒魔術を崇拝する新興宗教にのめり込む一人の男についての章が交互に展開され、普通のミステリー好きならば、「なんか仕掛けがあるんだろうなぁ・・・」と思わずにはいられません。
まぁ、こういう反転型ワンアイデア物は最近多いですし、そういう意味では本作も「普通レベル」なんでしょうが・・・
ただ、読者を引き込む力はデビュー作から「本物」を十二分に感じさせます。結構重厚な作品なのに、読みにくさは一切なく、素直に作品世界に浸れる筆力は賞賛してよいでしょう。
ラストはちょっと尻切れ気味ですけど、これはこれで余韻のあるいい終わり方かもと思います。
これが「貫井作品」の初読でしたが、まずは期待どおりで、今後いろいろと他にも手を出していきそうです。

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E-BANKERさん
ひとこと
好きな作家
島田荘司、折原一、池井戸潤などなど
採点傾向
平均点: 6.01点   採点数: 1812件
採点の多い作家(TOP10)
島田荘司(72)
折原一(54)
西村京太郎(43)
アガサ・クリスティー(38)
池井戸潤(35)
森博嗣(33)
東野圭吾(31)
エラリイ・クイーン(31)
伊坂幸太郎(30)
大沢在昌(27)