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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1812件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.412 6点 あした天気にしておくれ- 岡嶋二人 2011/02/08 23:16
作者の第二長編。
出版順では乱歩賞受賞作「焦茶色のパステル」が先ですが、執筆順では本作の方が先のため、実質的には処女長編というべき作品のようです。
競馬界を舞台にしたミステリーの傑作。北海道の牧場で3億2千万もの値が付いた1頭のサラブレットが誘拐され、2億円の身代金が要求される。衆人環視の中、思いもよらぬ方法で大金が奪われるが・・・というのが大まかな粗筋。(「傑作」は帯のことばですが、ちょっと言いすぎかな?)
「焦茶色」に続いて、競馬界を舞台にしたミステリーであり、しかも今回は作者得意の誘拐もの。(馬が誘拐されるというのも珍しいですけど)
まずは、プロットがうまいですね。一種の倒叙形式ではじまり、犯人(?)側の視点から事件が書かれるわけですが、途中から思いもよらぬ邪魔が入ってきてさぁどうなる? 
既視感があると言えばあるのですが、読者にとっては作者の手のひらで遊ばれてる感じが心地よい・・・
メインプロットは、競馬に詳しい人ならば、正確ではなくてもある程度は予想のつくものだとは思います。(私も気付いた)
「あとがき」でも触れてるとおり、舞台となった昭和56年当時では、こういった初歩的なやり方も想定できる時代だったのでしょう。
全体的な評価としては、「まあまあの面白さ」という感じでしょうか。もう一捻りあっても良かったかなというのが正直な感想。
(今思えば、この頃の馬券は単純だったんですよねぇ・・・今や、馬単・ワイド・三連複に三連単、おまけに、5レースの1着馬を当てる5連単も近々発売されるとか・・・ 1レースの1着馬さえ当てられない奴が、5レースも当てらるわけないだろ!)

No.411 5点 四つの終止符- 西村京太郎 2011/02/08 23:13
作者初期のノン・シリーズ。
昭和40年代前半という時代を反映してか、「社会派」という形容詞がピッタリの作品となっています。
下町のおもちゃ工場で働く佐々木晋一は聾者だった。ある日、心臓病で寝たきりの母親が怪死する。栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な状況で彼は獄中で憤死し、無実を信じた一人のホステスも後を追う。彼をハメたのは一体誰か?
いやぁ・・・読んでて何とも「暗~い」気持ちになりました。
まだまだ日本が貧しかった頃、しかも不治の病を抱えた母親をもつ聾者・・いろいろと考えさせられますね。
途中、聾学校の教師の口から語られる「聾者の真実」が特に重い・・・「耳が聞こえない」ということは「目が見えない」ことよりもつらいことなのだという事実は健常者ではなかなか気付けないことでしょう。
作者の社会派ミステリーといえば、乱歩賞を受賞した「天使の傷跡」が有名ですが、本作も隠れた名作としてもう少し評価されてもいいかと思います。
ただ、ミステリーそのものの出来としては評価しにくいんですよねぇ・・・
というわけで、高い評点をつけるのはちょっと難しいなぁというのが正直な感想になっちゃいます。
(意味深な「タイトル」ですが、まさに、このタイトルどおりの内容)

No.410 7点 ジャンピング・ジェニイ- アントニイ・バークリー 2011/02/08 23:11
ロジャー・シャリンガムシリーズ。
バークリーらしい皮肉に満ちた作品に仕上がってます。
~屋上の絞首台に吊るされた藁製の縛り首の女・・・小説家ストラトン主催の「殺人者と犠牲者」パーティーの悪趣味な余興であった。シェリンガムは有名な殺人者に仮装した招待客の中の嫌われ者、主催者の妹・イーナに注目する。そして宴が終る頃、絞首台には人形の代わりに、本物の死体が吊るされていた!~

という粗筋なのですが、ここから名探偵?にあるまじき、シェリンガムの迷走が始まります。
他の方の書評にもありますが、警察に真相を悟られないため、普通の名探偵とはまさに逆のベクトルで行動するなど、他のミステリーでは考えられないプロット!
「ある致命的な事実」を隠蔽し、警察をミスリードするため、「ああでもない」「こうでもない」と迷い続けるシェリンガムのキャラは、頼りなくもまぁ微笑ましく映るのですが・・・
「結局本筋はどうしたんだ?」 と思っているうちに、ラスト1行で見事にオチが付いて、何か良質な「コント」でも見せられたような気にさせられました。
巻末の解説で、「バークリーの入門編として最適」とありますが、その評価が正鵠を得ているような気がします。
個人的な好みからどうかと聞かれれば、決して「ドストライク」とは言えませんが、重厚な本格物に飽きたら、変化球としてこういうのを読んでみるのもありだなぁという感じですかねぇ・・・
(被害者は本当に嫌なヤツですが、シャリンガムが「殺されて当然」と言ってるのは「オイオイ!」と突っ込みたくなります)

No.409 7点 煙の殺意- 泡坂妻夫 2011/02/05 17:21
ノン・シリーズの短編集。
「これぞ泡坂の短編!」とでも言うべき、一味違う作品群を味わわせてもらいました。
①「赤の追想」=「うーん。評価しづらい作品」という感じ。泡坂作品に期待する方向性と違っているのは間違いない。
②「花山訪雪図」=名画に仕掛けられた作者の企みが、ある殺人事件を解明するきっかけになる・・・何となく既視感のあるプロットではあります。ただ、よくできている作品なのは間違いない。
③「紳士の園」=「スワン鍋」に笑っているうちに、最後の仕掛けにビックリさせられる。近衛のキャラクターは何とも魅力的!
④「閏の花嫁」=手紙交換によるストーリー展開というのがいい味出してる。オチはちょっとブラックですけど、「毬子を○○る」ということですよねぇ・・・
⑤「煙の殺意」=プロットは斬新。でも、さすがに「ここまでする奴はいないだろう!」と思わずにはいられません。まぁ、でも面白い。
⑥「狐の面」=本筋よりも、山伏が人を騙す手口・テクニックの方が面白かった。さすが、奇術師です。
⑦「歯と胴」=これもブラックですけど、かなり面白い。変形の倒叙形式といえばいいんでしょうか? ラストのオチもうまい!
⑧「開橋式次第」=本筋はちょっと誉められないが、こんな一家いたら面白いだろうなぁ・・・
以上8編。
作者の短編集としては、「亜愛一郎シリーズ」が有名ですが、ノンシリーズの本書も十二分に作者のテクニックやロジックを楽しませてくれます。
捻じ曲がった人間の心が、捻じ曲がった犯罪を生み出すということなのでしょうね。
(個人的に⑦がベスト。③や⑤も水準以上。)

No.408 6点 奇岩城- モーリス・ルブラン 2011/02/05 17:18
言わずと知れたアルセーヌ・ルパン物の代表作の1つ。
大昔にジュブナイル版で読んだ記憶が微かにありましが・・・今回再読。
~レイモンドが放った一弾は、見事に逃走しようとする賊を撃ち倒した。ところが、重傷を負ったはずの賊が煙のごとく消え失せた。しかも屋敷から盗まれたものは何一つなかった。この奇怪な謎を解き明かしたのは、まだ高校生のイジドール少年。しかも、彼は事件の首魁をかのアルセーヌ・ルパンだと看破した。かくして怪盗対少年探偵の熾烈な頭脳戦の幕は切って落とされた!~

物語の舞台がフランス国内を点々とし、最終的にはフランス王朝に伝わる宝に纏わる謎解きがメインとなっています。
ルパンに相対するのは、現役高校生のボードルレ少年。ルパンと対決する中で、父親を誘拐されるという事態に巻き込まれならがらも、けなげに探偵役を務め上げます。
それに比べて、シャーロック・ホームズの扱いときたら・・・
依頼を受け、ロンドンからフランスへ到着する前に、ガニマール警部とともにルパン一味に捕らえられ、船でアフリカ大陸を一周させられる始末・・・
(これを読んで、イギリス国民は怒っただろうなぁ・・・)
ただ、読みにくさは如何ともし難い・・・。今回読んだ新潮文庫版の翻訳者は「堀口大学」氏。
というわけで、非常に文学的で高尚な表現になっているんでしょうが、それが個人的には合わない! 海外物は翻訳次第というのは仕方ないところですね。
(あと、フランス国内の地名が頻繁に出てくるので、地図などを1枚付けていただければ、非常に親切かと・・・)

No.407 5点 フィッシュストーリー- 伊坂幸太郎 2011/02/05 17:16
ノン・シリーズの短編集。
"いかにも伊坂らしい”作品が並んでいるのがウレシイかぎりですが・・・
①「動物園のエンジン」=デビュー作「オーデュポンの祈り」の次に発表された作品。(「オーデュポン」の主人公、伊藤もゲストで登場) 動物園を解雇された男が、マンション建設反対運動に参加する理由とは? 最後に「叙述トリック!?」が炸裂します。
②「サクリファイス」=伊坂作品の名脇役、黒澤が主人公。何だかありそうで、絶対にない話。「何もそこまで考えなくても・・・」という気がしましたけどねぇ・・・
③「フィッシュ・ストーリー」=『ほら話』という意味だそうです。都合、40年間に渡る壮大なストーリーのはずですけど、そんな重さは微塵も感じさせないフワフワ感たっぷりの文章。伊坂らしいね。
④「ポテチ」=これは黒澤が脇で登場。「尾崎って結局誰だよぉ!!」と思いつつ読み進めていくと、最後に種明かしがありました。最後は伊坂らしからぬ爽快さを感じさせる終わり方。
以上4編。
いつもどおりの「伊坂節」ですが、他作品に比べるとやや落ちるかなという印象。
まずは短編から伊坂を始めようと思っている読者にとっては、逆にとっつきやすいかもしれません。
(個人的には①がベスト。ラストのオチは綾辻の「どんどん橋おちた」を思い出してしまいました。)

No.406 8点 どちらかが彼女を殺した- 東野圭吾 2011/01/30 22:32
加賀恭一郎シリーズの第3弾。
練馬署勤務時代の加賀刑事が描かれます。
~最愛の妹が偽装を施され殺害された。愛知県警豊橋署に勤務する兄・和泉康正は独自の現場検証の結果、容疑者を2人に絞り込む。1人は妹の親友。もう1人はかつての恋人。妹の復讐に燃え、真犯人に肉薄する兄。その前に立ちはだかる練馬署・加賀刑事。殺したのは「男」か「女」か、究極の推理!~

なかなか評価の分かれる作品のようですね。
で、個人的には「たいへん良くできてるミステリー」だなという評価。
本作を「究極のフーダニット」と見ると、ラストの「企み」がアンフェアとかもどかしさにつながるのかもしれません。
伏線がこれでもかと張られてるわけですから、読者としては、それを1つ1つ拾わされ、結局真犯人の名前が明かされないわけですから、「なんで?」と思うのもまぁ分からなくはないですね。
ただ、その作り込みがハンパなく精密にできてます。そういう意味では、再読して伏線をすべて確認していくべき作品なのかもしれません。(あまり楽しくはないかもしれませんけど・・・)
真犯人-和泉-加賀という三者の関係性も絶妙。「犯人探し」と「倒叙形式」の融合というわけで、作者にとってはかなり難しさもあったのでは? などと思ってしまいます。
というわけで、どちらかというと「面白い」と言うよりは、「感心!」ということでの評価。
(文庫版巻末の「推理の手引き」は必須ですね。これがないと本作が成り立たない)

No.405 6点 夜歩く- 横溝正史 2011/01/30 22:18
金田一耕助シリーズ。
他の有名作品に埋もれがちですが、横溝作品のガジェットをこれでもかと詰め込んだ作品の一つ。
~古神家の令嬢八千代に舞いこんだ「我、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と男の写真は陰惨な殺人事件の発端だった。卓抜なトリックで推理小説の限界に挑んだ作品~

まず、例の「アクロイド殺し」との関連性云々についてですが、個人的にはあまり気になりませんでした。
確かに、唐突にネタバレが行われるので、一瞬「エッ?」という感覚には陥りますが、読み慣れたファンが素直に読んでいれば、ミステリー的に真犯人足り得る人物は相当限定されるはずですし、まぁ想定の範囲内と言えなくもありません。
次に「首切り」についてですが、当然ながら「被害者は本当は誰なのか?」という魅力的な謎を構成させるための条件になっているわけです。
ただ、本作については、ここがかなりシンプルなトリックのため、あまり効果的ではなかったかなと・・・
加えて気になったのは、「指紋」が全く無視されていること。この時代でも指紋捜査は存在してますよね?(もちろん、現在ならDNA鑑定等もあり、孤島や嵐の山荘でない限り首切りトリック自体不可能ではありますが)
トータルでみて、非常によく練られた作品という評価でいいとは思うのですが、個人的な期待感にはやや達しなかったということで、こんな評点になっちゃいました。
(変人たちの間で渦巻く愛憎劇というのが、まさに「横溝!」という感じですよねぇ)

No.404 7点 孔雀の羽根- カーター・ディクスン 2011/01/28 22:05
H.M卿の探偵譚第6作。
「孔雀の羽根」とは、殺人現場に残された肩掛け(?)の柄のこと・・・
~2年前と同じ予告状を受け、警察はその空き家を厳重に監視していた。銃声を聞いて踏み込んだ刑事が見たものは、若い男の死体、孔雀模様のテーブル掛けと10客のティーカップ。何もかもが2年前の事件とよく似ていた。そのうえ、現場に出入りした者は被害者以外にはいないのだ。この怪事件をH.Mは32の手掛かりを指摘して推理する~

やはり本作のメインは第1の殺人での「準密室」。
警官や関係者など複数の目が光るなかで、被害者が2発の銃弾を浴びて死亡する。しかしながら、犯人の姿はなかった・・・何て魅力的な謎でしょうか!
ただ、トリック自体はちょっと微妙・・・拳銃の仕組みはまぁいいとして、2発目はああいうことでいいんでしょうか? かなり乱暴なやり方のような気はしました。
その代わり「至近距離からの発射」については、「さすがカー」と言うべきで、HMのロジックに唸らされる結果に・・・
最終章、HMが32もの手掛かりを明示して、事件の推理を懇切丁寧に行ってくれてます。これだけでも本作を読む価値はありでしょう。
確かに中盤はややダレますし、動機や関係者の動きに疑問符が付く部分もありますが、そこを考慮に入れても佳作という評価でいいと思います。
(「秘密結社」なんていう本筋に無関係の話を削ってれば、スッキリしたのにね。でもそれがカーということなんでしょう)

No.403 6点 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題- 法月綸太郎 2011/01/28 21:45
法月綸太郎シリーズの短編集。
相変わらず「短編はウマイ!」
①「ギリシャ羊の秘密」=「要は漢字の読み方かよっ!」という感じ。タイトルは当然E.クイーンの名作のもじりですが、どっかカブってますかねぇ?
②「六人の女王の問題」=途中出てくる「6クイーンの問題」は面白かった。要はそうゆうパズルなんだね。
③「ゼウスの息子たち」=ふたご座の話らしいネタ。読者をミスリードさせる手練手管は「流石!」と思わせます。
④「ヒュドラ第十の首」=これもミスリードさせる手口ですが、ここまで単純化させられると、だいたい予想はつきますねぇ・・・
⑤「鏡の中のライオン」=あまりパッとしない作品。
⑥「冥府に囚われた娘」=これも今ひとつな感じ。ちょっとネタが尽きたか?
以上6編。
十二星座の順に、星座にちなんだ短編を書くという趣向は非常に面白いと思いますし、ギリシャ神話に少し詳しくなったような気がします。
ただ、他の方と同様、これまでの短編集に比べれば一枚落ちるかなぁという感想になっちゃいますねぇ・・・
(個人的には③がベスト。①⑤⑥辺りはやや落ちる印象)

No.402 6点 違法弁護- 中嶋博行 2011/01/28 21:29
現役弁護士でもある作者の第2長編。
乱歩賞受賞作「検察捜査」に続いて、またも法曹界の内幕に鋭く切れ込んでいくという内容です。
~横浜本牧ふ頭の倉庫外で警官が射殺された。女性初の経営弁護士(パートナー)を目指し、ロー・ファームに勤務する弁護士・水島は、貿易会社の法的危機管理を担当するうち、巨大な陰謀に気付く。「依頼人」は古ぼけた倉庫に何を保管していたのか?~

前作は「検察官」にスポットライトを当てていましたが、今回は「弁護士」が主役。ここに刑事警察や公安警察を絡ませながら、お互いのプライドやエゴやその他諸々を戦わせるといった内容・・・
一応、連続殺人事件の謎解きがメインとはなりますが、裏に経済犯罪が絡んでいるので、倒産法制や債権法関連の用語がたびたび登場し、この辺に予備知識のない読者は少々分かりにくいかもしれません。
ただ、プロットの中心は勧善懲悪(!)
最後には悪い奴らが一網打尽にされるというごく単純なオチに収斂されるので、その辺りがスッキリすると言えばスッキリしますし、物足りないと言えば物足りないといった読後感なんですよねぇ・・・
まぁ、トータルでは「可もなく不可もなく」というところでしょうか。
(なんかモヤモヤした書評になってしまいましたが、決して駄作ではありません。)

No.401 7点 ロシア幽霊軍艦事件- 島田荘司 2011/01/24 23:35
御手洗潔シリーズ。
1枚の「写真」から始まる歴史に埋もれた謎がスゴイ。
~箱根のホテルに飾られていた1枚の古い写真。そこには、芦ノ湖に浮かぶ帝政ロシアの軍艦が写っていた。その軍艦は嵐の夜に突如として現れ、軍人たちが降りると忽然と姿を消してしまったというのだ。山間の湖にどうやって軍艦が姿を現せるというのか。御手洗はこの不可解な謎に挑むことになるのだが・・・~

本作は殺人事件を手掛けるいつものシリーズ作ではなく、ロマノフ王朝最後の皇帝、ニコライ2世の娘「アナスタシア」と芦ノ湖に突如出現した「幽霊軍艦」を巡る、大いなる「歴史ミステリー」・・・
ただ、アナスタシアと軍艦の謎については、御手洗があっさりと解決してしまいます。
途中の脳科学関係の話は、いかにも島田氏らしい展開ですし、ドイツ製の○○○についてはいつもの「豪腕ぶり」を堪能させられます。(豪腕というか荒唐無稽というかは微妙だが・・・)
読んでるうちに、どこまでが史実でどこまでがフィクションなのか境界が分かりにくく感じるのですが、巻末の解説で作者自身がその境界について説明してくれてるので、その辺は理解できました。
私自身、ロシア革命とロマノフ王朝の謎については、他の文献等で多少かじったことがあるのですが、まさに歴史の「光と闇」を感じさせるテーマではあります。レーニン側から見る歴史とロマノフ側から見る歴史では180度違って見えるわけで、授業で学ぶ歴史がいかに不十分なものかを改めて感じさせられました。
(昨年の「写楽」もそうですが、島田氏の「歴史ミステリー」もなかなか面白いです。やっぱりスゴイ作家ですねぇー)

No.400 8点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2011/01/24 23:15
400冊目の書評は「パズラー推理小説の完成型」とも言える本作品で。(創元文庫解説の法月氏は『犯人当てロジック小説の理想型』という評価をしてます)
国名シリーズ第3弾。
~オランダ記念病院の手術室では、今まさに重要な手術が執り行われようとしていた。患者は病院の創設者であるドーン氏で、応急手術を必要としていた。ところが、何か様子がおかしい。手術台の上の老婦人はすでに息を引き取っていたのだ。控え室では生きていた患者が、いつどうやって殺されたのか。推理するエラリーを嘲笑うかのように第2の殺人が起こる!~

さすがに、エラリーの探偵ぶりも大分落ち着いてきた印象を与えます。
さて、本作の”ウリ”はもちろん「真犯人特定のロジック」ですが、「靴」にしろ「絆創膏」にしろ確かにエラリーの考え方は分かるし、特に靴の敷革の件については決定的とも言えるでしょう・・・
ただ、ロジック自体のレベルとしては、評判ほどではないかなぁーというのが率直な感想。
(第2の殺人は特にそう感じる)
これならば、「X」や「Z」の方に軍配を上げたくなります。
あと、「登場人物表」に出てくる人の数が異様に多い! 本筋とあまり関係ない人物も入ってる(カダヒーとか)ので、もう少し削ってもいいんじゃないかと思ってしまいます。
ということで、割と辛口評価になってしまいましたが、これは「期待の裏返し」という奴で、普通に判断すれば十分に高レベルなミステリーと呼べるでしょう。
病院や医療関係の描写もかなり正確に書かれてるので、その辺りの取材力も感じることができる良作です。
(個人的には、「エジプト」>「オランダ」ですかねぇ・・・)

No.399 6点 ファンレター- 折原一 2011/01/21 22:10
講談社版では「ファンレター」ですが、文春文庫版では「愛読者」と改題し、同社の「~者」シリーズの1つとして発売されてます。
今回は文春文庫で再読。
謎の覆面作家「西村香」をめぐって巻き起こる事件の数々が、連作短編形式で綴られます。
①「覆面作家」=徐々に高まる人間の「狂気」。折原得意のプロットですね。
②「講演会の秘密」=これも同様。オチは想定内。
③「ファンレター」=これも同様。オチも想定内。
④「傾いた密室」=「手紙」形式が最後に効いてくる。決して「密室物」ではありませんので・・・
⑤「二重誘拐」=「だから何?」
⑥「その男、凶暴につき」=北野武とは何の関係もありません。パクリでもありません。
⑦「消失」=中西智明の作品とは何の関係もありません。パクリでもありません。
⑧「授賞式の夜」=①~⑦のオチ的作品。
⑨「時の記憶」=⑧で終わりでよかったんじゃない?
以上9編+αあり。
共通するプロットが何度も登場します。全体的にシャレのような作品なので、あまり目くじら立てずに軽~い気持ちで読みましょう。
(覆面作家・西村香とは、もちろん北村薫氏のことですが、ここまで下世話に書かれて、よく出版させたなぁーと思ってしまいます)

No.398 6点 新幹線殺人事件- 森村誠一 2011/01/21 21:56
アリバイ崩しを主題とした作者初期の本格ミステリー。
光文社の新装版で読了。
~「ひかり66号」に流れる鮮血。殺された男は、芸能プロダクションの実力者だった。折しも、万博の音楽プロデューサーという巨大な利権をめぐり、2大芸能プロの暗闘が続いていた。犯人はライバルプロダクションの人間か? 「ひかり」に絶対追いつけない「こだま」、新幹線の時間の壁が捜査陣の前に立ち塞がる~

仕掛けられたアリバイトリックは2つですが、2番目のトリックは非常に分かりやすくてやや低レベル。(推理クイズなんかによく出てくるたぐいのものです)
やはり、メインは新幹線を舞台にした最初のトリック。
もちろん、今読めば「なぁーんだ」という程度の感覚なのですが、トリック自体、作者らしく非常に丁寧に作りこまれているのがウレシイ・・・
何より「発想の転換」とでもいうべき解法(作中では「水平思考アリバイ」などと呼んでますが・・・)がいいです。「ひかり」に決して追いつけないはずの「こだま」に乗っていた男が、いかにして殺人を行ったのか? 新幹線電話を使ったトリックというのも当時は斬新だったのでしょう。
「大阪万博を間近に控えた頃の芸能界」という舞台設定もなかなか面白く読ませていただきました。
(この頃の日本は、活気や夢があってきっといい時代だったんでしょうねぇ・・・)

No.397 7点 モルグ街の殺人・黄金虫 -ポー短編集Ⅱ ミステリ編-- エドガー・アラン・ポー 2011/01/21 21:42
E.A.ポーのミステリー(的な作品も含む)作品集の新潮文庫版。
小難しい例え話などがいろいろ挿入されていて読みにくいですが、やはり歴史的意義は感じさせてくれます。
①「モルグ街の殺人」=言わずと知れた第1号ミステリー。もちろん、現代的感覚からすれば穴だらけの作品なのですが、「密室」や「意外な犯人」などその後の作品に与えた影響は計り知れないものがあると感じます。
②「盗まれた手紙」=これまた言わずと知れた作品。ポーミステリーの最高傑作という評価も多いようですし、こういう発想自体に作者の力量を感じてしまいます。
③「群衆の人」=「!?」 哲学的な話なのでしょうか? 高尚過ぎてよく分かりませんでした。
④「おまえが犯人だ」=これは傑作。オチが何とも言えずブラックで、インパクト抜群。
⑤「ホップフロッグ」=寓話的な勧善懲悪話。よくある話のように思いましたが・・・
⑥「黄金虫」=これも有名な暗号モノ。暗号の仕掛けについては今となっては古典的ですが、何とも言えぬワクワク感を抱かせます。
以上6編。
珠玉の作品集と言っていいかもしれません。現代の目の肥えた読者にとって満足できるかといえば疑問符なのですが、ミステリー好きならば、やはり一度は手にとって読むべきでしょう。
(①②⑥辺りは有名ですが、④⑤もなかなか深い作品だと思います。)

No.396 8点 天使のナイフ- 薬丸岳 2011/01/16 16:58
第51回江戸川乱歩賞作品。
確かに近年の乱歩賞受賞作の中でも出色の出来と言っていいでしょう。
~生後5か月の娘の前で妻は殺された。だが、犯行に及んだ3人は、13歳の少年だったため罪に問われることはなかった。4年後、犯人の1人が殺され、檜山は容疑者となる。「殺してやりたかった。でも俺は殺してない」。裁かれなかった真実と必死に向き合う男を描く!~

本作のテーマは「少年(少女)犯罪」・・・。
少年3人に最愛の妻を殺された主人公桧山貴志が、加害者が殺されていく新たな事件に巻き込まれながら、過去の妻殺しの謎に迫っていきます。
まぁとにかく「重いテーマ」ですよねぇ・・・「少年犯罪と少年法」といえば、例の山口県光市で起きた母子殺人事件が思い浮かびますが、権利を保護すべきなのは「未成年」なのか「被害者家族」なのか・・・たいへんに難しい問題ですし、立場変われば意見も変わるという見本のような気はします。
それはさておき、ミステリーとしても本作はなかなかのレベル。処女作ですから、もちろんいろいろとアラはあるのですが、割と静かに淡々と進んでいく前半部分から一変、後半は隠されていた構図が次々と明らかになり、怒涛のラストへ・・・という展開。息つく暇がありません。
過去の「少年犯罪」がここまで複雑に、そして偶然に絡み合ってしまうやりきれなさ、そして最後に知る驚愕の事実・・・というわけで作者渾身のプロットと言っていいでしょう。
「こんな偶然あるわけない!」というのは当然の意見かもしれませんが、それが本作のエネルギーになっているんだろうという気がしますねぇ・・・
(作者の拘りと熱い思いに敬意を表します。)

No.395 8点 オレたち花のバブル組- 池井戸潤 2011/01/16 16:41
前作「オレたちバブル入行組」に続く、銀行員半沢直樹を主人公としたシリーズ2作目。
経済ミステリーなどという中途半端なジャンルとは無関係・・・あえて言うなら「痛快! 銀行版勧善懲悪シリーズ」とでも言うべき作品です。
~東京中央銀行営業第2部次長・半沢は、巨額損失を出した老舗ホテルチェーンの再建を押し付けられる。おまけに近々、金融庁検査が入ると言う噂が・・・金融庁には、史上最強の「ボスキャラ」が手ぐすね引いて待ち構える。一方、出向先で執拗ないびりにあう近藤は、またも精神のバランスを崩しそうになるが・・・空前絶後の貧乏くじを引いた男たち。絶対に負けられない男たちの戦いの行方は?~

細かいストーリーや設定はさておき、「これ、越後屋。そちも悪じゃのぉー」「お代官様こそ!」という時代劇お決まりのシーンが、そのまま架空の銀行、「東京中央銀行」という本作品の舞台で繰り広げられます。
主人公・半沢のポリシーや行動力は、同じサラリーマンとしては羨ましい限り! 「自分もこんなセリフを上司(アイツとアイツ・・・)に言ってみたい!」などという熱い気持ちにさせられました。(無理だろうなぁ・・・)
本作のもう一人の主人公、近藤が悩みの中から自分自身を取り戻し、立ち直っていく姿にも大いに勇気付けられます。
いろんな意味で、日頃、会社や上司、社会、その他モロモロに虐げられているすべてのサラリーマン必見の一冊!と言いたい気分です。
ラストはやや中途半端でしたが、これは次回作への含みでしょうか?
(「!」が非常に多い書評になり失礼しました。ついつい興奮したもので・・・)

No.394 5点 天使の歌声- 北川歩実 2011/01/16 16:26
元出版社社員、嶺原克哉を探偵役とする短編集。
一捻りの効いた作品が並びます。
①「警告」=ラストがやや唐突。事件全体の構図が分かりにくいせいか、サプライズ感は今ひとつ感じませんでしたねぇ・・・
②「白髪の罠」=プロットとしては面白い。こんな偶然の連続を看破する嶺原はなかなかスゴイ。登場人物すべてに何らかの役割が割り振ってるのがどうか?
③「絆の向こう側」=実の親と育ての親、そしてそれぞれの「絆」・・・感動するというほどではないですが・・・
④「父親の気持ち」=これも何となく全体的な構図が分かりにくい。作者の狙いはよく分かりますが・・・
⑤「隠れた構図」=殺人事件と盗撮事件そして、不倫。3つの事件の裏の繋がりを探るのが本作のプロット。
⑥「天使の歌声」=表題作だが一番の駄作では? 
以上、全6編。
「家族」や「親子」などがテーマになっている作品が多く、近しい人の間で意外な関係が! という仕掛けがあちこちに用意されてます。
「小粒でもピリリと辛い」という見方もできますが、ちょっとインパクトに欠け、何となくモヤモヤした作品が多いような気がしますねぇ・・・
(中では②か⑤辺りがお勧めレベルでしょうか)

No.393 5点 フレンチ警部と紫色の鎌- F・W・クロフツ 2011/01/10 22:30
フレンチ警部シリーズの第5作。
映画館の切符売りの女性だけが狙われる連続殺人事件の謎にフレンチが挑みます。
~映画館の切符売りをしている娘がフレンチ警部の元に助けを求めてきた。ふとしたことから賭け事に深入りして大きな借りをつくり、怪しげな提案を受け入れざるを得なくなったというのだ。ところが、相手の男の手首に鎌のような紫色のあざを見たとき、変死した知り合いの娘のことが思い出されて・・・~

フレンチ警部といえば、地道かつ丹念な捜査を続けていくなかで、「ついに光明が!」という展開がいつものパターンですが・・・
今回はいつにも増して苦労の連続。
自宅で捜査の助言を愛妻に頼るほど行き詰ることに・・・(フレンチの妻は実際、「フレンチ警部最大の事件」で事件を解く鍵をフレンチに与えた実績あり!)
殺人事件の謎よりも、切符売りの女性を利用してある大きな犯罪が行われており、本作ではこれを暴くことがメインテーマになります。
ただ、読者にとっては、事件のカラクリ自体の想像はつくものの、だからといって特にトリックやロジックがあるわけでもなく、サスペンス性もそれほどないわけで、どこを楽しんでいいのか分からない作品。ただ単に、フレンチがもがき苦しむさまを延々と読まされる感じになってしまいました。
ラストは犯人グループとの格闘シーンまであり!(ただし、ハードボイルド的な要素も特になし)

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E-BANKERさん
ひとこと
好きな作家
島田荘司、折原一、池井戸潤などなど
採点傾向
平均点: 6.01点   採点数: 1812件
採点の多い作家(TOP10)
島田荘司(72)
折原一(54)
西村京太郎(43)
アガサ・クリスティー(38)
池井戸潤(35)
森博嗣(33)
エラリイ・クイーン(31)
東野圭吾(31)
伊坂幸太郎(30)
大沢在昌(27)