皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.565 | 7点 | 五声のリチェルカーレ- 深水黎一郎 | 2011/10/21 14:09 |
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文庫オリジナルのノンシリーズ作品。
表題作とその表題作と関係ありそうでなさそうな短編による構成。 ①「五声のリチェルカーレ」=あくまで本作のメインはこれ。 ~昆虫好きの大人しい少年の起こした殺人事件。犯罪の低年齢化が進む今日では特に珍しくもない事件と思われたが、唯一動機だけは堅く口を閉ざしていた。家裁調査官の森本が接見で得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉。被害者は誰でもよかったという無差別殺人の告白なのか、それとも・・・~ これは、とにかく最終ページの森本の「あるセリフ」に驚けるかどうかでしょう。 これを読んで「エーッ!!」と驚けば、恐らくもう一度ページを遡ってみるに違いない。「どこで○○○ったのか?」という疑問を持って・・・ 正直、私自身も分かりませんでした。 しようがなく、ネタバレサイトを閲覧して、やっと納得。これは相当高レベルのテクニックですねぇ・・・ ただ、それ以外は割合淡々と進んでいくので、もう一捻りくらいはあっても良かったかもね。 因みに「リチェルカーレ」とは音楽用語で、独立した器楽曲の一形態のこと。 (『擬態』という言葉がキーワード。確かに、人間も知らず知らずのうちに「擬態」してるんでしょう) ②「シンリガクの実験」=ミステリーとはいえない。「五声・・・」の登場人物とはどうやら別の人物らしいです。 こういつ奴って、周りに1人くらいはいそうな気がする。 これも、ラストの1行が印象深い。(「へぇーっ」) |
No.564 | 7点 | サム・ホーソーンの事件簿Ⅰ- エドワード・D・ホック | 2011/10/15 21:38 |
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数多いホックの短編シリーズでも最も登場回数の多い探偵役、サム・ホーソーン医師が主役の作品集。
氏の作品らしく、どれも不可能趣味溢れる作品ばかり。 ①「有蓋橋の謎」="屋根”の付いた橋を一方から渡ったはずの馬車が向こう岸までの間で忽然と消えた謎。消えるどころか、御者の死体まで発見されて・・・作中でホームズ物の名作「ソア橋」が引き合いに出されてますが、直接の関連はありません。 ②「水車小屋の謎」=鉄道便で送ったはずの金庫入りの書類が、到着した駅では消えていた謎。消えるどころか、送り主まで焼死させられて・・・推理クイズとかでよく出てきそうなトリック。分かりやすい伏線が張られてるので、真相に迫るのは簡単かもね。 ③「ロブスター小屋の謎」=婚約披露パーティーの余興に呼ばれた奇術師が密室で殺された謎。これもある小道具が伏線として書かれてますので、何となくトリックは分かりましたが・・・ ④「呪われた野外音楽堂の謎」=アメリカ独立記念日のコンサート会場で衆人環視の中で町長が殺されたが、犯人が忽然と消えた謎。本編が一番御都合主義っぽいトリック。何も衆人環視のなかでこんなことしなくても・・・と思ってしまう。 ⑤「乗務員者の謎」=密室となった列車の乗務員室から大量の宝石が盗まれ、乗務員までも殺された謎。一見すると、相当堅牢な密室に見えましたが・・・真相はちょっと肩透かし的。「○○には気をつけろ!」っていうことかな。 ⑥「赤い校舎の謎」=突然姿が消え、神隠しのように誘拐された少年の謎。これも、真相は「なーんだ」というような感想。電話のトリックは古き良き時代を感じさせる・・・ ⑦「そびえ立つ尖塔の謎」=クリスマスの日。町の教会にある尖塔内(密室)で牧師が死んでいた謎。これはまぁ現実的な解法かなぁ。 ⑧「十六号独房の謎」=牢破りを得意とする伝説の犯罪者。そして、今回も監視の目が光っていた独房から消えてしまった謎。要は「一瞬の隙をついた」っていうことなのだが・・・あまり誉められたトリックではないでしょう。 ⑨「投票ブースの謎」=今回は最も狭いスペースの密室で起こった殺人事件。何と、投票ブース(例の、金属板で仕切られただけのやつね)内で町長候補者が殺されてしまう! これはものすごい難問と思っていたら、あっさり解決。実にあっけない。 ⑩「農産物祭の謎」=別に農産物祭自体に謎があるわけではない。記念日に大観衆の中で埋めたはずのタイムカプセル。すぐに掘り返してみると、そこには何と死体が・・・という謎。トリックはちょっと読者レベルでは分かりにくいなぁ。 ⑪「古い樫の木の謎」=パラシュートで降下中に絞め殺されたスタントマンの謎。本編が一番感心した。短編らしい切れ味のあるトリック&プロットの見本のような作品。だからテニスボールねぇ・・・(でもこれで現役医師が騙されるのだろうかという疑問は感じたが) ⑫「長い墜落」=本編のみ、ホーソーン医師とは無関係の作品。あるオフィスビルから墜落したはずの男が、数時間後に地面に落下した謎。不思議だよねぇ、普通に読めば。これもさすがに面白い。 以上12編。 密室ものを中心に、作者の代表作をセレクトしており、どれも水準級またはそれ以上の作品が並んでいます。トリック自体は眉唾なものや、トリックのためのトリックも混じってますが、まずは十分に楽しめる作品集でしょう。 (個人的には⑪⑫に感心。名作①もなかなか。) |
No.563 | 7点 | 君の望む死に方- 石持浅海 | 2011/10/15 21:35 |
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「扉は閉ざされたまま」の続編的位置付け。
通常の「倒叙」とは違う、作者らしいプロットの練られた作品です。 ~余命6か月・・・癌告知を受けたソル電機社長の日向は、社員の梶間に自分を殺させる最期を選んだ。日向には創業仲間だった梶間の父親を殺してしまった過去があったのだ。梶間を殺人犯にさせない形で殺人を実行させるために、幹部候補を対象とした研修を準備する日向。彼の思惑どおりに進むかに見えた時ゲストに招いた女性・碓氷優佳の恐るべき推理が計画を狂わせ始めた・・・~ 計算され、丹念に作りこまれた作品という印象。 本作の主役は犯人ではなく、犯人役に殺されようとする「被害者」。 ということで、犯人視点の「倒叙」以外に、被害者からの「倒叙」も加わるという凝ったプロット。 探偵役の碓氷を加えた3人の間で虚虚実実の駆け引きが展開されるわけですが、結果的には碓氷の圧勝。 他の方の書評にもありますが、確かに碓氷の推理力が圧倒的すぎて、ちょっと物足りない感はあるかもしれませんね。 思ったよりも辛めの採点のようですが、個人的にはなかなかの良作だと思います。 何より、作品全体に「ピーン」という緊張感が感じられて、「次はどうなる」という期待感を持って読み進めていけるのが何より。 文庫版解説で大倉崇裕氏が「倒叙モノ」の難しさを語られてますが、こういう作品では主人公(本作では日向)の心情と如何にシンクロできるかが生命線だと思いますし、そういう意味でも本作は十分に合格点でしょう。 動機はまぁ、横に置いといて・・・ (それにしても、碓氷優佳のキャラはなかなかいいね。余韻を残した終り方はちょっと消化不良かもね) |
No.562 | 6点 | 学ばない探偵たちの学園- 東川篤哉 | 2011/10/15 21:34 |
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私立鯉ケ窪学園探偵部シリーズの第1弾。
「謎解き・・・」のTVドラマ化も決まり、絶好調な作者の「お笑い系」本格ミステリー。 ~私立鯉ケ窪学園に転校した赤坂通は、文芸部に入るつもりが、何故か探偵部に入部してしまう。部長の多摩川と部員の八橋とともに部活動に励む(?)なか、学園で密室殺人が発生! 被害者はアイドルを盗撮しようとしていたカメラマン。妙な名前の刑事コンビや個性派ぞろいの教師たちが事件をかき乱すなか芸能クラスのアイドルも失踪。学園が誇る探偵部の推理は炸裂するか!~ 「面白い」といえば面白い。 何がと聞かれても困るが・・・ 本作のメインは一応2つの「密室」殺人でしょう。 1つめの密室トリックは「うーん」というほかない。「振りこ」の件が出て、もしかして「島荘の例のヤツ?」と思わせますが、さすがにそれは「捨てトリック」とほっとしたのもつかの間、真相はさらに脱力するもの。アレって、そんなに弾力があるんですかねぇ? 2つめのトリックの方が面白い。映像に向いてそうなトリック。ただ、密室にする必然性が如何せん弱いと思うんですけど・・・ プロットそのものは割りと練られているので、程よいボリュームと相俟ってスイスイ読むことが出来ました。 手軽に本格ミステリーを楽しむにはまぁいいかな。 (祖師谷大蔵警部と烏山千歳刑事って・・・東京近郊の住人か元住人にしか分からないんじゃない?) |
No.561 | 4点 | 魔術の殺人- アガサ・クリスティー | 2011/10/10 16:20 |
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ミス・マープル物の第5長編。
セント・メアリ・ミードから離れ、古い友人のためにひと肌脱ぐマープル。 ~旧友の依頼でマープルは変わり者の男と結婚したキャリイという女性の邸宅を訪れた。そこは非行少年ばかりを集めた少年院となっていて、異様な雰囲気が漂っていた。キャリイの夫が妄想癖の少年に命を狙われる事件が起きたのもそんななかであった。しかも、それと同時刻に別室では不可解な殺人事件まで発生していた!~ 正直「たいしたことない」作品。 「魔術の殺人」などという、大げさな邦題こそ付けられてますが、魔術などというほどのトリックではありません。 (原題は、『They do it with mirrors』。殺人の現場を奇術やショーの舞台と舞台裏に見立てているわけです・・・) 「誰が殺せたか」といういわゆるアリバイが鍵となるわけですけど、別にマープルでなくて刑事レベルでも十分に看破できるようなトリックだと思うんですけどねぇ。 第2の殺人もよく意味が分からなくて、はっきりいって蛇足気味。 何より、複雑でドロドロした一族の姿をさんざん描写している割には、ミスリードもそれほどなく、結局最も怪しげな人物が真犯人という展開はガッカリ。 ということで、辛い評価となってしまいました。 (別に少年院という設定じゃなくてもよかったんじゃない?) |
No.560 | 6点 | 人間動物園- 連城三紀彦 | 2011/10/10 16:16 |
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2002年発表の誘拐ミステリー。
本作もやはり「連城ミステリー」の濃厚な香りが漂います。 ~記録的な大雪にあらゆる都市機能が麻痺するなか、汚職疑惑の渦中にある大物政治家の孫娘が誘拐された。被害者宅の至る所に仕掛けられた盗聴器に一歩も身動きのとれない警察。追い詰められていく母親、そして前日から流される動物たちの血・・・二転、三転の誘拐劇の果てにあるものとは何か?~ なんとも形容し難い作品。 これぞ「連城」というしかないし、他の作家では書けない作品でしょう。 第1部では、奇妙な誘拐事件とそれに翻弄される家族・警察の姿が描かれるが、何ともいえない「違和感」が読者の心に積み重なってくるような感じ。 そして、第2部終盤以降で、事件そのものが鮮やかに反転させられる・・・ 冒頭から、普通の誘拐事件ではないという匂いがプンプンさせてましたが、そういう「構図」だったとは・・・ この辺りは、やはり作者の力量を感じずにはいられません。 ただ、他の方の書評にもありますが、「読みにくかった」のは確か。 視点が次々と変わっていく流れや、思わせぶりな表現が多く挿入されていたため、展開を呑み込むのに時間がかかってしまいました。 「動機」はどうですかねぇ・・・ 確かにリアリティ的にはキツイ気はしますが、プロットそのものに直結してますから、これはこれでいいとは思いますが・・・ (結局、身代金がすり替わった件はどうなったのだろうか?) |
No.559 | 7点 | 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 | 2011/10/10 16:13 |
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1つの長編作品と呼ぶべきか中短編集と呼ぶべきか迷う作品。
タイトル作を2つの小作品が挟み込むようにしていて、なかなか凝った作り。 ①「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん」=まぁ前菜+デザートという位置付けでしょうか。最初読んだら、「こりゃなんの意味だ?」としか思えないでしょうけど・・・(よかったね、ナノレンジャー拾えて) ②「The Ripper with Edouard」=米国の小都市を舞台とした無差別殺人事件が一応のテーマですが・・・これも「何の関係があるの?」って最初思ってしまう。テーマは、高い木の上に吊り上げられた死体。 ラストにオチが用意されてますが、これ単独では「ふーん」という感想にしかならない。 ③「安達ケ原の鬼密室」=表題作であり、あくまでも本作のメインはこれ。 ~太平洋戦争中、疎開先で家出した梶原少年は疲れ果て倒れたところをある屋敷に運び込まれる。その夜、少年は窓から忍び入る「鬼」に遭遇してしまう。翌日から、虎の像の口にくわえられた死体をはじめ、屋敷内に7人もの死体が残された。50年の時を経て、"直観”探偵・八神が真相を解明する!~ これは普通の長編に十分できるプロットだと思うけどなぁ・・・ スタイル的には、どこか「占星術殺人事件」を思い起こさせるけど・・・(戦中の荒唐無稽な未解決事件だし) 途中挿入されている「密室の行水者」がモロにヒントになっているので、これを読めば、メインの謎もおのずと分かってしまう仕掛けなんでしょう。 動機やら、アレが「鬼」に見えるか?など、細かい部分はちょっと流しているなぁという印象。 一読者から見たら、「こんな変化球にしなくても・・・」と思ってしまいますが、作者からすると、「二番煎じ」感が気になったのかもしれないですね。 (だから、こんな凝ったスタイルにしたのか?) トータルでは、なかなか楽しめたし、決して悪くない作品だとは思います。 |
No.558 | 6点 | 魔王- 伊坂幸太郎 | 2011/10/05 22:34 |
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表題作とそれから5年後のストーリー(「呼吸」)からなる作品。
他作品より若干「硬派」な印象がしましたが・・・ ~会社員の安藤は弟の潤也と2人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて1人の男に近づいていった。何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語~ 何となく考えさせられた。 表題作の主役・安藤(兄)も、「呼吸」の主役・潤也(弟)もある特殊能力を持ち、それを試しながら世の中に挑戦(?)していこうとする。 まぁ、特殊能力という設定自体、作者の十八番とするところですし、使い方がうまいですね。 兄の「腹話術」能力っていうのは、ともすると漫画チックになりそうなのに、「政治」とか「ファシズム」といったかなり硬派なテーマのせいで、ついつい読まされてしまいました。 (政治家に対する感情や思いっていうのは、まさにそのとおりだねぇ) 個人的には、潤也の特殊能力は相当羨ましい! (夢の「単勝ころがし」がいつでもできる!) ただ、ミステリーとは呼べない作品でしょうから、評価はこんなものかな。 ラストはちょっと中途半端なので、続編(「モダンタイムス」)に期待します。 |
No.557 | 6点 | 七人のおば- パット・マガー | 2011/10/05 22:33 |
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「被害者を捜せ!」に続く長編2作目。
本作でも独特のアイデアが光る作品でしょう。 ~結婚して英国に渡ったサリーは、NYの友人からの手紙でおばが夫を毒殺し、自殺したことを知った。だが、彼女には七人ものおばがいるのに、手紙には肝心の名前が記されてなかったのだ。一体どのおばが? 気懸かりで眠れないサリーに夫のピーターは、おばたちについて語ってくれれば犯人と被害者の見当をつけようと請け負う。サリーはおばたちと暮らした7年間を回想するのだが・・・~ プロット&アイデアには感心させられる。 こういうパターンもありですよねぇ。 ただそんなことより、何よりもスゴイのは、「七人のおば」たちの強烈なキャラクター! こんな女たち、絶対嫌だ! 女性の嫌な部分をすべて持っているといっても過言ではないおばが七人も・・・ とにかく、個性たっぷりに七人を書き分けた作者の筆力は賞賛に値する。 ただ、ミステリーとしてはそれほど評価できないような気がしました。 フーダニットについても、サプライズ感は小さいですし、「あの人物」についての不自然さは普通気付くだろう! (ミスリードかとも思いましたが、それがすんなり真相だったとは・・・) 回想部分も正直長すぎるし、謎解きに関係のある箇所の割合が小さすぎるのは否めない。 ということで、面白さは感じながらも、評価としてはこんなもんかなぁ。 |
No.556 | 7点 | 狐火の家- 貴志祐介 | 2011/10/05 22:32 |
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作者唯一の本格長編ミステリー「硝子のハンマー」に続く、防犯探偵シリーズ第2弾。
セキュリテイ会社社長且つ犯罪者(?)でもある榎本と、美人弁護士・純子とのコンビが「密室」の謎に挑む。 ①「狐火の家」=田舎にある古い日本家屋で起こった密室殺人、って書くと、何だか「本陣殺人事件」を思い起こさせますが、そんなに精巧(?)な密室ではありません。1箇所だけ空いていた窓がどういう意味を持っていたのかが事件の鍵に・・・ ②「黒い牙」=これは「何とも言えない」・・・ある意味相当グロい作品。気味の悪いある生き物と、その生き物を愛でるマニアの間で起こる殺人事件。これってやっぱり「遠隔殺人」になるんでしょうね。しかし、このトリックを実行できる「犯人」には恐れ入る。 ③「盤端の迷宮」=鍵どころかチェーンまで掛かったホテルの部屋での密室殺人。これが一番本当の「密室」らしい作品でしょうか。将棋界の裏側で起こっている問題(本当?)を絡ませ、真犯人&被害者の心理から発生した「密室」・・・なかなか面白い作品。 ④「犬のみぞ知る」=これは、作者らしからぬバカミス! ただ笑うしかないオチとキャラクター。こんな作品も書けるんですねぇ。 以上4編。 本シリーズらしく、すべて「密室殺人」を扱った作品集。 ただ、「密室」とはいっても「硝子のハンマー」のように「ハウダニット」に拘った堅牢な「密室」というよりは、「ホワイダニット」に焦点を当て「密室」を構成するに至った過程に拘っている印象。 榎本&純子のコンビもすっかり板についていて、こんな軽いタッチの作品も楽しませてくれる作者の力量に改めて感服しました。 こういうホラー以外の作品もたまには出してほしいね。 (②は個人的にとにかくグロかった。夢に出てきそう!) |
No.555 | 8点 | さむけ- ロス・マクドナルド | 2011/09/28 21:37 |
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ゾロ目555番目の書評は、作者というかハードボイルドの代表作とも言える本作で。
私立探偵リュウ・アーチャーが独特の「渋さ」で、複雑な人間関係を切り裂きます。 ~実直そうな青年アレックスは、茫然自失の状態だった。新婚旅行の初日に新妻のドリーが失踪したというのだ。私立探偵アーチャーは見るに見かねて調査を開始した。ほどなく、ドリーの居所はつかめたが、彼女は夫の許へ帰るつもりはないという。数日後アレックスを尋ねたアーチャーが見たものは、裂けたブラウスを身にまとい、血まみれの両手を振りかざし狂乱するドリーの姿だった。ハードボイルドの新境地を拓いた巨匠畢生の大作~ さすがに読み継がれるべき大作という感想ですねぇ。 物語は、序盤~中盤はドリー&アレックスを中心に進みますが、何となく先が見えないじれったい感覚。 中盤以降、隠された過去の殺人事件が明るみに出てからは、事件の構図が一変し、スピーディーな展開に。 徐々にスポットライトが当てられる1人の人物・・・コイツの立ち位置がなかなか分からなかったなぁ。 ロイの周りを何人もの女性の姿が見え隠れするが、実際の登場人物とイマイチ噛み合わないと思ってるうちに、終盤へ。 そして、ラスト1頁の「衝撃!」。 確かに、これは本格ミステリー顔負けの「大ドンデン返し」という奴でしょう。 犯人像は終盤以降明らかにされてましたけど、まさか「アイツ」がねぇ・・・今回は完全にヤラレた。 他の方の書評にもありますが、アーチャーの造形は、例えばF.マーロウなどとは違っていて、後者が「動」とすれば、「静」というイメージ。 (もちろん、行動力は他のハードボイルド探偵に負けないですが・・・) 自身の考えや想いに拘りながら、あくまでも愚直に真実を追究するアーチャーの姿は、やはりカッコイイ。 本作を読了した後は、多くの方が、まさにタイトルどおり「さむけ」を感じるんじゃないかな? |
No.554 | 6点 | 陰獣- 江戸川乱歩 | 2011/09/28 21:36 |
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角川ホラー文庫版で読了。
乱歩中期の傑作と評される作品ですが・・・ ①「陰獣」=探偵作家の寒川に資産家夫人・静子が助けを求めてきた。捨てた男から脅迫状が届いたというのだが、差出人は探偵小説家の大江春泥。静子の美しさと春泥への興味で寒川はできるだけの助力を約束するが、春泥の行方は掴めない。そんなある日、静子の夫の変死体が発見された~ 乱歩の匂いが濃厚に漂う作品だなぁ。 乱歩らしい世界観とロジックが微妙な具合に融合していて、その辺のミックス加減が本作の「高評価」を生んでいるのでしょう。 「大江春泥」と「平田一郎」。謎の2人の人物をめぐって、寒川の頭の中で、様々なストーリーが形作られる・・・ 静子の造形も何とも乱歩らしい。 (乱歩好きなら、堪えられない作品なのでしょう) ②「蟲」=これはミステリーというか、軽いホラーでしょう。「虫」ではなく、「蟲」としたタイトルが言い得て妙。 前半~終盤はどうでもよくって、ラスト1頁にすべてが集約されてます。 |
No.553 | 7点 | 螢- 麻耶雄嵩 | 2011/09/28 21:35 |
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今や本格ミステリーの雄とも言える作者の第7長編。
考え抜かれた技巧の数々が込められた秀作(?) ~オカルトスポット探検サークルの学生6人は京都山間部の黒いレンガ屋敷「ファイヤフライ館」に肝試しに来た。ここは10年前、作曲家の加賀蛍司が演奏家6人を殺した場所。そして半年前、1人の女性メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されている。そんな中での4日間の合宿。ふざけ合う仲間たち。嵐の山荘での第1の殺人はすぐに起こった~ これは、「長所」と「短所」が入り混じった作品。 他の方の書評どおり、叙述トリックについてはかなり「レベルが高い」(分かりにくいとも言える・・・) 特にいわゆる「○別誤認」については、正直面食らった! (なんで、そんなことに平戸が驚くのかって) まさか、読者には最初から明かしていて、作中の人物には分かっていないとはねぇ。 「視点」の件は最初から違和感がかなりあったので、誰もが「何かある」と気付いたはず。 いずれにしても、結構作者の技巧は高レベルで、読み手の力量を問われる作品なのでしょう。 いわゆる典型的なクローズド・サークルもので、これぞ「新本格」とでもいうべき雰囲気。 埋め込まれた技巧や伏線はそれなりに見事なのですが、何となく、詰め込みすぎて消化し切れてないという気がするのも事実。 この辺は好みの問題かもしれません。 (「人物が描けてない」なんて無粋なことはいいませんが、どうしても上すべり感があるんですよねぇ・・・) |
No.552 | 6点 | 溺れる人魚- 島田荘司 | 2011/09/24 21:55 |
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ミタライ・シリーズの作品集。
ウプサラ大学の同僚・ハインリッヒ視点もあり、いかにも最近の「ミタライ」もの。 ①「溺れる人魚」=舞台はリスボン。そして、テーマは「精神医学」。ただし、殺人事件のトリックは何ともアナログなもの・・・。市電が「単線、単線」とクドイほど書かれてるので、当然何かあるとは思いましたが、まさかこんなトリックとは! (でも行ってみたいねぇ、リスボン) ②「人魚兵器」=舞台はデンマーク~ポーランド。「人魚」と言えば美女というイメージですが・・・ここに登場する人魚は何とも醜悪。ナチス・ドイツ絡みの話ではトンデモない「兵器」がよく出てくるよなぁ。こんなことを本気で実験していたとは、まさに「狂気」。 ③「耳の光る児」=舞台はロシア・クリミア地方。「タタール人」のルーツを辿るうちに、チンギス・ハーンが統一した「モンゴル帝国」へ行き着く。作者あとがきにも書かれてますが、確かにモンゴル帝国の謎というのも相当魅力的だよねぇ。(そういや、ジンギスカン=源義経説なんてのもあったなぁ) ④「海と毒薬」=どうしても遠藤周作の同タイトル作を思い浮かべますが、当然それを踏まえています。本作だけは、「人魚」やウプサラ大と全く関連なし。1人の不幸な女性が「異邦の騎士」を読んで勇気付けられるというストーリー。(何で、これを加えたの?) 以上4編。 もはや、通常のミステリーという「器」からは大きくはみ出している印象。 確かにどの作品(④は除く)にも「謎」は呈示されるが、その解法は、医学や科学的知識抜きでは到達できないもの(だいぶ平易に咀嚼されてはいますが)。 ただ、何と言うか、並みの作家とは「レベル」が違うという感じ。 トリックがどうとか、プロットがどうとかいうレベルではもはやないのでしょう。 相変わらず、読者を(強引に)惹き込むパワーは健在だし、最後には「ホロリ」とさせられたり、「いろいろ考えさせられたり」・・・なすがまま。 でもねぇー、やっぱり、ファンとしては、昔の若き頃の「御手洗潔」(ミタライではない)の活躍が読みたいんですよ! 荒唐無稽でもいい。石岡とのコンビで、最後には何だか「ジーン」とさせられる御手洗の活躍、書いてくれませんかねぇー。 |
No.551 | 6点 | 鍵孔のない扉- 鮎川哲也 | 2011/09/24 21:53 |
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鬼貫警部シリーズの長編。
同シリーズらしく、巧緻なアリバイ崩しが主眼の作品です。 ~徹頭徹尾、謎に満ちた長編。声楽家で野生的な美貌を持つ久美子と、その夫で伴奏ピアニストを勤める冴えない男・重之。この音楽家夫妻に生じた愛情の亀裂を発端に殺人事件が発生した。被害者は久美子の浮気相手と思われる放送作家だった。事件は華やかな芸能界の裏面に展開。犯人確実と目された重之の容疑が晴れると、捜査は混迷の一途を辿る。やがて、犯人は大胆にも第2の殺人を予告してきた・・・~ まさに「これぞ、鬼貫警部シリーズ」とでも言いたくなる作品。 作者が「あとがき」でも触れているとおり、真犯人は作品中盤でほぼ確定し、あとは如何に堅牢なアリバイを崩すのかに移る。 どの作品でもそうですが、とにかく見せ方がうまい。 本作では「被害者の靴」が、真犯人の仕掛けた欺瞞を解く「鍵」になっており、ここが判明すればあとはスルスルと解けることに・・・ 「電話」については、時代を感じさせますねぇ。 (特に、天○と天○の違いなんて、ニクイねぇー。だからこその舞台設定!) ただ、密室(とは言えないかな?)については拍子抜け。 あれだけ鍵の構造について講釈をたれたのですから、もう少し凝ったトリックかと思いきや・・・(あれとはねぇ) まぁ、初心者でも中毒者でも安心して読める作品というのが鮎川ミステリーの良さでしょう。 (今回は「時刻表」は出てこないので、その方面が苦手な方も気軽に読めるのでは?) |
No.550 | 7点 | 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー | 2011/09/24 21:51 |
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550冊目の書評は、カーの中でも1,2を争う秀作と名高い本作で。
シリーズ探偵であるフェル博士やアンリ・バンコランは登場しませんが、作者らしいオカルティズム溢れる独特の雰囲気を持つ作品。 ~広大な敷地を有するデスパード家の当主が急死した。その夜、当主の寝室で目撃されたのは古風な衣装をまとった婦人の姿だった。その婦人は壁を通り抜けて消えてしまう・・・! 伯父の死に毒殺の疑いを持ったマークは、友人の手を借りて埋葬された遺体の発掘を試みる。だが、密閉された地下の霊廟から遺体は跡形もなく消え失せていたのだ。消える人影、死体消失、毒殺魔の伝説。不気味な雰囲気を孕んで展開するミステリーの1級品~ 確かに、これは評価に迷う作品。 本筋での大きな謎は2つ。 「部屋の壁の中に消えた婦人の謎」と、「密室(霊廟)から忽然と消えた死体の謎」。 2つ目の謎の解法はなかなかのもの。細かく時間的な齟齬を読者に突いてくるあたり小憎らしい。まさに「困難は分割せよ」だね。 それに対して、1つ目の奴はねぇ。「これしかない」といえばそうなんでしょうが・・・(「薄明かり」だったというのが伏線なのは分かる) 問題の部屋の見取り図すらないというのはちょっと不親切でしょう(これは作者でなく、版元の問題?) ブランヴィリエ公爵夫人という伝説の毒殺魔の影をちらつかせるなど、得意のオカルティズムは他作品よりも濃密で、いい味出していると感じます。 そして、問題の最終章のどんでん返し。 これを「是」とするか「否」とするのか・・・それほどインパクト孕んだラスト。 個人的には「微妙」ですねぇ。ミステリー的には、なくても特に問題ないように思えますが、これがあることで、数あるカーの作品中でも別格の扱いとされてきたのでしょうし、それを思えば「価値」を認めない訳にはいかないでしょう。 というわけで、トータルの評価としては、読む価値は十分認められる「佳作」ということでいいのでは。 (実にカーらしい作品なのは間違いなし) |
No.549 | 6点 | 巻きぞえ- 新津きよみ | 2011/09/17 00:07 |
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「デイリーサスペンスの女王」(って初めて聞いた)、新津女史の短編集。
すべて「死体」から始まる珠玉の心理サスペンスです。 ①「第一発見者」=都会だけでなく、誰でも死体の第1発見者になんてなりたくないものです。登場する2人の女性って、結局つながりはないってこと? ②「巻きぞえ」=飛び降り自殺する女性に、偶然「当たり」死んでしまった男。こんな「巻きぞえ」なんて嫌だ! でも、これが偶然ではなかったっていうラストの反転がブラック。 ③「反対運動」=最後には、我慢してきた女性の「怖さ」がヒシヒシと伝わる。 ④「行旅死亡人」=旅先等で身元不明のまま死んでしまった人のことを指すらしい。血のつながりって何なのか、考えさせられる話。 ⑤「二番目の妻」=テーマは夫婦間の腎臓移植。自分の臓器を配偶者に提供するなんて、究極の「愛」の印なのでしょうか? ⑥「ひき逃げ」=子供同様に可愛がっていた子犬を轢き逃げされた女性、そして轢いてしまった側の女性が2人。どうせなら、ラストもう少しブラック寄りでもよかったんじゃない? ⑦「解剖実習」=死体からの「語り」っていうのが斬新。そして、これまた何とも言えない偶然の血のつながりがあったなんて・・・皮肉だねぇー 以上7編。 ミステリーとしてはどうかと思いますが、どの作品も短編らしい切れ味のあるプロットや仕掛けで、なかなかの力作。 ちょっとした女性心理なんていうのは、やっぱり女流作家ならではでしょうね。 気になったのは、反対に、夫のキャラがちょっと紋切り型のような・・・ (どれも水準級の作品。敢えて言うなら②か④) |
No.548 | 8点 | 幽霊の2/3- ヘレン・マクロイ | 2011/09/17 00:06 |
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精神科医ウィリング博士を探偵役とする作者の第15長編。
女流作家らしい丁寧な筆致が心地よい。 ~人気作家エイモス・コットルを主賓に迎えたパーティーが、雪深いコネチカット州にある出版社社長の邸宅で開かれた。腹に一物あるらしき人々が集まる中、余興として催されたゲーム「幽霊の2/3」の最中に、当のエイモスが毒を飲んで絶命してしまう。招待客の1人、精神科医のウィリング博士は、警察に協力して関係者から事情を聞いて回るが、そこで次々と意外な事実が明らかになる。果たして真相は?~ これはさすがの面白さ。 本筋の毒殺事件のトリックや真犯人そのものは、それほどたいしたものではない。 本作は、むしろ主人公かつ被害者である、エイモスという人物そのものの謎にスポットライトを当て、周りの怪しげな人物を含めた謎に深みをもたらしてる感じ。 探偵役であるウィリング博士が行き着いた真相そのものは、ミステリーとしての奇抜さはともかく、プロットの妙は十分に堪能させてもらいました。 まぁ、うまいですよねぇー 当時の出版業界の裏側も垣間見えるようで、その辺も興味深く読ませていただきました。 まずは、安心してお勧めできる佳作という評価でしょう。 (ヴィーラって、悲しい女だねぇ。 まっ、自業自得だけど・・・) |
No.547 | 4点 | 笑ってジグソー、殺してパズル- 平石貴樹 | 2011/09/17 00:05 |
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名探偵更科ニッキの初登場作品。
動機無視、ロジックに徹した純粋パズラー。 ~国際ジグソーパズル連盟日本支部長を務める興津華子の死の床は、肩書きに相応しくジグソーパズルのピースで彩られていた。三興グループの実質的オーナーである彼女の死から数日、夫栄太郎が同じ部屋で殺され、現場には夫人の時と同様、パズルのピースが多数散らばっていた。捜査に伴って多額の遺産や系列会社のデータ捏造に絡む背後関係が浮かび、容疑者が絞り込まれるなか、程なく第3の殺人が起きる!~ うーん。期待して読んだだけに、正直ガッカリ。 紹介文読んだら期待しちゃいますよねぇー、本格ファンなら。 現場見取り図や怪しげな遺留物、ワケありそうな資産家一族など、魅力的なギミックは詰まっているのですが・・・ 如何ともしがいたいほどの、上っすべり感。 しかも、名探偵ニッキのキャラがあまりにも魅力に乏しい! いくらロジックに徹しているからといっても、「小説」としてこれではヒドイのではないか? これなら、推理クイズの方が時間を浪費しない分、まだ救いがある。 辛口の書評になりましたが、期待していただけにその反動が大きいということで・・・ (「誰もがポオを・・・」は果たしてどうなのか?) |
No.546 | 6点 | 裁きの終った日- 赤川次郎 | 2011/09/11 15:01 |
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大御所・赤川次郎初期のノンシリーズ長編。
大金持ちの旧家を舞台に起こる連続殺人事件の不可思議な謎とは? ~大富豪が殺された。高名な犯罪研究家が事件を解明しようとしたその時、犯人と名乗り出た娘婿はナイフで研究家の心臓を一突きに! この事件を皮切りに一族をめぐる企みは動き出す。失脚工作、浮気の復讐・・・さまざまな思惑や打算が渦巻くなか、詳細を黙秘する娘婿は果たして犯人なのか?~ 作者らしからぬシリアスな雰囲気の作品。 本筋は紹介文のとおり、大富豪である老女の殺人事件であり、自首した男が本当に真犯人なのか、という謎。 そこに、大富豪一家の人間たち、そしてその周辺の人々のさまざまな欲望が絡み合い、複雑な味わいになっている。 トータルでみても、なかなか面白いと思いましたね。 まぁ、視点の人物がつぎつぎと変わっていくため、ちょっと落ち着かない印象になっているのが玉に瑕でしょうか。 ラストもある意味では印象的かもしれませんが、サプライズというほどでもない。 そこら辺り、ややプロットのアラかもしれませんが、シリーズもの以外でもこのような佳作を残している点はうれしい限りです。 もう一捻りあれば、言うことなしなのですが・・・ |