皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.612 | 7点 | 地を這う虫- 高村薫 | 2011/12/25 21:06 |
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「守衛」や「代議士のお抱え運転手」、「サラ金の取立屋」など、日陰にありながら矜持を保ち続ける男たちの周りに起こる事件。
作者らしいやや硬質な文章が光るノンシリーズの作品集。 ①「愁訴の花」=主人公はある警備員。以前の「職場」で殺人を犯した同僚の男が出所してきたとき、過去の事件が再び脳裏に蘇ってきて・・・。「上からの圧力」って奴には弱いよねぇ、宮仕えなら・・・ ②「巡り遭う人々」=主人公は中小サラ金会社の取立屋。東京郊外の工場経営者の元へ取立に出向くが、そこで起こるちょっとした事件と、中央線の電車の中で偶然出会った旧友の謎。終盤、それが結びついたとき・・・ ③「父が来た道」=主人公は大物政治家のお抱え運転手。毎日毎日、政治家や秘書たちにアゴで使われる日々だが、男にはある秘密があった・・・。永田町の腐りきった権力闘争や実父の辿ってきた道に嫌悪感しか抱いてなかった主人公が、やがて気付く本当の「大人の想い」とは・・・。なかなか「深い」ね。 ④「地を這う虫」=主人公は2つの現場を掛け持ちする守衛。この男、とにかく几帳面で目にしたことや、考えたことをすべて手帳にメモしなければ気が済まない。そして、身の回りで頻発する空き巣事件の謎に気付いたとき、男は行動を開始する。確かに、こういう几帳面さは必要だとは思うが、決して真似できない! 以上4編。 ①~④とも実は主人公が「元警察官」という共通項を持つ話。それぞれ、やむにやまれぬ事情で警察官を辞し、生活のため今の職業に就いている男たち。(①は退官だが) ということで、どこか世間に対し、正直になれないところを持ちながら、やはり一人の「人間」「男」として「矜持」を持ち続けている・・・ 最近弱いんですよ、「矜持」という言葉に・・・。 辞書によれば「矜持」=自負心とかプライドという意味なのですが、どこか「孤高の男」というイメージのある言葉のように感じてしまって、どこか自分自身を重ね合わせたがってるのかな? 本作の主人公たちも、心に傷を抱えながらも、腐ることなく己の本分を貫いているわけです。 そんな男たちの姿を、深い余韻とともに浮かび上がらせている作者の筆力はやはりスゴイ。 コンパクトな作品集ですが、一読の価値はあります。 (③がベストかな。他もまずまず。) |
No.611 | 6点 | そして誰もいなくなる- 今邑彩 | 2011/12/25 21:02 |
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1993年発表の長編作品。
タイトルのとおり、A.クリスティの歴史的名作「そして誰もいなくなった」のオマージュ作品。 ~名門女子高の式典の最中、演劇部による『そして誰もいなくなった』の舞台上で、服毒死する役の生徒が実際に死亡してしまう。上演は中断されたが、その後も部員たちが芝居の筋書き通りの順序と手段で殺されていく・・・。つぎのターゲットは私? 部長の江島小雪は顧問の向坂典子とともに、姿なき犯人に立ち向かうが。戦慄の本格ミステリー~ 趣向としては面白いと思った。 完全な「孤島」であった本家とは異なり、本作の舞台は「女子高内」という緩い括りはあるものの、一応は開かれた空間。 そんな中で、「見立て」殺人だと被害者(候補)たちが認識していながら殺されていくという「違和感」をどのように解消するかが、本作のプロットの中心の筈。 この部分に作者の「苦心」が見受けられますね。 連続殺人に一応の解決がついてから、3度のどんでん返しがあり、強烈なインパクトを残しているのは事実。 「女子高」や「女子高生」という、(特に男性にとっては)謎の多い空間・人種が扱われているのも舞台設定の勝利。 ただ、やっぱり「違和感」が完全に解消されているとは言い難い。 特に「動機」については、どうなのかなぁ・・・ 本作の場合、連続殺人の直接の「動機」や、それを間接的に支援(?)した「動機」など、関係者のさまざまな「思惑」が絡み合っているわけですが、それが度を越した「作り物感」を感じさせてるような気にさせられる。 言い換えると、最後の「どんでん返し」のための道具立て・・・という感覚が拭えないのだ。 (それがプロットと言えばそれまでだが・・・) でもまぁ、トータルで見ればそれなりによくできた作品だとは思いますし、一読の価値は十分ありでしょう。 |
No.610 | 6点 | 深夜プラス1- ギャビン・ライアル | 2011/12/25 20:59 |
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1965年発表のサスペンス。
冒頭の「パリは4月であった。・・・」という台詞が有名な作品。 ~ルイス・ケインの引き受けた仕事は、マガンハルトという男を車で定刻通りまでにリヒテンシュタインへ送り届けることだった。だがフランス警察が男を追っており、さらに彼が生きたまま目的地へ着くのを喜ばない連中もいて、名うてのガンマンを差し向けてきた。執拗な攻撃をかいくぐり、ケインの車は闇の中を疾駆する。熱気をはらんで展開する非情な男の世界を描いて、英国推理作家協会賞を受賞した冒険アクションの名作~ サスペンスフルであり、ハードボイルド的要素もある作品。 一人の男を警備しながら、フランス~スイス~リヒテンシュタインを旅し、その間あらゆる男たちに命を狙われるマガンハルトと主人公・ケインその他。 いろいろな作戦でマガンハルトの命を狙う男たちと、主人公・ケインの知恵比べ的な展開もあり、全編で緊張感を含んでいるところがGood。 そして、ラストに明らかにされる予想外の事件の構図。 というわけで、良質サスペンスの要素は詰まっているかなという感想。 ただ、訳文のせいかもしれませんが、なにかスッと頭に入ってこないような、もどかしい感じもした。 マガンハルトをめぐる裏の構図や事件全体のプロットの部分に今一つ捻りが少ないのもちょっと不満。 あと、是非とも「地図」が欲しい! 地理は割と得意な方で、大まかな方向感くらいは分かるが、フランスやスイスの細かい地名が頻繁に、しかも重要な意味を持って出てくるのだから、せめて「地図」くらいないとねぇ・・・(これは版元の問題だが) 時代背景を考えれば、まずまず水準級の作品という評価。 |
No.609 | 5点 | 孔雀狂想曲- 北森鴻 | 2011/12/22 23:43 |
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下北沢にある骨董品店「雅蘭堂」を舞台に起こるちょっとした事件の数々。
連作短編の名手・北森鴻が贈る作品集。 ①「ベトナム・ジッポー1967」=ジッポーに纏わる薀蓄が新鮮。ベトナム戦争時に友人がくれたジッポーに絡む哀しい過去が、今明きらかに・・・ついでに女性キャラ・安積が登場。 ②「ジャンクカメラ・キッズ」=初めて聞いた!「ジャンク・カメラ」なんていうジャンルとその使い方。そして、本作では更なる意外な使用方法がとある犯罪に絡んでくる。 ③「古九谷焼幻化」=主人公・越名兄弟の天敵、犬塚が仕掛ける「古九谷焼」の謎。信じられないような逸品が出てくる旧家の鑑定会で絶品の古九谷焼が目の前に現れるが・・・ ④「孔雀狂想曲」=不思議な鉱石である「孔雀石」に纏わる作品。「雅蘭堂」に孔雀石を求めに来た怪しい人物が殺害されてしまう。 孔雀石ってそんなものだったのかぁ・・・ ⑤「キリコ・キリコ」=本作の主人公・樹里子(キリコ)に残された切子(キリコ)。そして、祖父の毒殺未遂事件の謎が明らかにされる。 ⑥「幻・風景」=越名集治が持つもう一つの顔が「絵画サーチャー」。つまりは、埋もれた絵画を捜す仕事。作家兼画家が残したとされる2枚の風景画に纏わる謎。またしても、犬塚が罠を仕掛ける。 ⑦「根付け供養」=「根付」っていうと本当に骨董品という気にさせられる。昔、越名に恥をかかされた男がその意趣返しを行うが・・・ ⑧「人形転生」=今回の品は「ビスクドール」。「なんでも鑑定団」でよく出てくる「ジュモー作」が有名なやつ。著名な人形蒐集家が焼死させられた謎が解かれる。 以上8編。 それぞれに違った「骨董品」がテーマとなり、それに纏わる人物と謎が主人公・越名の卓越した頭脳によって明らかにされるというプロット。 まぁ、うまいんですけどねぇ。こういう作品は、まさに作者の十八番ですから、もう安心して読むことができます。 ただ、あまりインパクトはないわな。味わい深いというふうにも言えますが、もう少し派手な展開も欲しい気はします。 「なんでも鑑定団」が好きな方にはお勧め。 (飛び抜けていい作品はなし。どれも水準級かな。) |
No.608 | 8点 | 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー | 2011/12/22 23:41 |
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エルキュール・ポワロ登場の長編第25作目の作品。
作者中期の傑作という評判もありますが・・・ ~「リチャードは殺されたんじゃなかったの?」・・・アバネシー家の当主・リチャードの葬儀が終わり、その遺言公開の席上、末の娘のコーラが無邪気に口にした言葉。すべてはその一言がきっかけだったのか。翌日、コーラが惨殺死体で発見される。要請を受けて事件解決に乗り出したポワロが、一族の葛藤のなかに見たものとは?~ 「実にうまい」作品。熟成したワインのような味わい(!) とにかく、プロット的にはクリスティらしさが十分に出ていて、これぞ王道ミステリーと呼びたくなる。 プロットの鍵は「大いなる欺瞞」という表現が合ってるかなぁ・・・ 作品序盤から、作者のミスリードは始まってるわけで、並みの読者なら簡単に騙されるかもしれません。 「鏡」の伏線なんて秀逸でしょう。(何とも言えない小憎らしい演出です) 敢えて難を言うなら、あまりにも「らし過ぎて」、クリスティに慣れた読者ならば何となく気付いてしまうかもしれないというところか。 でもちょっとその「動機」には気付かなかったなぁ・・・ あとは、真犯人のある行動が、あまりにもリスクがあって、ムリがあるのではないかという点。 (いくら「知らなかったり」、「しばらく見ていなかった」としてもねぇ・・・) というようにアラを探せばあるのですが、トータルではやはり高品質な佳作という評価は揺るぎないのではないでしょうか。 (初読の筈なのに、既視感があったのはなぜ? もしかして再読だったのか?) |
No.607 | 5点 | 学生街の殺人- 東野圭吾 | 2011/12/22 23:39 |
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いわゆる初期の「青春ミステリー」に分類される作品。
前作「卒業~雪月花ゲーム」と共通する喫茶店が登場するなど、物語の舞台は共有している模様。 ~学生街のビリヤード場で働く津村光平の知人で、脱サラした松木が何者かに殺害された。「俺はこの街が嫌いなんだ」と数日前に不思議なメッセージを光平に残して・・・。第二の殺人は密室状態で起こり、恐るべき事件は思いがけない方向に展開していく。奇怪な連続殺人と密室トリックの陰に潜む人間心理の真実とは?~ 割と普通のミステリーだったなというのが感想。 本作の発表が1987年ということで、やはり何か一昔前の若者群像というか、まさに「私個人」が過ごした学生時代の匂いがして、そういう意味では親近感が湧いた。 で、本筋の殺人事件だが、何となく予定調和のような読後感。 第1、第2の殺人は、フーダニットはともかく、密室トリックはちょっといただけないレベル。エレベーターを使ったごく簡易的な準密室というイメージだが、わざわざ「密室トリック」と仰々しく紹介するほどではないでしょう。 そして、事件の背景として登場するA○だが、何となく浮いている感じがして、どうもしっくりこない。 そして、第三の殺人だが、これは安易なのでは? 出てきた重要な登場人物を割り振っていったら、必然的にこうなるようなぁという感じがしてしまった。 主人公である光平君にとってはツライ体験かもしれませんが、人生ってこういうもんだよっと言いたいね。 まぁ、こういう手の作品が好きな人や、とにかく「東野圭吾が好き」っていう方以外ならスルーしてもいい作品かと思う。 (こういう光平みたいな奴がモテるんだよねぇ・・・なぜか) |
No.606 | 3点 | 犬坊里美の冒険- 島田荘司 | 2011/12/17 15:26 |
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「龍臥亭事件」で初登場した美少女・犬坊里美が弁護士のタマゴとして活躍する長編作品。
まさか、あの里美までもメインキャラクターに昇格するとは・・・ある意味作者の懐の深さに驚かされる。 ~衆人環視の岡山・総社神道宮の境内に、忽然と現れて消えた一体の腐乱死体。容疑者として逮捕・起訴されたホームレスの冤罪を晴らすために、司法修習生・犬坊里美が活躍する。里美の恋と涙を描く青春小説として、津山・倉敷・総社を舞台にした旅情ミステリーとして、そして、仰天の大トリックが炸裂する島田「本格」の真髄として、面白さ満載のミステリー~ 感心しませんねぇ・・・ 一言でいうなら、ボリュームの割に「薄っぺらい」作品っていう感じでしょうか。 「ホームレスの老人が起こした冤罪を晴らすために立ち上がる・・・」っていうと、何だか作者往年の名作「奇想、天を動かす!」を思い出しますが、全く似て非なるもの。 本筋の殺人事件の謎については、「死体消失の謎」のほぼ一点張り。 トリックもねぇ・・・紹介文では「仰天の大トリック」なんて書いてますが、ミステリー好きでない人なら「何これ!」って怒り出しそうな気がしてなりません。 本作は、現代日本の司法制度全体が如何にいいかげんなものなのか、それが結局「冤罪」を生み出す大きな理由になっているのだ、という作者の思いが反映されたものになってますが、それが里美のキャラと全く合ってない。 ラスト、法廷の場で真相が明かされ、里美の苦労(!?)が報われるわけですが、その場面がますます「薄っぺら感」を増長させてる。 何で作者がこんな作品書いたんだろう? って思って、文庫版あとがきを読むと、本作って雑誌「女性自身」に連載された作品だったんですねぇ・・・ まぁ、この手の女性雑誌に連載するから、ここまで噛み砕いて、軽めのノリにしなければならなかったわけか・・・ でもなぁ・・・これでは、本当のファンを失いかねないよ! (里美みたいなキャラ、人気あるんだろうなぁ・・・。どうでもいいけど、女性雑誌に岡山弁って馴染まないような気はするが・・・) |
No.605 | 6点 | 隅の老人の事件簿- バロネス・オルツィ | 2011/12/17 15:23 |
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ロンドン・ノーフォーク街にある『ABCショップ』(喫茶店?)の片隅に居座り、チーズケーキを頬張る変なおじいさん、こと、名もなき「隅の老人」が活躍する作品集。
今回は、創元版の「ホームズのライヴァル」シリーズで読了。 ①「フェンチャーチ街の謎」=シリーズを通じて「隅の老人」の相手役となるミス・バートンも最初から登場。前述の「ABCショップ」の紹介を含め、冒頭の作品に相応しい。 ②「地下鉄の怪事件」=さすがにロンドンにおける地下鉄の歴史は古い!と変な所に感心。「金は10の犯罪のうち9までの動機になりうる」という台詞はシリーズ全編に共通するプロット。 ③「ミス・エリオット事件」=この作品をはじめ、たびたび登場するのが「人の入れ替え」または「誤認」に関するトリック。 ④「ダートムア・テラスの悲劇」=ちょっとした思い違いが事件の鍵となる・・・。あまり印象には残らず。 ⑤「ペブマージュ殺し」=これは「動機」がどうかなぁ? 登場人物の配役を無理やり割り振った感じ。 ⑥「リッスン・グローブの謎」=これはなかなか面白い。トリックの実現性云々は置いといて、プロット自体は多くの長編作品へも応用可能なもの。でも、実の娘がねぇ・・・金って怖い! ⑦「トレマーン事件」=こんな大掛かりな謎を隅に座りながら解決してしまう・・・何だか妄想のようにも見えるが・・・。 ⑧「商船アルテミス号の危難」=単なる殺人事件ではないところがやや異色の作品。本筋とは関係ないが、このアルテミス号の積荷というのが、「ロシアが旅順にて使用する速射砲」っていうことは、時代背景から考えて日露戦争で使用するための武器?! ⑨「コリーニ伯爵の失踪」=これなんて、まさにこの作品集の「典型」とも言える作品。周りも簡単に騙されるなよなぁ・・・ ⑩「エイシャムの惨劇」=またまた「入れ替え」ならぬ「取り違え」がプロット。 ⑪「バーンズデール荘園の惨劇」=今回は「金」と「愛情」。この2大動機が絡み合うところがミソ。 ⑫「リージェント・パークの殺人」=要は初歩的なアリバイトリックだが、暗闇で仕掛けるからこそのトリックが面白い。 ⑬「隅の老人最後の事件」=まさに「最後の事件」に相応しいが、最終的に動機や事件の背景・構図が不明のまま終了。この辺りがドルリー・レーン譚などとは違ってる。 以上13編。 ごく薄手の本なのだが、独特の読みにくさもあって、読了まで結構時間を要してしまった。 全体的には、他の方の書評にもありますが、とにかくプロットの似通ったものが多いということかな。さすがに似ている作品を13も続けて読むと、どうしても1つ1つの印象が弱まるのは避けられない。 そういう意味でいうと、ホームズ作品の方が優れているということになるのだが、ホームズのように実際に現場に出向いたり、関係者と会話したりというところがない分、純粋に謎解きを楽しめるという気はした。 まぁ、これがいわゆる「安楽椅子型探偵もの」(隅の老人は純粋な安楽椅子探偵とは違うようだが)の「良さ」かな。 (⑥や⑫辺りが面白かった。あとは⑧・⑬を除けば似通った感じ・・・) |
No.604 | 7点 | 冷たい密室と博士たち- 森博嗣 | 2011/12/17 15:21 |
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「すべてがFになる」に続くS&Mシリーズの長編2作目。
今回は犀川が所属するN大が事件の舞台に。 ~同僚・喜多准教授の誘いで低温度実験室を訪ねた犀川准教授とお嬢様学生の西之園萌絵。だがその夜、衆人環視かつ密室状態の実験室の中で、男女2名の大学院生が死体となって発見された。被害者は、そして犯人はどうやって現場の部屋に入ったのか。人気の師弟コンビが事件を推理し真相に迫るが・・・~ 本格好きなら単純に楽しめる作品だと思う。 前作もそうだが、本作もとにかく「密室」に拘った作品。 ただし、前作ではアクロバティックな解法であった密室が、本作では非常に「ミステリーらしい」解法が成されるのが特徴。 これは好みが分かれるのかもしれませんが、こと「密室」に関しては、個人的には前作よりも好感を持った。 犀川の推理過程はまさしく『困難は分割せよ』を地でいくものだし、ロジックはたいへんしっかりしている。 「低温室」に纏わる小道具(例の宇宙服ね)も実に効いていて良い。 まぁ、難をいうなら、多くの方が指摘しているとおり「動機」や事件の背景についての面。 他の方の書評を見るまで気が付かなかったけど、確かに「服部さん」を殺す動機は超薄いよなぁ・・・ いずれにせよ、十分に楽しめる作品には間違いないという評価。 (萌絵みたいなキャラってやっぱり人気あるんだろうなぁ・・・こういうのが売れる1つの要素かも) |
No.603 | 6点 | 原始の骨- アーロン・エルキンズ | 2011/12/11 21:38 |
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大好評のスケルトン探偵シリーズの15作目の長編。
今回の舞台は、イベリア半島にあり古くから要所として知られている地・「ジブラルタル」。 ~ネアンデルタール人と現生人類との混血を示唆する太古の骨・・・。この大発見の5周年記念行事に参加すべく骨の発見されたジブラルタルを訪れたギデオン。だが、喜ばしい記念行事の影には発掘現場での死亡事故をはじめ、不審な気配が漂っていた。彼自身まであわや事故死しかけ、発見に貢献した老富豪が自室で焼死するに至り、ギデオンは疑いを深めるが・・・一片の骨から先史時代と現代にまたがる謎を解く!~ まずはテーマが興味深い。 「ネアンデルタール人」なんて久しぶりに聞いた気がする。 (私の頭の中では人類の直接の祖先がネアンデルタール人だという認識だったが、どうもそれは誤っているらしい。) こういう話題に「捏造」というのは、非常に親和性があり、門外漢の私にもたいへん分かりやすいプロットだった。 それはともかく、本筋の連続殺人事件は何だかオマケのように思えた。 トリックや仕掛けには特に見るべきものはなし。 ただ、フーダニットについては、なかなか小憎らしい「伏線」が撒かれてるのが唯一の読み所か。 ある「地名」についての誤解や、真犯人の「性格」についての記述がいい具合にラストで回収されていく手練手管は見事。 ということで、安定感十分のシリーズものという評価でいいのではないでしょうか。 (ジブラルタルの薀蓄も満載でなかなか興味深い) |
No.602 | 5点 | 裁判員法廷- 芦辺拓 | 2011/12/11 21:36 |
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2009年より本格的に始まった「裁判員裁判」に先駆けて発表された意欲作。
名探偵・森江春策が本職の弁護士として、裁判の舞台で大活躍。 ①「審理」=まずは、裁判員裁判の序章的な位置付け。攻める菊園検事に対して、効果的な突っ込みを入れる森江という図式が続くが、ラストはやや尻切れ気味に。 ②「評議」=2作目は1作目よりもやや深い事件についての裁判が舞台。これも1作目同様、「結局出廷することを拒んだ証人」というプロットが共通しているが、尻切れだった①に比べ、本作は一応判決が下される。 ③「自白」=この作品のみが書き下ろし作、且つテレビ朝日の土曜ワイド劇場でドラマ化された作品。(たまたま見てた) ①②よりもまともなミステリー風で、アリバイの「錯誤」が事件の鍵となっている。ラストは法廷の場で真相が明らかにされる。 以上3編。 読む前は、てっきり長編作品だと思ってましたが、それぞれが独立した事件&裁判になってます。 確かに「裁判員裁判」を扱ったという意味では、画期的な作品かもしれないが、それ以外にはあまり見るべきものはなかったなぁ。 冒頭から「あなた」とルビ入りで、読者をあたかも裁判員の1人として扱っているので、てっきり何か「叙述系トリック」がラストで炸裂するかと思いきや、そのようなサプライズは特になし。 地味なまま終わった。 作者の作品って、いつも何かが足りないような気がする・・・(何かは分からないが・・・)。 |
No.601 | 6点 | 陽気なギャングが地球を回す- 伊坂幸太郎 | 2011/12/11 21:34 |
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「オーデュポンの祈り」、「ラッシュライフ」に続く作者の第3長編。
映画化され、続編も発表されたいわゆる「出世作」という位置づけの作品。 ~嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持った女。この4人の天才(?)たちは百発百中の銀行強盗だった・・・はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ。奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。ハイテンポな都会派サスペンス~ さすがに大衆受けはしそうだけど、他の作品よりは若干落ちるかなという読後感。 いつもなら、まさに「伊坂ワールド」とでも言うべき特殊設定下で、作者の気の利いた「台詞まわし」に翻弄されながら、次々とページを捲らされていく・・・という結果になるのだが、今回はそれほどでもなかった。 確かに、銀行強盗の4人は常人にはない「特殊能力」を持っているわけで、そういう意味ではいつもどおりなのだが、プロットそのものは特に「ブッ飛んでる」感はなく、ややノーマルなもの。 終盤~ラストも、ちょっと盛り上がりに欠けるように思えた。 本作は、サントリーミステリー大賞への応募作「悪党たちが目にしみる」を下敷きに「手を入れた」作品であり、その辺りがやや影響しているのかも? ただ、エンタメ小説としては十分に及第点の出来だと思いますので、まぁ誰が読んでも一応の満足感は得られるかと・・・ (本作の舞台はいつもの仙台ではなく「横浜」なのが珍しい。まぁどうでもいいけど。) |
No.600 | 5点 | 鉄の骨- 池井戸潤 | 2011/12/10 00:38 |
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600冊目の書評は、吉川英治文学新人賞受賞の本作で。
今や、乱歩賞&吉川英治賞&直木賞まで受賞した作者の、躍進のきっかけとも言える作品。 ~中堅ゼネコン・一松組の若手社員・富島平太が異動した先は「談合課」と揶揄される、大口公共工事の受注部署だった。今度の地下鉄工事を取らないと「ウチが傾く」・・・技術力を武器に真正面から入札に挑もうとする平太らの前に、「談合」の壁が。組織に殉じるか、正義を貫くか。吉川英治文学新人賞に輝いた白熱の人間ドラマ~ これぞ「空飛ぶタイヤ」以降、作者が確立した熱血&勧善懲悪経済エンタメ小説。 今回の舞台は、未だ旧態依然とした「談合」により、業界の利益を守ろうとする建設業界。作者は、1人の若者を通して、この「暗い闇」にスポットライトを当て、見事な人間ドラマに仕上げてます。 「工事落札」に心血を注ぐ平太と上司、「談合事件」を摘発しようとする検察特捜部、銀行員である平太の恋人とライバルの融資課員など、すべての人物が、その良し悪しに関わらず、己の矜持を貫いているわけです。 (相変わらず、分かりやすい勧善懲悪の図式は今回も健在。) ただねぇ、あまりにもデフォルメし過ぎているような感覚は持ってしまった。 無論、一般読者向けに平易で分かりやすい表現やプロットをというのは、販売サイドから見ればあるんだろうけど、実際、日頃厳しい社会の端くれとして働いている私自身として、「こんな単純な話じゃないよ!」って突っ込みを入れたくなるシーンがあまりにも多い。 (もちろん、フィクションだと分かってますけどね・・・) 本作は、主人公である平太がいっぱしのサラリーマンとして成長していく、というのが1つの大きな本筋ではありますが、いくらなんでも入社して3年目のヒラ社員が、ゼネコン談合のフィクサーと対等に話をするという図式は、ちょっと荒唐無稽すぎるよなぁ。 というわけで、『ホントは、こんなに簡単じゃないんだよ、平太君!』って諭したくなる場面が何度もありました。 ミステリー度は極めて低いし、もう少し「厳しさ」や「緊張感」のある作品を書いて欲しいという願いをこめて、評価はやや辛めに抑えておこう。 (作品中の兼松課長や西田係長みたいな地道な人が、日本経済の底辺を支えているんだよなぁ・・・) |
No.599 | 6点 | エンジェル家の殺人- ロジャー・スカーレット | 2011/12/10 00:33 |
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謎(?)のミステリー作家、R・スカーレットの1932年発表の第4長編。
江戸川乱歩が激賞し、自身で「三角館の恐怖」へ翻案した作品としても有名。 ~エンジェル家はまるで牢獄のような陰気な外観を持つ家だった。しかも内部は対角線を引いたように二分され、年老いた双子の兄弟が其々の家族を率いて暮らしていた。彼らを支配していたのは長生きした方に全財産を相続させるという亡父の遺言だった。そして、死期の近いことを感じた兄が遺言の中味を変更することを提案した時から全ての悲劇が始まった。愛憎渦巻く2つの家族の間に起こる連続殺人事件を巧みなストーリー&サスペンスで描いた古典的名作~ 舞台は理想的だが、やや尻つぼみ。 っていうのが、読後の感想でしょうか。 悪意ある遺言といがみ合う家族、真ん中にあるエレベーターにより2分された妙な「館」と作品中に挿入された数々の見取り図、そして「密室殺人」と謎の帽子の男・・・どうですか! 凡そ本格物を愛する読者であれば、この舞台設定を見れば狂喜乱舞してもおかしくない(!?) ただ、惜しいなぁ。この舞台設定が十分生かしきれてるとは言えない。 まずは「密室」。 エレベーターで3階から1階へ降りるまでの間に殺人が起こるのだが、このトリックでは仕掛けの「跡」が残ってしまうという致命的な欠点がある!(実際、それをケイン警視が見つける) つぎに「フーダニット」。 動機からのアプローチがかなりあからさま。全体的に「金」への執着心というものが前面に出され過ぎて、それがダミーなのだということがどうしても分かってしまうのだ。 というような欠点が目に付き、高評価というわけにはいかないのだが、やっぱり好きなんだよなぁ、こういう作品。 乱歩を始めとして、日本の作家へも強い影響を与えたのは確かだと思う。 (新訳版のせいか、非常に読みやすく、「館」の平面図が豊富に挿入されており大変親切) |
No.598 | 6点 | トライアル- 真保裕一 | 2011/12/10 00:30 |
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公営ギャンブルに生きる人々にスポットライトを当てた短編集。
それぞれに作者の「行き届いた」取材振りが窺える気がしました。 ①「逆風」=舞台は競輪(主人公の所属は立川?)。借金を重ね失踪した実兄が競輪場に姿を見せたと同時に、不審な男たちの姿が見え隠れしてきて・・・という展開。ラストは少しホロッとさせる。 ②「午後の引き波」=舞台は競艇。夫婦で競艇選手という妻の方が主人公。最近、年齢のせいか結果を残せていない夫が見せる不審な行動の謎。妻の方が稼ぎがいいっていうのは、夫としてはツライよねぇ。 ③「最終確定」=舞台はオート(所属は船橋)。なかなか壁を破れず、ランク下位に沈んでいる主人公にかかってくる電話の謎。頑なな父親との関係と自分自身の煮え切らないレース振り・・・なんか分かるよなぁ。 ④「流れ星の夢」=舞台は競馬(JRAじゃなくて、公営川崎競馬が舞台)。新入りの厩務員が担当するクセ馬や故障馬が見違えるように変身していく謎。さて厩務員の正体は? 以上4編。 全て公営ギャンブルが舞台だが、どちらかというと華やかな「光」の部分ではなく、燻ってたり、迷ったり、焦ってたり・・・という「影」の部分に焦点を当て、うまくまとめてある感じ。さすがにうまい作家ですよ。 (④以外は「家族」がプロットの骨子になってる) 個人的には、競馬以外はそれ程詳しくないので、特に競艇やオートの薀蓄や舞台裏はなかなか面白かった。 まぁ、サラッと読むには手軽でいい作品集でしょう。 (『参考文献』にある「ギャンブルレーサー」って、昔「某週刊モー○ング」で連載してた奴? 確かに抜群に面白かったけど・・・) |
No.597 | 6点 | 暗い鏡の中に- ヘレン・マクロイ | 2011/12/03 21:42 |
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精神科医ウィリング博士が登場する作者の第11長編。
オカルト的題材を扱った有名作。 ~ブレアトン女子学院に勤めてまだ間もない女性教師フォスティーナは、校長から突然解雇を申し渡される。理由を尋ねるも、校長は口を濁して語らない。彼女に何の落ち度があったのか。彼女への仕打ちに憤慨した同僚のギゼラと、その恋人で精神科医のウィリングは事情を調べ始めるが、関係者が明かした原因の全貌は想像を絶するものだった。ウィリングは謎の解明に挑むが、その矢先に学院で死者が出てしまう・・・~ なるほど、マクロイっぽい作品だなと思いました。 いわゆる「ドッペルゲンガー」現象を事件の背景に取り込んだことで有名な作品ですが、本格志向の読者にとっては、このトリックや真相ではちょっと不満が残りそうですねぇ。 たまたま同時期に書評した泡坂妻夫の「湖底のまつり」もそうなのですが、要は「取り違え」、簡単にいえば「錯誤」によるトリック。でもちょっと現実的には「ありえないだろっ」的な感想になってしまうわけなのです。 それに、真犯人がここまでオカルト現象の創出に拘った理由が今一つ分からないというのもあるかな・・・ ただ、本作はいわゆるトリックやドンデン返しといった、インパクトの大きさで評価すべき作品ではなく、怪奇性とロジックをうまい具合に融合させた、その美しさを評価すべき作品なのでしょう。 そういう意味では、さすがにマクロイらしい、繊細な筆致や細やかな心理描写を味わえる佳作という評価でもいいんじゃないかな。 (「暗い鏡」というのが象徴的で、なかなかいいね) |
No.596 | 5点 | 鬼の跫音- 道尾秀介 | 2011/12/03 21:38 |
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ブラック風味溢れる短編集。
ジワジワと恐怖が心根に浸食していく感じが何とも言えない作品が並んでます。 ①「鈴虫」=一見して普通の男が過去に犯した罪。そして、それが露見するとき、さあどうなる? 「鈴虫」という存在自体がまるで何かの象徴のように思える・・・ ②「ケモノ」=刑務所で作られた椅子に奇妙な文書が彫られ、それは家族を惨殺した猟奇殺人犯が残した不可解な単語が、哀しい事件の真相を示していた・・・ ③「よいぎつね」=子供のいたずらが、本当の「罪」になってしまうという忌まわしい過去。そして、その過去が主人公の記憶に蘇るとき・・・ ④「箱詰めの文字」=これは相当ブラック。ドンデン返しの連続も効いていて、短編らしい切れ味を感じる作品。ただ、何となく既視感はありますが・・・ ⑤「冬の鬼」=これは④以上にブラック、っていうか寒気がした。日記風の文書形式でストーリーは進みますが、日付が逆になっていく(=徐々に遡っていく)という趣向が凝っている。 ⑥「悪意の顔」=同級生のひどい「イジメ」に怯えて毎日を過ごす少年が出会った女性は、何でも中に入れられる不思議なキャンパスを持っていた・・・こんなキャンパス欲しいわ! 以上6編。 最近こういう手の作品が多くなってるような気がしますし、そういう意味ではちょっと食傷気味にさせられる。 さすがに道尾氏らしく「うまさ」を感じるが、それだけではあまり高い評価はしにくい。 まぁ、いわゆる「軽~いホラー」なので、それほど読者を選ばないのが長所でしょうか。 (④⑤はなかなか面白い。それ以外は・・・それ程でもないかな) |
No.595 | 5点 | 湖底のまつり- 泡坂妻夫 | 2011/12/03 21:37 |
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「11枚のトランプ」、「乱れからくり」に続く作者の第3長編。
1978年より「幻影城」誌で連載され、評判を呼んだ作品。 ~傷心を癒す旅に出た若い女性・紀子は、東北地方の山村で急に水量の増した川の岩場に取り残される。岸に戻ろうと水に入った紀子は流れに呑まれそうになるが、ロープが投げられ辛うじて救出された。助けてくれたのは、土地の若者・晃二で、その夜彼の家に泊まった紀子は抱かれる。しかし、晃二は1か月前に毒殺されていたのだ。では、紀子を助け晃二と名乗ったのは誰なのか? 文学的な香気漂う作品~ これは・・・「幻想小説」でしょうか? 第2章「晃二」の章に進んだとき、全ての読者が「アレッ??」と思うはず・・・そして、どんなトリック・騙しが仕掛けられているかという期待感を持つはず・・・ ただ、このトリックというか真相はどうだろう? 「騙し」のプロットそのものは実に泡坂氏らしいし、「そういう手で来たか!」と思わせる。 でもねぇ・・・さすがに「気付くだろう!」、紀子も! 一応、言い訳めいたフォローはしていますが、ここまでリアリティを無視されるとやや興ざめにはさせられた。 「亜愛一郎」シリーズのように軽妙な作品と並んで、こういう「大人な」作品も多いのですが、これはちょっと嗜好が合わないというのが正直な感想。 (アッチ系の描写も実に上手いね) |
No.594 | 7点 | 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件- 麻耶雄嵩 | 2011/11/28 22:28 |
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記念すべき(?)作者デビュー長編にして問題作。
実はノベルズ版出版時に購入し読んでいたのですが、その後しばらくの間、私を「麻耶嫌い」にさせた作品でもあるのです。 ~首なし死体、密室、蘇る死者、見立て殺人・・・etc。京都近郊に建つヨーロッパ中世の古城と見紛うばかりの館・「蒼鴉城」を私が訪れたとき、惨劇はすでに始まっていた。2人の名探偵の火花散る対決の行方は。そして迎える壮絶な結末・・・名立たる作家たちの賛辞を受けた著者のデビュー作~ 再読して改めて思いましたが、何とも言えない「パンチ」の効いた作品ですよねぇ。 本作が出版された当時、弱冠20歳の青年が作者だと分かったとき、相当の衝撃を受けましたが、同時に、全編に漂う何とも言えない「作り物めいたような」、「地に付いてないような」文書とあまりにも詰め込み過ぎた本格モノのガジェットに中てられ、この作者の作品は読むべきではないという気にさせられてしまいました。 ただ、メルカトル鮎登場以降、次々に出しては壊される推理&真相は、やっぱり圧倒的なパワーは感じざるを得ません。 はっきりいって、「密室トリック」(これは笑撃!)にしても、「見立て」(これもスゴイね)にしても、最後に明かされる真犯人の正体(これに至ってはもう笑うしかない・・・)にしても、もはやリアリティ云々なんて完全に無関係。とにかく、「書きたいことを書きたいように書いている」としか言いようがない。 これを「是」とするか「否」とするかは、読者の嗜好と度量次第でしょう。 「私」?・・・まぁ、決して嫌いではないですよ。もちろん。 麻耶雄嵩という稀代のミステリー作家が、成虫に羽化していくためのまさに「蛹」の作品なのでしょう。 その後、余計な肉を削ぎ落とし、見事な成虫になったのですから・・・ (なんか、書評になってないような気がしますが・・・) |
No.593 | 7点 | 続813- モーリス・ルブラン | 2011/11/28 22:25 |
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前作「813」の続編。
A.ルパン最大級の冒険譚がいよいよ終結(!)。なかなかの大作。今回も堀口大学訳の新潮文庫版で読了。 ~謎の人物、L・Mの手によって刑務所に放り込まれたルパンは、持ち前の沈着冷静さで警察陣を翻弄して脱獄に成功。一路ベルデンツの廃城へ向かう。全ヨーロッパの運命を握る秘密を解くカギが、必ずあるに違いない・・・が、またしてもL・Mの恐るべき刃は先回りしていた。L・Mとはいったい何者なのか? ルパンの鋭い追及の前についに姿を現した人物は意外にも・・・~ これは「さすが」のスケールと面白さを備えた作品でした。 「813」と「続813」の合計ではなかなかのボリュームですが、それだけの価値は十分ありでしょう。 (「813」の粗筋を忘れる前に読んで良かった!・・・) さて、問題の人物「L・M」ですが、まぁ数多のミステリーが出版された現代においては、十分予想できた結果でしたが、それでもこれはこれで何とも言えないような驚きと悲しみに満ちた真相だという感想。 まさに「毒婦」という称号がピッタリ(ってこれは完全にネタバレかな?) 全ヨーロッパの運命を握る秘密ってほどの秘密ではないような気もするし、「813」の暗号に関する仕掛けは大したことはありません。 そんなことより、警察や政府をあれほど手玉に取るルパンが、美女や愛する女性を前に苦悩していることのギャップが、なんともフランス人(作家)らしいんでしょうねぇ・・・ いずれにしても、歴史に残る作品として、1度は手に取ることをお勧めします。 「813」と「続813」トータルとしての評価。 (「ヘルロック・ショルメス」って、冗談きつくないですか! フランス人ってイギリスのこと本当に嫌いなんだろうな・・・) |