皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.645 | 7点 | 時の娘- ジョセフィン・テイ | 2012/02/20 22:41 |
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グラント警部シリーズにして、歴史ミステリーとして有名な長編。
入院したグラントが、ベッドの上で主に書物を読んで推理していくという完全アームチェア・ディテクティブスタイル。 ~薔薇戦争の昔、王位を奪うためにいたいけな王子を殺害したとして悪名高いリチャード3世・・・彼は本当に残虐非道を尽くした悪人だったのか? 退屈な入院生活をおくるグラント警部は、ふとしたことから手にした肖像画を見て疑問を抱いた。警部は徒然なるままに歴史書を紐解き、純粋に文献のみからリチャード3世の素顔を推理する。安楽椅子探偵ならぬベッド探偵登場!~ 素直に面白かった。 翻訳物で「歴史ミステリー」というのは初めて読んだが、個人的にこういうジャンルは好きなので・・・ リチャード3世といえば、シェイクスピアの戯曲を持ち出すまでもなく英国歴史上「稀代の悪人」というイメージはある。 本作を読む限り、英国でもこの図式は当てはまるようで、教科書でも歴史教育でも「悪人」という扱いのようです。 井沢元彦の「逆説の日本史」シリーズを愛読しているせいもあるのですが、王朝など権力者が交代する際は、以前の権力者に対する誹謗中傷が必ずといっていいほど行われるものなのです。これは、日本史であろうが英国史であろうが一緒。 (新しい権力者にとっては、当然自身の権威を高めていく必要があるわけですから) 本作では、大法律家であるトマス=モアがかなりこき下ろされてますが、彼こそがまさに新しい権力者を擁護する立場の人物。 こういう大人物が文献の中で「リチャード3世は悪い奴」という内容を残してしまうのがクセモノ。その後の人々に誤った印象を残すことになってしまう・・・ 私個人の感想でも、リチャード3世は傑出の大政治家のように思えますねぇ。 まぁ、日本史に比べると英国を始めとする西欧史はそれほど詳しいとはいえないので、あまり断言はできませんが・・・ とにかく、歴史ミステリー好きな方にはお勧め。 (ハヤカワ文庫版で訳者・小泉喜美子女史ですが、非常に読みやすい) |
No.644 | 7点 | 宿命- 東野圭吾 | 2012/02/20 22:38 |
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比較的初期のノンシリーズ作品。
ちょうどトリック重視の作品から脱皮を図っていた頃なのかなぁ・・・ ~高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければならなかった男は、苦闘の青春を過ごしたあと、警察官となった。男の前に10年ぶりに現れたのは学生時代ライバルだった男で、奇しくも初恋の女性の夫となっていた。刑事と容疑者、幼なじみの2人が宿命の対決を果たすとき、余りにも皮肉で感動的な結末が用意される・・・~ ある意味、実に東野圭吾らしい作品のような感じを受けた。 確かに地味と言えば「地味」な作品でしょう。 トリッキーな密室トリックや、精緻なアリバイトリックがあるわけではなく、フーダニットのサプライズ感も薄い。 それでも、ページをめくる手が止まらないリーダビリティはやっぱり作者ならではなのだろう。 出版当時の作者のことばによると、本作一番の読み所はラスト1行と断言してますが、確かにこの1行を書くためにそれまでの濃密なドラマはあるのでしょう。 中盤以降、瓜生家の過去が事件の背景として大きな意味を持つことが判明する。そして、主人公・勇作と元恋人・美佐子の過去そして運命が絡んでいく・・・ 何とも重いテーマなのに、読み終わった後には爽やかな感覚さえ残る・・・これこそが大作家・東野圭吾の真骨頂。 「脳波」の話はちょっと作りこみが足りず、リアリティが薄い点が惜しいが、トータルでは十分評価できる作品。 |
No.643 | 8点 | 富豪刑事- 筒井康隆 | 2012/02/20 22:36 |
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大富豪の一人息子・神戸大介刑事を主人公とした短編集。
ミステリーをいい意味で皮肉った軽いノリが何とも言えない・・・ ①「富豪刑事の囮」=ある事件の容疑者4人から真犯人を絞り込むために、神戸刑事が取った大富豪にしかできない「囮作戦(!)」 結局誰が犯人かなんてどうでもいい! とにかく鈴江さんが異常なまでに魅力的。 ②「密室の富豪刑事」=一応、殺人現場が「密室」のように思える現場って・・・なんてミステリーっぽいんだ!! 神戸刑事は謎を解くために、事件現場と同じような建物をもう1つ建ててしまう。同僚の刑事たちも実に魅力的にドタバタする。 ③「富豪刑事のスティング」=誘拐事件がテーマ。身代金が支払えない被害者家族に代わって、神戸刑事が身代金を立替えることに。 本作では「小説中における時間の連続性を捻じ曲げる」というプロットが堂々と展開される・・・実に面白い。 ④「ホテルの富豪刑事」=市内に2つの暴力団勢力が集結し、神戸刑事が所属する警察署が厳戒態勢を敷く。警備がしやすいようにと神戸刑事が取った手段は、ホテルの全部屋をまるごと予約するというもの・・・。そして発生する銃殺事件。まぁ、真相そのものは何ということもないんですけど。 以上4編。 いやぁ、とにかく面白い。さすが筒井康隆です。 ミステリー云々とかいうレベルではなくって、エンタメ小説として秀逸。 神戸刑事や鈴江さん以外のキャラ、父親や同僚の刑事たち・・・面白すぎ! とにかく笑いたい方にはお勧め。 (①~④までどれもが滅法面白い。) |
No.642 | 4点 | テニスコートの謎- ジョン・ディクスン・カー | 2012/02/16 22:45 |
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フェル博士を探偵役に据えた長編第11作。
いわゆる「足跡のない」雪密室ならぬ、「砂密室(!)」を扱った作品。 ~雨上がりのテニスコートの中央に倒れていた死体。しかしコートには被害者の足跡しか残されていなかった。それ以外の人間がコートに出入りした形跡は皆無。屋外の密室とでもいうべき第一の殺人に続いて、再び第二の殺人が発生する。この場合も、殺人現場の建物に出入りした第三者はなく、居合わせた関係者は相互に共通のアリバイがあった。この2つの奇跡の殺人は、まさに不可能犯罪そのものである。しかし、何者かの仕業でなければならない。この奇跡を受けて立つのは天才フェル博士~ 確かにこれは「いただけない」箇所が多いなぁ。 謎の提示については、さすがに巨匠カーらしく魅力的な設定そのもの。 なんたって、「足跡のない密室殺人」という超一級の不可能犯罪ですから・・・ ラストに明かされる真犯人は、一応サプライズ感もあり、それなりに良質なミステリーたる資格があるようには見える。 ただなぁ、トリックがかなりヒドイ。 フェル博士の説明を読む限り、一応リアリティは感じるのだが、こんなトリックをもったいぶって書く必要があるのか?という気分にはなった。 (このトリックが成立するうえでの、真犯人=被害者の関係というのは分かるが・・・) 第2の殺人の方はさらにヒドイのでは。 ということで、他の有名作並みのクオリティを期待すると肩透かしをくうかもしれません。 (まさかカーの作品で大笑いするとは思わなかった。特に、ローランドの父親の部下がテニスコートで何回も転倒させられる場面・・・ローランドも笑いすぎだろ!!) |
No.641 | 7点 | 家日和- 奥田英朗 | 2012/02/16 22:43 |
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夫と妻、そして家族をテーマとした作品集。
第20回柴田錬三郎賞受賞作。 ①「サニーデイ」=夫や子供から相手にされなくなった専業主婦が嵌っていくもの・・・「ネットオークション」(!)。ホントに時間を忘れるほど熱中するものらしいですねぇ。良い評価をしなかった落札者への感情なんかも笑える。ラストはいい話に。 ②「ここが青山」=会社が突然倒産した夫だが、なぜか主夫業に嵌ってしまう・・・。でも、なんか分かるなぁー、幼稚園児の子供の弁当作りに夢中になるところなんか。1日に3回聞くことになった言葉が、「人間いたるところに青山あり」。『じんかんいたるところにせいざんあり』って読むこと知ってる? ③「家へおいでよ」=妻と別居し、自分好みに自宅を改装することに嵌っていく男。いつしか、気の合う会社の同僚たちの溜まり場と化していくところなんか分かるなぁー。(自宅がAVシアターって夢だもんね) そして気付く、妻とのすれ違いの原因・・・。 ④「夫とカーテン」=根っからの営業マンだが、自分の才覚をかてに起業と転職を繰り返す夫、そして夫がピンチのときになぜか絶好調になるイラストレーターの妻。これこそが絶妙な夫婦の関係っていうんだろう。でも、夫の真の能力を知らない妻って多いんじゃない? ⑤「妻と玄米御飯」=ロハスに嵌っていく妻と、その姿を楽しみながらも冷静に観察する作家の夫。これってやっぱり「奥田家」がモデルなんだろうなあ? 確かにこういう妻や優子さん夫婦なんて輩は皮肉りたくなるってもんです。 以上5編。 ホントに面白い。作者のストーリーテリングの能力はスゴイの一言。 どの作品も、日本中のあちこちに実在しそうな夫婦や家族の姿が描かれていて、読者はいつの間にか自身を重ね合わせながら読んでしまう。(かく言う私もそう) そして、読んだ後には「ホッコリ」した気持ちにさせられる・・・何とも言えない読後感なのだ。 それもこれも、やっぱり登場人物たちが実に生き生きと描かれているからなのだろう。 ここが並みの作家とは違うところ。 コンパクトな作品集ですし、ちょっと気分が落ち込んだときなんかにはお勧めの1冊。 まぁ、ミステリーではありませんが・・・ (①~⑤まで全てが秀作。個人的に好きなのは④かな。) |
No.640 | 6点 | 大誘拐- 天藤真 | 2012/02/16 22:41 |
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岡本喜八監督で映画化もされた天藤真の長編代表作。
第32回日本推理作家協会賞受賞作。 ~大阪刑務所で知り合った戸並健次、秋葉正義、三宅平太の3人は出所するや営利誘拐計画の下調べにかかる。狙うは紀州随一の大富豪・柳川家の当主とし子刀自。全国に聞こえる資産家で、持山およそ4万ヘクタール、小柄な体躯ながら齢82歳を重ねてなお矍鑠たる女丈夫だという。かくして犯人グループと被害者は運命の邂逅をし、破天荒な大誘拐劇の幕が開く。まさに絶品の誘拐ミステリー~ さすがの秀作ってところでしょうか。 誘拐ミステリーは数あれど、ここまで「劇場型」誘拐劇を追求した作品も珍しい。 誘拐された側であるはずのとしこ刀自の「動機」こそが、本作一番の「謎」となるわけですが、その辺りはまぁ想定の範囲内。 でも警察サイドを完全に煙に巻いてしまう老婆の年季には恐れ入ります。 作者のストーリーテラーぶりやプロットの妙を堪能することもできました。 ただ、思ったほどのカタルシスは得られなかったのも事実。 別段弱点があるわけでもないのに、なんでだろうという気もするのですが・・・ まぁ、一言でいうなら「経年劣化」ってことなのかな? でも十分に楽しめるエンタメ小説であることは事実でしょう。 (登場人物のキャラ立ちは見事!) |
No.639 | 6点 | ノンストップ! - サイモン・カーニック | 2012/02/10 23:16 |
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21世紀の英・クライムノベルをリードする新鋭、S.カーニックが2006年に発表した第5長編。
たった2日間に巻き起こる、まさに「ジェットコースター・サスペンス」。 ~電話の向こうで親友が殺された。死に際に僕の住所を殺人者に告げて。その瞬間から僕は謎の集団に追われ始めた。逃げろ! だが、妻はオフィスに血痕を残して消え、警察は無実の殺人で僕を追う。走れ、逃げろ、妻子を救え! 平凡な営業マンの決死の疾走24時間。サスペンス史上最速の体感速度を体感せよ~ サスペンスとしては上出来かな。 旧友の死をきっかけに、謎の犯罪組織に追われる羽目になった男・トムと秘密警察組織のチーフ・ボルトの2人が視点人物となり、ストーリーが進んでいくわけですが、殺人やら銃撃戦やら誘拐やらが次々と矢継ぎ早に起こっていく展開は、まさに「ジェットコースター・サスペンス」の名に相応しい。 このスピード感こそ、サスペンスとしての面白さを助長しているのだろうと思う。 サブキャラの造形にも工夫が凝らされ、単なる「流行の」作品ではない。 事件は警察組織や財界の大物などを巻き込んで、徐々に広がり、複雑化していくわけですが、最終的な収束の仕方にやや不満が残ったかなぁ・・・ ラストがややオリジナリティに欠ける(=よくある展開ってやつね)ような読後感になってしまうのは、中盤以降でやや風呂敷を広げすぎたことが原因なのだろう。 そういう意味では、もう一捻りあっても良かったかなという気持ちにはなった。 ただ、まぁ全体的には十分に及第点を付けれる出来にはあるでしょう。この手の作品が好きな方にはお勧め。 |
No.638 | 7点 | 陽だまりの偽り- 長岡弘樹 | 2012/02/10 23:14 |
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「傍聞き」でプチ・ブレイク(?)した作者の作品集。
作者らしい「味わい」のある作品が並んでます。 ①「陽だまりの偽り」=主人公は「自分はアルツハイマーかもしれない」と怯える老人。その事実を認めたくないばかりに、つい生じる出来ごころ・・・。そして、最後に気付くある「思いやり」。いい話です。 ②「淡い青のなかに」=夫と別れ1人で育てた息子が不良少年に・・・。そして、巻き込まれる交通事故。職場の管理職としての立場と母親としての立場。こういう急な場面で問われるのが、その人の本質って奴だねぇ。 ③「プレイヤー」=主人公はとある市役所の課長。自身のちょっとしたミスからある男性が死亡してしまう。そして、そこから始まる苦悩の日々。確かに、社内の人事ってある意味面白いけどね、そればっか気にしてるとロクなことないよ! ④「写心」=主人公はある事件で会社を辞めた元カメラマン。家業を継いだがうまくいかず、追い込まれた男が選択した道は幼児誘拐。だが、幼児の母親との交渉の中で、自身を取り戻していく・・・。 ⑤「重い扉が」=主人公の息子が巻き込まれた暴力事件。息子に負い目のある主人公の男性が真相を知ったとき取った行動に人間の「弱さ」を感じる。でもこの息子はエライ。 以上5編。 全て独立した作品ではあるが、人間の「保身」というものを共通のテーマとして感じた。 何か自分にとって都合の悪い事件に巻き込まれたとき、人間としてどのような行動をとるべきなのか。これが、作者が本作で言いたかったことなのだろう。 でも、何か分かる気もするなぁ。大人になればなるほど、肩書や立場が上がれば上がるほど、人間ってやつは自分がかわいくなってしまうものだろう。 そういう意味では、ついつい自分を本編の主人公に重ねながら読んでしまってました。 さすが、新たに誕生した「短編の名手」に相応しい作品だと思います。ラストで「ホッ」とさせられるのもいい。 個人的には「傍聞き」よりも上という評価。 (全て水準以上だと思うが、敢えていえば⑤が好みかな) |
No.637 | 6点 | 切り裂きジャック・百年の孤独- 島田荘司 | 2012/02/10 23:13 |
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伝説の猟奇殺人鬼「切り裂きジャック」の謎解き(?)に取り組んだ意欲作。
実は影の「御手洗モノ」では・・・ ~初秋のベルリンを恐怖のどん底に叩き込んだ、娼婦連続猟奇殺人。喉笛を掻き切り、腹を裂き、内臓を手掴みで引き出す陰惨な手口は、19世紀末ロンドンを震撼させた高名な迷宮入り殺人・切り裂きジャック事件と酷似していた。市民の異様な関心と興奮がつのる一方で、捜査は難航を極めた。やがて奇妙な人物が捜査線上に現れた・・・百年の時を隔てた2つの事件を完全解明する長編ミステリー~ 「企み」としては面白い。 狂気以外で人間の体をここまで切り裂く理由を「合理的に」考えるのなら、まぁこういう所に落ち着くのだろうなというのが率直な感想。 本家の「切り裂きジャック事件」に対する考察は、もちろんフィクションなのだが、こういう安手のドラマのような展開に仕立てたところがちょっと微妙な感じ。 (どこまでフィクションで、どこまで事実なのかがよく分からん) で、ベルリンの方の部分なのだが、「動機」的にはちょっと弱いよなぁー。 ロンドンの方は100年前ということで、まだ信憑性が保てているが、今の世の中でこの動機でここまでする奴いるかなぁ・・・? ロジック的には納得したのだが、やっぱり心理的には抵抗のある真相だろう。 全体として、作者初期の作品としてはやや小粒にまとまりすぎたかなという印象が残った。 (やっぱり、最後に登場する「東洋系の人物」が御手洗なのだろうか) |
No.636 | 6点 | ブラウン神父の秘密- G・K・チェスタトン | 2012/02/05 22:30 |
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「童心」「知恵」「不信」に続く、ブラウン神父の作品集第4弾。
さすがにここまでくると、過去の作品の焼き直し的なものが増えてきた印象はある。 ①「大法律家の鏡」=殺人現場に2時間も留まっていた1人の詩人が容疑者にされるが、「詩人というものは同じ場所に2時間留まっても何ら不思議はない」というブラウン神父の解釈がきれいに嵌まる。 ②「顎ひげの二つある男」=過去の作品でもよく出てきたプロットのように思える。まぁ短編らしい切れ味は感じるが・・・ ③「飛び魚の歌」=これは確かにチェスタトンらしさ全開の作品で、ロジックがきれいに嵌った印象はある。ただ、いくら夜目&先入観ありとはいっても、そこまで感ちがいするかなぁーというのが現実的感想では? ④「俳優とアリバイ」=これは一応「密室殺人」を志向した作品なのだろうか? アリバイトリックというほどのものではないが、架空の人物の使い方はさすがにうまい。 ⑤「ヴォードリーの失踪」=この殺害方法は相当大胆なもので、大胆なだけに死角をついていると言える。最後に明かされる動機もなかなか・・・ ⑥「世の中で一番重い罪」=これも度々登場するプロット。要は「入れ替わり」なのだが、ブラウン神父が現場の些細なことからそれに気付く辺りが作者のうまさ。 ⑦「メルーの赤い月」=これは何だかよく分からなかった。ブラウン神父は結局何が言いたかったのか? 本筋とは関係ないが、「東洋」に対するこの時代の欧米人の捉え方が垣間見えるのが興味深い。 ⑧「マーン城の喪主」=プロットの肝はまたまた「入れ替わり」なのだが、本作はそんなことより、ブラウン神父が最後に力説する宗教感とでも言うべき主張が読み所。これって、要はチェスタトンの宗教感ってことだよね。 以上8編。 本作は上記の8編について、ブラウン神父がフランボウとアメリカ人観光客・チェイス氏に語って聞かせるという形式になっている。 冒頭では、事件を決して外面から見ず、内面から感じるのだというブラウン神父の「推理法」が語られるのが面白い。 そして、終章「フランボウの秘密」では、ラストの1ページが何とも気が利いてる。 ただ、1つ1つの作品のレベルは、やっぱり前3作よりは劣後してるのは否めないかな。 (中では①③辺りが、「らしさ」を感じられる作品だとは思う) |
No.635 | 7点 | どこまでも殺されて- 連城三紀彦 | 2012/02/05 22:27 |
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1992年発表のノンシリーズ長編。
実に連城らしい、用意周到に張り巡らされた伏線が見事な作品。 ~「どこまでも殺されていく僕がいる。いつまでも殺されていく僕がいる」。七度も殺され、今まさに八度目に殺されようとしているという謎の手記。そして高校教師・横田のもとには、ある男子生徒から「僕は殺されようとしています。助けてください」という必死のメッセージが届く。生徒たちの協力を得て、殺人の阻止と謎の解明に挑むが・・・~ とにかくプロットが見事。 冒頭からいきなり『七回も殺された』という男の手記が登場し、早速作者独特の作品世界に引き込まれてしまう。 ファンタジーか妄想としか考えようのない話なのだが、きっと合理的解決が成されるのだろうと、ついつい期待してしまう。 そして、ある高校を舞台に、1人の優等生の心の闇があからさまにされていく展開に・・・ 『七回殺された』という不合理については、ほぼ「そうだろうなぁ」という推理が行われるが、実はそこからがこの作品のスゴイところ! 確かに伏線はいろいろと張られてあったんだよなぁ、と気付いたのは読了後。 とにかく「見せ方」が秀逸なのでしょう。 同じようなプロットは他の作家でも十分に捻り出せるとは思うが、作者の何とも言えない「ジメジメした筆致」にかかると、独特の読みごごちと読後感を持ってしまう。 コンパクトな分量で余計なサイドストーリーへの寄り道などがないのも好評価。 (とにかくうまいねぇ・・・) |
No.634 | 5点 | プリズン・トリック- 遠藤武文 | 2012/02/05 22:25 |
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第55回江戸川乱歩賞受賞作。
今回、問題の「ある人物からの手記」が巻末に収められた「完全版」として文庫化。 ~市原の交通刑務所内で、受刑者・石塚が殺され、同所内の宮崎が逃亡。遺体は奇妙にも「前へならえ」の姿勢をとっていた。完全な密室で起きた殺人事件は、長野・安曇野を舞台にした政治汚職事件にまで波及していく・・・。「乱歩賞史上最大級の問題作」(!)とも言われた作品だが・・・~ 確かに、巷の評価通り「瑕疵の目立つ」作品なのは間違いない。 ただ、全体的な評価としては、乱歩賞選考委員である恩田陸氏のコメントどおりで「ひとことで言うと、志が高い。描こうとしている絵の大きさや、やろうとしていることのハードルの高さに惹かれた。」ということになるのだろう。 中盤以降、視点人物がつぎつぎ入れ替わるというのは、やっぱり「いただけない」。 特に「中島」(登場人物ね)などは、果たして視点人物として必要だったのか、たいへんに疑わしい。 また、探偵役として事件を推理&探究するのは、結局誰だったのか? それっぽく登場している武田警視にしても、自身の立場や家庭環境に憂うという役回りばっかりで、事件の探求はさっぱり・・・ 「傷だらけ穴だらけの中盤」という東野圭吾氏の選評も「そうだなあ」と頷かざるを得ない感じ。 (「密室」の処理の仕方もちょっとヒドイ) そして、単行本では「衝撃のラスト」だったろう、最後の1行。 これも、ミステリー好きなら十分に「予想範囲内」じゃないかな? 今回追加された「ある登場人物の手記」で、一応は作品全体に貫かれる動機や構図が明らかにされたのはまぁよかった。 というわけで、どうしても「穴」を付く書評になってしまいますが、処女作品ということを考えれば、それはそれでスゴイこと。 (交通刑務所の様子が詳細に描かれた「序章」が、個人的には本作の白眉だったなぁ。) |
No.633 | 6点 | 愛は血を流して横たわる- エドマンド・クリスピン | 2012/02/01 22:02 |
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名探偵・フェン教授登場作品。
全部で9作しか長編を書いてない作者ですが、本作はちょうど脂の乗った中期の作品。 ~化学実験室からの薬品盗難、終業式の演劇に出演する女子生徒の失踪という不祥事の連続に、スタンフォード校長は頭を抱えていた。だが事態はそれだけに留まらず、終業式前に2人の教師が殺されるという惨事まで発生するに至り、校長は来賓として招待していた名探偵・フェン教授に助力を求めた。早速赴いた犯行現場で、鋭い推理を披露するフェンだが、なんと翌日には第3の殺人が・・・ 卓越した着想とユーモアに溢れた英国探偵小説の傑作~ 本格ミステリーとしてのプロットはよくできていると思った。 「学校」を舞台とした連続殺人事件というのは、英国の本格物ではよく目にするが、本作も何となく既視感のある展開。 当初は連続殺人をつなぐ「環」が見付からないが、「○○ーク○○アの○○」という大きな「動機」が判明してからはほぼ一直線。 フェン教授の推理は、物証などから丹念に演繹していく推理方法で、なかなか読み応えがあった。 軽いタッチの文章は好みは分かれそうだが、読みやすさはかなりのもの。 ただ、この真犯人はどうかなぁ・・・ 特定されたロジック自体には何の不満もないが、この人物に対する描写があまりにも少ないので、いざ「こいつが真犯人だ!」と指摘されても、「こいつ誰だっけ?」というのが個人的には最初の感想だった。 犯人が弄したアリバイトリックも、ちょっとお粗末な気がするのも事実。 などという不満もあるのだが、全体的には好感の持てる作品なのは間違いなし。 欲を言えば、もう少し登場人物を絞って、人物造形に深みを持たせてくれればなおいいのだが・・・ |
No.632 | 7点 | メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 | 2012/02/01 22:00 |
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銘探偵・メルカトル鮎登場の作品集第1弾。
メルカトルのキャラはかなり強烈でブッ飛んでますが、プロットそのものは短編らしい作品が並んでます。 ①「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」=密室トリックとアリバイトリックの融合自体は「よくある手」ですが、まさか「○○学習」がトリックの鍵になっているとはねぇー。そういやぁ、むかし、雑誌の巻末広告なんかでよく見たよな・・・ ②「化粧した男の冒険」=「木は森に隠せ」とはブラウン神父から脈々と受け継がれているトリックの1つですが、本作もいわばその変形(メルカトルもそう言ってますが・・・)。これは、非常にシンプルなプロット。 ③「小人間居為不善」=メルカトルが自身の探偵事務所に事件を呼び寄せるために出したDM(ダイレクトメール)。それに掛かった1人の富豪が、彼に身辺の警備を依頼しますが、実は・・・という流れ。これはプロットからして面白い。 ④「水難」=ちょっとオカルトめいた作品だし、トリックそのものはなかなか大掛かり。ただ、事件現場の状況が美袋らの説明だけではやや分かりにくいのが難。真犯人特定のロジックはいいと思うが・・・ ⑤「ノスタルジア」=メルカトルが「犯人当て小説」を書き、美袋に挑戦するという変わったプロット。まぁ、メルカトルが小説を書くという時点で普通じゃないわけで、やっぱり真相も普通じゃなかった。 ⑥「彷徨える美袋」=学生時代の友人を巡った事件に巻き込まれ、殺人犯の疑いをかけられてしまう美袋。当然ながら、メルカトルに真相究明を依頼するわけですが、真相はとんでもないことに・・・ ⑦「シベリア急行西へ」=これも珍しい。シベリア鉄道の列車の中で発生する殺人事件って、まさかトラベルミステリー(!?) これも一種の密室を取り扱っているが、トリックそのものはよくある手だと思う。 以上7編。 最初にも書いたように、キャラの奇天烈さ以外は、実に正調なミステリー短編作品と言っていい。 ロジックもシンプルだが、よく効いてる作品が多く、作者のミステリー作家としての資質&力量が推察できる。 まぁ、長編ほどのクドさがないので、逆に「麻耶キチ」(そんな言葉あるのだろうか?)にとっては物足りないのかもしれないが・・・ (①~④はどれも水準以上。逆に⑤~⑦は水準以下のように感じた) |
No.631 | 5点 | 名探偵に薔薇を- 城平京 | 2012/02/01 21:58 |
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第8回鮎川哲也賞最終候補作であり作者の長編処女小説。
2部構成で独特の味わいを持ったミステリー。 ~始まりは各種メディアに届いた『メルヘン小人地獄』だった。それは途方もない毒薬を作った博士と毒薬の材料にされた小人たちの因果を綴る童話であったが、やがて童話をなぞるような惨事が発生し、世間の耳目を集めることに。第一の被害者は廃工場の天井から逆さに吊るされ、床には血文字、そして更なる犠牲者・・・。膠着する捜査を尻目に、招請に応じた名探偵の推理はいかに?~ 正直、評価が難しいなぁ。 ただ、思ったより世間的な評価が高いのは驚いた。 2部構成のミステリーで、第1部では『メルヘン小人地獄』という童話の見立て殺人をめぐる謎。 それは、名探偵・瀬川みゆきの卓越した推理力であっけなく解決される。そして、第2部では更なる殺人と、名探偵たる瀬川の苦悩が書かれる・・・ うーん。あまり興味ないんですよねぇ・・・、名探偵の「苦悩」などというテーマには。 第2部は、途中から真相が二転三転しますが、第1部であれだけ快刀乱麻の活躍をした名探偵としては、何だかお粗末な気がしてしまう。 それがまぁ「苦悩」なんだということかもしれないが、「ふーん」という感想しか湧いてこない。 こういう作品を「後期クイーン問題」などというお題目で評価するのもどうかなぁという感じ。 何だが全否定のような書評になりましたが、作者の「読ませる力」というのは十分に感じることはできた。 (やっぱり鮎川哲也賞のレベルは高いね) |
No.630 | 6点 | エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン | 2012/01/28 00:01 |
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名探偵E.クイーンが大活躍する作品集。
短編になり、ますますロジックの冴えた作品が並んでるなあという印象。 ①「アフリカ旅商人の冒険」=エラリーが大学の教授となり、3名の学生に探偵術を指南するという趣向が面白い。学生が示した解答を全て退け、エラリーが解き明かす解答は、まさに「意外な真犯人」っていうやつ。 ②「首つりアクロバットの冒険」=他に手っ取り早い殺害方法があるにも拘わらず、無理やり首つり殺人という方法を選んだ謎。ロープの結び目という1つの事象から全てが解き明かされる。 ③「一ペニイ黒切手の冒険」=こちらは、ホームズものの名作「六つのナポレポン像」を思い起こさせるプロット。貴重な古切手が盗まれるが、ばら撒かれた証拠は全て○○○だったということ。 ④「ひげのある女の冒険」=これは一種のダイイング・メッセージもの。それはいいのだが、この真相はあまりにもリアリティがないのではないか? いくら隠ぺいしたとしても、普通気付くよ! ⑤「三人のびっこの男の冒険」=殺人&誘拐現場に残った3人分の靴の跡。しかも全てが「びっこ」のような跡だった・・・。真相は短編らしい逆転の発想。ありがちといえば、ありがちだが。 ⑥「見えない恋人の冒険」=本作のエラリーはなかなかアクロバティック。墓あばきにより、死体の検分を行った結果、「意外な真犯人」が判明する。これは切れ味のあるロジックが決まった作品。 ⑦「チークのたばこ入れの冒険」=殺人現場に残された「たばこ入れ」から導かれるエラリーの明快なロジック。これも「意外な真犯人」というプロットなのだが、ちょっと分かりにくい印象。 ⑧「双頭の犬の冒険」=旅の途中のエラリーが事件に巻き込まれていく様子がなかなか面白い。ただ、中身そのものはあまり感心しないが・・・ ⑨「ガラスの丸天井付き時計の冒険」=これもダイイング・メッセージものだが、やや変化球気味。「閏年」をテーマにしたロジックがなかなか珍しい。ただ、そこまであからさまなことするかなぁ・・・という疑問は残る。 ⑩「七匹の黒猫の冒険」=猫嫌いのはずの老婦人が、なぜか毎週黒猫を1匹ずつ買い求める謎。これは「謎」としてはかなり魅力的。 事件は殺人&殺猫(!)事件に発展するが、これもラストは「意外な真犯人」が華麗に指摘される。 以上10編。 さすがにクイーンは短編になってもクイーンってことかな。 どれも徹底したロジックが特徴的ですが、何となく「ロジックのためのロジック」というような作品も混じっている印象。 まぁ、でも読者が推理していくには楽しい作品が揃っているので、そういう意味ではやはり読む価値有りでしょう。 (①⑩が中ではお勧めかなぁ。ダイイング・メッセージものはちょっといただけない気がした) |
No.629 | 5点 | 天使の眠り- 岸田るり子 | 2012/01/27 23:58 |
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2006年発表の長編第3作目。
女性ならではの視点が生かされた独特のミステリー。 ~京都の医大に勤める秋沢宗一は、同僚の結婚披露宴で偶然13年前に別れた恋人・亜木帆一二三(ひふみ)に再開する。不思議なことに、彼女は未だ20代の若さと美貌を持つ別人となっていた。昔の激しい恋情が蘇った秋沢は、一二三の周辺を探るうちに驚くべき事実をつかむ。彼女の愛した男たちが、次々と謎の死を遂げていたのだ。気鋭が放つ、サスペンス・ミステリー~ プロットは面白いが、無理やり感が漂う気がした。 例えるなら、最初に「入れ物」があって、そこに何とかして「中身」を押し込んだ・・・とでも言えばいいのだろうか。 謎の中心は、「一二三が本物かどうか」という点と、「過去のパートナー(夫)が殺されたのどうか」という2点に絞られる。 が、最初から如何にも怪しげな人物が、さも関係ありそうに登場しているので、途中でだいたいのカラクリには気付いてしまった。 文庫版あとがきで解説の千街氏が、本書について「心理トリックとストーリーの融合の見事さ」に触れてますが、確かに秋沢の視点と感情がうまい具合にミスリードを誘うように工夫されてるのが、作者のうまさだとは思う。 ただなぁ・・・動機はまぁいいとして、こんな犯罪そもそも思いつくか?? 相当割に合わない犯罪のような気がしてならないし、この「連続殺人」は背景から考えても真犯人にとって危険性が高すぎるのでは? この辺りが「入れ物」に無理やり詰め込んだような感覚、言い換えれば「プロットのためのプロット」のような気にさせられるのだ。 これがやっぱり気になった。 トータルの評価ではこんなもんかなぁー (因みに、「致死性家族性不眠症」は実在する病気で、その原因は本当にプリオンのようです。) |
No.628 | 6点 | ジェネラル・ルージュの凱旋- 海堂尊 | 2012/01/27 23:55 |
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田口&白鳥シリーズの3作目。
2作目の「ナイチンゲールの沈黙」とほぼ時を同じくして東城大病院で巻き起こる事件の顛末が描かれます。 ~伝説の歌姫が東城大学医学部付属病院に緊急入院した頃、不定愁訴外来担当の田口のもとには匿名の告発文書が届いていた。「将軍(ジェネラル)」の異名をとる救命救急センター部長の速水医師が特定業者と癒着しているという。高階病院長から依頼を受けた田口は仕方なく調査に乗り出すことに・・・~ ちょっと失敗したなぁー 前作(もしくは並作というべきか)「ナイチンゲールの沈黙」を読んでから時間が経ってしまったため、その辺の関連性が若干よく分からなかった。(まぁあまり関係ないとも言えるが・・・) でも、相変わらずのスピード感&プロットの妙って言えばいいのか、とにかく見事な医療エンタメ小説だと思います。 ミステリー要素云々でいうなら、「謎解き」部分は皆無に等しいのであるが・・・ 今回のテーマである「救急医療」というのは、確かに現代医療にとっても重要課題の1つであり、この作品の主人公である速水医師のような存在がなければ、恐らく救急医療は崩壊してしまうのだろう。 個人的には、佐藤医師がリスクマネジメント委員会で言い放った台詞(速水医師に対するヤツね)と、その後の速水の佐藤に対する態度が最も印象的だった。 これこそ、ワガママで独善的と言われながらも、その肩に重い責任を負って生きている男の矜持なんだろう。 せっかく久々に本シリーズを読了したので、次作以降も早めに読んでおこう。 (姫宮がこの後桜宮病院に潜入するということは、「螺鈿迷宮」に続くわけですよね・・・) |
No.627 | 7点 | 消えた奇術師- 鮎川哲也 | 2012/01/21 21:33 |
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名探偵・星影龍三登場作品をまとめた光文社文庫版の作品集。
名作の誉れ高い「○い密室」シリーズも収録した「お得」な1冊。 ①「赤い密室」=やっぱりこれは名作中の名作。ごく短い作品だが、逆に余計な部分は一切なく、ロジックに徹しているところがいい。 「密室」トリックとはこうあるべきだし、これこそ「困難は分割せよ」の見本。 ②「白い密室」=これは「雪密室」の見本。とはいえ、赤・青に比べると落ちるよなぁ・・・ロジックはまぁ分かるのだが、それ以外の動機やら何やらが弱いので、何となく全体的にグラグラしている印象。 ③「青い密室」=ロジックが見事な密室。ラストの星影の推理は戦慄すら感じた。今現在から見れば、ありふれたサプライズではあるのだが、短いだけに切れ味が鋭い。 ④「黄色い悪魔」=これはどうかなぁ・・・ まぁ思惑とは違う「密室」という視点は面白いが、やっぱり若干こじつけ感はある。アナグラムも本筋とあまり関係なく、単なるお遊び程度。 ⑤「消えた奇術師」=短い作品だが、これも逆転の発想が見事に決まっている。ただ、トリックそのものはすぐに想像がつくレベルではあるが・・・ ⑥「妖塔記」=①~⑤とは若干趣の異なる作品(田所警部も出ないしね)。トリックの要点はこれまでと同様、逆転の発想。ここまでくると、トリックはほぼ予想どおり。 以上6編。 さすがに秀作が揃ってるっていう感じ。今さら改めて書評する必要はないかもね。 『田所警部=星影龍三コンビ』って、そのまんま『名なしの私立探偵=三番館のバーテン』と同じイメージ。 (①は言わずもがなの名作。あとはやっぱり③でしょう) |
No.626 | 7点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2012/01/21 21:31 |
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第8回「このミス」大賞受賞作。
ミステリー・プラス・音楽スポ根(?)とでも言うべきか・・・ ~ピアニストからも絶賛! ドビュッシーの調べに乗せて贈る音楽ミステリー。ピアニストを目指す遥、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、一人だけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが、周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生するが・・・~ 素直に楽しめしたし、面白かった。 他の方の書評のとおり、ミステリーとしては確かに稚拙かもしれないし、オチも分かりやすい。 それは認めます。 特に火事の場面の伏線があまりにも分かりやすくて、ラストの大オチもミステリーを読み慣れた読者なら予想はつくはず。 「殺人」についても、これでは無理やりミステリーっぽくするために、取ってつけたような感じが拭えない。 それでも、作者の筆力というか、読者を引き込む力というものは確かに感じた。 「クラシック音楽」は全くの門外漢だが、いつの間にか頁をめくる手がやまなくなるような感覚・・・これこそやはり読書の醍醐味だろう。 (まぁ、ミステリー的評価とは本来別かもしれないが・・・) 次々と新作を発表する作者の力量はやはり確かだったということかな。 (全身皮膚移植というのは、現代の医学的に見てもリアリティのあることなのだろうか?) |