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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1812件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.692 6点 ポアロ登場- アガサ・クリスティー 2012/05/27 21:50
初期のポワロ登場作品をまとめた作品集。
全ての作品が、良き相棒であるヘイスティング氏とのコンビ。ポワロが自慢の灰色の脳細胞を使って事件を解く!

①「<西洋の星>盗難事件」=対になる2つの宝石「西洋の星」と「東洋の星」。そこにはある人物の謀略があった・・・
②「マースドン荘の悲劇」=本作では美女にまんまと騙されるヘイスティングをポワロがからかう、というプロットが多用されているが、本編もそう。
③「安アパート事件」=相場より大幅に格安な賃料のアパートは・・・やっぱり「ウラ」があった。
④「狩人荘の怪事件」=これは古典的な短編作品なんかでよく使われる「仕掛け」だが・・・普通に考えればムリがある。
⑤「百万ドル債券盗難事件」=短い作品には、こういう小粋なトリックがよく似合うという見本。
⑥「エジプト墳墓の謎」=本編の舞台はエジプト。「海を越える」ことを極端に嫌がるポワロが微笑ましい。プロット自体は小粒。
⑦「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」=登場人物自体にトリックが仕掛けられている・・・これも本作に多用されている。
⑧「首相誘拐事件」=英仏間にまたがる首相の誘拐事件をポワロが請け負う。でも、この程度で誘拐されてしまう首相って・・・?
⑨「ミスタ・ダヴンハイムの失踪」=失踪そのものの謎解きはともかく、その後の隠れ家に関するポワロの推理・・・まぁ、よくある趣向ではあるが、これを実践する犯罪者っているかぁ?
⑩「イタリア貴族殺害事件」=これも登場人物そのものに「仕掛け」があるパターン。
⑪「謎の遺言書」=おじから財産を譲渡されるはずの「遺言書」にはある仕掛けが・・・かなりしょぼい。
⑫「ヴェールをかけた女」=本作の特徴:『美女は基本的に信用するな!』 本編もそう。
⑬「消えた廃坑」=西洋人にとって、中国人はやっぱり謎の人々っていうことなんだろうな。
⑭「チョコレートの箱」=ポワロがベルギーで警察官だった時代の失敗談というのが珍しい。チョコレートの入れ物とふたの色が異なっている理由が面白い。

以上14編。
何だか、ホームズ物の作品集を読んでいるような感覚だった。
ポワロ-ヘイスティングのコンビは、そのままホームズ-ワトスンの名コンビそのままの雰囲気。
でも、それだけ古臭さは感じるし、長編有名作品のような絶妙なミスリードや伏線といった技巧はなく、謎の提示から一足飛びに解決まで行ってしまうのがちょっと物足りない。
プロットも単純なものが多いので、やっぱり純粋なクリスティファンの方なら、長編を先に読む方をお勧めします。
(特にコレっていうお勧めはないなぁ・・・)

No.691 5点 追想五断章- 米澤穂信 2012/05/27 21:47
2009年発表。その年の各種ランキングで高評価を得た長編。
5つのリドル・ストーリーをめぐる不思議な味わいのミステリー。

~大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から死んだ父親の書いた5つの「結末のない物語」を探して欲しい、という依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことが分かり・・・。
5つの物語に秘められた真実とは? 青春去りし後の人間の光と陰を描き出す、作者の新境地~

なかなか「凝った」作品だなぁという印象。
まずは、プロットそのものが面白いとは思った。
5つのリドル・ストーリーが過去の未解決事件につながり、最終的には親子、そして夫婦の間の微妙な関係を炙り出す・・・
そして、主人公自身も何だか謎多き人物で、依頼を受け調査を行いながら、自身の人生も見つめ直すことになっていく。
まぁ、ロジック重視のミステリーにはない味わいではあります。

ただ、やっぱり個人的には好みでない。
結局、何が本作の「謎」だったのか?
5つの結末のない物語と、それに付随すると思われる結末の1行の符号そのものが謎なのか?
過去の「アントワープの銃声」と現在の関係が「謎」なのか?
全てが中途半端なままラストになだれ込んだ感じがしてしまった。
(主人公の伯父や母親も謎めいて書かれているが、それに対する解答は結局なにもなかった・・・)

リドル・ストーリーらしく、後は読者の想像にまかせる、ということかもしれないが、
なんか、モヤモヤしてしまう。どうしても。
(巻末解説では、「アントワープの銃声」事件と、現実の某有名事件との類似が指摘されていたが、あまりピンとこなかった・・・)

No.690 7点 夜よ鼠たちのために- 連城三紀彦 2012/05/27 21:45
連城の世界を堪能できる作品集。
ハルキ文庫版にて読了。

①「二つの顔」=連城らしい「技巧」が味わえる好編。序盤の「ありえない」不可能状況と終盤の見事な反転。短編らしい切れ味も感じられるのでは?
②「過去からの声」=せっかく就いたばかりの刑事職を投げ出してしまった男。そのきっかけとなった1つの誘拐事件。「誘拐もの」も作者の得意ワザだが、このプロットもオリジナリティがあってよい。
③「化石の鍵」=タイトルが実に意味深長(「化石」って単語がね)。夫婦そして親子間の微妙な心の動きが、事件の背景に関わってくるのだが・・・味わい深いね。
④「奇妙な依頼」=ある私立探偵が主人公で、奇妙な依頼人が登場・・・なんて書くと、なんだかハードボイルド的に思えるが、全然異質な作品。2人の依頼人の間で行ったり来たりする優柔不断な主人公の造形がいいね。
⑤「夜よ鼠たちのために」=これも④と同様、読者をうまい具合にミスリードする手口が心憎い。まぁ普通勘違いするよなぁ。でも、「鼠」っていうのは一体何をシンボライズしたものなのか?
⑥「二重生活」=これも読者の「誤認」を利用した得意の反転ミステリー。
⑦「代役」=個人的にはこれが一番面白かった、っていうかプロットにビックリ。こんな反転につぐ反転のプロットなんて、普通の作家は考えないだろう・・・。まぁ、真相はある意味偶然の連続と言えないこともないが、終盤は読みながらクラクラしてきた。
⑧「ベイ・シティに死す」=これは、何かまだるっこしいような作品。ラストもそれほど感心せず。
⑨「ひらかれた闇」=①~⑧とはやや異質な作品で、何か連城らしくないような気がした。「動機」が本編の「肝」なのだろうが、今一つ納得できなかったが・・・

以上9編。
さすが噂に違わぬ高レベルの作品集という感想。
どれも、「いかにも連城」というべき作品で、終盤の見事な反転劇や、ネチネチしたような独特の筆致を味わうことができる。
ただ、期待どおりかと言えば、若干期待よりは下かなというのが正直な気持ち。
(ハードルがそもそも高いのだが)
まぁ、でもこれくらいの作品なら、十分に「佳作」という評価でよいでしょう。
(ベストは⑦。あとは①~④。⑧⑨はやや落ちる)

No.689 7点 衣裳戸棚の女- ピーター・アントニイ 2012/05/27 21:44
1951年発表、「戦後最高の密室長編」という惹句は大げさかもしれないが、アイデアが光る佳作。
作者のP.アントニーは劇作家として著名な兄弟2人のペンネーム。

~早朝、名探偵ヴェリティは奇妙な光景に遭遇した。町のホテルの2階の1室から男が現れ、隣室の窓へ忍び込んでいく。支配人に注進に及ぶと、当の不審人物が下りてきて、人が殺されているとへたり込む。外では、同じ窓から地上に降りんと試みたらしい人物がつかまり・・・。されど駆けつけてみれが、問題の部屋はドアも窓もいつのまにやらしっかりと鍵がおりていた(!)。射殺体と衣装戸棚に押し込まれた女が中に閉じ込めて・・・~

「密室」のアイデアは確かに面白い。
この密室には、紹介文のとおり3人の人物が関係している。「窓から入ってドアから出た男」と「ドアから入って窓から出た男」、そしてなぜか「衣装戸棚に閉じ込められた女」。
2人の男は双方とも、女の協力なしにはドアと窓の両方の施錠はできない状況。だが、共犯については否定される。では女の単独犯なのか? だがそれも考えにくい・・・

最終的にヴェリティが辿り着く解決が実に見事。
多分にパズル的なのだが、被害者の体に残った2つの銃弾と、2つの45口径ピストルの取り扱いが見事な伏線になっていて、これがラストできれいに収束させられる。
読者は「まさか、あのシーンが(!?)」と驚かざるを得ないだろう。
「偶然」にそうなってしまったトリックというところが若干引っ掛かるが、他の密室トリックよりは十分納得性のあるものに思えた。
そういう意味では、「戦後最高の密室長編」というのも、あながち不正解とは言えないかもね。
(やっぱり言い過ぎか?)

No.688 5点 同級生- 東野圭吾 2012/05/27 21:41
1993年発表のノンシリーズ長編。
処女作である「放課後」の流れを汲む学園ミステリー、または青春ミステリー。

~修文館高校3年の宮前由希子が交通事故で死亡した。彼女は同級生・西原荘一の子供を身ごもっていた。それを知った荘一は、自分が父親だと周囲に告白し、疑問が残る事故の真相を探る。事故当時、現場に居合わせたと思われる女性教師が浮上するが、彼女は教室で絞殺されてしまう。作者のターニングポイントとなった青春ミステリー~

それほど面白いとは思えなかった。
最初の交通事故はともかく、事件の一番の鍵は女性教師殺しの真相だろう。
ただ、それがこの真相では、かなりあからさまなのではないだろうか?
トリックの細かい部分まではさすがに分からなかったが、ちょっと頭を捻れば大筋の真相は十分に看破できるレベル。
また、冒頭、事件の「奥行き」を示唆するかのようなパートがあるので、てっきりプロットに深くかかわってくるのかと思ってましたが、そこもちょっと拍子抜け。
(この程度の関係性なら、ここまでもったいぶって書かなきゃいいのに・・・)

ただ、「学園ミステリー」という部分にスポットを当てるなら、まずまず面白いのかもしれない。
瑞々しいラブストーリーっぽいところや、教師対生徒という図式なんかも「らしく」て何だか昔を思い出してしまった。
まぁ、女性の心の中こそがミステリーなのかもしれない。
(男にゃよく分からん!)

純粋なミステリーとしては弱いが、相変わらずリーダビリティーは十分でサクサク読めます。
(作者あとがきで、作者が本作の執筆についてかなり苦労した様子が書かれているのが新鮮。)

No.687 6点 - 麻耶雄嵩 2012/05/27 21:39
1997年発表、作者のシリーズ探偵・メルカトル鮎登場作品。
ファンタジーか、はたまた本格ミステリーか、得体のしれない文体&雰囲気が怪しい作品。

~弟・アベルの失踪と死の謎を追って地図にない異郷の村に潜入した兄・カイン。襲いかかる鴉の大群。4つの祭りと薪能。蔵の奥の人形。錬金術。嫉妬と憎悪と偽善。五行思想。足跡なき連続殺害現場。盲点を突く大トリック。支配者・大鏡の正体。再び襲う鴉・・・
そしてメルカトル鮎が導く逆転と驚愕の大結末とは・・・作者の神話的最高傑作!~

これは・・・評価が困難・・・。
本作の「盲点を突く大トリック」とは、①村の住民に隠されたある秘密、②主人公であるカインの正体、の2点だろう。
まず①だが、さすがにこれは終盤にさしかかる辺りで気付いた。同種の仕掛けというかガジェットは、どちらかというと古いタイプの本格ミステリーで多用されるものだが、本作ではそのスケールがでかい。(何しろ、村民のほとんどが○○なのだから・・・)
で、問題は②なのだが、さすがにメルカトルがラスト近くで放った台詞には驚かされた。
普通、誤認するよなぁ・・・。
まぁ、それが作者のうまさだと言ってしまえばそれまでだが、この書き方であれば、よっぽどヒネくれたミステリーマニアでもない限り、この真相には到達しないのではないか。
とにかく、①②とも作者ならではの大トリックという評価は当たっているだろう。

と、ここまでは一応誉めておくが、
個人的に好きなタイプのミステリーではなかった。
独特の世界観が支配する「舞台設定」というのも、当然アリだとは思うが、ここまでリアリティを無視されるとなぁ・・・
ちょっとツライ。(設定を呑みこむまでに時間を要してしまった)
ラストもこれ程読者を煙に巻いたにしては、ちょっと中途半端かなという気にはさせられた。(上記の②以外)

まぁ、でも作者にしかできない芸当かもしれないですねぇ・・・
そういう意味では、評価されて然るべきなのかもしれません。
(「鴉」はあまり関係なかったような気がするが・・・)

No.686 8点 水底の殺意- 折原一 2012/05/27 21:37
旧タイトル「水底の殺意」。1993年発表の作者初期の作品。
いかにも「折原」という“凝った”プロットが味わえる。今回、久々に再読。

~「次はお前だ!」 恐怖の「殺人リスト」に、また一人の名前が記された。会社のコピー室に置き忘れられた1通の書類から始まった連続殺人事件。つぎつぎにリストに加えられる名前。しかもその通りに殺人が起こる。密かにせせら笑っている真犯人とは誰か? 
折原トリックの魔術が最後の最後まで読者を欺き続ける傑作サスペンス~

これは好きだ。
折原ほど、「佳作」と「駄作」がはっきりしている作家も珍しいと思うが、本作は「佳作」に当たるという評価。
とにかくプロットがよく練られている。
本作は「殺人リスト」という小道具が存分に生かされていて、読者はこの殺人リストにきりきり舞いさせられること請け合い。
リストに加えられる人物が章ごとに視点人物として登場し、折原作品らしく“彼(彼女)らが”勝手に動き回るところが実に面白い。
なぜ「殺人リスト」が何種類も登場するのか、という謎についても、ラストできれいに解き明かされており、ミステリーとしても十分に合格点が与えられる内容だと思う。
それに加えて、本作はリーダビリティも十分。グイグイとストーリーに引き込まれます。

ラストのドンデン返し(?)が少しショボイというところが弱点かなぁ・・・
(蛇足かも)
その辺りがきれいにまとめられていたら、素晴らしい作品になっていたかも。
とにかく、軽い気持ちで十分に楽しめる作品でしょう。
(ちょっと誉めすぎかも・・・)

No.685 8点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2012/05/27 21:35
「エラリー・クイーンの冒険」に続く作品集第2弾。
本作は2部構成になっていて、前半は「~冒険」と同様、通常の短編。後半は後年のハリウッドシリーズの流れを汲み、助手として「ハートの4」で知り合ったポーラ・パリスとのコンビで4つのスポーツを舞台に起こる事件を解明する、という構成。

①「神の灯」=“建物が消失する謎”を解くという魅力的なプロットで有名な作品。さすがによくできているとの印象。建物消失ではやっぱり物理的トリックは不可能だろうから、どうしても本編のような解法になる。後年、本作を応用したような作品も多いが、結局は見た者の「誤認」を如何にうまく処理するかというのが腕の見せ所。そういう意味でも、本編はシンプルだがよくできてる。
②「宝捜しの冒険」=真珠の首飾りの盗難事件の容疑者たちに対して、エラリーが「宝捜しゲーム」を仕掛けるというのが本編の面白さ。まぁ、ゲームで真犯人の心理を推定するというプロット自体はありきたりとも言えるが・・・
③「がらんどう竜の冒険」=「日本庭園(樫鳥)の謎」と同様、クイーンの妙な日本人観が垣間見える作品。「ドア・ストップ」にああいうものを仕掛けるほどの空間はそもそもあるのだろうか?という疑問が湧いてきた。
④「暗黒の家の冒険」=舞台は遊園地のアトラクションとして設置された「真っ暗な家の中」。エラリーが発見するのは死亡したばかりの死体。これはクイーンらしいロジックの効いた佳作。ラストのさらなる「仕掛け」もなかなか効いてる。
⑤「血を吹く肖像画の冒険」=肖像画から人間の血が流れてきた(!)というのが本編の謎なのだが、あまり感心しなかった。特に、事件の背景というか、構図がさっぱり見えてこなかったのだが・・・
⑥「人間が犬を噛む」=舞台はNY。ワールドシリーズでのヤンキース対ジャイアンツ(当時はNYジャイアンツだったのね)が行われるスタジアム。観客席でサインをねだられていた元大投手が毒殺されてしまう。これも、実に短編らしいロジックの冴えを感じられる良作だろう。野球に熱狂するエラリーや警視、そして何より大男の部下・ヴェリー刑事(!)というのも面白い。
⑦「大穴」=タイトルどおり「競馬」に纏わる作品。「いかさま」を仕掛けようとした「ノミ師」が、逆に罠に嵌っていき、事件が起きる・・・舞台として登場する「サンタアニア競馬場」は個人的に是非行ってみたい場所。
⑧「正気にかえる」=こちらはボクシングの選手権会場が舞台。エラリーが車の中に置き忘れた「外套」が事件の鍵となるのだが、真犯人がなぜ外套を着なければならなかったのかというプロットは、どうしても「スペイン岬」を思い起こさせてしまう。
⑨「トロイアの馬」=本編はアメリカらしく、アメフトの対抗戦(?)。スター選手の妻となる娘に対し、父親が贈った高価なサファイアが試合当日に盗まれてしまう、という謎。この「隠し場所」はスゴイけど、「音」がするんじゃないか? と変な心配をしたりする・・・

以上9編。
面白い。実に出来のいい短編集だと思います。
作者らしいロジックの効いた作品が多く、またそれを明らかにしようとするエラリーも、単に推理を披露するに留まらないユーモアや仕掛けが用意されていて非常にいいです。
中では、やはり①が秀逸。「建物消失」というのは相当難しいプロットだと思うのですが、あまり長々引っ張らず、この程度の短さに留めたことも正解でしょう。
⑥~⑨のシリーズはそれぞれ「野球」「競馬」「ボクシング」「アメフト」というアメリカを代表するスポーツとミステリーとのコラボが実に新鮮。
読んで損のない傑作短編集という評価でよいのではないでしょうか。
(⑤以外はどれも水準以上の佳作)

No.684 5点 スペース- 加納朋子 2012/05/02 23:36
「ななつのこ」「魔法飛行」に続く、“駒子シリーズ”の第3弾。
『透明感のある文章』を書かせたら右に出る者はいない・・・作者の中編2作品で構成される作品集。

①「スペース」=駒子が瀬尾に見せた10数通にも上る「手紙」に秘められた謎、そして書かれなかった「ある物語」とは・・・?
いやぁー、手紙をつぎつぎと読まされてる間は、「これどうよっ」と思うしかなかった展開。いったい、どこに「謎」が秘められてるのかという感覚でしたが、なるほど、さすがに加納朋子です。
確かに、瀬尾さんに言われるまでもなく、「違和感」というか伏線はそこかしこに置かれてあったんですね。
さすがに瀬尾さんは鋭い。

②「バックスペース」=本編、実は①の裏表のような作品。①にも登場する「まどかさん」が本編の主人公。
本編はミステリー要素はほぼゼロで、ほのぼのした何とも言えない味のある「ラブストーリー」というところ。
「まどかさん」を通して語られる登場人物の1人1人が実に生き生きし、瑞々しく描かれているのが心地よい。
多分、こういう「運命」って誰にでもあるものなんでしょうねぇ。
そうこうして、ほっこりさせられてるうちに、ラストで「サプライズ」が待ち受ける・・・。そういうオチか!

照れくさくなるような、お尻がむずがゆくなるような、なんだか変な気持にさせられた。(もちろん、いい意味で)
巻末解説担当の光原百合さんも書かれてますが、本作のテーマは『自分がいるべき場所(スペース)』。人は誰でも、「自分がいるべき場所にいるのが一番幸せなんだ」ということなのでしょう。
(それは読んでて、しみじみと実感させられました)

でも、まぁ、これは30超えたオヤジが堂々と読む本じゃないよなぁ・・・
(続編が予定されてる?・・・やっぱり読むんだろうけど)

No.683 7点 消えた乗組員(クルー)- 西村京太郎 2012/05/02 23:34
「赤い帆船」から始まるいわゆる“海の十津川”シリーズの第3作目。
まだ30代半ばという働き盛りの十津川警部がアグレッシブに捜査を進めるのが新鮮。

~「魔の海」と恐れられる小笠原諸島沖合の海域で、行方を絶っていた大型クルーザーが発見された。船内には人数分の朝食が用意されたままで9人の乗組員は残らず消えていた。幽霊船の真相究明が始まると、発見者のヨットマンたちがつぎつぎと怪死をとげ、傍には血染めの召喚状が・・・。十津川が海の謎に挑む長編推理~

やっぱり初期の西村作品は面白い、というのを実感した作品。
本作は紹介文のとおり、「マリーセレスト号事件」を模した大海原からの人間消失を巡る事件と、それを発見したヨットマンたちが被害者となる連続殺人事件の2つが、一見並行しながら徐々に絡み合っていくところにプロットの妙がある。
前者は「海の法廷」というべき「海難審判」を舞台に、仮説を1つ1つ壊していき真相に到達していくというスタイルが斬新だし、後者はなぜヨットマンたちがつぎつぎ殺されるのかという「動機」の隠し方が読み所。
終盤、ある1つの物証を手掛かりに、十津川が事件のカラクリに気付き、一気に謎が解明されるところは、いつもの西村作品の味わい(?)とも言えるが、とにかく「魅力的な謎の提示」というミステリーの重要な要素は十分に満たしていると思う。

で、ここからが不満点なのだが・・・
やっぱり「動機」のムリヤリ感はどうしようもなく感じる。
「消失」の方は、わざわざ消す人間を多くした理由がよく分からない。消したかった人間は○人だったはずだが、いくらなんでもそれが○人まで増えるというのは人間心理的に無理があるのではないか。
「連続殺人」の方も、まだ殺人はいいのだが、そのカモフラージュ(※ネタバレ?)としてあそこまでやっちゃうというのは正直言って理解不能。
この辺りは、まぁ魅力的なプロットの代償とも言えるが、もう少し練りあげる術はあったのではという気がしないでもない。

でも、最近の量産型ミステリーを勘案すれば、十分に面白く楽しめる作品なのは確か。
(亀井刑事もまだまだ若い印象。本多課長はこの頃からシブイ役どころ。何せパイプを吸ってるんだから・・・)

No.682 7点 検死審問 インクエスト- パーシヴァル・ワイルド 2012/05/02 23:31
江戸川乱歩が1935年以降のベストテンのひとつとして挙げたことで知られる、古典的名作。
作者のワイルドはミステリー作家というよりは、劇作家として著名な人物。

~『これより読者諸氏に披露いたすのは、尊敬すべき検死官リー・スローカム閣下による、初めての検死審問の記録である。コネチカットの小村にある女流作家・ベネットの屋敷で起きた死亡事件の真相とは?陪審員諸君と同じく、証人たちの語る一語一句に注意して、真実を見破られたい』・・・達意の文章から滲む上質のユーモアと鮮やかな謎解きを同時に味わえる本書は、ワイルドが余技にものした長編ミステリーである~

1940年という発表年を考えると、たいへん斬新で面白い切り口の作品だと評したい。
劇作家が本職の作者ならではなのかもしれないが、とにかく登場人物たちが生き生きと描かれ、その人たちが発する言葉の1つ1つで性格や考え方が手に取るように分かるようになっている。
そして、何より秀逸なのが「構成の妙」だろう。
一見すると、全く関係のない身の上話や想い出話をしているようにしか思えない場面が続くのだが、後で読むと実は伏線が仕掛けられていたことが分かる・・・というのが何とも心憎い。
(個人的には、ある登場人物に対する見方が、前半と後半で全く異なっていることに違和感を抱き続けてきたのだが・・・やっぱりそこには仕掛けがあった!)

殺人事件の謎そのものはたいしたことはなく、死亡推定時間やそれに伴うアリバイといった通常の捜査手順はまったく踏まないという異例の展開。
その辺り、ロジックやトリックこそミステリーの醍醐味という読者にとっては、やや消化不良になる作品かもしれないが、さすがに乱歩が激賞しただけのことはある、というのがトータルの感想。
(ギャグのセンスも時代を考えるとなかなかのもの。ニヤッと笑わされるところが多い。)

No.681 6点 奇談蒐集家- 太田忠司 2012/04/28 22:16
街中のとあるバーを訪れると、不可思議な実話を求める「奇談蒐集家」とその助手が待ち受けている・・・
奇談を語る人物と、奇談を一刀両断する不思議な助手が織り成す連作短編集。

①「自分の影に刺された男」=最初の奇談は、昔から自分の影に怯えていた男が、ある日本当に影に背中を刺されてしまう・・・というもの(?) 謎自体は魅力的だが解決は実にアッサリ。
②「古道具屋の姫君」=商店街の骨董屋に置いていた「姿見」の中に映された美少女。男は姿見の中の美少女を手に入れるため、姿見を高額で買ってしまう。こうやって書くだけで真相は見え見えのような気はするが・・・
③「不器用な魔術師」=舞台はパリ。奇談の話し手は、パリに修行に来ていた若き女性シャンソン歌手。彼女は自分を魔術師だと言う男に出会う。そして、彼女のアパートが火事で焼け、隣室の女性が死に至る事件が起きたとき・・・これは実にミステリーっぽいプロット。
④「水色の魔人」=少年時代に遭遇した少女誘拐魔=「水色の魔人」。少年の目の前で魔人は消え、残されたのは2人の少女の遺体・・・これはちょっと雑な気がする。
⑤「冬薔薇の館」=これが一番ブラックな作品。真相は逆説的だが、ここまでアレに拘る「動機」はブラックとしか言いようがない。でもちょっと既視感が強い。
⑥「金眼銀眼邪眼」=ファンタジー&ホラーっぽい作品。伏線は巧妙に撒かれてるので、真相解明では「なるほど!」と唸らされた。
ホットドックがおいしそう・・・
⑦「すべては奇談のために」=本作は①~⑥に登場する奇談蒐集家「恵比酒」と助手・氷坂そのものの謎に迫る・・・奇談蒐集家なんて怪しい奴は実在するのか? 連作短編らしい小憎らしいオチが用意されている。

①~⑥までは典型的な安楽椅子型探偵もの。
まぁ、バーで誰かの不思議な体験や事件を聴き、その場で探偵役が即座に解き明かす・・・っていうスタイルはいくつも先行例が思い浮かぶよね。
あまり込み入ったプロットではなく、探偵役の氷坂があっさり解決してしまうので、若干物足りなさは感じる。
全体の「締め」となる⑦は、作者の「熟練」を感じさせる。やっぱり連作短編はこうでないと・・・
トータルでは水準級+アルファという評価。
(⑤⑥辺りが個人的には好み。③もまずまず。)

No.680 10点 下町ロケット- 池井戸潤 2012/04/28 22:15
第145回の直木賞受賞作。
今や作者の独壇場となった感のある「勧善懲悪系熱血企業小説」(そんなジャンルあるか?)。本作もまさにそのド・ストレート作品。

~「その特許がなければロケットは飛ばない」・・・。大田区の町工場が取得した最先端特許を巡る中小企業vs大企業の熱き戦い。かつて研究者としてロケット開発に関わっていた佃航平は、打ち上げ失敗の責任をとり研究者の道を辞し、親の跡を継ぎ従業員200名の会社・佃製作所を経営していた。モノ作りに情熱を燃やし続ける男たちの矜持と卑劣な企業戦略の息詰まるガチンコ勝負。夢と現実、社員と家族・・・かつてロケットエンジンに夢を馳せた佃の、そして男たちの意地とプライドを賭した戦いがここに!~

いやぁー、不覚にも読みながら涙が出てきた。
熱い(熱すぎる)オヤジたちの物語なのだが、「夢とは?」「会社とは?」「人生とは?」など、いくつもの疑問符を私自身に突き付けられたような気がして、なんとも胸が詰まるようなシーンがいくつもあった。
(『会社とは何か。なんのために働いているのか。誰のために生きているのか・・・』 中盤のこの台詞が胸を突いた・・・)
「佃製作所」の従業員として登場するキャラクター1人1人が、作品の中で生き生きと主張し、悩み、そして喜び・怒る。そして、何より主人公である佃航平の姿が「モノつくり日本」の矜持を体現しているようで、何とも心強い。
(日本という国はこういう拘りや仕事へのプライドがあるからこそなのだ)

もちろん、現実はこんなうまくいかないことばかりだし、今時こんな絵に描いたような会社なんて絵空事だろっていう感想を持つ方もいらっしゃるだろう。
仕事柄、中小企業の経営者と話す機会がままあるのだが、会社の規模を問わず、経営者が背負っている責任というのは私のようなサラリーマンとは比べ物にならないほど大きい。
普段、アホな上司や使えない部下に嘆いたり、逆に優秀な同僚に囲まれ劣等感を感じたり、サラリーマンにはサラリーマンなりの苦労もあるけど、詰まる所、自分の仕事や会社にプライドを持とうよってことだろう。

さすがに直木賞受賞作という看板だけのことはある作品。
まぁ「空飛ぶタイヤ」とプロットが完全に被っているが、そんなことは関係なし!
たまには、こういう「泥臭い」「男臭い」作品を読んで、忙しい日常生活の中で忘れがちな「夢」や「エネルギー」を思い出すのもよいのではないでしょうか。
ミステリーではないし、ちょっと甘い評価かもしれないが、久しぶりに10点を進呈。
(久しぶりに読書で興奮してしまった・・・ちょっと青いね)

No.679 7点 デス・コレクターズ- ジャック・カーリイ 2012/04/28 22:12
「百番目の男」に続くカーソン・ライダー(刑事)シリーズの2作目。
サイコサスペンスだけではない、謎解き要素もふんだんに取り入れた秀作。

~死体は蝋燭と花で装飾されていた。事件を追う異常犯罪専従の刑事・カーソンは、30年前に死んだ大量殺人犯の絵画が重要な鍵だと知る。病的な絵画の断片を送り付けられた者たちがつぎつぎと殺され、失踪していたのだ。殺人鬼ゆかりの品を集めるコレクターの世界に潜入、複雑怪奇な事件の全容に迫っていくカーソン。彼を襲う衝撃の真相とは?~

評判に違わぬ面白さ。
紹介文だけ読んでると「サイコ」的な味付けが強いのかと身構えるが、その辺りはそれ程でもなく、純粋&良質なサスペンスという感想になった。
殺人鬼たちの「ゆかりの品」を集めることに執念を燃やすコレクターという裏側の世界を事件の背景として使いながら、真犯人が張り巡らせた見事なトリックや罠をかいくぐって、真相に到達する主人公。しかし、最後の最後でまたも犯人の罠に嵌ってしまう・・・
事件の構図を二重三重に構築し、読者をラストまで飽きさせないプロットは、さすがにランキング上位の作家でしょう。

そして、何よりも強烈なのが真犯人のキャラクター(!)
これはスゴイ。これ程救いようもなく悪いヤツは久しぶり。
まぁ、単純に言えばミステリーにはお馴染みの「○れ○○り」トリックなのだが、まさかあの人物がねぇ・・・と思うこと必至だろう。
主人公のパートナーの刑事や美人レポーターのキャラも立っていてリーダビリティーも十分。
(極めつけは主人公の兄・ジェレミーの存在だが・・・)

現在4作目まで発表されているシリーズであり、残りの作品も読みたくなった。
(不気味な表紙の意味は終盤、サビの部分を読めば分かる)

No.678 6点 花と流れ星- 道尾秀介 2012/04/24 22:38
真備&道尾シリーズ(という呼び名でいいのか?)初の短編集。
ホラーテイストの強い長編に比べると、普通のミステリーっぽい作品が並んだという印象。

①「流れ星のつくり方」=さすがに評判の高い作品だけのことはある。特に、ラスト2行目が強烈&衝撃。思わず「成る程!」と唸ってしまった。少年が登場する作品は作者の十八番(おはこ)と言えるが、「気付きそうで気付けない」というのが本作のスゴさを表しているといえそう。
②「モルグ街の奇術」=「モルグ街」といえば、もちろんE.A.ポーだが、正直あまり関連性はない。本作はあまりにも本格ミステリーっぽいトリック&プロットなのが、逆に作者の作品としては新鮮。ラストの奇術の謎は結局どうなのか?
③「オディ&デコ」=タイトルの意味は終盤で判明。本作では真備に代わって道尾が探偵役を務めるが、真相は何とも可愛らしいというか切ないもの。でも、本当に「アレ」は「そんなふうに」見えるのだろうか?
④「箱の中の隼」=舞台はある新興宗教団体の教団建物。真備の代役として潜入した道尾が巻き込まれる謎と、教祖の謎の行動。事件の構図はかなり大掛かりなのに、その結果として生み出された事件&謎そのものはスケールが小さいので、何かチグハグした印象になってしまった。
⑤「花と氷」=誤って孫娘を死なせてしまった老人の悲しみが心を突く作品。だが、プロットとしては小粒で全体的にサラッと流したような印象が残った。

以上5編。
割と直球のミステリー短編が並んでて、逆にちょっと驚かされた・・・っていう感じ。
(このシリーズだから、てっきりホラーテイストが強いのかと思ってたので)
①は国内短編のランキングでも上位に出てくる作品であり、さすがの出来栄え。②も面白く読ませていただいた。
ただ、③以降は徐々に薄味になっているので、トータルで平均すれば水準プラスアルファという程度の評価に落ち着く。

No.677 6点 ABAの殺人- アイザック・アシモフ 2012/04/24 22:36
SFの巨匠・アシモフが遺した本格ミステリーの1編。
ABA(アメリカ図書販売)の年次大会を舞台に、作者が実名で登場する(?)珍しい作品。

~アメリカ図書販売協会(ABA)の年次大会で新進作家が死んだ。シャワー室で裸のまま倒れた拍子に頭を打ったらしい。第一発見者の作家・ダライアスは彼を一人前の作家に育て上げた男だったが、部屋の中にごく微量のヘロインが落ちているのを見逃さなかった。しかし、そのヘロインは警察が到着する前に何者かによって拭き取られていたのだ。殺人事件だと直感したダライアスは、独自の調査を始める。アメリカの出版会を舞台に、流行作家の死を巡るさまざまな人間模様・・・~

実にテンポのよい作品。
発表年は1976年と、一昔も二昔も前の作品だが、ウィットに富んだ会話による進行は非常に新鮮で、さすがに並みの作家でないと感じさせる。
主人公で探偵役のダライアスが、事件の関係者との会話の中からある人物のある齟齬に気付き、真犯人に罠を仕掛けるラストは、本格ミステリーならではの「ゾクゾク感」を得ることができる。
作者本人が実名で登場するが、自虐的なキャラにデフォルメされているのはご愛嬌か?
作家に付き物の「ある道具」が事件解決の鍵になるのだが、登場人物の会話の中に伏線がうまい具合に分散されて置かれてあり、それがラストに効いてくる辺りがニクイ。

難を言えば、事件発生までの前置きがやや長く、ちょっと冗長かなぁというのが1つ。
あとは「動機」。あからさまに示されてはいるのだが、真犯人と動機が結びつくという必然性というか連動性に今一つしっくりこないというモヤモヤが残った(→なぜ、真犯人が○○と関係することになったのか、という部分)

まっトータルで評価すれば佳作ということでよいでしょう。
(アシモフもハズレのない作家の1人だな)

No.676 7点 天使の屍- 貫井徳郎 2012/04/24 22:33
1996年発表。作者の長編第4作目が本作。
大人と子供のジェネレーションギャップという永遠のテーマを主題とした作品。

~平穏な家族を突然の悲劇が襲った。中学二年生の一人息子が飛び降り自殺したのだ。そして遺体からはある薬物が検出された。なぜ彼は14歳で死ななければならなかったのか。原因はいじめか。それとも? 遺された父親はその死の真相を求めて、息子の級友たちを訪ねて回る。だが、世代の壁に阻まれ思うにまかせない。そして第2の悲劇が起こる。少年たちの心の闇を描く長編ミステリー~

なかなか重苦しいテーマだな。
息子がなぜ自殺したのか(自殺したようにみえる)、父親が動機を探る・・・というプロットは岡島二人の「チョコレートゲーム」と酷似してますが(他の方も指摘してましたね)、こっちの方がより陰惨で救いのない少年たちの心の闇が描かれてる。
体や考え方は妙に大人びているのに、精神的には全く未成熟で短絡的に死を選択してしまう・・・本作は10年以上前に発表された作品だが、今現在はさらにこのギャップは広がっているのだろう。
(ありきたりな意見だが、あまりにも満たされた生活の中で、なにが本当の「幸せ」なのか分からないまま成長してしまうのだろうか?)

ミステリー的な面では、ラストに少年の父親が解き明かす少年たちの連続自殺(?)に隠された「謎」がキーとなるが、ちょっと唐突感はある。(まさかチェスタトンが引き合いに出されるとはねぇ・・・)
ただ、前半のある何気ない会話の中に、事件の鍵となる伏線がさり気なく置かれるなど、「さすが貫井」というものは十分に感じられた。
ホワイダニットの面白さを味わえる作品でしょう。
(親として子供に先立たれる悲しみとは? という重いテーマを突き付けられる作品でもある)

No.675 5点 廃墟に乞う- 佐々木譲 2012/04/17 23:10
第142回の直木賞受賞作。
ある事件が元で任務を離れた刑事・仙道を主人公とする連作短編集。

①「オージー好みの村」=北海道はニセコ、ヒラフというと、今やオーストラリア人に席巻されてる町(らしい)。そこで起こった殺人事件の容疑者にされたオージー(オーストラリア人)を救うためやって来た仙道だが・・・
②「廃墟に乞う」=今や寂れ果てた旧炭鉱町を故郷に持つ男が、再び起こした殺人事件。男はやはり故郷へ戻ってくると思われたが、そこには哀しい母子の想い出があって・・・
③「兄の想い」=今回の舞台はオホーツク海を望む小さな漁師町。気性の荒い漁師たちが幅を利かす町で、妹想いの兄貴がとった行動が事件の焦点に・・・
④「消えた娘」=札幌のはずれの町で消えた1人の女性。娘を追って名寄から出てきた父親が縋った男はまたも仙道・・・。女性を監禁する趣味を持つ容疑者が判明するが、消えた女性はなかなか見つからず・・・
⑤「博労沢の殺人」=舞台は日高・浦河地方の牧場地帯。大牧場のオーナーだが、商売柄敵の多い男が殺害される。そして、容疑者として挙がったのは2人の息子たち・・・。因みに「博労沢」は架空の地名だそうです。
⑥「復帰する朝」=刑事に復職するため、札幌に戻ろうとする仙道に電話が・・・。結局、依頼主のために帯広まで向かうことに。そして巻き込まれた殺人事件と、知ることになったある女性の裏側の貌(おーコワッ!)

以上6編。
上記のとおり、本作は北海道のあちこちで起こる事件に、主人公である休務中の刑事・仙道が巻き込まれてしまうというスタイルをすべてとってます。
ベテラン作家らしく、何とも言えない「安定感」を感じる作品が並んでいて、さすが直木賞を取るだけのことはある・・・というのが表向きの感想。
ただ、「なぜだか分からないけど、あまり面白くない」というのが真の感想。
まぁ警察小説だから、本格ミステリーほど「謎解き」に関する面白さを追及するのは酷だが、全ての作品が最初から最後まで割と平板に終わったなぁという読後感になってしまった。
(「それがしみじみしてていいんだ」という方も当然いらっしゃるとは思うが・・・)
小説である以上は、やはりもう少しエンターテイメント性が欲しいと思うのだが・・・。

No.674 6点 オックスフォード運河の殺人- コリン・デクスター 2012/04/17 23:08
1989年発表のモース警部シリーズ。
今回は病床に臥せったモース警部が、資料を元に100年以上前の殺人事件を解き明かす・・・というどこかで聞いたようなスタイル。

~モース主任警部は不摂生がたたって入院生活を余儀なくされることになった。気晴らしに、彼はヴィクトリア朝時代の殺人事件を扱った研究書「オックスフォード運河の殺人」を手に取った。19世紀に一人旅の女性を殺した罪で2人の船員が死刑になったと書かれていたが、読み進むうちにモースの頭にいくつもの疑問が浮かんでくる。歴史ミステリーの名作「時の娘」を髣髴させる設定でおくる、英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作~

何か不思議な感覚の作品だった。
紹介文のとおり、モース警部が安楽椅子型探偵となって、凡そ書物だけを元に過去の殺人事件を解き明かすのだが、終盤、モースがなぜその真相に気付いたのかが、読者には皆目見当が付かないのだ。
読後に「なぜ?」と思っていたが、早川文庫版の法月綸太郎氏の解説を読んでると、デクスターに対するある評論家の言葉の引用があり、『デクスターの小説には魅力的な謎がない。なぜなら、謎が生じるためには、ある程度の情報がなければならないのに、その程度の情報すらデクスターは読者に与えようとしないからだ・・・デクスターのつまらなさ、納得のいかなさは、解決のつじつまは合っていても、なぜモースがその解決に至ったのかという点に、全く説得力のないことから来ている』とのこと。
まさにそうなのだ。
私が読後に感じたモヤモヤ感はこの評論家の言い分がピッタリ当て嵌まる。
(法月氏は、この批判に対する反論を試みているが・・・)
まぁ、この批判は言い過ぎのところもあるが、本作も事件の真相(言い換えれば「からくり」)そのものは、なかなか魅力的なもので、「へぇー」と思わないでもなかったのだが、それに対する読者への伏線やらヒントは特になく、そういう部分でどうしても納得感が得にくい気がしてならない。
ただ、本作は「歴史ミステリー」という面もあるので、普通のミステリーとは若干趣を異にしているし、決してつまらない作品という訳ではないのでお間違えなく!(と、フォローしておく)

(本筋とは全然関係ないが、モース警部がなぜ美女にモテるのかは全く不明・・・)

No.673 4点 パラドックス学園 開かれた密室- 鯨統一郎 2012/04/17 23:05
「ミステリアス学園」に続くミステリーそのものをパロディした怪作。
あの“ワンダ・ランド(湾田乱人)氏”が再度登場。

~パラドックス学園パラレル研究会、通称「パラパラ研」。ミステリー研究会志望のワンダはなぜかこのパラパラ研に入部することに。部員はドイル、ルブラン、カー、クリスティ・・・と錚々たる名前を持つ者ばかりだが、誰もミステリーを読んだことがないなんて・・・! やがて起こる密室殺人と予想もできない究極の大トリック! 鯨ミステリーのまさに極北~

ひとことで言うと、「よくもこんな本書いたなぁ・・・」。
敢えて分類するなら、メタ・ミステリーになるのかもしれないが、そんな分類なんて意味なし。
前作の「ミステリアス学園」を既読だったので、マトモなミステリーではないとは思っていたが、ここまでバカバカしいとは・・・
本当のミステリー初心者がこれを読んだら、混乱すること間違いなし。
(これをミステリーの中心点とは思わないだろうが・・・)

ちなみに紹介文にある「密室」と「究極の大トリック」については途中でだいたい察しがついたが、相当脱力感あり。
「○○の○」を真の犯人とした当りは、まぁある意味、「究極」なのかもしれないが・・・
でもなぁー、これを「面白い!」と評価するには、相当懐の深い心がないとムリだよ!
作者らしいと言えばそうなのだが、この「おフザケ」をどこまで楽しめるのかで本作の評価も変わってくるでしょう。

どうでもいいが、なぜポール・アルテが校長で、ピーター・ラブゼイが教頭なのか?
(ニコラス刑事にも笑ったが・・・)

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