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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1845件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.725 6点 陸橋殺人事件- ロナルド・A・ノックス 2012/07/26 22:13
「ノックスの十戒」で有名な作者の処女長編作品。1925年発表。
『推理小説ファンが最後に行き着く作品』とのことであるが・・・

~ロンドンから汽車で1時間というイングランドの一寒村。そこのゴルフ場でプレー中の4人組は、推理小説談義に花を咲かせていた。たまたまスライスした打球を追ううちに、鉄道の走る陸橋から落ちたとおぼしき顔のつぶれた男の死体を発見する。被害者は倒産状態にあり、自殺、他殺、事故死の三面から警察の捜査が始まった。だが、件の4人は素人探偵よろしく独自の推理を競い合い、この平凡に見える事件に四者四様の結論を下していく・・・~

まずまず面白いのではないかと思えた。
最終的な真相が「腰くだけ」気味なのは確かで、さんざん持って回ったような推理をしておいて「それはないだろう!」という気にはさせられる。
4人組がそれぞれ推理合戦を行うというプロットは、バークリーの諸作を髣髴させるのだが、それほどの「企み」は感じない。
そもそもダミーの推理自体、かなり信憑性に欠けるものであるため、説得力がないのが致命傷ではある。
(ある女性の写真が無表情から笑顔に変わった謎に対する答えだけは個人的に感心)

まぁでも全体的には、なかなか愉快な作品だとは思う。
「狂言回し」的な役割を務めるリーヴスとゴードン、最終的な探偵役となるカーマイクル、そして○○○のマリオット。
登場人物たちも愛すべきキャラクターだし、素人探偵らしい丁寧な捜査&推理も好ましい。
(「謎の暗号」の真相は如何なものかとは思うが・・・)

ということで、著名作として読んでおいて損のない作品という評価。
(創元文庫の復刻フェア版にて読了。でも、何か変なラインナップだな)

No.724 6点 リバース- 北國浩二 2012/07/26 22:11
作者はデビュー長編「ルドルフ・カイヨウの事情」で日本SF新人賞に佳作入選。本作は3作目の長編。
ミステリーにSFの要素を加えているのが作者らしさなのだろうか?

~プロを目指すバンドマン・柏原省吾はある日、恋人の美月から別れ話を切り出されてしまう。省吾の幼馴染みである妙子の交際相手のエリート医師・篠塚と付き合うというのだ。その直後、省吾は不思議な能力があるといわれれている少女とともに、篠塚が美月を殺しかけている光景を幻視する。嫉妬ゆえの妄想か、それとも・・・? 彼は美月を守り、彼女との幸せを取り戻せるのか? 二転三転の長編ミステリー~

マズマズうまくまとめてるとは思った。
巻頭の紹介文(千街氏の解説)に惹かれて購入したのが本作なのだが、中盤終わりに「表の事件」である『姫ちゃんフォロワー連続殺人事件』から二重構造である『裏(真)の殺人事件』への切り替えがきれいに決まっている。
青春ミステリーを思わせるラストも、作者の手際の良さを感じさせてくれて読後感も良い。
(「予知能力」を絡めてあるのはSF作家でもある作者の特徴か?)

ただ、他の方も言及しているとおり、仕掛けはかなり分かりやすい。
ある入院患者が登場し、彼女の背景が語られる段階で、大方の読者が「こういうカラクリが用意されているんじゃないか?」ということに気付いてしまう。
でも、まぁもう一段階「ヒネリ」があるんだろう・・・と期待していたが、そのまま終了してしまった。
プロットも伏線も実に丁寧で、リーダビリティーも水準以上だと思うのだが、これではミステリー作品としてはやっぱり「二流」という評価を下さざるを得ない。
「動機」についても、こういうプロットである以上、もはや「必然」といった流れで、既視感が強過ぎる。

キャリアを考えれば、これからに期待できる作家だとは思うので、他作品も手を取ってみたい。
(文庫版解説によれば、文庫化に当たって、単行本からかなり手を加えているとのことであり、単行本しか読んでない方は読み直す手もあるでしょう。)

No.723 7点 青い虚空- ジェフリー・ディーヴァー 2012/07/20 22:08
2001年発表。非リンカーン・ライムシリーズの長編作品。
かれこれ10年前の作品になるが、電脳空間でのハッカー同士の息詰まる攻防を描く力作。

~護身術のHPを主宰するシリコン・ヴァレーの有名女性が惨殺死体で発見された。警察は周辺捜査からハッカーの犯行と断定。コンピュータ犯罪課のアンダーソン刑事は容疑者特定のため服役中の天才ハッカー・ジレットに協力を依頼する。ゲーム感覚で難攻不落の対象のみを狙う連続殺人犯は何者か? 息詰まるハッカー同士の一騎打ち!~

これぞディーヴァーというべき良質なサスペンス作品。
文庫版で600頁を超える大作だが、さすがのリーダビリティーを感じさせられた。
今回の相手は伝説のハッカー・ホロウェイとその協力者である通称「ショーン」。こいつらがトンデモない奴らなのだ。
米国のあらゆるコンピュータシステムにハッキングを行い、ニセ情報をばらまく。こうなったら警察なんて単なるでくの坊に過ぎない。
考えたら怖い世界である。
リアルの世界とどれだけ乖離があるのかは正直分からないが、天才ハッカーともなれば、これはもう1つの大型殺人兵器と同程度のポテンシャルを持つということなのだろう。

そして、この天才ハッカーと対決するのも、また伝説のハッカーであるジレット。
ただし、彼はかなり人間臭く描かれており、当初はなかなか尻尾をつかめずにいた2人を徐々に追い詰めていく。
ストーリーの4分の3を終え、大勢は決したと思ったところからが作者の真骨頂だ。
必殺の「ドンデン返し」がやはり炸裂する。
ただし、今回はちょっと意外感はあった。
いつもなら、「まさかあいつが・・・」というドンデン返しなのだが、今回は「まさかこんなことか・・・」というサプライズが待ち構える。

いずれにしてもサスペンス&エンタメ作品としては安心して楽しめる作品に仕上がっていると思う。
好漢・ビジョップ刑事とジレットの友情(?)も何だか微笑ましい。
(コンピュータ&ハッカー用語が頻出しますので、巻頭の用語集をまずはよく理解することをお勧めします)

No.722 8点 刑事のまなざし- 薬丸岳 2012/07/20 22:06
作者初の連作短編集。
法務技官(少年鑑別所で罪を犯した少年たちと会話し教唆する)から転職した新米刑事・夏目信人を主役に、どこか物悲しい事件と犯人・・・しんみりして最後には泣けてくる作品。

①「黒い履歴」=夏目のプロフィール、そして刑事に転職した哀しい理由が読者に明らかにされる。本作の主人公、そしてその家族も実に不幸&不運な方たち・・・なんでこういう人たちに限って事件に巻き込まれてしまうのか、せつない。
②「ハートレス」=東池袋の某公園を根城にするホームレスたち。ホームレスの中にも序列はあるわけで、生じた怨恨が殺人事件につながってしまう。真犯人は明明白白だが、夏目の優しさが心に染み入る。
③「プライド」=ストーカーから逃れ池袋に引っ越してきた若い女性の殺人事件。肉体関係のあった男性が容疑者として浮かぶのだが、夏目は思わぬ人物を真犯人として指摘する。
④「休日」=夏目の旧友・吉沢が本編の主人公。父一人子一人で協力し合ってきた息子の態度に疑問を抱く。「息子を信頼している」という言葉を盾として、見て見ぬふりをしてきた父親・・・なんか身につまされる話だなぁー
⑤「オムライス」=発表順としては本編が最も古い(らしい)。なんとなくほのぼのしたタイトルとは裏腹に、本編がこの中で最もブラックな話。こんな女性・母親って本当にいるのか? もし本当にいるのなら、女性なんて決して信用してはいけない!って強く思わされる。ラストに畳み掛ける夏目の追及は読者の心を熱くさせる。
⑥「傷痕」=不登校、リストカットの常習犯である女子高生。彼女の通う高校の心理カウンセラーと夏目が大学の同級生だったことから、夏目が事件に巻き込まれることに・・・やっぱり、人生には「勇気」を持って前へ進まなければならない瞬間があるということかな。
⑦「刑事のまなざし」=夏目が刑事へ転職した理由・・・それは十年前、愛娘が頭をハンマーで強打され植物人間となってしまったからだった! そして今、ある事件がきっかけになり、ついに判明する真犯人。しかし、それは新たな哀しい家族たちを生み出すことになった。ラスト、夏目の言動は刑事としての矜持なのだろうか・・・
ただし、本編は1つだけどうしても不満なのだ。それは登場人物である「恭子」の言動。夫の過去の仕打ちを知っていながら、それでもここまで庇って、それどころか自ら罪を背負うなんて(ネタバレ?)、その「動機」は感覚的に受け入れられないし、リアリティが欠如しているのではないか?

以上7編。
デビュー長編である「天使のナイフ」を読んだ時からだが、薬丸氏の作品にはやはり「強い筆力」と「強い訴求力」を感じる。
巻末解説の言葉を借りれば、本作も「犯罪と贖罪」そして「罪と罰」を主題として、「俺はこれが言いたいんだ」「これを訴えたいんだ!」とでもいうべき作者の主張が心を捉えて離さなかった。
ベタな部分があるのは否めないが、良質な作品集ということは間違いはない。
夏目も本作だけでは惜しいキャラクター。是非とも彼のその後を書き綴って欲しい。
(ベストは圧倒的に⑤。⑦は掉尾を飾るに相応しい。その他も良質。)

No.721 6点 少女- 湊かなえ 2012/07/20 22:01
大ヒット作となった処女長編「告白」に続く作者の第2長編。
こういうやつを「現代のミステリー作品」と呼ぶのかもしれない(と思ってしまった)。

~親友の自殺を目撃したことがあるという転校生の告白を、ある種の自慢のように感じた由紀は、自分なら死体ではなく、人が死ぬ瞬間を見てみたいと思った。自殺を考えたことのある敦子は、死体を見たら死を悟ることができ、強い自分になれるのではないかと考える。ふたりとも相手には告げずにそれぞれ老人ホームと小児科病棟へボランティアへ行く。死の瞬間に立ち会うために、高校2年の少女たちの衝撃的な夏休みを描く長編ミステリー~

なるほど! こういう「仕掛け」だったのか・・・と最後には納得。
終盤までは、これって本当にミステリーなのか甚だ疑問を抱きながら読み進めたが、ラストにこういう大技が炸裂するとはね。
2作目にしてこれだけのプロットを仕掛けるあたり、やはり「只者ではない」という気にはなった。
途中から「ミエミエ」の仕掛けをエサとして読者にちらつかせ、実はその裏で更なるドンデン返しが待ち受けているのだ。

ただ、こういうプロットって既視感あるよなぁーと思ってたら、「伊坂幸太郎」がよく使う仕掛けじゃないのか?
(ストーリーが進むごとに、登場人物たちが次々とつながっていく、あの感覚・・・)
主人公の少女の口を借りて言い放つ台詞もどこか説教じみた感じがして「伊坂っぽい」。(感じるのは私だけか?)

まぁ、だからといってつまらないというわけではなく、これはこれで面白くはあるのだ。
手軽に読める作品なので、サクッと読書したい方にはお勧め。

No.720 5点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2012/07/14 22:40
ミステリー黄金世代を彩る大作家・J.Dカーの処女長編作品。
パリ警視庁の大立者アンリ・バンコランが登場し、作者らしい怪奇趣味溢れる作品。

~数年前、愛した女性ルイーズを殺害しようとして精神病院に収容されてしまったローラン。彼はルイーズがサリニー公爵と結婚するという噂を聞き、脱走をくわだてた。まんまと成功した彼は、整形手術で顔を変え、公爵の命を狙い始めた。夜な夜な快楽の都パリを徘徊する「人狼」と化し、狂暴化していく。そして衆人環視のなかで戦慄すべき殺人事件が起こる! 名探偵バンコランが颯爽と登場~

実にカーらしい雰囲気を持っているが、反面アラの目立つ作品という読後感。
紹介文にもあるが、とにかく怪奇的雰囲気を出すための道具立てには事欠かない。多分、江戸川乱歩がフランスを舞台にミステリーを書いたらこんな風になるのではないかという気さえする。
衆人環視のなかの「準密室」や首切り殺人なども、処女作品からカーらしさ全開という感じがしてむしろ微笑ましい。

ただ、トリックは相当強引っていうか、ムリだろ!というレベルなのが気になった。
特に、例の『○れ○○り』。
これを多用するあたり、乱歩と被るのだが、これが成立するというプロット自体感心できない。
それに「密室」とアリバイの複合トリックなのだが、これも相当リスクの高い仕掛けで、アリバイについては真面目に論じるレベルではないとさえ思える。

巻末解説でも触れているが、これはやはり「習作」というレベルであり、とにかくカーらしい雰囲気を味わうための作品なのだろう。
ただし、人物造形はこの頃から巧みで、真犯人などは実に魅力的人物として書かれている。
まぁ、カー好きなら外せない作品でしょう。
(ハヤカワ文庫版で読了。訳が古くて少し読みにくい。)

No.719 6点 ダブル・ジョーカー- 柳広司 2012/07/14 22:37
結城中佐率いるスパイ組織“D機関”の暗躍を描く「ジョーカーゲーム」シリーズの第二弾。
太平洋戦争前のきな臭い雰囲気が何と言えない作品世界を生み出してます。

①「ダブル・ジョーカー」=もう一つの秘密組織”風機関”と創始者の風戸陸軍中佐。あるミッションをD機関と風機関が競うことになったが、結果は結城中佐のすごみを知ることに・・・
②「蠅の王」=軍医という仮面を被って活動する男・脇坂。お笑い芸人たちの慰問団が野戦病院を訪れることになったが、脇坂の正体がバレてしまう。そして、脇坂の秘密を暴いたのはある意外な人物だった・・・。前フリがうまい。
③「仏印作戦」=舞台は旧フランス領ベトナムのハノイ。異国情緒溢れるこの街で陸軍の秘密通信の任務を司る男に危険が迫る、そしてそれを防ごうとする男とD機関の影・・・。これも最後に逆転の発想が見事に決まる。
④「柩」=こちらの舞台はドイツ。若き日の結城中佐を知るドイツ人軍人が再び日本人スパイを相手にするとき、やはり結城中佐の影がちらつく・・・。結城中佐のエピソードが興味深い。
⑤「ブラックバード」=まさに真珠湾攻撃の直前、アメリカ・LAに潜入したD機関の一員。平和なバードウォッチャーを装い現地で結婚までしたが・・・。これはスケールの大きい作品。
⑥「眠る男」=文庫版のみ収録。「おまけ」のような作品。

以上6編。
まぁ、ワンパターンといえばワンパターンなのだが、この作品世界は秀逸だと思う。
(結構映像向きなのかもしれない)
サスペンス性やラストでの逆転、ドンデン返しなどミステリーとしての面白さは十分に詰め込んでいる。
ただ、前作よりは1枚落ちるかなという印象は拭えないかな。(理由はよく分からないが・・・)
でも、十分に楽しめる作品だし、クオリティは高い。
(個人的ベストは②。あとは③⑤かな)

No.718 7点 マグマ- 真山仁 2012/07/14 22:34
2008年発表のノンシリーズ作品。
登場人物の設定などはいかにも「ハゲタカ」の作者らしいのだが、「地熱発電」という題材が今となってはタイムリーな作品となった。

~外資系投資ファンド会社勤務の野上妙子が休暇明けに出社すると、所属部署がなくなっていた。ただ一人クビを免れた妙子は支店長から「日本地熱開発」の再生を指示される。なぜ私だけが? そのうえ、原発の陰で見捨てられ続けてきた地熱発電所をなぜ今になって・・・? 政治家、研究者、様々な思惑が錯綜するなか妙子は奔走する。世界のエネルギー情勢が急激に変化する今、地熱は救世主となれるのか?~

これはヒロイン小説だな。
とにかく主人公・野上妙子が実にヒロインチックなのだ。
東大卒。子供のころから勉強、スポーツともに優秀。おまけに美人でリーダーシップも十分という才媛。外資系金融機関に入り、またたく間に出世。そんな彼女が畑違いの「地熱発電」会社で、様々な人間の欲望や想いに揉まれながらも成功を勝ち取っていく・・・
こんな非の打ちどころのない女性が、内心は不安でしようがないのに、肩肘張って健気に啖呵を切るのだ、男としては「キュン」とせずにはいられない・・・

そしてもう一つのテーマは当然「地熱発電」。
本作は東日本大震災前に発表された作品であり、今現在の脱原発の動きとは全く関係ない。それだけ作者の先見性が窺える。
もちろん本作はフィクションなのだが、電力業界周辺や裏側に渦巻く利権に関しては十分にうなずけるところがある。
そして、大震災後の今、「地熱発電」は再び注目を浴びようとしている。
(確か、出光興産が福島県で大規模な地熱発電所を計画しているっていうニュースを見たなぁ)
脱原発が本当に可能なのか、つい最近民主党を離れた某剛腕政治家に聞いてみたいものだが、個人的には少しでもクリーンで安全性の高い発電方法へシフトさせるのは、我々の世代の使命ではないかとも思う。

なんだかミステリーの書評ではなくなったが、エンタメ小説として十分楽しめる作品ではあるでしょう。

No.717 5点 サウサンプトンの殺人- F・W・クロフツ 2012/07/08 20:46
お馴染みのフレンチ警部が「主席警部」となって初めて手掛けた事件という設定。
本作の発表年である1934年は、三大倒叙として名高い「クロイドン発12時30分」も出版された作者の円熟期と言える。

~セメント会社ジョイマウントの取締役ブランドと化学技師キングは、暗闇に横たわる死体を前に立ちすくんでいた。経営危機に陥った社を救うためにライバル会社の工場に忍び込み、セメントの新製法を盗み出そうとした2人だったが夜警に見つかってしまい、殴った拍子に死んでしまったのだ。彼らは自動車事故を装って死体の始末を図るが、フレンチ主席警部がこの事故に殺人の匂いをかぎとらないはずはなかった!~

ちょっと中途半端な「倒叙もの」という印象が残った。
「倒叙」というと、ミステリーの醍醐味である「犯人さがし」を放棄する代わりに、警察の捜査や目撃者の出現に一喜一憂したり、徐々に追い込まれる心理にシンクロしたりというのが面白さなのだと思うが・・・
本作ではその辺りが弱いのだ。
要は犯人側の視点とフレンチを中心とした警察側の捜査が交互に描かれてるせいで、どちらも中途半端になっているというワケ。

恐らくは第二の爆破事件の方で、倒叙ではなく普通に犯人捜しの要素を取り入れたためだとは思うが、これはちょっと失敗ではないか?
まぁ「クロイドン」と同じプロットではさすがにダメだということだったんだろうなぁ。
出来栄えは「クロイドン」に到底及ばない水準になってしまった。

ただ、ブランドを中心に心理描写などは実に丁寧で、この辺はクロフツらしいなぁと思える。
ラストに隠されていた構図が明らかにされるのがミステリー作家としての矜持か?
(東京創元社は数ある作品の中で何でこれを復刊したんだろう?)

No.716 5点 私の大好きな探偵―仁木兄妹の事件簿 - 仁木悦子 2012/07/08 20:42
雄太郎&悦子の仁木兄妹シリーズの作品集。
最近ポプラ社のピュアフル文庫で出版されたものを読了。

①「みどりの香炉」=ジュブナイル向けに出された作品ということで、相応にデフォルメされてるのが特徴。作者特有の「弱者へのいたわり」の気持ちがよく出ている。トリックは実に何てことないが・・・
②「黄色い花」=巻末解説によると、本作は「猫は知っていた」に先んじて発表されたシリーズ初作品とのこと。雄太郎の植物に対する造詣の深さが事件の解決にストレートに結びついているのが特徴。アリバイは何だかよく分からなかったが・・・
③「灰色の手袋」=これが一番ミステリーとしては正統派な作品という感じ。ある人物の「企み」に別の「企み」が乗っかってしまい、一見すると事件が複雑化する、というプロット。何とはなしにこの時代の「のんびりした」感じがよく出てるのが好ましい。
④「赤い痕」=事件の舞台が東京ではなく奥秩父というのが珍しい。雄太郎の推理というか直観が冴えるのだが、これは読者が推理できるというものではない。まぁ因果応報ってことを言いたいのかな。
⑤「ただ一つの物語り」=結婚し二人の子供までもうけた悦子が登場(最初分からなかった・・・)。悦子と体の弱いある女性との交流がある事件を引き起こすことに・・・。よくあるプロットだとは思うが、雰囲気のいい作品ではある。

以上5編。
正直、ミステリーとしては喰い足りない作品ばかりという印象は拭えない。
ただ、何となくノスタルジックで心温まる気持ちにさせてくれるのは確か。好きな人は好きなんだろうね。
そういう雰囲気を味わう作品なのだろう。
(③がベストか。あとは②)

No.715 5点 イノセント・ゲリラの祝祭- 海堂尊 2012/07/08 20:41
田口&白鳥シリーズの第4作目。
お馴染みのキャラクターが大暴れする人気シリーズの異色作。

~東城大学医学部付属病院・万年講師の田口公平はいつものように高階病院長に呼ばれ、無理難題を押し付けられようとしていた。厚生労働省で行われる会議への出席依頼だったが、差出人はあの白鳥圭輔だった! だが、そこで田口が目にしたのは、崩壊の一途を辿る医療行政に戦いを挑む、一人の男の姿だった~

もはやミステリーの範疇なんて超え、作者の医療行政のへの熱き思いが迸った作品。
海堂氏が声高に主張するのは「死因不明社会への警鐘」。
ミステリーの世界ではお馴染みの「監察医」だが、現実ではこの制度が適用されているのはごく一部の地域でしかなく、解剖も適切にされないまま「心不全」という不透明な死亡診断書が作成されている・・・
考えてみれば恐ろしい世界ではないか?
そして、この危機を回避するための救世主が「エーアイ」。
(これは「チーム・バチスタ」から作者の一貫した主張だよねぇ)

本作のハイライトは、終盤の委員会での「彦根医師の独断場」。
厚生労働省のエースや法律家のトップを敵に回して、ロジック切れキレのスピーチ。そして、最後にうまくまとめる白鳥・・・
いささかフィクションは混じっているにせよ、官僚という奴はこういう人種なんだろうなということは十分想像できる。
結局シオン医師については謎めいたままで終わってしまったのが唯一の心残り。

まぁ、海堂氏には今後とも医療行政の問題提起をし続けてもらいたいね。
ミステリーの評価としてはまぁこれ以上つけられないけど、そんなことはあまり関係ない作品。
(姫宮がそんなにスゴイ人物だなんて・・・どういうこと?)

No.714 5点 三本の緑の小壜- D・M・ディヴァイン 2012/07/03 22:33
生涯で13の作品を発表した作者後期の長編。
タイトルはマザーグースのタイトルから取っているようだが、特に事件との関連はなし。

~夏休み直前、友人たちと遊びに出かけた少女ジャニスは帰ってこなかった・・・。その後ジャニスはゴルフ場で全裸死体となって発見される。有力容疑者として町の診療所に勤める若い医師ケンダルが浮上したものの、崖から転落死。犯行を苦にした自殺とされたが、やがて第二の少女殺人事件が起こる。犠牲者はやはり13歳の少女。なぜ殺人者の歯牙にかかってしまったのか? 真犯人への手掛かりは思わぬところに潜んでいた~

引っ張った割にはちょっと肩透かし。
というのが正直な感想か。
さすがにディバインらしく一人一人の人物描写は素晴らしい。その人物の性格・人間性すべてが読者にも手に取るように分かるほど綿密に書き込まれているし、それだけ作品世界を堪能できる。
章ごとに視点人物を変え、いろいろな角度から事件に光を当てる手法というのも、物語に重みや深みを与えている。
そして、ラストに向かって徐々に盛り上げるやり方も熟練の味わい・・・

ただねぇ・・・真犯人があまりにも平凡なのが致命傷。
「動機」もこれだけ引っ張ったにしては表層的で今一つ納得感はない(これでは「狂気」ということになってしまう)。
そもそもいつのまにか、クローズドサークルのように容疑者が一家の関係者に絞り込まれてしまった過程が不明。
もう少しロジックの裏付けが必要なのではないかと思った。

ストーリーテリングの上手さは感じるけど、全体的には他の作品よりは劣るかなという印象。
(とにかく人物描写はこわいぐらいエグイ。)

No.713 4点 愚行録- 貫井徳郎 2012/07/03 22:31
2006年発表。ノンシリーズ長編作品。
作者らしい「企み」が光る実験的作品かな。

~幸せを絵に描いたような家族に、突如として訪れた悲劇。池袋からほんの数駅の、閑静な住宅街にあるその家に忍び込んだ何者かによって、深夜一家が惨殺された。数多のエピソードを通して浮かび上がる、人間たちの愚行のカタログ・・・。「慟哭」の作者が放つ、新たなる傑作~

評価しにくい作品だなぁー。
正直なとこ、よく分からなかったというのが本音。後でパラパラと読み返してみて、やっと「分かった」という感じだった。
本作は未解決事件として有名な「世田谷一家惨殺事件」をモチーフとして、殺された夫婦の関係者のコメントを通じ、2人の人間性が徐々に明かされる・・・という趣向。
で、その中にミステリー的「仕掛け」が施されている。
(まぁ、ほとんどの登場人物が最初名前が明かされず、一人称でしゃべるという形態・・・なんかあると思うよなぁ。)

確かに相当練られたプロットなのだろうと推察するのだが、如何せんテーマが見えにくいのが難点。
文庫版解説の大矢氏によると、「愚行」なのは殺された夫婦なのではなく、夫婦のことを「あれやこれや」と批判めいてしゃべる方なのだということらしい。
あとは、途中に挿入されてくる「ある兄弟」のパート。
これは冒頭の新聞記事とつながってくるのだろうが、この女性って後で指摘されないと分からないレベルの登場人物なんだよなぁ・・・。
(これって叙述トリックを狙っているのか?)

というわけで、ちょっと消化不良気味に終わったというのが全体の感想でしょうか。
「お勧め」というわけにはいかないなぁ。
(慶応義塾大生の生態をここまで事細かく書くなんて・・・よっぽど嫌いなんだね!)

No.712 5点 林真紅郎と五つの謎- 乾くるみ 2012/07/03 22:29
地方の名家・林家の四男坊である真紅郎を探偵役とした作品集。
同じ林家の三男・茶父(さぶ)が主人公である「六つの手掛かり」読了したため、遡って本作を手に取ることに・・・

①「いちばん奥の個室」=この「個室」とはあるホールの女性トイレ。少し前に別の場所にいたはずの女性が、なぜかあっという間にトイレの中で後頭部を殴られ瀕死の重傷を負う、という謎。こう書くとかなり高等なトリックが出てきそうだが、使われたトリックはあろうことか「○○」・・・。いやぁ、まさかねぇ・・・、これはいわゆる反則じゃないか?
②「ひいらぎ駅の怪事件」=舞台は地方駅のホーム。階段の上からの転落事件と、デジカメ盗難事件が発生するのだが、これもかなり偶然っていうか、「ふーん」としかいいようがない真相。
③「陽炎のように」=旧友の妻が脳死判定を受け、臓器を提供するという事件が発生。そこに昔起こったある事件を絡めているのだが、結局は真紅郎の妄想に過ぎなかった、っていうことか? まるで「霊」が降りてきたように思わせぶりに書いているが、この真相もちょっといただけない。
④「過去からきた暗号」=本作だけが文庫書き下ろしの好編。小学生時代に作った暗号文を20年後に解き明かすという趣向。暗号はポーの「黄金虫」やホームズものの「踊る人形」の焼き直しではあるが、解読したと思わせてもう一回ひっくり返されるだけよくできているとも言える。これは暗号を含め楽しめる。
⑤「雪とボウガンのパズル」=犯人と思われる足跡なく残された死体・・・というよくあるプロットの変型版。凶器はボウガンということで、足跡は問題にならないのではという推測を抱くが、ある目的のために○○を使ったというところにプロットの「肝」がある。

以上5編。
「六つの手掛かり」はとにかくロジック一辺倒で、作者も楽しんで書いているのが分かる作品になっていたが、本作は狙いがちょっと曖昧な気が・・・
真紅郎が得意とする「シンクロ推理」(真紅郎だからシンクロ・・・)も別になにか特徴があるわけではなく、インパクトに欠ける。
まぁ、初期作品ということもあるのか、粗が目立つ作品という印象が残った。
(④がベスト。⑤は普通。①~③はちょっといただけない。)

No.711 5点 泥棒が1ダース- ドナルド・E・ウェストレイク 2012/06/27 22:04
作者の代表的キャラクター、泥棒のドートマンダー氏が活躍する作品集。
ハヤカワ・ミステリの「現代短編の名手たち」シリーズで読了。

①「愚かな質問には」=妻を騙して渡した“偽物の”ブロンズ像を巡ったトラブルに巻き込まれたドートマンダー氏。帰るはずのない時間に帰ってきた妻にバッタリ出くわしピンチに陥るが・・・
②「馬鹿笑い」=牧場からのサラブレッド強奪に協力するハメになったドートマンダー氏。しかし、相手は人間の意志が通じない「ケモノ」たちで、ついには隣の果樹園を巻き込んだ大騒動が起こってしまう・・・
③「悪党どもが多すぎる」=銀行強盗に入ろうと地下金庫に大穴を開けたドートマンダー氏と相棒。しかし、何とその銀行にはすでに別の銀行強盗が押し入っていた・・・。これはなかなか面白いプロット。
④「真夏の日の夢」=NYから逃げ出したドートマンダー氏が匿われたのが田舎の芝居小屋。しかし、そこで売上金強盗が出没し、その容疑者にされてしまう・・・。
⑤「ドートマンダーのワークアウト」=なぜかショート・ショート。
⑥「パーティー族」=盗みに入ったパーティー会場で、警察が押し入ってくるピンチ・・・。とっさにドートマンダー氏の取った行動は、ウェイターへの変身。
⑦「泥棒はカモである」=警察からの追っ手を撒くため逃げ込んだポーカー台。ところが、そこにも警察がやってきてさらなる大ピンチに陥る・・・。ラストはなかなかヒネリが効いてる。(まさに「カモ」)
⑧「雑貨特売市」=ドートマンダー氏の商売仲間・アーニーの自宅で起こった騒動。大量のテレビをアーニー氏に売り付けようとした男女二人組には思わぬ秘密が・・・(そうきたか!)
⑨「今度は何だ」=ダイヤを盗んだはいいが、それを運ぶのに悪戦苦闘するドートマンダー氏。地下鉄やらタクシーやら利用する交通機関ごとに“たいへんな目に合う”ことに・・・特にラストは笑ってしまった。
⑩「芸術的な窃盗」=昔の泥棒仲間が足を洗い、画家の道へ。そして個展を開いているというその男からある仕事を依頼されるドートマンダー氏。だが、そこはやっぱり一筋縄にはいかないわけで・・・
⑪「悪党どものフーガ」=これだけはドートマンダーではなく、ラムジーを主人公とした作品。よく分からなかったが・・・

以上11編+作品紹介の序文あり。
作品のプロットとしては、スマートな泥棒であるはずのドートマンダー氏が、依頼人や相棒たちの不手際によりピンチに陥り、ラストには解決・・・ということでほぼ共通。
アメリカンジョークっぽく「ニヤッ」と笑える作品も多く、さすがに「名手」という気もするが、個人的には好きなタイプではなかった。
(ウェールズ系の「ディダムズ」ネタで何回も笑わせようとしているが、アメリカ人には「ツボ」なのだろうか?)

No.710 5点 仮題・中学殺人事件- 辻真先 2012/06/27 22:02
愛称・ポテトとスーパーの2人組が活躍するシリーズ第1弾。
策士・辻真先がミステリーの限界(?)に挑んだ野心作(本当か?)。

~推理小説の歴史を紐解けば「黄色い部屋の謎」や「アクロイド殺し」など、犯人の意外性で売り出した名作があまた存在する。ところがこれまで、どんな物語にも不可欠な人物であるのに嘗てこれを犯人に仕立てた推理小説というのは1編もなかった。読者=犯人である。そう、この推理小説中に伏在する真犯人は君なんです!~

確かにちょっと「早すぎた」作品だと思った。
読者を犯人とするのは、今となってはメタ・ミステリーのテーマのようになっているが、本作の出版当時では相当に斬新だったはず。
「仕掛け」自体は個人的にはそんなに面白いとは思わなかったが、このチャレンジ精神には敬意を表したい。
特に、冒頭の「章」が実に効いている。
(これは騙されるよなぁ・・・)

作中作のプロットはかなり小粒。
最初の特急「かもめ」のトリックは西村京太郎作品に同一のものあり。(これって「あ○つ○」と同じだよねぇ)
密室トリックは正直付録レベルで、誉められるようなレベルではない。

まぁ、騙されたと思って読んでみるのもいいんではないか?
(因みに、高木彬光「刺青殺人事件」はかなりネタバレを含んでますのでご注意を)

No.709 6点 七日間の身代金- 岡嶋二人 2012/06/27 21:58
1986年発表。男女二人組の素人探偵が活躍するノンシリーズ。
「人さらいの岡嶋」という異名をとる作者の「誘拐もの」。

~プロデビューを目指す若き音楽家カップルの千秋と要之介。ある日、富豪の後添いとなった友人から、弟と先妻の息子が一緒に誘拐されたという相談を受ける。身代金の受け渡し場所は、どこにも逃げ場のない湘南の小島。にわか探偵と化した2人は真犯人を追うが・・・。誘拐と密室の二重の謎に挑む、傑作青春ミステリー~

さすが、作者の「誘拐もの」らしく、十分水準級の面白さ。
誘拐の相手が「成人男性2名」ということからして普通の誘拐事件ではない。
2人の他にも、関係がありそうな男女1組+関係ありそうもない男性1名も同時に行方不明になるなど、中盤まではとにかく謎が謎を呼ぶ展開。

そして、主人公の女性が事件の構図を見抜いて以降は、「島」と「地下室」という二重の密室が立ち塞がる。
地下室の密室トリックはあまり感心はしなかったが(何しろ、トリックの鍵がアレですから・・・)、見せ方はやはりうまい。
中盤までの謎が伏線として、ラストは見事に回収される手練手管は作者ならではなのだろう。
(まぁ偶然が重なったというプロットがどうかという問題はあるが・・・)
真犯人の造形は確かにキモイかもなぁ・・・最後の「自白」がちょっとエグイ。

いずれにしても「人さらいの岡嶋」の名に恥じない作品なのは確かでしょう。
(個人的には「どんなに上手に隠れても」が作者誘拐もののベスト)

No.708 6点 黒いカーテン- ウィリアム・アイリッシュ 2012/06/19 22:00
ウールリッチ名義で1941年に発表されたのが本作。
「黒いアリバイ」ほか一連の“ブラックシリーズ”の1つ。

~ショックを受けたタウンゼントは記憶喪失から回復した。しかし3年の歳月が彼の頭の中で空白になっていた。この3年間何をしてきたのか自分には分からない。教えてくれる者もいない。しかし、不気味につけ狙う怪しい人影がタウンゼントの周囲にちらついている。異様な状態のもとで殺人者として追われる人間の孤独と寂寥を圧倒的なサスペンスで描く~

このシンプルさが逆に斬新かも。
創元文庫版で200頁足らずの分量だが、サスペンスとしての材料、魅力は十分に詰まっていた。
西暦2012年の今を基準とするなら、確かに物足りなさはあるし、他にいくらでも同系統の秀作はあるだろう。
ただ、この時代に本作を書いたことに価値があるのだ。
本作でも十分にハラハラできたし、伏線の絶妙さを味わうことができた。
そういう意味ではスゴ味すら感じる。

ただ、多くの「?」が消化されないままに終わってしまったのがいかにも残念。
(気付かなかったのか? 放っといたのか?)
特に、なぜタウンゼントが記憶を失ったのかという、この手のサスペンスには必須と思われるプロットが完全にスルーされていたのは、いくら何でも・・・

まぁよい。とにかく、手頃な分量で古典的名作が読めるのだから。
(ルスが何とも可哀そうだ・・・)

No.707 6点 ブラジル蝶の謎- 有栖川有栖 2012/06/19 21:58
国名シリーズの作品集では第2作目に当たる作品。
火村&アリスの名(?)コンビが今回も活躍。

①「ブラジル蝶の謎」=殺人現場に残されたアマゾン河流域に住むという美しい蝶、蝶、蝶・・・。携帯電話を使ったアリバイトリックは、推理クイズレベルの小品だが、アイデアは光る作品。
②「妄想日記」=大豪邸の庭で炎に包まれた死体が発見される。そして、被害者が軟禁されていた部屋に残された「謎の文字で綴られた日記」。死体を燃やした理由が印象的。
③「彼女か彼か」=殺害された被害者は美しいニューハーフ。これはどこかで「人物誤認」を仕掛けてるなというのは、最初から察してしまうが、余りにも予想通りのトリックかな。
④「鍵」=殺人現場に残された1本の謎の「鍵」。家や部屋の鍵でもなく、宝石箱や時計の鍵などでもない、では? いやぁー、こんな鍵って本当にあるんだろうか?
⑤「人喰いの滝」=「足跡」に関するトリックは数多いが、これは相当シュールなトリック。フーダニットの方に工夫がないのが惜しいが、これも見せ方の問題かな。
⑥「蝶々がはばたく」=これも「足跡」に関するトリックなのだが、これは生涯一度しか使えないトリックだろうなぁー。作者あとがきを読んで納得したが、そういう時期だったんだんだねぇー。

以上6編。
全体的には、短編らしいワンアイデアの光る作品が並んだなぁーという感想。
アリバイやら密室といった「肝」になる部分は正直たいしたことはないのだが、予想よりは面白く拝読させていただいた。
(個人的に本シリーズはそんなに評価してないので・・・)

氏の短編を読んでると、「短編作品とはこう書くんだ」というのが何か分かるような感じがする・・・
(ベストは①かな。あとは⑤)

No.706 5点 「裏窓」殺人事件 tの密室- 今邑彩 2012/06/19 21:56
「i~鏡に消えた殺人者」に続く、警視庁捜査一課・貴島柊一シリーズの第2作。
作者らしい軽いオカルト風味の効いた作品。

~自殺と見えた密室からの女性の墜落死。向かいのマンションに住む少女は、犯行時刻の部屋に男を目撃していた。少女に迫る犯人の魔の手・・・。また、同時刻に別の場所で起こった殴殺事件も同一人物の犯行と見られるが・・・。衝撃の密室トリックに貴島刑事が挑む。本格推理+怪奇の傑作!~

良くいえば「まとまってる作品」。悪くいえば「地味」とでもいうべきか・・・
プロットはよく練られてるし、女流作家らしく洗練されてる。
プロットのメインは王道ともいうべき「アリバイトリック」。
最初から小道具として「時計」が再三登場するので、読者としてもトリックの大筋には気付いてしまうのが難だが、見せ方はうまい。
電話や「音」を伏線などで効果的に使ってるのもなかなか。

そして、もう一つのサプライズが真犯人と動機。
この「動機」はスゲエなぁ・・・
普段は至極まともな人間なのに、特定の部分だけは常人では考えられないほどの異常さを示す。
これぞ狂人の考え方なのだろうが、迫力があって犯人の造形としては成功しているだろう。
さらに、追い打ちをかけるような、複雑な事件の背景・・・
まぁ、これも1人の脇役のエピソードに長々文字数を使ってるので、「なんかあるな」とは察してしまった。

というわけで、誉めるべきところは多いものの、個人的には前作の方が好き。
(貴島刑事の謎は徐々に明らかにされるものの、まだまだ秘密の多い過去がある模様・・・)

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E-BANKERさん
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