皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.1005 | 2点 | 嘘でもいいから誘拐事件- 島田荘司 | 2014/04/27 20:55 |
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「嘘でもいいから殺人事件」に続き、隈能美堂巧(タック)・軽石三太郎らを主人公としたシリーズ第二弾。
島田作品とは思えないほどの軽さとギャグ・・・がウリのシリーズだが、本作は中編二作で構成。 ①「嘘でもいいから誘拐事件」=胡散臭いロケで訪れた東北地方の山奥。ナレーションを担当する女性タレントがロープウェイという動く密室から忽然と姿を消した・・・って書くと、やっぱり島荘らしい大掛かりな物理トリックか?と思わせるのだが、本シリーズにそれを期待してはいけない。実に子供だましのようなトリックでしかないのだ。こんなショボイトリックにはそうそうお目にかかれない。 ②「嘘でもいいから温泉ツアー」=今度の舞台は信州の山奥。またもや軽石の無茶ブリで胡散臭い温泉紹介を行うことになったロケ班が遭遇する怪事件なのだが・・・今回は謎自体がかなりショボイ。当然ながらトリックもプロットもショボイという結果になる。 以上2編。 これは読んではいけない。 特に島荘ファンであればあるほど読むべきではない。 両作ともよっぽど追い込まれて、やむにやまれず書いたのではないかとしか考えようがない。 まだ前作(「嘘でもいいから殺人事件」)には作者らしさが垣間見えていたのだが、本作ではそれが全くなくなっている。 まぁ、この頃はまだまだ出版社側の要請にどうしても応えなくてはいけなかったのだろうなぁ・・・ 全然煮詰まっていないのに、締切が近づいて、「もう!えいやっ!」って感じで発表しちゃった・・・って感じかも。 ということで、評価は個人的な最低レベルとせざるを得ない。 怖いものみたさという方ならどうぞ。 (さすがにこれでは続編は出ないよなぁ・・・) |
No.1004 | 5点 | 煙で描いた肖像画- ビル・S・バリンジャー | 2014/04/27 20:54 |
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1950年に発表された作者の代表作のひとつ。
同録の解説には、本作と「歯と爪」、「消された時間」が作者の三大名作と紹介されているが・・・ ~古い資料の中から出てきた新聞の切り抜き。それは、ダニー・エイプリルの記憶を刺激した。そこに写っていたのは十年前に出会った思い出の少女だった。彼女は今どうしているのか? ちょっとした好奇心はいつしか憑かれたような思いに変わり、ダニーは僅かな手掛かりを追って彼女の足跡を辿り始める。この青年の物語と交互に語られていくのは、ある悪女の物語。二人の軌跡が交わった時、どんな運命が待ち受けているのか・・・?~ ひとことで言うなら「龍頭蛇尾」かな。 序盤から、二人の運命が交わる終盤までの盛り上げ方はさすがにウマさを感じさせる。 サスペンス性も見事で、いったいどういう結末が待ち構えているのだろうという期待感を抱かせてくれる。 その分だけ、ラストの捻りのなさが残念なのだ。 まぁ最近のドンデン返しにつぐドンデン返し・・・という作品ばかりの風潮もどうかなと思うのだが、やはりそういう手のジェットコースター・サスペンスを読み馴れた身にとっては、どうしても物足りなさが残ってしまう。 ただ、時代背景を考えれば十分だし、先駆性も勘案すべきだろう。 二つの物語を並行して描き、カットバックを多用して読者の興味を徐々に引き付ける手法もさすが。 何より、50年代のシカゴという舞台設定が魅力的。 男たちを踏み台にしながら、この大都会の中でのし上がっていく美貌の悪女と、その女を盲目的に追っていく平凡なひとりの男・・・何ともセピア色でノスタルジックな気分になる(?!) ミステリーとしては評点はそれほど高くならないけど、読んで損する作品ではない。 何とも雰囲気のある名作という評価でもよいのではないか。 |
No.1003 | 6点 | マリアビートル- 伊坂幸太郎 | 2014/04/27 20:53 |
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2010年発表の長編。
「グラスホッパー」の続編的位置付けの、“殺し屋”たちを主人公とした作品。 ~幼い息子の仇討ちを企てる、酒浸りの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた腕利きの二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する・・・。小説はついにここまでやって来た。エンタメ小説の到達点!~ 結構長かったなぁ・・・ っていうのがまずは感想になるだろうか。 前作「グラスホッパー」と同様、複数の“殺し屋たち”が主人公の本作。しかも今回は東北新幹線「はやて」の車内が主な舞台となる。 この閉鎖空間のなかで、殺し屋たちが血で血を洗う抗争(?)を繰り広げるのが本作の基本プロット。 ただし、そこは伊坂幸太郎。ただでは終わらない。 本作で登場する殺し屋のうち、中心となるのが中学生の「王子」。 コイツがかなりの曲者なのだ。 人を操る術を心得ている「王子」が、大人の殺し屋たちに混じって生き残っていくのだが、最後には人生の大先輩に人としての生き様を教わることになる・・・。 あと、個人的にストライクなのは何でも機関車トーマスのキャラクターに例える殺し屋「檸檬」。 (パーシーやジェイムス、デイーゼルって・・・普通の人分かるか?) 巻末解説でも触れているが、伊坂作品によく出てくる「悪とはなんなのか?」というのが本作のテーマなのだろう。 作者の軽妙な言い回しやぶっ飛んだ展開に乗せ、一流のエンターテインメントに仕立て上げる“腕”はやはりさすがの一言。 ただ個人的には前作の方がまとまってたような気はするけどなぁ・・・ 本作は途中やや冗長に思えたところでやや減点。 |
No.1002 | 5点 | なぎなた- 倉知淳 | 2014/04/18 10:45 |
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【倉知淳ノンシリーズ作品集成第一弾】と題された短篇集。
姉妹篇である「こめぐら」とともに、作者の企みに満ちた作品世界が展開する。 ①「運命の銀輪」=倒叙スタイルで書かれた作品。で、探偵役として登場するのが「死神」のようなルックスをした警部。雰囲気はかなり違うが、某福家警部補を想起させるキャラで、是非シリーズ化してもらいたい。本筋もロジックがきれいに嵌っていて爽快。 ②「見られていたもの」=ちょっと懲りすぎて分かりにくいのが玉に瑕・・・って印象。最初は仕掛け自体よく分からなかった。巻末の作者あとがきで、本編を「ミステリー入門編」と称しているが、これは入門編に相応しくないだろう。 ③「眠り猫、眠れ」=猫丸先輩ではないが、作者の猫好きがよく出ている一編。幼い頃離別した父親が死亡。その際、なぜか神社のしめ縄を体に巻きつけていた、というのが本編の謎。猫=父親ってことなのかな? ④「ナイフの三」=こちらはあとがきで「シリーズ化しそこなった作品」として書かれている。キャラもそうだが、作品自体が相当小粒で切れ味に大いに欠けてるのでどうしようもない。 ⑤「猫と死の街」=いなくなった飼い猫を殺してしまったと主張する初老の男性。彼はなぜあっさりと罪を認めたのか・・・というのが本編の謎。まぁこんな解法になるよねぇ・・・。(またまた猫) ⑥「闇ニ笑ウ」=別に「笑ウせぇるすまん」ではないけど・・・。これはまさに“最後の衝撃”が決まった作品。確かに道尾秀介の某短編と被ってるがそれほど気にはならなかった。 ⑦「幻の銃弾」=衆人環視のなかで発生した銃殺事件。しかし、死体には銃痕が残っていなかった?? と書くと魅力的なミステリーみたいだけど、それほど凝ったプロットがあるわけではない。 以上7編。 冒頭の紹介どおり、非猫丸先輩シリーズの作品集がコレ。 一番古いのは1996年ということで、実に10年以上も経って作品集に編入された作品もある。 (何しろまだ公衆電話でしか連絡できなかった時代背景ですから・・・) ただ、やっぱり猫丸先輩シリーズと比べると一枚も二枚も落ちるなぁというのが正直な感想。 短篇らしいワンアイデア勝負の作品が並んでるし、リーダビリティについては申し分ないのだが、如何せんインパクトは弱い。 その中で取り上げるならば、やはり①か⑥ということになるかな。後はそれほどでもない。 (姉妹篇「こめぐら」も一応手に取るんだろうなぁ、やっぱり・・・) |
No.1001 | 7点 | イン・ザ・ブラッド- ジャック・カーリイ | 2014/04/18 10:44 |
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「ブラッド・ブラザー」に続く、カーソン・ライダー刑事シリーズの第五長編。
前作で実兄ジェレミーとの問題に一区切りを付けたライダー刑事が、今回は地元モビールで起こる怪事件(前作はNYが舞台だった)を相棒のハリー刑事とともに解決に導く。 ~刑事カーソン・ライダーが漂流するボートから救い出した赤ん坊は、謎の勢力に狙われていた。収容先の病院には怪しい男たちによる襲撃が相次いだ。一方で続発する怪事件・・・銛で腹を刺された男の死体、倒錯プレイの最中に変死した極右の説教師・・・。すべてをつなぐ衝撃の真実とは? 緻密な伏線と鮮やかなドンデン返しを仕掛けたシリーズ第五弾!~ 本当にこのシリーズは面白い。抜群の安定感だ。 冒頭にも触れたとおり、兄ジェレミーがストーリー中に垣間登場する前作までが、いわばシリーズ第一期。そして、本作からはいよいよ第二期に突入といった感じ。 カーソンはジェレミーとの確執や不安が失くなった代わりに、事件を追っている渦中にも拘わらず喪失感を味わうことになる。 (ここにも作者は周到な仕掛けを用意しているのだが・・・) 今回は、紹介文のとおり、①カーソンが救い出した赤ん坊を巡る謎と、②白人絶対主義のカリスマ説教師の変死事件、この二つの謎が同時進行で語られていく。 ②については、いつものシリーズ作品どおり、後半に鮮やかなドンデン返しが待ち受けている。 本シリーズでは常に特徴的な犯人役が用意されているのだが、今回もなかなかスゴイ。 (個人的には別の人物にアタリを付けていたのだが、これはダミーというか小物だった・・・) 終盤のとある登場人物の証言をきっかけに、パズルのピースがすべてカタカタ嵌っていく、そして伏線が鮮やかに回収されていく“感覚”を味わうことができる。 もうひとつの①の謎についてはかなり啓示的。 すべての謎の動機につながっているほか、本作のプロットに大きく関わっている「人種問題」についてひとつの光明を投げ掛けている。 巻末で解説者の酒井貞道氏が作者の作品を以下のように評しているのだが、これがまさに言い得て妙だろう。 “カーリイの諸作品は、最近の海外ミステリーとしては珍しく、最初に真相を設定し、そこから逆算してストーリーやプロットをかっちり堅牢に組み上げ、伏線或いはヒントを丹念に散りばめたうえでそれらを「読者が真相に感付かないように」配置する。極めて緻密な構成を採用している。・・・” 本作以降もシリーズは続いていくようなので、ますます楽しみ。 評点はシリーズ他作品との兼ね合いでこうなった。 |
No.1000 | 5点 | 民王- 池井戸潤 | 2014/04/18 10:41 |
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これが1,001冊目。(これからもマイペースで書評をアップしていきたい・・・)
本作は2010年発表の長編。 今春から「ルーズヴェルト・ゲーム」と「花咲舞が黙ってない(原作は「銀行総務特命」「不祥事」)」のニ本が地上波としてスタート。ますます絶好調の作者が贈る、政界を舞台とした痛快エンタメ小説(+薄味のミステリー風味を少々・・・という感じ) ~「お前ら、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか? 目をさましやがれ!」 漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足とりのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀をめぐる痛快劇の幕が切って落とされた。総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは? 一気読み間違いなしの政治エンタメ~ 『なんで池井戸潤ってこんなに人気あるんだろう?』 デビュー作以来の古い(?)ファンとしては、最近の異常なまでの池井戸人気は全く想像がつかなかった。 「半沢直樹」は演出の過剰さとハマリ役の俳優陣がうまく噛み合った結果と原作が相乗効果を生んだという気もしていたけど、たまたま一昨日「花咲舞が・・・」を見ていて、やはり作者の作品は、日本人の特性というかセンチメンタリズムに嵌っているということなんだろうと感じさせられた。 池井戸作品のプロットの多くは、ひとことで言えば「勧善懲悪」という実に分かりやすい図式を取る。 そう、時代劇ではお馴染みの悪代官と悪徳商人のコンビを黄門様御一行や将軍吉宗が成敗する・・・という例のやつ。 それをそっくりそのまま銀行業界に置き換えたものが十八番のプロット。 そうなのだ、この“分かりやすさ”と“痛快劇”・・・これこそが人気の秘密なのだろう。多くの作家はこんなこと分かっていながら、あまりの単純さに敬遠してきたものを、作者は躊躇せず書き続けてきたのだ。 これはこれで「信念」の賜物だろう。 読者も「単純だなぁ・・・」と分かっていながら、読み終わったときにはなぜかスッキリした気持ちになった自分がいてビックリさせられる・・・そんな感覚ではないか? ということで本作なのだが・・・(長い前フリだ) 紹介文のとおり、実際に何年か前の内閣をベースに書かれた作品で、実に分かりやすい作品に仕上がっている。 まぁ全体的には肩の力の抜けた作品という印象だし、同時期の他作品に比べて評価できるポイントは少ない。 ってことで、評点としてはこの程度。通勤中に軽く読むくらいが丁度いいかもしれない。 (これで今のところ刊行されている池井戸作品はすべて読了。次作は半沢シリーズの「銀翼のイカロス」かな?) |
No.999 | 8点 | 虚無への供物- 中井英夫 | 2014/04/14 21:56 |
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ついに到達した1,000冊目の書評。(ここまで長かったような短かったような・・・)
この記念すべき書評作品(あくまで個人的な意味ですが)としてセレクトしたのが本作。 改めて言うまでもありませんが、夢野久作「ドグラ・マグラ」、小栗虫太郎「黒死館殺人事件」と並び、日本三大奇書のひとつとされる作品。 今回は講談社文庫で刊行された新装版(上下分冊)にて読了。 ~昭和二十九年の洞爺丸沈没事故で両親を喪った蒼司・紅司兄弟、従兄弟の藍司らのいる氷沼家に更なる不幸が襲う。密室状態の風呂場で紅司が死んだのだ。そして叔父の橙二郎もガスで絶命・・・。殺人?事故? 駆け出しの歌手・奈々村久生らの推理合戦が始まった。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、内外の探偵小説など蘊蓄も満載。巧みに仕掛けた罠と見事に構成された「ワンダランド」に作者の“反推理小説”の真髄を見る究極のミステリー~ いやぁー・・・これは書評できません。 というより書評する意味がないと思うし、ましてや評点を付けるなんて××××・・・ ミステリー好きにとっては避けて通れない作品として、以前に一度手に取り「読もう」としたのだが、一頁に埋め尽くされた文字と長大な分量、そして冒頭から始まる迷路のような展開に恐れをなして、途中で放り出した経験があるのだ。 さすがに今回は放り出さなかったのだが、作者の仕掛けた迷路(ラビリンス)に嵌り込み、前の方に微かに灯された光に向かって進むだけという読書になってしまった。 そう、本作はまるで“蜃気楼”のような作品なのだ。 何度も続く推理合戦、真相究明と思いきや次の瞬間には肩透かしのように全てが否定される展開。 捕まえようと思って手を伸ばしても、決して届くことのない存在・・・という表現がピッタリだと感じた。 いつもは飛ばし読みする巻末解説も今回は割と真剣に読んだのだが、やっぱりよく分からない。 結局、作者は読者に或いは世間に、社会に何を問いたかったのか? 何を言いたかったのか? 単に、ミステリーに対するアイロニーなのか? まぁこんなことを真剣に考えさせる作品というだけでもスゴイことなのだろう。 読み手はトリックだのロジックだのにとらわれず、ただひたすら作品世界に没入するだけ。 そして、数多くの?(疑問符)があればあるほど、作者の「ニヤリ」という表情が作品の奥から見えてくる(筈だ)。 評点は参考程度。 (今回は1冊のみの書評。1,001冊目からもマイペースで書評していきたい・・・できれば週3冊程度で・・・) |
No.998 | 7点 | ジキル博士とハイド氏- ロバート・ルイス・スティーヴンソン | 2014/04/07 22:24 |
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最後の(?)ゾロ目、999番目の書評としてセレクトしたのは本作。
「二重人格」の代名詞ともいえるジキル博士&ハイド氏。作者は「宝島」でも知られる大作家スチーブンソン。 というわけで999冊目に相応しい作品ではないだろうか。 今回は新潮文庫の田中西二郎訳で読了。原題は“The strange case of Dr.Jekyll and Mr.Hyde” ~医学、法学の博士号を持つ高潔な紳士ジーキルの家にいつのころからかハイドと名乗る醜悪な容貌の小男が出入りするようになった。ハイドは殺人事件まで引き起こす邪悪な性格の持ち主だったが、実は彼は薬によって姿を変えたジーキル博士その人だった! 人間の心に潜む善と悪の闘いを二人の人物に象徴させ、二重人格の代名詞として今なお名高い怪奇小説の傑作~ これはもう「古典」としかいいようがない。 おおよその筋書きは未読の読者でも知っているだろうが、改めて今回読んでみると、ジキル博士の苦悩と悲しみが行間から溢れ出るようだった。 友人である弁護士アタスンに残したジキル博士の書き置き。そこには自身の悪の化身であるハイド氏を生み出すまでの経緯や、生み出してしまった後悔、そして徐々にハイド氏に実態が奪われていく恐怖・・・ それらが切々と語られているのだ。 時は19世紀後半のロンドン。 まだまだ夜が夜らしい姿を見せていた時代。 こんな時代に人間の「善」と「悪」をここまで追求したプロットを捻り出すこと自体がスゴイとしか言いようがない。 大昔(小学生時代かな?)に本作を一度読んでいるのだが、そのときはハイド氏の容貌と相俟って、とにかく怖いというイメージしかなく、再び本作を手に取る日が来るなんて考えてなかった。 分量はたいへん短いのだが、やはり名作として残すべき作品なのだろうと感じる。 ミステリーとしては甚だ変格だが、それ相応の評価はすべき作品。 (やはりスゴイ作家だと再認識。) さて、次はいよいよ記念すべき1,000冊目の書評だ! |
No.997 | 5点 | 暗闇の殺意- 中町信 | 2014/04/07 22:21 |
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「模倣の殺意」の思わぬヒット!
それに気をよくしたのか、今回は光文社文庫よりタイトルまでシリーズを模して発表された本作。 ①「Sの悲劇」=ダイニング・メッセージがテーマとなった本作。よくある推理クイズ程度のプロットといってしまえばそれまでなのだが、手堅くまとめてはある。(「Yの悲劇」のアンソロジーで有栖川有栖が似たようなプロットで書いていたのを思い出した・・・) ②「年賀状を破る女」=ラストには全体の構図が反転する・・・といえば面白そうに見えるが、それほどでもない。 ③「濁った殺意」=“安楽死”をテーマとする作品。一応動機はあるけれど、それでも○○を殺すかねぇ・・・。 ④「裸の密室」=これはトリッキーでよくできた作品。相当綱渡りだし、現実的に通用するかというと?(疑問符)なのだが、物証や関係者のコメントなどの仕掛けがラストに効いてくる。密室はオマケ程度。 ⑤「手を振る女」=鉄道を利用したアリバイトリックがメインテーマなのだが、別に時刻表を使った複雑なトリックではない。でも、手を振るのを○○と見○○○うかなぁ?? ⑥「暗闇の殺意」=表題作だが、他作品よりも出来は落ちる。一応フーダニットに主眼が置かれているのだろうけど、特段サプライズがあるわけでもなく終了。要はタイトルだけ欲しかったのかな? ⑦「動く密室」=自動車教習所を舞台とした一編。というと、最近読了した「自動車教習所殺人事件」(創元文庫版で「追憶の殺意」と改題)と同じだが、本作は短篇っぽいプロット。教習所らしい小道具がアリバイトリックに一役買っているのが面白い。 以上7編。 ひとことで言えば「寄せ集め」っていう感じだろうか。 作者らしい生真面目な作品が並んでるし、どれもまずまず楽しめる作品ではある。 ただ、全ての作品が“ジャブ”というレベルで、「へぇー」というパンチの効いた作品はない。 まぁ「殺意シリーズ」に便乗した作品集と言われても仕方ないかな・・・ 評価はこのくらいになってしまう。 (個人的ベストは④。次点は⑧。あとはうーん・・・) |
No.996 | 5点 | 戌神はなにを見たか- 鮎川哲也 | 2014/04/07 22:20 |
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1976年発表の長編。
鬼貫警部シリーズの作品だが、本作では地味で忠実な部下・丹那刑事が大活躍(!?)する・・・ ~東京・稲城市のくぬぎ林で小日向大輔の刺殺死体が発見された。物証は外国人の顔が刻まれた浮き彫りと、小日向の胃に未消化のまま残されていた瓦煎餅のみ。捜査陣の地道な努力によって、同業のカメラマン・坂下護が浮かび上がるが・・・。犯行時期、坂下は推理専門誌の仕事で、乱歩生誕の地・三重県名張市にいたと主張する。アリバイ崩し、遠隔殺人トリック、アナグラムなどを盛り込んだ重量級ミステリー!~ 長かった! 冒頭でも書いたとおり、本作では中盤、主に丹那刑事の捜査行が書かれているのだが、これが実に丹念&懇切丁寧。 事件関係者から話を聞くために、日本列島を東奔西走し、本作はそれをひとつひとつ書き残していく・・・ そういうシリーズだからと言ってしまえばそれまでだが、さすがにこれは冗長だった。 懸命の捜査の末判明する真犯人。 後半は真犯人のアリバイ崩しが当然のごとくメインテーマとなる。 二つ目の殺人については、遠隔殺人というほどのものではないが、メインの小日向殺しのアリバイはかなり精緻なもの。 いつもの時刻表を駆使したトリックではないが、写真というお得意の小道具をうまく使いながら、捜査陣(読者)の誤認を誘っている。 この辺りはやはり“さすが“ということだろう。 ただ、本作は鬼貫警部は完全に脇役扱いで、シリーズファンにとっては物足りないのではないか? トリック&プロットも今ひとつ切れ味に欠けるという印象。 作者の作品群でも上位に評価するのは難しいと思う。 (日本各地の変わった地名がうまく使われてるのが面白い・・・) |
No.995 | 7点 | 人間の尊厳と八〇〇メートル- 深水黎一郎 | 2014/03/30 18:57 |
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第64回日本推理協会賞短篇部門受賞作を含む作品集。
前々から読みたかった本作だが、文庫落ちを待って早速購入&読了。 ①「人間の尊厳と八00メートル」=表題作。日本推理協会賞受賞作に相応しい芳醇な香り漂う作品。途中で語られる「なぜ八00走が人間の尊厳につながるのか」というロジックと、ラストのオチが見事に決まっている。小粋な作品。 ②「北欧二題」=二つの別作品からなる一編。それぞれスウェーデン(瑞典)とノルウェー(諾威)が舞台となるのだが、前者の方が好み。作者あとがきにあるとおり、日本語の持つ表意文字としての美しさが存分に出ている(ような気がする・・・)。でも、ユーレイルパスの話は学生時代を思い出した! ③「特別警戒態勢」=設定として出てくる自身と妻と子供の三者関係は、もろに現実の自分を思い出した。小学生低学年だったら、今の時代これくらい考えてておかしくないと思う。 ④「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」=これはまさにタイトルどおりのオチ。プロットとしては特段珍しくない。 ⑤「蜜月旅行Lune de Miel」=この主人公の考え方って・・・なんか他人事のように思えなかった。私自身も昔、同じようにバックパッカーとしてあちこちを旅し、その度に日本人の団体旅行者を色眼鏡で見ていたなぁ・・・。でも今思えば、実につまらないことを気にしていたことを、この女性から突きつけられた感じ・・・。でも男って、こんなつまらない見栄を張りたい生き物なんですよ! 以上5編。 ①以外はミステリーとしてはどうかなぁという作品が並んでいるのだが、それでも読了後は満足感を得られている。 それもこれも、作家としてのレベルの高さなのだろう。 その中でも①はやはり別格。 濫作に陥ることなく、質の高い作品を今後も発表していただきたい。 (ベストは断然①なのだが、②と⑤は学生時代を思い出して実に懐かしくなった・・・。あの頃のように時間に縛られない旅ができればなぁ・・・) |
No.994 | 7点 | キドリントンから消えた娘- コリン・デクスター | 2014/03/30 18:56 |
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1976年発表。「ウッドストック行き最終バス」に続くモース警部シリーズの長編二作目。
モースとルイス部長刑事のコンビが織り成す「論理の迷路」(!?)が楽しい作品。 ~二年前に失踪して以来、行方の知れなかった娘バレリーから両親に無事を知らせる手紙が届いた。彼女は生きているのか、生きているとしたらどこでどうしているのか。だが捜査を引き継いだモース主任警部は、ある直感を抱いていた。「バレリーは死んでいる・・・」。幾重にも張り巡らされた論理の罠をかいくぐり、試行錯誤の末にモースがたどり着いた結論とは? アクロバティックな推理が未曾有の興奮を巻き起こす現代本格の最高峰~ これは評判どおりの“怪作”だ。 (人によっては“快作”かもしれないが・・・) 中盤以降、モースの「解決した」という言葉に何度騙されたことか(!) モースの推理をあざ笑うかのように、解決を確信した彼の前に現れる新たな壁、壁、壁・・・ 最終的に示された真相に対しては、もはや「へぇー」という感想しか湧いてこなかった。 一人の探偵役がこれほどトライ&エラーを繰り返している作品というのは、やはり初めてお目にかかった。 バークリーの「毒入りチョコレート事件」でも感じたことだが、要はミステリーにおける「真相」なんて作者の匙加減ひとつだし、あまりにもロジックに拘りすぎると、どうも無味乾燥なストーリーになりやすい・・・ということなのだろう。 最終的な真相について納得したかと問われると、正直なところ「うーん」ということになるのだが、こういう風に振り回されること自体は嫌いではないし、なかなか楽しい読書にはなった。 これまで読んできた作者の作品のなかではベストという評価。 (こんな失踪事件程度を主任警部が担当するというのはどうなんだろう・・・) |
No.993 | 5点 | 影の告発- 土屋隆夫 | 2014/03/30 18:55 |
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1963年に刊行された作者の第四長編。
今作以降、メインキャラクターとなる千草検事が初登場する作品であると同時に、日本推理作家協会賞を受賞したエポック・メイキングな作品という位置付け。 ~「あの女が・・・いた・・・」。そう言ってデパートのエレベーターの中で男が死んだ。手掛かりは落ちていた名刺とこの言葉だけ。被害者の周辺から疑わしい人物の名前が挙がってくるが、決定的証拠がつかめない。そして被害者の過去のカギを握る少女の影。千草検事と刑事たちは真実を追いかける・・・。日本推理作家協会賞受賞の名作~ 古いタイプの本格ミステリー。 作者の作品はデビュー長編の「天狗の面」に続き、二作目の読書になるのだが、ロジック全開だった「天狗の面」に比べると、動機探しやアリバイ崩しといったその頃流行りのガジェットに拘った作品にシフトしていた。 「動機探し」については、早い段階からほぼ読者が察することができ、それと同時に真犯人もほぼ特定されてしまう。 戦後を引き摺ったような暗く重い動機であり、タイトルどおり「影」という言葉が作品全体に大きな意味を持ってくる。 そして、中盤以降はほぼアリバイ崩し一本槍の展開。 そのアリバイトリックの鍵となるのが「電話」と「写真」。でも、写真についてはここまで綿密に計画した犯人にしてはアレを計算に入れないというのがあまりにもお粗末な気がするし、○○についても、ピントが甘いという時点で捜査陣が気付かないというのはちょっと頂けない・・・ ただし、電話の使い方については感心。 捜査(読者)側の錯誤をうまい具合にアリバイトリックに絡めているなど、ミステリー作家としての作者の腕の確かさを感じられる。 まぁ全体的な評価としてはなぁ・・・ 「天狗の面」がかなり鮮やかで、大いに感心させられただけに、どうしても格差を感じてしまう。 “物書き”としての力量は、デビュー時よりも当然上がっているのだろうが、ミステリーとしての衝撃度ではやはりこの程度の評点に落ち着いてしまう。 |
No.992 | 7点 | 不可能犯罪捜査課- ジョン・ディクスン・カー | 2014/03/22 20:24 |
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不可能犯罪を捜査するため、スコットランド・ヤード内に設置されたD三課。
D三課長を務めるマーチ大佐を主な探偵役に据えた作品集が本作。 以下の①~⑥はマーチ大佐登場作で、⑦以降はそれぞれ別の人物が(一応の)探偵役となる。 ①「新透明人間」=ひとりの間男が見張っていた部屋で起こった銃殺事件。しかも犯人は手袋のみの「透明人間」なのか? 何ともトリッキーな作品に思えるのだが、トリックはかなり昔の奇術を使ったもの。個人的には、二階堂黎人が「人狼城の恐怖」で捨てトリックとして引用していたのを思い出した。 ②「空中の足跡」=いわゆる「雪密室」がテーマなのだが、このトリックは「うーん」という感じになってしまう。小学生の頃、「推理クイズ」辺りで必ず出てきたヤツだ。 ③「ホット・マネー」=銀行強盗が逃走中に盗んだ金を隠したと思われるある一軒家。しかし、どこを探しても金は見つからなかった・・・。ポーの名作「盗まれた手紙」を意識した作品だが、東洋人には今ひとつピンとこない隠し場所。 ④「楽屋の死」=テーマとしてはアリバイトリックになるが、この手のプロットは古典作品で頻繁に登場するヤツだ。でも、これって絶対リアリティないと思うけどなぁ・・・ ⑤「銀色のカーテン」=これは典型的な物理トリック、っていう感じ。ここまでうまくいくか、という疑問は置いといても、こういう舞台設定を無理なく設定できる作者の着想にはやはり尊敬させられる。“銀色のカーテン”という表現も詩的でニヤリとさせられる。 ⑥「暁の出来事」=これもプロット自体はなんてことないものなのだが、見せ方がうまいせいでオチが綺麗に決まっている。ひとりの登場人物の予想外の行動がカギになっている点も旨い。 ⑦「もう一人の絞刑吏」=これは⑥までの作品とは色合いの違う一編。法律をうまく逆用したオチが決まっているが、やや分かりにくいのがマイナス。 ⑧「二つの死」=仕事に疲れ、長期休養を言い渡された大富豪。世界一周旅行から帰ってみると、自分が死んだという報道に触れて・・・。プロットにそれほど捻りはないのだが・・・ ⑨「目に見えぬ凶器」=実に魅力的なタイトル。密室状況の殺害現場から凶器が消えたというのが本作の謎。②と同レベルなら、「氷」が凶器という解答になるのだが、さすがにこれは捨てトリックだった。でもコレって本当に凶器になるのか? ⑩「めくら頭巾」=これはオカルト色が強い一編(特にラスト)。途中長々と読まされるが、結局真相は○○だったということ。 以上10編。 この時代にこんな短篇って、恐らくカーしか書かないだろうなぁ・・・といういかにもカーらしい作品集となっている。 長編にするにはちょっと食い足りない(中には長編に焼き直したものもあるのかもしれないけど)、というレベルのトリック&プロットが並んでいる印象。 でも、決して嫌いではない。特にマーチ大佐はもろにフェル博士やH/M卿とキャラが被っていて、カー好きにとっては堪えられない。 こういうトリックを次々と捻り出してくれた作者にはやはり感謝せねばならないだろう。 (個人的には⑤⑥⑨辺りが好み。①や②にも思わずニヤリ・・・) |
No.991 | 6点 | 極北クレイマー- 海堂尊 | 2014/03/22 20:23 |
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北海道極北市にある極北市民病院。
今回の舞台はいつもの桜宮市を離れたが、登場人物のなかにはこれまでの海堂ワールドを彩ってきたメンバーたちがちらほら・・・ 続編「極北ラプソディ」の前編的位置づけなのが本作。 ~財政破綻に喘ぐ極北市。赤字五つ星の極北市民病院に赴任した非常勤外科医・今中は、あからさまに対立する院長と事務長、意欲のない病院職員、不衛生な病床にずさんなカルテ管理など、問題山積・曲者ぞろいの医療現場に愕然とする。そんななか、謎の派遣女医の姫宮がやってくる・・・。果たして今中は病院を救えるのか、崩壊した地域医療に未来はあるのか?~ 医療事故と地域医療。 現代の日本に存在する医療に関する諸問題のうち、この二つが本作のテーマとなった。 医療事故については、それこそ「白い巨塔」以来、何度も取り上げられたテーマであり、特段の目新しさはない。 ただ、本作の舞台となっている産婦人科については、最も医療事故が「許されない」対象となっている点は考慮する必要がある。 (それにしても、三枝医師があの「マリア・クリニック」院長の子息とはなぁ・・・) そしてもうひとつのテーマである「地域医療」。 本作に出てくる架空の街・極北市は恐らく「夕張市」がモデルになっているものと思われるが、何も夕張に限ったことではなく、地方では県庁所在地以外ではどこにでも同種の問題が存在する。 救急搬送でのたらい回しや慢性的な医師不足など、問題山積なのが現状だろう。 ただし、作者はこういう医療側だけの問題でなく、医療を受ける側の問題を指摘する。 われわれが日々享受している医療サービスは、過酷な労働環境で働く医師たちに支えられているのだと・・・ 作中ではマスコミの取材態度や勉強不足を槍玉に挙げているが、確かに徒にミスをあげつらい、患者の権利だけを主張する世の中はどうなのか、という思いは強くさせられた。 終章に登場する世良医師(あの世良だ!)が発した「日本人は今や一億二千万、総クレイマーだ!」という言葉。医療関連ではないが、同じ(?)サービス業で働く身としては、同様に感じてしまう思いである。 ということで、割と硬派な書評になってしまったけど、本作もやはり「笑いどころ」満載の医療エンタメ作品に仕上がっている。 ミステリー色はほぼないが、海堂ワールドを楽しみにしている読者にとってははずせない作品。 (極北市で夕張だけじゃなく、夕張+網走+稚内っていう感じかな?) |
No.990 | 8点 | 永遠の0- 百田尚樹 | 2014/03/22 20:21 |
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もはや説明不要とさえ言えるほどのベストセラーとなった本作。
昨今問題発言(?)が騒がれているが、類まれなるストーリーテラーとなった作者のデビュー作にして最高傑作(だろうな)。 ~「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか・・・。終戦から六十年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才的パイロットだが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、ひとつの謎が浮かんでくる・・・。記憶の断片が揃うとき、明らかになる真実とは?~ 本作を読むことになろうとは全く思ってなかった。 ミステリーとは全く異質の読み物である本作。仕事の関係でどうしても読まなくてはならなくなり、手に取り頁をめくり始めた途端・・・ 物語の波に呑み込まれていった・・・ これは書評すべき作品ではないだろう。 入念な取材が成された様子が分かるし、史実に近い内容になっているのだろうと思う。 つい、六十年前、日本は、日本人はこんな時代を過ごしてきたのだ、という圧倒的な事実。 徐々に戦争の語り部がいなくなっている現代。 我々は平和の世を生きる幸せを噛み締めなければならない。 そして何より、「なぜ戦争を始めたのか」「始めなければならなかったのか」・・・ それを考えていかなければならない・・・ あまりうまく書けないが、そんなことを強烈に考えさせられた。 本作にミステリーとしての評価はできないし、一応点数をつけてるけど、参考外。 |
No.989 | 6点 | ナヴァロンの要塞- アリステア・マクリーン | 2014/03/15 20:34 |
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1957年発表。「女王陛下のユリシーズ号」と並び、A.マクリーン最大の傑作といえばコレ。
グレゴリー・ペック主演の映画の方が有名なサスペンスアクション巨編。 ~エーゲ海にそびえ立つ難攻不落のナチスの要塞、ナヴァロン。その巨砲のために連合軍が払った犠牲は計り知れない。折しも近隣の小島ケロスにとどまる1,200名の連合軍将兵が全滅の危機に瀕していた。だがナヴァロンのある限り、救出は不可能。遂に世界的登山家のマロリー大尉ら精鋭五人に特命が下った。「ナヴァロンの巨砲を破壊せよ!」。知力、体力の限りを尽くして不可能に挑む男たちの姿を描く冒険小説の金字塔!~ これはやはり映像向きだな・・・というのが読後の感想。 マロリー大尉らが、数々の苦難を経てナヴァロンの巨砲を破壊するまでが描かれるわけだが、文字にして読んでると、どこか説明がクドク感じてしまって、スピード感が削がれるように思えた。 作中にナヴァロンの要塞の図なども挿入されているのだが、本来は三次元の広大なスケールだったのが、うまく伝わってこないような感覚なのだ。(訳文のせいかもしれないが・・・) ただし、さすが読み継がれる名作と思わせるところは随所にある。 序盤から中盤まではちょっとまだるっこしいのだが、マロリーらの進撃が始まる終盤以降は、マロリー軍団VSドイツ軍の一進一退の攻防が描かれ、ページをめくる手が止まらなくなる。 仲間の裏切り、そして忠実な部下の死を経てたどり着く歓喜! この辺りの面白さはやはり見るべきものがある。 評点としてはこのくらいになるかなぁ・・・ 知名度から勘案するとちょっと物足りない感じがしてしまうところがどうしても評価に反映されてしまう。 でもまぁ、十分に一読の価値はあり。 (今回、読了するのにかなりの時間を要してしまった・・・) |
No.988 | 7点 | 人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1) - 江戸川乱歩 | 2014/03/15 20:33 |
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角川ホラー文庫の江戸川乱歩ベストセレクションシリーズ第一弾で読了。
表題作のほか、作者を代表する珠玉の短編全8編で構成。 ①「人間椅子」=実に乱歩らしい耽美でエロティックな世界観だが、ラストはミステリーらしいオチで終わる。よくまとまってるし、このプロットは他の作家でも手を変え品を変え登場するもの。良作。 ②「目羅博士の不思議な犯罪」=これも乱歩らしい作品のひとつ。夜にこういう話を読んでると、何かモゾモゾした気分になってくる・・・ ③「断崖」=男と女の会話だけで進められるストーリー&プロット。タイトルどおり、ラストはまるで二時間サスペンスのような展開になるのか? ④「妻に失恋した男」=何だか意味深なタイトルだが・・・。こういう男は悲しい・・・。 ⑤「お勢登場」=これは再読。罠をかけた方が自らの罠にはまってしまうという悲しい結末。そしてそれを見て見ぬ振りをする妻・・・。④と同様、男って悲しい生き物。 ⑥「二廃人」=これも再読。夢遊病者の犯罪というのがやはり乱歩という気がする。 ⑦「鏡地獄」=“鏡”というのも乱歩の世界観にマッチした小道具だろう。鏡に嵌った男が、鏡に狂わされてしまう。 ⑧「押絵と旅する男」=これも良作。乱歩の不条理な世界観とファンタジックな感覚が絶妙にマッチした作品だと思う。つい最近、「ビブリア古書堂4」を読んだことが、本作を手に取るきっかけとなったのだが、読んで正解。 以上8編。 このセレクションはかなりの高水準。 もちろん作品ごとに差はあるが、総じて水準以上の好編が並んでいる印象。 乱歩の世界観は、あまりにエログロに振れるとゲンナリするが、これくらいなら全く問題なし。 これなら乱歩好きにも乱歩嫌いにもお勧めできる。 (ベストは①か⑧。この2編は評判通りの作品。後もそれなりに面白い。) |
No.987 | 7点 | 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? - 詠坂雄二 | 2014/03/15 20:32 |
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2008年発表。デビュー作「リロ・グロ・シスタ」に続く第二長編。
サブタイトル「佐藤誠はなぜ首を切断したのか」のとおり、“首切り”のホワイにプロットの力点を置いた作品。 ~佐藤誠。有能な書店員であったとともに、八十六件の殺人を自供した殺人鬼。その犯罪はいつも完璧に計画的で、死体を含めた証拠隠滅も徹底していた。ただ一つの例外を除いては・・・。なぜ彼は遺体の首を切断するに至ったのか? 遠海市で起きた異常な事件の真相、そして伝説に彩られた佐藤誠の実像に緻密に迫る!~ 実に不思議な感覚に陥る作品・・・だった。 冒頭に触れたとおり、本作のプロットの中心は「首切り」の謎。 作中でもミステリーマニアの登場人物の口を借りて、「首切り」というガジェットの面白さが語られていて、犯人が首を切る理由の分類を試みている。 同じようなものに「バラバラ死体」があるが、主にポータビリティが理由となる「バラバラ」よりも、「首切り」の方はどうしてもこういった解法になるんだなぁというのが感想で、本作もそれほどのサプライズ感はなかった。 ただし、本作のスゴさはそこだけではなくて、作中全体に「罠」が仕掛けられているところにある。 ドキュメンタリー形式という表現が取られているのだが、終盤にはこれが重層的な構造だったことが分かる仕掛け。 「おわりに」の章も、ラスト一行で読者は「えっ!」と思わされるのは間違いないだろう。 手頃な分量の作品だけど、作者のテクニックがふんだんに盛り込まれた佳作。 本作が「詠坂」の初読みだったのだが、以前から注目していた作家のひとりだったし、他作品も続けて読むことにしよう。 (『佐藤マコト』って、日本で何人くらいいるんだろうね?) |
No.986 | 6点 | 金雀枝荘の殺人- 今邑彩 | 2014/03/03 22:02 |
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1993年に発表された作者の第六長編。
最近中公文庫で再版されたが、今回は講談社のオリジナル版で読了(別に変わりがあるわけではないが・・・)。 ~金雀枝(エニシダ)の花が満開に咲くころ、一年に一度彼らがこの館を訪れる。また、あの季節が巡ってきた・・・。完璧に封印された館で発見された不条理極まりない六人の死。過去にも多くの命を奪った「呪われた館」で繰り広げられる新たなる惨劇。そして戦慄の真相とは何か。息をもつかせぬ恐怖と幻想の本格ミステリー~ これはまさに「新本格」というべき作品。 1987年に発表されたエポック・メイキング的作品「十角館の殺人」を契機に、いくつも発表された「館もの」というジャンル。本作もそのなかのひとつに含まれるのだろう。 いろいろと不満な点もあるのだが、まずは「謎解き小説」としてのプロットはしっかりしている。 ロジックが不足している点も垣間見えるが、大量連続殺人と密室、そして「見立て」が有機的につながり、特に密室(館そのものの)トリックの解法はシンプルだが説得力のあるものになっている。 「見立て」については常にその「必然性」が問題になるが、今回はまぁ及第点というところかな。 冒頭に掲げられた家系図や登場人物の多さからしても、書く人が書けば相当膨大な大作になってしまいそうだが、本作は必要部分以外は削ぎ落とされていて、そういう意味では好感が持てるのだが、反面物語としては物足りなさを感じてしまう。 特に「動機」はどうかなぁ・・・ (いかにも「新本格」らしいといえば、らしいのだが・・・) 個人的にはこういう作品はストライクゾーンだし、作者の姿勢にも好感が持てる。 ただ、期待が高かっただけに、ちょっとハードルを上げすぎたかも。 いわゆる「館もの」が好きな方なら是非ご一読ください。 |