皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1835件 |
No.295 | 5点 | パンドラ・ケース よみがえる殺人- 高橋克彦 | 2013/04/01 22:54 |
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再読です。
かつて大学の仲間だったメンバーが、そのうちの一人の失踪から12年経ち、東北のある温泉旅館に集まることになった。 目的は、メンバーの誰かが死亡した場合、その13回忌の代わりに近くに埋めたタイムカプセルを掘り出すというもの。 そして、舞台は雪崩のため陸の孤島と化し、ついに仲間の一人が首なし死体となって発見される。 それだけにとどまらず、次の犠牲者も首を切断されて殺される。 事件の鍵はタイムカプセルにあると判断した名探偵の塔馬双太郎は、真相解明に乗り出すが・・・といったストーリーだが、途中昭和40年代に実際に起こった事件が絡んでくるのには驚いた。 何故犯人は首を切断したのかという理由は、もっともではあるが、どちらかと言うとありきたりな感は否めない。 事件そのものもいわゆる嵐の山荘もので、パターン化されたものを踏襲していてあまり新味が感じられない。 全体的に緊迫感がなく、事件が起こるまでが長くて多少イライラさせられる。 なんとなく退屈であっと驚くような真相でもないし、初読の際に感じた輝きは完全に失せてしまっていた。 |
No.294 | 6点 | 解体諸因- 西澤保彦 | 2013/03/28 22:19 |
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再読です。
全体の感想としては、比較的簡単なマジックを見せられて、種明かしをされ、なるほどと納得する反面、なんだかなあというあまり感心しない感情がないまぜになった感じ。 バラバラ死体や首なし死体は私の好みのジャンルだが、この作品はあまりにからりとして陰惨な雰囲気がないため、逆に面白味を覚えなかった。 あくまでパズラーに徹しているので、タイトルから想像されるような陰湿な作風を期待すると裏切られるので注意が必要である。 死体を解体する理由については、どちらかと言うと変化球でかわされた感じで、もう少し直球勝負をして欲しかった気がする。 その為、カタルシスを味わえることなく、最後まで読み終えてしまった感じで、やや消化不良気味ではあった。 特に最終話は、話が込み入っていて、若干分かり難かったきらいがあるのが残念である。 |
No.293 | 8点 | 異邦の騎士- 島田荘司 | 2013/03/25 22:27 |
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再読です。
島荘の作品は本格ミステリが多いのだが、どことなく文学の香りがするんだよね。 本作はそれが如実に表れた形になっていると思う。ミステリでありながら文学作品でもあるといった具合で、ミステリ・ファンばかりでなく、一般の読者にも十分受け入れられるものと考えられる。 それにしても氏は主人公が痛めつけられるのがよほどお好きと見えて、幾度となく暴行を受けたりしている。そればかりか、ただでさえ記憶喪失なのに、精神的にもかなりのダメージを負うシーンが散見される。 御手洗もよくうつ状態に陥っているしね。 それはさておき、私は序盤の主人公と良子が仲睦まじく同棲生活をするシーンが一番好きである。 だから、その後の展開はかなりつらいものがあり、最後は結構落ち込んでしまった。まあそれだけ物語にのめり込んだということであり、そのリーダビリティはさすがだと思う。 いつもは御手洗の陰に隠れた感じであまり目立たない石岡だが、本作ではなかなか男らしいところを見せているのが、意外な感じがして、その意味でも貴重な作品と言えるのではないだろうか。 また、御手洗の「僕もひとりぼっちだ」というセリフがやけに印象に残っている。 |
No.292 | 6点 | 夏、19歳の肖像- 島田荘司 | 2013/03/22 22:25 |
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再読です。
とても詩的な部分と生々しい面とを併せ持つ、島田氏にしては珍しい青春小説。ミステリ的な要素もあるが、どちらかと言うと文芸作品に近い感じである。 だから、直木賞の候補に挙げられるのも分からないでもない。むしろ直木賞を受賞してもおかしくないような佳作となっている。 そして二度直木賞候補に選ばれながら受賞できなかったこともあり、乱歩賞も逃したりして、無冠の帝王と呼ばれ現在に至るわけである。 残念ながら、氏は賞には縁がなかったようである。 時代が彼に追いつけなかったのか、生まれるのがちょっとだけ早すぎたのか、もう少し後に生まれていたら、もっといろんな賞を受賞したいたのではないだろうか。 これだけ数々の傑作を生み出しながら、無冠だったのはまさに不運と言ってよいのではないか。 |
No.291 | 8点 | 八つ墓村- 横溝正史 | 2013/03/21 22:27 |
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横溝作品の中でそのスケールの大きさは随一と言えるのではないだろうか。
ただ本作は、本格ミステリとは言いがたく、どちらかと言うとホラーに近い作風のような気がする。ま、ホラーは大袈裟だろうが、スリラーかな?とにかくミステリとして読んだ場合、とかく不満が残るかもしれないので、あまりジャンルにこだわらないほうが無難かもしれない。 でもその雰囲気は氏の作品中でも異色と言えるほどの異様さであり、もはやそれは伝説に近いものがある。 金田一はあまり活躍しないが、その代わりいくつもの過去の因縁話が充実していて、この手の作品が好きな読者にはたまらない魅力となっている。 だからこの評価はあくまで、一小説としての点数である。 |
No.290 | 6点 | 嘘でもいいから殺人事件- 島田荘司 | 2013/03/20 22:26 |
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再読です。
肩の力を思い切り抜いて、リラックスして読めばいいと思うよ。 もうね、さすが島荘ですよ。こんなユーモア・ミステリを書いても十分面白く読ませるとは。 全編笑いのエッセンスを散りばめて、尚且つ本格ミステリとしての骨格はしっかりとしている、意外とこういった作品は名手しか書けないものかもしれないね。 まあ、トリックはそれほど目を見張るようなものではないが、当時はこんなんでも結構驚いたものである。 それにしても、読み進んで行っても、一体誰が探偵役をするのか不思議だったが、そう来たかって感じだ。 トリックに無理はないが、そこまでする必然性が今一つ感じられなかった。犯人の心情は分かるけど。 |
No.289 | 9点 | 悪魔の手毬唄- 横溝正史 | 2013/03/19 22:24 |
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個人的に横溝作品の中で『本陣殺人事件』に次いで好きな作品。
本作も人間関係がかなり複雑だが、それだけに読みごたえもあり、手毬唄の全容が少しずつ明かされていく辺りは、なかなかのサスペンスぶりを発揮している。 メインとなるトリック、と言うか仕掛けは単純なものであり、わざわざ金田一が神戸まで出向かなくても良いのではないかと思うが、当時としてはやむを得なかったのかもしれない。 犯人にとって動機はまさに真に迫るものであり、やむに已まれぬ事情があったわけだが、冷静に考えると、もう少し穏便にことを済ませる方法もあったのではないかとも思うのだが。 しかし、やはりこの隠された動機に繋がる裏事情は他言できるような種類のものではなかったのだろう。 それだけに、真相が明らかになった時、犯人の苦悩が浮き彫りにされて悲哀が漂う結末になっており、とても印象に残る。 多少の瑕疵はあるものの、横溝の代表作のひとつであることは間違いないであろう。 |
No.288 | 9点 | 犬神家の一族- 横溝正史 | 2013/03/18 22:25 |
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なんだか原作より映画(市川崑監督の一作目)のほうが印象深い。
とは言え、あの名作と名高い『獄門島』より中身は面白いのだから、これはまさしく歴史に残る大傑作と言えるかもしれない。 適度に複雑な人間関係、一族の忌まわしい過去、佐兵衛翁のいわくつきの遺言状など、いかにもな雰囲気満載の本作は横溝作品の白眉と呼んでも差し支えないのではないだろうか。 ただ、犯人の意外性のなさや、かなりのご都合主義はまあいつものごとくだが。 それでも、ゴムマスクで顔を隠した、謎の人物(果たして本当にスケキヨなのか?)を最大限に生かしたプロットは見事である。 |
No.287 | 6点 | 夜想曲(ノクターン)- 依井貴裕 | 2013/03/17 22:31 |
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再読です。
作中作の部分が特に読みづらかった。そう、まるで教科書を読まされた気分である。 もう少し情感を込めて描写できないものだろうか、よく言えば端正、悪く言えば文章が固すぎるのであろう。 まあ、それは置いておいて、作中作の第二章から既に違和感を覚えた。どうもおかしいなと思いながら、結局トリックは見破られなかったのが悔しいが、真相が明かされたときに最初に思ったのが、これはアリなのか?ということだった。 そうだったのかと納得できる半面、何か姑息な感じが否めなかった。 その後の仕掛けは、これは単純に驚かされた。よくあるパターンと言ってしまえばそれまでだが、こうした使い方はあまり見られないし、私としては素直に感心出来た。 前半はいささか退屈、解決篇はなかなかの出来栄え、ということで、良い点悪い点相半ばする感じの、ややアンバランスな作品だというのが正直な感想。 |
No.286 | 8点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2013/03/15 22:22 |
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『カエル男』も良かったが、本作も負けていない。
私のようなクラシック音楽の素養がない者でもそれなりに楽しめたのだから、そちら方面、特にピアノ協奏曲や練習曲に詳しい人なら更に面白く読めるに違いない。 ただ、専門用語などはそれほど出てこないが、やはり本作に登場する曲を知っていたら、と思うと少し残念な気もする。 火災で大やけどを負った少女が、ピアノ・コンクールを目指して猛特訓をこなし、いかにハンディを克服していくのかが主題の、いわば音楽スポ根ものかと思いきや、本格ミステリの部分もしっかりしており、その二つが実に上手く絡んで、見事な音楽ミステリに仕上がっている。 そして想像もしていなかった衝撃の真実には、誰しもが目を疑うだろう。 探偵役の岬も爽やかで、好感が持てる。 |
No.285 | 8点 | グリーン家殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2013/03/14 22:27 |
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『僧正殺人事件』と共にヴァン・ダインの代表作とされる名作と呼んでも差し支えないのではないだろうか。
まさに古き良き時代の、端正な推理小説と言った風情である。 多くの手掛かりを列挙し、そこから事件を検証し真犯人に迫る推理法は圧巻と言えよう。そこには作者の矜持が色濃く表れているような気さえする。 しかし、ヴァン・ダインと言えばこの2作が超有名だが、残りの作品との出来の差が激しすぎるきらいがあり、読者は注意が必要だ。 なので、正直他の作品を敢えて読む必要性はかなり薄いと言わざるを得ないと思う。『僧正』と『グリーン家』が抜きんでているためであるというべきなのだろうが。 |
No.284 | 8点 | 僧正殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2013/03/13 22:22 |
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随分前に読んだのに、なぜか強く印象に残っている一冊。
見立て殺人というものにあまり耐性がなかったせいなのか、衒学趣味にうまく惑わされたせいか、その辺り自分でもよく分からないが、とにかく当時としては面白かった。 ラストの、二人の教授の対決は見ものだったが、ファイロ・ヴァンスの行動でやや後味が悪くなってしまったのも事実。 ストーリーを盛り上げるためには、仕方なかったのかもしれないが、一探偵がそこまでして良いものかどうか、大層疑問に感じたものである。 が、それを差し引いても、ミステリ史に残る名作だと思う。 |
No.283 | 5点 | ZOO- 乙一 | 2013/03/12 22:24 |
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再読です。
正直なところ、面白かったのは『SEVEN ROOMS』だけ、これは確かに訳の分からない設定ながら、緊迫感は只者ではなく、非常に緊張感をもって読むことができた。しかもまるで自分がその場にいるような臨場感をもって迫ってくるような迫力もあり、とても楽しめた、というか、手に汗握るような感覚を覚えた。 他の短編は、あまり感心しない。 どれもいまひとつ、或いは取るに足らないものばかりが並んでいて、読んでいてあまり気分が乗らなかった。 そんな中、『陽だまりの詩』はちょっと風変わりで、どことなく切ない佳作ではないかと思う。 まあ、全体としてはあまり高評価はできないね。そこそこ面白かった記憶があるだけに、読み直してみてちょっぴり残念だった。 |
No.282 | 6点 | 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー | 2013/03/11 22:19 |
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フェル博士による、かの有名な密室講義が披露される。もうこれだけで読む価値は十分だろう。
それにしても、本書はさすがの貫録の一冊となっている。 トリック的にはあまり感心しないが、よく考えられてはいると思う。 まあしかし、余程集中して読まないと、なんだかすぐに忘れてしまいそうな作品ではある。 ちょっと読みづらいしね。 |
No.281 | 8点 | 過ぎ行く風はみどり色- 倉知淳 | 2013/03/10 22:36 |
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再読です。
初読の際よりも一層楽しめた気がする。 それにしても、あの叙述トリックには参った。思わずえっと声に出してしまいそうになった。 この仕掛けはそうそう見破れまい。だが、伏線はところどころにしっかりと張ってあり、一概にアンフェアとは言えないだろう。 それでも、ほとんどの読者が作者の罠に嵌るのではないか。 そして、冒頭のエクトプラズムと言い、降霊会の最中での殺人と言い、まるでカーを思わせる雰囲気を纏っていて、とても読みごたえがある。 しかし、決して陰湿なムードではなく、どちらかというと爽やかささえ感じる。 あえて苦言を呈するなら、第一の殺人は動機が弱い、第二の殺人はいかにも無理がありすぎる、といったところだろうか。 それでも、最後に披露される猫丸先輩の謎解きはそんな些事を一掃させるくらいの勢いが感じられるし、それはまあ見事な推理ではある。 だが、この謎解きも苦渋の決断であり、猫丸先輩の苦しい胸の内が初めて明かされる貴重なシーンでもある。 後味もいいし、本作は倉知氏の最高傑作と言えるんじゃないだろうか。 |
No.280 | 6点 | 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー | 2013/03/08 22:21 |
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カーはデビュー作から怪奇色溢れる密室ものを書いていたんだねえ。その心意気は見事なものであり、一貫して本格ミステリを書き続けた姿勢は素晴らしい。
本作は、ややあっさりしすぎている感もあるが、密室とアリバイを組み合わせたトリックはなかなかよく考えられていると思う。 探偵役のバンコランはアクの強さはないものの、それだけに逆に好感が持てる気がする。 処女作としては十分合格点じゃないのかな。 |
No.279 | 8点 | 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー | 2013/03/07 22:31 |
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カーの作品の中では最も読みやすい部類に入るので、未読の方にも入門書としてお薦めできる。
がしかし、珍しく物理トリックではなく、心理的トリックを用いており、カーとしては異色の存在なのかもしれない。 それでも、その一作のみにしか使えないであろうトリックが見事に決まっており、「これは凄い」と素直に感心させられたものだ。 数あるカーの作品の中でも、ひときわ異彩を放つ名作と言い切ってしまっても文句はあるまい。 素晴らしい出来だと思う。 |
No.278 | 7点 | ダレカガナカニイル・・・- 井上夢人 | 2013/03/06 22:25 |
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再読です。
かなりの長尺だが、長さを感じさせない作者の筆力は素直に褒めたたえたいと思う。 とにかく読者をグイグイ引っ張っていて、いつの間にか物語の中に引き込まれているのに気付くだろう。 SFだが、監視カメラのトリックから真犯人を突き止める辺りは、ミステリの要素もふんだんに盛り込まれており、単なるSFとは一線を画する作品なのではないだろうか。 こうした作品は、いかに着地を決めるかが勝負だと思うのだが、その意味で若干分かりづらかった部分もあった。多分これは己の理解力が足りなかったせいだと思うけれども。 まあとにかく、いろんな意味で楽しめる逸品であるのは間違いないだろう。 さすがに井上氏はソロになっても、その力量を存分に発揮しているのは素晴らしいことである。 デビュー作とは思えない手練れだ。 |
No.277 | 8点 | エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン | 2013/03/04 22:22 |
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国名シリーズの中で出来はともかく、最も好きな作品。
派手な展開で最後まで読者を引きずり回して、結局最後には手掛かり一点で解決にもっていってしまうところが、いかにもクイーンらしい。 首なし死体という、オーソドックスかつ日本人好み?のテーマを、序盤のエジプト十字架に関する薀蓄などでうまく攪乱しながら、犯人の的を絞らせない工夫も心憎い演出となっている。 シリーズ中、ひときわ異彩を放っている異色作だと思う。 |
No.276 | 9点 | Yの悲劇- エラリイ・クイーン | 2013/03/03 22:19 |
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クイーンの作品をすべて読んだわけではないので、偉そうなことは言えないが、個人的にはやはり本作がクイーンの最高傑作だと思う。
まるでクイーンが標榜する理想形を体現したかのような名作ではないか。 特に意外な犯人には驚かされた。 国名シリーズもいいけれど、私の一押しはこれで決まり。 |