皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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メルカトルさん |
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| 平均点: 6.04点 | 書評数: 2008件 |
| No.508 | 6点 | まもなく電車が出現します- 似鳥鶏 | 2014/08/16 21:44 |
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| 日常の謎を扱った連作短編集。コミカルな学園ミステリと銘打たれているが、際立ってコミカルな点は見当たらない。むしろ、ライトでありながらシリアスな重箱の隅をつつくがごときミステリではないだろうか。
全般的にそこそこ面白いが、ドラマティックな要素が不足しているため、その意味では一般受けしない気もする。その中でも別格と言えるのはやはり最終話の『今日から彼氏』だろう。この作品ばかりは探偵役の伊神さんも出番はないと思っていたら、良い意味で期待を裏切ってくれた。だが、kanamoriさんもご指摘の通り、主人公の葉山と柳瀬さんの関係が他の作品を読んでいないため、イマイチはっきり理解できていないのは痛い。シリーズ物は順番に読め、ということなのか。 まあしかし、この作家の他作品も読んでみようかという気にはなった。意外と評価が低いのでどうすればいいのか・・・。 |
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| No.507 | 6点 | 我が家の問題- 奥田英朗 | 2014/08/13 22:28 |
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| 必要最小限の文章で最大限の情報を読者に提供する、これはなかなかできそうでできないことではないだろうか。それをいとも簡単そうにやってのけるのが氏の才能だと思う。そっけないほど簡潔な文章なのに、登場人物のその時々の感情の揺れ具合が手に取るように解る、素晴らしいことではないか。
これはどこにでもいそうな夫婦の、特別ドラマティックでもない日常から持ち上がる様々な問題を、それぞれの思惑の元、結局最後には夫婦が協力しながら解決していく物語を綴った短編集である。 本当にどこにでも転がっていそうなものから、やや深刻な様相を呈するものもまで、解決すべき問題は色々だが、それぞれに共通するのは、やはり夫婦愛なのだろう。その辺りの実に微妙な人情の機微や夫婦間、親子間の絆をサラリとしたタッチで描いており、大変好感が持てる。これはもう一種の名人芸と言っても過言ではないかもしれない。文章が上手すぎて、何も言えない。 |
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| No.506 | 6点 | 依存- 西澤保彦 | 2014/08/11 22:29 |
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| 力作であることは認めるが、やはりくどい。何と言うか、シリーズの集大成的な位置を占める作品としての価値はあるかもしれないが、例えばこれが本シリーズを初めて読む人にとってはどうなんだろう。主要メンバー4人がほとんど何の説明もないまま、それぞれの個性をむき出しにして我が物顔で物語に溶け込んでいるのは、ちょっと不親切ではないのかと思う。こういった、シリーズを通して読まなければ理解できない作品も、問題ありと言えばそうなんだろう。
やや過激な日常の謎を登場人物が提起し、それに対して議論を戦わせる一方、タックが衝撃の過去をタカチ相手に激白していく構成は、目新しさはないものの、引き込まれるシーンもあるにはある。が、心身ともに弱っている今の私には、さすがに無理があったようで、かなり記憶が曖昧な部分も多々あるかと思う。600ページ越えは少々長かった、無駄な描写があったとは思わないが。 後半のケイコ連続誘拐事件の謎はなかなか面白かった。他にも世話をしない飼い犬、老婆の幽霊など、なるほどよく考えられた仮想解決ではないだろうか。 まあとにかく、シリーズのファンは必読、その他の読者はいきなり本作を読まないほうが無難だと思う。ある程度、シリーズキャラを理解したうえで臨まれることをお勧めしたい。 |
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| No.505 | 5点 | スコッチ・ゲーム- 西澤保彦 | 2014/08/07 22:17 |
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| 回りくどすぎて、今の私には荷が重かった。それがこの作者の持ち味なので、ある程度は覚悟していたが、もう少しストレートに表現してもいいんじゃないかと思う。あまりにも迂遠な書きっぷりなので、内容を把握するのに精いっぱい、楽しむ余裕は生まれなかったのが、私の現状である。
それにしても、この連続殺人犯の動機は一般には理解しづらいのではなかろうか。作者自身がなんとなく有耶無耶にしてしまっているようで、どうにも気持ちが悪い。 私はこのシリーズのファンでも何でもないし、況してやタカチに対する思い入れなど全くないので、その意味では、これっぽっちも楽しめなかった。どうにも世界観がディープすぎて、理解不能な部分が多かった気がするなあ。これだけ地味な作品が、高得点を獲得しているのも私には正直不思議である。 わざわざ次の『依存』のために読むほどではなかったのかもしれない。しかし、今から『依存』に対する不安が募るばかりである。どうかそれが杞憂に終わってくれればいいのだが。 |
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| No.504 | 6点 | 空想オルガン- 初野晴 | 2014/08/03 22:00 |
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| ハルチカシリーズ第三弾。相変わらず、学園ものの雰囲気を程よく醸しながら、各キャラの描き分けもきっちりできており、好感の持てる短編が並ぶ。今回はついに吹奏楽のコンクールに初出場し、しかしそちらに重心が傾くことなく、しっかりとミステリとしての体裁を保っている。
最終話ではこれまでにない構成が新味を出しており、さらにちょっとしたサプライズも用意されていて、素敵な佳作に仕上がっている。青春っていいもんだね、と再認識させられる。それも押しつけがましさがない辺りが、この作者の心憎いところじゃないかな。 『ヴァナキュラー・モダニズム』は一番のお気に入り。これは面白い、オチも最高。kanamoriさんと同じだね。 |
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| No.503 | 2点 | 公開処刑人 森のくまさん-お嬢さん、お逃げなさい-- 堀内公太郎 | 2014/07/31 22:15 |
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| スマッシュヒットとなった前作をただ模倣しただけの、何の創意工夫もない駄作。
謎も仕掛けもトリックもない、そして何の面白みもない、文字を羅列したに過ぎない、箸にも棒にもかからない作品となってしまっている。シリーズ1作目のヒットに味を占めて、二匹目のドジョウを狙ったのだろうが、読者をバカにするのも程々にしたほうがよい。こんな内容ではこの作者も先が知れていると思える。デビュー4作目にして早くも自作の二番煎じでは、ネタ切れを自ら露呈していると思われても仕方ないだろう。 まあとにかく、本書を思わず手に取ってしまった自分を責めるしかあるまい。それと、相変わらず文章が下手、全然頭に入ってこない、心に沁み込まない。 |
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| No.502 | 6点 | カラスの親指- 道尾秀介 | 2014/07/27 21:40 |
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| 我が人生最大の激動の前後に読んだという事実だけは、生涯忘れないかもしれない作品となった。
他の多くの方が絶賛されているほど、面白いとは思えなかった。特に種明かしの部分を、半分上の空で読んだが、それを差し引いてもさして楽しめなかったのは間違いない。だからと言って、その理由をくどくどと並べ立てるような心境にはなれないので、簡単ではあるが終わりたいと思う。 多分、本当に立ち直るのは、少なくとも一カ月先かもっと時間が掛かるだろう。それまでは、読書のペースもかなり落ちるはずだし、書評もあまり長々とは書けないだろう。 |
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| No.501 | 6点 | 向日葵の咲かない夏- 道尾秀介 | 2014/07/19 21:48 |
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| 面白かった。しかし、拒否される訳もなんとなく理解できた気がした。本格志向が高い人ほど「許せない」のではないかな。そうでない人でも生理的に受け付けないという理由で、自分には向かないと感じているのではないかと思う。
だが、私は圧倒的にとは言えないが、大方支持する立ち位置でいたい。なぜなら、まず小説としての完成度が高いから。ミステリとしても、しっかりと伏線が張られているし、真相も過不足なく明らかにされており、設定が特異なだけで決してホラーなどではないと個人的には信じているのである。 確かに、非常に際どい描写があるのは認める。しかしながら、必ずしもアンフェアとは言えない。 やや気になるのはS君の生まれ変わりの早さで、蜘蛛に生まれ変わるのはいいが、たったの7日間でというのはいかにも早いのではないだろうか。私の少ない知識では人間が生まれ変わるのには400年前後かかるはずだけど。まあ、仏教にはそのような教えもあるのかもしれないので、あまり偉そうなことは言えないね。 それと、同じトリックの多用が気に入らない人も多いんじゃないかな。またかって感じで、感覚が麻痺してしまい、驚きが次第に目減りするのはやむを得ないと思う。 蛇足だが、冒頭のプロローグに当たる部分は最後に持ってきた方が良かったのではなかろうか。或いは、同じ文章を最後に繰り返すのも一つの手だったのではないか。そのほうが余韻がいい感じで残ると思うのだが。 |
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| No.500 | 4点 | ルピナス探偵団の当惑- 津原泰水 | 2014/07/16 22:16 |
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| この程度か、というのが率直な感想。そもそも作者が津原氏だというんで、一抹の不安があったんだよね。その嫌な予感が当たってしまった。文章は読み難いわ、面白みはないわで、言っちゃ悪いが時間の無駄だった。解説にはチェスタートンの血族とか書かれているが、正直チェスタートンも好きじゃないし。
大体において、どの短編もロジックに偏り過ぎて、肝心のストーリー性がおろそかになってはいないだろうか。だから、ああでもないこうでもないと理屈っぽくて、物語の起伏がほとんど感じられないのは大きなマイナス点だと思う。さらには、各キャラは個性的ではあるものの、もう一歩踏み込めていないのである。これなら、昨今流行の易しい系ミステリやラノベ風ミステリのほうが余程キャラが立っている、早々比べるべくもない。 最大の問題は、それぞれメインとなるホワイダニットの真相がいかにも弱い。別にそんなことしなくてもいいんじゃないの?と素朴な疑問を抱いてしまうのである。そこにいたるまでのダミーの推理にいたってはまさに噴飯ものであろう。 最終話のラスト一行だけはちょっぴり良かったがそれだけ。他に見るべきところはない。とまあ素人が得手勝手な感想を述べているが、あくまで個人の感想なので、無視されても一向に構わない。 |
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| No.499 | 6点 | 眠りの牢獄- 浦賀和宏 | 2014/07/13 22:23 |
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| 二つのまったく関連性のないごときストーリーが並走する構成は、好きな部類だし、面白いと思う。それらが一体どうつながっていくのか、興味深く最後まで読める。そして、いくつも驚愕ポイントが用意されているが、いちいちテンションが上がらない理由が、淡々とした文章にあるのではないかと思う。それが残念でならない。この作品は料理の仕方によっては、大傑作になった可能性が高いはずである。もっとこう、ねちっこい文体で書かれていたなら、或いはもっと上手い作家の手になったとしたら、それこそミステリマニアも大絶賛のヒット作となっていたかもしれないのだ。
だがまあ、そんなことを言っても詮無いことなので、諦めるしかあるまい。どこか既視感のあるメインストーリーではあるし、そして正直またかと思わざるを得ないトリックが用いられているが、全体として実に緻密に練られたプロットであり、隅々まで整合性が取れている点は評価されるべきであろう。 個人的には繰り返しになるが、もう少しこってりと描き込んでほしかったし、もっとボリュームがあってもよかったと思う。氏にしては小さくまとまり過ぎていたのではないだろうか。 |
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| No.498 | 5点 | 樒/榁- 殊能将之 | 2014/07/12 23:24 |
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| やけに書評が多いと思ったら、『鏡の中は日曜日』の文庫版に併せて載せられていたのね。それにしてはあまりお得感を得られなかったのは気のせいだろうか。元ネタは密室本の一冊として、講談社ノベルズから出版されており、その薄さの割には値段はそこそこだったため、あまり売れなかったようだが、こうして収まるべきところに収まったのは喜ばしいことだとは思う。
さて本作、敢えて二部構成と言わせていただく。勿論、短編が二作という捉え方もできるが、その有機的な繋がりはやはり前半を第一部、後半を第二部と呼んだ方が据わりがいいのではないか。 まあしかし、いずれも小ぢんまりとまとまって、トリックもやや脱力系であり、天狗の正体なんかもなんだかバカバカしいとすら思えてしまう。第一部で幻の名探偵、水城優臣を読めるのは本書限りなので、その意味では貴重な作品なのだろうか。とは言うものの、作品そのものの出来はやはりあまりよろしくはない。付録的に引っ付いてきただけって感じが否めない。 |
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| No.497 | 7点 | 鏡の中は日曜日- 殊能将之 | 2014/07/10 22:20 |
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| 錯誤トリックを多用し、そちらに重点を置いているのに対して、肝心の殺人事件のほうがいかにもショボい。さらに、その動機にいたってはどう考えても無理があるとしか思えない。そんな理由で殺人を犯しますか?って感じでね。確かにそのための伏線は張られているが、正直そのくだりは退屈だったし。
石動は一応主役だと思うけど、なんか水城のほうが格好良くて、探偵としての格の違いを感じてしまう。まあ今回は狂言回し的な役どころに敢えてされているので、致し方ないのかもしれないが。 と、どうでもいいような、個人的に気になる点をあげつらったわけだけど、作風は私好みだ。最後まで読み終わったら、第一章をもう一度読み直すと、最初は霞がかかったように見えてこなかった部分が、スッキリとして納得できるので、試してみると面白い。 それにしてもエピローグに当たるエンドロール的な結末は、凄くいい味わいだと思う。年月を経ることの残酷さが、悲哀となって身に染みてくる。ある人物の言動がやけに痛々しくもあり、またいたいけにも感じる。 本作は本格でありながら、異色のミステリであり、また二人の探偵物語とでもいった趣がある。面白かったし、心に残る逸品じゃないだろうか。 |
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| No.496 | 5点 | 僕が七不思議になったわけ- 小川晴央 | 2014/07/07 22:20 |
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| ごく普通の高校生が出会った奇跡のような体験とほのかな恋を描いた、若年層向けのファンタジー小説。
卒業式の夜、高校三年になる俺中崎夕也は学校に携帯を忘れたことに気づく。心配性の彼は急いで学校に向かう。携帯は見つかったが、その帰りしな、校庭で母校の七不思議を司るという自称テンコと名乗る少女の姿をした精霊に出会う。彼は選ばれたのだ、新しい七不思議に。そこから、中崎の日常と非日常が交錯する日々が始まる。 終盤まではまるで中学生が書いたような、平板な文章が並び、おっさんの私としては、やや辟易としながら読み進むのであったが、終盤突如としてその恐るべきたくらみが明かされるにあたって、内心驚きの声を上げずにはいられなかった。 それはまるで本格ミステリのトリックそのものではないか。騙された、見事なまでに。だからと言って、その一点だけで高得点を与えるわけにはいかない。が、この緩急の使い分けはなかなかのものだと思う。 最終章は多くの読者に静かな感動を与えるものと想像する。単なるファンタジーではなく、ミステリの要素も含有しているし、恋愛小説、青春小説としても勿論ツボは抑えている。ただ、一般読者にはお薦めできても、本サイトの鬼たちには当然却下されるべき作品であろう。 |
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| No.495 | 6点 | 初恋ソムリエ- 初野晴 | 2014/07/06 22:05 |
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| ハルチカシリーズ第二弾、連作短編集。
噂通り、前作よりもミステリ度が低くなったように感じられる。それでも、それぞれのキャラ、特にチカの元気な姿に、つい引っ張られてしまう。そう、これはラノベさながらのキャラ萌え青春小説としての側面のほうが色濃く押し出されており、最早ミステリとは呼べないのかもしれない。 その中でも、なぜ一学期中に3度も席替えが行われたのか、という日常の謎を扱った『アスモデウスの視線』が出色の出来だと思う。やや悲しい結末で、ハルタも事件を解決したことに対して疑問を抱いてしまうが、こういった切なさもまた青春ミステリの良さだろう。 解説でも触れられているが、表題作には疑問が残る。一体初恋ソムリエへの依頼者が語る寓話は何だったのか。まるで島荘のような幻想味を論理的に解明していくのか?と思いきや、中途半端な解決で終わってしまっているではないか。なんだかちょっとがっかりである。 まあしかし、前作同様、事件が解決するごとに吹奏楽部のメンバーが増えていく形式は変わっておらず、各短編もそこそこ粒ぞろいで楽しめたと思う。 |
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| No.494 | 6点 | 退出ゲーム- 初野晴 | 2014/07/04 22:32 |
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| 部活に賭ける高校生たちを生き生きと描いた連作短編集。ジャンルとしては日常の謎の範疇に収まるのだと思うが、一般的に言えば青春ミステリか。
どの作品も平均して良く出来ているが、好みから言うと『クロスキューブ』が一番のお気に入り。これが最もスッキリまとまっていて好感が持てる。表題作もいいんだが、トリックがやや安易な気がする。さすがに騙されたけれど。まあしかし、演劇部対吹奏楽部の自由すぎる対決はなかなか読ませてくれる。 全体的に若干文章が読みづらい部分があった。勿論、難解な文章とかではなく、表現の仕方がやや気になるところがあった程度だが。ただ、チカの内面を描写する文章はユーモアが適度に効いていて面白かった。<吹奏楽。素敵だと思う>などのフレーズは短くても、どこか私の琴線に触れるものがあり、印象深い。 なので、主人公のチカにはかなり感情移入できるが、一方のハルタの人物像がどこか不透明な感じで、インパクトが足りない気がする。単純に格好いいだけのような存在で探偵役としては、アクの強さがなさすぎる。草壁先生への想いはどうなっているんだと、そればかり気になってしまう。 取り敢えず、青春物として合格点をあげてもよいのではないだろうか。 |
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| No.493 | 7点 | 夜までに帰宅- 二宮敦人 | 2014/07/02 22:23 |
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| 特異な設定でのサバイバル・ホラーの傑作。
日本はエネルギー政策により、19年前から「夜」制度を導入。日没から日の出までの夜間は、すべての電力が停止し、警察も病院もその他公共機関すべて閉鎖され、外出も禁止された。 主人公である高校一年生のアキラとその仲間たちは、中間試験ののち、好奇心から夜の吉祥寺へと冒険に出かける。しかし、「夜」の街にはとんでもない危険が待ち構えていた。 やや無理のある設定だが、それなくしてはこの物語は成立しないため、この際リアリティは無視して、心を無にして楽しみたい作品である。屁理屈を捏ねずに無心で読めば必ず応えてくれる、そんなホラーの傑作だと思う。この先にどんな展開が待っているのか、気になってページを捲る手が止まらない、得難い経験をさせてくれる。 そしてオチもいい感じである。決して後味がいいとは言えないが、まさかの反転が読者を襲う。 全体としてコンパクトにまとまっていると思うし、緊迫感が若干不足している感はあるが、闇夜の中でのサバイバルゲームというイマジネーションを掻き立てる、的確な描写も秀逸であろう。 |
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| No.492 | 5点 | 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は十一月に消えた- 太田紫織 | 2014/06/30 22:12 |
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| シリーズ第4弾の3篇からなる連作短編集。
櫻子さんの変人ぶりと魅力は相変わらずだが、そこはかとなくネタ切れの雰囲気が漂い始めている。刊行スピードが速すぎて、じっくりプロットやストーリーを練ることができていないのでは、と邪推してしまう。 そんな中でも櫻子さんの過去が徐々に明らかにされていったり、エピローグでは彼女の家族の誰かの誕生祝い?を当人なしで行ったりと、本筋とは関係ないところで思わせぶりなシーンが展開されて、まだまだシリーズは続くよ、みたいなものを匂わせている。 さらには、各短編で実に美味しそうな食事のシーンがお約束のように配されて、食べ物が出てくると単純に嬉しくなる私としては、非常に喜ばしいものがある。ただ、先にも述べたように、内容としては前3作にはやや及ばないと思われる。確かにキャラ萌えとしては素晴らしい作品と言うかシリーズではあるが、本作に関しては中身が薄く、心に残るシーンや感動が少ないような気がする。その意味で、若干残念な出来となっているようだ。 |
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| No.491 | 5点 | レイカ 警視庁刑事部捜査零課- 樹のえる | 2014/06/29 22:12 |
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| 暗く重いトーンの、3篇からなる連作短編集。
警視庁刑事部捜査零課とは、行き場を失った4人の刑事達で編成された、いわば窓際族の集まりである。そこへ新人刑事の大和が配属されるが、そこの刑事達はよく言えば個性的だが、自分勝手だったりやる気がなかったりで、彼は身の置き場を失ってしまう。取り敢えず主人公のレイカに張り付いているように命じられるが、彼女の身勝手なやり方になかなかついていけない。だが、彼女には常識では考えられない特殊能力があったのだ。 レーベルがレーベルだけに、ライトノベルかと思われるかもしれないが、決してそうではない。いたって常識的な警察小説であり、悪く言えば、どこと言って突出したところのない平凡な作品と言える。決して面白くないわけではないが、取り立てて印象に残らない、第一話以外はすぐに忘れてしまいそうな短編が2作である。尚、それぞれのキャラは一応個性的だし定まってはいるが、今一つ描き込みが足りない感じを受ける。 第一話は途中までややだれ気味だが、終盤はレイカの能力もお目見えしたり、彼女の過去が語られるなど、かなり興味を持って読むことができた。被害者の顔が焼かれた理由などもふるっていて、後続作品に期待がもたれたが、やや期待外れに終わった。 |
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| No.490 | 7点 | 誘拐- 五十嵐貴久 | 2014/06/27 22:30 |
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| これだけの長尺なのに長さを感じさせない、緊迫感を持続する圧巻のサスペンス巨編。勿論、警察小説や社会派としての側面も持ち合わせている。
日韓友好条約締結のために来日する韓国の大統領警護のために、厳戒態勢を敷く最中、現総理大臣の孫娘が誘拐される。警察側は北の工作員の仕業と断定するが、実は犯人は最初から読者に明らかにされている。では何のためにとてつもないリスクを冒してまで、総理の肉親を誘拐したのか、という命題がこの物語を引っ張っていくことになる。やがて犯人からの要求が、一般市民から警察に電話で連絡されるが。 登場人物が多く、頭を整理するのが大変だが、無駄な描写は一切なく、微塵も冗長さを感じさせないのは素晴らしい。犯人の孝介は勿論だが、主要人物の中で唯一ノンキャリアの星野警部の存在感が光っている。低い物腰ながら、自らの主張ははっきりとするという、叩き上げならではの老練ぶりを発揮していて、彼の言動には惹かれるものがあると感じる。結局、孝介対星野という構図がうっすらと見えてくる。 途中から小骨のように引っ掛かっていた疑問が、まさかの形で・・・っとここからはネタバレしてしまいそうなので、割愛する。 とにかく、私が今まで読んだ誘拐ものの中でも、そのスケールの大きさや捻り具合などは抜きん出ていると思う。数ある誘拐ものではあるが、本作はどの作品にも負けていないくらいのポテンシャルを持った傑作ではないだろうか。 |
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| No.489 | 8点 | セイギのチカラ- 上村佑 | 2014/06/23 22:38 |
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| 5人の異能者の男たちと一人の美女が正義のために活躍するサイキック・アクション。
ネットカフェで少女がバラバラ死体となって発見された。その事件を追う刑事は「赤い月連続殺人」との関連を疑い始める。一方、「異能者の館」というサイトのオフ会に集まった異能者たちは、それぞれの能力を語り、その場は解散するが、のちに参加者で唯一の女性がある事件に巻き込まれる。さらには、その女性の心療内科の担当医とその異母兄弟と名乗る男が細菌によるテロを実行しようとしていた。 5人の異能者の男たちと1人の女性、「赤い月連続殺人」を捜査する刑事、たった二人で大規模なテロをおこなおうとしている兄弟が三つ巴となり、ストーリーは足早に展開していく。圧倒的なスピード感と映像的なシーンの連続に酔いしれること間違いない。 異能者の超能力はいずれもしょぼいものばかりで、それらを披露するオフ会は大爆笑もの、これだけ笑える小説は初めてであった。だが最後にはその能力を増幅し、何千人というやくざや無数のカラスたちの力も借りて、テロを阻止しようとする彼らの姿には知らず涙をこらえきれぬほど感動してしまった。 ラストシーンも心温まるもので、後味も素晴らしく良い。滅多に読み返さない私が、ついクライマックスから最後まで2回ほど読み直してしまったほどである。 無名の小説なのでどうかとも思うが、これは是非とも映画化していただきたいものである。幾分映像化を意識しているような場面もあるが、それはご愛嬌ということで、あまり責めないでほしいと思う。まあ、細かい部分でツッコミどころもあるだろうが、それ程の瑕にはなっていない。というわけで、一読の価値は十分あると私は断言したい。 |
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