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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1901件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.501 6点 向日葵の咲かない夏- 道尾秀介 2014/07/19 21:48
面白かった。しかし、拒否される訳もなんとなく理解できた気がした。本格志向が高い人ほど「許せない」のではないかな。そうでない人でも生理的に受け付けないという理由で、自分には向かないと感じているのではないかと思う。
だが、私は圧倒的にとは言えないが、大方支持する立ち位置でいたい。なぜなら、まず小説としての完成度が高いから。ミステリとしても、しっかりと伏線が張られているし、真相も過不足なく明らかにされており、設定が特異なだけで決してホラーなどではないと個人的には信じているのである。
確かに、非常に際どい描写があるのは認める。しかしながら、必ずしもアンフェアとは言えない。
やや気になるのはS君の生まれ変わりの早さで、蜘蛛に生まれ変わるのはいいが、たったの7日間でというのはいかにも早いのではないだろうか。私の少ない知識では人間が生まれ変わるのには400年前後かかるはずだけど。まあ、仏教にはそのような教えもあるのかもしれないので、あまり偉そうなことは言えないね。
それと、同じトリックの多用が気に入らない人も多いんじゃないかな。またかって感じで、感覚が麻痺してしまい、驚きが次第に目減りするのはやむを得ないと思う。
蛇足だが、冒頭のプロローグに当たる部分は最後に持ってきた方が良かったのではなかろうか。或いは、同じ文章を最後に繰り返すのも一つの手だったのではないか。そのほうが余韻がいい感じで残ると思うのだが。

No.500 4点 ルピナス探偵団の当惑- 津原泰水 2014/07/16 22:16
この程度か、というのが率直な感想。そもそも作者が津原氏だというんで、一抹の不安があったんだよね。その嫌な予感が当たってしまった。文章は読み難いわ、面白みはないわで、言っちゃ悪いが時間の無駄だった。解説にはチェスタートンの血族とか書かれているが、正直チェスタートンも好きじゃないし。
大体において、どの短編もロジックに偏り過ぎて、肝心のストーリー性がおろそかになってはいないだろうか。だから、ああでもないこうでもないと理屈っぽくて、物語の起伏がほとんど感じられないのは大きなマイナス点だと思う。さらには、各キャラは個性的ではあるものの、もう一歩踏み込めていないのである。これなら、昨今流行の易しい系ミステリやラノベ風ミステリのほうが余程キャラが立っている、早々比べるべくもない。
最大の問題は、それぞれメインとなるホワイダニットの真相がいかにも弱い。別にそんなことしなくてもいいんじゃないの?と素朴な疑問を抱いてしまうのである。そこにいたるまでのダミーの推理にいたってはまさに噴飯ものであろう。
最終話のラスト一行だけはちょっぴり良かったがそれだけ。他に見るべきところはない。とまあ素人が得手勝手な感想を述べているが、あくまで個人の感想なので、無視されても一向に構わない。

No.499 6点 眠りの牢獄- 浦賀和宏 2014/07/13 22:23
二つのまったく関連性のないごときストーリーが並走する構成は、好きな部類だし、面白いと思う。それらが一体どうつながっていくのか、興味深く最後まで読める。そして、いくつも驚愕ポイントが用意されているが、いちいちテンションが上がらない理由が、淡々とした文章にあるのではないかと思う。それが残念でならない。この作品は料理の仕方によっては、大傑作になった可能性が高いはずである。もっとこう、ねちっこい文体で書かれていたなら、或いはもっと上手い作家の手になったとしたら、それこそミステリマニアも大絶賛のヒット作となっていたかもしれないのだ。
だがまあ、そんなことを言っても詮無いことなので、諦めるしかあるまい。どこか既視感のあるメインストーリーではあるし、そして正直またかと思わざるを得ないトリックが用いられているが、全体として実に緻密に練られたプロットであり、隅々まで整合性が取れている点は評価されるべきであろう。
個人的には繰り返しになるが、もう少しこってりと描き込んでほしかったし、もっとボリュームがあってもよかったと思う。氏にしては小さくまとまり過ぎていたのではないだろうか。

No.498 5点 樒/榁- 殊能将之 2014/07/12 23:24
やけに書評が多いと思ったら、『鏡の中は日曜日』の文庫版に併せて載せられていたのね。それにしてはあまりお得感を得られなかったのは気のせいだろうか。元ネタは密室本の一冊として、講談社ノベルズから出版されており、その薄さの割には値段はそこそこだったため、あまり売れなかったようだが、こうして収まるべきところに収まったのは喜ばしいことだとは思う。
さて本作、敢えて二部構成と言わせていただく。勿論、短編が二作という捉え方もできるが、その有機的な繋がりはやはり前半を第一部、後半を第二部と呼んだ方が据わりがいいのではないか。
まあしかし、いずれも小ぢんまりとまとまって、トリックもやや脱力系であり、天狗の正体なんかもなんだかバカバカしいとすら思えてしまう。第一部で幻の名探偵、水城優臣を読めるのは本書限りなので、その意味では貴重な作品なのだろうか。とは言うものの、作品そのものの出来はやはりあまりよろしくはない。付録的に引っ付いてきただけって感じが否めない。

No.497 7点 鏡の中は日曜日- 殊能将之 2014/07/10 22:20
錯誤トリックを多用し、そちらに重点を置いているのに対して、肝心の殺人事件のほうがいかにもショボい。さらに、その動機にいたってはどう考えても無理があるとしか思えない。そんな理由で殺人を犯しますか?って感じでね。確かにそのための伏線は張られているが、正直そのくだりは退屈だったし。
石動は一応主役だと思うけど、なんか水城のほうが格好良くて、探偵としての格の違いを感じてしまう。まあ今回は狂言回し的な役どころに敢えてされているので、致し方ないのかもしれないが。
と、どうでもいいような、個人的に気になる点をあげつらったわけだけど、作風は私好みだ。最後まで読み終わったら、第一章をもう一度読み直すと、最初は霞がかかったように見えてこなかった部分が、スッキリとして納得できるので、試してみると面白い。
それにしてもエピローグに当たるエンドロール的な結末は、凄くいい味わいだと思う。年月を経ることの残酷さが、悲哀となって身に染みてくる。ある人物の言動がやけに痛々しくもあり、またいたいけにも感じる。
本作は本格でありながら、異色のミステリであり、また二人の探偵物語とでもいった趣がある。面白かったし、心に残る逸品じゃないだろうか。

No.496 5点 僕が七不思議になったわけ- 小川晴央 2014/07/07 22:20
ごく普通の高校生が出会った奇跡のような体験とほのかな恋を描いた、若年層向けのファンタジー小説。
卒業式の夜、高校三年になる俺中崎夕也は学校に携帯を忘れたことに気づく。心配性の彼は急いで学校に向かう。携帯は見つかったが、その帰りしな、校庭で母校の七不思議を司るという自称テンコと名乗る少女の姿をした精霊に出会う。彼は選ばれたのだ、新しい七不思議に。そこから、中崎の日常と非日常が交錯する日々が始まる。
終盤まではまるで中学生が書いたような、平板な文章が並び、おっさんの私としては、やや辟易としながら読み進むのであったが、終盤突如としてその恐るべきたくらみが明かされるにあたって、内心驚きの声を上げずにはいられなかった。
それはまるで本格ミステリのトリックそのものではないか。騙された、見事なまでに。だからと言って、その一点だけで高得点を与えるわけにはいかない。が、この緩急の使い分けはなかなかのものだと思う。
最終章は多くの読者に静かな感動を与えるものと想像する。単なるファンタジーではなく、ミステリの要素も含有しているし、恋愛小説、青春小説としても勿論ツボは抑えている。ただ、一般読者にはお薦めできても、本サイトの鬼たちには当然却下されるべき作品であろう。

No.495 6点 初恋ソムリエ- 初野晴 2014/07/06 22:05
ハルチカシリーズ第二弾、連作短編集。
噂通り、前作よりもミステリ度が低くなったように感じられる。それでも、それぞれのキャラ、特にチカの元気な姿に、つい引っ張られてしまう。そう、これはラノベさながらのキャラ萌え青春小説としての側面のほうが色濃く押し出されており、最早ミステリとは呼べないのかもしれない。
その中でも、なぜ一学期中に3度も席替えが行われたのか、という日常の謎を扱った『アスモデウスの視線』が出色の出来だと思う。やや悲しい結末で、ハルタも事件を解決したことに対して疑問を抱いてしまうが、こういった切なさもまた青春ミステリの良さだろう。
解説でも触れられているが、表題作には疑問が残る。一体初恋ソムリエへの依頼者が語る寓話は何だったのか。まるで島荘のような幻想味を論理的に解明していくのか?と思いきや、中途半端な解決で終わってしまっているではないか。なんだかちょっとがっかりである。
まあしかし、前作同様、事件が解決するごとに吹奏楽部のメンバーが増えていく形式は変わっておらず、各短編もそこそこ粒ぞろいで楽しめたと思う。

No.494 6点 退出ゲーム- 初野晴 2014/07/04 22:32
部活に賭ける高校生たちを生き生きと描いた連作短編集。ジャンルとしては日常の謎の範疇に収まるのだと思うが、一般的に言えば青春ミステリか。
どの作品も平均して良く出来ているが、好みから言うと『クロスキューブ』が一番のお気に入り。これが最もスッキリまとまっていて好感が持てる。表題作もいいんだが、トリックがやや安易な気がする。さすがに騙されたけれど。まあしかし、演劇部対吹奏楽部の自由すぎる対決はなかなか読ませてくれる。
全体的に若干文章が読みづらい部分があった。勿論、難解な文章とかではなく、表現の仕方がやや気になるところがあった程度だが。ただ、チカの内面を描写する文章はユーモアが適度に効いていて面白かった。<吹奏楽。素敵だと思う>などのフレーズは短くても、どこか私の琴線に触れるものがあり、印象深い。
なので、主人公のチカにはかなり感情移入できるが、一方のハルタの人物像がどこか不透明な感じで、インパクトが足りない気がする。単純に格好いいだけのような存在で探偵役としては、アクの強さがなさすぎる。草壁先生への想いはどうなっているんだと、そればかり気になってしまう。
取り敢えず、青春物として合格点をあげてもよいのではないだろうか。

No.493 7点 夜までに帰宅- 二宮敦人 2014/07/02 22:23
特異な設定でのサバイバル・ホラーの傑作。
日本はエネルギー政策により、19年前から「夜」制度を導入。日没から日の出までの夜間は、すべての電力が停止し、警察も病院もその他公共機関すべて閉鎖され、外出も禁止された。
主人公である高校一年生のアキラとその仲間たちは、中間試験ののち、好奇心から夜の吉祥寺へと冒険に出かける。しかし、「夜」の街にはとんでもない危険が待ち構えていた。
やや無理のある設定だが、それなくしてはこの物語は成立しないため、この際リアリティは無視して、心を無にして楽しみたい作品である。屁理屈を捏ねずに無心で読めば必ず応えてくれる、そんなホラーの傑作だと思う。この先にどんな展開が待っているのか、気になってページを捲る手が止まらない、得難い経験をさせてくれる。
そしてオチもいい感じである。決して後味がいいとは言えないが、まさかの反転が読者を襲う。
全体としてコンパクトにまとまっていると思うし、緊迫感が若干不足している感はあるが、闇夜の中でのサバイバルゲームというイマジネーションを掻き立てる、的確な描写も秀逸であろう。

No.492 5点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は十一月に消えた- 太田紫織 2014/06/30 22:12
シリーズ第4弾の3篇からなる連作短編集。
櫻子さんの変人ぶりと魅力は相変わらずだが、そこはかとなくネタ切れの雰囲気が漂い始めている。刊行スピードが速すぎて、じっくりプロットやストーリーを練ることができていないのでは、と邪推してしまう。
そんな中でも櫻子さんの過去が徐々に明らかにされていったり、エピローグでは彼女の家族の誰かの誕生祝い?を当人なしで行ったりと、本筋とは関係ないところで思わせぶりなシーンが展開されて、まだまだシリーズは続くよ、みたいなものを匂わせている。
さらには、各短編で実に美味しそうな食事のシーンがお約束のように配されて、食べ物が出てくると単純に嬉しくなる私としては、非常に喜ばしいものがある。ただ、先にも述べたように、内容としては前3作にはやや及ばないと思われる。確かにキャラ萌えとしては素晴らしい作品と言うかシリーズではあるが、本作に関しては中身が薄く、心に残るシーンや感動が少ないような気がする。その意味で、若干残念な出来となっているようだ。

No.491 5点 レイカ 警視庁刑事部捜査零課- 樹のえる 2014/06/29 22:12
暗く重いトーンの、3篇からなる連作短編集。
警視庁刑事部捜査零課とは、行き場を失った4人の刑事達で編成された、いわば窓際族の集まりである。そこへ新人刑事の大和が配属されるが、そこの刑事達はよく言えば個性的だが、自分勝手だったりやる気がなかったりで、彼は身の置き場を失ってしまう。取り敢えず主人公のレイカに張り付いているように命じられるが、彼女の身勝手なやり方になかなかついていけない。だが、彼女には常識では考えられない特殊能力があったのだ。
レーベルがレーベルだけに、ライトノベルかと思われるかもしれないが、決してそうではない。いたって常識的な警察小説であり、悪く言えば、どこと言って突出したところのない平凡な作品と言える。決して面白くないわけではないが、取り立てて印象に残らない、第一話以外はすぐに忘れてしまいそうな短編が2作である。尚、それぞれのキャラは一応個性的だし定まってはいるが、今一つ描き込みが足りない感じを受ける。
第一話は途中までややだれ気味だが、終盤はレイカの能力もお目見えしたり、彼女の過去が語られるなど、かなり興味を持って読むことができた。被害者の顔が焼かれた理由などもふるっていて、後続作品に期待がもたれたが、やや期待外れに終わった。

No.490 7点 誘拐- 五十嵐貴久 2014/06/27 22:30
これだけの長尺なのに長さを感じさせない、緊迫感を持続する圧巻のサスペンス巨編。勿論、警察小説や社会派としての側面も持ち合わせている。
日韓友好条約締結のために来日する韓国の大統領警護のために、厳戒態勢を敷く最中、現総理大臣の孫娘が誘拐される。警察側は北の工作員の仕業と断定するが、実は犯人は最初から読者に明らかにされている。では何のためにとてつもないリスクを冒してまで、総理の肉親を誘拐したのか、という命題がこの物語を引っ張っていくことになる。やがて犯人からの要求が、一般市民から警察に電話で連絡されるが。
登場人物が多く、頭を整理するのが大変だが、無駄な描写は一切なく、微塵も冗長さを感じさせないのは素晴らしい。犯人の孝介は勿論だが、主要人物の中で唯一ノンキャリアの星野警部の存在感が光っている。低い物腰ながら、自らの主張ははっきりとするという、叩き上げならではの老練ぶりを発揮していて、彼の言動には惹かれるものがあると感じる。結局、孝介対星野という構図がうっすらと見えてくる。
途中から小骨のように引っ掛かっていた疑問が、まさかの形で・・・っとここからはネタバレしてしまいそうなので、割愛する。
とにかく、私が今まで読んだ誘拐ものの中でも、そのスケールの大きさや捻り具合などは抜きん出ていると思う。数ある誘拐ものではあるが、本作はどの作品にも負けていないくらいのポテンシャルを持った傑作ではないだろうか。

No.489 8点 セイギのチカラ- 上村佑 2014/06/23 22:38
5人の異能者の男たちと一人の美女が正義のために活躍するサイキック・アクション。
ネットカフェで少女がバラバラ死体となって発見された。その事件を追う刑事は「赤い月連続殺人」との関連を疑い始める。一方、「異能者の館」というサイトのオフ会に集まった異能者たちは、それぞれの能力を語り、その場は解散するが、のちに参加者で唯一の女性がある事件に巻き込まれる。さらには、その女性の心療内科の担当医とその異母兄弟と名乗る男が細菌によるテロを実行しようとしていた。
5人の異能者の男たちと1人の女性、「赤い月連続殺人」を捜査する刑事、たった二人で大規模なテロをおこなおうとしている兄弟が三つ巴となり、ストーリーは足早に展開していく。圧倒的なスピード感と映像的なシーンの連続に酔いしれること間違いない。
異能者の超能力はいずれもしょぼいものばかりで、それらを披露するオフ会は大爆笑もの、これだけ笑える小説は初めてであった。だが最後にはその能力を増幅し、何千人というやくざや無数のカラスたちの力も借りて、テロを阻止しようとする彼らの姿には知らず涙をこらえきれぬほど感動してしまった。
ラストシーンも心温まるもので、後味も素晴らしく良い。滅多に読み返さない私が、ついクライマックスから最後まで2回ほど読み直してしまったほどである。
無名の小説なのでどうかとも思うが、これは是非とも映画化していただきたいものである。幾分映像化を意識しているような場面もあるが、それはご愛嬌ということで、あまり責めないでほしいと思う。まあ、細かい部分でツッコミどころもあるだろうが、それ程の瑕にはなっていない。というわけで、一読の価値は十分あると私は断言したい。

No.488 6点 ハルさん- 藤野恵美 2014/06/21 23:35
ささやかな日常の謎を扱った、5篇からなる連作短編集。
ハルさんの愛称で呼ばれている春日部晴彦は娘のふうちゃんの結婚式の日の朝、若くして亡くなった妻の瑠璃子さんの墓前に娘の結婚の報告をしてから、タクシーで式場に向かっていた。そのタクシーで思い出すのは、幼稚園児の頃のふうちゃんや、彼女が次第に成長していく過程で起こった数々の小さな事件であった。
いずれの短編も本当に誰の身にも起こり得るような、日常の謎を解き明かしていくものであり、探偵役はなんと亡き妻の瑠璃子さんなのである。ハルさんがピンチの時に夢の中や回想で瑠璃子さんが現れ、彼にヒントを与え、夫婦で謎を解いていく。
正直、ミステリに慣れ親しんでいる読者には物足りないはずだが、悪人が一切出てこないほのぼのとした連作短編集であり、児童文学出身の藤野女史らしい、実に丁寧な文章で綴られた佳作であるのは間違いないと思う。各短編の間に、タクシーの中での花嫁の父としての心境を、ラストシーンではひそやかな涙を誘う別れと新郎新婦の新たな出発を描いており、心温まる読後感を残す締めくくりとなっている。
やや不満なのは、ふうちゃんが長じるにつれて、次第に生意気になっていくところだろう。だが、彼女は頼りないハルさんと違ってしっかり者で、その辺りの人物造形もしっかり描き込まれているし、ミステリとしても文芸作品としても、もっと高い評価をされて然るべきなのかもしれない。

No.487 5点 僕が殺しました×7- 二宮敦人 2014/06/19 22:32
誰も考え付かなかった異色の本格ミステリ。ただし途中までは。
ある朝ホテルの一室で目覚めた「ぼく」藤宮亮は警察官にミーティングルームへ連行される。そこには男女5人が集まっており、彼の到着を待って着席していた。そしていきなり警察官の川西がリエを殺したと自白を始める。亮は彼の自白が信じられなかった、というのも、リエを殺したのは自分だからだ。リエは亮の恋人だったが、あることから諍いを起こし、カッとなってナイフで刺し殺してしまったのだ。しかし、ことはそれだけでは終わらなかった。その場の全員が順番にリエを殺したと自白をするのであった。
各自の自白が、いちいち面白い物語性を含んでいて、飽きることなく読むことができる。中には変人じみたの者もいるが、ごく普通の人間でも、一つ歯車が狂うと殺人まで犯してしまうのだという現実を読者に突き付けてくる。
私のお気に入りは鉄塔を目指す少年のエピソードで、鉄塔の下には何があるのだろうかという素朴な疑問と、リエとの運命的な出会いは幻想小説のような印象さえ受ける。
そこまでは良かったのだが、結局は着地に失敗しており、せっかくの奇想をそこで台無しにしている。よって、本来ならば4点以下の評価になるべきだろうが、それぞれの自白が複雑に交錯し合って、読み物としてとても見るべきものがあると考え、この点数にした。

No.486 6点 長い腕- 川崎草志 2014/06/17 22:32
第一部は主人公の汐路を通して、ゲーム・メーカーの実態を詳らかにしている。これは作者のキャリアを生かした、氏ならではの描写ということだろう。興味のある人には楽しく読めるのではないかと思うが、そうでない人にとってはやや退屈かも知れない。事件は一応起こるのだが、大した扱いは受けていないので、ほとんどミステリから乖離した形になっている。
第二部は汐路が閉鎖的な村に帰省するところから始まる。ここでは彼女が事件を追い始めるが、手を広げ過ぎて読む側からしてみれば、一体どの事件に焦点を当てているのかがイマイチ分からない。そしてやや冗長な印象を受ける。が、盗聴器を排除するシーンなど興味深い場面もあったりする。
終盤は一気にヒートアップし、それまでの平板さを挽回するがごとくスピード感も出て、盛り上がりを見せる。ホラーっぽく、ねっとりとした描写から、一転論理的なミステリ的解決に向かって収束していく過程は非常に読み応えがある。
最初から終盤のような読ませる作品に仕上がっていれば、文句なく横溝正史賞受賞作に相応しい本格ミステリとして、後世に残る名作となったであろう。残念ながら、現段階ではそこまでの領域には達していない。

No.485 6点 ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート- 櫛木理宇 2014/06/14 23:36
最初に言っておきたいことがある。本の帯にAKB兼任、HKTの誰それの推薦文が載っていたから買ってみた、というほど私はミーハーではない。勿論、選抜総選挙も大島優子の卒業公演も最後までTVで観ていたのは言うまでもないが。
そんな事はどうでも良くて、本作であるが、そこそこ面白い。雪国の雪越大学オカルト研究会には様々な超自然現象や心霊体験が持ち込まれ、それを男女5人のメンバーが解決しようとするのが本筋である。そこに、主人公の森司の片思いが絡んできて、ほんわかとした雰囲気のいかにもなキャンパス・ライフが描かれていて好感が持てる。
第一作では、オカルト・ミステリと銘打たれているが、決してミステリではないので、必ずしも合理的な解決がなされるわけではない。本作はシリーズ第二弾で5篇の短編から構成された連作だが、どれも特にオカルト研のメンバーが大活躍して事件を解決するというものではなく、なんとなく相手の話を聞き、なんとなく流れで落ち着くところに落ち着く感じのゆるいホラーだ。だが、しっかりツボは抑えているので、結構怖いだろうと思われるシーンもある。私は一向に怖くなかったけれど。
季節は年末からバレンタイン辺りで、北国の冬の季節感がよく描かれていて、個人的には非常に好ましく思っている。
ただ、森司の片思いの相手でオカ研のメンバーでもある、こよみの出番が少なめなのがやや不満ではある。無論、これは彼女をより神秘的な存在にしておこうという、作者の企みなのかもしれないので、まあ仕方ないかなとは思う。噂によると、この二人の恋がなかなか発展しないのが歯がゆいという意見が多いようである。それもまたいいんじゃないかという気もするけどね。

No.484 4点 公開処刑板 鬼女まつり- 堀内公太郎 2014/06/12 22:31
ネットでブログを公開することや、掲示板の悪い意味での結束などによる恐怖を描いた異色のサスペンス。
私もあるサイトの掲示板が荒れるのを幾度も目撃しているが、これは実際個人攻撃されている側にとっては、とても辛いものだと思う。ある意味公共の場でのイジメのようなものであり、放っておけばいくらでもエスカレートしていくので、人間の醜い面がむき出しになってしまう。しかも、それぞれが匿名であり、顔が見えないので頭に血が上り、本性が表れるのが恐ろしい部分であろう。
そんなネット社会の様々な問題を抉り出しているのだが、どうもいまひとつ絵空事のように思えてしまうのである。どこかリアルさが感じられず、掘り下げ方もいかにも浅い気がする。
謎らしい謎も見当たらないし、追いつめられる主人公の元女教師もなんだか平然とし過ぎており、肝心のサスペンスが効いていない。
一つの焦点であろう、鬼子母神の正体も最初こそ分からなかったものの、途中で気づいてしまってからは、先が見えて興味を失ってしまった。序盤はそれなりに面白かったが、中盤から終盤はイマイチの感が否めない。

No.483 7点 帝都探偵 謎解け乙女- 伽古屋圭市 2014/06/10 22:31
序章、終章と5篇の短編からなる連作短編集。
時は大正、良家の令嬢である菜富は何の前触れもなく、唐突に「あたくし、名探偵になることに決めましたの」と宣言し、それを聞いた車夫の俺こと寛太は内心やれやれと思いながらも、何とかその望みが叶うように尽力する。それを待っていたように依頼が舞い込むのだが、結局探偵はお嬢様でも、陰で推理するのは寛太の仕事となるのであった。
あの有名な大ヒットミステリ以来定番となった、ユーモアを全編に纏った、易しい系ミステリの系譜を踏襲する作品と見せかけて、とんでもない仕掛けを施した、凝りに凝った構成となっており、「それ以降」の作品群とは一線を画する、意外なほど玄人受けしそうな逸品となっている。
じっくり読めば、そこここに伏線が張られており、少なくともラストの衝撃は予測できる作りになっている。ある程度予想はしていたものの、やはり実際に現実を目の当たりにするとショックを受ける。しかし、決して暗い結末ではなく、辛くとも希望がわずかでも覗けるラストシーンであり、心温まる余韻を残す。
このような良作が埋もれているのだから、まだまだミステリ・シーンも捨てたものではない。「本格は死んだ」と人は言うが、新しい才能も生まれて、まだまだ本格は死なず、今後も本格に限らずあらゆる分野のミステリに期待したいものである。

No.482 5点 霧塚タワー- 福谷修 2014/06/08 22:22
こういう言葉が当てはまるかどうかわからないが、正統派のホラー小説。正統派だけに、ごくごく普通の、特筆すべき点もないが出来もそれほど悪くないという、言ってみれば平凡な作品である。
女子中学生の瑞菜は父親の単身赴任をきっかけに、家族と共に格安物件の霧塚マンションへ引っ越すことになった。だが、このマンションには怪しい噂があったのだ。そこはかつての廃病院の跡地に建てられており、その病院は廃業へと追い込まれるだけの理由があった。そして引っ越してしばらくすると、瑞菜の周りでクラスメートが自殺したり事故にあったりという、怪しげな事件が立て続けに起こり始める。
ホラーとしてはよくありがちな展開で、これといって秀でたものは見当たらないが、それなりにまとめられているとは思う。主人公の瑞菜がとんでもない状況に追い込まれるにもかかわらず、随分落ち着いていて、その分怖さも抑え気味な感じを受ける。まあ迫力不足とも言えるだろう、尺が短いのでやや急ぎ足の感は否めない。だからどうしても、盛り上がりに欠けインパクトも薄いのである。
文章も?が多すぎるし、あまりこなれた感じがしないので、その意味でも損をしているように思われる。それと、誤字脱字が多すぎる。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1901件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(29)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
綾辻行人(22)
京極夏彦(22)
中山七里(19)
折原一(19)
日日日(19)
清涼院流水(18)