皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.981 | 6点 | 偽物語- 西尾維新 | 2019/07/21 22:00 |
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“ファイヤーシスターズ”の実戦担当、阿良々木火憐。暦の妹である彼女が対峙する、「化物」ならぬ「偽物」とは!?台湾の気鋭イラストレーターVOFANとのコンビも絶好調!「化物語」の後日談が今始まる―西尾維新ここにあり!これぞ現代の怪異!怪異!怪異!青春は、ほんものになるための戦いだ。
『BOOK』データベースより。 上巻、手際よくエピソードを交えながら主要キャラを紹介していくのは、一種の読者サービスとも言えるでしょうが、シリーズ一作目から読みたくなってしまうような造りはあざとさも感じます。ただ、これによりいきなり本作から読み始めても大丈夫なように描かれているのは確かなようです。 上巻は阿良々木暦の上の妹の物語でありますが、読みどころは最終盤の激し過ぎる兄妹喧嘩で、その後の敵との対決はあっけなく終わってしまい、やや物足りなさを覚えますね。 下巻は下の妹の物語。本質的にはこちらが今回の根幹を成しているのだと思います。個人的にも下巻が好み、というか本シリーズが怪異を主眼としたものならば、誰もがこちらを推すのではないでしょうか。結末は確かに心動かされるものがありました。兄妹の絆、どんな形であれそれは美しく素晴らしいものだという思いに駆られます。 しかし、相変わらず言葉遊びが過ぎて、たまにちょっと寒かったりする会話の応酬が苦手な方は避けるべきかもしれません。ラノベと割り切ってしまえばそれはそれでいいのでしょうけれど。 |
No.980 | 4点 | 無貌伝 ~双児の子ら~- 望月守宮 | 2019/07/15 22:25 |
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人と“ヒトデナシ”と呼ばれる怪異が共存していた世界―。名探偵・秋津は、怪盗・無貌によって「顔」を奪われ、失意の日々を送っていた。しかし彼のもとに、親に捨てられた孤高の少年・望が突然あらわれ、隠し持った銃を突きつける!そんな二人の前に、無貌から次の犯行予告が!!狙われたのは鉄道王一族の一人娘、榎木芹―。次々とまき起こる怪異と連続殺人事件!“ヒトデナシ”に翻弄される望たちが目にした真実とは。第40回メフィスト賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 無駄に長く、途中でダレます。冒頭望が探偵秋津の助手になるところまでは、これは期待できるかもと思いましたが、それ以降さしたる盛り上がりもなく、正直読まされている感覚を覚えました。最早苦行に近い感じでやっと最後までたどり着いた、みたいな。 無貌やヒトデナシは単なる装置に過ぎず、もっと言えば帳尻合わせに用意されたものにしか思えません。物語をミステリとして成立させるためには、どうしても欠かせないにせよ、それが雰囲気を構築している訳ではなく、ちょっとした小道具として使用されているわけです。 まあやりたい事は分かりますが、どうも私には合わなかったようです。伝奇ミステリと言えば聞こえはいいですが、事件の真相は驚くようなものではありません。独特の世界観であるのは確かだと思いますよ。しかしねえ、全体的にメリハリがなく、緊迫感も持続できていないように感じました。最後も上手く纏めようとしていますが、どうにもスッキリしないエンディングになっています。畢竟、シリーズを追いかけて最後まで読破しなければ、作者の狙いは見えてこないのかも知れません。 |
No.979 | 5点 | 彼は残業だったので- 松尾詩朗 | 2019/07/11 22:44 |
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情報処理会社に勤める中井は、残業中、魔術の本を読みふけっていたら、オフィスのオートロックがかかり、閉じ込められてしまった。時間をもてあました彼は、“憎い相手を呪い殺す”呪術を試してみることに…。日頃、憎らしく思っている同僚野村裕美子と佐藤輝明の人形を厚紙でつくり、火をつけた!二人は前日から無断欠勤していたが、はたして三日後、佐藤の部屋から男女の焼死体が発見された。二つの死体は、バラバラに切断され、あやつり人形のように木の枝で連結されていた。犯人は何のために、死体にこのような細工をしたのか。
『BOOK』データベースより。 何か色々と惜しいなという印象が強いです。文章が平板で起伏がなく、特に事件に直接関係ない描写になると途端に面白くなくなる辺り、まだまだプロの作家になり切っていない感じがしました。 上記の様な、黒焦げ死体をバラバラにして、それを枝で繋ぎ合わせるという極めて魅力的で吸引力を持った謎は、とても素晴らしいと思います。しかし、その猟奇殺人と作風がマッチしていないです。途中でトリックが解ってしまったのもかなりがっかりしました。おまけにヒントを出し過ぎでしょう。これはピンときますよ、あまりにもあからさまでしたね。 【ネタバレ】 『占星術殺人事件』を読んでいる人にはかなり早い段階で真相が読めてしまう可能性があります。読んでいなくても割と看破しやすいですかね。 ある程度期待はしていたのですが、やや肩透かしを食らった感は否めません。もっと大胆なトリックだと思っていましたが。ついでにタイトルについて触れると、内容とはあまり関係ないですので、そのつもりで読まれる方が良いと思います。しかし、もう少し売れそうなタイトルだったらもっと注目されたのではないでしょうか。 |
No.978 | 7点 | 松浦純菜の静かな世界- 浦賀和宏 | 2019/07/08 22:31 |
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大けがを負い、療養生活をおくっていた松浦純菜が2年ぶりに自宅に戻ってくると、親友の貴子が行方不明になっていた。市内では連続女子高生殺人事件が発生。被害者は身体の一部を持ち去られていた!大強運で超不幸な“奇跡の男”八木剛士と真相を追ううちに2人の心の闇が少しずつ重なり合う新ミステリ。
『BOOK』データベースより。 あるルートから入手。やっと読めました。 やはり浦賀はこうでなければいけません。シリーズ第一弾ということで、結構力が入っている感じがします。八木は相変わらずですが、純菜のキャラが掴みどころがなく、女性の心理を描くのが下手なのかと思いました。もう少し掘り下げるとか、何とかならなかったものかと。故意に不透明さを押し出しているのかもしれませんが、シリーズを通してこんな感じなので、何とも言えません。 しかし、青春ミステリのような雰囲気を醸していますが、骨格はコテコテの本格物ですよ。二作目は良いとして、それ以降もこの路線で行って欲しかったですねえ。途中からミステリを放り投げて、明後日の方向に向いてしまって、それが悔やまれてなりません。 これまで私自身モヤモヤしていた純菜の秘密に関して明らかにされていたので、その点は溜飲が下がる思いでした。ただ細かいところで瑕疵が目立ちますし、終盤謎解きが早足過ぎて勿体なかった気がします。動機も弱いというか説明不足ではないかと思います。その辺りを差し引いてもこの点数、なかなかの作品ではないでしょうか。 |
No.977 | 6点 | “文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)- 野村美月 | 2019/07/05 22:26 |
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「どうかあたしの恋を叶えてください!」何故か文芸部に持ち込まれた依頼。それは、単なる恋文の代筆のはずだったが…。物語を食べちゃうくらい深く愛している“文学少女”天野遠子と、平穏と平凡を愛する、今はただの男子高校生、井上心葉。ふたりの前に紡ぎ出されたのは、人間の心が分からない、孤独な“お化け”の嘆きと絶望の物語だった―。野村美月が贈る新味、口溶け軽めでちょっぴりビターな、ミステリアス学園コメディ、開幕。
『BOOK』データベースより。 謎が謎を呼ぶミステリ的側面と、適度な萌え要素のラノベ的側面が丁度良い具合に融合した逸品。勿論キャラは立っていますのでご安心を。「文学少女」と言うだけあって、今回は太宰治愛が止まらない作品になっています。『人間失格』がモチーフです。想像ですが、本シリーズでは一人ずつ内外の作家や作品に関する思い入れが語られているものと思われます。 作風は全く違いますが、プロットや構造は京極作品に類似するところが見られます。凝ったトリックなど存在しませんが、その見せ方によっては十分ミステリとして成立するのだという事を証明したような内容です。ただ、遠子の推理(想像)は何を根拠にしているのか判然とせず、伏線を回収して論理を組み立てるような本格ミステリ志向の方には不向きだと思います。真相に意外性はなく、驚くような結末を期待すると裏切られます。 最終的には、人間はどんなに異端でも、当たり前だけど人と違っても死んではならないという一点に集約されるのでしょう。そこに救いを求めるのは、読者として当然であり、「こんな私でも生きていてよい」、自ら命を絶つのは絶対駄目なんだ、たとえ太宰がそうだったとしても・・・それが結論なのかなと、思います。 |
No.976 | 7点 | 強欲な羊- 美輪和音 | 2019/07/03 22:58 |
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美しい姉妹が暮らすとある屋敷にやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた陰湿で邪悪な事件の数々。年々エスカレートし、ついには妹が姉を殺害してしまうが―。その物語を滔々と語る「わたくし」の驚きの真意とは?圧倒的な筆力で第7回ミステリーズ!新人賞を受賞した「強欲な羊」に始まる“羊”たちの饗宴。企みと悪意に満ちた、五編収録の連作集。
『BOOK』データベースより。 ダークでホラーな連作短編集。いずれもミステリ的趣向が施されて、どんでん返しが炸裂します。特に表題作は、これぞ暗黒小説と言いたくなるような、残酷なのにそれを淡々と表現する作者の空恐ろしさを感じます。まあこれをリアルに描いたら、只のグロになってしまいますが、そこを上手にテクニックでカバーしシュールさすら覚えるような作品に昇華させていますね。異世界に読者を導いてくれます。 『ストックホルムの羊』などは終盤でそれまでの話は一体何だったのだろうと思うような反転と言うか、でんぐり返しを見事に決めています。 最終話では各短編の登場人物が現れます。この手法は有りがちですが、冒頭、三人の女性が公衆トイレの個室で片足を手錠で繋がれているという、大変魅力的な設定となっており、私好みの展開であります。その後はちょっと違うなと感じましたが、いずれにせよどの短編も単体でも十分楽しめる作品集に仕上がっていると思います。ただ、やや無理やり感がないわけではなく、連作にする必然性があったようには思えませんでした。 Amazonでの評価は低いです(読者メーターは割と好意的)が、個人的には非常に面白く読ませてもらいました。イヤミスとの説もありますが、何とも言えませんね。ジャンルを超えた異色の問題作ってところじゃないでしょうか。 |
No.975 | 6点 | 神鳥(イビス)- 篠田節子 | 2019/06/29 23:16 |
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夭逝した明治の日本画家・河野珠枝の「朱鷺飛来図」。死の直前に描かれたこの幻想画の、妖しい魅力に魅せられた女性イラストレーターとバイオレンス作家の男女コンビ。画に隠された謎を探りだそうと珠枝の足跡を追って佐渡から奥多摩へ。そして、ふたりが山中で遭遇したのは時空を超えた異形の恐怖世界だった。異色のホラー長編小説。
『BOOK』データベースより。 前半はサスペンス、後半はパニック・ホラーな展開。かなり怖いです。 主人公の二人、タフな女と軟弱な男の微妙な距離感が何とも言えず良い雰囲気を醸し出しています。特にイラストレーターの葉子の揺れる女心が、異世界の恐怖感を相殺して丁度いい塩梅に仕上がっている感じがしますね。文体も分かりやすく、立ち止ることなくスムースに読み進めることができます。 また、絶滅危惧種の朱鷺の生態などの蘊蓄も語られ、緩急をつけた非常にバランスの良い作品だと思います。 果たして彼らは現実の世界に戻れるのか、そして二人の関係はどう発展するのかといったところも注目ポイントで、最後まで飽きることなく読ませます。 タイトルから受ける神秘的な或いはファンタジックな印象はあまりなく、どちらかと言えば土着的な要素がより色濃い作品となっています。十分面白かったですし、他作品も読んでみようかという気にはなりました。 |
No.974 | 4点 | 避雷針の夏- 櫛木理宇 | 2019/06/27 22:18 |
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家庭も仕事も行きづまっていた梅宮正樹は、妻子と要介護の母を連れ、田舎町・睦間に移り住む。そこは、元殺人犯が我が物顔にのさばる一方、よそものは徹底的に虐げられる最悪の町だった。小料理屋の女将・倉本郁枝と二人の子供たちも、それ故、凄惨な仕打ちを受けていた。猛暑で死者が相次ぐ夏、積もり積もった人々の鬱憤がついに爆発する―。衝撃の暗黒小説!
『BOOK』データベースより。 只々嫌な気分になりました、又何がしたかったのかよく分かりません。その意味でジャンルはイヤミスなのかもしれません。あまりにも救いのない話だし、登場人物は結構多いですが、誰一人として感情移入の余地がありません。とにかく色々詰め込み過ぎて、各パーツが拡散しそれらが収まるべきところに収まっていないような印象を受けます。 事件らしい事件は起こりませんが、ガーゴイル像や狛犬の破壊、猫の切断死体などで読者を引き付けておいて突き放す、この手法はあまり感心しません。郁枝の夫の殺害事件の不自然なアリバイトリックも、真相は全然ミステリとして見るべきものはありません。 この作者にハズレはないと思っていましたが、今回は残念な結果に終わりました。まあ、個人的に合わなかったというだけで、こうした不安定な心情に陥りそうな作品が好きな人も意外と多いのではないかとも思いますけれど。 |
No.973 | 6点 | 殺人犯はそこにいる- 清水潔 | 2019/06/25 22:27 |
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5人の少女が姿を消した。群馬と栃木の県境、半径10キロという狭いエリアで。同一犯による連続事件ではないのか?なぜ「足利事件」だけが“解決済み”なのか?執念の取材は前代未聞の「冤罪事件」と野放しの「真犯人」、そして司法の闇を炙り出す―。新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞受賞。日本中に衝撃を与え、「調査報道のバイブル」と絶賛された事件ノンフィクション。
『BOOK』データベースより。 不謹慎と知りつつ面白かったのです。そういった尺度で計れる小説でないのは十分承知していますが、一つの読み物として楽しめました。決して起こってはならない悲惨な事件、警察の隠蔽体質、DNA型鑑定の不確実性、メディアの底力など様々な問題を孕んで物語は進行していきます。 何よりも五人の無辜の幼女の無念を晴らさんと、一ジャーナリストとして全力を尽くす清水潔氏の行動力と執念に頭が下がる思いです。そしてそれがやがて冤罪事件として、警察を動かし、最終的には裁判官にまで冤罪者となり十七年もの間服役していた菅家さんに頭を下げさせた氏の功績は計り知れないものがあると思います。 これはノンフィクションですので、当然被害者、遺族を含め警察関係者や検察官らすべて実名で書かれています。有田芳生氏、鳥越俊太郎氏、三原じゅん子氏などみなさんお馴染みの名前も出てきます。ですが、小説を読んでいるのと同じ感覚に陥るほど、ルポとは思えないような筆致で迫ってくる迫力があります。そして筆者の葛藤や焦燥などの心理状態が手に取るように分かります。 一つ残念なのが、あとがきにもあるように「ルパン」の正体をどのような経緯で知り得たのかが、ある事情で割愛されていることでしょうか。 この事件はまだ続いています。解決されていません。警察は己の威信のために動こうとしないのです。これが世界一優秀と言われる日本の警察の実態なのだと思うと、空恐ろしさすら覚えます。 |
No.972 | 4点 | パラダイス・クローズド- 汀こるもの | 2019/06/20 22:36 |
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周囲の者が次々と殺人や事故に巻き込まれる死神体質の魚マニア・美樹と、それらを処理する探偵体質の弟・真樹。彼ら美少年双子はミステリ作家が所有する孤島の館へ向かうが、案の定、館主密室殺人に遭遇。犯人は館に集った癖のあるミステリ作家たちの中にいるのか、それとも双子の…?最強にして最凶の美少年双子ミステリ。第37回メフィスト賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 怖いもの見たさで読んでみましたが、これはいけませんねえ。本格に対する作者なりのアンチテーゼなのかもしれませんが、本格の皮を被った非本格ミステリであり、云わば紛い物なのではないかと思います。 蘊蓄はまあ面白かったり面白くなかったり、どうでも良いのですが、ややくどいです。又、○○トリックを延々と語られても判ったから次行ってくれとしか思えませんね。真相を語らない名探偵、荒れ狂う双子の片割れ、結局闇に葬られたような動機、一見コード型の本格もどき、どれを取っても褒められたものではありません。 最終章がなければ2点でしたね。 で、徐に登場する探偵役は実は・・・という最後までアンチに拘った作品だったので、その点だけは良しとしましょう。でも本当はこの人は本格ファンなのだろうというのと、ナウシカ好きなのは間違いないでしょう。 |
No.971 | 5点 | ジュリエットXプレス- 上甲宣之 | 2019/06/17 22:07 |
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新年のため携帯電話が、現在つながりません―。高校の寮で平和に年明けを過ごすはずだった佐倉遙。だが大晦日の深夜、予期せぬ訪問者は彼女にこう告げる―「これから殺人フィルムの噂を語ろう」。しかしそこに血まみれになっている少年が飛び込んできて!?一方同じ頃、遙のルームメイトである真夕子はある事情から誘拐された子供を寝台特急でさがし、さらに寮から数百メートルを隔てた家では、智美が残忍な強盗に襲われていた!大晦日の23:45。すべての物語はここから始まる!携帯が通信規制でつながらない今、3人のヒロインの運命は?接点がない3つの物語が少しずつ絡み合いひとつになって、45分後にはあらゆる想像を超えた衝撃の結末へ―『24』を超えるリアルタイムノベル。
『BOOK』データベースより。 まさにジェットコースターのように乱高下するそのスピード感は比類なきものと思われます。ただ、てんこ盛りの内容に反していかにも枚数が少なすぎて、一気読みしないと急展開に付いて行けないところが欠点と言えなくもありません。 三人の女子高生が、一見全く関係なさそうな事件に巻き込まれ、最後にはそれぞれが繋がりを持ってくる構成となっており、読みどころ満載です。そこここにミステリ的な仕掛けが施されて、はっ?となるシーンもあったり肩の力を抜いて楽しめます。短いせいか、どうしても物足りなさも感じますが、まあよく考えられたプロットと言えると思います。サスペンスフルな好編ではないでしょうか。 |
No.970 | 4点 | ばらばら死体の夜- 桜庭一樹 | 2019/06/16 22:09 |
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神保町の古書店「泪亭」二階に住む謎の美女・白井沙漠。学生時代に同じ部屋に下宿していたことから彼女と知り合った翻訳家の解は、訝しく思いながらも何度も身体を重ねる。二人が共通して抱える「借金」という恐怖。破滅へのカウントダウンの中、彼らが辿り着いた場所とは―。「消費者金融」全盛の時代を生きる登場人物四人の視点から、お金に翻弄される人々の姿を緻密に描いたサスペンス。
『BOOK』データベースより。 こんなに殺伐とした小説を読むのは初めてかも知れません。それは、人間性の圧倒的な欠如、二人の主人公の人間としての根源の部分が抜け落ちていることに起因すると思われます。泪亭の店主がマトモに思えるほどに、異形の人物像として私の目には映ります。許容範囲の広い私でも、流石にこれはちょっとどうなのかと思ってしまいました。 それ程嫌悪感を覚える訳ではありませんが、少なくとも気持ちよく読了できる作品でないことは間違いありません。そして読者を選ぶことも確かでしょう。私のようにタイトルに惹かれて購読するのは危険なのでやめた方が賢明です。 冒頭に少々ショッキングなシーンがあり、そこに向かって物語は進行していきますが、闇金やら性衝動やらやるせない夢など、様々な要素がごちゃ混ぜに。一体自分は何を読まされているのか、何をしているのか読書中に疑問を感じながらブルーな気分に浸れます。ですが決して気分の良いものではありません。 しかし、最後まで読んだら即最初に戻って読み返してしまうこと必至なのです。ちょっとした仕掛けが仕込んでありますので、まあでもミステリじゃないからトリックどうこうではないですが。 それにしてもたかが300万の金で夢と自由が手に入ると本気で考えているとしたら、やはり頭がイカレているとしか言いようがありませんねえ。 |
No.969 | 5点 | 往復書簡- 湊かなえ | 2019/06/13 22:24 |
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高校教師の敦史は、小学校時代の恩師の依頼で、彼女のかつての教え子六人に会いに行く。六人と先生は二十年前の不幸な事故で繋がっていた。それぞれの空白を手紙で報告する敦史だったが、六人目となかなか会う事ができない(「二十年後の宿題」)。過去の「事件」の真相が、手紙のやりとりで明かされる。感動と驚きに満ちた、書簡形式の連作ミステリ。
『BOOK』データベースより。 ここ最近色々ありまして、イマイチ集中できないまま読了してしまいました。その為、そこまで面白いとは思えませんでした。もう一度読み直せば、ひょっとするともっと高評価になる可能性もあり得ますね。 どの作品も手紙のやり取りを通して、少しずつある事件の真相に迫っていくというパターンで、プチサプライズが味わえます。しかし驚愕というほどではありません。第一話は最終的にそれはないだろうって言うのが正直なところ。第二話はあまりにも偶然が過ぎる気がします。第三話が最もミステリらしい作品だと思いますが、まあありきたりな感じで、感心する程のことでもない気がします。 『往復書簡』確かにそうなんですが、あまりそそられるタイトルではありませんね。作者の実力は見て取れますが、なんだか色々惜しい短編集ではないかとの印象で、個人的には多分すぐに忘れると思います。 |
No.968 | 5点 | 今昔百鬼拾遺 河童- 京極夏彦 | 2019/06/09 22:10 |
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昭和29年、夏。複雑に蛇行する夷隅川水系に、次々と奇妙な水死体が浮かんだ。3体目発見の報せを受けた科学雑誌「稀譚月報」の記者・中禅寺敦子は、薔薇十字探偵社の益田が調査中の模造宝石事件との関連を探るべく現地に向かった。第一発見者の女学生・呉美由紀、妖怪研究家・多々良勝五郎らと共に怪事件の謎に迫るが―。山奥を流れる、美しく澄んだ川で巻き起こった惨劇と悲劇の真相とは。百鬼夜行シリーズ待望の長編!
『BOOK』データベースより。 本作を高く評価する人は筋金入りの京極ファンか、京極作品を一度も読んだことのない人だと思います。冒頭で女子高生四人がキャーキャー言いながら、河童談義をしているのは微笑ましいですが、基本的に百鬼夜行シリーズは悲劇でしょうから、それに反するユーモラスなこの作品はややずれているのではないかと思ってしまいます。確かに河童に関する薀蓄も語られますし、それらしい雰囲気の片鱗は見せていますが、『鬼』と比較してもトーンが明るすぎる気がします。 多々良勝五郎は別として、敦子、益田、呉美由紀らの脇役が何人集まっても主役にはなれません。つまり、主役不在の百鬼夜行シリーズ、又は脇役が主役になったシリーズでしょうか。やはり京極堂あっての百鬼夜行ですよね、これではダメだなあ。 事件は変節を経ますが構造は至って単純で、途中で大凡の真相は見えてきてしまいます。それでも結末はそれなりに読ませますが、意外性などはほとんどありませんね。そもそも誰が真犯人でなぜ全員水死体なのかといった次元の問題ではないですから。少なくともミステリファンの求めているような終息には至らないだろうと思いますよ。 余談ですが、表紙のモデルは三作とも人気の今田美桜ですが、いずれもお面を被っている為お顔は拝見できません。ただスタイルの良さは伺えます。 |
No.967 | 5点 | 文豪ストレイドッグス 探偵社設立秘話 - 朝霧カフカ | 2019/06/06 22:23 |
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今から十余年前、横浜で用心棒として名を馳せる銀髪の一匹狼がいた。その名は福沢諭吉。彼は妙な成り行きから、傍若無人で破壊的に人の話を聞かないが、超天才的な推理力を持つ少年・江戸川乱歩の面倒を見るはめに。警護のため福沢たちは殺人予告のあった劇場へ赴くが、殺人は劇の舞台上で、見えない何者かの手によって引き起こされて…!?武装探偵社始まりの物語と、中島敦入社前夜の探偵社の様子を描く、豪華2本立て!!
『BOOK』データベースより。 短編+中編の構成。 短編の『ある探偵社の日常』は武装探偵社の入社試験の方法について、ああでもないこうでもないと議論する、ある意味前説のようなものです。国木田独歩、太宰治、谷崎潤一郎、与謝野晶子といった異能探偵たちの個性のぶつかり合いが読みどころですが、一応紆余曲折がありそれなりに楽しめます。 本題は福沢諭吉と少年江戸川乱歩の出会いと殺人事件の二連発を描いた『探偵社設立秘話』でしょう。ミステリとしては突っ込みどころが多すぎて、何とも言いようがありませんが、キャラクター小説としては諭吉と乱歩を等分に描いており、それぞれ違った能力を発揮してなかなかの面白さを見せてくれます。まあ、あくまでコミックスの小説版ですから、そこはそれやはりコミックスの域を出ていない感触はあります。ちなみに、佐々木琴子がハマっているシリーズ(もちろんコミックスのほう)でもあるそうですよ。小説より漫画のほうが面白いのかも知れませんね。 |
No.966 | 6点 | 閻魔堂沙羅の推理奇譚 負け犬たちの密室- 木元哉多 | 2019/06/03 22:12 |
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「閻魔堂へようこそ」。閻魔大王の娘・沙羅を名乗る美少女は浦田に語りかける。元甲子園投手の彼は、別荘内で何者かにボトルシップで撲殺され、現場は密室化、犯人はいまだ不明だという。容疑者はかつて甲子園で共に戦ったが、今はうだつのあがらない負け犬たち。誰が俺を殺した?犯人を指摘できなければ地獄行き!?浦田は現世への蘇りを賭けた霊界の推理ゲームへ挑む!
『BOOK』データベースより。 前作よりかなり本格色が濃くなって、確かな手応えを感じます。第一話では前作の書評にも書きましたが私の要望通り、現職の刑事が主人公で、派手さはないもののしっかりとしたミステリに仕上がっていると思います。伏線も効いていて好感が持てます。第二話はワンパターンと思わせて、一捻りしているところに新味が見られます。もっとも、登場人物が少ないのでおおよそのオチは読めますが、ラストが良い味を出していますね。第三話はちょっと風変わりな密室物。これはいわゆるクローズドサークルの変形で、短編にしては盛り沢山の内容な上、トリックもなかなか斬新でよく練られていると感じました。 全体を通して格段の進歩を遂げたとの印象を受けました。文章などは堂に入っており、既に大家の貫録すら感じさせます。あとは今後まだまだ本シリーズをメインにしていくのか、或いは新たなシリーズを発進させるのかといったところだと思いますが、個人的にはガチガチの本格を長編で読んでみたいですね。この人は少なくともそれだけのポテンシャルを有している作家だと思いますので。7点に近い6点です。 |
No.965 | 6点 | ifの悲劇- 浦賀和宏 | 2019/05/31 22:42 |
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【ネタバレ注意 既読の方もしくは、今後本作を絶対読まないという方限定】
小説家の加納は、愛する妹の自殺に疑惑を感じていた。やがて妹の婚約者だった奥津の浮気が原因だと突き止め、奥津を呼び出して殺害。しかし偽装工作を終え戻る途中、加納の運転する車の目の前に男性が現れて…。ここから物語はふたつに分岐していく。A.男性を轢き殺してしまった場合、B.間一髪、男性を轢かずに済んだ場合。ふたつのパラレルワールドが鮮やかにひとつに結びつくとき、予測不能な衝撃の真実が明らかになる! 『BOOK』データベースより。 まさに想像の斜め上を行く、と言うより想像の真上を行く絶妙な仕掛け。これにはさすがに騙されました。 意外に単純なストーリーだと思いながら読んでいましたが、実はとんでもない食わせ者で、かなり複雑に入り組んだ話なので、読者はそれを覚悟の上で慎重に読み進めなければなりません。ただし、それ程面白い訳ではなく、なんとなく読み流していると後で後悔する羽目になるかもしれません。途中で違和感を覚え、それらを頼りに真相に迫ろうとし、そして作者の企みを見抜こうとする勇敢な読者にはハッとするような天啓が訪れる瞬間がやってくるかもしれませんね。 それにしても、誰もが「そっちかい」と思わず唸るようなエピローグには、それは違うんじゃないかとか、やり方が汚いとの意見も上がりそうですが、もう一度最初から読み直してみると、作者がいかに巧妙に騙しのテクニックを駆使しているかに気付くと思います。○○トリックや××トリックを上手い具合に仕込んだ、浦賀らしい(らしからぬ?)一篇ではないでしょうか。 読後腹を立てる人もいるかもしれませんが、個人的には満足しています、騙されたことに、そして見事な着地を見せた作者に対して。 |
No.964 | 6点 | TENGU- 柴田哲孝 | 2019/05/29 22:20 |
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第9回 大藪春彦賞受賞作
26年前の捜査資料と、中央通信の道平(みちひら)記者は対面した。凄惨(せいさん)きわまりない他殺体の写真。そして、唯一の犯人の物証である体毛。当時はまだなかったDNA鑑定を行なうと意外な事実が……。1974年秋、群馬県の寒村を襲った連続殺人事件は、いったい何者の仕業(しわざ)だったのか? 70年代の世界情勢が絡む壮大なスケールで、圧倒的評価を得て大藪春彦賞に輝いた傑作。 これは勿論本格ではなく、それどころかミステリかどうかも疑わしい作品です。連続殺人事件は起こります。しかし、物語が進むにつれ次第に流れが読めてしまい、真犯人の正体も薄々想像が付いて、やや興冷めしてしまいますね。 ホラー色を濃くするとか、サスペンスを効かせて盛り上げるとか、もう少しやり様があった気がします。話のスケールが大きい割りに小ぢんまりと纏まってしまっている感が否めません。全体的に地味なんですよね、もっと派手にやって欲しかった。仮定の話で申し訳ないですが、これをたとえば島荘が書いていたらとか考えると、勿体ないなというのが率直な感想です。ですので、あるシーンでは本当は度肝を抜かれるようなサプライズであろうはずが、なんとなくやっぱりその辺りに落ち着くんだって思ってしまいました。個人的には十分楽しめなかったとしか言いようがありません。でも6点です、だってしょうがないじゃないですか、それなりの評価はしないとダメなんじゃないかという気持ちも捨てがたいですし。 |
No.963 | 6点 | 阿修羅ガール- 舞城王太郎 | 2019/05/25 22:25 |
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アイコは金田陽治への想いを抱えて少女的(ガーリッシュ)に悩んでいた。その間に街はカオスの大車輪! グルグル魔人は暴走してるし、同級生は誘拐されてるし、子供たちはアルマゲドンを始めてるし。世界は、そして私の恋はどうなっちゃうんだろう? 東京と魔界を彷徨いながら、アイコが見つけたものとは――。三島由紀夫賞受賞作。受賞記念として発表された短篇「川を泳いで渡る蛇」を併録。
一見どう考えてもふざけているとしか思えない書きっぷりですが、本人は超真面目に書いたんだろうなと個人的には感じます。じゃなきゃ三島由紀夫賞は獲れませんよ。 第一部でグルグル魔人の猟奇殺人や誘拐事件で読者を惹きつけておいて、第二部でとんでも世界を暴走してなじゃこりゃとなって、結局最後は上手い具合に纏め上げるという手練手管を見せる、流石です。アルマゲドンの意味や誘拐の経緯などは詳らかにされてはいませんが、そんなことは些事にさえ思えるような作品ですので、評が割れるのも致し方ないでしょうね。好き嫌いがはっきり分かれる、何とも言えない小説です。 そもそも面白いとか良い作品だとか、感動するとか感銘を受けるといった読書する上で大切な感情を拒否しているとしか思えません。それでも読者を突き放している訳ではなく、アイコという少女を通して人間の様々な在り方を追求したような感覚を覚えます。これが舞城なのだと、それははっきり言えるんじゃないでしょうかね。 蛇足ですが、文庫版に併録された短編はいらなかったです。 |
No.962 | 6点 | 東京輪舞- 月村了衛 | 2019/05/22 22:07 |
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昭和・平成の日本裏面史を「貫通」する公安警察小説!
かつて田中角栄邸を警備していた警察官・砂田修作は、公安へと異動し、時代を賑わす数々の事件と関わっていくことになる。 ロッキード、東芝COCOM、ソ連崩壊、地下鉄サリン、長官狙撃……。 それらの事件には、警察内の様々な思惑、腐敗、外部からの圧力などが複雑に絡み合っていた――。 昭和・平成史上最も重大な事件の裏には、こんな物語もあったかもという、あくまでフィクションであり警察小説の大河ドラマの様な感じです。 警察庁や警視庁、その傘下である公安の官僚を始めとする各ポストの登場人物が次々と現れ、頭を整理するのにやや苦労します。まあ私の読解力と頭の弱さの問題もありますが。結構な大作でスケールの大きさは感じますが、砂田という異動を繰り返す主人公を中心とした人間ドラマでもあります。 元々興味本位で読んでみたのですが、政治や時事問題に関心のあまりない人は読まないほうが良いと思います。特にロッキードと言われてもピンと来ない世代(私も含め)は正直難解な面がありますね。物語はロシアや北朝鮮も絡んできて、国際問題にも言及していますが、最後は悉く砂田の敗北という形で終焉します。そりゃあそうですよね、歴史は変えられないんですから。その意味でのカタルシスは訪れません。しかし、結末は哀愁に満ちており確かな余韻を残すものとなっています。 |