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[ 本格/新本格 ]
彼は残業だったので
カメラマン・門倉隆介&アマチュア探偵・立花真一
松尾詩朗 出版月: 2000年06月 平均: 5.00点 書評数: 3件

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光文社
2000年06月

No.3 5点 メルカトル 2019/07/11 22:44
情報処理会社に勤める中井は、残業中、魔術の本を読みふけっていたら、オフィスのオートロックがかかり、閉じ込められてしまった。時間をもてあました彼は、“憎い相手を呪い殺す”呪術を試してみることに…。日頃、憎らしく思っている同僚野村裕美子と佐藤輝明の人形を厚紙でつくり、火をつけた!二人は前日から無断欠勤していたが、はたして三日後、佐藤の部屋から男女の焼死体が発見された。二つの死体は、バラバラに切断され、あやつり人形のように木の枝で連結されていた。犯人は何のために、死体にこのような細工をしたのか。
『BOOK』データベースより。

何か色々と惜しいなという印象が強いです。文章が平板で起伏がなく、特に事件に直接関係ない描写になると途端に面白くなくなる辺り、まだまだプロの作家になり切っていない感じがしました。
上記の様な、黒焦げ死体をバラバラにして、それを枝で繋ぎ合わせるという極めて魅力的で吸引力を持った謎は、とても素晴らしいと思います。しかし、その猟奇殺人と作風がマッチしていないです。途中でトリックが解ってしまったのもかなりがっかりしました。おまけにヒントを出し過ぎでしょう。これはピンときますよ、あまりにもあからさまでしたね。


【ネタバレ】


『占星術殺人事件』を読んでいる人にはかなり早い段階で真相が読めてしまう可能性があります。読んでいなくても割と看破しやすいですかね。
ある程度期待はしていたのですが、やや肩透かしを食らった感は否めません。もっと大胆なトリックだと思っていましたが。ついでにタイトルについて触れると、内容とはあまり関係ないですので、そのつもりで読まれる方が良いと思います。しかし、もう少し売れそうなタイトルだったらもっと注目されたのではないでしょうか。

No.2 5点 人並由真 2018/05/31 18:00
(ネタバレなし)
 草野唯雄の『死霊鉱山』の感想をTwitterで検索した際、この作品がそっちと同じ程度にアレであるとかどーとかの噂を目にする。それでワクワクしながら、(え!?)この一冊を手に取った。
(しかし、こういう作品までちゃんと目を通してられるnukkamさん、流石である……。)
 
 自分が最初に期待したのは、完成度の高い傑作や秀作でなくてもいいから、爆笑できるワンアイデアもののパワフルさか、まず現実にはありえない奇想を紙の論理の上でホントらしく見せるフィクション的な豪快さ(そういう形でとにもかくにもミステリジャンルへの愛がある作品)……だったのだが……なんだろう、これは…(汗)。
 まず、敷居の低い、いかがわしさに満ちた蠱惑的な導入部はオッケー。
 そこから、どうやら本当の主人公のものらしい別視点の叙述に転調し、ふむふむ……と読み進める辺りまでは、なかなか面白そうだった。
 しかしストーリーテリング的にもミステリ的にも大きな弾みもないまま次第に残りページ数が減じていき、いつのまにか終盤に「なんつーか、どうもね…」と言いたくなるような、どっかで読んだようなトリックのバリエーションが開陳されて終わる。そこには予期したようなダイナミズムも豪壮な快感もなかった。あったのは、ただの脱力感だけ……(涙)。
 まあ『占星術』リスペクトとして、作者が本作のメインアイデアにそれなりの自負を持っていたのであろうことは、明確にわかるんだけれど(この辺は、ネタバレになりかねんので、あまり詳しく書けんが)。

 察するに、作者はこれをきっと天然で書いたのだろうから、ある意味、罪はない。問題なのは、裏表紙で例によってこういう作品を推薦したあの人(nukkamさんのレビュー参照)の方である。
 なにはともあれ、こういう一冊を時に嗜むのも、ミステリファンの興趣ということで、ここはひとつ(そうか!?)。
 ……とかなんとか言いながら、同じ作者の別の作品も、近いうちに読むであろうけれど(笑)。

No.1 5点 nukkam 2015/11/18 10:02
(ネタバレなしです) 島田荘司の傑作「占星術殺人事件」(1981年)を読んで刺激を受けた松尾詩朗(1960年生まれ)の2000年発表のデビュー作の本格派推理小説です。刺激どころかプロットのあちこちに「占星術殺人事件」の影響が見られますね。島田荘司は江戸川乱歩、高木彬光、そして自分自身の代表作を引き合いに出してまで本書を激賞していますが、本書がそれらと並ぶ古典的地位を将来得られるかは疑問です。軽妙に仕上げることは作者のねらいであり長所でもあるのですが、猟奇的犯罪を扱っているのですから凶悪事件のインパクトをもっとアピールしてもよかったのではと思います。人物描写に軽薄感がつきまとっているのも事件性と微妙に合っていない印象を受けました。大胆なトリックの説明が要を得てわかりやすいのは好印象です。


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松尾詩朗
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2000年06月
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