皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.1101 | 7点 | ビートたけし殺人事件- そのまんま東 | 2020/04/18 22:30 |
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流石はお笑い芸人、そのまんま東。ギャグのセンスは抜群です。現在はご存じ、政治評論家、元衆議院議員で元宮崎県知事ですが、この頃からその才能を発揮していたんですね。政治家としての資質も十分持っているようですが、文才もなかなか非凡なものがあります。
他の作品も読んでみたいです。ちょっと入手が難しそうなのが残念ではありますが。 物語は東の師であるビートたけしが失踪し、たけし軍団の初期のメンバー十人が行方を追うものの、死体として発見され連続殺人事件へと発展するというもの。 密室はやや無理筋だけど、暗号の謎は結構考えられています。ガダルカナル・タカやダンカン、松尾伴内、ラッシャー板前、つまみ枝豆らそれぞれ個性が光っています。私が子供の頃から知っているのもあって、容易に情景が浮かんできたり、各々の発言がいかにもありそうと思えてきて、笑わせてくれます。 ミステリとしても意外とよく出来ていて、最後にどんでん返しもあり、期待以上に楽しめました。ジャンルは勿論本格ミステリだと断言できます。ユーモアを交えつつ、一つの小説としてキッチリ纏められて好感が持てました。 |
No.1100 | 4点 | 少し変わった子あります- 森博嗣 | 2020/04/16 22:46 |
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失踪した後輩が通っていたお店は、毎回訪れるたびに場所がかわり、違った女性が相伴してくれる、いっぷう変わったレストラン。都会の片隅で心地よい孤独に浸りながら、そこで出会った“少し変わった子”に私は惹かれていくのだが…。人気ミステリィ作家・森博嗣がおくる甘美な幻想。著者の新境地をひらいた一冊。
『BOOK』データベースより。 理系の作家が非ミステリを書くとこうなってしまうという典型的な悪い例。無論、理系が文学に向いていないという訳ではありません。しかし、森博嗣の場合は、以前読んだ『喜嶋先生の静かな世界』同様に、どうも情緒に欠けるし、文章に面白味がないので、自身の狙いが上手く表現出来ていない気がします。 Amazonでは相変わらず氏の作品の評価は高いのですが、納得いきませんね。みなさん、本当に面白がっているんでしょうか。 毎回場所を変えて、もてなされる二人だけの晩餐。食事の相手は毎回変わり、十代から三十代の女性で、彼女たちは自身についての何かしらを「私」に語ってくれる。ただそれだけ。中には心の中心に暖かい燈が灯ったような微かな感覚を覚えるような不思議な境地へ誘ってくれるシーンもありますが、それは一瞬だけで長くは続きません。同じ小説を京極夏彦が書いたら、少なくとも三倍程度は面白くなったと思います。 |
No.1099 | 7点 | UFOはもう来ない- 山本弘 | 2020/04/14 22:15 |
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地球を監視する知的生命体・スターファインダー。彼らは“最終シークエンス”を発動しようとしていたが、最高権限者ペイルブルーが京都の山中に不時着し、小学生三人組に発見されてしまう。少年たちの通報を受け、“トンデモ”番組のディレクター・大迫と美人UFO研究家・千里は現地に向かうが、異星人の存在を知った新興宗教団体の教祖は、ペイルブルーの拉致を企み…。スリルと感動のエンターテインメント小説!
『BOOK』データベースより。 堂々とした本格SF大作であり、大衆娯楽作品でもあります。タイトルから想像するような、紛い物とか色物では決してありません。適度なユーモアと適度な蘊蓄、やや専門用語が難解な面もありますが、大筋としてのストーリーは単純です。それだけに人物造形や細かなディテールがよく描きこまれており、長尺だけのことはあります。しかし冗長さは微塵も感じません。全く矛盾するところがなく、全てが腑に落ちる辺りも高評価に繋がります。 意外なことに感情移入するのは異星人であり、捕らわれた身の上を憐れに感じたり、その心細さに思いを致したりするのは私だけでしょうか。 最終章では結構なカルチャーショックを受けました。文明、先進科学の格差や異星の文化慣例の違いや溝は埋めがたいものがあるのだと実感しました。 面白いだけではなく、様々な面で感銘を受け、印象深い一冊になりました。 アクの強い新興宗教の教祖のキャラもなかなか良い味を出していたと思います。 |
No.1098 | 6点 | 配達されたい私たち- 一色信幸 | 2020/04/12 22:36 |
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感情を喪失したうつ病の澤野は、ある日、死に場所として入った廃墟で、偶然手紙の束を見つける。それは昔郵便局員に破棄されたものだった。「この7通の手紙は、さようならへのカウント・ダウンだ。すべてを配達し終えたら肚をくくろう」彼は死とその痛みを先延ばしするため、7年前の手紙の配達を始める。そしてそこに込められた悲喜劇に遭遇し、久しぶりに心の揺らぎを感じるが…。神経症の時代に贈る、愛と希望の物語。
『BOOK』データベースより。 作者は『私をスキーに連れてって』『木村家の人々』などの脚本を手掛けた脚本家で、小説家でもあります。氏はかなり重いうつ病を患った経歴があり、この作品ではその経験を生かして、その症状やうつ病患者の内面を抉るように描いており、とてもリアリティがあります。主人公が鬱だけあって、非常に重い作品に感じます。しかし、何か分かるなあとも思いますし、そんなに酷いものなのかという気持ちにもなりますね。 それでも、どこからそんな気力が湧いてくるのか、死することへの決意の表れなのか、随分苦労して7通の手紙を配達してく姿には違和感を覚えます。それだけのことを成し遂げようとする人間が、本当に鬱に苦しみ死を切望するのかとの疑問も覚えます。 7人の手紙の受取人にはそれぞれドラマがあり、それだけでも楽しめはしますが、タッチが軽いのに内容が重いという、アンバランスさが読者を不安定な気分に誘います。エンターテインメント小説として優れていると思いますが、気持ちよく読み進めることはできないかもしれません。 結末は微妙で、救いがあるのかないのか意見が分かれるところだと思います。 余談ですが松竹さん、映画『ほんの5g』のブルーレイ、DVD化を切に希望します。 |
No.1097 | 7点 | Y駅発深夜バス- 青木知己 | 2020/04/10 22:49 |
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運行しているはずのない深夜バスに乗った男は、摩訶不思議な光景に遭遇した―奇妙な謎とその鮮やかな解決を描く表題作、女子中学生の淡い恋と不安の日々が意外な展開を辿る「猫矢来」、“読者への挑戦”を付したストレートな犯人当て「ミッシング・リング」、怪奇小説と謎解きを融合させた圧巻の一編「九人病」、アリバイ・トリックを用意して殺人を実行したミステリ作家の涙ぐましい奮闘劇「特急富士」。あの手この手で謎解きのおもしろさを伝える、著者再デビューを飾る“ミステリ・ショーケース”。
『BOOK』データベースより。 アリバイトリックあり、ホラーあり、倒叙物あり、青春ミステリありとまさにバラエティに富んだ短編集となっています。 個人的に一番面白かったのは『九人病』。これは良いですよ。何故か二階堂黎人編の『新本格推理05 九つの署名』に掲載されたものですが、本格推理じゃないですよね、これ。ホラーですよ。ラストにあれ?となりますが、更にその後に驚きが待っているという凝り様。又表題作はどこか幻想的な雰囲気を漂わせながら、その裏で着々とあるトリックが仕掛けられていて、捻りも効いていて最後のオチも良かったですね。 『ミッシング・リング』はなかなか良く考えられたアリバイもので、読者への挑戦状付き。確かに論理的に犯人を指摘するのが可能。まあ私の様な弱い頭では解けませんけどね、というかそれ以前に自力で推理しようとは思わない。 『特急富士』はよくある倒叙物かと思わせて実は・・・一手間掛けて意外性のある読み物に仕上げています。 全体的に期待通りの出来でした。これだけの作品が書けるのだから、もっと新作を出して欲しいものです。 |
No.1096 | 6点 | 浮遊封館- 門前典之 | 2020/04/08 23:08 |
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全国で「死体が消える」という不可解な事件が続発していた。犠牲者の数が130人分足りない飛行機墜落事故。監視者の目前で次々人が減っていく宗教団体。また、身元不明死体ばかりが火葬されずにどこかへ運ばれているらしいとも。さまざまな謎がやがて一本に繋がるとき、底知れぬ異形の論理が浮かび上がる。ついに沈黙を破った鮎川賞作家による書き下ろし。
『BOOK』データベースより。 個人的には好みですし、派手な事件の連続は目を引くものがありますが、残念ながら色々説明不足な点があり、今一つ理解が及ばないこともありました。根底には何故ここまでの大量殺人事件が起こるのかという疑問があり、そのところもあまり深堀されていません。まあ死体が必要なわけは判りますけど、その思想が作者の中で十分に熟成されていない感じがして、いささか表層的に過ぎたのではないかという気がします。 ただ、雪密室の謎は克明に描かれており、非常に興味深く読めました。新味があるのかと問われると否と言わざるを得ませんが、実現可能のようにも思えます。 宗教を絡めれば何が起きても不思議ではないだろう、みたいな作者の魂胆が見え隠れしていて、何でもアリな感じを濃くしています。 あのメフィスト賞作品と比較されがちですが、怪しげな雰囲気はこちらの方に軍配が上がると思います。しかし、もっと教団の「真実」や信仰の有り方などを描き切っていれば、更に評価点は上がった筈です。 |
No.1095 | 7点 | コンビニなしでは生きられない- 秋保水菓 | 2020/04/06 22:56 |
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大学生活に馴染めず中退した19歳の白秋。彼にとって唯一の居場所はバイト先のコンビニだった。そこに研修でやってきた女子高校生の黒葉深咲。強盗、繰り返しレジに並ぶ客、売り場から消えた少女。店内でひとたび事件が起これば、深咲は目を輝かせて、どんどん首を突っ込んでいく。彼女の暴走に翻弄されながら、謎を解く教育係の白秋。二人の究明は店の誰もが口を閉ざす過去の盗難事件へ。元店員が残した一枚のプリントが導く衝撃の真実とは?第56回メフィスト賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 おそらく多くの方がこのタイトルから、ラノベに近い軽めで恋愛要素の強い作品と言う印象を受けると思います。しかし私は断言します。これは日常の謎を扱った、本格パズラーであり、青春小説であり、恋愛小説であると。近年のメフィスト賞の中では、その出来栄えは抜きん出ていると思います。 コンビニならではの事件の数々が、やがて一点に収束していく様は、使い古されたパターンでありながら、思わず深く首肯せざるを得ない吸引力を秘めています。その中でもクルーたちの人間関係や恋愛模様をも描き切り、非常に充実したエンターテインメント小説に仕上がっています。 まああまり期待せずに読み始めました訳ですが、期待以上のものを私の心に残してくれました。世界の片隅でひっそり生きている青年と、新しく仲間として共にコンビニで働くことになった女子高生のコンビ、西尾維新ならこのネタで十作は書くでしょう。是非シリーズ化して欲しいものです。が、話の流れから鑑みると難しいでしょうかねえ。でもやって欲しい。 |
No.1094 | 6点 | 狂人の部屋- ポール・アルテ | 2020/04/04 22:57 |
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ハットン荘のその部屋には、忌まわしい過去があった。百年ほど前、部屋に引きこもっていた文学青年が怪死したのだ。死因はまったくの不明。奇怪なことに、部屋の絨毯は水でぐっしょりと濡れていた…以来、あかずの間となっていた部屋を現在の当主ハリスが開いた途端に、怪事が屋敷に襲いかかった。ハリスが不可解な状況のもとで部屋の窓から墜落死し、その直後に部屋の中を見た彼の妻が卒倒したのだ。しかも、部屋の絨毯は百年前と同じように濡れていた。はたして部屋で何が起きたのか?さすがのツイスト博士も困惑する、奇々怪々の難事件。
『BOOK』データベースより。 皆さん一様に怪奇趣味を取り上げておられますが、私としてはやはりカーとは比べるべきものとまでは思えません。確かにプロローグのシーンには興味を惹かれますし、なるほど上手いなと感心しました。それがまさにクライマックスとなってのちに詳細が明かされるに伴い、興奮は絶頂に達します。それに加え絨毯が三度に亘って濡れていたという謎や蘇る死者など、様々なガジェットが読者を魅了します。 個人的に恋愛模様などはどうでも良くて、そういった要素は必要なかったと思いました。まあしかし、全体としては面白かったのは否定できません。前半は事件なのか事故なのかはっきりしないモヤモヤ感が何とも悩ましかったのですが、ツイスト博士が登場してから物語が引き締まりますね。作品の性質上致し方ないかも知れませんが、もう少し露出多めでお願いしたかったですね。 |
No.1093 | 5点 | とくまでやる- 清涼院流水 | 2020/04/02 22:40 |
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夏休み開けの2学期早々、フレアとクレア、双子の姉妹の通う名門女子高・聖光女学院の生徒が連続で自殺した。その週末、近くのビデオ屋で働く出有特馬の周囲でも、不可解な連続自殺がスタートする。
毎日、必ず1人ずつ自殺する。この異常な事件は、本当に自殺連鎖なのか、それとも連続殺人か?特馬は、相棒の山本新悟や双子姉妹と事件の真相を探るが……。 Amazon内容紹介より。 1日に起こった出来事を見開き2ページで描き切り、1日一人ずつ自殺していくという、一風変わった趣向のミステリ。果たしてそれが本当に自殺なのか、何故自殺するのかといった肝心の謎に関して、既に放棄してしまっている時点でダメ。まさに竜頭蛇尾というに相応しい作品となっています。まあそこが流水らしいってことなんでしょうが。だから本格ミステリと思って読むの間違いで、あくまでライトノベルとして楽しむべきだと思います。 ご本人はあとがきなどで自信のほどを誇示しておられますが、自身の著作の中でそこまで重要な位置にあるとは思えません。アイディアは認めて良いでしょうが、中身が薄いです。敢えて言えば、登場人物の個性が明確に描かれているのがせめてもの救いですね。仕掛けが子供騙しで、ハウが不明だしホワイもいい加減に感じました。 |
No.1092 | 5点 | 傾物語- 西尾維新 | 2020/03/31 22:35 |
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“変わらないものなどないというのなら―運命にも変わってもらうとしよう”。迷子の小学生・八九寺真宵。阿良々木暦が彼女のために犯す、取り返しのつかない過ちとは―!?“物語”史上最強の二人組が“運命”という名の戦場に挑む。
『BOOK』データベースより。 これまでとは毛色が違う、SF志向の高い作品となっています。その分ファンタジー要素は希薄で、激しいバトルやキャラ萌えも期待できません。 私としては当然八九寺真宵を中心に据えた物語だと思っていたので、こんな筈ではなかったという裏切りにあったような気持が強いです。八九寺はほとんど出て来ず、専ら暦と忍の二人でストーリーは進みます。最初から作者はそのつもりで書いたらしいので、その意味では意図通りではあります。しかし、作風というか、視点の違いに違和感を覚える読者も少なくないと思いますね。 終盤まではやや冗長に近い感覚で、それを我慢してやっと最後の腑に落ちる真実に出会える感じです。ファンにとっては待ち遠しかった、「役者」の登場でそれまでのもやもやが吹っ飛んでしまうようなもので、詐欺に近いと言ったら言い過ぎかも知れませんが、まあそんな感じです。 何故この人が真相を言い当てるのか、かなり唐突ではありますが、確かにそれは納得の行くものであり、何とかスッキリした形で物語を終えられたのではないかと思います。 |
No.1091 | 6点 | 実験小説 ぬ- 浅暮三文 | 2020/03/29 22:26 |
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交通標識で見慣れたあの男の秘められた、そして恐ろしい私生活とは?(「帽子の男」)。東京の荻窪にラーメンを食べに出かけた哲人プラトンを待っていた悲劇(「箴言」)。本の世界に迷い込み、生け贄となったあなたを襲う恐怖(「カヴス・カヴス」)。奇想天外、空前絶後の企みに満ちた作品の数々。読む者を目も眩む異世界へと引きずり込む、魔術的傑作27編。
『BOOK』データベースより。 第一章が実験短編集と銘打たれた10短編、第二章が異色掌編集でショートショート17編。 冒頭の『帽子の男』を読んだ時、これは素晴らしいと感じました。身体に衝撃が走ると同時に大笑いしました。各1ページごとに一つの交通標識を載せ、それを元にストーリーを組み立てていくという、奇想天外な小説に仕上がっています。これに似た構成の『線によるハムレット』も高評価。 しかし、実験小説という割りには前衛的なものは少なく、既成の作品を参考にしたものやどこが実験なの?といった至って普通の小説も含まれています。海外でも評判が良いらしい『カヴス・カヴス』はちょっと訳が分かりませんでした。 異色のショートショートは取り立てて特筆すべきものもなく、暇つぶしには丁度良い感じの作品ばかりで、すぐに忘れてしまっても大丈夫です。 全体的に読みやすかったのと、たまに現れる新鮮な企みを持った作品が幾つかあったのでこの点数にしました。人によっては凡作と感じる方も多いかもしれません。 |
No.1090 | 7点 | 臨床真実士(ヴェリテイエ)ユイカの論理 文渡家の一族 - 古野まほろ | 2020/03/27 22:09 |
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言葉の真偽、虚実を瞬時に判別できてしまう。それが臨床真実士と呼ばれる本多唯花の持つ障害。大学で心理学を学ぶ彼女のもとに旧家の跡取り息子、文渡英佐から依頼が持ち込まれる。「一族のなかで嘘をついているのが誰か鑑定してください」外界から隔絶された天空の村で、英佐の弟・慶佐が殺された。財閥の継承権も絡んだ複紙な一族の因縁をユイカの知と論理が解き明かす!
『BOOK』データベースより。 派手な殺人事件やトリックなどはありませんが、ユイカが自身の持つ障害を駆使して容疑者(ほぼ全員)の真偽を判別しつつ、論理展開でもって真相に迫る過程は大変読み応えがありました。ただ、私は頭が悪いので、最初の真偽に関する方程式的な解明は正直十全に理解できたとは言えません。 それでも、孤立した村で起こる骨肉の争いと、それに対するユイカという異分子の絡みが何とも言えない独特の雰囲気を醸し出していると思います。 道中であれ?と感じる違和感が幾つかあり、それらは全て伏線となって解決編に有機的に繋がっているし、プロローグからしてかの名作を彷彿とさせるような幕開けであり、まさに本格の王道を往く作品として捉えてよいと思います。読者への挑戦状もありますしね。だからと言って、ロジック一辺倒ではなく、あっと驚くような仕掛けも施されており、なかなかの力作ではないかと感じます。 Amazonではやっぱりなと思うような低評価です。しかし、私はあくまで作品を評価するべきであって、作者を評価するべきではないと思いますね。 |
No.1089 | 5点 | 箱の中の天国と地獄- 矢野龍王 | 2020/03/25 22:48 |
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閉ざされた謎の施設で妹と育った真夏。ある朝、施設内に異変が起こり、職員たちは殺戮された。収容されていた他の男女とともに姉妹は死のゲームに強制参加させられる。建物は25階、各階には二つの箱。一方の箱を開ければ脱出への扉が開き、もう一方には死の罠が待つ。戦慄の閉鎖空間!傑作脱出ゲーム小説。
『BOOK』データベースより。 命懸けのサバイバル・ゲーム。各階に用意された二つの箱には様々なトラップが仕掛けられており、次々と人が死んでいくテンポは良いと思います。しかし、ちょっと説明不足な点があり、あれ?と感じることもありました。もう少し描き方を緊密にすれば、もっと楽しめる作品になったと想像することは出来ます。 この手の作品にしてはよく出来ている方だと思いますが、やはりそこまでする必然性と言うか理由付けが若干弱い気がしました。25階まで辿り着くまで、毎回毎回同じことの繰り返しなので、ややダレます。そこをマンネリ化しないように工夫されているのは認められますが、ご都合主義や話が出来すぎな感は否めません。 最後に明かされる十円玉の謎はなるほどなと思いました。 |
No.1088 | 5点 | しゃべくり探偵の四季- 黒崎緑 | 2020/03/23 22:07 |
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和戸君一家に降って湧いた騒動を見事収拾、保住君の新学期は好調な滑り出し。歌って踊れる名探偵とばかりギター片手に謎を解き、夏休みは珊瑚礁で魚と戯れ、また上高地の涼風に吹かれつつ事件の真相を看破する。馴染みの床屋や大学祭の模擬店で推理を聞かせたり、屋台の客から解決代をせしめたり。かくもバラエティに富んだ学生生活を謳歌する、なにわのホームズ保住君の事件簿。
『BOOK』データベースより。 前作同様、しゃべくりだから会話だけで成立しているのは覚悟していましたが、やはり地の文がないと読み難いですね。あまりボケとツッコミの遣り取りがしっくり来ず、それぞれの特性を生かし切れていない印象を受けました。第一話、第二話と最終話がその形式で、その他4篇は普通の文体で書かれています。、まあ全体的にインパクトに欠ける為、すぐに内容を忘れてしまいそうな気がします。 個人的には『注文の多い理髪店』がベストですかね。何故被害者の頭部と腕が焼かれていたのか、裸足だった理由はというホワイダニットがなかなか面白いです。無論、被害者の身元を不明にするなどという愚は冒していませんから安心です。 『怪しいアルバイト』はアンソロジー『競作五十円玉二十枚の謎』からの一作で、これもまた週末の書店に五十円玉二十枚を持って両替に来る人間の謎を、上手く説明しています。それが眼目であるのは間違いないですが、ミステリとしては人間消失を扱ったものとなっています。この二作位のレベルが並んでいれば6点でした、惜しかったですね。 |
No.1087 | 7点 | 宵待草夜情- 連城三紀彦 | 2020/03/21 22:27 |
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大正九年の東京。祭りの夜に、カフェ「入船亭」の女給・照代が殺された。着物を血に染めて店を出てきたのは、同じ店で働く鈴子。鈴子の恋人・古宮は、彼女が殺したのかと考えるが。はかない男女の哀歓を描き、驚きの結末を迎える表題作ほか五篇。人の心の底知れぬ謎、深く秘められた情念から、予想をはるかに超える真実が立ち上がる。不朽の傑作ミステリー、待望の新装版。
『BOOK』データベースより。 これは名作でしょう。特に情景描写が半端なく素晴らしいですね。この人にしか書けないと思います。 いずれの短編も愛憎のもつれというか、痴情のもつれが底辺に流れています。それが普通ではなく捩じれた形で表現され、事件の意外すぎる真相や殺人の動機に関わってきます。中には一見理解不能なものもありますが、ある覚悟をした女の情念はここまで深いものだということを、絵空事とは思えないような筆致で描き切っています。 トーンが全体的にくすんだ感じがしますね。と言うより、滲んだような、不透明な感覚が発散されています。それでいて事件の様相がくっきりと際立っている辺りはこの人の真価を発揮しているように思います。 どの作品にも本格ミステリの要素が横溢しており、本格スピリットを忘れていない点も高評価につながりますね。 |
No.1086 | 5点 | ある少女にまつわる殺人の告白- 佐藤青南 | 2020/03/19 22:51 |
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第9回『このミステリーがすごい! 』大賞・優秀賞受賞作の、待望の文庫化です。「今日的テーマを扱いつつ難易度の高いテクニックを駆使し、着地の鮮やかさも一級品」茶木則雄(書評家)。10年前に起きた、ある少女をめぐる忌まわしい事件。児童相談所の所長や小学校教師、小児科医、家族らの証言から、やがてショッキングな真実が浮かび上がる。巧妙な仕掛けと、予想外の結末に戦慄する!
Amazon内容紹介より。 ある少女亜紀の関係者の独白で構成される、『告白』に似た形式の作品。ただこちらは茫洋として掴み所がなく、なかなか亜紀の人物像が見えてきません。これは結構フラストレーションが溜まりますね。児童虐待や児童相談所の有り方についてあれこれ書かれていますが、いかにも浅いです。亜紀という少女は一体どんな人間だったのか、それがテーマなはずなのに、なんとなくはぐらかされているようで、読んでいてとても据わりが悪い感じがしました。 衝撃の真実が明らかになる終盤は確かに目を瞠るものがありますし、ラストのオチは見事に決まっていたと思います。ただそこだけで評価するわけにはいかないので、5点にしました。こうした驚愕を味わわせてくれる小説は個人的に好みですが、そこに至るまでがねえ、残念な感じでした。 せめて、章の最初にどこの誰の独白なのかを明確にしてほしかったです。それだけでもメリハリが付いて、印象が随分違ったと思いますよ。 |
No.1085 | 6点 | 小説スパイラル 推理の絆 ソードマスターの犯罪- 城平京 | 2020/03/17 22:40 |
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新聞部部室にて、歩とひよのは、ひとりの少女から兄の仇を討つために力をかしてほしいと懇願される。そして、歩は過去の殺人事件をめぐり剣の達人・黒峰キリコと対決することに…。対決の行方は!?そして、事件の真相は!?ガンガンNETにて大好評掲載中の「名探偵鳴海清隆~小日向くるみの挑戦~」から2編も同時収録。
『BOOK』データベースより。 コミックスのノベライズ作品かと思っていましたが、一応設定はそのままにオリジナルの小説としてシリーズ化されたものです。冒頭から如何にも劇画的な雰囲気で、逆にコミックとして描かれていたらもっと面白いものに仕上がったのではないかと思ってしまいました。文体としては読者層を鑑みてか、かなり砕けた感じでそれが却って私的には読みづらかった気がします。 本格に寄せようとする努力は認められますが、伏線がかなり弱いですね。推理というより推測に近いと思います。容疑者は限られていて、ホワイダニットに特化しています。それも、どうして殺したのかというよりも、何故そのような殺し方をしたのか、に拘って書かれています。 短編のほうは、先に描かれている中編の主人公で探偵役の鳴海歩の兄である清隆の活躍を描いています。捜査一課の警部なのに名探偵と呼称されているのは、しっくりきませんね。現実的に刑事が名探偵と呼ばれることはあり得ないでしょう。本格の世界では刑事はあくまで脇役で、素人探偵や私立探偵が主役なのは当然ですけど。どうも作者は名探偵の定義を履き違えているとしか思えません。 こちらの二編も謎は魅力的ながら、真相は至ってシンプルでアッと驚くようなものではないです。 畢竟、コミックの読者にとっては大いに歓迎されると思われますが、ミステリファンには物足りなさを覚えるのではないでしょうかね。 |
No.1084 | 7点 | 法月綸太郎の新冒険- 法月綸太郎 | 2020/03/15 22:36 |
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名探偵・法月綸太郎が帰ってきた!著者会心の傑作鉄道ミステリー「背信の交点」、オカルトじたての怪事件「世界の神秘を解く男」、法月綸太郎本人が登場しない異色作「身投げ女のブルース」など、テーマと構成にこだわりぬいた中編を収録。本格推理の醍醐味が味わえる“知恵と工夫のエンタテインメント”。
『BOOK』データベースより。 ロジックと意外性が良い塩梅でハイブリッドした作品が多いですね。『リターン・ザ・ギフト』はちょっと煩雑な感じがして、あまり好みではありませんが、他は意外な犯人や反転などを味わえて佳作揃いだと思います。 特に『背信の交点』の構成力、一見単純な事件のように見える裏で、見事なまでの奸計が働いていたという小気味の良い切れ味は、読んでいて思わず唸らされます。 あと好みで言うと『身投げ女のブルース』ですね。綸太郎の登場はありませんが、法月警視を通して綸太郎の推理が披露される形を取っています。これもいいですね、冒頭のスリリングなシーンからは想像できないような展開が待っています。ある意味最も本格らしい本格ミステリなのではないかと思いますね。 ただ、やや文章が硬質でしょうか。ほんの少しで良いから遊び心があってもよかった気もします。でも、凄く真面目に書かれているのには好感が持てました。とても知的な読書体験をした気分になれます。 |
No.1083 | 5点 | 殊能将之 未発表短篇集- 殊能将之 | 2020/03/13 22:37 |
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未発表短篇「犬がこわい」「鬼ごっこ」「精霊もどし」にデビュー作『ハサミ男』刊行に関して友人宛てに綴った「ハサミ男の秘密の日記」を収録。
デビュー後、編集部の要請で送られていた習作短篇3篇とデビュー当時の様子を友人に書き送った「ハサミ男の秘密の日記」を収録。独特の笑いとセンス、ペーソスを湛えた殊能将之初期作品集。 Amazon内容紹介より。 デビュー前に描かれた短編集なので、習作的な匂いがプンプンする作品が3編と、『ハサミ男』がメフィスト賞を受賞する際の日記で構成されています。 短篇の出来については『犬がこわい』>『精霊もどし』>『鬼ごっこ』でしょうか。『犬がこわい』は日常の謎のような導入部から突然思わぬ事件に発展するというもので、これはなかなか面白かったと思います。『精霊もどし』はあまり怖くないホラーのようなもの、イマイチですね。『鬼ごっこ』は何がなんだかよく分からないけれど、ひたすら三人の男たちが一人の男を追い掛けるだけの作品で、あまり意味が解りませんでした。 余程のファンであれば手元に置いておいても良いかなと思いますが、コスパも良くないし、ミステリファンを含めた一般読者は読む必要性が感じられません。『日記』の方に期待していた私としては、やや肩透かしでしたね。 しかし、早逝されたのは残念な限りです。本来ならもっと多くの傑作をものにしてたはずでしょうからね。 |
No.1082 | 7点 | 妖異金瓶梅- 山田風太郎 | 2020/03/11 22:37 |
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性欲絶倫の豪商・西門慶は絶世の美女、潘金蓮を始めとする8人の妻妾を侍らせ、酒池肉林の日々を送っていた。彼の寵をめぐって女たちの激しい嫉妬が渦巻く中、第七夫人と第八夫人が両足を切断された無惨な屍体で発見される。混乱の中、西門慶の悪友でたいこもちの応伯爵だけは事件の真相を見抜くが、なぜか真犯人を告発せず…?美姫たちが織り成す凄惨淫靡な怪事件。中国四大奇書の一つを大胆に解釈した伝奇ミステリ。
『BOOK』データベースより。 先行書評をなぞる形になってしまいますが、『赤い靴』を読み終えた時点で、このレベルの短編が揃えば8点は堅いと思いました。この短編の衝撃はなかなかのものでしたよ。しかし、読み進めるごとに失速気味になり、マンネリ感を覚えてしまうのは自分だけではないと思いす。結局『赤い靴』と肩を並べる様な作品は現れず、非常に残念な思いをしました。 どうしても読んでいくにつれフーダニット、ホワイダニットへの興味が薄れていくのがこの連作短編の致命的な欠点ですね。大仕掛けがある訳でもなく、トリックとしてもどちらかと云うと小技の部類であったり、先行作品の変形だったりして独創性の点で優れているとは言えません。ただ、その見せ方が巧妙に出来ておりその意味では納得させられます。 長いのもありますが、何だか疲れました。それでも7点を付けたのは私の読みが浅かったとの反省からです。 |