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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1029 7点 迷宮百年の睡魔- 森博嗣 2019/12/02 22:24
百年の間、外部に様子が伝えられたことのない宮殿より取材許可を得て、伝説の島を訪れたミチルとウォーカロンのロイディ。一夜にして海に囲まれたと言い伝えられる島には、座標システムも機能しない迷宮の街が広がり、かつて会った女性に酷似した女王がいた。あらゆる前提を覆す、至高の百年シリーズ第二作!
『BOOK』データベースより。

順番間違えたかなあ。でもまあ、前作を読んでいなくても十分楽しめました。
しかし、首なし死体を二つ転がしておいてSFはないだろうとも思いますが、本格じゃない訳で。その辺り、ミステリと勘違いして読んだ人はそれは違うだろうと、憤慨した方もおられるかもしれませんね。そもそもおよそ百年後の物語なので、色々齟齬は起きます。例えばウォーカロンって何?ってなりませんか。ロボットなのかアンドロイドなのか、詳細は明らかになっていませんし。

途中ドタバタがあったり、なんとなくどうでも良いような描写があり、冗長さは感じます。そして、残り僅かになってもなかなか事件の様相が見えて来なくて、大丈夫かと不安になる私。勿論そんな心配は無用ですが、真相はあらぬ方向へ向かいます。それは現代においてはとても通用しない解法、だからこそのSFだったんですね。
多産作家に見られるような「書き慣れ過ぎて深みが感じられない」傾向がないとは言えないです、私だけかもしれませんし、偏見かもしれませんが。でも、これだけの作品を短期間で書き上げられるだけでも凄い才能だとは思いますね。

No.1028 7点 深泥丘奇談・続- 綾辻行人 2019/12/01 22:17
もうひとつの京都―「深泥丘」世界へ誘拐されてみませんか?妖しい眩暈とともに開く異界の扉。誰もいない神社の鈴が鳴り響き、甲殻類の怨念が臨界点に迫り、町では桜が狂い咲く。超音波検査で見つかる“心の闇”、霧の日に出現する謎の殺人鬼、夜に蠢く異形のモノたち…ありえざる「日常」が読者を包み戦慄させ、時には赦し解放する。ほら、もう帰れない。帰りたくない―!名手が贈る変幻自在の奇想怪談集。
『BOOK』データベースより。

不穏な空気が流れる古都京都。深泥丘に住む、度々眩暈を起こす「私」が様々な怪異に翻弄されるホラー連作短編集。
どこか懐かしい、幼き頃の微かな記憶を呼び起こすような作品集です。語り手は少々記憶が怪しく精神を病んでいる様子で、深泥丘病院の脳神経科に通っているため、物語に不安定さを増し、独特の如何わしい雰囲気を醸し出しています。和風ホラーなんですが、それ程恐ろしさは感じません。むしろ背中を得体の知れない何かに撫でられているような感覚を覚えます。平均的に面白く、なんとなく馬鹿馬鹿しい話もありますが、決して阿保らしいなどとは思えないんですよね、個人的には。

死体を五十回切断し、五十のパーツに切り分けるという矛盾した殺人事件など、ミステリの要素も少なからず含まれています。「私」が本格推理作家だというのもなかなか面白い設定ではないかと思います。なのに情緒不安定というね。
これは最早ホラーを超越した文学ですよ。流石名手綾辻、惜しみない拍手を送りたいですね。でも、***て何なんだー。

No.1027 5点 追悼者- 折原一 2019/11/29 22:03
浅草の古びたアパートで発見された女の絞殺死体。被害者は大手旅行代理店のOLだが、夜になると街で男を誘っていたという。この事件に興味を抱いたノンフィクション作家が彼女の生い立ちを取材すると、その周辺に奇妙な事件が相次いで起きていたことが分かる。彼女を殺したのは誰か?その動機は?「騙りの魔術師」折原一が贈る究極のミステリー。
『BOOK』データベースより。

私は知りませんでしたが、実際に起きた所謂「東電OL事件」をモチーフにした作品らしいです。
久しぶりに、ああ、折原ワールドだなとの感慨を持ちました。丸の内OL殺害事件の被害者に関わりのあった知人友人恋人などの証言を基に、真犯人をあぶり出そうという狙いは分かりますが、正直関係者、容疑者が多すぎてとても犯人を絞り切れません。
まるで本物のノンフィクション小説の様な仕上がりですが、読み方が浅いせいかどうにも作者の仕掛けが見抜けず、真相が明らかになってもカタルシスは得られませんでした。ふーんそうなんだ、位しか感想が浮かびません。

個人的には期待していた程面白いとは思えませんでした。途中の叙述トリックはえっとなりましたが、まあ最近のミステリには珍しくもなく驚きも半分って感じ。暇潰しには良いですが、ちょっと長いかなあ。

No.1026 4点 黒い仏- 殊能将之 2019/11/27 22:38
九世紀の天台僧・円載にまつわる唐の秘宝探しと、一つの指紋も残されていない部屋で発見された身元不明死体。無関係に見える二つの事柄の接点とは?日本シリーズに沸く福岡、その裏で跋扈する二つの力。複雑怪奇な事件の解を、名探偵・石動戯作は、導き出せるのか?賛否両論、前代未聞、超絶技巧の問題作。
『BOOK』データベースより。

ぶっちゃけ作者の名前だけで購入しましたが、正直イマイチでした。『ハサミ男』や『鏡の中は日曜日』などの名作を世に出した殊能将之とは思えないですね。
私はこういうの、つまりメタ的なアレは容認派ですが、問題はそこではなく石動の推理に大きな穴があり、しかもそれが警察の杜撰な捜査に直結していることです。要するに、探偵警察双方に有り得ないミスが存在している訳ですよ。まあ他にもミステリとしてあまりにショボイとか、事件や宝探しに惹きつけられる要素が少なすぎるなど、欠点が多く見られます。

日本一名探偵らしくない名探偵石動にもあまり魅力を感じませんし、物語が地味。逆に助手のアントニオの方がある意味目立っているし、面白い存在に思えますね。そちらの裏サイドにはややイイネと感じる部分があります。最後の一文もなかなかの味を出していますし。でもミステリとしての評価は低めに付けなければいけないんじゃないかと思いますよ。

No.1025 6点 箱庭図書館- 乙一 2019/11/25 22:33
僕が小説を書くようになったのには、心に秘めた理由があった(「小説家のつくり方」)。ふたりぼっちの文芸部で、先輩と過ごしたイタい毎日(「青春絶縁体」)。雪面の靴跡にみちびかれた、不思議なめぐり会い(「ホワイト・ステップ」)。“物語を紡ぐ町”で、ときに切なく、ときに温かく、奇跡のように重なり合う6つのストーリー。ミステリ、ホラー、恋愛、青春…乙一の魅力すべてが詰まった傑作短編集!
『BOOK』データベースより。

集英社のweb企画『オツイチ小説再生工場』で、読者のボツ原稿を乙一がリメイクした作品集。なので、原作者は乙一ではありません。
私は思いました。第一話の読後、原作者の意図が読めない、これはまずいと。結局素人が書いたボツ原稿など所詮この程度のものなんだという、言い知れぬ不安感が私を襲いました。ところが第二話『コンビニ日和!』でおっとなりました。これはなかなかウィットに富みながらもエッジが効いていて、良い感じじゃないかって。でも、あとがきを読むとオチは乙一が付けたらしく、ああやっぱりプロじゃないと読者を満足させる物語は書けないのではないかと思ったりします。じゃあお前が書いてみろと言われても、そりゃ書けませんけどね。私には才能がこれっぽっちもないので。

確かに様々な種類の作品があり、その度に作風を変えて均せばそれなりに面白いのですが、やはりそこはそれ読者の投稿作品であって、無理矢理短編として完成させている感があり、どうにも歯がゆさが抜けきれませんでした。
その中でも個人的に『コンビニ日和!』と『ホワイト・ステップ』が心に響きました。勝手な思いですが、おそらく多くの読者に賛同していただけるのではないかという気がします。『ホワイト・ステップ』は最後に持ってきただけあって、情感に溢れ余韻の残る逸品ではないかと思います。この作品が最も乙一の世界観に近い印象を受けましたね。

No.1024 7点 東京大洪水- 高嶋哲夫 2019/11/24 22:35
大型台風23号が接近。東京上陸はないとの気象庁発表。が、日本防災研究センターの玉城はコンピュータ・シミュレーションで24号と23号が合体、未曾有の巨大台風となって首都圏を直撃することを予知。要請により荒川防災の現場に入る玉城。設計担当者として建設中の超高層マンションに篭もる妻・恵子。残された子どもたち。ひとつの家族模様を軸に空前の規模で東京水没の危機を描く、災害サスペンス3部作、堂々の完結編。
『BOOK』データベースより。

超巨大台風が首都を襲うパニック・サスペンス。力作です。
滑り出しは面白みのない文章で、主人公一家の家庭内不和などがチマチマと語られ、先行き不安を感じました。それが台風24号が発生した辺りから面白みのなさが硬質な文体に私の中で脳内変換され、スケールもぐんとアップしてスピード感を増します。二つの台風が一つになるという前代未聞の緊急事態に、玉城と妻恵子、その子供と祖母がそれぞれの立場でどう立ち向かうのかに焦点を当てて、マクロ、ミクロ両面から迫ります。その臨場感は半端なく、窮地に立たされた人間たちのドラマは生々しく、まさにページを捲る手が止まらないとはこういう事を言うのだと思いました。

実際には気象庁がこれほど不甲斐ないはずはないでしょうけどね。しかし、普段はあまりに普通な玉城の決断力やリーダーシップの発揮ぶりには胸のすく思いがします。自衛隊を始め、都知事、区長、災害対策本部など目まぐるしくシーンが入れ替わり、嫌が上にもサスペンスフルな展開を盛り上げます。

今年は台風19号が関東甲信越から東北を直撃し、各地で大きな被害を受けました。そして河川の氾濫、堤防の決壊がいかに深刻な問題を齎すのかという教訓を得ました。これは他人事ではありません、この物語の様に大都市でも水没が起こらないとは言い切れません。災害時に各個人が取るべき行動を今一度確認すべきではないでしょうか。日本に生まれた宿命として、このことを肝に銘じるべきだと思います。

一気読み推奨、映画化希望。

No.1023 5点 猫丸先輩の空論 超絶仮想事件簿- 倉知淳 2019/11/22 22:21
友人が交通事故に遭った都心の街道沿い、電柱の傍らに供えられた花を眺めながら物思いに耽っていた男の前に、呼んでもいないタクシーが次々と…運転手たちが存在しない乗客を取り合う騒動にまで至った不可解な自動車集結事件をめぐる表題作、毎朝ベランダの同じ場所に置かれるペットボトルが謎を呼ぶ「水のそとの何か」など、猫丸先輩の推理が冴え渡る全六編を収めた連作短編集。
『BOOK』データベースより。

いやー相変わらず猫丸先輩は神出鬼没ですね。講談社ノベルスで読みましたが、イラストがまあ可愛いこと。それにしても、最終話で触れられていますが、一体猫丸先輩の身長はどれ位なんでしょうか。誰かと相対しても見下げられている描写は出てこないことから、作者にしてみればあくまでキャラ作りの一環であるという訳なんでしょうかね。

それぞれの短編は魅力的な謎に満ちていて、謎解きよりもその状況の不可解さに魅了されます。しかし、いざ真相(仮の)となるとかなり脱力ものです。例えば『とむらい自動車』なんかは、わざわざある目的の為に何台もタクシーを呼びつけるか?といささか疑問に思わずにはいられませんね。『魚か肉か食い物』も猫丸先輩が指摘するまでもなく普通気付くだろうと思いますよ。
でも、誰でも楽しめるような作品集であるのは間違いないでしょう。猫丸ファンは勿論必読です。

No.1022 6点 たけまる文庫 怪の巻- 我孫子武丸 2019/11/20 22:38
業界初(?)の「ひとり雑誌」形式で世間を「あ~っ?」と言わせた話題の短編集「小説たけまる増刊号」が、なんと今度は驚きの「個人文庫」になって帰ってきた―。記念すべき第一回配本分はホラー作品を集めた「怪の巻」をお届けします。猫を異常に恐れる男の話「猫恐怖症」、桜が頭蓋を食い破る「春爛漫」、小説の通りに起きる惨殺事件の謎「猟奇小説家」など選りすぐりの九編。…怖いです。
『BOOK』データベースより。

鋭い切れ味のホラー短編集。ですが、ミステリ寄りのものもあればサスペンスもありで、なかなか粒揃いと言って良いと思います。先を読ませない心憎い演出や、じわじわ迫る恐怖、ミステリ的ギミックが冴える見事なプロットなど読みどころが沢山。
特に印象深いのはラストが滅茶怖い『芋羊羹』、心理サスペンスでアッと言わせる『患者』で、個人的にはこの二作がツートップです。

ひもの男が交通事故である悲惨な境遇に陥る『嫉妬』は、確かに以前何かのアンソロジーで読んだ記憶があるのですが、どうしても思い出せません。私の思い違いかもしれませんが、どなたかご存知の方おられましたら教えて戴けないでしょうか。

No.1021 7点 まごころを、君に- 汀こるもの 2019/11/18 22:41
真夏に起きた「グッピー凍死事件」を機に親友となった、魚マニア立花美樹と柳瀬圭。生物部でイジメを受け退部した柳瀬の話を聞いた美樹は、文化祭の生物部ブースでの仕返しを画策。だが行く先々で殺人や事故に遭う死神体質の美樹のこと、案の定、彼が向かった教室で爆発事件発生。無差別テロか、それとも死神の所業か!?美樹の双子の弟にして高校生探偵の真樹が謎に迫る。
『BOOK』データベースより。

こう言ってしまっては身も蓋もないですが、意外に楽しめました。前作『パラダイス・クローズド』は4点を付けましたが、この作者は何か秘めているモノがあるんじゃないかと思い直し、本シリーズをほぼ全作入手しました。
相変わらず魚の蘊蓄には辟易というか、訳解らんですが、これが魚じゃなくてカブトムシやクワガタだったら私は泣いて喜んだでしょう。だから、大型肉食魚や熱帯魚に目がない人にとってはそりゃもうパラダイスだと思いますよ、ええ。
それにしても、ひきこもりの双子の兄が文化祭で躁状態に陥っている姿には、なんでやねん?と相当な違和感を覚えたり、魚に対しては随分知識を持っているはずの柳瀬がとんでもない凡ミスをしてみたりと、何かと疑問が湧いてきます。

それはそれとして、本作は前作でおざなりにされた動機、ホワイダニットに拘っていて、個人的には非常に強い説得力を持って眼前に『動機』を突き付けられた感じがしました。まあ本格という訳でもないので、伏線がどうとか手掛かりが少なすぎるとか、専門的知識がないとお手上げだなど色々不満が噴出するのには目を瞑りましょう。そういうんじゃないので。犯人に目星を付けるのは容易いですが、その先は双子の兄弟にしか語り得ない解答が待っています。その世界観には大いに魅了されました。
こういうのは一部のマニアには受けるでしょうが、一般読者にはお勧めは出来ないですね。しかし期せずして私の予感が的中し、何かを持っていたこるもの、今後も期待したいです。

No.1020 7点 孤島の鬼- 江戸川乱歩 2019/11/16 22:42
初代は3歳で親に捨てられた。お守り代わりの古い系図帳だけが初代の身元の手がかりだ。そんな初代にひかれ蓑浦は婚約を決意するが、蓑浦の先輩で同性愛者の諸戸が初代に突然求婚した。諸戸はかつて蓑浦に恋していた男。蓑浦は、諸戸が嫉妬心からわざと初代に求婚したのではないかと疑う。そんなある日自宅で初代が殺された。これは恐ろしく壮大な物語の幕開けに過ぎなかった―。
『BOOK』データベースより。

江戸川乱歩の長編の代表作と言われているだけあって、確かに面白いです。私なんかは乱歩と言えば短編のイメージが強いですが、或いは小学生の頃に読んだ二十面相の印象が未だに残っていますが、それらを払拭するような傑作だと思います。

三分の一くらいまでは密室殺人、衆人環視の不可能犯罪と本格バリバリで、おおこれは、と唸らせますが一旦それは解決します。ちょっと無理がありますが、奇を衒った発想は認めて良いと思います。その後どう展開していくのかと懐疑的な思いを抱いていましたが、異様な日記で興味を繋ぎその後ホラーや冒険小説の様相を呈してきて、読者を飽きさせません。
後半はやや冗長なシーンもありますが、私好みの怪奇譚に仕上がって、乱歩の本領を発揮しているなと感じました。ただ、物語の流れが強引でかなり偶然性が強い気がします。それでも読む前に想像していたものとは全く異なった妖しい魅力を見せつけてくれました。差別用語が満載で、それが時代を感じさせ怪奇的な雰囲気を盛り上げる一端を担っているような気がしました。フリークスたちの存在が、これまた乱歩らしいなと思いましたね。

No.1019 4点 15歳のテロリスト- 松村涼哉 2019/11/14 22:22
「すべて、吹き飛んでしまえ」突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて少年犯罪被害者の会で出会った孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか?進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方をくらませた少年の足取りを追う。事件の裏に隠された驚愕の真実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた―。
『BOOK』データベースより。

枚数の少なさと比例して中身が薄っぺらいです。そして文章が拙いですね。
手垢塗れの少年法をテーマに、加害者の家族、被害者の遺族両面から描かれていますが、いかにも浅い。参考文献を見るとそれなりに勉強したのは認められますが、それにしては通り一遍の事しか書かれていません。これまで出版された同じ少年法を扱った書物と比較するまでもなく、レベルが低いです。Amazonでは結構高評価ですが、信用できませんね。レーベルがラノベなので、読書量が少ない読者の評価だったのかもしれませんが、この程度で感心しているようでは底が知れていますよ。

大仰なタイトルだけに、スケールの大きいテロの連続やパニックに揺れる大都会にスポットが当てられるのかと期待していましたが、その辺りはほぼスルーされています。全然違うタイプの小ぢんまりしたサスペンスでした。
デビュー作も買ってしまったので読みますが、これは相当ハードルを下げざるを得ないでしょうねえ。

No.1018 6点 ぶらんでぃっしゅ?- 清涼院流水 2019/11/12 22:36
まだ生まれる前、母のおなかの中で聞いた“ぶらんでぃっしゅ”という謎のコトバは、誕生後もずっと「ぼく」の人生を支配し続けていた。特別な人との出会いや別れをも予感してしまう、不思議な能力に目覚める「ぼく」。何度も姿を見せる、死神のようなライダーはいったい何者なのか?1500を超す候補から選び抜かれた108の名作“ぶらんでぃっしゅ”によるトーナメントは、コトバのマスターたちの競演で、興奮の頂点へ!そして、クライマックス。連続強盗殺人犯“ブラン・ディッシャー”の銃口が「ぼく」に向けられる―。この姿を見るのは、これが最後だ。
『BOOK』データベースより。

主人公常盤ナイトが誕生する前から彼の頭の中には「ぼく」がいて、その「ぼく」による一人称という形式が新しいと言えば新しいとです。つまり、ナイトと常に行動を共にし、その感覚や感情をある程度共有することが出来る訳です。しかし別人格ではなく、あくまで共感覚を有する分身の様なものでしょうか。
物語は“ぶらんでぃっしゅ”という謎の言語を巡っての言葉遊びが主体となっていて、ナイトと仲間たちによるそれに響きが似た言葉のトーナメントが、一番の見せ場となっています。コンビニ連続強盗殺人犯の残す“ぶらんでぃっしゅ”という謎の言葉に最も響きが近い類似語は何か?そんな下らないことを一生懸命追及する彼らの姿が、馬鹿馬鹿しくも微笑ましいのです。そして、そんな仲間たちとの出会いと別れを青春小説風に綴っています。まあここまではジャンル不明の異色作なんですけどね。

しかし、最終章でいきなりそれまで見ていた景色が一変します。この反転こそがこの小説の真の狙いだったのかと、暫く唖然とさせられます。これには正直やられました。
尚、森博嗣、西尾維新が名を変えて友情出演?します。でもそれはちょっとしたアクセントに過ぎませんので、あまり過度な期待は禁物でしょう。

No.1017 6点 ドゥルシネーアの休日- 詠坂雄二 2019/11/10 22:13
タンポポは主張している。自分が四人を斬殺したことを。そして、凶器を変えて犯行を続けることを。十年前の連続無差別殺人事件の模倣犯を追う捜査一課刑事・雪見喜代志。全寮制女子校の聖堂で天に赦しを乞うために祈り続ける罪人・山村朝里。死地をも厭わず数々の難事件と対峙してきた傷だらけの泥犬・藍川慎司。三人揃って怒涛の急展開。著者渾身の書き下ろし、警察小説×学園小説×活劇小説=未曾有の傑作ミステリ。
『BOOK』データベースより。

「月島凪キター!」って感じです。と言ってもほとんどの方が知らないと思いますが、名作『遠海事件』で佐藤誠を追い詰めた名探偵です。しかし、名前だけ登場したに過ぎず、その人となりなどは皆目見当もつかず、ベールに包まれたままの存在でした。それが本作ではある意味主役となって語られています。本人は登場しませんが、彼女が設立した月島前線企画という調査会社の社員たちの証言から、いかなる人物かは窺い知ることが出来ます。しかもその存在がなければ本件は起こり得なかったと言ってもよい程の存在感を示しています。
『遠海事件』を読んで共感を覚えた読者は一読の価値ありと言うか、読まなければならない作品だと思います。

第一部は本格警察小説、第二部はミッション系の女学園を舞台にした学園ミステリ、第三部は苛烈なアクション小説、第四部は後日談と月島のその後といった具合に、それぞれ毛色が異なる作風で構成されており、あの手この手で最後まで読者を飽きさせません。
インパクトに欠けるという点で若干評価を下げざるを得ず、その意味では残念ですがファン必読の書であることは間違いないと思いますね。

No.1016 6点 鷲見ヶ原うぐいすの論証- 久住四季 2019/11/08 22:44
うぐいすという少女は変わり者である。いつも図書室にこもっていて、教室に顔を出すことはない。だが、試験では常に満点というひねくれぶり。なぜか譲はそんな彼女と奇妙な付き合いが続いていた。変わり者には変わった依頼が来る。天才数学者、霧生賽馬は魔術師である―その真否を問い質してほしいというのだ。かくしてうぐいすと譲は霧生博士が待つ麒麟館へ。だが翌日、霧生は首なしの死体となっていた。限られた容疑者は全員が無実という奇妙な状況に陥り!?魔術師であるのか、殺人なのか、被害者はいるのか、犯人はいるのか、これはそれらすべてを「論証」する物語である。
『BOOK』データベースより。

閉ざされた館、首なし死体といったガチガチの本格要素を内包してはいますが、ラノベの域を脱し切れていない印象を受けます。色々な?が飛び交う中、最も不思議だったのは、閉鎖状況の中で首なし死体が発見されたら、まず最初に被害者の首を探すのが当然なのに、誰もそんなことをおくびにも出さなかったこと。これはどう考えてもおかしいでしょう。
探偵役のうぐいすも天才的な頭脳の持ち主にも拘らず、なんだか当たり前のことばかりに拘泥して、名探偵らしくなくどうもピンときません。素質者という仕掛けは面白いですし、特に嘘を100%見抜く異能は十分にその機能を発揮して、真犯人を容易に指摘することを否定します。厳然と死体が存在するのに犯人がいない状況とは一体?その正体は「悪魔」なのです。勿論比喩ですが。

事件の全容には大いに拍子抜けでした。なんだそりゃ?でもその後には徐に第三の探偵が・・・。これ以上は書くのは無粋というものでしょう。

No.1015 6点 君のために今は回る- 白河三兎 2019/11/07 22:44
ねぇ、銀杏。わたしたちは確かに友達だったよね?わたしが観覧車の幽霊になって随分時間が経ちました。この観覧車には変わった人がいっぱい乗ってきます。盗聴魔、超能力を持つ占い師、自信喪失した女記者、ゴンドラでお見合いをする美人医師…みんな必死にくるくる生きてる。だから今、わたしは人を思う力を信じてる。そうしたらいつかもう一度、あなたに逢えるかな?これはすれ違う人々の人生と運命を乗せて、回り続ける観覧車の物語―。
『BOOK』データベースより。

「分かる~」とか「あるある~」的な共感を呼ぶエピソードが随所に散りばめられていて、とても共感出来る好感度の高い作品。詩的でありながら判りやすい文章が心地よい、作者の文才を感じる佳作でもあります。
物語は観覧車の地縛霊となった千穂と、千穂が憧れていた同級生の銀杏のパートが交互に進行します。どちらの登場人物も個性的な面々で、特にゴンドラに乗り込む占い師の「おっちゃん」と、お見合いをするのだが悉く冷淡に撥ね付ける「かぐや姫」がいい味を出しています。最後にこの二人の直接対決が見られるかと思いきや、残念ながらニアミスで終わってしまったのが心残りではありますが、二つの並行するストーリーが最後には見事にクロスしていく過程が読みどころです。
ハートウォーミングな語り口が光る、可笑しくもちょっぴり切ないファンタジー小説です。

No.1014 5点 多重人格探偵サイコ 小林洋介の最後の事件- 大塚英志 2019/11/05 22:11
恋人の復讐のため連続殺人犯を射殺した刑事・小林洋介。その時から彼は、「多重人格探偵・雨宮一彦」となった。その雨宮を収監先の刑務所で待ち受けていたものは…。卑屈でサディスティックな暴力看守、所内で隠然たる力を持つニューハーフの謎の受刑囚、彼が仕切るあやしい賭博ゲーム、そのゲームを動かす悪意に満ちた双子の女の子。そして雨宮一彦の最初の事件が幕を開けた。六〇〇万部を突破したベストセラーコミックの原作者自身によるノベライゼーション。すべてはここからはじまる。
『BOOK』データベースより。

探偵ではありませんね。元刑事の多重人格者が主人公です。小林はごく普通、第二人格の雨宮もこれといって個性的でもなく、第三の人格西園が最もアクが強く荒っぽく描かれています。が、別にキャラクター小説という訳ではなさそうです。
それにしても作者はバラバラ死体でもばら撒いておけば読者が喜ぶとでも思っているのでしょうか。まあ私は喜びますけどね。そしてグロ描写があれば読者が興味を持つだろうと思っているのでしょうか。私は興味深々ですが。しかしねえ、連続殺人鬼の島津の犯人像をもっと深堀出来なかったものでしょうか。いかにも短絡的でいわゆる普通のサイコパスとして描かれているに過ぎず、深層心理にまで迫ろうという意志が見られません。その辺りかなり不満が多いですが、それなりに面白かったし今後の展開に期待して5点にしました。でもやっぱり薄っぺらいです。


【ネタバレ】


島津は第二の犯行までは被害者を殺害してバラバラにしていますが、小林の恋人である千鶴子だけは殺害していません。これは何故なのか私には理解できませんでしたし、その理由が明らかにされている記述もありません。ここは結構重要な点だと思いますが、不透明なままではどうにも納得出来ませんね。果たして続編でどう展開されていくのか、この点にも注目していきたいものです。スルーされていたらちょっと嫌ですね。

No.1013 5点 生まれ来る子供たちのために- 浦賀和宏 2019/11/03 22:23
世界で一番醜く、孤独な男―八木剛士。剛士を唯一支えてきた少女―松浦純菜。だが、剛士の非道な行いにより二人の関係は崩壊し、彼の最後の拠り所であった、最愛の妹にまで悲劇が!!運命に翻弄される剛士は、最後の復讐を開始する…。すべての絶望が向かう先には一体何が―!?ついに明かされる、剛士の出生の秘密!松浦純菜シリーズ、堂々の最終巻。
『BOOK』データベースより。

シリーズ最終巻、漸く終わったかという気持ちが強いです。本作には正直始めからあまり期待していませんでしたが、やはり想像通り尻すぼみで完結してしまったとしか言いようがありません。
八木、純菜、南部の視点から過去を振り返りますが、似たような事柄が過去の作品に何度も書かれており、くどいです。果たしてこれだけ読んだ人がどれだけ理解できるのか疑問に思います。第一作から順番に読むことを義務付けるようなやり方は、言ってみればあざといです。最後に純菜を持ってきたのは正解でしょう、でも最後まで八木は醜く、心までも汚れてしまっているし、純菜は八木を憎み結末がどうにもスッキリしないまま終わった感じがして仕方ありません。ただ、剛士の秘密が明らかにされただけでも良かったのかなとは思います。しかし、それも今一つ納得がいかない部分があり、不満が残ります。

何となくメタに逃げたようなところは、らしいと言えばらしいですが、黒浦賀をずっと読まされてきたように思えてなりません。思えば、三作目以降はミステリからどんどん離れていってしまい、ここまで引っ張るような大したシリーズではなかったとの結論に個人的には達しました。一作目は良かったんですけどねえ、せいぜい四作くらいで完結させていればもっと密度の濃いものになったのではないかと思わざるを得ません。

No.1012 6点 猫物語(黒)- 西尾維新 2019/11/01 22:19
完全無欠の委員長、羽川翼。阿良々木暦の命の恩人である彼女はゴールデンウィーク初日、一匹の猫に、魅せられた―。それは、誰かに禁じられた遊び…人が獣に至る物語。封印された“悪夢の九日間”は、今その姿をあらわにする!これぞ現代の怪異!怪異!怪異!知らぬまに、落ちているのが初恋だ。
『BOOK』データベースより。

西尾維新は何気ない日常のやり取りや会話を面白おかしく描くのが得意な作家の一人だと個人的に思っています。読み手側としては、それをどう読み解くか、或いは十分に楽しめるかが評価に繋がるのです。そのよい例が冒頭の暦と月火のじゃれ合いだと思います。この長々とした本筋に関係ない、ほのぼのとした兄妹の掛け合いを楽しめるかどうかで、結構評価が変わってくるかもしれません。

肝心の羽川に関する怪異のほうは、思いの外あっさりしていて薄味の感がします。猫に魅せられた委員長が吸血鬼に匹敵する程の力を手に入れ、それに暦がどう対抗するのかが読みどころではありますが、登場人物が限定されてしまうので、ストーリーに広がりが感じられません。スケールの大きさも本シリーズでは控えめですね。物語に複雑さを求める読者には不向きと言えるでしょう。で結局最終的に上手く納め過ぎて、なんだかなあと思ってしまいました。
一つ注意したいのが時系列の問題。これは致し方ないでしょうが、シリーズをある程度纏めて一気読みしないと混乱すること必至。まあしかし、安心して読めるのは良いですね。しかし、あまりの安定感にマンネリ化しないかが懸念されます。
尚、『猫物語』には黒と白がありますが、それぞれ独立した話で上下巻という訳ではないそうです。

No.1011 5点 ネット探偵局の事件簿 密室・アリバイ・暗号22連弾!- アンソロジー(国内編集者) 2019/10/30 22:53
このダイイング・メッセージは何を語っているのか?雪深い山荘で起きた密室殺人事件の真相は?姿を消した人気作家の原稿はどこに隠されているのか?1億円の身代金はいったいどこへ消えてしまったのか?―電脳探偵局が依頼を受けた難題をいともたやすく解いていく局員の探偵たち。密室、アリバイ、暗号…さあ、きみは探偵の頭脳にどこまで迫れるか!?気鋭のミステリ通が著した凄絶なる知恵比べの22問。
『BOOK』データベースより。

新保教授始め、村上貴史、杉江松恋、川出正樹、古山裕樹といった書評家が読者に挑戦するミステリ短編集。
それぞれが短く無駄がないのは良いですが、各々好き勝手に探偵を活躍させ、電脳探偵局の一探偵という設定なのに統一性に欠け、なんとなく違和感を覚えます。まあそれは作風が違うためやむを得ないとは思いますが。
大凡フーダニットとハウダニットが主なテーマで、これといった突出した作品は見当たりませんが、ダイイングメッセージものに優れたトリックがいくつか発見出来ました。なかなかの発想力だと感心しました。しかし、みなさん作家ではありませんので、矛盾点や疑問点があったり、トリックの借用があったりと全体的に高水準とは言い難い印象を受けました。中には誘拐物(短い中でよく纏め上げている)や、オチがミエミエの日常の謎を扱ったものもあります。

何だかんだゲーム感覚で楽しめましたが、あまり真剣に推理しなかったせいもあり、ほとんど真相を看破することができませんでした。全編通して犯人や殺害方法を指摘できたら名探偵を自認してもいいかも。

No.1010 6点 毒殺魔の教室- 塔山郁 2019/10/28 22:46
那由多小学校児童毒殺事件―男子児童が、クラスメイトの男子児童を教室内で毒殺した事件。加害児童は、三日後に同じ毒により服毒自殺を遂げ、動機がはっきりとしないままに事件は幕を閉じた。そのショッキングな事件から30年後、ある人物が当時の事件関係者たちを訪ね歩き始めた。ところが、それぞれの証言や手紙などが語る事件の詳細は、微妙にズレている…。やがて、隠されていた悪意の存在が露わになり始め、思いもよらない事実と、驚愕の真実が明かされていく。『このミステリーがすごい!』大賞2009年、第7回優秀賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

類似する設定である湊かなえの『告白』に僅かに先を越されたため割りを喰らった、隠れた佳作。地味で小品の印象は拭えないが、その完成度はデビュー作とは思えないです。多視点で事件の概要に様々な角度からスポットを当て、その裏に隠された人間関係や奸計を徐々に暴いていきます。
被害者は毒殺、加害者も既に冒頭で明らかにされており、これ以上何を探っていくのだろうかと半信半疑で読み進めていくうちに、次第に靄が晴れる様に色々な事実が見えてきます。その過程がサスペンスフルに描かれており、読みどころともなっています。表面に見えている事件の様相とはまた別に、誰がどんな思惑を抱えていたのか、或いは誰が誰に対してどのような感情を抱いていたのかなどが描かれると同時に、真相が浮き彫りにされる仕組みになっています。
派手なサプライズなどはありませんが、伏線もしっかり張られていて最後には見事に回収されます。ジャンルはサスペンスになると思いますが、ミステリとしても見るべきところは大いにある作品ではないでしょうか。個人的には優秀賞ではなく大賞でも決しておかしくはなかったと思います。まあしかし、『このミス』ですから、あまりに真面過ぎたのかも知れませんね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1829件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
西尾維新(25)
島田荘司(25)
京極夏彦(22)
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