皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
|
---|---|
平均点: 6.04点 | 書評数: 1835件 |
No.1035 | 7点 | “文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト)- 野村美月 | 2019/12/13 22:12 |
---|---|---|---|
文芸部部長・天野遠子。物語を食べちゃうくらい愛しているこの自称“文学少女”に、後輩の井上心葉は振り回されっぱなしの毎日を送っている。そんなある日、文芸部の「恋の相談ポスト」に「憎い」「幽霊が」という文字や、謎の数字を書き連ねた紙片が投げ込まれる。文芸部への挑戦だわ!と、心葉を巻き込み調査をはじめる遠子だが、見つけた“犯人”は「わたし、もう死んでるの」と笑う少女で―!?コメディ風味のビターテイスト学園ミステリー、第2弾。
『BOOK』データベースより。 今回は『嵐が丘』。私は未読ですし映画も観ていません。 前作に続き小説を書かれた紙を食べてしまう天野遠子先輩には違和感を覚えます。食べたらもう読めなくなるのに、とまるで凡人丸出しの感想しか持てない私です。身体にも良くないでしょう、消化できるんでしょうか? 本作、結構残酷な話なんですが、作者はそれを暗黒系一辺倒にならず切なさに変換するテクニックを持っていますね。暗い物語を遠子先輩や心葉のキャラで中和し、丁度良い塩梅のライトな読み物として完成させています。かなりの完成度の高さだと思います。 挿絵も良い感じです。欲しいところで欲しいイメージのイラストがポッと現れると、憎いねえと感心します。 それにしても、相変わらずキャラが立っていますね。全ての登場人物が生きています。中でも琴吹さんが私のお気に入り。自分の気持ちを素直に表現できず、つい憎まれ口を叩いてしまったり、じーっと睨んだりして何か可愛らしいですよね。全てを見透かしたような、女王様で尊大な麻貴先輩もいい味出してます。 まだまだ明かされていない心葉の秘密も気になるところです、最終巻まではまだ遠い道のりではありますが、忘れた頃にまた読みたいと思います。 |
No.1034 | 6点 | 記号を喰う魔女- 浦賀和宏 | 2019/12/11 22:38 |
---|---|---|---|
「僕が死んだ時、居合わせた人間達を僕が生まれたあの島に向かわせてください」そう遺言を残し中学生が自殺した。孤島を訪れた5人の同級生を襲う殺戮劇。死体には、全て「逆さV」の記号が残されていた。犯人は、そして生き残れるのは誰?最終ページまで気を抜くことを許さぬ、狂気の連続と逆転する真相。
『BOOK』データベースより。 この作品は孤島、カニバリズム、難解熟語に要約され、それ以上でもそれ以下でもないと思います。ミステリですから殺人は起きますし、二つの死体には胸が逆Vの字に切り裂かれていますし、電話線も切断されます。他にもどんどん死人が出ます。一見典型的な孤島物に見まがうかもしれませんが、そうではありません。では本質は奈辺にあるのか、それはカニバリズムそのものなんですね。ネタバレになってしまうかも知れませんが、中盤でカニバリズムに対する論考が語られるので、ギリギリセーフでしょう。 安藤直樹シリーズ第五弾なわけですが、直樹は登場しません。もっと時代は前ですし、言わば番外編になろうかと思います。では本作の安藤とは誰か、小林は誰なのか、それはシリーズを通して読んでいる人は多分分かるでしょう。 本格ミステリのようで本格ミステリじゃない、なかなかにジャンル分けが難しい作品です。読後はスッキリはしませんが、印象深いのは間違いないと思いますよ。 |
No.1033 | 6点 | 黄金の腕- 阿佐田哲也 | 2019/12/09 22:21 |
---|---|---|---|
麻雀は一般的に言えば遊びであるし、レートもその範囲で決められる。だがその域を抜けると、賭ける金額を自分の経済力ではなく自分の技量で決めるようになる。当然上のクラスへいくほどその闘いは熾烈を極める「レートは?」「金なんか賭けていないよ。でもラスを喰うと、金より多少重たい」遊び人川島に誘われて行った麻雀は、金を賭けた麻雀以上の異様な雰囲気が漂っていた。逃げ場のない喰うか喰われるかの本当の勝負が始まった。
『BOOK』データベースより。 麻雀小説ですが、スリリングでサスペンスフルな短編集。無論ミステリではありませんがピカレスクロマンというか、犯罪小説には違いないですからね。 何と言っても表題作が良いです。「金より多少重たい」の台詞が怖いですね。他の短編もそうですが、すんなり入り込めて自然にのめり込めるタイプの娯楽作となっています。『国士無双のあがりかた』には、新撰組の小島武夫、古川凱章が匿名(一文字変えただけ)で出てきて、二人の対照的な個性が光っていますね。『北国麻雀急行』は他の作品集で読んだような。 相変わらず虚々実々と言いますか、全くのフィクションなのかそれとも実話を脚色したのか判然としないような書きっぷりで、読者を魅了している感じがします。 本来7点ですが、何故かラスト二作に色川武大名義の凡作が混じっているので減点しました。氏の小説はほぼ読んでいると思っていましたが、探せばあるもんですね。やはり阿佐田哲也は面白い。 |
No.1032 | 5点 | JC科学捜査官 雛菊こまりと“くねくね”殺人事件- 上甲宣之 | 2019/12/08 22:21 |
---|---|---|---|
「“くねくね”を見た者は精神に異常をきたす」「トイレから聞こえてくる『赤いはんてん、着せましょかぁ』という童唄に応えると、喉を切られ殺される」など、オカルト現象になぞらえた殺人事件の数々。FBIから、祖父の勤務する兵庫県警科学捜査研究所に派遣されてきた14歳の科学捜査官・雛菊こまりが、多彩な科学捜査と天才的なひらめきによって、事件を鮮やかに解決していく!
『BOOK』データベースより。 都市伝説を絡めた殺人事件に対して、科学捜査で立ち向かう女子中学生こまりの活躍を描く連作短編集。 オカルト色が強いかと思いきや、意外と専門的で本格的な科学捜査からアプローチしています。逆に私にとってはそれが物足りなかったですね。専門知識よりももっとねちっこい不可思議性を重んじて欲しかったのが本音です。まあラノベ系ですから致し方ないでしょうか。 しかし、刑事と科捜研が聞き込みなどを共にすることに疑問を感じました。それもまるでコンビの様に。普通あり得ないのではないでしょうかね、部署が全く違う訳ですから。それはそれとして、キャラがあまり立っていないし魅力を感じないのも気になりました。こまりを始め科捜研のメンバーや刑事達はそれぞれ個性的ではあるものの、それが際立っていない印象なんですよね。シリーズが二作で終わってしまった原因の一つではないでしょうか。 いずれにせよ、もう少し上手く都市伝説を生かしたミステリに仕上げていれば、もっと読み応えのある作品に成り得たと思いますね。残念です。あと、トイレの密室の謎が未解決のまま、これはいけませんね。 |
No.1031 | 4点 | いつかの人質- 芦沢央 | 2019/12/06 22:11 |
---|---|---|---|
宮下愛子は幼い頃、偶発的に起きた誘拐事件に巻きこまれ失明してしまう。そして12年後、彼女は再び何者かに連れ去られる。いったい誰が、何の目的で?一方、人気慢画家の江間礼遠は突然失踪した妻、優奈の行方を必死に捜していた。優奈は誘拐事件の加害者の娘だった。長い歳月を経て再び起きた「被害者」と「加害者」の事件。偶然か、それとも…!?急展開する圧巻のラスト。大注目作家のサスペンス・ミステリー。
『BOOK』データベースより。 どうです、上記の内容紹介で興味を惹かれませんか?そう、私もそんな罠に嵌った一人です。プロット、ストーリーなどはそれほど悪いとは思いませんが、この小説には致命的な欠点が・・・。 誘拐物にしては、あまりそれらしい雰囲気が感じられません。誘拐事件自体よりも他に焦点を合わせている為、何か期待していてたものと違うと思われてなりません。二度も誘拐された少女、しかも失明しているという状況は当然サスペンス要素満載で、緊迫し盛り上がるものと信じていると裏切られますね。真犯人が途中で分かってしまうのも減点対象でしょう。もうこの人の小説は二度と読まないと思います。 【ネタバレ】 疑問其の一 いかなる手段で誘拐犯は被害者家族のプライベートを盗み聞きしていたのか。盗聴器でも仕掛けなければ無理ではないのか。詳細が書かれていません。 疑問其の二 失踪した妻を警察が本気で探してくれないからと言って、わざわざ誘拐犯に仕立て上げるでしょうか。そんなもの探偵でも雇えば速攻で解決するのに。夫であり誘拐犯のあまりに短絡的な思考に開いた口が塞がりません。 |
No.1030 | 6点 | NO推理、NO探偵?- 柾木政宗 | 2019/12/04 22:43 |
---|---|---|---|
私はユウ。女子高生探偵・アイちゃんの助手兼熱烈な応援団だ。けれど、我らがアイドルは推理とかいうしちめんどくさい小話が大好きで飛び道具、掟破り上等の今の本格ミステリ界ではいまいちパッとしない。決めた!私がアイちゃんをサポートして超メジャーな名探偵に育て上げる!そのためには…ねえ。「推理って、別にいらなくない―?」NO推理探偵VS.絶対予測不可能な真犯人、本格ミステリの未来を賭けた死闘の幕が上がる!
『BOOK』データベースより。 巷ではメタ、メタ言われているようだけど、そういうことね。 探偵が傀儡で助手が探偵を操る、なるほどそのパターンね。 問題作らしいけど、私から見れば全然。NO問題。 とまあこんな感じで最終話までは読んでいました。そして最終話でひっくり返されるというお約束。決して嫌いじゃないです。あ、でもネタバレじゃありませんよ、どんでん返しとかではないので(本当か?)。 それにしても最後に二つも「読者への挑戦状」を挟んでくる辺り、本格愛に満ち溢れているじゃありませんか。本格ミステリの小ネタもチラ見せしてますし。結局、推理不要論はあくまで方便であって、話題作りやメフィスト賞を狙ったあざとい作戦だったんでしょうねえ。各短編に対しては色々意見はあると思いますが、なかなかの良作だったのではないかと思います。それぞれに仕掛けが施してあり、うっかり読み流していると足を掬われたりします。色物と笑いたくば笑えと作者の声が聞こえてきそうです。 この人は将来大成するかもしれませんね。それだけの力量を持った人だと思いますよ。 |
No.1029 | 7点 | 迷宮百年の睡魔- 森博嗣 | 2019/12/02 22:24 |
---|---|---|---|
百年の間、外部に様子が伝えられたことのない宮殿より取材許可を得て、伝説の島を訪れたミチルとウォーカロンのロイディ。一夜にして海に囲まれたと言い伝えられる島には、座標システムも機能しない迷宮の街が広がり、かつて会った女性に酷似した女王がいた。あらゆる前提を覆す、至高の百年シリーズ第二作!
『BOOK』データベースより。 順番間違えたかなあ。でもまあ、前作を読んでいなくても十分楽しめました。 しかし、首なし死体を二つ転がしておいてSFはないだろうとも思いますが、本格じゃない訳で。その辺り、ミステリと勘違いして読んだ人はそれは違うだろうと、憤慨した方もおられるかもしれませんね。そもそもおよそ百年後の物語なので、色々齟齬は起きます。例えばウォーカロンって何?ってなりませんか。ロボットなのかアンドロイドなのか、詳細は明らかになっていませんし。 途中ドタバタがあったり、なんとなくどうでも良いような描写があり、冗長さは感じます。そして、残り僅かになってもなかなか事件の様相が見えて来なくて、大丈夫かと不安になる私。勿論そんな心配は無用ですが、真相はあらぬ方向へ向かいます。それは現代においてはとても通用しない解法、だからこそのSFだったんですね。 多産作家に見られるような「書き慣れ過ぎて深みが感じられない」傾向がないとは言えないです、私だけかもしれませんし、偏見かもしれませんが。でも、これだけの作品を短期間で書き上げられるだけでも凄い才能だとは思いますね。 |
No.1028 | 7点 | 深泥丘奇談・続- 綾辻行人 | 2019/12/01 22:17 |
---|---|---|---|
もうひとつの京都―「深泥丘」世界へ誘拐されてみませんか?妖しい眩暈とともに開く異界の扉。誰もいない神社の鈴が鳴り響き、甲殻類の怨念が臨界点に迫り、町では桜が狂い咲く。超音波検査で見つかる“心の闇”、霧の日に出現する謎の殺人鬼、夜に蠢く異形のモノたち…ありえざる「日常」が読者を包み戦慄させ、時には赦し解放する。ほら、もう帰れない。帰りたくない―!名手が贈る変幻自在の奇想怪談集。
『BOOK』データベースより。 不穏な空気が流れる古都京都。深泥丘に住む、度々眩暈を起こす「私」が様々な怪異に翻弄されるホラー連作短編集。 どこか懐かしい、幼き頃の微かな記憶を呼び起こすような作品集です。語り手は少々記憶が怪しく精神を病んでいる様子で、深泥丘病院の脳神経科に通っているため、物語に不安定さを増し、独特の如何わしい雰囲気を醸し出しています。和風ホラーなんですが、それ程恐ろしさは感じません。むしろ背中を得体の知れない何かに撫でられているような感覚を覚えます。平均的に面白く、なんとなく馬鹿馬鹿しい話もありますが、決して阿保らしいなどとは思えないんですよね、個人的には。 死体を五十回切断し、五十のパーツに切り分けるという矛盾した殺人事件など、ミステリの要素も少なからず含まれています。「私」が本格推理作家だというのもなかなか面白い設定ではないかと思います。なのに情緒不安定というね。 これは最早ホラーを超越した文学ですよ。流石名手綾辻、惜しみない拍手を送りたいですね。でも、***て何なんだー。 |
No.1027 | 5点 | 追悼者- 折原一 | 2019/11/29 22:03 |
---|---|---|---|
浅草の古びたアパートで発見された女の絞殺死体。被害者は大手旅行代理店のOLだが、夜になると街で男を誘っていたという。この事件に興味を抱いたノンフィクション作家が彼女の生い立ちを取材すると、その周辺に奇妙な事件が相次いで起きていたことが分かる。彼女を殺したのは誰か?その動機は?「騙りの魔術師」折原一が贈る究極のミステリー。
『BOOK』データベースより。 私は知りませんでしたが、実際に起きた所謂「東電OL事件」をモチーフにした作品らしいです。 久しぶりに、ああ、折原ワールドだなとの感慨を持ちました。丸の内OL殺害事件の被害者に関わりのあった知人友人恋人などの証言を基に、真犯人をあぶり出そうという狙いは分かりますが、正直関係者、容疑者が多すぎてとても犯人を絞り切れません。 まるで本物のノンフィクション小説の様な仕上がりですが、読み方が浅いせいかどうにも作者の仕掛けが見抜けず、真相が明らかになってもカタルシスは得られませんでした。ふーんそうなんだ、位しか感想が浮かびません。 個人的には期待していた程面白いとは思えませんでした。途中の叙述トリックはえっとなりましたが、まあ最近のミステリには珍しくもなく驚きも半分って感じ。暇潰しには良いですが、ちょっと長いかなあ。 |
No.1026 | 4点 | 黒い仏- 殊能将之 | 2019/11/27 22:38 |
---|---|---|---|
九世紀の天台僧・円載にまつわる唐の秘宝探しと、一つの指紋も残されていない部屋で発見された身元不明死体。無関係に見える二つの事柄の接点とは?日本シリーズに沸く福岡、その裏で跋扈する二つの力。複雑怪奇な事件の解を、名探偵・石動戯作は、導き出せるのか?賛否両論、前代未聞、超絶技巧の問題作。
『BOOK』データベースより。 ぶっちゃけ作者の名前だけで購入しましたが、正直イマイチでした。『ハサミ男』や『鏡の中は日曜日』などの名作を世に出した殊能将之とは思えないですね。 私はこういうの、つまりメタ的なアレは容認派ですが、問題はそこではなく石動の推理に大きな穴があり、しかもそれが警察の杜撰な捜査に直結していることです。要するに、探偵警察双方に有り得ないミスが存在している訳ですよ。まあ他にもミステリとしてあまりにショボイとか、事件や宝探しに惹きつけられる要素が少なすぎるなど、欠点が多く見られます。 日本一名探偵らしくない名探偵石動にもあまり魅力を感じませんし、物語が地味。逆に助手のアントニオの方がある意味目立っているし、面白い存在に思えますね。そちらの裏サイドにはややイイネと感じる部分があります。最後の一文もなかなかの味を出していますし。でもミステリとしての評価は低めに付けなければいけないんじゃないかと思いますよ。 |
No.1025 | 6点 | 箱庭図書館- 乙一 | 2019/11/25 22:33 |
---|---|---|---|
僕が小説を書くようになったのには、心に秘めた理由があった(「小説家のつくり方」)。ふたりぼっちの文芸部で、先輩と過ごしたイタい毎日(「青春絶縁体」)。雪面の靴跡にみちびかれた、不思議なめぐり会い(「ホワイト・ステップ」)。“物語を紡ぐ町”で、ときに切なく、ときに温かく、奇跡のように重なり合う6つのストーリー。ミステリ、ホラー、恋愛、青春…乙一の魅力すべてが詰まった傑作短編集!
『BOOK』データベースより。 集英社のweb企画『オツイチ小説再生工場』で、読者のボツ原稿を乙一がリメイクした作品集。なので、原作者は乙一ではありません。 私は思いました。第一話の読後、原作者の意図が読めない、これはまずいと。結局素人が書いたボツ原稿など所詮この程度のものなんだという、言い知れぬ不安感が私を襲いました。ところが第二話『コンビニ日和!』でおっとなりました。これはなかなかウィットに富みながらもエッジが効いていて、良い感じじゃないかって。でも、あとがきを読むとオチは乙一が付けたらしく、ああやっぱりプロじゃないと読者を満足させる物語は書けないのではないかと思ったりします。じゃあお前が書いてみろと言われても、そりゃ書けませんけどね。私には才能がこれっぽっちもないので。 確かに様々な種類の作品があり、その度に作風を変えて均せばそれなりに面白いのですが、やはりそこはそれ読者の投稿作品であって、無理矢理短編として完成させている感があり、どうにも歯がゆさが抜けきれませんでした。 その中でも個人的に『コンビニ日和!』と『ホワイト・ステップ』が心に響きました。勝手な思いですが、おそらく多くの読者に賛同していただけるのではないかという気がします。『ホワイト・ステップ』は最後に持ってきただけあって、情感に溢れ余韻の残る逸品ではないかと思います。この作品が最も乙一の世界観に近い印象を受けましたね。 |
No.1024 | 7点 | 東京大洪水- 高嶋哲夫 | 2019/11/24 22:35 |
---|---|---|---|
大型台風23号が接近。東京上陸はないとの気象庁発表。が、日本防災研究センターの玉城はコンピュータ・シミュレーションで24号と23号が合体、未曾有の巨大台風となって首都圏を直撃することを予知。要請により荒川防災の現場に入る玉城。設計担当者として建設中の超高層マンションに篭もる妻・恵子。残された子どもたち。ひとつの家族模様を軸に空前の規模で東京水没の危機を描く、災害サスペンス3部作、堂々の完結編。
『BOOK』データベースより。 超巨大台風が首都を襲うパニック・サスペンス。力作です。 滑り出しは面白みのない文章で、主人公一家の家庭内不和などがチマチマと語られ、先行き不安を感じました。それが台風24号が発生した辺りから面白みのなさが硬質な文体に私の中で脳内変換され、スケールもぐんとアップしてスピード感を増します。二つの台風が一つになるという前代未聞の緊急事態に、玉城と妻恵子、その子供と祖母がそれぞれの立場でどう立ち向かうのかに焦点を当てて、マクロ、ミクロ両面から迫ります。その臨場感は半端なく、窮地に立たされた人間たちのドラマは生々しく、まさにページを捲る手が止まらないとはこういう事を言うのだと思いました。 実際には気象庁がこれほど不甲斐ないはずはないでしょうけどね。しかし、普段はあまりに普通な玉城の決断力やリーダーシップの発揮ぶりには胸のすく思いがします。自衛隊を始め、都知事、区長、災害対策本部など目まぐるしくシーンが入れ替わり、嫌が上にもサスペンスフルな展開を盛り上げます。 今年は台風19号が関東甲信越から東北を直撃し、各地で大きな被害を受けました。そして河川の氾濫、堤防の決壊がいかに深刻な問題を齎すのかという教訓を得ました。これは他人事ではありません、この物語の様に大都市でも水没が起こらないとは言い切れません。災害時に各個人が取るべき行動を今一度確認すべきではないでしょうか。日本に生まれた宿命として、このことを肝に銘じるべきだと思います。 一気読み推奨、映画化希望。 |
No.1023 | 5点 | 猫丸先輩の空論 超絶仮想事件簿- 倉知淳 | 2019/11/22 22:21 |
---|---|---|---|
友人が交通事故に遭った都心の街道沿い、電柱の傍らに供えられた花を眺めながら物思いに耽っていた男の前に、呼んでもいないタクシーが次々と…運転手たちが存在しない乗客を取り合う騒動にまで至った不可解な自動車集結事件をめぐる表題作、毎朝ベランダの同じ場所に置かれるペットボトルが謎を呼ぶ「水のそとの何か」など、猫丸先輩の推理が冴え渡る全六編を収めた連作短編集。
『BOOK』データベースより。 いやー相変わらず猫丸先輩は神出鬼没ですね。講談社ノベルスで読みましたが、イラストがまあ可愛いこと。それにしても、最終話で触れられていますが、一体猫丸先輩の身長はどれ位なんでしょうか。誰かと相対しても見下げられている描写は出てこないことから、作者にしてみればあくまでキャラ作りの一環であるという訳なんでしょうかね。 それぞれの短編は魅力的な謎に満ちていて、謎解きよりもその状況の不可解さに魅了されます。しかし、いざ真相(仮の)となるとかなり脱力ものです。例えば『とむらい自動車』なんかは、わざわざある目的の為に何台もタクシーを呼びつけるか?といささか疑問に思わずにはいられませんね。『魚か肉か食い物』も猫丸先輩が指摘するまでもなく普通気付くだろうと思いますよ。 でも、誰でも楽しめるような作品集であるのは間違いないでしょう。猫丸ファンは勿論必読です。 |
No.1022 | 6点 | たけまる文庫 怪の巻- 我孫子武丸 | 2019/11/20 22:38 |
---|---|---|---|
業界初(?)の「ひとり雑誌」形式で世間を「あ~っ?」と言わせた話題の短編集「小説たけまる増刊号」が、なんと今度は驚きの「個人文庫」になって帰ってきた―。記念すべき第一回配本分はホラー作品を集めた「怪の巻」をお届けします。猫を異常に恐れる男の話「猫恐怖症」、桜が頭蓋を食い破る「春爛漫」、小説の通りに起きる惨殺事件の謎「猟奇小説家」など選りすぐりの九編。…怖いです。
『BOOK』データベースより。 鋭い切れ味のホラー短編集。ですが、ミステリ寄りのものもあればサスペンスもありで、なかなか粒揃いと言って良いと思います。先を読ませない心憎い演出や、じわじわ迫る恐怖、ミステリ的ギミックが冴える見事なプロットなど読みどころが沢山。 特に印象深いのはラストが滅茶怖い『芋羊羹』、心理サスペンスでアッと言わせる『患者』で、個人的にはこの二作がツートップです。 ひもの男が交通事故である悲惨な境遇に陥る『嫉妬』は、確かに以前何かのアンソロジーで読んだ記憶があるのですが、どうしても思い出せません。私の思い違いかもしれませんが、どなたかご存知の方おられましたら教えて戴けないでしょうか。 |
No.1021 | 7点 | まごころを、君に- 汀こるもの | 2019/11/18 22:41 |
---|---|---|---|
真夏に起きた「グッピー凍死事件」を機に親友となった、魚マニア立花美樹と柳瀬圭。生物部でイジメを受け退部した柳瀬の話を聞いた美樹は、文化祭の生物部ブースでの仕返しを画策。だが行く先々で殺人や事故に遭う死神体質の美樹のこと、案の定、彼が向かった教室で爆発事件発生。無差別テロか、それとも死神の所業か!?美樹の双子の弟にして高校生探偵の真樹が謎に迫る。
『BOOK』データベースより。 こう言ってしまっては身も蓋もないですが、意外に楽しめました。前作『パラダイス・クローズド』は4点を付けましたが、この作者は何か秘めているモノがあるんじゃないかと思い直し、本シリーズをほぼ全作入手しました。 相変わらず魚の蘊蓄には辟易というか、訳解らんですが、これが魚じゃなくてカブトムシやクワガタだったら私は泣いて喜んだでしょう。だから、大型肉食魚や熱帯魚に目がない人にとってはそりゃもうパラダイスだと思いますよ、ええ。 それにしても、ひきこもりの双子の兄が文化祭で躁状態に陥っている姿には、なんでやねん?と相当な違和感を覚えたり、魚に対しては随分知識を持っているはずの柳瀬がとんでもない凡ミスをしてみたりと、何かと疑問が湧いてきます。 それはそれとして、本作は前作でおざなりにされた動機、ホワイダニットに拘っていて、個人的には非常に強い説得力を持って眼前に『動機』を突き付けられた感じがしました。まあ本格という訳でもないので、伏線がどうとか手掛かりが少なすぎるとか、専門的知識がないとお手上げだなど色々不満が噴出するのには目を瞑りましょう。そういうんじゃないので。犯人に目星を付けるのは容易いですが、その先は双子の兄弟にしか語り得ない解答が待っています。その世界観には大いに魅了されました。 こういうのは一部のマニアには受けるでしょうが、一般読者にはお勧めは出来ないですね。しかし期せずして私の予感が的中し、何かを持っていたこるもの、今後も期待したいです。 |
No.1020 | 7点 | 孤島の鬼- 江戸川乱歩 | 2019/11/16 22:42 |
---|---|---|---|
初代は3歳で親に捨てられた。お守り代わりの古い系図帳だけが初代の身元の手がかりだ。そんな初代にひかれ蓑浦は婚約を決意するが、蓑浦の先輩で同性愛者の諸戸が初代に突然求婚した。諸戸はかつて蓑浦に恋していた男。蓑浦は、諸戸が嫉妬心からわざと初代に求婚したのではないかと疑う。そんなある日自宅で初代が殺された。これは恐ろしく壮大な物語の幕開けに過ぎなかった―。
『BOOK』データベースより。 江戸川乱歩の長編の代表作と言われているだけあって、確かに面白いです。私なんかは乱歩と言えば短編のイメージが強いですが、或いは小学生の頃に読んだ二十面相の印象が未だに残っていますが、それらを払拭するような傑作だと思います。 三分の一くらいまでは密室殺人、衆人環視の不可能犯罪と本格バリバリで、おおこれは、と唸らせますが一旦それは解決します。ちょっと無理がありますが、奇を衒った発想は認めて良いと思います。その後どう展開していくのかと懐疑的な思いを抱いていましたが、異様な日記で興味を繋ぎその後ホラーや冒険小説の様相を呈してきて、読者を飽きさせません。 後半はやや冗長なシーンもありますが、私好みの怪奇譚に仕上がって、乱歩の本領を発揮しているなと感じました。ただ、物語の流れが強引でかなり偶然性が強い気がします。それでも読む前に想像していたものとは全く異なった妖しい魅力を見せつけてくれました。差別用語が満載で、それが時代を感じさせ怪奇的な雰囲気を盛り上げる一端を担っているような気がしました。フリークスたちの存在が、これまた乱歩らしいなと思いましたね。 |
No.1019 | 4点 | 15歳のテロリスト- 松村涼哉 | 2019/11/14 22:22 |
---|---|---|---|
「すべて、吹き飛んでしまえ」突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて少年犯罪被害者の会で出会った孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか?進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方をくらませた少年の足取りを追う。事件の裏に隠された驚愕の真実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた―。
『BOOK』データベースより。 枚数の少なさと比例して中身が薄っぺらいです。そして文章が拙いですね。 手垢塗れの少年法をテーマに、加害者の家族、被害者の遺族両面から描かれていますが、いかにも浅い。参考文献を見るとそれなりに勉強したのは認められますが、それにしては通り一遍の事しか書かれていません。これまで出版された同じ少年法を扱った書物と比較するまでもなく、レベルが低いです。Amazonでは結構高評価ですが、信用できませんね。レーベルがラノベなので、読書量が少ない読者の評価だったのかもしれませんが、この程度で感心しているようでは底が知れていますよ。 大仰なタイトルだけに、スケールの大きいテロの連続やパニックに揺れる大都会にスポットが当てられるのかと期待していましたが、その辺りはほぼスルーされています。全然違うタイプの小ぢんまりしたサスペンスでした。 デビュー作も買ってしまったので読みますが、これは相当ハードルを下げざるを得ないでしょうねえ。 |
No.1018 | 6点 | ぶらんでぃっしゅ?- 清涼院流水 | 2019/11/12 22:36 |
---|---|---|---|
まだ生まれる前、母のおなかの中で聞いた“ぶらんでぃっしゅ”という謎のコトバは、誕生後もずっと「ぼく」の人生を支配し続けていた。特別な人との出会いや別れをも予感してしまう、不思議な能力に目覚める「ぼく」。何度も姿を見せる、死神のようなライダーはいったい何者なのか?1500を超す候補から選び抜かれた108の名作“ぶらんでぃっしゅ”によるトーナメントは、コトバのマスターたちの競演で、興奮の頂点へ!そして、クライマックス。連続強盗殺人犯“ブラン・ディッシャー”の銃口が「ぼく」に向けられる―。この姿を見るのは、これが最後だ。
『BOOK』データベースより。 主人公常盤ナイトが誕生する前から彼の頭の中には「ぼく」がいて、その「ぼく」による一人称という形式が新しいと言えば新しいとです。つまり、ナイトと常に行動を共にし、その感覚や感情をある程度共有することが出来る訳です。しかし別人格ではなく、あくまで共感覚を有する分身の様なものでしょうか。 物語は“ぶらんでぃっしゅ”という謎の言語を巡っての言葉遊びが主体となっていて、ナイトと仲間たちによるそれに響きが似た言葉のトーナメントが、一番の見せ場となっています。コンビニ連続強盗殺人犯の残す“ぶらんでぃっしゅ”という謎の言葉に最も響きが近い類似語は何か?そんな下らないことを一生懸命追及する彼らの姿が、馬鹿馬鹿しくも微笑ましいのです。そして、そんな仲間たちとの出会いと別れを青春小説風に綴っています。まあここまではジャンル不明の異色作なんですけどね。 しかし、最終章でいきなりそれまで見ていた景色が一変します。この反転こそがこの小説の真の狙いだったのかと、暫く唖然とさせられます。これには正直やられました。 尚、森博嗣、西尾維新が名を変えて友情出演?します。でもそれはちょっとしたアクセントに過ぎませんので、あまり過度な期待は禁物でしょう。 |
No.1017 | 6点 | ドゥルシネーアの休日- 詠坂雄二 | 2019/11/10 22:13 |
---|---|---|---|
タンポポは主張している。自分が四人を斬殺したことを。そして、凶器を変えて犯行を続けることを。十年前の連続無差別殺人事件の模倣犯を追う捜査一課刑事・雪見喜代志。全寮制女子校の聖堂で天に赦しを乞うために祈り続ける罪人・山村朝里。死地をも厭わず数々の難事件と対峙してきた傷だらけの泥犬・藍川慎司。三人揃って怒涛の急展開。著者渾身の書き下ろし、警察小説×学園小説×活劇小説=未曾有の傑作ミステリ。
『BOOK』データベースより。 「月島凪キター!」って感じです。と言ってもほとんどの方が知らないと思いますが、名作『遠海事件』で佐藤誠を追い詰めた名探偵です。しかし、名前だけ登場したに過ぎず、その人となりなどは皆目見当もつかず、ベールに包まれたままの存在でした。それが本作ではある意味主役となって語られています。本人は登場しませんが、彼女が設立した月島前線企画という調査会社の社員たちの証言から、いかなる人物かは窺い知ることが出来ます。しかもその存在がなければ本件は起こり得なかったと言ってもよい程の存在感を示しています。 『遠海事件』を読んで共感を覚えた読者は一読の価値ありと言うか、読まなければならない作品だと思います。 第一部は本格警察小説、第二部はミッション系の女学園を舞台にした学園ミステリ、第三部は苛烈なアクション小説、第四部は後日談と月島のその後といった具合に、それぞれ毛色が異なる作風で構成されており、あの手この手で最後まで読者を飽きさせません。 インパクトに欠けるという点で若干評価を下げざるを得ず、その意味では残念ですがファン必読の書であることは間違いないと思いますね。 |
No.1016 | 6点 | 鷲見ヶ原うぐいすの論証- 久住四季 | 2019/11/08 22:44 |
---|---|---|---|
うぐいすという少女は変わり者である。いつも図書室にこもっていて、教室に顔を出すことはない。だが、試験では常に満点というひねくれぶり。なぜか譲はそんな彼女と奇妙な付き合いが続いていた。変わり者には変わった依頼が来る。天才数学者、霧生賽馬は魔術師である―その真否を問い質してほしいというのだ。かくしてうぐいすと譲は霧生博士が待つ麒麟館へ。だが翌日、霧生は首なしの死体となっていた。限られた容疑者は全員が無実という奇妙な状況に陥り!?魔術師であるのか、殺人なのか、被害者はいるのか、犯人はいるのか、これはそれらすべてを「論証」する物語である。
『BOOK』データベースより。 閉ざされた館、首なし死体といったガチガチの本格要素を内包してはいますが、ラノベの域を脱し切れていない印象を受けます。色々な?が飛び交う中、最も不思議だったのは、閉鎖状況の中で首なし死体が発見されたら、まず最初に被害者の首を探すのが当然なのに、誰もそんなことをおくびにも出さなかったこと。これはどう考えてもおかしいでしょう。 探偵役のうぐいすも天才的な頭脳の持ち主にも拘らず、なんだか当たり前のことばかりに拘泥して、名探偵らしくなくどうもピンときません。素質者という仕掛けは面白いですし、特に嘘を100%見抜く異能は十分にその機能を発揮して、真犯人を容易に指摘することを否定します。厳然と死体が存在するのに犯人がいない状況とは一体?その正体は「悪魔」なのです。勿論比喩ですが。 事件の全容には大いに拍子抜けでした。なんだそりゃ?でもその後には徐に第三の探偵が・・・。これ以上は書くのは無粋というものでしょう。 |