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[ 青春ミステリ ]
“文学少女”と穢名(けがれな)の天使(アンジュ)
野村美月 出版月: 2007年04月 平均: 5.00点 書評数: 4件

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エンターブレイン
2007年04月

No.4 4点 ボナンザ 2021/03/07 17:37
ミステリ色薄めながらラノベとは思えないほど濃密で中々。

No.3 5点 じきる 2020/12/10 11:53
ミステリ度は弱いが楽しめた。

No.2 5点 メルカトル 2020/05/10 22:20
文芸部部長、天野遠子。物語を食べちゃうくらいに愛するこの“文学少女”が、何と突然の休部宣言!?その理由に呆れ返りつつも一抹の寂しさを覚える心葉。一方では、音楽教師の毬谷の手伝いで、ななせと一緒に放課後を過ごすことになったりと、平和な日々が過ぎていくが…。クリスマス間近の街からひとりの少女が姿を消した。必死で行方を追うななせと心葉の前に、やがて心葉自身の鏡写しのような、ひとりの“天使”が姿を現す―。大好評シリーズ第4弾。
『BOOK』データベースより。

今回は『オペラ座の怪人』。一寸、いやかなり地味ですね。これまで好感度が高かった琴吹さんがついに・・・。まあその辺りはもどかしさもありつつ、なかなか良い感じで進行していきます。過去にこんな事があったのかと、驚かされます。まあ可愛いエピソードですけどね。しかし、琴吹さんの真意を汲み取ったのかどうなのか、まだ心葉の気持ちは推し量れません。

本作はそもそも謎らしき謎もほとんどなく、ミステリとしてかなり弱いと言わざるを得ません。その代わり、ラノベとしての魅力は今までよりも増しているのかも知れません。個人的にはあまり好ましくは思えませんでしたが。
遠子先輩の活躍もあまり見られず、麻貴先輩も出番なし。更に美羽の秘密も未だ欠片も描かれず。キャラの魅力という点で、琴吹さん以外全く期待できません。ちょっと淋しいですね。

No.1 6点 おっさん 2015/09/26 14:30
聖条学園・文芸部の部長、天野遠子(あまの とおこ)と、文芸部の後輩、「ぼく」こと井上心葉(いのうえ このは)のコンビで進行する、ミステリ・タッチのライトノベル“文学少女”シリーズの第4作(2007年刊)です。
しかし今回は、3年生の遠子先輩が遅まきながら受験勉強のため休部を宣言し――時まさに12月。いまから本気を出す模様――もっぱら物語の後景に退いているため、心葉の相方としてスポットがあたるのは、クラスメイトの琴吹ななせ(第1作『死にたがりの道化(ピエロ)』から登場している、心葉に好意をもつ、一見、テンプレ的なツンデレ・キャラ)です。彼女の親友で、音楽学校に通う水戸夕歌が、突然、失踪したことから、平和な日常に亀裂が走り、ストーリーは動きだします。

それまで、ずっと伸び悩んでいたのが嘘のように、急速な成長を見せ、次の発表会のオペラ・コンサートでは主役にも選ばれ、まさにこれからという時期に、夕歌はなぜ姿をくらましたのか? 『わたしの先生は、音楽の天使です』、そう秘密めかして語っていた夕歌。失踪には、その“音楽の天使”が関係しているのか? ななせのため、懸命に探索に乗り出した心葉のまえに浮かび上がる夕歌の肖像は、しかし親友のななせの知るそれとは、あまりにもかけ離れたものだった……。「もし、水戸さんが犯罪者だとしても、琴吹さんを裏切っていたとしても……きみは、知りたいと思える?」「……あたしは、知りたいし、夕歌を助けたい」

毎回、内外の有名な文芸作品を下敷きにした“事件”が描かれるのが、このシリーズの特色(あたかも人間関係や全体の構図を既存の名作からトレースしたように見えながら、じつはそれをズラして変えていく面白さ)ですが、今回は、元ネタが、遠子先輩いわく「暗く退廃的な美に彩られたゴシック小説が、ファントムが見せた真実によって、最後の最後に、胸が震えるような、透明な物語に変わってゆく――」ガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』です。
筆者は、創元推理文庫から初の完訳が出たさいに『オペラ座の怪人』は一読していますが、正直、大時代な語り口もあって冗長なお話という印象しか残っていませんでした。その後、名優ロン・チェイニーが怪人ファントムを演じた、ユニバーサル映画版をDVDで見て、ああ、これは映像化の勝利だなあ、この成功で原作も生き延びたとおぼしい――と勝手に納得していたくらいです(恥ずかしながら、有名な、劇団四季のミュージカルは未見なのですよ)。それが、本書に込められた、熱い原作リスペクト――些細なことですが、中学時代のななせが、心葉に恋をするきっかけとして、小道具として「安全ピン」が使われているのには、元ネタの記憶を呼び覚まされ、驚きつつも感心しました――に触れることで、無性に『オペラ座の怪人』を読み返したくなってきたことを告白します。
心葉の一人称語りと、別なキャラクターの手になる文章(本作では、どこかで夕歌が綴っていると思しい内容)を効果的におりまぜる手法は健在で、例によって、ライトノベルじゃなくヘビーノベルだろ、と突っ込みたくなる作品世界を構築し、意外な、そして心揺さぶるクライマックスを導きます。
細部のリアリティという点では、“天使”に該当するキャラクターの、日常生活がまったくスルーされているのが難点で、オペラ座の地下ならぬ、廃工場で暮らしている(あるいは、いた)としか思えないわけですが……モノホンの怪人じゃあるまいし、んな莫迦な。
文字の書かれた紙をバリバリ食べちゃう、人間ばなれした“文学少女”が主役をつとめるお話ではあっても、いやだからこそ、そのお約束以外の部分では、虚構を支えるもっともらしさ(この場合で言えば、問題の工場を生活圏とする、不自然な日常の理由づけのようなもの)に、大いに意を尽くすべきだと、ロートルの小説読みたる筆者は思います。感動で誤魔化されるには、こちらが、ちとトシをとりすぎました (^_^;)
前作『繋がれた愚者(フール)』の、衝撃の結末を補完する内容は盛り込まれていますが、そこからの直接的な発展はないので、シリーズ全体としては、本書はつなぎのエピソードでしょう。別の言いかたをすれば、おそらく、嵐の前の静けさ。水面下で別のストーリーが進行していたことが分かり(この、バック・ストーリーの工夫が、野村美月はとにかく巧い)、前作同様、およそ続きを読まずにはいられない“引き”で、『穢名の天使』は幕を閉じます。
問題は、このあと。
シリーズものとして、次作では怒涛のストーリー展開が予想されますが……同時に、それについて何を書いても、ネタバラシになってしまうことが懸念されます。無事、このサイトで内容を紹介できるや否や。大いなる不安を抱いている、筆者なのです。


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野村美月
2011年03月
“文学少女”と神に臨む作家(ロマンシエ)
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2011年02月
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2006年12月
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2006年08月
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2006年04月
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