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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1129 7点 多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー- アンソロジー(出版社編) 2020/06/10 22:59
レッドキング、チャンドラー、そしてマグラーが相争った「怪獣無法地帯」の真相に迫る―山本弘の表題作「多々良島ふたたび」。希少生物としての怪獣の保護を図る戦闘的環境団体とウルトラマンが対峙する―小林泰三「マウンテンピーナッツ」。生命の危険を顧みない、怪獣類足型採取士の死闘―田中啓文「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」など、SF的想像力でウルトラ怪獣とウルトラマンの世界を生き生きと描く7篇。
『BOOK』データベースより。

SF、ホラー作家が真面目にウルトラ怪獣を描いた短編集。幼い頃、ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブンが再放送される度に観たという人は楽しめるはず。
作家陣は山本弘、北野勇作、小林泰三、三津田信三、藤崎真悟、田中啓文、酉島伝法の七人。これは錚々たる顔ぶれですね。ほとんどが変化球で、まともにウルトラマンと怪獣が対決するのは小林泰三の『マウンテンピーナッツ』くらいです。山本弘は多々良島のあの雰囲気を壊すことなく、新たな試みに挑戦しています。ピグモンとガラモンの意外な関係も創造していたりします。最も好感度が高かったのは未読作家の藤崎真悟で、メトロン星人を始め、チブル星人、イカルス星人などを登場させ、ウルトラセブンの世界観を見事に再現し、それでいてオリジナリティを持った逸品に仕上げていています。

田中啓文は結局ダジャレかよって感じ。三津田信三は己のスタイルを貫き、別にウルトラじゃなくてもよかったと思います。まあらしいと言えばそうなんですが。酉島伝法はいらなかったかな。怪獣が死んだ後始末を描いていますが、読みづらく、どう頑張っても情景が浮かんできませんでした。

No.1128 6点 赤と白- 櫛木理宇 2020/06/08 22:38
冬はどこまでも白い雪が降り積もり、重い灰白色の雲に覆われる町に暮らす高校生の小柚子と弥子。同級生たちの前では明るく振舞う陰で、二人はそれぞれが周囲には打ち明けられない家庭の事情を抱えていた。そんな折、小学生の頃に転校していった友人の京香が現れ、日常がより一層の閉塞感を帯びていく…。絶望的な日々を過ごす少女たちの心の闇を抉り出す第25回小説すばる新人賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

初期の作品ながらこの作者の文章の完成度は見事なものです。小柚子と弥子の二人の主人公は歪んだ母親との関係性を持っています。又、その二人と最も関係の深い京香と苺実も含めて、青春と呼ぶにはあまりにねっとりとした女子高生たちのリアルを描いていると思います。日常的に酒に溺れたり、人に言えないトラウマや悩みを抱えていたりと、爽やかな青春小説とは対極に位置するブラックでダークな青春小説です。

冒頭にある事件の顛末が語られていて、そのホワイとフーに向かって、毎日のように降り続ける雪に閉ざされた閉塞感の中、物語は疾走を続けます。終わってみれば、何という事もない結末ではありますが、そこに救いはありません。
しかし、終章に於いて漸く光が僅かに差し込んでいき、それまでのやりきれないストーリーが少しだけ報われたような感覚に陥ります。これは作者の計算通りでしょう。まあ、一般受けはしないと思いますが、決して中身のない作品ではないですね。でもホラーじゃないと思います。怖いと言えば等身大の女子高生の真の姿が怖いですけど。

No.1127 5点 下町の迷宮、昭和の幻- 倉阪鬼一郎 2020/06/06 22:30
田端にある古い銭湯の「昭和湯」の主人が旧式の柱時計を見るうちに…。飛鳥山公園の坂を上るたびに、母親の顔から「癒しの天使」となる女は…。かつての人気漫才師が、古巣の浅草にある蕎麦屋で聴いた歌謡曲は…。三十年ぶりに谷中を訪れた紙芝居屋が、千代紙を買った後に向かうのは…。現代の下町を舞台に、郷愁と恐怖が横溢する昭和レトロホラー。
『BOOK』データベースより。

倉坂鬼一郎がバカミス以前に描いた作品。作風の違いが如実に表れています。これはホラーと言うより幻想小説集でしょうか。ですから怖くはないです、ちょっと不思議でちょっと切ない、そんな雰囲気がそこはかとなく漂っている感じです。因みに昭和の匂いはあまりしません。個人的には郷愁も感じ取れませんでした。
詩的な文章でまさに行間を読むべき作品集と言えると思います。多分普段から純文学を読み慣れた人にとっては、比較的読み解きやすいのかも知れません。ミステリばかり読んでいる読者は、理論優先ではないのでどこをどう楽しめばよいのか理解できない可能性も否定できません。

巻末に作品一覧が載っていますが、あまり読んでないなと。まあミステリの人ではないので、そこまで固執する必要もないですね。

No.1126 5点 捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書- 加藤元浩 2020/06/04 22:37
念願叶って捜査一課の刑事に抜擢された七夕菊乃。しかし元アイドルという経歴のせいでお飾り扱いされてしまい、おまけに、驚異的な洞察力を持つ天才心理学者・草辻蓮蔵と、FBI出身で報告書の書き方に異様な執念を燃やす鬼才、「アンコウ」こと深海安公が繰り広げる頭脳戦に巻き込まれることに!初めて挑む密室殺人事件の捜査は、一体どうなってしまうのか!?「小説でしかできないことをやりました」と著者自ら語る、傑作長編ミステリ!
『BOOK』データベースより。

ちょっと期待外れです。今後このシリーズを読むかは微妙ですね。ライトというか、なんとなくジュブナイルのような感覚で読みました。三つの事件は小ネタを寄せ集めたような感じで、あっと驚くようなものではありません。この辺りは漫画家の限界を感じます。
そして何と言っても致命的なのは、早い段階で大筋が読めてしまうことでしょう。それは主人公菊乃の勘違い的な雰囲気が色濃く作品に表出してしまっている為で、もう誰にでも見抜かれてしまうレベルですね。

まあね、草辻蓮蔵と深海安公の敵対などは面白かったですよ。でもねえ、警察小説としての完成度は低いし、警視庁捜査一課に広告塔として新人の菊乃を抜擢するなどあり得ないことから、リアリティにも問題ありです。それと、わざわざ菊乃をアイドルになる前からご丁寧に描く必要性が感じられません。「黒い奴」ってなんですか?これもあまり意味がないように思いますが。

No.1125 3点 まどろむベイビーキッス- 小川勝己 2020/06/02 22:15
みんなと仲良くしたかった。いじめられたくなかった。邪険にされたり、疎んじられたりするのはもうたくさんだった。だから、だから…。キャバクラ「ベイビーキッス」で働く風間みちる。家ではSHIHOという名前でホームページを作り、訪れる人たちとのやり取りを楽しんでいた。ところが彼女の一言が「荒らし」を呼んでしまう。また仕事上でも他のキャバクラ嬢との関係が悪化し―。哀しい狂気が暴発する究極のエンタテインメント。
『BOOK』データベースより。

これは誰が見ても駄作でしょう、と思ったらそうでもなかったようです。108円じゃなかったら買わなかったとは言え、こういうのを読んだ自分が情けなくなります。いえ、作者が悪い訳ではありません、作家でも調子の悪い時もありますから。あくまで購買者の自己責任ですね。
一応ジャンルとしては倒叙物だと思いますが、虐められて、それが原因でアリバイトリックを考案し、殺害する。それだけで、そこに至るまでのプロセスが完全に排斥されており、どう言った心理状態で殺しに傾いたのかが全然語られていません。短絡的というか、どうにも解せないことが多すぎます。

イジメられたから殺す、誰にも愛されないから皆殺しにする、あまりにもいい加減過ぎませんかね。ネットでのやり取りや荒らしの実態、キャバクラ嬢同士の心理戦といったありきたりなテーマもうんざりですし、メイントリックもミステリ読みには驚きに値しないチャチなものでしょう。

No.1124 6点 都会のエデン 天才刑事 姉崎サリオ- 高橋由太 2020/06/01 22:34
夕刻の池袋。一人の男がビルの屋上から突き落とされて死んだ。その妻をさらなる悲劇が襲う。三歳の息子が突然姿を消したのだ!父親の死と関係が?女装の巨漢で毒舌―捜査一課きっての名物刑事・姉崎サリオと相棒の孝太郎が捜査に乗り出す。その背後には、引退した「伝説の警察官」の姿が見え隠れするのだが…。あまりにも切ない「家族の事件」の真相とは?
『BOOK』データベースより。

前作『赤き虚空の下で』の鋭いナイフのような切れ味はないですが、姉崎警部のキャラの強烈さがそれを補って余りある魅力を醸し出しています。マツコ・デラックスにそっくりの姉崎はオネエ言葉も同様で、彼の台詞は私の頭の中でマツコ・デラックスの声に変換されるのでした。それが全く違和感響いてくるので、まるで本物のマツコが演じている錯覚すら覚えます。
事件は一見何気ない、大した謎もないように思えますが、人間関係が複雑に絡み合って悲劇を繰り広げます。それは家族の物語であり、悲しい境遇の人達の心の叫びでもあります。血縁とは何か、絆とは何かを読者の問い掛けているように思えますね。

しかし、この作品はシリーズ化はされないのでしょうか。一部のコアなファンはひそかに待っているのではないかと思うのですが。元々ミステリを書く人ではないので、あまり引き出しがないかも知れませんが、書こうと思えば書けるはずですよ。
読後、無性にポンデリングが食べたくなります。

No.1123 6点 人間じゃない- 綾辻行人 2020/05/30 22:24
読んでいて何だか淋しい気持ちになりました。綾辻行人は館シリーズも久しく出ていないし、もう本格ミステリに対する情熱が薄れてしまっているような気がします。ホラーとかはポツポツ出ている訳ですが、もう叙述トリックを駆使した本格物を書き下ろしてくれはしないのではないかと不安に感じます。

さてこの中短編集ですが、それなりにらしさは出ているものの、イマイチ物足りなさを覚えますね。表題作は切れ味が鈍い感じがあり、捻りも効いているようないないような、中途半端な気がします。『赤いマント』は、大体の予測は付きますし、結末はやや拍子抜け。ホラーとミステリの融合は上手く出来ていると思いますが。
個人的に最も評価したいのは中編の『洗礼』でしょうかね。作者の思い入れが一番強そうだし、これが本当に京大ミステリ研時代に書かれた犯人当ての習作だとすれば、私にしてみればはなかなか良く書けていると思いました。そしてその結末が本当だとすれば、京大ミステリ研のメンバーがどれだけレベルの高い人間が揃っているんだと、驚きを隠せません。まあ私でも犯人は指摘できましたが、ダインングメッセージの本当の意味は推理できませんでしたね。

まだ老ける歳ではないと思いますし、綾辻氏にはもっと新作を期待したいと思います。エールを送ります。

No.1122 5点 ダブ(エ)ストン街道- 浅暮三文 2020/05/29 22:07
あの、すみません。ちょっと道をお尋ねしたいんですが。ダブ(エ)ストンって、どっちですか?実は恋人が迷い込んじゃって…。世界中の図書館で調べても、よく分からないんです。どうも謎の土地らしくて。彼女、ひどい夢遊病だから、早くなんとかしないと。え?この本に書いてある?!あ、申し遅れました、私、ケンといいます。後の詳しい事情は本を読んどいてください。それじゃ、サンキュ、グラッチェ、謝々。「今、行くよ、タニヤ!」。キッチュでポップな迷宮譚。第8回メフィスト賞受賞。
『BOOK』データベースより。

うーん、微妙だなあ。そして評価が難しいです。少なくともメフィスト賞として相応しい作品でないことは間違いないですね。
まずダブ(エ)ストンという土地が茫洋として掴み所がなく、正直何がどうなっているのかが把握しきれません。そんなことは多分どうでも良いんでしょう。この不思議な世界観に浸って楽しめればそれでOKって事なんだと思いますが、作風が合わなかった読者にとっては退屈で仕方ないのではないかと。
異国情緒はやや感じるものの、そこに重点は置いていなくて、旅の途中で次々と現れる風変わりな人間たち、人外の者たちがやりたい放題で、そのユーモアな言動と主人公ケンとアップルの友情のあり様が読みどころになっています。

どこか西洋の童話風な感じで、それを無理やり大人の読み物に仕立て上げたような作品です。ファンタジーなのかエンターテインメントなのか、それすらも判然としない異色作ですかね。
しかし、この人は大成はしないなと思いますね、なんとなくですが。またしてもAmazonや読書メーターは高評価なんですが、そんなに面白いとは思いませんでした。やはり私がマイノリティなのでしょうかね。まあ後味は悪くはありませんでしたけど。

No.1121 7点 双蛇密室- 早坂吝 2020/05/27 22:45
「援交探偵」上木らいちの「お客様」藍川刑事は「二匹の蛇」の夢を物心付いた時から見続けていた。一歳の頃、自宅で二匹の蛇に襲われたのが由来のようだと藍川が話したところ、らいちにそのエピソードの矛盾点を指摘される。両親が何かを隠している?意を決して実家に向かった藍川は、両親から蛇にまつわる二つの密室事件を告白された。それが「蛇の夢」へと繋がるのか。らいちも怯む(!?)驚天動地の真相とは?
『BOOK』データベースより。

正直、らいちの推理を読み終えた時、何だかなあと思いました。しかしそこに思わぬ人物が乱入し、そこから本番の真相解明が始まります。本シリーズに於いて、最もエロと犯行が直接結びついた、最高の一作と考えて良いのではないでしょうか。この密室トリックは余人には思いつかないものです。二番目の密室はどうなのかとか、あまりに非現実的過ぎてバカミスにもならないとか、色々ツッコミどころは有ろうかと思いますが、そんな事はどうでも良いのです、私にとっては。兎に角、その奇想が素晴らしいですし、物語としても面白かったですよ。らいち最高だと称賛したいです。

私の様に奇想天外なストーリーやトリックが好みの読者にとっては持って来いの逸品だと思いますが、一般読者や常識派のミステリファンの受けは決して良くないかもしれませんね。しかし細部までよくよく考え抜かれたという意味で、作者の知恵の限りを尽くしたものと私は考えます。
しかも、らいちならでは藍川ならではの作品には違いなく、このナイスコンビは永遠に続いて欲しいと思いますよ。

No.1120 7点 デッドマンズショウ 心霊科学捜査官- 柴田勝家 2020/05/26 22:22
ドキュメンタリー映画の主役が次々とバラバラ死体で発見されるストーリー。怪しい人物がてんこ盛りでオカルティックな雰囲気も出しつつ、本格警察小説そして本格ミステリとして機能する完成度の高い作品。最後の最後まで良く練り込まれたミステリだと思います。ジャンルは警察小説としましたが、これは本格ミステリとしても十分通用します。
途中、霊気(りょうき)や怨度(おんど)といった造語がややこしく思えることもありましたが、そういった心霊、オカルト的な要素を排除しても作品として成立しています。ですから、殊更心霊科学というタイトルに惑わされる必要はないでしょう。それらを切り離しても、十分に楽しめます。
特に意外な犯人、足跡のトリックの斬新さ、死体をバラバラにした動機の必然性など、目を瞠るものがあります。また、キャラクター小説としても優れており、主要キャストの三人の個性が光る娯楽作にもなっています。ただ、主役の陰陽師、御陵清太郎の土佐弁だけは頂けないですけど。

これだけの傑作が世に埋もれているのは残念な限りです。この作者を読むのは二作目ですが、かなりの手練手管ぶりを発揮しているように思います。もっと注目、評価されても良い作家ではないですかね。
本シリーズも三作発表されていますし、まだまだ楽しませ貰えそうです。

No.1119 4点 “菜々子さん”の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕 - 高木敦史 2020/05/24 22:30
“菜々子さん”が突然、3年前の事故は「事件だった」と語り出した。それは病床の僕にとってもはや検証不能な推理だけど、自然と思考は3年前に飛んでいた。そういえば、あの頃のキミって、意外と陰険だったよね―。“菜々子さん”が語る情報の断片は、なぜか次第に彼女が真犯人だと示し始める。“菜々子さん”が暴こうとしている真相とは一体!?可憐な笑顔の下に、小悪魔的な独善性が煌めく、まったく新しいタイプのヒロイン誕生。
『BOOK』データベースより。

Amazonの書評のあまりの高さに驚きを隠せません。またしても世評と己との乖離をつくづく思い知らされました。読者層がラノベ読みだから、その中身に物珍しさを感じたのか、ミステリ部分が目新しかったのか分かりませんが、そんな阿保なと思います。
ライトノベルのつもりで読んだのに、へヴィノベルだし、事件やトリックのあまりのショボさにがっかりだし、誰にも感情移入できないし、キャラも好きになれないし、どうでも良い描写が半分以上を占めているし、青春ミステリなのに清々しさの欠片もないし、その他諸々。褒めるべき点が一つも見当たりません。最終章までは0点でしたね。だから1点にしようと思っていましたが。

最終章とエピローグでちょっと盛り返し、評価点の底上げをせざるを得なくなりました。しかし、そこも回りくどいです。この人は、ラノベやミステリを書いちゃいけないと感じます。だったら何だったら良いのか、純文学でも志した方が賢明じゃないでしょうか。
尚、本作はスニーカー文庫の学園小説大賞優秀賞受賞作です。ホンマかいな。

No.1118 6点 怪しの晩餐- 牧野修 2020/05/22 22:18
さまざまな個人情報が取り引きされる名簿屋に勤める折原の元に、見慣れぬ名簿が舞い込んだ。そこには自分の情報の他に、最近世間を賑わしている連続惨殺事件の被害者たちの名前が載っている。一体何の名簿なのか?なぜ自分の情報が?にわか探偵となり謎を探るうちに―。殺人事件と記憶にある食卓の光景、さまざまなピースが嵌まるとき、衝撃のラストが待ち受ける。
『BOOK』データベースより。

怖さより気持ち悪さが際立っています。普通の感覚だと食欲が無くなったりするのかも知れません。まあ私にはこの程度では全然効きませんけどね。
二つのストーリーが並行して進み、やがて一つに収束していく手法はよくありがちですし、オチもちょっと脱力系です。勘のいい人はある程度予想出来る可能性があります。色々な意味で説明不足なのは否めず、最後までどうしても腑に落ちない点がありました。文体は問題ないのですが、ちょっと読者に対して不親切でしょうかね。

名簿通りに殺されていく被害者と、微かな記憶の断片に残る中華飯店の光景がどう繋がってくるのか、その辺りはミステリ的要素を存分に含んでいると思います。どこまでが現実でどこからが虚構なのか判然とせず、据わりの悪さが印象として残ります。でも結局は全てが・・・だったんでしょうね。「食」に対する拘りは強く感じます、テーマはそこにあるのではないかと思います。
でもなんだかんだで面白かったですし、ホラーとして十分に合格点でしょう。

No.1117 5点 Xサバイヴ 都市伝説ゲーム- 上甲宣之 2020/05/21 22:43
この人はこんなんばかり書いているんじゃないですか。引き出しの少ない作家というのは嫌ですねえ。それを読んでいる私もどうかと思いますが。
良い意味での疾走感は最後まで損なわれることなく続きます。そこは評価できますが、如何せんワンパターンのそしりは免れませんね。

要するに都市伝説もどきの、得体の知れない女というか怪物に追われるヒロインが、ある事をきっかけにモビルスーツ的なものを装着し激闘を広げるという物語です。単純明快で、途中までは面白かったんですが、バトルに入ってから場面の切り替わりがほとんどなく延々と続き、読んでいてちょっとダレました。
ツッコミどころ満載ではありますが、あくまでゲーム、エンタメとして割り切らないと真面目に読んだ人ほど腹が立ってくると思います。この人はこういう描きかたをするのだという共有意識を持って挑んだ方が無難でしょうね。

しかし、続編があるなんて聞いてなかったですよ・・・。このままではあらゆる疑問が不明のままです。ですので仕方なく2を買わざるを得なくなりました。勿論入手しますよ、丁度良いところで終わってしまうアニメみたいな感じですからね、忘れないうちに早い段階で読まないといけませんね。

No.1116 5点 帝都探偵大戦- 芦辺拓 2020/05/19 22:04
半七、銭形平次、顎十郎らが江戸を騒がす奇怪な謎を追う「黎明篇」。軍靴の足音響く東京で、ナチスが探す“輝くトラペゾヘドロン”を巡る国家的謀略に巻き込まれた法水麟太郎・帆村荘六らの活躍を描く「戦前篇」。空襲の傷が癒えぬ東京で、神津恭介が“あべこべ死体”に遭遇し、明智探偵事務所宛の依頼を受けた小林少年が奇禍に見舞われ、帝都を覆う巨大な陰謀に、警視庁捜査一課の名警部集団のほか、大阪など各都市からも強力な援軍が駆けつけ総力戦を挑む「戦後篇」。五十人の名探偵たちが新たな犯罪と戦うため、いま集結する。
『BOOK』データベースより。

ざっくり言うと煩雑、ですかね。黎明篇、戦前篇、戦後篇併せて総勢五十人の探偵が登場するわけですから、ただ名前だけでさして活躍しない人がほとんどですよ。一々各探偵が担当する事件が起こったらそれこそ大変なことになりますし。戦後篇なんかは何故金田一耕助が出てこないのか不思議ですし、明智小五郎も最後にちょっとだけ顔見せするだけ。神津恭介が最初に出てくるのは個人的には良かったですけどね。

しかし、相変わらずこの人は文章が下手というか、表現方法がちょっとずれているのではないかと思うんですよね。読みづらく、盛り上がりに欠けるのは毎度のことですね。
最も腑に落ちないのは、戦後篇の裏の主役がなぜあの人なのか、です。別にそんなビッグネームを出さなくても、二十面相で良かったじゃないですか。まあ確かに驚きましたけど。
作者は知っているけれど、探偵の名前はほとんど知らないというね、私も勉強不足でいけません。この作品は言ってしまえば、日本のミステリマニア中のマニアで、あらゆる名探偵に通じている人の為に書かれたとも言えるでしょう。私のような生半可なファンには敷居が高かった訳ですね。登場する全ての探偵譚を読んでいたら、それは楽しめたに違いありません。

No.1115 6点 千年岳の殺人鬼 - 黒田研二 2020/05/17 22:30
千年岳スキー場では、奇妙なタイムスリップ現象が噂されていた。そこへ、オーストラリアの日本語学校のグループが訪れる。ヘリスキーに興じる一行は、ある人物の企みでコースを外れてしまう。突然一人が不可解な死を遂げ、さらに一行の凄惨な最期を記した“未来手帳”が出現。殺人鬼はこの中にいるのか?本格推理の雄、二人による超絶的スキー・ミステリの逸品。
『BOOK』データベースより。

途中、最早これは合理的な解決は無理なんじゃないかと思ったくらい、SFの様な趣向が凝らされています。それをかなり強引にねじ伏せた感じですが、その辺りは評価されて良いと思います。
一つの事件を三方向から迫ってく手法で、一体これらがどのような関連性を持って繋がっていくのか、非常に興味が持たれるところです。最終的に真犯人に迫る過程は、緻密な推理の構築などではありません。そこがやや不満ではありますが、キラーエックスの正体、密室状態からの人間消失、意外性のあるトリックなど読みどころは満載されています。猟奇殺人鬼のキラーエックスを追う刑事達の章をもう少し詳細に描いてもらえるともっと良かった気がしますね。

それにしてもワームホールって結局何だったんだろうというのが心残りではあります。まあそれがあってこその事件だったので、そこは目を瞑るしかないんでしょうかね。

No.1114 6点 奇想ミステリ集- 山田風太郎 2020/05/15 22:33
奇想天外・荒唐無稽と絶賛をあびる山田風太郎作品。その原点が現代ミステリだ。「愛する義妹の孕む子の父親探しに狂奔するアプレ遊廓の経営者」「客の男たちを恋の騎士として競わせる経歴不詳の酒場のマダム」ら、戦後のデカダンスを色濃く映す主人公。戦慄と猟奇、妖美と夢幻の渦巻くなかに仕掛けられる想像を絶する動機と犯罪、ドンデン返しの結末。人情の機微を踏まえたトリックが翻弄する傑作集。
『BOOK』データベースより。

正直期待していた程ではありませでした。13の短編からなる作品集。7作目の『露出狂奇譚』まではそれなりに面白かったですが、それ以降は読み進むための推進力を感じることが出来ず、ダラダラとした読書になってしまいました。それでも6点を付けたのは、山風の底力でしょうかね。
一応ミステリ集となってはいますが、本格度はかなり低く、奇妙な味わいのミステリ風小説集って感じなのではないかと。ラストで捻りが加えられたものが多く、それでもハッとする程のものではないですね。

これといって秀作と言える作品は見当たりません。『奇想小説集』のほうが荒唐無稽だし自由だし、相対的に面白かったですね。こちらも奇想という割りには、作者の実力をイマイチ発揮できていない気がします。数々の名作に比して評価点は低くせざるを得ません。
多分、一月もすればほとんど忘れていることでしょう。

No.1113 6点 ミステリ魂。校歌斉唱! メフィスト学園- アンソロジー(出版社編) 2020/05/12 22:33
事件は学園で起きている!凄腕ミステリ作家陣が放つ、謎と伏線!!起立!ミステリの授業を始めます―学園ミステリ傑作集。
『BOOK』データベースより。

様々な形の学園ものミステリのアンソロジー。全てミステリ雑誌『メフィスト』に掲載されたちょっと長めの短編です。

『無貌の王国』 三雲岳斗  図書閲覧室で手首を切って自殺した少女の謎。本当に自殺だったのか、何故この場所で? 真相が明かされた後に待っているものは。6点

『≪せうえうか≫の秘密』 乾くるみ  校歌に纏わる暗号を解いていく物語。かなり地味でややこしい。5点

『ディフェンディング・ゲーム』 石持浅海  ある国(日本)の海軍士官学校の近辺で同時発生した4件の強盗未遂事件を、士官学校生が追う。 6点

『三大欲求』 浦賀和宏  嫌な性格で隠れオタクの主人公の歪んだ青春物語、途中までは共感できる点もある。しかし意外な展開に、そしてラストは・・・ 7点

『三猿ゲーム』 矢野龍王  こんなのばっかり書いているのか、この作者は。三猿というアイディアは良いが、途中のプロセスが何だったのか、疑問に思う。 6点


押し並べて、まずまず面白かったとは言えますが、特にこれといった突出した作品は見当たりませんでした。
総合点は6点で。  

No.1112 5点 “文学少女”と穢名(けがれな)の天使(アンジュ)- 野村美月 2020/05/10 22:20
文芸部部長、天野遠子。物語を食べちゃうくらいに愛するこの“文学少女”が、何と突然の休部宣言!?その理由に呆れ返りつつも一抹の寂しさを覚える心葉。一方では、音楽教師の毬谷の手伝いで、ななせと一緒に放課後を過ごすことになったりと、平和な日々が過ぎていくが…。クリスマス間近の街からひとりの少女が姿を消した。必死で行方を追うななせと心葉の前に、やがて心葉自身の鏡写しのような、ひとりの“天使”が姿を現す―。大好評シリーズ第4弾。
『BOOK』データベースより。

今回は『オペラ座の怪人』。一寸、いやかなり地味ですね。これまで好感度が高かった琴吹さんがついに・・・。まあその辺りはもどかしさもありつつ、なかなか良い感じで進行していきます。過去にこんな事があったのかと、驚かされます。まあ可愛いエピソードですけどね。しかし、琴吹さんの真意を汲み取ったのかどうなのか、まだ心葉の気持ちは推し量れません。

本作はそもそも謎らしき謎もほとんどなく、ミステリとしてかなり弱いと言わざるを得ません。その代わり、ラノベとしての魅力は今までよりも増しているのかも知れません。個人的にはあまり好ましくは思えませんでしたが。
遠子先輩の活躍もあまり見られず、麻貴先輩も出番なし。更に美羽の秘密も未だ欠片も描かれず。キャラの魅力という点で、琴吹さん以外全く期待できません。ちょっと淋しいですね。

No.1111 7点 雲上都市の大冒険- 山口芳宏 2020/05/08 22:33
これはなかなか、意外というか予想以上に面白かったですね。さすがに鮎川哲也賞受賞は伊達ではありません。
しかし、このタイトルはどうなんでしょう。これでは冒険小説と採られても仕方ないですよ。素直に惨劇とか、殺人事件とした方が誤解を生まず、ミステリファンにももっと受け入れられたのではないかと思います。確かに、冒険の要素はありますよ。しかしあくまで本格ミステリですのでね。履き違えないようにして頂きたいです。

本作の最も注目すべき点は、やはり密室状態の牢獄からの脱出法でしょう。これは予想の範囲内ではありましたが、そこから先の真相が意外すぎて、やられた感が半端ないです。更に細々した伏線や様々な謎が一気に回収される様は、読んでいて少なからずカタルシスを覚えました。
義手の探偵が名探偵を凌駕してしまっているのは、ちょっと複雑な思いがします。以降のシリーズを読んでみなければ分かりませんが、どちらの探偵がメインに持って来たかったのでしょう。正装した探偵の推理はダミーではありますが、なるほどとは思いました。まあ前例がある為、オリジナリティという点では手放しでは褒められませんが。
雰囲気としては、横溝正史をちょっとモダンにした感じとでも言うのでしょうか。こちらの方が時代としては古いですが、入り組んだ坑道や秘められた過去、怨嗟、二十年間幽閉された男、首なし死体、殺人現場に残された謎の文字など、本格のガジェットが盛りだくさんの魅力的な作品に仕上がっています。

No.1110 8点 麻雀放浪記(四) 番外編- 阿佐田哲也 2020/05/06 23:02
戦後も安定期に入った。私こと「坊や哲」は唐辛子中毒で身体を壊し麻雀から足を洗って勤め人となった。ある日、会社の仔分がおそろしく派手な毛皮の半オーバーに鍔の広いテンガロンハットをかぶった一人の男を連れてきた。ドサ健だった。そして私は、再び麻雀の世界に身を投じることになった。感動の完結篇。
『BOOK』データベースより。

『風の谷のナウシカ』は名作だけど、『天空の城ラピュタ』の方が好き的な図式がこの『麻雀放浪記(一)青春編』と『番外編』にも当て嵌まります。誰もが阿佐田哲也の代表作として『青春編』を挙げると思いますが、私個人としては『番外編』の方が好きなのです。それはまあ好みの問題としか言いようがなくて、たとえ坊や哲の出番が少なくても、他の登場人物の個性というかアクが強すぎて、もうそれだけでも満足です。本作では坊や哲は最早勤め人であり、博打から足を洗っています。ですので主役は李億春であり、ドサ健であり、森サブで、彼らの闘牌を読むだけで自分もその場にいるような錯覚さえ覚えます。

何でもかんでも挙げるなという声も理解できますが、これも歴としたピカレスクロマンです。
私は約30年ぶりくらいで読みました。多分通算5度目位の再読となります。麻雀を打ったことがない人にもお勧めします。決してハッタリではありません。読めば分かります。『青春編』の様な荒々しさや若さはありませんが、熟練した技の応酬、そして博打打として翳りゆく坊や哲の、諦めにも似た達観した姿勢が心に沁みます。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1829件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
綾辻行人(22)
京極夏彦(22)
中山七里(19)
折原一(19)
日日日(18)
森博嗣(17)