皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1829件 |
No.1209 | 7点 | 蟲と眼球とテディベア- 日日日 | 2020/11/07 22:54 |
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貧しいながらもケナゲに生きる高校生・宇佐川鈴音には愛する人がいた。知力、体力、財力、ルックスすべてに完璧な教師―その名は賢木愚龍。ある日あるとき鈴音が見た「林檎の夢」をきっかけに、二人は有象無象の輩にその純愛を邪魔されることとなる。それは「虫」という「個」を持たぬ謎の存在だったり、スプーンで武装(?)した「眼球抉子」なる名の猛き少女だったり―。魑魅魍魎を相手に二人は生き残れるのか?未曽有の学園ファンタジー開幕!第1回MF文庫Jライトノベル新人賞編集長特別賞受賞。
『BOOK』データベースより。 私が読んだラノベ史上一二を争う面白さ、楽しさ、心地よさでした。 世間ではグリコグリコ(眼球抉子・がんきゅうえぐりこ)と騒いでいますが、最初はそれほどでもないなと思っていました。しかし、次第にグリコに心惹かれていく自分に気付きました。シューズの蝶々結びが出来ず延々と格闘し、結局団子になったまま履く姿やファミコンの腕が一向に向上せず苦戦する姿など、細かなディテールが堪りません。誰にも関心を持たず心を開こうとしない、口の悪いグリコが結局美味しいところを浚ってしまい、主役の二人が霞みます。本作は彼女の為に書かれた物語と言っても良いでしょう。 物語としては新味がないものの、その筆捌きは見事の一言で、ここでそういう表現を持ってくるかと云う、その安心感はどの作家にも負けていないと個人的には思います。編集長特別賞受賞との事ですが、大賞でも良かったのではとないかと。 読み終わってもしばらく余韻が続き、頭の中でリフレインしている滅多にない体験をしてしまいました。自分にとってこの人が特別な作家になってくれることを今は祈るばかりです。 |
No.1208 | 6点 | 捩れ屋敷の利鈍- 森博嗣 | 2020/11/05 23:04 |
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エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣が眠る“メビウスの帯”構造の巨大なオブジェの捩れ屋敷。密室状態の建物内部で死体が発見され、宝剣も消えた。そして発見される第二の死体。屋敷に招待されていた保呂草潤平と西之園萌絵が、事件の真相に至る。S&MシリーズとVシリーズがリンクする密室ミステリィ。
『BOOK』データベースより。 『密室本』の一つですかね。 あれこれ考えると森ミステリの全てを読んでいないとダメみたいになるので、何も考えずに頭を空っぽにして楽しめば良いと思います。解説にあるようにマジンガーZ対デビルマンみたいな感じで。もっと言えばルパン対ホームズのように。 色々詰め込まれている割に短いので、すんなり終わってしまいその意味では物足りなさを感じないでもありません。ただ、意味深なエピローグは気になりますねえ。イマイチメビウスの輪を準えた巨大な捩じれ屋敷の意味が解りませんでした、密室にそれほど寄与しているとも思えないですし。 メインの密室のほうは力技というか、バカミス的トリックで笑わせてくれます。まあ森ファンにそんな事を言う人はいないでしょうけどね。Vシリーズも一作目から読んでいないし、S&Mシリーズも半端にしか読んでいない私でもそれなりに楽しめたので、森博嗣を読み込んでいる人には願ってもない一粒で二度美味しい作品なのではないかと想像します。 |
No.1207 | 4点 | 首交換殺人- 和田はつ子 | 2020/11/04 22:39 |
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「遺体の首がすげ換えられている」―六本木ヒルズと麻布のマンションで若い女性の遺体がそれぞれ発見されたが、なんと首が交換されていたのだ。被害者の一人は、資産家の娘で高校の非常勤講師、もう一人はホステスで、どうやら売春をして、ヒモに貢いでいたらしい。犯人の動機は一体何なのか?!警視庁捜査一課直属の心理分析官である加山知子は、早速プロファイリングをはじめるが…。現代に生きる男女の欲望と心の闇を描く、心理分析官・加山知子シリーズ、待望の書き下ろし長篇。
『BOOK』データベースより。 完全に名前負けしてますね。ミステリ的に言えばホワイダニット、フーダニットに当たると思いますが、犯人は登場時速攻で判りました(直感ですが)。ホワイに関しては本格ミステリではないので論理的に解明される訳ではありません。その動機もまあ何となくそうなのかくらいにしか感じられません。 ご都合主義もかなりのもので、容疑者も偶々加山知子が知己だった人物の関係者だし、捜査班本体の状況がほとんど描かれておらず、専ら加山知子と二人の助手である警察官による聞き込みなどに終始して全方向的な視点に欠けます。視野が狭く奥行きもなし、結果歪なストーリーになってしまっている印象です。 この作者はサイコサスペンスやサイコホラーを専門的に描いているようですが、それにしては不手際が目立つ気がします。真犯人の心理状態や人間像に迫れていませんし、ホラーとしてもサスペンスとしても警察小説としても中途半端ですね。えぐみや臨場感、外連味に欠け、描写力も弱く、主人公や助手に感情移入出来ないなどの欠点が目立つばかりです。 |
No.1206 | 6点 | 僕たちの好きな京極夏彦- 評論・エッセイ | 2020/11/03 22:39 |
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この世には不思議なことなど何もないのだよ―言葉と精神の怪を解く稀代の座敷探偵・中禅寺秋彦、掴みどころのない気ままな幻視探偵・榎木津礼二郎。前代未聞のキャラクターが大活躍する“京極堂シリーズ”から妖怪小説、江戸古典怪談のリメイク、京極版百物語“巷説百物語シリーズ”まで、妖艶なる京極作品の仕掛け、登場人物、キーワードを徹底解剖した、ファン待望のパーフェクトガイド。
『BOOK』データベースより。 『鵺の碑』が近日刊行との噂を前に一度読んでおこうと思った一冊。 京極堂シリーズ『姑獲鳥の夏』から『陰摩羅鬼の瑕』までと、百鬼夜行シリーズ、巷説百物語シリーズ、『ルー=ガルー』『どすこい(仮)』『嗤う伊右衛門』に至るまで当時としてはほぼすべての京極作品を網羅したガイドブックとして最適です。何より作品ごとに解説、評論がなされているので、混乱することなく読み進められます。しかも京極堂シリーズに関しては本作の中禅寺秋彦、榎木津礼二郎と銘打って、それぞれの活躍や見どころ等が書かれていてファンとしては嬉しいところでしょう。総勢9名の論客たちによる論戦が繰り広げられていますが、流石に京極作品とは切っても切れない宗教に関しての蘊蓄、特に真言立川流には閉口しました。前に書評した『京極夏彦の世界』でも登場した斎藤環が『狂骨の夢』における精神分析の齟齬を指摘して、文庫化に際して京極夏彦がそこを改変している点を自慢しているには少し驚きました。本当なのだろうか。 冒頭で水木しげるのインタビューが掲載されていますが、ここが一番感心しました。水木氏が飄々と京極に対する人間性を語るのは微笑ましくもあり、二人の絆が如何に強い物だったかを伺わせます。 中にはあからさまなネタバレを含んでいるものもありますので、一応注意が必要です。出来れば上記の作品全て読破してから挑むのが吉かと思いますね。しかし、タイトルの割には内容はしっかりとしたものであり、優れた評論本ではないでしょうか。 |
No.1205 | 7点 | 作家刑事毒島- 中山七里 | 2020/11/01 22:39 |
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新人賞の選考に関わる編集者の刺殺死体が発見された。三人の作家志望者が容疑者に浮上するも捜査は難航。警視庁捜査一課の新人刑事・高千穂明日香の前に現れた助っ人は、人気ミステリ作家刑事技能指導員の毒島真理。冴え渡る推理と鋭い舌鋒で犯人を追い詰めていくが…。人間の業と出版業界の闇が暴かれる、痛快・ノンストップミステリ!
『BOOK』データベースより。 一読後中山七里やるなと思いました。なかなかここまで突っ込んだ内容の作品は書けませんよ。出版業界の闇と影の部分を鋭く抉っている訳ですが、誰にも忖度せず誰にも迎合せず、アンチが増えることを想定しながらも、読者や作家志望者を揶揄するような皮肉を多分に有し挑発する姿勢には感心しました。ここまでやればむしろブラックと言うより清々しさすら覚えます。それでいてミステリとしても中身がしっかりとしていて、凄く充実しています。最終話ではおそらく氏自身もジレンマに陥ったであろうと想像される、原作と映像化との乖離にも言及していますし、本作でかなり重要人物と目される人間でさえ、容赦なく天誅を下している辺り、並みの作家でないことを自ら証明しているとも言えます。 辛口オトメとか図書館ヤクザとか、どんな人権侵害をしているのだろうかと思いましたが、ちゃんとフォローしているではありませんか。図書館で借りられる境遇にいる人は図書館を利用すればいいし、借りた本に対してどれほどの書評をしようと構わないと言明しています。これは作者の最低限の配慮と良心だと思いますが。 |
No.1204 | 7点 | 出版禁止 死刑囚の歌- 長江俊和 | 2020/10/30 22:43 |
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『出版禁止』は第2弾も、やっぱり、すごかった! 幼児ふたりを殺した罪で、確定死刑囚となった男。鬼畜とよばれたその男、望月は、法廷でも反省の弁をひとことも口にしなかった。幼い姉弟は死ぬべき存在だった、とも――。本書の「編纂者」はこう書いている。「人の悪行を全て悪魔のせいにできるなら、これほど便利な言葉はない」。あなたには真実が、見えましたか?
Amazon内容紹介より。 重苦しく、読んでいて心地よい感情を喚起する内容ではありません。まるでノンフィクションのようで、噛んで含めるように、言い換えれば執拗に描写されるさまは、異様な迫力をもって読者に迫ってきます。様々な媒体、ルポルタージュなどで構成されており、極端に会話文が少なく、複雑な人間関係を解き解して謎を追うライターたちの執念は最後に結実します。なぜ死刑囚望月は幼い二つの命を絶ったのか、そこには一筋縄ではいかない裏の裏が隠されており、人間の持つ醜さや残酷さを浮き彫りにします。また、刑務所で書された望月の短歌を暗号として捉えたところも重要なポイントとなっています。 それにしても、最後の一行には正直愕然としました。一体何なのだろう・・・。これはどう考えてもおかしいではないかと思いました。そして物語を遡って確認せずにはいられませんでした。なるほどそういうことなのか、と納得したのは暫くしてからでしたね。正直「出版禁止シリーズ」ということで、もっと違ったトリッキーな内容を期待していましたが、良い意味で裏切られました。勿論サスペンスの要素はふんだんに織り込まれていますが、社会派としても十分機能していると思います。 |
No.1203 | 6点 | 明治バベルの塔- 山田風太郎 | 2020/10/28 22:49 |
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万朝報の売上げを伸ばすため仕掛けた暗号とは(表題作)。漱石の文体模写をした『牢屋の坊っちゃん』、牛鍋屋チェーンの木村荘平が始めた火葬場のこけら落としは誰に(『いろは大王の火葬場』)。幸徳秋水を四分割して描いた『四分割秋水伝』の4篇を収めた短篇集。
『BOOK』データベースより。 所謂明治もの短編を集めた作品集。 表題作が頭一つ抜けている印象はあります。万朝報はライバル誌に打ち勝つため、朝刊の紙面にある暗号を月水金の三回掲載し、宝探し感覚で当時大金であった500円の賞金の目録をある地点に埋めるという、奇抜な物語。ところがある事件が起き、それが暗号と意外な結びつきを持ってくる結末。他3篇は並みの作家が描けば大して面白くないだろうと想像される作品ですが、風太郎の名文というかリーダビリティでもって思わずのめり込んでしまえる珍品に仕上げているのは流石です。 ある犯罪者が牢獄で様々な経験をする悲惨な物語を、一種のエンターテインメントに変貌させる『牢屋の坊ちゃん』。牛鍋屋のかたわら火葬場を始めるに当たって、著名人を最初に火葬しようと躍起になる『いろは大王の火葬場』。これは結末が読めてしまいますが、もう一捻りしているところが面目躍如。表題作でも登場した幸徳秋水が社会主義思想にかぶれ、ついには天皇爆殺を狙う突飛な発想の『四分割秋水伝』。どれも風太郎ならではの意外性のある奇想を発揮して、読み応えのある短編集にまとめていると思います。 尚、本格で登録されていますが、分類不能に入れるべきですね。 |
No.1202 | 5点 | わたしたちが少女と呼ばれていた頃- 石持浅海 | 2020/10/26 22:45 |
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横浜にある女子高に通うわたし、上杉小春には碓氷優佳という自慢の親友がいる。美しく聡明な彼女はいつも、日常の謎に隠された真実を見出し、そっと教えてくれた。赤信号のジンクス、危険な初恋、委員長の飲酒癖、跡継ぎ娘の禁じられた夢、受験直前の怪我、密かな失恋…。教室では少女たちの秘密が生まれては消えてゆく。名探偵誕生の瞬間を描く青春ミステリーの傑作。
『BOOK』データベースより。 良くも悪くも安定している石持浅海。これもまあまあでした。イラストも良い意味でデフォルメされることなく、等身大の女子高生の姿を写し取っている感じがします。 しかしこれだけ女子高生を登場させながら、誰一人として可愛げがあるのがいないのが何とも言えません。実際JKと言えば我々が美化する傾向にある為なのかも知れませんが、現実はこんなものという事でしょうかね。日常の謎を扱った連作短編集です。しかしこれって名探偵じゃなくてもほとんどの謎が解けるのではないかと思いますよ。まあ確かに碓氷優佳の観察力は並の人間とは違うかも知れません。が、明かされる謎は他愛のないものばかりで、かなり肩透かしを喰らいますし穴も多いです。 碓氷優佳はあくまでクールで、最終話では・・・。 【ネタバレ】 『優佳と、私の未来』 最終話。碓氷優佳のブラックさが明らかになります。結局彼女の謎解きは誰の為でもなく、誰も救わないという結論。結果オーライではあるけれど。 『彼女の朝』 アルコール中毒のクラス一の優等生。しかし、二日酔いなら匂いで誰でも分かるはずだけど。優佳が指摘するまで誰も気づかなかったのは、どう考えてもおかしい。 『握られた手』 百合疑惑のあるいつも仲良く手を繋いでいる二人のクラスメイト。しかし、日常生活に支障が出るほど視力が衰えているのなら、誰でもそれと分かるのではないか。優佳が指摘するまでもない。 |
No.1201 | 6点 | ヘンたて2 サンタクロースは煙突を使わない- 青柳碧人 | 2020/10/25 22:51 |
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幹館大学ヘンな建物研究会、通称「ヘンたて」に所属する亜可美は今日も個性豊かな仲間と活動中。なぜか同行した先輩のシューカツ先は床が芝生のパター製作会社、サークル幹事長が代替わりしての初遠征はまさかの卵とじ密室と、今回もヘンな建物てんこ盛り。そして伝説の4年生も合流したクリスマス合宿の舞台は、雪の結晶型コテージ。星の輝く夜に仕掛けられたサンタクロースの完全犯罪とは?好評建物ミステリ第2弾。
『BOOK』データベースより。 へんたてに纏わる日常の謎に挑戦する4編から成る連作短編集。 全体的に前作よりも出来が良いように思います。どの作品も一定の水準を上回っており、特に最終話は不可能性が最も高く、暖かみのある雰囲気と共に青春を感じさせる佳作に仕上がっていると感じます。ただ序盤に作者の意図に気付かれやすいのが悔やまれます。どれも変な建物の構想がよく練られており、それが仕掛けと絶妙にマッチしている点など評価できると思います。 メンバーは全部で十人ですが、さりげなく作中でそれぞれの個性が描写されていて、混乱することはありません。その手腕だけでも素晴らしいのではないでしょうか。 そして各話に見取り図が随時挿入されて、読者の中でイメージしやすく、その丁寧な仕事ぶりには感心します。 青春ミステリとして登録されていて、それは間違いないと思いますが、個人的には日常の謎の方に重心が置かれている気がします。しかし、メンバー全員が個性を発揮し、青春群像としての一面も持ち合わせていたりします。まあとにかく全てに於いて後味がよく心地よく読み終えられました。ちなみに、私も本作で名前の隠された秘密について漸く気づきました。 |
No.1200 | 6点 | 姉飼- 遠藤徹 | 2020/10/23 22:23 |
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さぞ、いい声で鳴くんだろうねぇ、君の姉は―。蚊吸豚による、村の繁栄を祝う脂祭りの夜。小学生の僕は縁日で、からだを串刺しにされ、伸び放題の髪と爪を振り回しながら凶暴にうめき叫ぶ「姉」を見る。どうにかして、「姉」を手に入れたい…。僕は烈しい執着にとりつかれてゆく。「選考委員への挑戦か!?」と、選考会で物議を醸した日本ホラー小説大賞受賞作「姉飼」はじめ四篇を収録した、カルトホラーの怪作短篇集。
『BOOK』データベースより。 『姉飼』 怖いというより気持ち悪い。これまで読んだことのないような異様な作品。グロを通り越して究極の愛の形を示しているのだろうか。解説の大槻ケンジが書いているように、そこここに地雷が埋め込まれている。まさに読者への挑発。7点。 『キューブ・ガールズ』 カップヌードルのようにお湯を入れるだけで、好みの彼女が出来上がるという、SFっぽい作品。5点。 『ジャングル・ジム』 ジャングル・ジムを擬人化し、彼を慕う子供たちやサラリーマンとの交流を描く。悲哀が漂うラストが沁みる。 6点。 『妹の島』 オニモンスズメバチに刺され体中を侵された吾郎とその息子たちの怪しい人間関係。タイトルに妹を持ってきているが、あまり表立ってはいない。 5点。 いずれの作品も、あまり類を見ない独自の路線を築いているように思います。オリジナリティの高い点は評価しても良いのではないかと。まあキワモノには違いないですが、ちょっと毛色の変わったホラーを求める向きにはお薦めでしょうか。 |
No.1199 | 4点 | 兄の殺人者- D・M・ディヴァイン | 2020/10/22 22:40 |
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霧の夜、弁護士事務所の共同経営者である兄オリバーから急にオフィスに呼び戻されたサイモンは、そこで兄の射殺死体を発見する。仕事でも私生活でもトラブルを抱えていたオリバーを殺したのは、一体何者か?警察の捜査に納得できず独自の調査を始めたサイモンは、兄の思わぬ秘密に直面する。英国探偵小説と人間ドラマを融合し、クリスティを感嘆させた伝説的デビュー作、復活。
『BOOK』データベースより。 クリスティが絶賛したと言われる本格推理小説。 ですが、何度か挫折しかけました。面白くないから。ショボいアリバイトリック、意外性のない犯人、探偵の不在、上っ面だけの人間模様、起伏のないストーリー、どれを取っても詰まらなさの塊のようなものです、少なくとも私にとっては。私は古の良質本格推理小説を読み解ける審美眼も持たないダメ人間なのでしょうか。しかしよく考えてみて下さい。例えば現在の日本でこの作品が新人のデビュー作として発表されたとして、果たして読者に受け入れられると思いますか。私には大した話題にもならずに読み捨てられるような気がしてなりません。 正直、心に残っているのは記述者で主人公のサイモンとある人物の対決のシーンくらいです。事件の陰に隠された醜い人間のさがのようなものには嫌気が差しました。その分逆に印象深いと言えばそうなのですが。海外ミステリのファンを敵に回すわけではありませんが、本作のどこがそんなに魅力的なのかさっぱり解りません。多分私が馬鹿垂れなのだと思います。それにしても本サイトもAmazonも評価が高すぎるのではないですかね。 |
No.1198 | 6点 | 暁天の星- 椹野道流 | 2020/10/20 22:35 |
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どこかアットホームな雰囲気の大阪O医科大学法医学教室。新人伊月は先輩医師ミチルにしごかれていた。ある日、電車に身を投げた女性の遺体が運ばれてくる。さらに車に轢かれた女性も。遺体の彼女たちには世にも不思議で奇怪な共通点があった。法医学を極めた女性医師が放つ傑作シリーズの原点を新装版で。
『BOOK』データベースより。 過去に法医学教室に勤めていた作者による、鬼籍通覧シリーズ第一弾。 結論から言うと残念ながら本作はミステリではありません。電車に身を投げ轢断された女性と、走ってくる自動車の前に突如飛び出して轢き殺された女性、この二つの事件が論理的に解決されていたら、最低でも7点は付けていたと思います。最終章まで、この二人の奇妙な共通点を中心に謎を追う二人の主人公という構図は、サスペンスそのものですが、最後にホラーとして片付けられてしまうのは、誠に惜しいとしか言いようがありません。まあそりゃそうだろうなとは思いますけどね。こんなものに真っ当なトリックが存在したら、それこそ新発明ですから。 しかしながら、読み物としてはそれなりに面白く、特に無残な死体の解剖シーンには見るべきものがあります。そこには実際その場に立ち会っていた者にしか書けない生々しさがあり、決してグロではなく真面目に描かれているところに好感が持てます。二作目の書評でも書きましたが、いまいちキャラが立っていないのがどうにも悔やまれます。ミチルはともかく、伊月はチャラすぎますね。こんな医者がいたらちょっと嫌だなと思いますよ。都築の存在感はやや印象的ではありますが。 |
No.1197 | 6点 | 借金取りの王子- 垣根涼介 | 2020/10/18 22:40 |
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「誰かが辞めなければならないなら、私、辞めます」企業のリストラを代行する会社で働く真介の今回の面接相手は―真面目で仕事もできるのになぜか辞めたがるデパガ、女性恐怖症の生保社員に、秘められた純愛に生きるサラ金勤めのイケメンなどなど、一筋縄ではいかない相手ばかり。八歳年上の陽子との恋も波瀾の予感!?勤労者にパワーをくれる、笑って泣ける人気シリーズ、第二弾。
『BOOK』データベースより。 前作に比べると面接シーンが少なくなっている気がします。必然的に圧倒されるような緊迫感は薄まっていると思います。となると肝心なのは作者の引き出しが如何に多いかですが、その辺りは流石に手慣れたものです。それぞれの面接の相手の生活や人生を掘り下げて、その人なりの人生観や処世術に関するドラマを展開していき、ストーリーを広げていっています。 どの話も内容テンコ盛りで、もうお腹一杯です。それでも読んでいて嫌気が差して来たりしないのは、読み心地の良さと後味の爽やかさにあると思いますね。面接を受けた後に様々な将来を見つめ直して、希望を託していく姿には心がホッとする自分がいたりします。 個人的にベストは第一話の『二億円の女』でしょうか。年間二億円の売り上げを上げる百貨店外商部のトップの女社員は何故リストラを受け入れようとするのか?そこに彼女なりの決断が生々しく描かれており、読み応えは十分です。 また最終話の『人にやさしく』はちょっと趣向を変えて、主人公の真介と同棲相手の陽子との対決が見ものとなっています。これもまた本作の掉尾を飾るに相応しいスリルのある良い作品だと思いますね。 |
No.1196 | 5点 | 平井骸惚此中ニ有リ 其弐- 田代裕彦 | 2020/10/16 22:53 |
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「大丈夫、すぐに小生が解決してみせるからね」那須の一等地にある、山深い洋館のホテル。窓の外を眺める河上くんの目に飛び込んできた異様な光景―轟く雷鳴に照らし出されたのは、露台から吊された華族・日下家跡取りの変わり果てた姿。怯える涼嬢と撥子嬢に、勢い込んで告げる河上くんでありましたが…。担当編集者、緋音嬢の誘いにより、真夏の帝都を逃れ避暑と洒落込む、探偵作家・平井骸惚一家と弟子の河上くんたち。しかし、ただ安穏と避暑などと、世の中そうは甘くはなく…。―私は命を狙はれてゐる 緋音嬢が、骸惚先生と河上くんに手渡したのは、日下家長男である、直明氏からの封書でした。折からの嵐により、外部との連絡手段を絶たれた洋館。雷鳴と豪雨に紛れるように、一人、また一人と消されていく日下家の跡取りたち―。絡む華族四兄弟の思惑に、探偵作家・平井骸惚と河上くんが挑む、本格推理譚第二弾。
『BOOK』データベースより。 何ですか、この文体は。大正の時代の話なのに会話文はむしろ現代的なのはいささかの問題もありません。問題は地の文、~して。~で。が文章の末尾に来ていて、物凄く違和感を覚えます。 『BOOK』データベースではなんだか凄そうな印象を受けますが、大したことはありません。爵位の継承を巡る連続殺人事件で、ミステリとしては至極平均的で特筆すべき点はありません。アリバイトリックや密室に関して言えばあっさりし過ぎな感が強く、かなりのご都合主義や偶然性に頼った事件の連続なのは間違いないでしょう。キャラ小説としてはまあこれも普通で、さして個性的でクセの強い人物は登場しません。河上君と涼嬢の遣り取りなどは微笑ましく、その辺りが若年層に受けているのかも知れませんが。尚、男尊女卑の風潮が未だ強く残る大正時代の雰囲気は全くありません。 それにしても、本シリーズが何作も世に出ているのには驚きを隠せません。こんな平凡な作品が第二弾で、その後も続いていることは私などにしてみれば何だかなあと思えてなりません。 しかし後味は悪くありませんでした。ちょっと爽やかな余韻を残しているところで+1点。評点はやや甘め、いや結構甘めです。 |
No.1195 | 8点 | ボディ・メッセージ- 安萬純一 | 2020/10/15 22:35 |
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アメリカはメイン州・ベックフォード、ディー・デクスター探偵社に一本の電話が入る。探偵二名をある家によこしてほしい、そこで一晩泊まってくれればいいという、簡単だが奇妙な依頼。訝しみながらもその家に向かったスタンリーとケンウッドに、家人は何も説明せず、二人は酒を飲んで寝てしまう。しかし、未明に大きな物音で目覚めた二人は、一面の血の海に切断死体が転がっているのを発見。罠なのか?急ぎディーの家に行って指示を仰ぎ、警察とともに現場に戻ると、何と血の海も死体も跡形もなく消え去っていた―。事件を追う探偵社の面々の前に、日本人探偵・被砥功児が颯爽と登場する。第二十回鮎川哲也賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 何時以来でしょうか、真相にこれほど大きな衝撃を受けたのは。 確かに選考委員の一人島荘が言っているように、裏ストーリーが弱いというか逃げているようにも感じますし、真犯人が判明しても、はあ?この人誰だっけと云う位影が薄い印象でした。これは私の記憶力の問題かもしれませんが。そして、犯人が指摘されるべき理由が端折られています。書き様がなかったとも取れます。他にも小さな瑕疵がないとは言えません。しかし、ワンアイディアをこれだけ膨らませて、首と片腕を失った四人の切断死体とその消失といった強烈で謎めいた事件を演出し、数多の謎を数え上げる事態に持って行った手腕は新人とは思えない程です。 ただ、新人らしいと言ってしまえばそれまでですが、文体がかなり堅いと感じました。舞台がアメリカの為故意にハードボイルドの様な書き方をしたのは、間違いではないかもしれませんが、手練れとは言い難く、そのタッチさえ違っていれば更なる傑作になったのではないかと、個人的には思います。それでもこの点数を献上するに吝かでなかったのは、私自身の嗜好にピッタリだったのが大きな要因だったのでしょう。だから一般常識的には7点が妥当かも知れません。 |
No.1194 | 2点 | 子どもの王様- 殊能将之 | 2020/10/13 22:13 |
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団地に住むショウタと親友トモヤ。部屋に籠もって本ばかり読んでいるトモヤの奇妙なつくり話が、ショウタの目の前で現実のものとなる。残酷な“子どもの王様”が現れたのだ。怯える親友を守るため、ショウタがとった行動とは?つくり話の真相とは?『ハサミ男』の殊能将之が遺した傑作をついに文庫化!
『BOOK』データベースより。 死者に鞭打つような事を書きたくはないですが、はっきり言って駄作です。どこか良い点を見つけるとしたら、掲示板の地図の錯覚トリックくらいですかね。それがなければ1点でした。ジュブナイルだと思って舐めているのかと思うくらい、レベルが低いです。編集も編集ですね、これでゴーサインを出したのはあまりにも杜撰なチェックでしょう。ミステリーランド叢書として2000円以上出して新作を購入した人は、さぞかし業腹だったのではないかと想像します。壁本ですね。 大人が読んで面白くない本は子供が読んでも面白くないと思います。その逆もまた然りで、これは読むだけ時間の無駄というものです。最大の謎ともいうべき「子どもの王様」の正体も意外性の欠片もなく、他に読みどころがあるわけでなし、何をどう楽しめば良いのかさっぱり分かりませんでした。プロットも適当だし、ストーリーらしいストーリーもなく、盛り上がるシーンも皆無で・・・。これ以上書きたくないです。 |
No.1193 | 6点 | 六花の勇者 4- 山形石雄 | 2020/10/12 22:28 |
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「七人目」の脅威がいまだ残る六花の勇者たちは、ドズーの話から、テグネウの策略の一端を知る。「黒の徒花」とよばれる聖具が、「七人目」に関する重大な手掛かりであるというのだ。アドレットはその聖具が造られた神殿へ向かい、正体を暴くことを決める。一方、テグネウは六花の勇者を阻止するため、人間を兵器に作り替えた『屍兵』を動員する。『屍兵』の中にはアドレットの故郷の人間も含まれていることを知ったロロニアが『屍兵』を救う方法はないか、と言い出し…!?伝説に挑み、謎と戦う、圧倒的ファンタジー、第4幕!
『BOOK』データベースより。 約7年ぶりに本シリーズを再発進しました。このブランクがどう響いてくるのか不安はありましたが、徐々に記憶を辿りながら何とか違和感なく読むことが出来ました。やはり面白い。全編屍兵とのバトルに終始します。その中にもドラマ性がありつつ、ロロニア目線で描かれています。ロロニアの特性を生かし、アドレットの過去を探りながら、ある人物との友情を戦闘と並行して語られるという、それなりにドラマティックな展開となっています。 そして重要案件である「黒の徒花」と「七人目」の情報を物語の最後でアルドレットが知ることになり、次巻に興味を繋ぐ巧妙な結末を迎えるという、心憎い演出で締めくくられます。 このキャラはこんな感じだったのかと、思い出し手探りながらも楽しい読書の時間ではありました。7年経てもある程度憶えていたという事は、まあかなり印象深いシリーズだったのかなと思います。 |
No.1192 | 6点 | 人面町四丁目- 北野勇作 | 2020/10/10 22:19 |
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大災害に被災し、行き場を失った男が遺体安置所で出会った不思議な女――。いっしょに来る? その言葉に導かれ、女の故郷人面町で、いつしかともに暮らし始めた男が出会うこの世のものとは思えぬ異形のものたち。そして、曖昧な記憶の糸をたぐりよせ、男がたどりついた、哀しくも酷いあの日の事実とは!? 日常のすぐそばで、ひたひたと迫る恐怖を描く逸品。
Amazon内容紹介より。 一応ホラーで登録しましたが、ファンタジーやSF要素も多分に含まれた連作短編集。 雰囲気としては綾辻行人の『深泥丘奇談』シリーズに近いと思います。ただ流石に綾辻程の文学性やミステリ的趣向はありません。平凡な日常に突如として現れるとんでもない怪異を描いていますが、さして怖くはないです。オチもあったりなかったり、ホラーとして特記すべき点はあまり見られません。この作者特有の恐怖の中にほのぼのとした情感が感じられ、何とも言えないクセのようなものがありながらも、後を引かない印象の薄さが特徴でしょうか。悪く言えば、すぐに忘れてしまいそうな影の薄さですね。 ちなみに、レプリカメが登場した時は唖然としました。こんなところで北野ワールドを持ち出してくるのかと、ちょっと意表を突かれましたね。短編集というより長編で一話ごとに趣向が変わってくる感じですかね。何となく各話に相互の繋がりがありますし。 |
No.1191 | 6点 | 阿弥陀- 山田正紀 | 2020/10/09 22:21 |
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「恋人がエレベーターに乗ったまま戻ってこない」という男の訴えを聞いた警備員がビル内を捜すが女の姿はなかった。監視カメラの目をかいくぐり、ビルの外に出ることは不可能な状況。女の行方は、そしてなぜ姿を消したのか。本格ミステリーのひとつの到達点と称された傑作長編。
『BOOK』データベースより。 クイズやゲーム感覚で楽しめる本格パズラー。前置きなしにいきなりOLが密室状態のマンションから消えます。そして章ごとに謎が増え続け、一旦解決したりもしますが、肝心の謎は謎のままで、最終的にハウとホワイが残ります。怪しげな教祖の異臭騒ぎや銀行の騒音から全く別の事件が発覚し、ストーリーに広がりと変化が生まれます。舞台が固定されているので、その辺りの気遣いは嬉しいところ。 探偵役の風水火那子が提唱する仮説は、自身により否定され、謎=伏線が増えるばかりでなかなか真相に達しません。そして意外な事件の様相はかなり肩透かしを喰らった感じで、ここで評価は大きく分かれることになるでしょう。人間消失の方法はともかく、ホワイの方は俄かには納得し難いのではないかと思われます。 悪く言えば竜頭蛇尾でしょうが、途中の畳みかける謎の数々には眩暈がするほどで、パズラーとして、また多重解決物として十分に納得の出来ではないかと思います。 |
No.1190 | 4点 | ゴーストケース 心霊科学捜査官- 柴田勝家 | 2020/10/07 22:18 |
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地下アイドル・奏歌のCDが誘発する、ファンの連続自殺事件。CDの呪いの科学的解明に挑むのは、陰陽師にして心霊科学捜査官の御陵清太郎と警視庁捜査零課の刑事・音名井高潔のバディ。奏歌は自殺したアイドルに祟られているという。事件の鍵となる、人間が死後に発する精神毒素“怨素”を追って、地下アイドルの光と影に直面した御陵と音名井が導き出す「呪いの構造」とは?
『BOOK』データベースより。 二作目が良かったのでシリーズ一作目も期待しましたが、これは駄目ですね。第四章まではその世界観と登場人物の人となりを読者に知らしめるために費やされた、前振りのようなものです。その後漸く話が動き始めたかと思いきや、結末はややこしくスッキリしない、カタルシスを得られるものではありませんでした。それにしても読み難いのは、御陵の土佐弁ばかりではなさそうです。作者の力量が全然発揮されていない気がしてなりません。 キャラの魅力も伝わってきませんし、前半要領よく人物紹介がなされているとは思えません。これといった謎もなく、密室トリックも取って付けたようなチャチなものです。本来ならもっと盛り上がりそうな御陵があるアイドルの死に報いるべく、立ち上がるシーンなども何となく流されてしまい、ここは読者に感動を与える重要な場面だと、こちらも身構えて読みましたが、その素っ気無さにがっかりしました。 正直読む前から嫌な予感がしていましたが、それが当たってしまいましたね。 |