皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1829件 |
No.1269 | 7点 | 首吊少女亭- 北原尚彦 | 2021/01/29 22:21 |
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英国留学中に、ネス湖へのツアーを申し込んだ女子大生の私。だが、参加者は日本人の私ひとり。ガイドが運転する車でネス湖へ向かうと、道路沿いに小さなパブが建っている。看板には「The Hanging Girl」と奇妙な名前がついている。ヴィクトリア朝時代に起きた少女の首吊り自殺に由来があるというが…。―表題作「首吊少女亭」19世紀末、帝都ロンドンを舞台に、怪奇と幻想で織りなされる珠玉のヴィクトリアン・ホラー。
『BOOK』データベースより。 何と言っても起承転結が確りしているのが良いですね。難を言えば結が呆気ない点でしょうが、野卑なシーンなどでも品性が感じられ、文章が美しいです。ロンドンを舞台にイギリスと言えばという要素が盛り込まれていて、何となく当時の帝都の風景が浮かんでくる様でもあります。『眷属』ではシャーロック・ホームズらしき人物(あとがきで当人だと言明されている)がちょっとだけ出てきますし、表題作ではネッシーに関する記述があったりします。12の短編が納められていますので、様々な毛色の違う作品が楽しめると思います。全体的にはホラー色が濃いですが、怖いと言うよりラストでこの先どうなってしまうのか不安感を煽る物が多い気がします。 個人的には切り裂きジャックを扱った『妖刀』、古書愛好の度が過ぎて予想もしていなかった事態に陥る『愛書家倶楽部』、最も奇想が際立ったとんでも小説『火星人秘録』、下水道を浚って金属などを拾い集め金にする者たちに訪れる恐ろしい結末を描いた『下水道』、後はやはり表題作が印象に残ります。残りの作品も含めて駄作凡作のない良品揃いの短編集だと思います。 |
No.1268 | 5点 | 怪物の木こり- 倉井眉介 | 2021/01/27 22:52 |
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第17回『このミステリーがすごい! 』大賞受賞作は、サイコパス弁護士 vs. 頭を割って脳を盗む「脳泥棒」、最凶の殺し合い! すべては26年前、15人以上もの被害者を出した、児童連続誘拐殺人事件に端を発していて……。自分は怪物なのか? では人とは何か? 善悪がゆらいでいく主人公に「泣ける!」との声もあがったサイコ・スリラー。
Amazon内容紹介より。 文章はスカスカな上内容も薄っぺらいです。これで1200万円ゲットとはある意味凄いです。賞金が高いのに作品のレベルが低い『このミス』大賞受賞作の典型的な例ですね。審査員はどこを読んで選んだのでしょうか。タイトルからして怪しいなと思ったんですけどね。怪物マスクとか脳泥棒とかネーミングがダサいです。そして色々説明不足で説得力がありません。臨場感、緊迫感も無いし、サイコパスを二人も出しながら、その特異な思考などの心理描写も弱いです。 はっきり言って素人クオリティの作品だと思います。初稿に加筆訂正したそうですが、本当ですかね。児童誘拐事件の動機も曖昧ですし、怪物マスクの犯行動機はもっと納得できません。兎に角ストーリーに深みが感じられず、新味もありません。一応5点付けましたがその中でも最下層ですね。 |
No.1267 | 6点 | 壷中の天- 椹野道流 | 2021/01/26 22:24 |
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ゲーセンで死んだ若い女性の遺体が、O医科大学法医学教室に運ばれる途中、警察のワゴン車の中から忽然と消え失せた。「風太がずんこを殺した」「アヒルの足は、赤いか黄色いか?」残されたメッセージは二つ。監察医・伊月崇と伏野ミチルは謎を明かせるか!?絶望のち驚愕ときどき癒し。シリーズ待望の最新作。
『BOOK』データベースより。 話としては文句なく面白いんですが、ホラーですからね、トリックとかはないです。これがミステリだったらとんでもない傑作という事になろうと思います。ですからそこはお間違いのないようにして頂きたいです。死体消失の謎はどうなったんだとか論理的な解答は得られません、残念ながら。まあそれを考慮してもホラーとして良く出来ているとは思いますが。 主要キャラを除いて最低限の登場人物で話を簡潔に纏められており、二つの事件を上手く繋げていきます。が、所々先が読めてしまう点はマイナスだと思います。最後の司法解剖の模様もどこかでネタバレしていましたし、それが無くてもまあそんな事だろうと予想は付いたと思います。ですから、大きな驚きはありませんでしたが、本シリーズに於いては平均的な出来ではないでしょうか。読み終わってみて、そこまでの満足感は得られませんが、少なくとも退屈する事はなかったですし、なるほどと腑に落ちる部分も少なくはありませんでした。 |
No.1266 | 7点 | 蟲と眼球と白雪姫- 日日日 | 2021/01/25 22:29 |
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エデンの林檎の不思議な力で人知を越えた存在となった少女・眼球抉子―通称グリコ。不死身の彼女は、千余年の時の中で初めて、「大切な存在」宇佐川鈴音と出会ったが、林檎を狙う者たちとの戦いのなか、鈴音は意志のない生ける屍・肉人形となってしまった。グリコは、「仲間」になった殺菌消毒・美名、不快逆流・蜜姫とともに、鈴音をもとに戻せる人物―『一人部屋』を探し出すが、あと一歩のところで、宿敵『最弱』に鈴音を奪われてしまう。鈴音を助けだそうと、グリコたちは奔走するが、街にはバケモノが溢れ出し始めていた…。本当の幸せを取り戻すための戦いがついに終結!不器用な優しさを秘めたグリコたちの物語、最終巻。
『BOOK』データベースより。 プロローグとエピローグのみで構成されており、いわば後日譚の様相を呈しています。戦いで亡くなった者、生き残った者達の鎮魂歌であり、最終巻に相応しいエピソードで満載です。最終的にはグリコと鈴音と賢木の三人がその後どうなっていくのかが興味深く描かれていて、その意味でもこれだけ広げ過ぎた物語をどう収束させるのかという問いに、十分応えるものだと思います。 ここに至るまでの道中は、神話が絡んだり欠片、蟲、林檎、能力者などの複雑な要素がない交ぜになってかなり分かりづらくなってしまい、結局第一作で完結していた方が良かったのではないかとも思えましたが、結果的にはシリーズ化もアリだったかと今は考えています。エピローグの後のプロローグには唖然としました。まあしかし、エンディングとしては大いに感心させられました。ただ、これには賛否両論あろうかとは思います。個人的にこういう形でしか完結できなかった作者に同情しますし、憐れみすら覚えます。しかし、読後感の爽やかさは何物にも代えがたい愛しさを感じたのでした。 |
No.1265 | 6点 | 蟲と眼球と愛の歌- 日日日 | 2021/01/23 22:53 |
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エデンの林檎の不思議な力で人知を越えた存在となった少女・眼球抉子―通称グリコ。不死身の彼女は、千余年の時の中で初めて、「大切な存在」宇佐川鈴音と出会ったが、林檎を狙う者たちとの戦いのなか、鈴音は意志のない生ける屍・肉人形となってしまった。鈴音の恋人・賢木愚龍は彼女につきそい、献身的に世話をするが、それだけでは鈴音は救えない。グリコは、「仲間」になった殺菌消毒・美名、不快逆流・蜜姫とともに、鈴音をもとに戻せる人物―『一人部屋』を探しはじめた。一方『一人部屋』は、自分を助け出したとある人物と、奇妙な同居生活を送っていた。“幸せ”を取り戻すための戦いは佳境へ。新感覚ファンタジー。第四弾。
『BOOK』データベースより。 最早タイトルの蟲はほとんど関係なくなっています。序盤は前作から名前だけ出ていた通称一人部屋と初登場の破局の二人で進行していくため、物語にあまり馴染めませんでした。第一作目で主人公と思われていた宇佐川鈴音と賢木愚龍の出番は少なく、やはり当初のラノベ感が失われてしまっています。そして、読み所はグリコを始め林檎を体内に持った異能者同士のバトルという事になります。これは言ってしまえば『ワンピース』の能力者たちの命懸けの戦いに似ています。そこまで派手ではないかも知れませんが、腕がちぎれようが内臓が抉られようが、死なない者たちならではの死闘となっています。 本シリーズも次回で最後となります。本作の興奮が冷めぬうちに次作も続けて読みたいと思います。又、その次に番外編的な『ダメージヘア』もありますので、そちらも順次読んでいきます。 はてさてどんなラストが待ち受けているのやら。シリーズを通して一定の水準をクリアしていると思いますので、一応期待はしています。 |
No.1264 | 7点 | 秋山善吉工務店- 中山七里 | 2021/01/22 22:35 |
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父・秋山史親を火災で失った雅彦と太一、母・景子。止むを得ず史親の実家の工務店に身を寄せるが、彼らは昔気質の祖父・善吉が苦手。それでも新生活を始めた三人は、数々の思いがけない問題に直面する。しかも、刑事・宮藤は火災事故の真相を探るべく秋山家に接近中。だが、どんな困難が迫ろうと、善吉が敢然と立ちはだかる!家族愛と人情味溢れるミステリー。
『BOOK』データベースより。 イジメ、反社会的勢力、モンスタークレーマーに悩む母子を、まるで『スカッとジャパン』のように一刀両断で解決する祖父善吉の活躍を描く爽快な作品。第三章までは火災で父を失った息子の太一、雅彦、妻の景子の一人称で描かれ、それぞれの心情が痛いほど伝わってきます。善吉の出番は専ら終盤で、一体この老人は何者?と誰もが目を疑うような超人ぶりを発揮し、何事にも微動だにしない信念を見せつけます。又第三章では善吉に成り代わってその妻の春江がその老獪さで、クレーマーをやっつけます。しかし、それもまた善吉の助言によるものなのです。 第四章、最終章では刑事の宮藤が火災事故の真相を暴くミステリに変貌し、まるで万華鏡のように章ごとの色や模様を変え、様々な変容を見せます。その手際は見事の一言に尽き、流石に中山七里、その剛腕はまだまだ衰えを見せません。最終盤では思わず落涙してしまったのは私だけではないはずです。 |
No.1263 | 7点 | QED 式の密室- 高田崇史 | 2021/01/20 22:43 |
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「陰陽師の末裔」弓削家の当主、清隆が密室で変死体となって発見された。事件は自殺として処理されたが、三十年を経て、孫の弓削和哉は「目に見えない式神による殺人」説を主張する。彼の相談を受けた桑原崇は事件を解決に導くと同時に「安倍晴明伝説」の真相と式神の意外な正体を解き明かす。好調第5弾。
『BOOK』データベースより。 講談社ノベルス刊『密室本』の中の一冊。歴史ミステリとしての側面よりも、本格ミステリの密室物として評価したいと思います。その二つの要素を上手く融合しようという試みは買いますが、どうもそれらが確りとリンクしているとは言い難いと感じます。完璧かに思えた密室がある事実により音を立てて崩れ去る様は読んでいてとても感激しました。多くの読者にはこの密室のトリックに物足りなさや他愛なさを覚えたかも知れませんが、私には十分満足のいく解法でした。 QEDシリーズでなくてはならない日本の歴史事情、安倍晴明や式神などに関する薀蓄は、私には正直半分以下しか理解できませんでした。ですので、それらを十分納得したと仮定して7点としました。 結局式神の正体とは何かという命題と密室がどう関連してくるかが、一つの読みどころであるとは思いますが、特別式神が物語全体に大きな影響を及ぼすものとは言えない気がしましたね。 |
No.1262 | 7点 | 蟬かえる - 櫻田智也 | 2021/01/19 22:25 |
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ブラウン神父、亜愛一郎に続く、“とぼけた切れ者”名探偵である、昆虫好きの青年・〓沢泉。彼が解く事件の真相は、いつだって人間の悲しみや愛おしさを秘めていた―。十六年前、災害ボランティアの青年が目撃したのは、行方不明の少女の幽霊だったのか?〓沢が意外な真相を語る「〓かえる」。交差点での交通事故と団地で起きた負傷事件のつながりを解き明かす、第七十三回日本推理作家協会賞候補作「コマチグモ」など五編を収録。注目の若手実力派・ミステリーズ!新人賞作家が贈る、絶賛を浴びた『サーチライトと誘蛾灯』に続く連作集第二弾。
『BOOK』データベースより。 この作者の文章は決して上手ではないと思います。しかし、文中から良心や真摯さは伝わってきます。そして何より昆虫が事件の中枢に絡んでくる辺りは評価できる点ではないかと思います。 ブラウン神父にも亜愛一郎にも思い入れはありませんので、彼らと比較して魞沢がどうという感慨はありません。まああまりくどくない個性、比較的淡々として掴みどころがない感じはします。それ程目立たず作中にうまく溶け込んでいるので、存在感が強すぎて浮いている訳ではないですね。 五編からなる連作短編集ですが、どれが秀でている事もなく、平均して面白く粒揃いと言えます。個人的には最終話の『サブサハラの蝿』が捻りがないながらもストレートで、探偵が最も活躍しているので気に入っています。ミステリとしては一番弱いかも知れません、しかしツェツェバエの生態なども興味深く読めました。表題作や『彼方の甲虫』も良かったですね。他も悪くはないですが、抜きん出て凄いというのはないです。 |
No.1261 | 6点 | 空中鬼・妄執鬼- 高橋克彦 | 2021/01/17 22:31 |
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闇に浮かび上がる五つの生首。陰陽師の弓削是雄を悩ます怪異は、やがて残虐な殺人事件として都を騒がし始める。空を自在に駆ける鬼の哀しき正体を描く「空中鬼」に、人間の欲と執着に取り憑いた鬼との死闘の果てに、新たな闘いを予感させる「妄執鬼」を加えたオリジナル文庫。
『BOOK』データベースより。 読む順番を間違えて間の『長人鬼』を飛ばしてしまったので、途中で仲間に加わったらしき温史って誰?ってなりました。失敗しました。シリーズ物はこういうところを注意しないといけませんね。しかし、読み始めてまった以上やむを得ず最後まで読みました。まあ結果的にはそれほど障害にはなりませんでしたのでそれはそれで良かったのですが。 今回は中編二作の構成。どちらも陰陽師弓削是雄とその愉快な仲間たちが検非違使庁と連携しながら、奇怪な事件を解決すべく鬼退治を画策していきます。『妄執鬼』は政(まつりごと)が絡んでちょっと人間関係がややこしいですが、ファンタジー、エンターテインメントとして十分に楽しめました。特に是雄の陰陽師としての技量がずば抜けており、決して安陪晴明にも引けを取らない活躍を見せ付けて読み応えがあります。それだけではなく、適度なユーモアや涙を誘うシーンなどもあり、良い意味で平安時代の出来事とは思えない臨場感に溢れています。 一応本作でシリーズは止まっていますが、今後も続編があるぞという事を暗示しており、新刊が期待されます。第一弾では様々な陰陽師が登場していますが、作者はその中でも弓削是雄が気に入ったらしく、その後は主役を務めており、その人間性は時に厳しく時に優しく、軍団とも言える頼もしい仲間たちを束ねています。それぞれの個性を生かしてバランス良く描かれているのにも好感が持てますね。 |
No.1260 | 6点 | 暗闇―ホラーセレクション- アンソロジー(国内編集者) | 2021/01/16 22:31 |
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ホラーの宴へようこそ。ここには闇をテーマにした7つの杯を用意いたしました。闇に潜むモノ、闇から襲いくるモノ、闇に染まりしモノ……。『暗闇』を存分にお楽しみください。収録作品:井上雅彦「闇仕事」、花田一三六「紛失癖」、奥田哲也「ダンシング・イン・ザ・ダーク」、宝珠なつめ「棲息域」、山下定「ブラインドタッチ」、友成純一「おごおご」、菊地秀行「戦場にて」、井上雅彦×尾之上浩司・対談
Amazon内容紹介より。 一応暗闇という題材を元に書き下ろされたホラー短編集ですが、そこまで闇に拘ってはいないように感じます。あまりそれを意識せずに楽しめばそれで良いのではないかと思います。どれも作品の色が違っていますが、団栗の背比べみたいなもので平均的な出来で、それぞれの特徴を持った短編が並んでいる印象です。その中で最も目を惹いたのは山下定の『ブラインドタッチ』で、文体が非常に私に合っていて、内容的にも一番面白かったですね。頭一つ抜けていると思います、まあ好みの問題ですけど。 友成純一の『おごおご』は説明文が多すぎて飽きてきますが、終盤やっぱりなって展開に持っていきます。それにしてもオチがどうも・・・。花田一三六の『紛失癖』もまあまあ面白かったかな。なんでも失くしてしまう少年の癖がエスカレートして次第にホラー味を帯びてきて、最後には。 巻末に収録されている井上雅彦と尾ノ上浩司の対談は、いかにもマニアックでその道に詳しい人にとっては堪らないでしょうね。 |
No.1259 | 5点 | スマドロ- 悠木シュン | 2021/01/15 22:28 |
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スマート泥棒―略してスマドロは、閑静な住宅街で白昼堂々、鮮やかな手口で盗みを働き、世間を騒がしている。物語は、ある主婦がスマドロの話題から、自分の半生をどこの誰ともわからぬ電話の相手に延々と喋り続けるシーンから始まる。新たな語り手が登場する度に、彼女をとりまく複雑な人間関係が見えてくる。パズルのようなミステリーの最終章に待ち受ける真実とは!?第35回小説推理新人賞を受賞したデビュー作!
『BOOK』データベースより。 これはミステリではないでしょう。連作短編集とも取れる構成ですが、どちらかと言えば長編だと思います。一章ごとに増えていく登場人物と最後に載せられている相関図がまあ目新しいとは言えるかも知れません。しかし、私には作者が何をやりたかったのか、その意図が確りとは理解できませんでした。スマート泥棒と呼ばれる怪盗の人物像や過去が、関係者の視点から次第に明らかになっていく過程を楽しめば良いのか、それぞれの人生模様を群像劇として読めば良いのか、いずれにしても一種のエンターテインメントと捉えるのが正解かも知れませんね。 それにしてもこの作品が新人賞受賞作とはねえ。ちょっと信じられません。世間では結構評価されているようですが、どうも私には本作の美点を見つけ出す事が出来ません。文体が軽いのでサクサク読める割りには、内容がイマイチ頭に入ってこない感じでしたね。各章が終わるごとにだからどうしたんだって思いましたよ、正直。 |
No.1258 | 5点 | 谷崎潤一郎 犯罪小説集- 谷崎潤一郎 | 2021/01/14 22:32 |
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仏陀の死せる夜、デイアナの死する時、ネプチューンの北に一片の鱗あり…。偶然手にした不思議な暗号文を解読した園村。殺人事件が必ず起こると、彼は友人・高橋に断言する。そして、その現場に立ち会おうと誘うのだが…。懐かしき大正の東京を舞台に、禍々しき精神の歪みを描き出した「白昼鬼語」など、日本における犯罪小説の原点となる、知る人ぞ知る秀作4編を収録。
『BOOK』データベースより。 まあ可もなく不可もなくって感じじゃないでしょうか。Amazonや本サイトでも高く評価されていますが、私にはその実感が湧かないと言うか、あまりピンときませんでしたね。『私』はあの名作の数年前に書かれたそうですが、トリックとして採用されている訳ではありませんので、意味がないと思います。又、『途上』はプロバビリティの犯罪をミステリ史上初めて取り扱ったものらしいです。確かにこれでもかと、偶然を頼った完全犯罪を狙う物語ですが、ミステリとしてはあまり評価できないですかね。ただ単にその手法を羅列してるだけのような気がします。最も読み応えがあったのは中編の『白昼鬼語』で、一番ストーリー性とミステリの匂いが感じられる作品です。日本の推理小説を読んでいる気がしませんでしたが。 そもそも本作品集を推理小説或いは探偵小説と呼んで良いものかどうか迷うところです。だから『犯罪小説集』なのでしょう。まあしかし、私の中で谷崎潤一郎という作家のイメージを変えたとは言えると思います。 |
No.1257 | 7点 | 永遠の館の殺人- 黒田研二 | 2021/01/13 22:32 |
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I県竜飛岳スキー場。コースを外れた俺とヒカルは、吹雪の中、死の瀬戸際に立たされていた。そこに忽然と現れた屋敷。主人は高名な作家で、妻子と使用人とともにひっそりと暮らしていた。まるで何かを隠しているかのような、怪しげな行動…。そして、他の滞在者たちも巻き込んだ連続殺人の幕が開く―。次々と消える死体の謎とは?驚天動地の超合作ミステリー。
『BOOK』データベースより。 雪に閉ざされた山荘。いわくありげな館の主、車椅子の妻、病気がちの娘、怪しげな執事、招かれざる客、遭難者と役者は揃いました。おまけに携帯のない時代、電話線も雪で切断され、完全に下界と接触を断たれた屋敷で起こる惨劇はまさに本格ミステリの王道を往くものです。しかし、それは外郭であり、本質は『そして誰もいなくなった』のようなサスペンスと思ったほうが良いでしょう。 物語の端々にKillerXの犯罪が差し挟まれます。その正体が漸くシリーズ完結篇にて明かされます。次々と犠牲になる被害者の女たち、そのパートと本筋がどう繋がってくるのかは読んでのお楽しみ。そしてKillerXの犯行動機にはぞっとしました。そんな事があるのか?と意義を唱えたくもなりますが、その分意外性はあります。 期待以上の物は残してくれなかった(特に本篇)し、トリックとかは全く機能していませんが、殺人鬼が暗躍するサスペンスとしては面白かったと思います。ただページ数の割にはやや物足りなく感じたのも事実です。 |
No.1256 | 5点 | 妄想女刑事- 鳥飼否宇 | 2021/01/11 22:06 |
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警視庁捜査一課所属・宮藤希美には奇癖があった。スイッチが入ると、ところかまわず妄想の世界に没入してしまうのだ。だが、これが謎のバーテンダー・御園生独にかかると、なぜか辻褄のあった推理に翻訳され…? 電車の網棚に置き去りにされた人間の手首、ナース服を着たベルギー人の死体……不可解な事件もモーソー推理でズバッと解決(するかも?)!
Amazon内容紹介より。 まあまあですかね。毒にも薬にもならないと言うか、ユーモアも程々でそれなり、本格ミステリとしては穴が多すぎてお話にならないです。そんな中に在って、やはり『通勤電車バラバラ殺人事件』が面白かったです。しかし、これだけ振り回されて、解決が呆気なさ過ぎてやや拍子抜けでした。それは他の作品にも言える事ですが。それにしても、切断マニアが本当にいたら嫌だなと思いますよ、本当に。 警視庁の捜査一課の刑事が、小笠原諸島から東京までイルカに乗って往復してアリバイ工作をするという仮説を本気で検討しているとしたら、大馬鹿野郎ですね。まあその程度の作品なので、真面目に読むのは大きな間違いでしょうね。 あと、私も四話辺りで御園生の正体は分かってしまい、ちょっとがっかりしました。何しろ、妄想刑事ですからね、想像力を発揮すれば自ずと知れてしまうでしょう。 |
No.1255 | 6点 | 四季 冬- 森博嗣 | 2021/01/09 22:35 |
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四季 <冬>
「それでも、人は、類型の中に夢を見ることが可能です」四季はそう言った。生も死も、時間という概念をも自らの中で解体し再構築し、新たな価値を与える彼女。超然とありつづけながら、成熟する天才の内面を、ある殺人事件を通して描く。作者の一つの到達点であり新たな作品世界の入口ともなる、四部作完結編。 『BOOK』データベースより。 今回は完結編とあって真賀田四季を前面に押し出しています。それだけに難解で、私としてはある意味四季の思考が何となく解る部分もあるような気もしましたが、それはおそらく単なる勘違いで、凡人というかダメ人間である私と四季の思考回路の間には一億光年くらいの距離があるだろうと思います。 ミステリよりもSFの領域まで幅を広げ、その辺りは面白く読めました。が結局訳分かりません。ただ、真の天才であるが故の、或いは欠けるものがなくパーフェクトであるが故の四季の絶望感や虚無感は伝わってきます。 そして、あの時孤島の事件の裏で何が起こっていたのかが、四季の口から語られます。それでも、私は本シリーズの全容が把握しているとは到底言い難く、これで完結してしまったのかという儚さが残りましたね。少なくともこれだけは言えます。これを読む前に、まずは『すべてがFになる』を読めと。 |
No.1254 | 6点 | 四季 秋- 森博嗣 | 2021/01/08 22:33 |
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四季 <秋>
妃真加島で再び起きた殺人事件。その後、姿を消した四季を人は様々に噂した。現場に居合わせた西之園萌絵は、不在の四季の存在を、意識せずにはいられなかった…。犀川助教授が読み解いたメッセージに導かれ、二人は今一度、彼女との接触を試みる。四季の知られざる一面を鮮やかに描く、感動の第三弾。 『BOOK』データベースより。 シリーズの中では外伝的な作品という位置づけだと思います。真賀田四季はチラッとしか出番がありません。犀川と萌絵のS&Mチームと保呂草潤平と各務亜樹良のVチームが共に四季の痕跡を追い、遂には彼ら四人がイタリアで邂逅します。読み所はその辺りで、何も結論らしきものは得られません。ですから、何となくですが最終巻である『冬』への繋ぎの役割を果たしているだけのような気がしますね。 やはり本シリーズでは真賀田四季の存在感が絶大で、『すべてがFになる』で探偵役を務めた犀川でさえ霞んでしまいます。まあ犀川と萌絵の関係がかなり進展するのには驚きましたが、こんなところで何やってるんだとも思えなくもありません。そして、二つのシリーズが混然一体となって展開する目論見は面白いと感じました。ああ、『夏』で出てきたあの人物はあの人だったんだなと、鈍感な私は妙に腑に落ちました。 |
No.1253 | 7点 | 四季 夏- 森博嗣 | 2021/01/07 22:25 |
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四季 <夏>
十三歳。四季はプリンストン大学でマスタの称号を得、MITで博士号も取得し真の天才と讃えられた。青い瞳に知性を湛えた美しい少女に成長した彼女は、叔父・新藤清二と出掛けた遊園地で何者かに誘拐される。彼女が望んだもの、望んだこととは?孤島の研究所で起こった殺人事件の真相が明かされる第二弾。 『BOOK』データベースより。 四季十三歳の物語。美しいです、ロマンティックと言っても良い。おそらくシリーズ最高傑作ではないかと思います。まだ秋冬が残っていますが。 前作と違い四季が思春期を迎えて、人間らしさ或いは女の本能を晒して、読者は天才のこれまでに見られなかった一面を目の当たりにする事になります。天才少女の誘拐事件や叔父とのあれやこれなどの大冒険ののちに、やがて訪れるカタストロフィ。ストーリー性も申し分なく、森博嗣にしては透明感が感じられる、それでいて人間味あふれる逸品に仕上がっていると思います。 『春』を飛ばして本作から入っても大きな問題はありませんが、やはりこの人誰?となる可能性は否定できませんので、順序を守って読むのが正解でしょう。コスパが決して良くないので、出来れば古書店で税込み110円で入手するのが吉かと思います。ノベルス版にはない読者の感想が載っているので、ちょっぴり文庫のほうがお得です。 |
No.1252 | 7点 | そして粛清の扉を- 黒武洋 | 2021/01/05 22:31 |
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荒れ果てた都内の某私立高校。卒業式の前日、あるクラスで女性教師が教室に立てこもり、次々と生徒を処刑しはじめた。サバイバルナイフで喉をかき切り、手馴れた手つきで拳銃を扱う彼女は教室を包囲していた警察に身代金を要求。金銭目的にしてはあまりに残虐すぎる犯行をいぶかる警察に対し、彼女はTV中継の中、用意された身代金で前代未聞のある「ゲーム」を宣言した。彼女の本当の目的は? 第1回ホラーサスペンス大賞を受賞した、戦慄の衝撃作。
Amazon内容紹介より。 胃もたれがするような重々しい作品。そしてその雰囲気を吹き飛ばすような筆の勢いと巧妙なプロットで描かれたサスペンスの異色作でしょう。一見『バトルロワイアル』に近い作風かとも思えますが全然違います。 平凡な中年の女性教師が私立高校でとんでもない事件を引き起こします。クラスの全生徒を人質に取り、逆らう者は容赦なく殺していきます。その手際の良さは、それまでの目立たなかった教師像からは想像できないもので、まるで殺戮マシーンのようですらあり、しかも何もかもが計算されつくした計画を次々に実行に移していきます。巨額の身代金を警察に要求し一体何を始めようとするのか・・・。 そして相対する警察側の指揮者である弦間との対決は、手に汗握るサスペンスフルな物語を紡いでいき、最後に生き残る者は誰なのか、マスコミがその後の報道することになるはずの真実とは一体何か、など最後の最後まで興味が尽きることなく読ませます。絵空事と分かっていながらかなりのリアリティを有しており、立て籠もり犯人、人質の生徒たち、警察、マスコミそれぞれの立場から多角的に又映像を見る様に描かれ、真に迫った演技を目の前で見せられているかの如き錯覚すら覚えます。 文章がこなれていなくて若干読みづらいとか、SATの動きが鈍すぎるとか、ご都合主義などの瑕疵を迫力で押し切った作者の手腕は、見るべきものがあると思いました。 |
No.1251 | 7点 | 東海道新幹線殺人事件- 葵瞬一郎 | 2021/01/03 22:03 |
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新横浜‐小田原間ですれ違った新幹線のぞみとひかりから、ほぼ同時に頭部切断死体が発見された。だが事件の異常さはそれだけに止まらず、頭部が互いにすげ替えられていたことが判明する。死体の上にあった「鬼は横道などせぬものを」という血文字のメッセージが意味するものとは。創作意欲を掻き立てる刺激を求めて、放浪を続ける人気ミステリー作家・朝倉聡太が難事件に挑む!
『BOOK』データベースより。 これはなかなかの作品じゃないでしょうか。アリバイ崩しはあまり好きではないのですが、本作は楽しめました。ハウダニット、ホワイダニットは申し分ないです。フーは・・・ですが。冒頭の超刺激的で不可解な頭部すげ替え事件が簡潔に纏められていて、とにかく興味を惹きます。なぜ犯人はこのような面倒な事を犯したのか、そして鉄壁と思われたアリバイの謎、これに尽きますね。 旅情ミステリの雰囲気も濃く、各地方の郷土料理などもふんだんに盛り込まれています。しかしそれは一面だけで、立派な本格ミステリとしても十分成立しています。 タイトルに関して取り沙汰されていますが、これはこれで良かったのではないかと私は思います。ストレートでいかにも鉄道ミステリ然としていて、好感が持てます。真相については、図解入りで非常に解りやすくてすんなり頭に入ってくる感じです。本格ミステリファンは読んで損のない作品だと思います。秀作ですね。 |
No.1250 | 6点 | 蟲と眼球とチョコレートパフェ- 日日日 | 2021/01/02 22:45 |
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エデンの林檎の不思議な力で人知を越えた存在となった少女がいた。眼球抉子―通称グリコである。不死身の彼女は、千余年の時の中で初めて、「大切な存在」宇佐川鈴音と出会ったが、林檎を狙う者たちとの戦いのなか、鈴音は意志のない生ける屍―肉人形となってしまった。鈴音、賢木、グリコの三人で過ごした幸せな日日を取り戻そうと、鈴音を救う方法を探してさまよい続けるグリコは、ある人物の言葉を信じて、ここ観音逆咲町へ戻ってくる。おりしも町には怪しげな人物が集結し始めており…はたしてその目的とは何か?大切なものを守るため心を閉ざすグリコ。その優しさが胸を打つ、シリーズ第三弾登場。
『BOOK』データベースより。 第一作が閉じた世界なら三作目は開かれた世界です。新キャラが続々登場し総勢10人以上のキャラが敵味方入り乱れてのバトルを繰り広げます。当然ストーリーも分散し、かなり複雑なものになっており、更に神話が随所に出てきて物語全体の骨格のようなものが見えてきます。しかし、どうしてもシリーズ化の予定がなかったものを無理して話を繋げている感は拭えませんね。 中盤までグリコの敵側からの視点で描かれていて、本作から読んだ読者は一体何がどうなっているのか全く意味不明となるでしょう。ですからくれぐれも順番に読まなければいけない構造になっています。しかし、敵同士が必ずしも戦わなければならない道理もなく、最終的には・・・な展開に。まるで最初から最後までジェットコースターのように激しく乱高下します、全てが読みどころですね。ただ今回も鈴音の出番が少なく、その意味ではやや不満が残ります。前作から登場した憂鬱刑事の顛末もしっかりと描かれていました。そして、次回に繋がるエピソードで終わって、四作目が気になる訳ですね。あざといです。 |