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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 卵をめぐる祖父の戦争 |
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デイヴィッド・ベニオフ | 出版月: 2010年08月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 3件 |
早川書房 2010年08月 |
早川書房 2011年12月 |
No.3 | 6点 | メルカトル | 2021/08/14 23:17 |
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「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父レフの戦時中の体験を取材していた。ナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた十七歳のレフは、軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された。饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索を始めることになるが、飢餓のさなか、一体どこに卵が?逆境に抗って逞しく生きる若者達の友情と冒険を描く、傑作長篇。
『BOOK』データベースより。 タイトルがあざといです。読者の目を嫌でも惹きつける、第二次世界大戦中のロシアを舞台に卵1ダースを数日中に持ち帰らなければ、二人の青年が処刑されるという奇妙な物語。そりゃ誰でも興味を惹かれるでしょうよ。しかし、残念ながらこれは戦争の悲惨さを訴えた青春小説であり、決して卵を如何に入手するかというものがメインテーマではありません。又戦争を扱った小説としては残酷なシーンや、生活の為ドイツ兵に身を捧げる少女たちの実態も描かれていますが、そこに生々しさは存在しません。あくまで客観的に物事を捉えつつ冷静に淡々とした筆致で描写されています。ですから、過激さや派手さは持ち合わせていませんね。 一方で主人公レフの女性に対する揺れ動く心情を描いたみたり、下ネタをかなり多用したり、レフとコ―リャの掛け合いがまるで漫才のようであったりと、明るいトーンで物語を進行させています。それでいて、いかに戦争が馬鹿気たものであるかという、訴えるべきツボはきっちり押さえています。 まあどちらかと言えば若者向けで、もう少し早く読めばもっと共感することが出来たかもしれません。とは言え、高々十一年前の作品だから若い頃に読む事は不可能でしたけど。 |
No.2 | 8点 | 猫サーカス | 2021/03/16 19:02 |
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舞台は、ナチスドイツに包囲され、すさまじい飢えと寒さに苦しむレニングラード。17歳のレフは死んだ敵兵から盗みを働いた罰として、1ダースの卵を調達するように命じられた。相棒は青年兵コーリャ。2人は文学について女について、とめどもなくしゃべりながら、命がけで任務を遂行しようとする。彼らのユーモアとペーソス漂う饒舌な会話が素晴らしい。緊迫した時世に卵探しというのは滑稽だが、人肉売買、敵軍の将校の慰み者になっている少女たちなど、エピソードには戦争の悲惨さが生々しく投影されている。だが2人の丁々発止の会話のおかげで、作品のトーンは暗くない。忘れがたい冒険青春小説。 |
No.1 | 10点 | Izumi | 2015/07/22 00:09 |
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「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父の戦時下の体験を取材していた。ときは一九四二年、十七歳の祖父はナチス包囲下のレニングラードで、饒舌な青年兵コーリャと共に卵の調達を命令されていた――。
日本人には馴染みの薄いレニングラード包囲戦(市民の犠牲者は100万人以上とも言われ、これは太平洋戦争の日本本土での民間人死者数を上回る)を舞台にした冒険小説。 レニングラード(現サンクトペテルブルク)はバルト海に面した、ソ連にとって重要な港湾都市である。そのためナチス・ドイツの急襲を受けた。完全に包囲され砲撃にさらされる中、レニングラードは必死の抵抗を続ける。しかし補給路が断絶され深刻な飢餓に悩まされていた。街からは動物が消えうせ、人肉食も横行し、子供の姿を見なくなったとさえいわれている。そんな状況の中で祖父のレフは卵の調達を命令されるのだ。 周りは絶望と退廃が蔓延しているが、相棒のコーリャはいつでも下品な冗談を口にし、どんな状況になってもその姿勢を貫く。希望を失わないレフとコーニャの道中は、重い話を不必要に暗いものにしていない。 レニングラード包囲戦下での卵探しの旅という奇抜な導入だけでなく、その後のストーリー展開も文句なしにおもしろい。極寒のロシアの地とそこに生きる人々の描写も素晴らしい。そしてなんといっても最後の一文、これでこの物語はすべてが救われるのだ。 本作は戦時下の冒険小説であると同時に、ロードノベルでもあり、友情物語であり、若者の成長物語でもある傑作小説である。 |