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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 2008件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1508 6点 龍神池の殺人- 篠田秀幸 2022/10/17 22:41
精神科医にして名探偵・弥生原公彦宛てに「宮崎勤事件」についての謎を指摘する資料が届く。送り主は長野戸隠村の由緒ある精神病院の御曹子である龍神周二。その仮説を検証すべく龍神家を訪れた一行の眼前で奇々怪々な連続殺人劇が開幕する!人智を遙かに超えた不可能犯罪「龍神家連続殺人事件」は一族に対する龍の呪いなのか?弥生原公彦が難事件に挑む、本格ミステリーの書き下ろし長篇。好評シリーズ第八弾。
『BOOK』データベースより。

本シリーズを読んだのは随分昔の話で、『人形村の殺人』ただ一作。それでも何故か弥生原公彦という探偵が妙に印象に残っているのは、どういう訳なんでしょうか。内容はほぼ忘れましたが、悪く言えば紛い物の様だったという事しか・・・。
で本作ですが、冒頭龍神池の伝説に始まり、宮崎勤事件の概要、横溝正史の某作品を丸パクリしたエピソードと実に濃い幕開けで圧倒されました。これから一体何が始まるのかワクワク感が堪りません。

本題に入ってから事件が起こるまでやや長いですが、その後はテンポよく失踪などの事件が続きます。しかも不可能趣向に溢れ、そこまで風呂敷を広げてしょうもないトリックだったら嫌だなとの思いを強くしました。結果的には可もなく不可もなくで、小振りな印象でした。二度の読者への挑戦状が挟まれていて、私の推測はそこそこ良い所まで行っていたんですが、やはりプロの作家には敵いませんね。
しかし、色々と瑕疵が見られ、それがマイナス点となりました。例えば殺人予告は何の意味があったのか、わざわざ密室を作ったりしたのも徒労としか思えませんし。最も謎に包まれた桃子殺害もトリックの為のトリックみたいに感じました。
尚、宮崎勤事件は飽くまで発端でありながら、その鋭い考察(参考文献によるものかも知れませんが)、は一読に値するものだと思います。

No.1507 5点 アルファルファ作戦- 筒井康隆 2022/10/13 22:52
若者がみな移住してしまった地球に異星人の襲撃が。最後に残った老人たちはいかにして侵略者に立ち向かったのか!?老人問題への温かい心情を示した表題作はじめ、「人口九千九百億」「懲戒の部屋」「色眼鏡の狂詩曲」など、著者の諷刺魂が見事に発揮されたSF九篇―“永遠の前衛”筒井康隆の原点にして不朽の初期傑作集。
『BOOK』データベースより。

無茶苦茶な話が多い割りにインパクトに欠けると云うか、すぐに忘れてしまいそうな短編が多かった気がします。それぞれ最後にオチが付いてくるんですが、ツボを突いてくるものもあれば、首を捻るようなもの、何となく納得してしまうもの等色々です。主にSFです、中にはジャンル不明なのもあったりします。ほとんどドタバタ劇で、何とも言えない独自の世界を構築しているのは間違いないと思います。

個人的にベストはシンプルながらストレートな、人間の根源的な欲望を描いた『一万二千粒の錠剤』ですね。オチも良いです。『懲戒の部屋』は現実にありそうな話で、ちょっと怖いです。如何にも不条理でやり切れません。『近所迷惑』『人口九千九百億』はまあまあ。

No.1506 6点 147ヘルツの警鐘- 川瀬七緒 2022/10/12 22:37
火殺人が疑われるアパート全焼事件で、異様な事実が判明する。炭化した焼死体の腹腔に、大量の蝿の幼虫が蠢いていたのだ。混乱に陥った警視庁は、日本で初めて「法医昆虫学」の導入を決断する。捜査に起用されたのは、赤堀涼子という女性学者である。「虫の声」を聴く彼女は、いったい何を見抜くのか!?
『BOOK』データベースより。

乱歩賞受賞作『よろずのことに気をつけよ』で痛い目に遭ってから、この作者は今まで避けていました。それをこの期に及んで読んだのは、随分前に購入していたのを思い出したからでした。その時の心情を推し量る事は難しいですが、多分Amazonでの評価が高かったに過ぎないのでしょう。
で、読んでみると多少のグロい描写を除けば、非常にリーダビリティに優れた読み易い作品でした。更に主役の二人の個性が際立っており、昆虫学と事件の真相とに密接な関係性が見られ、その意味でも評価できると思いました。又、先に述べたグロ描写に関して言えば、私にとっては丁度良いアクセントとなっていたように思います。

本シリーズのファンも結構多いようで、確かにそれも納得できる内容でしたね。個人的に気になるのは刑事岩楯と昆虫学者の赤堀の今後です。本作であからさまに匂わせたその関係は果たして発展するのかどうなのか、これは誰しも興味を惹かれるところだと思います。
一つ苦言を呈するならば、盛り上がりそうで今一つ盛り上がらない終盤のクライマックスシーンなど、もう少し書き様があったのではないかと云う事です。まあしかし、ミステリ読みならずとも受けそうな作品であるとは思います。

No.1505 7点 戦国自衛隊- 半村良 2022/10/08 22:58
日本海側で大演習を展開していた自衛隊を、突如“時震”が襲った。突風が渦を巻きあげた瞬間、彼らの姿は跡形もなく消えてしまったのだ。伊庭三尉を中心とする一団は、いつの間にか群雄が割拠する戦国時代にタイムスリップし、そこでのちに○○○○となる武将とめぐり逢う。“歴史”は、哨戒艇、装甲車、ヘリコプターなどの最新兵器を携えた彼らに、何をさせるつもりなのか。日本SF界に衝撃を与えた傑作が新装版で登場。
『BOOK』データベースより。

皆さんご存じの通り、自衛隊が戦国時代にタイムスリップするという奇想天外な物語。陸上自衛隊の三尉伊庭を含めた三十人の隊員達は突然の事で動揺を隠せない。しかしいち早く立ち直った伊庭三尉はのちに誰もが知る超有名な武将長尾景虎と邂逅します。やがて二人は話し合ううちにお互い認め合い、時と共に友情に発展していきます。
景虎の哨戒艇や戦車、ヘリコプターを初めて見た時の、子供の様に目を輝かせ驚きを隠そうともしない純真さに心打たれました。そして二人は否が応でも共闘せざるを得ない状況に陥り、戦闘に突入します。

前半の数々の戦闘シーンには、これ程血沸き肉躍る体験は滅多にあるものではないと感銘を受けました。戦国の世に自衛隊の兵器が躍動するのですから、面白くない訳がありません。
後半は景虎の配下の戦の模様を淡々と描いているので、折角の興奮が醒めてしまい、勿体ないなと感じました。
ラストは過去に起こった事件の辻褄を合わせるのにかなり無理があった様に思いました。驚いて良いのか、感心して良いのか、それともそんな馬鹿なと詰るべきなのか、何とも言えない結末でしたね。

No.1504 7点 龍神池の小さな死体- 梶龍雄 2022/10/07 22:33
「お前の弟は殺されたのだよ」死期迫る母の告白を
受け、疎開先で亡くなった弟の死の真相を追い大学
教授・仲城智一は千葉の寒村・山蔵を訪ねる。村一
番の旧家妙見家の裏、弟の亡くなった龍神池に赤い
槍で突かれた惨殺体が浮かぶ。龍神の呪いか? 座
敷牢に封じられた狂人の霊の仕業か?
怒涛の伏線回収に酔い痴れる伝説のパーフェクトミ
ステリ降臨。
Amazon内容紹介より。

事前に予想していたような、呪いとか村の因習等の匂いは余りしませんでした。最終章まではやや冗長で、途中からは事の発端となった弟の死はどうなったんだと思い始めたくらい、そっちのけで地味に殺人が進行していきます。
やはりそれなりの年代を感じさせる雰囲気は持っています。文体自体は古臭さを感じさせませんけどね。

結局最終章で全てうっちゃられた感じがしました。解決編の前半の推理にはなるほどと感心しましたが、その後の展開には十分な意外性があり、一瞬唖然となりました。確かによく読めばそこここに伏線が張られていたことに気付いたでしょう。私の場合は余り読書に集中できなかったこともあり、そうだったのか、という驚きがあまりなかったのが悔やまれます。
まあ、隠れた名作との噂はもっともだとは思いました。ちょっと物足りなかった気もしますが。

No.1503 8点 外天楼- 石黒正数 2022/10/04 23:01
外天楼と呼ばれる建物にまつわるヘンな人々。エロ本を探す少年がいて、宇宙刑事がいて、ロボットがいて、殺人事件が起こって……? 謎を秘めた姉弟を追い、刑事・桜場冴子は自分勝手な捜査を開始する。“迷”推理が解き明かすのは、外天楼に隠された驚愕の真実……!? 奇妙にねじれて、愉快に切ない――石黒正数が描く不思議系ミステリ!!
Amazon内容紹介より。

私はほぼ漫画は読みません。更に絵心のない私ですが、シンプルなのにこの作者は本当に絵が上手いと思います。そして本格ミステリとSFの絶妙な結合、正に傑作の名に恥じぬ一巻読み切りの作品と言って良いでしょう。コミックですからね、笑わせるツボを押さえながらも、真面目に本格ミステリに取り組む姿勢は見事の一言です。特にダイイングメッセージの幾通りもの解釈には驚きを禁じ得ませんでした。

一話一話が独立した話でも、最後には全てを収束させます。そしてそのその通底に隠れた真実が悲劇を呼びます。話が進むごとにシリアスになっていき本領を発揮します。
何故もっと早く読まなかったのか、自分にがっかりです。しかし、これ程の名作がコミックで読めるとは、本当に私は幸せです。何度も読み返せる作品ですね。

No.1502 6点 同志少女よ、敵を撃て- 逢坂冬馬 2022/10/03 22:36
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
Amazon内容紹介より。

凄く良く出来た力作だと思います。が、余りに出来すぎていて、何と言うか優等生的な作品になっており、戦争の生々しさや臨場感がいま一つ伝わってこなかったと云うのが私の感想です。期待度が高かっただけに、嫌な予感がしないでも無かったのです。購入したのは今年の3月頃だったと思います。私が買ったのは2月15日の印刷で、その時点で既に14版ですから凄い勢いで重版されていた訳です。本屋大賞受賞だけではない実力を見せつけられました。それを今まで読まなかった理由は、何となく自分に合わないのではないかとの不安からでしょうか。購入しておいてそれはないだろうと自分でも思いますが。

Amazonでの評価は高く、私は7点にしようかと迷いもしましたが、自分に嘘を吐くわけにはいかないのでやはり6点としました。何がいけなかったとは言い難いものがありますが、主人公に感情移入できない、戦争はそんなに生温いものではない、全体的にやや期待外れだった、戦闘シーンに迫力が足りないなどが挙げられます。
ただ、人間は良く描かれていますし、ストーリー性もあり、心に刺さるシーンもありました。まあ誰が読んでも良作だと思うでしょうし、それなりに内容は充実しています。ですから、これから読もうと思っている方は、私の書評は無視してどうぞ読んで下さい。きっと私が感性の欠けたダメ読者なだけなのであって、多くの人が共感できる作品ではないかと思いますよ。

No.1501 9点 方舟- 夕木春央 2022/09/30 22:55
【警告】 これから本書を読む予定の方は、出来ればスルーして下さい。勿論ネタバレはしませんが、なるべく予備知識なしで読むべき作品だと思いますので。
編集します。雪の日さんのご書評を拝読して確かにそうだと思いましたので一つだけ注意喚起しますが、読む前に帯の惹句を見てはいけません。かなりの確率でネタバレになっている可能性があります。


9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。

タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。
Amazon内容紹介より。

これはヤバいやつですよ、無論良い意味でです。
誰もが読む前に予想するよりも遥かにロジックに特化した作品だと思います。有無を言わさぬ迫力ある論理展開には圧倒される事必至。解決編ではフーダニット+ホワイダニットで、グイグイ探偵が推理を披露していきます。でも・・・。

地下施設である方舟と呼ばれる建築物が物語全体の、伏線や手掛かりの装置として存分に機能しています。ある意味主役とも言えるでしょう。ですから敢えてタイトルを『方舟の殺人』にしなかったのは、そういった事柄を鑑みての事ではないかと邪推したりしています。
現在Amazonではプレミア価格で販売されていますので、入手し難い状況にありますが、いずれそれも解消すると思いますので、そうなったら是非とも読んで頂きたい傑作と信じます。

No.1500 7点 花束は毒- 織守きょうや 2022/09/28 22:44
「結婚をやめろ」との手紙に怯える元医学生の真壁。
彼には、脅迫者を追及できない理由があった。
そんな真壁を助けたい木瀬は、探偵に調査を依頼する。
探偵・北見理花と木瀬の出会いは中学時代。
彼女は探偵見習いを自称して生徒たちの依頼を請け負う少女だった。

ーーあの時、彼女がもたらした「解決」は今も僕の心に棘を残している。
大人になった今度こそ、僕は違う結果を出せるだろうか……。

背筋が寒くなる真相に、ラストに残る深い問いかけに、読者からの悲鳴と称賛続出の傑作ミステリー。
Amazon内容紹介より。

滑り出しは新たな名探偵の誕生を思わせ、凄く好印象でした。ところが本番が始まり、大まかな被害状況が明らかになったのち、探偵はほぼ聞き取り調査に終始しこれと云ったサプライズもなく、淡々と抑揚なしにストーリーが進行するのは、正直ちょっと退屈でした。それでも最後には何か有る筈だと、読み進めました。いえ、決して苦痛だったわけではありません。そもそも平易な文体で読み易いですから。
推理しない名探偵、これは如何なものかと思いますね。まあ、おそらく最初にアイディアありきでその他は後付けに近いものでしょうから、それもやむを得ないかも知れませんが。

それにしても、真相は私の想像を遥かに超えるものでした。素直に参りましたと言うしかありません。ここが10点で、序盤が7点、中盤が5点で総合点は7に収めました。中盤にもう少し面白味があれば8点だったかも知れません。

No.1499 6点 ぐろぐろ- 松沢呉一 2022/09/25 22:42
非常識とは。下品とは。そもそも不快って何?タブーって、いったい―。闘うエロライターは考えた。公序良俗を声高に叫び、権力を振りかざして他人の自由を奪う。そして、いざとなると「常識」で頬被りして無責任を決めこむ。そんな「偽善者」たちに贈る、ウゲーッとなること確実な、ぐろぐろエッセー集。世間にはびこる矛盾を嗤い、おバカな鉄槌を下す。
『BOOK』データベースより。

コラムニスト松沢呉一が描くエログロエッセイの決定版。ユーモアを交えていかにも楽しそうに書かれています。無論中身はハードですよ。エッセイとは言っても作り話も含まれている為、一応ジャンルはその他にしました。


【注意】 以下の文章には直截的なグロ描写が含まれています。グロが苦手な方は読まないで下さい。


タイトル通り、その内容は○○コ、●●ル、×××ロ、SMなどがほとんどです(本書では一切伏字はありません)。一例を挙げると、著者自身が夜明けの街を仲間と共に徘徊し、ゲロを発見すると臭いを嗅ぎ、具に観察し、それの性別年齢生活様式食生活などを推察したり。これを読んだ時、私は先日TVで観た『AKB最近聞いた?』で現役人気メンバーの岡田奈々が公演の最後に頭を下げた時疲れすぎて、鼻からゲロが出たと発言して笑いを取っていた事を思い出し、和んでいました。やっぱりアイドルは何を言っても可愛いし、許されるんだなあなんて。
四人の男が尻の穴をどこまで拡張させられるかを競い合う『●●ル選手権』。著者が尿道炎になり、医者にも行かず飲尿療法で病気を治した『尿道炎とともに生きる』。○○コ好きのある取材した人が言うには、緩んだモノよりも固くて太い一本物の方が好きだと持論を開示する『×××犬』。これにはなるほどそうかもなあと思ったりして。その他、痰とゲロと○○コのプールに入るならどれかと問う『ウンゲロ譚』等々。ゴキブリや女王様も登場します。

人間は誰しも違った性癖を持っているもので、ノーマルとアブノーマルの境界線は非常に曖昧なものだという持論を私は持っています。勿論グロに対してどう考えているのかなど、人それぞれで当たり前、何が正しいとか間違っているとかは一概に言えるものではないというのが、寛大な心を持った私の思考回路であります。
よって、文庫あとがきで著者は「これを読んで吐きそうになってくれる人がいれば幸い」とか書いていますが、あまり私を舐めないで頂きたい。これしきの事で私がビビって吐き気を催すなどある筈もないでしょう。

No.1498 6点 瑠璃色の一室- 明利英司 2022/09/23 22:37
住宅街の中にある寂れた公園サンパーク。そこで浮浪者が殺された。元恋人への復讐を目論む鈴木真里、冷静な観察眼を持つ刑事竹内秋人、精神科病棟で友の帰りを待つ桃井沙奈。サンパークをのぞむ瑠璃色の古いアパートの一室を舞台に、それぞれの現在と過去がつながり、事件は思わぬ展開へ。
『BOOK』データベースより。

中山七里が書いている様にホワットダニットをメインに据えた珍品。全体的に地味で驚くような展開はありませんが、証言にちぐはぐな点が多々見られ、一体目の前で何が起こっているのか分からない不透明感に見舞われるます。一見単純に思えるホームレス殺人事件の裏には意外過ぎる真相が浮かび上がり、全く事件と関係なさそうな精神科病室のパートが交錯し、とんでもない繋がりを持ってくるとはちょっと予想が付きませんでした。

読んでいて飽きる様な事はありません。ですが、面白いかどうかと問われるといまひとつかなという印象ですね。ただ、非常に真面目に描かれているとは思います。そこここに伏線が張られていて、注意深く読まなければ見落としてしまいがちなので侮れません。

No.1497 7点 ひとでちゃんに殺される- 片岡翔 2022/09/21 22:42
「縦島ひとで、十六歳です」悪魔に憑かれた教室を救うには、誰か一人の命を生贄に差し出すしかない。謎の転校生の正体は⁉ 読み進める手が止まらない! 戦慄の学園サスペンスホラー。
宙を舞うスキー板が、地下鉄の鉄扉が、そして墜落する信号機が、次々と呪われた生徒の首を断つ……。クラスメイトの怪死事件が相次ぐ教室に、漆黒の制服を着た謎の転校生がやって来た。圧倒的な美貌で周囲を虜にし、匂い立つような闇を纏う彼女の正体は!? 悪魔に魅入られた高校生たちが迫られる、究極の命の選択!! 「言ったでしょ? ひとでなしのひとでちゃんって」
Amazon内容紹介より。

タイトルから漂うB級ホラー臭やラノベ臭は微塵もありません。心底読んで良かったと思わせる作品でした。まず目を引くのは目次です。これを見てあれっと思うのは私だけではないでしょう。詳細は避けますが、それだけ凝った構成になっているという証左です。学園物であるのは間違いありませんが、ホラー、サスペンス、ミステリのそれぞれを良い所取りした様な作風だと感じました。

テンポ良く話は進み、若干淡白な文体と思えるのがやや物足りなさに通じますが、読み進めるための推進力と思えば苦にはなりません。むしろ先が気になって仕方ない、心憎いまでの筆力を実感します。
最大の見せ場は終盤にやって来ます。生徒達の心理戦と怒涛の展開は正に圧巻です。これに関してはAmazonで似たような表現をされているレビュワーがおられますが、それは全くの偶然です。単に同じ感想を持った人が書き込んでいただけの話で、あり得ない事とは思いません。ただ、1点付けた人の気持ちは理解できませんけど・・・。そして、ラストはホラーのくせに泣かせやがって、畜生。
一作だけ読んで結構高評価を付けた作家でも、必ずしも他の作品を読んでみたいとはなりませんが、この人の作品は読みたいと今思っています。近日中にそれが現実となるでしょう。

No.1496 6点 水魑の如き沈むもの- 三津田信三 2022/09/19 22:21
奈良の山奥、波美地方の“水魑様”を祀る四つの村で、数年ぶりに風変わりな雨乞いの儀式が行われる。儀式の日、この地を訪れていた刀城言耶の眼前で起こる不可能犯罪。今、神男連続殺人の幕が切って落とされた。ホラーとミステリの見事な融合。シリーズ集大成と言える第10回本格ミステリ大賞に輝く第五長編。
『BOOK』データベースより。

殺人が始まる後半よりもそこに至るまでの経緯の方が面白いと感じました。特に正一と二人の姉、そしてその母の物語は何とも言えない切なさや遣る瀬無さを強調しており、これだけでも一つの小説が出来そうです。

メインの殺人事件は湖の密室とも呼べるもので、相変わらずの怪奇色を帯び乍ら不可能犯罪として扱われています。一見複雑に思える連続殺人事件と過去の事件は、構造は比較的単純で分かり易いものです。さらに言耶が謎のポイントを一々事細かに挙げていますので、その意味でも読者に優しい作りと言えそうです。それら全ての謎が解かれている訳ではありません。まあそれは左程問題ではないと思いますが。
個人的には犯人の正体は謎解きが始まって直ぐに目星が付きました。やはりそうだよなと思っていたら・・・やられました。流石に一筋縄では行かない様で。

No.1495 5点 溺れる犬は棒で叩け- 汀こるもの 2022/09/14 22:38
平安時代からの旧家・在澤家が跡継ぎとして選んだのはこともあろうに「死神」と呼ばれる少年・立花美樹!信州山中の屋敷で行われた継承の儀式の日に、案の定、殺人事件が!鯉池の濾過槽から溺死体が発見された。水槽に残された「化」という文字、錦鯉の消失、渦巻く陰謀…屋敷に集った「探偵」と呼ばれる弟・立花真樹、謎の刑事、奇矯な監察医が連鎖する死の真相に迫る!
『BOOK』データベースより。

こるものが横溝をやってみたらこうなりましたと云う感じ、でしょうか。確かに家系図、山村の伝説、相続争い等如何にもな雰囲気を出そうとしていますが、明らかに失敗作ですね。トーンが違いすぎます。
語り口が雑でごちゃごちゃしており、連続殺人の詳細もおざなりで、いつの間にか犯人が明らかになってしまい、何だか煙に巻かれた様な感覚だけが残りました。

今回は主役の筈の双子が狂言回しの役をやらされている感じで、良い所がありません。相変わらず魚(鯉)の蘊蓄のシーンだけは熱心に語られますが。一番真面な事を言っているのは湊警視正であり、最も美味しいところを持って行くのが監察医の出屋敷だったりします。これでは本格ミステリではなく、半本格に成り下がってしまっている気がします。作者もここらが引き際と感じたのか、これ以降シリーズは書かれていません。
終章でまずまずの驚きを提示してくれたので1点加算しました。

No.1494 5点 母なる夜- カート・ヴォネガット 2022/09/11 22:37
第二次大戦中、ヒトラーの宣伝部員として対米ラジオ放送のキャンペーンを行なった新進劇作家、ハワード・W・キャンベル・ジュニア―はたして彼は、本当に母国アメリカの裏切り者だったのか?戦後15年を経て、ニューヨークはグリニッチヴィレジで隠遁生活を送るキャンベルの脳裡に去来するものは、真面目一方の会社人間の父、アルコール依存症の母、そして何よりも、美しい女優だった妻ヘルガへの想いであった…鬼才ヴォネガットが、たくまざるユーモアとシニカルなアイロニーに満ちたまなざしで、自伝の名を借りて描く、時代の趨勢に弄ばれた一人の知識人の内なる肖像。
『BOOK』データベースより。

10ページ読んだ辺りで挫折。このまま暫く放置しておくか、即ブックオフ行きかと迷いました。余りにもぎこちない文体で内容が少しも頭に入ってこないですからねえ。そもそもナチとかユダヤ人とか興味ありませんし、1ミリも心に刺さりません。
しかし本を置いたところで私は思い直しました。これだけの高評価を受けている作品だから、何かあるはずだと。そして改めて読み始めて丁度半分位の辺りでヘルガが登場し俄かに面白くなりました。やはりこのままで終わる筈がなかったんだと安心した途端にまた元に戻り、私の心は千々に乱れました。

しかしここまで来たら最後まで読まねばなりません。仕方なくページを捲って読み終わり安堵。結局皆さんはどの辺りをそんなに評価しているのか、正直私にはさっぱり理解できませんでした。
畢竟私なんぞ、新本格の末裔やメフィスト系の昔の作品、又はラノベのファンタジーもどきを読んでいるのがお似合いって事ですかね。しかしこれに懲りて海外のミステリを断念する訳にはいきません。必ずリベンジしますから。

No.1493 6点 ガラスのターゲット- 安萬純一 2022/09/09 23:00
“行方不明探偵”が三つの事件の真相に鋭く迫る。三月のある日、世田谷のレストランで爆破事件が起きた。被砥功児が代表を務める榎木探偵事務所に出入りする二十歳の大学生・殿井泰史は、自分と同い年の若者が大勢犠牲となったこの事件に興味を持ち、外国に行ったきりの被砥功児を尻目に、独自に推理を巡らせる。さらに八王子と町田で立て続けに、二十歳の男女が集団で死亡する事件が発生。事務所には世田谷と八王子の事件の犯人を名乗る人物からの挑戦状が届くが…。二十歳の若者たちを巡る三つの事件の関連性と、犯人の目的は果たして?手に汗握る展開と、驚愕のラスト刮目せよ。
『BOOK』データベースより。

前作(鮎川哲也賞受賞作『ボディ・メッセージ』)がなかなか良かった、と云うかトリックが好みのど真ん中だったのでこちらはどんな物かとAmazonで古書を購入しました。どうでも良いですが、これが煙草臭くてページを捲る度に鼻に付くのに閉口しました。状態は「非常に良い」だったのに、臭いだけはそこに含まれないのに不条理さを感じました・・・。

さて、本作大量爆殺事件と二つの集団自殺事件の繋がりとは?というのがメインテーマで、ある意味フーダニットです。とは言え、そんなんで犯人が判るかあ、というのが本音。判る人には判るのでしょうけれど、兎に角煙草の臭いにやられて集中出来なかったのは単なる言い訳ですか?
それにしてもこの人は相変わらず文章が上手くないですね。三つの事件に一人ずつ担当刑事が配されている訳ですが、せめてこの人達の人物造形くらいは確りと作り上げて貰いたかったところです。それどころか、探偵の被砥(ピート)すらイマイチ影が薄いのはいけませんね。動機は何とも・・・。

No.1492 7点 日本SFの臨界点[怪奇篇]  ちまみれ家族- アンソロジー(国内編集者) 2022/09/06 23:10
「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」と称された伴名練が、全身全霊で贈る傑作アンソロジー。日常的に血まみれになってしまう奇妙な家族のドタバタを描いた津原泰水の表題作、中島らもの怪物的なロックノベル「DECO‐CHIN」、幻の第一世代SF作家・光波耀子の「黄金珊瑚」など、幻想・怪奇テーマの隠れた名作11本を精選。全作解題のほか、日本SF短篇史60年を現代の読者へと再接続する渾身の編者解説1万字超を併録。
『BOOK』データベースより。

誰が何と言おうと一度読んだら二度と忘れられない短編第一位、中島らもの『DECO‐CHIN』を再読(いや三度目か四度目か)しようと思い、探してみましたが大量の書物に阻まれて見つけられなかったところに、本書が目に付き早速購入しました。『DECO‐CHIN』は別格として結構面白いじゃないかと思いながら読み進むも、次第にトーンダウン。
ハードSFは少ないものの、様々な味わいのSFっぽい小説が並んでいます。本格的なSFと云うより、これもSFなのかと思うような作品が多い感じがしました。これまで名前も聞いたことの無い作家の名前が並び、これはやはりコアなSFファンの読むべき作品集なのではないのかとの思いを強くしました。

個人的にお気に入りは岡崎弘明の『ぎゅうぎゅう』、山本弘『怪奇フラクタル男』、中田永一(乙一)『地球に磔にされた男』光波燿子『黄金珊瑚』辺りですかね。表題作は無茶苦茶な展開で、必要最低限の情報で纏め上げた荒唐無稽な小説。最初は訳解らんなあって感じでしたが、後からジワジワ来るやつでした。石黒辰昌の『雪女』はハードで色々考えさせられる作品。
SF初心者の私にはやや敷居が高かったかも知れませんが、色々考えた末7点としました。読み始めて二、三作目までは8点かなと思ったんですけどね。

No.1491 5点 禅定の弓- 椹野道流 2022/09/03 22:51
老人の焼死体がO医科大学法医学教室に運び込まれた。伊月とミチルが解剖したところ、火事の前に死亡していたことが明らかになり、一転して事件の様相を帯びる。一方、同じ市内で、野犬やウサギなどが連続して惨殺される。遺体からこぼれ落ちたピンバッジは何を語る?胸に迫る超リアルメディカルミステリ!
『BOOK』データベースより。

これまでのホラーテイストと違い、何の捻りもないミステリです。ミチルはほぼ脇役で伊月と刑事筧がメインの物語。BL物も得意としている作者だけに、その気配も全くないとは言えません。老人の焼死体と動物殺傷事件がどう繋がって来るのか?誰もが予想出来る真相ではあります。うーむ、やはりこの人は本格ミステリに向いていない体質の様です。

ただ、エピローグはほっこりした雰囲気で終わりますので、後味は良好です。持ち味の司法解剖のシーンもいつもの迫力がなく、単なるオマケみたなものですね。
まあ、たとえ小さな命でも動物を虐待してはいけない、ましてや殺すなどもっての外であるとのメッセージが込められた一作でしょうね。

No.1490 7点 夜の淵をひと廻り- 真藤順丈 2022/09/01 23:08
職務質問と巡回連絡が三度の飯より大好きで、管轄内で知らないことがあるのが許せない、良く言えば“街の生き字引”、率直に言えば“全住民へのストーカー”。ある街のある交番で住民を見守るシド巡査のもとには、奇妙な事件が呼び寄せられる。魔のバトンが渡されたかのように連鎖する通り魔事件、過剰すぎる世帯数が入居したロッジ、十数年にわたって未解決のご当地シリアルキラー。市井の片隅には、怪物の巣食う奈落がひそかに口を開けている―。4冠受賞の鬼才が放つ驚愕のサイコ・ミステリ!
『BOOK』データベースより。

粘着質で陰湿な文章と物語。従来の警察小説と思ったら大間違いです。主人公のシド巡査は管轄内の全住民のストーカーでその意味では非常に特異体質と言えるでしょう。更に異常な体験をしたり、その並外れた推理力には自信を持っているようです。この風変わりな人物像の一点だけでも本作が尋常ではない特異性に満ちていると感じられるのは間違いないと思います。
意外性や仕掛けはありますが、トリックと言える物はここには存在しません。その代わり変則的なストーリー展開で最後まで読ませます。読み終わった後は何とも言えない嫌らしい余韻を残します、一応これは褒め言葉ですが。

連作短編の中で『新生』だけ毛色が違い、これだけ読んだら真っ当な警察小説に思えます(このタイトルは秀逸)。しかしその他はおそらく今まで誰も書けなかった様な超異色な、ドロドロとした、読者の心の奥に眠る何かに直接触れる様な肌触りの小説に出来上がっていると思います。独特の文体ですし、もし貴方がこれを読む事があれば、それなりの覚悟を持って臨む必要があるかも知れません。あまりお薦めはしませんが、ありきたりなものに飽きた人は読んでみるのも一興かと。

No.1489 6点 記録の中の殺人- 石崎幸二 2022/08/28 22:52
「女子高生連続殺人事件」―201X年9月、5人の女子高生の遺体が埼玉県山中、産業廃棄物の投棄現場で発見された。被害者の共通点は、生年月日が全員同じだということ。それから4ヵ月後、またも女子高生の遺体が東京と埼玉の県境にある産廃の現場で見つかる。被害者は同じく5人。全裸の上、手足を切断されていた…。凶悪な犯行に世間は大パニック!犯人の次なる狙いは。
『BOOK』データベースより。

冒頭から女子高生連続殺人事件の謎を、石崎を含むミステリ研の4人組が検討し始めるシーンに、おっ今回は珍しくシリアルキラーものかと思いきや、結局孤島へ行っちゃうのね。それにしても、本シリーズとシリアルキラーの相性は余り宜しくないない気がしてしまいます。しかし、全ての被害者の左手と左足を切断した動機に関してはなかなかよく考えられていると思います。

そして孤島での事件と連続殺人の関連とは?全く関係なさそうな二つの事件が繋がる時、驚愕の真相が・・・とはならないですねえ、残念ながら。
個人的にメフィスト系の作家の中ではかなりの理論派だと思っている石崎幸二、意外に拘りも持っていて結構な割合でDNA鑑定が採用されています。本作ではユリが書記になり切って随時事件の概要をまとめているので、非常に解りやすくなっています。まあ大体何時もそうなんですけど。そして、石崎とミリアの探偵同士の対決がバチバチと火花を散らしますよ。果たして勝ったのはどちらか?でもそんな事はどうでも良い二人なのでした。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 2008件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(30)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(20)
日日日(20)
中山七里(19)
森博嗣(19)