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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1828件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1388 6点 パイルドライバー- 長崎尚志 2021/12/22 22:57
神奈川県の閑静な住宅街で起きた一家惨殺事件。奇しくも、15年前に同様の未解決事件があった。イマドキの刑事・中戸川俊介が現場に向かうと、長身痩躯の老年の男が現れた。彼―久井重吾は現役時代に“パイルドライバー”の異名を持つ伝説の元刑事で、15年前の事件を捜査していた。アドバイザーとなった久井と共に俊介は捜査を開始するが、直後、新たな殺人が…。同一犯の犯行なのか?予測不能の新警察ミステリー!
『BOOK』データベースより。

かなり複雑な構造になっているし、警察関係者が多すぎて消化不良気味でした。久井と中戸川の二人の主人公はともかく、それ以外は布勢が辛うじて目立つくらいで他は没個性で誰が誰だか分からない感じでしたね。序盤は15年前の未解決事件とその摸倣犯罪に見られる事件でとても興味を惹かれ、物語に入り込むことが出来ましたが、中盤ややダレて私の望んでいない方向へ向かっているようで、危惧を感じました。しかし、ラストで真相が語られる件に関しては予想外の展開に驚きを隠せませんでしたね。

全般的に惹きつけられる面と退屈な面を持ち合わせており、何とも微妙な読後感となりました。結局最初から最後まで久井の人間性や個性で引っ張っている印象で、彼が居なければこの警察小説の魅力が半減したのは間違いないと思います。
後から考えると、事件そのものよりもその背後関係に重きを置いている感じもありました。それともう少し読者を混乱させないように斟酌するような配慮が欲しかったとも思います。もう一つ言えば、タイトルで損をしている気はします。どうしてもプロレスの関連する話かと思われてしまいそうで。

No.1387 7点 超老伝 カポエラをする人- 中島らも 2021/12/19 23:26
わしが菅原法斎じゃ。かれこれ十六年前に発狂してから、この道ひとすじでキメておる。趣味はカポエラじゃ。今のところまだ負けたことはない。なにせ珍しい格闘技なので誰もやっとらんのだよ。こんど、うちに住み込んでおる世界一の大男ミゲールにかわって「格闘技世界一決定戦」に出場することにしたんで、せいぜい大暴れしようと思っとる。待っとれよ、宿敵ダラ・シン。―類稀なる傑作瘋癲老人奮戦記。
『BOOK』データベースより。

楽しい、面白い、笑える、痛快、為になる小説を読みたい人にお薦め。菅原法斎78歳はブラジル発祥の格闘技カポエラの達人で、自ら瘋癲と名乗る老人です。しかし、読めば分かりますが、作中にあるような○気では全然なく、普通の矍鑠とした爺さんで、やたら強くなかなかの論客です。ただ、時々変な言葉を口走ったり何か勘違いしているところがあるくらいですよ。
物語はこの老人を打ちのめしてやろうとする、様々な敵と対決していくものです。もっと派手なバトル系の話かと思っていたら、色々趣向を変えて誰でも説得してしまう相手やオカルト詐欺親父らとの対戦を繰り広げます。

そして最強の敵プロレスラー、タイガー・バーム・シンの長兄で身長2メートル越えのカラリパヤットの達人が現れ、その後格闘技世界一決定戦が開催されることに。果たして歴戦の勇者達が居並ぶ戦いで法斎を師事するミーゲルはシンに勝つことが出来るのか。
結末は書きませんが、個人的には非常に微妙でしたね。ここでもう少しカタルシスが得られれば、8点でも良かったかなと思う位の素晴らしい作品でした。流石らも、こんなんも書いていたのね。

No.1386 7点 小説スパイラル 推理の絆4 幸福の終わり、終わりの幸福- 城平京 2021/12/17 23:05
小日向くるみは鳴海清隆との推理対決に勝てずじまい。そこに羽丘まどかや清隆の弟・歩の想いもからまり、新たな事件へ!折り紙と競馬による鉄壁のアリバイを崩しにかかるくるみだが、思いもよらない難題にぶつかり、歩のサポートを得ることに…。歩の推理は?くるみの勝敗は?そして清隆が最後にみせる切り札とは?ガンガンNET掲載の前哨戦二編も収録し、「スパイラル」外伝、ここに完結。
『BOOK』データベースより。

短編二作、特に『近況報告』は頭部四肢を切断された死体の胃の中から電話番号が書かれた紙片が発見されるという、なかなかの謎めいた滑り出しですが、意外とあっさり解決してしまう、ちょっと残念な作品です。もう少し引っ張ってもいいのにと思わないでもありません。

そして外伝最後の作品は三人の探偵が激突する魅惑的な内容。警視庁捜査一課の名探偵と言われる鳴海清隆、鳴海の弟で本編で探偵役として活躍してきた歩12歳、清隆と婚約するように祖父からゴリ押しされて、それに必死に抵抗して推理合戦に勝とうと躍起な16歳のお嬢様くるみ。果たして彼らの勝負の行方とは?というとても楽しみな謎解き合戦が繰り広げられます。
シリーズの終幕としては、アリバイ崩しをロジックで攻めまくるというちょっと地味な展開ではありますが、それなりに読み応えはあります。要するに手品の種明かし的な印象で、やや拍子抜けの感は否めませんが、意外な盲点を突いてきてなるほどと納得。
三人の対決は結局誰が最も優れていたのかとの命題よりも、それぞれの個性を発揮して丁度良い具合に収束させて、これで良かったんだなと思える結末ではありました。

No.1385 8点 死にたい夜にかぎって- 爪切男 2021/12/15 23:33
「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね。カナブンとかの裏側みたい」―憧れのクラスメイトに指摘された少年は、その日を境にうまく笑えなくなった。“悲劇のようで喜劇な人生”を切なくもユーモア溢れる筆致で綴る作家・爪切男のデビュー作。出会い系サイトに生きる車椅子の女、カルト宗教を信仰する女、新宿で唾を売る女etc.幼くして母に捨てられた少年は、さまざまな女性たちとの出会いを通じ、少しずつ笑顔を取り戻していく。
『BOOK』データベースより。

すみません、ミステリではありません。しかし女はいつの時代もミステリーという事でお許し願いたい。尚これに対して異議申し立てのある方は、掲示板にてお願いします。

さて本作はリビドーと下ネタ満載の、恋愛小説の問題作です。ですが、エロくはありません。それでも生々しいのが何とも言えない魅力です。どうやら私小説らしいのですが、完全なノンフィクションではないと思います。これが実際の起こったとしたら余りにも波乱万丈過ぎますからね。ちなみに堀ちえみ、神谷沙織、岩崎恭子、松任谷由実、ポール・マッカートニー、江戸川乱歩、本田美奈子、大仁田厚ら多彩な顔触れの名前が出てきます。一体どのような描写が成されているのかは、ここでは書けません。更に、本サイトで必ず禁止ワードであろう単語も平然と現れます。

まあそれにしても、主人公の「私」(最後まで名前が公表されていません)は、冴えない男の様であって、女心だけは分かっているイケてる奴です。格好良くなくても女心が理解できる男はモテますからね。出会いと別れを繰り返す主人公には共感出来なくても、気持ちは痛いほど分かります。又、所々で心に突き刺さるフレーズが出てきたりして、凄まじい筆力を備えた人だと思いました。サッと読んでしまえば案外こんなものかとなるかも知れませんが、おそらく二回読めばその良さが分かると思います。正直、中身が濃すぎていまだに自分の中で消化し切れていない部分がある気がしています。その分何度も読み返せて、その度にクスッと笑えて切なくなる作品ではないかと感じます。

No.1384 7点 恐怖の誕生パーティー- ウィリアム・カッツ 2021/12/13 23:01
前半、サマンサが夫のマーティが何者かを探る段階を踏みすぎていて、やや長すぎるきらいがあるのと、それと並行して語られる警察が毎年12月5日に鳶色の髪の女を殺すシリアルキラーの捜査の描写が淡白でアンバランスな気がしました。それ以外は申し分のないサスペンスフルな傑作だと思います。特にサマンサの心理描写はよく書けており、一人で夫の正体を見極めようと奮闘する姿は痛々しい程でした。

そしてやはりエピローグが良いです。ネタバレになりそうなので詳しくは書けませんが、私は開いた口が塞がらない状態でしたね。勿論、そこに至るまでの徐々に盛り上げていく文章力と構成の上手さも読みどころではあると思います。
その後どうなったか知りませんが、あの傑作『ジョーズ』の二人の名プロデューサー、ザナックとブラウンが映画化権を買ったとの事なので、作品の出来は推して知るべしでしょう。

No.1383 5点 狂乱家族日記 伍さつめ- 日日日 2021/12/10 22:59
不可思議な結末を迎えた「半獣化事件」は、超常現象対策局局長となった平塚雷蝶の謎めいた言葉「来るべき災厄」と共に、凰火の危機感を否が応にも高めたのだが、そんな凰火の不安など毛ほども気にせず、凶華様は、能天気に「動物園に行きたいのだが」と宣うのだった。しかし、動物園で久々の休日を楽しむ乱崎家が帝架の同胞マダラと出会ったとき、すでに次なる危機は目前に迫っていたのだ―。馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語ついに佳境に突入。
『BOOK』データベースより。

今回は乱崎家の一員である百獣の王帝架とその幼馴染みであり、動物園で飼育されているライオンのマダラの物語を中心とした、小ネタ集的作品です。そしてあとがきにもあるように、前後編の前編という立ち位置となっています。ですので、後半敵か味方か分からない平塚雷蝶や死んだと思われていたDr.ゲボックが登場してさあこれからというところで終わっていて、次巻に期待させはするものの、本書としてはこの程度の評価にならざるを得ません。

ラノベとしてのぶっ飛び具合は相変わらずですが、家族愛という点に於いてこれまでよりも描かれていない為、全体の印象としては今一歩と感じてしまいます。しかし、次に繋げるための序奏としては盛り上がりに若干欠けるけれど、その役割を十分果たしているのではないかと思います。

No.1382 5点 雪花嫁の殺人- 阿井渉介 2021/12/08 23:02
底知れぬ哀しみを抱く白無垢姿の殺人者
警察をも牛耳る政界の黒幕、壬生一族が次々と無残に殺されてゆく。

警察をも牛耳る政界の黒幕、壬生興之介。その息子で乱行を重ねる道安が殺された。雪の凶行現場には白無垢姿の「花嫁」がいた!私兵を用いて報復を図る興之介を嘲(あざけ)るように起こる第2、第3の犯行。美しき殺人者の向こうに浮かびあがる、6年前の悲惨な出来事とは?警視庁捜査一課シリーズ、渾身の第3弾。
Amazon内容紹介より。

可もなく不可もなくと云った感じですかね。足跡のない雪密室や、雪に足跡だけ残して去って行く影など魅力的な謎がてんこ盛りです。果たしてとんでもないトリックが待っているのか、それとも肩透かしを喰らうのか、微妙な心持で読み進めました。結局、第一の事件は×××だからアウトだし、他の不可能犯罪やアリバイトリックもショボいもので、やはりなと諦観の気持ちが強かったですね。正直、不可能性よりも不可解さが先立ってしまって、所詮大トリックなど期待できないだろうとどこかで思っていた部分があるせいでしょうね。

まあしかし、酒と博打大好きな刑事菱谷が魅力的だし、何より堀と菱谷の娘葉子の恋の行方が気になって気になって。個人的にはそちらの方が何だか読みどころみたいな感触でした。解説を読むと列車シリーズのスケールの大きな不可能犯罪のトリックが是非とも知りたくなりました。でも読まないかも知れませんけど。

No.1381 7点 ≠の殺人- 石崎幸二 2021/12/05 23:13
沖縄本島沖の孤島―水波照島にあるヒラモリ電器の保養所で開かれたクリスマスパーティー。大手企業の御曹司・平森英一が主催するとあって、会には有名スポーツ選手や俳優などの豪華な招待客が名を連ねていた。そんな宴の夜、惨劇が!人気プロ野球選手、井沢健司が無残な死体となり発見されたのだ。その後、連鎖し起こる不可能殺人。事件の背後にある深い闇に迫る。絶海の孤島に住む双子の姉妹、断崖の上の怪しげな建造物、連続殺人事件勃発率99.9…%。オヤジギャグを愛す女子高生コンビ(ミリア&ユリ)が難事件に挑む。
『BOOK』データベースより。

こんなんで良いんだよ、いやこんなんが良いんだよ。まさに私の好みにジャストミート、でした。
名探偵?石崎とミリア&ユリ+仁美の女子高生トリオのボケとツッコミのテンポの良さは相変わらずです。そんな中招待された孤島で、雰囲気にそぐわない惨劇が起こります。被害者に対する冒瀆的な行いと部屋の中に残された謎の痕跡。その魅力的過ぎる惨状のホワイに四人の探偵たちが挑みます。とことん何故その行為が行われたのかに拘った、ホワイダニットの佳作だと思います。

お笑いが先行する作風とは正反対の陰惨な事件。そのアンバランスさが何とも言えない独特な雰囲気を醸し出しているというか、漫才カルテットの軽さが事件の悲惨さを相殺させています。で結局いい塩梅の本格ミステリっぽく、図らずも仕上がった感じがします。取り敢えずこれまで読んだシリーズで最高の出来でした。真相の意外性や伏線の張り方などは堂に入っており、いやはやひどく感心させられました。

No.1380 4点 罪の声- 塩田武士 2021/12/03 22:33
京都でテーラーを営む曽根俊也。自宅で見つけた古いカセットテープを再生すると、幼いころの自分の声が。それは日本を震撼させた脅迫事件に使われた男児の声と、まったく同じものだった。一方、大日新聞の記者、阿久津英士も、この未解決事件を追い始め―。圧倒的リアリティで衝撃の「真実」を捉えた傑作。
『BOOK』データベースより。

昭和のあのグリコ森永事件という大事件を題材にした大作とあって、さぞかし骨太でサスペンスフルな傑作だと思っていたら、大きく裏切られました。何が原因なのかと考えてみましたが、結局やはり文章ではないかとの結論に達しました。其処でそういう言い回し或いは言葉を持ってくるのかというチョイスに対する違和感や、中途半端な関西弁、ストーリーに沿った文脈がスムースに出来ていない事、余分な描写が目立つ点、人間が描けていないなど各所に欠陥が見られます。要するに文章に魂が篭っていないのではないかと感じた訳です。結果、主人公の二人以外誰が誰だか分からなかったり、情景が浮かんで来なかったり、いつの間にか舞台が変わっていると思ってしまったりの連続で、読み切るのがやっとでした。私だけかと思ってAmazonのレビューを見たら、目に付くだけで二人が途中で挫折していました。自分ばかりが異端だった訳ではないようで、少し安心しました。

まあそういう事で、話が一向に盛り上がりません。やや興味を惹かれたのは実際の事件での、実行犯と警察との対決シーンくらいで、それ以外のフィクション部分にはほぼ魅力を感じませんでした。畢竟作者と評者の相性が悪かったとしか言いようがありません。無理やり5点付けようかとも思いましたが、自分に正直にこの点数にしました。

No.1379 6点 白墨人形- C・J・チューダー 2021/11/30 22:58
スティーヴン・キング強力推薦!
少年時代の美しい思い出と、そこに隠された忌まわしい秘密。
最終ページに待ち受けるおそるべき真相。
世界36か国で刊行決定、叙情とたくらみに満ちた新鋭の傑作サスペンス。

あの日、僕たちが見つけた死体。そのはじまりは何だったのか。僕たちにもわからない。みんなで遊園地に出かけ、悲惨な事故を目撃したときか。白墨のように真っ白なハローラン先生が町にやってきたときか。それとも僕たちがチョークで描いた人形の絵で秘密のやりとりをはじめたときか――。
Amazon内容紹介より。

ホラー寄りのミステリともミステリ寄りのホラーとも言える微妙な作品。キングが推薦しているようですが、確かに作風は似ているかも知れません。特に読んでいませんが『スタンドバイミー』辺りか。
さて本作、やたら事件事故が起き過ぎて、内容がとっ散らかった印象が否めません。私にはどこに焦点を置いて読んで良いのか正直分かりませんでした。途中でそれまでの経緯を整理するとか、もう少し工夫して読者に理解しやすくした方が親しみが持てたのではないかと思います。

しかし、よくよく考えてみると様々な事件はそれぞれ解明されているし、怪奇色はあるもののミステリとしてちゃんと成立してはいます。残念なのはその真相を纏めて最後に披露するべきではなかったかという点です。本格ミステリの手法を倣って。そうすればホラーではなくミステリとしてもっと評価されたでしょう。個人的には何故か以前から気になっていた本だったので読めて良かったですが、なんだかスッキリしない曖昧さが残りました。ラストのオチはなかなかだと思います。

No.1378 7点 半落ち- 横山秀夫 2021/11/26 22:50
「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは―。日本中が震えた、ベストセラー作家の代表作。
『BOOK』データベースより。

構成は凝っているものの、基本的に単純なストーリーです。現職警察官が妻を殺害したと自首してきたが、空白の二日間に一体どこで何をしていたのかという謎が残る。その謎を、刑事、検察官、新聞記者、弁護士、裁判官、看守がそれぞれの立場から追うという物語。
たった一つの謎で、ここまでの長編に仕上げる手腕は流石だと思います。これは一種の群像劇とも言えそうです。先に挙げた6人の仕事現場の実情や生活がさり気なく語られると共に、それぞれの個性も確りと浮き彫りにされています。

所謂半落ちの状態で裁判を迎え、最後の最後まで空白の二日間に何が起こったのか読者に悟らせません。そしてラスト数頁で漸く真実が語られる時、なぜか私の頬を伝う一粒の涙をどうする事も出来ませんでした。何とも言いようのない読後感と世の無常と一握りの希望を残す結末が印象的です。

No.1377 9点 硝子の塔の殺人- 知念実希人 2021/11/23 22:56
雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。
地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔だ。
ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、
刑事、霊能力者、小説家、料理人など、
一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。
この館で次々と惨劇が起こる。
館の主人が毒殺され、
ダイニングでは火事が起き血塗れの遺体が。
さらに、血文字で記された十三年前の事件……。
謎を追うのは名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬。
散りばめられた伏線、読者への挑戦状、
圧倒的リーダビリティ、そして、驚愕のラスト。
著者初の本格ミステリ長編、大本命!
Amazon内容紹介より。

帯の言葉。島田は褒め過ぎ、かと思いきやあながちそうでもなかった。綾辻の気持ちはよーく理解できる。私の感想に最も近いのは竹本健治です。
そもそもこの人はガチガチの本格ミステリを書かない、書けない?人だと思っていましたが、とんでもない、恐れ入りました。兎に角本格愛に満ち溢れた、知念渾身の一冊。個人的にはもっともっとマニアックにしても良かったと思えるくらいです。しかしそうすると、一般読者に受け入れられない可能性もあるので、これくらいで良かったのかも知れませんが。まあ、欠点らしき欠点はまず見当たりませんね。

それにしても大トリックもないのに、これ程の傑作を生みだすとは・・・。伏線は勿論、ほんの些細な出来事や過去の事件全てが解決に繋がっていて、最初から最後まで目を離せません。僅かな予断も許さず、少しの妥協もない究極まで拘り抜いた、新本格の総括と言っても過言ではないこの作品。
本年の『このミス』『本ミス』『文春ミス』の上位に食い込むのは間違いないと思います。でなければ嘘ですよ。
今こそこの言葉を声を大にして言いたい。「日本のミステリは世界一だ、日本人なら日本のミステリを読め!でも世界に目を向けるのも必要だと思います」。

No.1376 5点 ロウフィールド館の惨劇- ルース・レンデル 2021/11/20 23:08
ユーニスは怯えていた。自分の秘密が暴露されることを。ついにその秘密があばかれたとき、すべての歯車が惨劇に向けて回転をはじめた! 犯罪者の異常な心理を描く名手、レンデルの会心作。
Amazon内容紹介より。

久しぶりにストレスに悩まされる読書でした。兎に角文章が下手。原文も原文なら翻訳も翻訳ですよ。30年以上前の作品だから仕方ないかあ、とはならないですね、私の場合。
登場人物も主要なキャスト以外誰が誰だか分からない始末です。ただユーニスの非人間性だけはある程度浮き彫りになっていると思います。

冒頭で犯人が明らかになっている以上、興味は当然犯人がどういった経緯で犯行に及んだかに尽きると思うのですが、その変容ぶりがほとんど語られていないのが特に気になりました。ユーニスの秘密が暴かれるのは、どう考えても時間の問題なのに、当人は死ぬまでそれを隠し通せるとでも思っていたのでしょうか。その辺りも疑問に思います。
意外だったのは、悲劇が起こって終わりかと想像していたのが、そこから警察が捜査に乗り出したことでした。しかし、最初に疑われるはずの人物が早々に容疑から外れたのは、一体どうしたことでしょう。実際そのような事はあり得ないはず。警視正とあろう者がボンクラで、あらぬ方向へ捜査が進んでしまうのはかなり滑稽でしたね。
とまあ、私の評価はこんなものですが、みなさんは私を信じないほうが良いかも知れません。何しろ世評が高いようですからね。

No.1375 8点 ジェノサイド- 高野和明 2021/11/17 22:40
急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入するが…。
『BOOK』データベースより。

ハリウッド映画のスペクタクル超大作を観終えた様な達成感があります。単行本で590頁が税込み1770円はお買い得?ですね。まあ今なら古書店で税込み220円で買えると思いますが。それにしても、これは正に一冊で二冊分の内容が詰め込まれてると言って良いでしょう。それでいて、構成プロット共にほぼ完璧で、例えば敵兵の細かいエピソードに至るまで過不足なく描写されており、アメリカ政府のネメシス作戦を遂行する4人の傭兵チームと、二つのPCを基に新薬開発を託された研人の二つの支流が、やがて一つの大きな本流を作り出していく様は見事の一言に尽きます。

本作を読む前、アフリカを舞台にした傭兵たちの冒険譚だと何となく想像していましたが、それは大きな間違いでした。勿論その要素も有ります。しかし、日本、アメリカのホワイトハウス、アフリカのコンゴ共和国と世界を舞台に、それぞれの地で活躍する登場人物たちが何とも人間臭く、又生き生きと描かれており私の想像を大きく上回る壮大な人間ドラマに仕上がっていました。
『このミス』1位も十分頷ける充実の内容でお届けする、大スケールの冒険小説。理屈抜きに楽しめるエンターテインメントであり、ミステリやサスペンス要素もスパイス程度には効いていると思いますね。

No.1374 7点 獣たちの墓- ローレンス・ブロック 2021/11/11 23:11
麻薬ディーラーとして成功した、キーナンの魅力的な若妻フランシーンが、ブルックリンの街角で白昼堂々と何者かに誘拐された。間もなく脅迫電話をかけてきた姿なき誘拐犯。その要求に応じ、キーナンは巨額の身代金を支払う。しかし犯人が指定した車のトランクのなかにあったのは、変わり果てた妻の無惨な死体だった―。犯人への復讐を誓うキーナンは、事件の手がかりを探るため元刑事のスカダーに調査を依頼するが…現代最高峰の私立探偵シリーズ代表作。
『BOOK』データベースより。

私が初めてハードボイルドを読んだのは、記憶が許す限りでは『新宿鮫』だったと思います。評判が良かったようなので挑戦してみましたが、残念ながら私には響きませんでした。今ではこんなですが当時は本格一筋と言っても良かった私ですので、それ以来ハードボイルドに積極的に触れようとは思いませんでした。
ところで、先日海外の作品ももっと読まねばと心を新たにし、本サイトに登録されている全ての海外作家をチェックし高評価を得ている作品を出来る限り読む事を決意した次第です。勿論入手できそうな範囲で、ですが。本作もその一冊でした。余談ですが、海外ではもう本格ミステリはネタ切れと判断されたのか、禁忌の風潮でもあるのか、本当に登録が少ないなと感じました。

さて本作、主人公を始め脇を固めるキャラ達が個性的でなかなか面白いと思いました。特にハッキングの場面は良いです。ただあまり哀愁が漂っていない点が気にはなりました。しかし、そもそもハードボイルドの定義がイマイチ分かっていないので、私の意見は参考にはなりませんが。
冒頭の誘拐事件から惹き込まれますが、要点のみをコンパクトに纏められており、無駄のない文章に好感が持てました。陰惨な事件でありながら、グロさはほとんど感じさせません。そこは想像力で補うしかありませんね。他にも残酷な事件に関与している可能性があり、犯人に憎しみを抱くほどラストでスッキリできるのではないかと思います。日本ではこうはならないかも知れません、それ程ショッキングな幕切れでした。

No.1373 6点 魔法少女育成計画 restart (後)- 遠藤浅蜊 2021/11/07 22:54
ひたすらに激化していく、囚われの魔法少女たちによる生き残りゲーム。残酷かつ一方的なルールの下で、少女たちは迷い、戦い、一人また一人と命を落としていく。警戒すべきは姿の見えぬ「マスター」か、それとも背後の仲間たちか。強力無比な魔法が互いに向けられる時、また一人新たな犠牲者が生まれる―。話題のマジカルサスペンスバトル、第二幕の完結編。
『BOOK』データベースより。

前編のゲームの目的は魔王を討伐する、後編はプレイヤーを全滅させる、変わってるじゃん。そう、もう既に何人もの魔法少女が死んでいます、その上でマスターは更なる犠牲者を望んでいるのです。この変更は突如下され(いつもそうなのですが)、物語は急展開を迎え読者は脳内で軌道修正を余儀なくされます。ミステリで言うところのフーダニットに切り替わり、誰が誰を殺したのかに主題が置かれる事になります。

後半のエキサイティングな展開は、それまでとは打って変わって緊迫感と激しいバトルを生み出し、まさに読み応え十分で遂に本領を発揮したなと感じました。それぞれの魔法少女が持つ特殊能力のぶつかり合いはなかなかよく考えられており、必ずしも武闘派が勝つとは限らない、一寸先は闇の世界を繰り広げシリーズ最大の見せ場を作り出します。
最後に生き残るのは誰か、魔王の身代わりは誰なのか、最後の最後まで目が離せません。

No.1372 5点 魔法少女育成計画 restart (前)- 遠藤浅蜊 2021/11/05 23:02
「魔法の国」から力を与えられ、日々人助けに勤しむ魔法少女たち。そんな彼女たちに、見知らぬ差出人から『魔法少女育成計画』という名前のゲームへの招待状が届いた。死のリスクを孕んだ、理不尽なゲームに囚われた十六人の魔法少女は、黒幕の意図に翻弄されながらも、自分が生き残るために策を巡らせ始める…。話題のマジカルサスペンスバトル『魔法少女育成計画』に続編が登場。
『BOOK』データベースより。

魔法少女たちがRPG内で善行を行い、ポイントを貯めて様々なアイテムをゲットしていき、更にリアルでは相応の報酬が通帳に振り込まれるという基本設定は前作と変わっていません。しかし、今回は困っている人の助力をしたりといった普通の人助けを行う描写は全くありません。その代わり舞台を変えながら骸骨、竜などを倒していくシーンが多目に描かれています。一方で、ゲームを離れた実生活の模様も多少は挿入されています。そして、ラストにはなんと!なんと!なんと! これ以上は書けません・・・。

前作よりも評点が落ちているのは、どうも散文的で纏まりに欠け、どこに重点を置いているのかがいま一つ伝わってこなかったのが原因かもしれません。不可抗力で魔法少女が死んでいったり、殺人事件が起こって探偵役の少女が何となく動いてみたり(捜査や推理はしない)もします。その裏でゲームのマスターサイドにも言及されて、しかし何が本当の狙いなのかは開陳されず、何となくモヤモヤした気分が払拭しきれません。
後編でどう進展するのか期待と不安が錯綜する感じで、現在挑んでいる最中です。

No.1371 6点 異説 忠臣蔵- 荒川法勝 2021/11/02 23:06
吉良上野介は生きていた。華やかな“仇討ち”の裏に隠されたからくり―。事件の謎の部分に鋭く切り込み、大がかりな陰謀を暴き出していく、その後の忠臣蔵。大胆な仮説をもとに、波瀾万丈のストーリーが展開する気鋭渾身の時代活劇巨編。
『BOOK』データベースより。

吉良上野介が生きていたら、という大胆な仮説の下に語られる忠臣蔵のその後の物語。しかし、その仮説がとんでもないとも言いきれない理由があり、必ずしも全否定できないと思わせる歴史の裏事情が垣間見えます。
一般的に忠臣蔵とは前半松の廊下に於ける浅野内匠頭の刃傷沙汰がメインで、中盤様々なエピソードが描かれ、クライマックスの討ち入りから四十七士の切腹で幕を閉じる形がほとんどです。本作は切腹から始まります。よって、赤穂浪士の活躍を期待していると裏切られます。

主役は赤穂藩の資金を持って夜逃げした卑怯者と言われている家老大野九郎兵衛で、実は大石内蔵助が吉良を討ち逃した際の予備軍の司令官として待機していたという設定になっています。後半に登場するやむに止まれぬ訳があって脱落したとされる高田郡兵衛も、大石の直々の命を受けて討ち入り後の重要な任務を任されたと本書ではなっています。果たして大野は吉良の首級を挙げることができるのか?
そしてもう一つのストーリーは完全なフィクションで、吉良が生きていることを知り、その動向を探る諜者がある人妻と合流し、その旅先で互いに惹かれ合う経緯を情緒的に描いたもの。この二つの大きな流れがやがて少しずつ干渉し合いながら進行していく形式を取っています。

作中、色々起こり過ぎて何を書いて良いものか分かりません。無論決闘シーンなどもありますが、それ程の迫力や生々しさはありません。ただ所々私の琴線に触れる描写が幾つかありました。全般的に凪のようなスタイルで描かれ、紆余曲折はあるもののダイナミックさには欠け、今一つ波に乗り切れない面は否定できません。登場人物で好感が持てたのは夫の行方を追う人妻の路乃で、これがまた可愛く健気で何とも言えない魅力を持っています。他にはあまり活躍はしていませんが脇役で光っていたのが寺坂吉右衛門ですかね。

No.1370 7点 孤島の来訪者- 方丈貴恵 2021/10/29 22:28
謀殺された幼馴染の復讐を誓い、ターゲットに近づくためテレビ番組制作会社のADとなった竜泉佑樹は、標的の三名とともに無人島でのロケに参加していた。島の名は幽世島―秘祭伝承が残る曰くつきの場所だ。撮影の一方で復讐計画を進めようとした佑樹だったが、あろうことか、自ら手を下す前にターゲットの一人が殺されてしまう。一体何者の仕業なのか?しかも、犯行には人ではない何かが絡み、その何かは残る撮影メンバーに紛れ込んでしまった!?疑心暗鬼の中、またしても佑樹のターゲットが殺され…。第二十九回鮎川哲也賞受賞作『時空旅行者の砂時計』で話題を攫った著者が贈る“竜泉家の一族”シリーズ第二弾、予測不能な本格ミステリ長編。
『BOOK』データベースより。

昨今流行の特殊設定の孤島ミステリ。それにしても相当思い切ったと言うか荒唐無稽でSF色が強いですが、それでも本格には違いないです。読者への挑戦状も挟まれていますし。様々な制約を設けていて、それが犯人を特定する重要な手掛かりになっており、そこに於ける破綻は見られません。読者は論理的に犯人を指摘する事が可能です。ですが、何か惜しいんですよね、文章にキレがないせいかイマイチ盛り上がらない訳です。

意外性もあるにはあります、ただ話が入り組んでいてややこしいのが難点でしょうか。それに主人公で探偵役の竜泉を始め登場人物の誰ひとりとして個性的に描かれておらず、あまり人間味が感じられません。書きようによっては更なる傑作となったのは疑いようがなく、残念な気がします。
ケチばかり付けているようですが、エピローグは良い味出していましたし、佳作だとは思いますよ。

No.1369 6点 トリックー劇場版ー- 蒔田光治 2021/10/26 23:12
売れない奇術師・山田奈緒子の元に、糸節村から神を演じてほしいという依頼がきた。「三百年に一度、大きな災いが訪れる」という言い伝えに怯える村人の不安を取り除くためだ。だが、村には既に神を名乗るものたちがいた。自著の取材に来ていた日本科学技術大学教授・上田次郎も巻き込まれ、次々と不可思議な現象が起こる。彼らは本物の神なのか?それとも全てトリックなのか!?堤幸彦ドラマの真骨頂、仲間由紀恵&阿部寛主演の大ヒット映画ノベライズ。
『BOOK』データベースより。

自身の脚本をノベライズしているだけに、コンパクトに纏まりながらも確りとツボを押さえて好感が持てます。本書を読んでいて、昔TVで放映していたのを観ていたのを結構細かい所まで覚えているものだなと自分でも感心しました。それだけ映画のインパクトが強かったのだと思います。特に奈緒子と上田の掛け合いがとても楽しめました。頭の中では二人の会話が仲間由紀恵と阿部寛の声に変換されて、まさにトリック・ワールドに没入することが出来ました。

トリックと言うよりマジックに近く、その種明かしをしているだけみたいな感じもありますが、暗号やダイイングメッセージの件などは面白く読めました。テンポ良く話が進みストーリー自体もなかなか良く出来ており、映画を観ていなくても十分その雰囲気は伝わると思いますし、短くても読み応えがないとは言えません。コミカルな面も意外にスケールの大きさもあり、最後まで飽きさせません。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1828件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
アンソロジー(出版社編)(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)