皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1828件 |
No.1408 | 6点 | 隣の家の少女- ジャック・ケッチャム | 2022/02/09 23:03 |
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1958年の夏。当時、12歳のわたし(デイヴィッド)は、隣の家に引っ越して来た美しい少女メグと出会い、一瞬にして、心を奪われる。メグと妹のスーザンは両親を交通事故で亡くし、隣のルース・チャンドラーに引き取られて来たのだった。隣家の少女に心躍らせるわたしはある日、ルースが姉妹を折檻している場面に出会いショックを受けるが、ただ傍観しているだけだった。ルースの虐待は日に日にひどくなり、やがてメグは地下室に監禁されさらに残酷な暴行を―。キングが絶賛する伝説の名作。
『BOOK』データベースより。 非常に繊細に筆致で描かれるボーイミーツガールの物語。そのともすれば壊れそうな世界に、私は思春期独特の心の揺らぎを見ました。美しいとさえ思える文章に引き込まれ、これからどんな冒険が始まるのかと密かに期待しながら読みました、途中までは。そしてそこからは地獄でした。デイヴィッドの隣の家の中年の離婚した女性ルースが、何故メグとスーザンに過酷な運命を課すのか理解に苦しみますが、兎に角残酷の一言に尽きます。読者の一部はここで本を置くかも知れませんし、そうでなくても多大な嫌悪感を持つ人が多いと思います。 正直私も、この4人の親子や粗暴なエディ全員が立ち上がれなくなるまでこの拳を顔面に叩き込んでやりたいと、本気で思ったほどです。怒りと吐き気や苛立ちを抑えることは困難でした。それだけ作品ののめり込んでしまったのは、やはり作者の手腕でしょうね。 最後の最後でやっとスッキリ出来ましたが、デイヴッドがもっと早く勇気を持って事を起こせばと思わずにはいられませんでした。それにしても、主人公の心情は非常に丹念に描かれており、物の善悪すら区別が付かなくなる程心が揺れる過程は、本作の一番の読みどころではないかと思います。 |
No.1407 | 5点 | 空を飛ぶための三つの動機- 汀こるもの | 2022/02/06 22:48 |
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“死神”と呼ばれる少年・立花美樹が双子の弟・真樹や御守り役の刑事とともに紀伊山中で遭難した。森を彷徨い、辿りついた先は10人の子供と4人の大人が暮らす謎の施設。だがそこは安寧の地に非ず。次々に周りで人が死ぬ“死神”体質少年の出現は、案の定、不可解な死の連鎖を呼び起こす。デスゲームを操るのは誰?閉ざされた館での推理と攻防!そして凄絶な結末。
『BOOK』データベースより。 結局最後まで何がやりたいのか理解できませんでした。文章にキレと抑揚がないため、一向に盛り上がりません。クローズドサークルの事件とそれをテキストとして、二人の刑事が真相を解明していく二層構造になっていますが、どちらも同じような文体で、何処で場面変換が行われたのかと思うこともしばしばあったりして、何となく小手先だけで書いたような印象を受けました。「これはバトルロワイアルだからまだまだ死者が出る」とか湊が言っているのに、大して殺人が起こりません。しかも殺人事件の謎もなおざりにされた感があり、あれ?いつの間にか解決したことになっているのか、と思わざるを得ない面もありましたね。 そして面白かったのは、ミステリ以外の相変わらずの魚に関する薀蓄だったのは皮肉と言うしかありません。施設に預けられている子供達がニックネームで書かれているので、余計にややこしくなっていて、話が拗れてしまっています。何故もっと事件をクローズアップしなかったのか、これがこの人の限界なのかと感じられて仕方ありません。 |
No.1406 | 6点 | 狂乱家族日記 六さつめ- 日日日 | 2022/02/03 22:42 |
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人類完全獣化現象から逃れて、雷蝶と共に鳥哭島に避難した凶華たち乱崎家一行は、連行したDr.ゲボックと共に中和剤の製造にとりかかった。一方、獣化現象で混沌とする帝都では、狂気にかられて人間を襲い始めた動物たちを抑えるため、マダラが褐色皇帝の血族の「力」を発動させる。「従え!俺が王だ!」マダラの悲痛な叫びが帝都に響きわたる―。「来るべき災厄」を目前に、馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語は佳境を迎えますますヒートアップ。
『BOOK』データベースより。 ちょっと間が空くとすぐ忘れるなあ、ダメですね。まあ本作、助走が長い分、その間に徐々に前作(前篇に当たる)を思い出せたので良しとしますか。ほぼ半分程が帝架とマダラの物語に重点を置き、それに乱崎一家の各キャラ達を絡めるという、本シリーズ全般に準ずる構成になっています。物語が動き出すのが鳴りを潜めていた凶華の一言。やはり個性豊かなキャラの中でも主役級の言動は一味違います、良い意味でどうかしています。 そこからは俄然面白くなり、漸く本領を発揮してきたなと思いました。その凶華のアイディアにより、物語がヒートアップするだけではなく、二頭のライオン帝架とマダラの間に新たな関係性が生まれ、本筋に変容が出てきます。そして本件が落着したかと思いきや、又しても次巻に繋がる不穏な前兆が・・・。 良くもまあ次から次へと色んな事件、変節が思い付くなと感心しますね。しかし、これくらい変化に富んだストーリーなくしては、このような長いシリーズを保たせるのは難しいかも知れませんね。 |
No.1405 | 8点 | 四元館の殺人―探偵AIのリアル・ディープラーニング- 早坂吝 | 2022/02/02 22:34 |
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今度の舞台は雪山の館。驚天動地の犯人、爆誕⁉
「犯罪オークションへようこそ! 」 犯人のAI・以相(いあ)が電脳空間で開催した闇オークション、落札したのは、従姉を何者かに殺され、復讐のための殺人を叶えたいというひとりの少女だった!?以相による殺意の連鎖を食い止めるべく、探偵のAI・相以(あい)と助手の輔(たすく)がわずかな手がかりを元に辿り着いたのは――雪山に佇む奇怪な館「四元館(よんげんかん)」だった。そこに住まう奇妙な四元(よつもと)一族と、次々巻き起こる不可思議な変死事件……人工知能の推理が解き明かす前代未聞の「犯人」とは!? 本格ミステリの奇才が“館ミステリ"の新たなる地平を鮮烈に切り開く、傑作長編。 Amazon内容紹介より。 雪の密室、奇矯な建築家が設計した、人里離れた山中の館、そこに住まう怪し過ぎる人々、そして連続殺人。如何にもな館ミステリの王道を往くのかと思いきや・・・。 古色蒼然とした本格物でありながら、新しい要素を取り入れることにより、これまでのミステリと一線を画す作品になっていると思います。本シリーズでは勿論お得意のエロは封印されており、真面目なミステリとしての、又新たな試みに挑戦し続ける作者の矜持の様なものがひしひしと感じられます。 そして究極のフーダニットとして私は評価したいと思います。伏線はそこここに張られており、決してアンフェアとは言えないでしょう。一人でも多くの人に読んで欲しいですね。でもくれぐれも壁に叩き付けない様にね。 |
No.1404 | 7点 | 葬列- 小川勝己 | 2022/01/31 22:40 |
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不幸のどん底で喘ぐ中年主婦・明日美としのぶ。気が弱い半端なヤクザ・史郎。そして、現実を感じることのできない孤独な女・渚。社会にもてあそばれ、運命に見放された三人の女と一人の男が、逆転不可能な状況のなかで、とっておきの作戦を実行した―。果てない欲望と本能だけを頼りに、負け犬たちの戦争がはじまる!戦慄と驚愕の超一級品のクライム・アクション!第二十回横溝正史賞正賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 全体的に途中でダレル事もなく、最後まで楽しめるのは間違いないと思います。主役はラブホテルで働く主婦明日美とやくざの史郎です。二つのストーリーが並行して進行し、何処で如何繋がるのかと興味深く読めます。寄る辺のない人々の描写がややハードに続き、あまり犯罪小説らしい所はなかなか見せないのですが、リーダビリティに優れている為、飽きません。 ふたりの主人公やその関係者たちには、個人的に全く感情移入の余地がないと感じました。それはそれぞれの人物の感情があまりに剥き出しに描かれている故だと思います。良くも悪くも人間の醜さや弱さが克明に晒されているので、嫌悪感を抱く読者も多いかも知れませんね。 横溝正史賞の選考委員の一人、北村薫が選評で書いているように、途中から参戦する渚が最も魅力的なキャラであり、彼女を出し惜しみせずに主役に据えた物語にすればもっと面白い小説が出来上がったかも知れません、そこがやや残念かも。 それでも終盤に何とも言えないミステリっぽい意外性を発揮して、驚かせてくれます。そのサービス精神と言い、細かい枝葉まで神経が行き届いている点と言い、受賞作として相応しいものと思います。 |
No.1403 | 6点 | 消滅世界- 村田沙耶香 | 2022/01/27 22:54 |
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セックスではなく人工授精で、子どもを産むことが定着した世界。そこでは、夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、「両親が愛し合った末」に生まれた雨音は、母親に嫌悪を抱いていた。清潔な結婚生活を送り、夫以外のヒトやキャラクターと恋愛を重ねる雨音。だがその“正常”な日々は、夫と移住した実験都市・楽園で一変する…日本の未来を予言する傑作長篇。
『BOOK』データベースより。 この作者の持ち味が常識の外にあるぶっ飛んだ世界観だとすれば、本作ではそれが存分に発揮されています。夫婦の間での性交渉があり得ない世界、その代わり家の外で恋人を作るのが当たり前、男も妊娠でき女は人工受精によって子孫を残す。つまり人間の本能である性欲を持たない、未来の人間像が描かれている訳です。それでもやはり、性欲は溜まるものであるから、それをクリーンアップするための施設も用意されているという、とんでもない未来の日本社会。 最初は何考えて書いているんだろう、そんなのある訳ないじゃないかと云った、至って常識的な観点から、どうしても話に付いて行けず気持ち悪さが先に立ってしまう部分はありました。平然と異常な世界が描かれて、一体何のための夫婦なのかよく理解できず、凄く居心地の悪さを感じながら読んでいました。それが「子供ちゃん」が登場してから俄かに面白くなり、正常と異常の線引きを超えたところに新たな未来があるんだなと、何となくではありますが思えてきました。作中の人々も何かの宗教に洗脳されたが如く、それを当たり前だとして生きている姿に、違和感と不信感を覚えながらも、それを小説にしてしまう村田紗耶香という人に特殊な才能を垣間見た私なのです。 |
No.1402 | 8点 | 黒牢城- 米澤穂信 | 2022/01/26 23:00 |
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本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の集大成。『満願』『王とサーカス』の著者が辿り着いた、ミステリの精髄と歴史小説の王道。
Amazon内容紹介より。 昨年の12月初旬の事。本サイトの広告欄でAmazonがしきりに薦めてくるし、評判も良さそうなので購入しようかどうしようか案じていました。そんな時行きつけの書店で単行本の新刊コーナーの隣の棚に、比較的新しい中古本が30%OFFで販売しており、その中に新品同様の本書を見つけ、数瞬ののち購入を決めました。その時はまさか、ミステリランキング4冠制覇を成し遂げるなどとは露とも思わず、又直木賞、山田風太郎賞をダブル受賞するとは夢にも思いませんでした。 初っ端から圧倒的な重厚感と静謐さを兼ね備えた村重と官兵衛の対決に、心を持って行かれそうになりました。終始これが米澤穂信の手になる小説なのかという、一種の畏怖を持ちながら読みました。本作は正に時代小説の手練れが書いたものにしか思えず、その見事なまでの描きっぷりには只管平伏するしかありませんでした。この人は一体どれだけの引き出しをを持っているのか、想像も付きません。 ただ言えるのは、間違いなく本作は『折れた竜骨』と並ぶ米澤の代表作となるであろうということであります。戦国の世に生まれた男たちの生き様と本格ミステリの見事なまでの融合などは、どんな読書の達人をも唸らせるに十分なポテンシャルを持った、堂々たる歴史ミステリの結晶であると言えるでしょう。 畢竟、評判通りの傑作だったと思います。 |
No.1401 | 6点 | 蜃気楼・13の殺人- 山田正紀 | 2022/01/22 22:57 |
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栗谷村の村おこしマラソン大会の最中、忽然とランナー十三人が消えた!戦国時代の山城・十三曲坂を使った十キロのコースは、途中で抜け出ることのできない、いわば大密室…。後日、消えたランナーの一人が、木に突き刺さった無惨な姿で発見された。奇妙なことに、この一連の出来事が、百五十年前の古文書に書かれていた!?奇才が挑んだ空前のトリック。
『BOOK』データベースより。 山田正紀ってこんなに読み易かったっけ?というのが第一印象。でも最後に読んだ『阿弥陀』もそんなに難解じゃなかったなあとも思い直しました。 非常に残念な事に最初に登場する風水林太郎が探偵役として事件を解決するものだと思って読んでいたのに、終わりかけにちょっと顔を出すだけだったのでがっかりでした。何でもノベルス版では林太郎の記述はなかったそうで、それなら致し方ないと無理やり自分を納得させることに。一応東京から村に引っ越してきた家族の父親と、元刑事の義父がそれぞれ違う角度から調査をしていきますが、結局解決に導くまでには至りません。 事件としては非常に奇妙なもので、一体どんなトリックを使うのか期待しましたが、かなりの肩透かしを喰らいました。第一の事件、つまりランナー13人の失踪はもしかしてと思った通りでしたし、木の枝の死体串刺し事件は・・・だし、トラクターが空を飛ぶ?事件はこれまたショボいトリック。 謎が妙に惹きつけられるものがあっただけに、真相は期待外れでした。しかし、雰囲気としては三津田信三の某作品に似たものがあり、嫌いではありません。まあオマケで6点としましたが、作品のバランスはちょっとどうかなって感じがしましたね。新保教授の解説は秀逸でしたが。 |
No.1400 | 5点 | ココロ・ファインダ- 相沢沙呼 | 2022/01/19 22:45 |
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高校の写真部に在籍する四人の少女、ミラ、カオリ、秋穂、シズ。それぞれの目線=ファインダーで世界を覗く彼女たちには、心の奥に隠した悩みや葛藤があった。相手のファインダーから自分はどう見えるの?写真には本当の姿が写るの?―繊細な思いに惑う彼女たちの前に、写真に纏わる四つの謎が現れる。謎を解くことで成長する少女たちの青春を、瑞々しく描く。
『BOOK』データベースより。 マツリカシリーズの様なねちっこさもなく、あまりに軽いので読み応えがありません。そして各短編の語り手である四人の少女の個性もあまり発揮されているようにも思えませんし、写真やカメラに関するある程度の知識も必要とされる為、評価としてはこの程度にしかならないですねえ。一応日常の謎を扱った青春ミステリという事になるでしょうが、ミステリとして弱いです。何となくサクッと読み進めてしまえるので、少女達の苦悩をそれほど深刻に受け止められず、作者の力量が十全に発揮されているとも思いません。 Amazonの高評価にも首を捻らざるを得ません。うーん、やはり私の読解力が劣っているのかと思わずにはいられません。確かに所々心に響く場面もありますが、深掘りされていない点が多々あるように私には思えますね。 |
No.1399 | 8点 | かにみそ- 倉狩聡 | 2022/01/18 23:12 |
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全てに無気力な20代無職の「私」は、ある日海岸で小さな蟹を拾う。それはなんと人の言葉を話し、体の割に何でも食べる。奇妙で楽しい暮らしの中、私は彼の食事代のため働き始めることに。しかし私は、職場でできた彼女を衝動的に殺してしまう。そしてふと思いついた。「蟹…食べるかな、これ」。すると蟹は言った。「じゃ、遠慮なく…」。捕食者と「餌」が逆転する時、生まれた恐怖と奇妙な友情とは。話題をさらった「泣けるホラー」。第20回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 これを読んでいるそこの貴方、意味不明なタイトルと安っぽい表紙画を見て、どうせ子供騙しのB級ホラーだろうと思っていませんか。それは違います。誰が何と言おうと私は本書を絶対的に支持します。1ミリも無駄のない文章なのに、一つ一つの言葉に何とも言えない情感が篭っています。それは分かる人には分かるし、分からない人には分からない感覚です。だからと言って、私が優れた読者なのではなく、偶々作者と感性が合っていたに過ぎないと思いますが。 特に、主人公の心の虚無さと蟹の愛嬌が凄く作風にマッチしていて、そこも評価できますね。 文章の素晴らしさは表題作だけではなく、併録の『百合の火葬』にも言えることで、こちらは若干地味目ではありますが、抒情を湛えた文体はとても新人とは思えません。最早ホラーと言うより文学と呼んだ方がしっくりくるくらいです。 中編の表題作『かにみそ』は日本ホラー小説大賞の優秀賞作品ですが、他の候補作と争った結果大賞の該当作なしで落ち着いたそうです。個人的には大賞にして欲しかったですね。 |
No.1398 | 7点 | グミ・チョコレート・パイン パイン編- 大槻ケンヂ | 2022/01/15 22:56 |
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冴えない日々を送る高校生、大橋賢三。山口美甘子に思いを寄せるも、彼女は学校を中退し、着実に女優への道を歩き始めていた。そんな美甘子に追いつこうと友人のカワボン、タクオとバンドを結成したが、美甘子は女優として鬼才を発揮しながら共演の俳優とのスキャンダルや秘められた恋を楽しんでいた…煩悩ばかりで健気な賢三と自由奔放な美甘子の青春は交錯するのか?青春大河巨編、ついに完結。
『BOOK』データべスより。 遂に完結篇。作者によると本シリーズはまだまだ続くとの事ですが、未だ書かれていない事実を鑑みるともう読めないのかも知れません。勿論、書かれたとしても外伝的な物だと思うので、美しいまま終わらせても良いのではないかという気がします。 果たして山口美甘子は天使か悪魔か、それは本作を読めば分かります。と言うか、余りにもその姿が赤裸々過ぎてちょっと引いてしまいました。しかし、登場人物の中で誰よりも自分に正直に生きているというのは、誰しも感じるところだと思います。そして彼女に翻弄される少年達の苦悩と友情はあまりに過酷で重いものであったと言えます。だからこそ面白いのであり、ドラマティックだったのです。 これは主役から端役まで全ての登場人物が血の通ったキャラクターとして生々しく描かれた、稀有な青春小説です。抜け殻の様にボロボロになりながら、死のうとしても死ねず、じーさんによる修行を行っても煩悩を捨てきれず、それでも何度も復活する賢三の姿は、まさにダメ男でありヒーローであります。 様々な金言や生きるために必要な言葉が語られる本書ですが、私の胸に最も刺さったのは解説を書いた名も知らぬ作家の「死ぬまで寝ていたい」という言葉でした。いやはや何とも・・・。 |
No.1397 | 7点 | グミ・チョコレート・パイン チョコ編- 大槻ケンヂ | 2022/01/13 22:47 |
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大橋賢三は黒所高校二年生。周囲のものたちを見返すために、友人のカワボン、タクオ、山之上らとノイズ・バンドを結成する。一方、胸も大きく黒所高校一の美人と評判の山口美甘子もまた、学校では「くだらない人たち」に合わせてふるまっているが、心の中では、自分には人とは違う何かがあるはずだと思っていた。賢三は名画座での偶然の出会いから秘かに想いをよせていたが、美甘子は映画監督の大林森にスカウトされ女優になることを決意し、学校を去ってしまう…。―賢三、カワボン、タクオ、山之上、そして美甘子。いまそれぞれが立つ、夢と希望と愛と青春の交差点!大槻ケンヂが熱く挑む、自伝的大河小説、感涙の第2弾。
『BOOK』データベースより。 前作があのような終わり方をしたので、予定を変更し本作を読む事にしました。やはり間を空けるべきではないとの考えからです。グミに比べると幾分テンション低めですが、それでも面白い。まあ次への繋ぎ役みたいな所はありますが。 今回はグミ編で賢三が美化した為か、それとも美甘子目線の描写が多いせいか、彼女の可愛げが無くなり生意気になった印象です。自分の事を山口と言っているのもあるかも知れません。どうも私的に自分を名字で語る女子があまり好きになれないのです。 それでもやはり大槻ケンヂ、ロックに対する情熱や蘊蓄は十分に発揮されています・・・。 賢三の手の届かないところに行ってしまった美甘子。当然ながら二人の接点が無くなり、微笑ましい男女の機微や関係も断ち切られることになり、其処に対する失望感は否定できません。その分、賢三と愉快な仲間たちのバンドへの希求は増すばかりで、しかも仲間三人の才能が花開こうとしている過程は読んでいてワクワクさせてくれます。 おっと、大事な事を忘れていました。最終章の狂ったような世界観が私は大好きです。 |
No.1396 | 8点 | グミ・チョコレート・パイン グミ編- 大槻ケンヂ | 2022/01/11 22:50 |
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大橋賢三は高校二年生。学校にも家庭にも打ち解けられず、猛烈な自慰行為とマニアックな映画やロックの世界にひたる、さえない毎日を送っている。ある日賢三は、親友のカワボン、タクオ、山之上らと「オレたちは何かができるはずだ」と、周囲のものたちを見返すためにロックバンドの結成を決意するが…。あふれる性欲と、とめどないコンプレックスと、そして純愛のあいだで揺れる“愛と青春の旅立ち”。大槻ケンヂが熱く挑む自伝的大河小説、第一弾。
『BOOK』データベースより。 この大槻ケンヂめ、遂に本性を現したな。これまで訳解らん新興宗教やホラーなんかを書いていたが、今回はコテコテの青春小説か。それも己を主人公にした様な自伝的なものだと?これは正にエロティシズムとロマンティシズムのせめぎ合いではないか。人々よ、Amazonのレビューを見よ。これが現実だ。 本書を読みながら思った事・・・そう言えばデビュー当時の中森明菜はぽっちゃりしていたな、多分太りやすい体質なんだろうと思いきや、意に反してどんどん痩せていったとか。薬師丸ひろ子の水着写真集が出版されていたのかとか。主人公の賢三の、笑うと目が無くなる片想いの相手美甘子はゴールディ・ホーンというより元乃木坂46の松村沙友里に似ているんじゃないのかとか。ELPの『聖地エルサレム』(原曲はチャールズ・パリー作曲のイギリスの聖歌)のイントロは確かにテンションが上がるなとか。ATGの映画は暗いのが多かったが、その最たるものと言えるのは高林陽一監督、金田一耕助役は中尾彬の『本陣殺人事件』じゃないのかとか等等。 まあそんな感じで、これはとても素晴らしい名作だと言っても良いと思います。思春期の悶々とした感じや切なさ遣る瀬無さが見事に表現されています。それだけにとどまらず哲学的な小説の一面も持っています。その繊細さと熱量はそのまま作者の力量として捉えることが出来るでしょう。 大いに笑わせても貰えましたし、鋭い反転の見事さも印象深いものがありました。そして青天の霹靂とも言える終盤の衝撃には頭がクラクラしましたよ、マジで。 |
No.1395 | 6点 | 踊り子の死- ジル・マゴーン | 2022/01/09 22:54 |
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寄宿学校での舞踏会の夜、副校長の妻が殺された。暴行された形跡があったと聞いた教師たちは、一様に驚きを見せた。男と見れば誰彼構わぬ彼女の色情狂ぶりは、学校の悩みの種だったのだ。では、レイプ目的の犯行ではありえないのか? ならば、動機は?すべてが見せかけにすぎないとしたら、その夜、本当は何が起きたのか?
Amazon内容紹介より。 精神的に不安定な状態で読みましたので、細かい点まで読み切れているかどうか分かりません。それにしても、全体の半分位を占めるロマンス要素は必要だったのでしょうか。取って付けた様な印象がどうしても拭えません。ほんのアクセント程度ならまだしも、肝心の殺人事件の捜査をそっちのけで恋愛沙汰の描写は如何なものかと。どうも海外の作品は印税欲しさなのか知りませんが、話を無駄に長くし過ぎるきらいがありますね。上下巻も国内に比べると非常に多いですし。 まあそんな事はどうでも良いですが、殺人事件の検死や事情聴取などを見る限り、結構よく書けていると思えるだけに、それを御座なりにしてしまっているのは返す返すも残念です。よって、解決編が唐突に出現してしまうように感じられる訳です。真相に関しては最後まで犯人像を読者に掴ませず、よく辛抱して仕上げたとは思います。 色々惜しい作品との印象を受けました。文章は何ら問題なくむしろ達者な方だと感じました。ただ多視点なのとプロットに難がありそうで、個人的にはなんとなくスッキリしませんでした。 |
No.1394 | 6点 | 無気力探偵 面倒な事件、お断り- 楠谷佑 | 2022/01/06 23:02 |
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高2の霧島智鶴はどんな難題も解決できる天才だが、最大の欠点は究極に無気力なこと。そろそろ進路も考えねばならず、労力を使わず頭脳だけで稼げる仕事はないか?と考える日々。そんな彼のもとに、失敗で現場捜査を外された落ちこぼれ刑事や同級生の揚羽、柚季らが次々と事件を持ち込む。ダイイングメッセージの謎、誘拐、脱出ゲームでの事故などに挑み…?やがて彼の隠された過去が明らかになり―。
『BOOK』データベースより。 全体的に小粒な感は否定できません。それでも読者を飽きさせない様に目先を変え、ダイイングメッセージ、密室、誘拐などをテーマにし、ロジックに特化したフーダニット主体の連作短編集。個人的には第三話(第三章)の『限りなく無意味に近い誘拐』が一番のお気に入り。ちょっと吃驚しました、情けないことに。読む人が読めばすぐに真相は想像が付くかもしれませんけど、私は見事に騙されました。 主人公で探偵役の高校生桐島千鶴はタイトルの様に無気力ではない様に見受けられます。積極的に事件に関わろうとはしませんが、かと言って面倒がって嫌々探偵する訳ではなく、似たようなキャラの裏染天馬よりはやる気があると思います。 若干ラノベ要素も含まれています。しかし、あとがきでクイーンが好きと書いているように、論理で攻めるやや地味目の本格ミステリであるのは間違いないでしょう。決して悪くはないと思います、もっと世間に知れても良いのではないかな。 |
No.1393 | 7点 | 愚者(あほ)が出てくる、城塞(おしろ)が見える- ジャン=パトリック・マンシェット | 2022/01/03 22:27 |
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精神を病み入院していたジュリーは、企業家アルトグに雇われ、彼の甥であるペテールの世話係となる。しかし凶悪な4人組のギャングにペテールともども誘拐されてしまう。ふたりはギャングのアジトから命からがら脱出。殺人と破壊の限りを尽くす、逃亡と追跡劇が始まる。
『BOOK』データベースより。 正直、訳者あとがきにあるような、こんなすごい作品がこの世にあったのかというほどの傑作とは思いません。それでも、キャラが立っているのが良いですね。アルトグや悪役達はアクが強く一癖ある連中ばかりで、それをクールに描いているのがいかにも暗黒小説といった雰囲気を醸し出しています。そしてジュリーとペテールの二人は反目し合いながらも、どこか気持ちが通じていると思わせる辺り上手いなと。直截的な描写はなくても行間に滲み出ている感じがします。 何となく読んでしまうと飽き足らない思いがするかも知れませんが、よくよく読んでみるとなかなか良く描かれているし、計算されている作品だと云う気がします。ストーリー自体は至ってシンプルですが、その中にも一捻りしてあり、乾いた暴力や殺戮がぴったりとフィットしています。 |
No.1392 | 7点 | メルカトル悪人狩り- 麻耶雄嵩 | 2022/01/01 23:00 |
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悪徳銘探偵メルカトル鮎に持ち込まれた「命を狙われているかもしれない」という有名作家からの調査依頼。“殺人へのカウントダウン”を匂わせるように毎日届く謎のトランプが意味するものとは? 助手の作家、美袋三条との推理が冴えわたる「メルカトル・ナイト」をはじめ、不可解な殺人事件を独自の論理で切り崩す「メルカトル式捜査法」など、驚愕の結末が待ち受ける傑作短篇集!
Amazon内容紹介より。 これは言わばメルカトルファンのための一冊ではないかと思います。彼にしか解決できない事件、彼ならではの推理法、偶然をも必然に変えてしまう銘探偵の宿命などを楽しめばそれで良いのではないかと。確かにメルカトル鮎が見ている世界が我々凡人には見えないのかも知れません、だからと言って本シリーズを突き放してしまうのは、如何にも勿体ない気がします。 個人的に好きなのは想像の斜め上を行く反転が味わえる『メルカトル・ナイト』、シンプルながらよく考えられている上に解り易い『愛護精神』が好きです。『水曜日と金曜日が嫌い』は『7人の名探偵』で既読であったにもかかわらず、初出一覧を見るまで気付かなかった自分の記憶力の無さにつくづく嫌気が差した作品。でも意外と面白かったですよ、残念な事に。こんなのを忘れているとは麻耶ファン失格ですね。 まあしかし、得体の知れない怪人メルカトル鮎の人間らしいところがささやか乍ら見え隠れしている、好編が揃った作品集だと思います。最後の『メルカトル式操作法』はメルの疲れ切った姿が見れてラッキーでしたし。どちらかと言えば読者を選ぶ一冊でしょうが、シリーズ入門編としては格好の短編集ではないでしょうか。しかし、美袋君も並みの人物じゃないなあ。 |
No.1391 | 6点 | 書楼弔堂 炎昼- 京極夏彦 | 2021/12/30 23:21 |
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明治三十年代初頭。人気のない道を歩きながら考えを巡らせていた女学生の塔子は、道中、松岡と田山と名乗る二人の男と出会う。彼らは幻の書店を探していて―。迷える人々を導く書舗、書楼弔堂。田山花袋、平塚らいてう、乃木希典など、後の世に名を残す人々は、出会った本の中に何を見出すのか?移ろいゆく時代を生きる人々の姿、文化模様を浮かび上がらせる、シリーズ待望の第二弾!
『BOOK』データベースより。 力強い言葉、優しい言葉、そしてそれらを組み合わせ繋ぐ文章の、なんと素晴らしい事か。そこはかとなく漂う香気すら感じさせる筆力は見事の一言に尽きます。並みの作家が書いたならこんな作品にはならなかったと思います。逆に言えばそれだけ内容は人の心の中に踏み込んではいるものの、決して派手なものでは無いという事になります。 前作同様明治の苦悩を抱えた偉人、著名人が次々と風景の中に紛れ込んでうっかりすると見逃してしまいそうな灯台に似た書楼弔堂に訪れ、其処の主人と対峙します。今回の語り手は現実から逃避したい女学生の塔子の連作短編集。遂に明かされる書楼の主人の名前、どこかしら京極堂を彷彿とさせるこの人物の一言一言の重みは恐ろしい程の凄みがあり、ラストの長広舌は正に読み応え十分で、色々考えさせられるものがありました。 点数は6点ですが、気持ちは7点です。私が文学に通じていればもっと評価は高かったかも知れませんね。 |
No.1390 | 7点 | ブルーローズは眠らない- 市川憂人 | 2021/12/26 22:49 |
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ジェリーフィッシュ事件後、閑職に回されたフラッグスタッフ署の刑事・マリアと漣。ふたりは不可能と言われた青いバラを同時期に作出したという、テニエル博士とクリーヴランド牧師を捜査することに。ところが両者と面談したのち、施錠されバラの蔓が壁と窓を覆った密室状態の温室の中で、切断された首が見つかり…。『ジェリーフィッシュは凍らない』に続くシリーズ第二弾!
『BOOK』データベースより。 本作は構成の妙の勝利でしょうね。薔薇の密室の中で発見された首と拘束された被害者の助手。この事件には多分に奇妙な要素があり、非常に惹き付けられる魅力を有しています。その後見つかる他の場所に埋められた首なし死体、謎又謎にトリック云々よりもどうしてこんな事になってしまったのかが気になって仕方ありません。犯人の狙いは一体どこにあるのか、動機は?二人が完成させた青い薔薇はどう関係しているのかなど、頭の中に?が一杯になりそうなところに、またしても新たなる殺人事件が起こり、何が何だか分からないまま読み進める事になりました。それは悪い意味ではなく、パズラーとしての妙味が存分に味わえる訳なのです。 ただ個人的に動機が弱い、と云うか何故そんな事をと思ってしまいました。その意味でやや残念な気持ちはあります。それでもよくこんな事を考え付いたものだと感心することしきりです。新本格を意識したのかも知れませんが、それよりも正統派の本格ミステリと呼んだ方が適当だと思います。うーん、でも真相は正統派とは呼べないですかね、相当ぶっ飛んでますから。 |
No.1389 | 5点 | 麻雀幻想曲 ルーンの秘宝- 逢瀬藍 | 2021/12/23 22:55 |
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突然の侵攻に王国を追われた、オルトリープ姫と騎士クリス。わがまま勝手なお姫さまの行動に右往左往しながらも、ルーンの秘宝と理想郷を求める苦難の旅がはじまった。迫りくる敵軍とのバトル・モードは魔法マージャン。勝てば極楽、負ければ凌辱!!妖しくエッチたっぷりな冒険ステージをこなし、新しい仲間を加えながら、一行はまぼろしの都をめざす。愛と勇気と官能にいろどられたエンタテインメント小説の超傑作、ここに完成。
『BOOK』データベースより。 偉そうなタイトルから、志村裕次原作の麻雀劇画の様なファンタジー要素を含んだ娯楽作かと勝手に想像していたら、全然違いました。ストーリーは上記にある通り。しかしそれは有って無い様なもので、言ってみれば最早ライトな官能小説の如き代物であります。 旅の途中で出会った敵と何故か麻雀バトルをして、その度に仲間が増え秘宝を求めて更なる旅を続けるのですが、ほぼその相手が美女で勝負の後にお約束の折檻が待っているというワンパターン。その描写がエロ過ぎて苦手な人、特に女性は放り投げたくなるかもしれません。 肝心の闘牌シーンはショボいので、全く期待できません。和了までの経緯さえ描かれず、いきなり「ロン」で終わり、役名さえ明かされなかったりします。ただ相手のクセや性格を捨て牌から読んで和了るのみ。これは到底納得いきません。 一々挟まれるイラストは、『エヴァンゲリヲン』の惣流・アスカ・ラングレーをちょっと下手にしたようなお顔ばかりでありますが、興奮を煽ります。まあ、何も考えずにいやらしい妄想を膨らませながら読むしかないですね。 |