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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 2008件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1588 6点 血みどろ砂絵- 都筑道夫 2023/02/10 22:44
とざい東西、江戸は神田の橋本町、ものもらいや大道芸人ばかりが住んでいるおかしな長屋に、センセーと呼ばれる推理の特技をもった砂絵かきがいた。当時珍しい合理精神の持ち主で、犯罪事件が起こると、わずかな礼金にあずかろうと、見事な推理で謎をとく。センセーと長屋の連中が、よってたかってとき明かした奇妙な事件の数々…。四季折々の江戸の風物を背景に、ユーモラスな本格推理を融合させた、異色の傑作捕物帖。
『BOOK』データベースより。

目茶目茶読み難かったです。
私は自分の馬鹿さ加減、読解力の無さ、集中力の無さ、記憶力の無さをよく分かっているつもりです。他人様に指摘されるまでもなく、そんな事は百も承知。なので、他の方の高評価に対して何も言う権利はありません。しかし、まあそうだろうなとは思うものの、正直個人的には期待していた程ではありませんでした。やはりここでも本作の良さを汲み取れていない己の愚かさを思い知らされた次第です。

何かこう、道中の慣れない言い回しやら、江戸時代の言葉遣い、情景が浮かんで来ないもどかしさ等を味わいながら、結局センセーの語る真相に成程と思わず頷いてしまう自分になんだかなーと妙な気分にさせられる作品でした。確かに意表を突いた仕掛けには感心するものがあり、その意味では面白かったと言えるでしょう。それでも十全に本作を堪能出来ていない事に対する腹立たしさは拭えません。

No.1587 6点 伝説の雀鬼・桜井章一伝- 柳史一郎 2023/02/08 22:12
桜井章一はいかなる相手にも状況にも決して屈しなかった。右頬に日本刀、左頬にドスを当てられ、親指の骨を折られたこともあった。それでも彼は、ただひたすらに牌を打ち続けた…。裏麻雀の世界を20年間無敗で駆け抜けた男の姿を克明に描いた幻の傑作、ついに文庫化。「雀鬼流」という哲学を見出すその陰には激しすぎる戦いの日々があった。
『BOOK』データベースより。

何だか小説を読んだ気がしません。それは著者があとがきで書いている様に、あくまでノンフィクションとして著したとしており、小説の持つ情感があまりなかったり勝負の裏にある背後関係等が薄かったりする為と思われます。人間ドラマとしてはそれなりですが、生々しさという点では物足りません。

桜井章一は所謂裏プロであり、仕事師であります。ですから勝負は牌を積んで親の場合サイコロの目を自在に出した時点で既に着いていると言ってもあながち間違いではありません。つまり積み込み(裏技)です。なので、闘牌シーンは白熱している様で実はそうでもありません。それよりも、対戦相手との洗牌からどう積み込むのかの勝負に注目が集まるのは、自然の成り行きと言えるでしょう。
20年間無敗の雀鬼、桜井章一の心情はよく描かれており、その意味では一読の価値はあると思います。しかし、麻雀のルールを知らない人は読んでも意味が解らないでしょう。

No.1586 6点 深泥丘奇談- 綾辻行人 2023/02/05 22:47
ミステリ作家の「私」が住まう“もうひとつの京都”の裏側に潜み、ひそかに蠢動しつづける秘密めいたものたち。古い病室の壁に、丘の向こうの鉄路に、長びく雨の日に、送り火の夜に…面妖にして魅惑的な怪異の数々が「私」の(そして読者の)日常を侵蝕し、見慣れた風景を一変させる。―『Another』の著者が贈る、無類の怪談小説集!
『BOOK』データベースより。

続編を先に読んでいて、最初の短編『顔』の途中であれ?もしかしてもう読んだやつかと思って即検索してみましたが、未読でした。それは例の片目だけをうぐいす色の眼帯をしている医者が出てきたからだったんですが、この深泥丘病院の主人公私の主治医、いつも出て来るのね。それで勘違いしてしまいました。まあそれにしても、その医者や推理作家の「私」、左手首に包帯を巻いている看護師など、いずれもどこかしら怪しげな人々ばかり登場しますね。そういった雰囲気は好きですが。

鉄道マニアに隠れた人気スポットらしき場所で起こる惨劇?を描いた『丘の向こう』、降り続く雨に「良くない」と妻にも言われ体調を崩す「私」が深泥丘病院を訪れ、怪しい会話からラストの衝撃に繋がる『ながびく雨』まで読んだ時は7点は堅いと思ったものです。しかも次の『悪霊憑き』は本短編集の白眉とも言える傑作。途中で何かのアンソロジーで既読だったのに気付きましたが、ほとんど忘れていて逆に凄く楽しめましたし、これはイケると感じましたが、それ以降やや下降気味で結局6点に落ち着きました。
しかし、怪談話としてはそれなりのレベルで後半残念でしたが、好感触です。

No.1585 7点 プロジェクト・インソムニア- 結城真一郎 2023/02/04 22:52
睡眠障害(ナルコレプシー)のせいで失業した蝶野は、極秘人体実験「プロジェクト・インソムニア」の被験者となる。極小チップを脳内に埋め込み、”夢の世界(ユメトピア)”を90日間共有するという実験だ。願望を自在に具現化できる理想郷は、ある悪意の出現によって恐怖と猜疑に満ちた悪夢へと一変する。口径の合わない銃弾の謎。次々と消えてゆく被験者たち・・・・・・はたして連続殺人鬼の正体はーー。大胆な伏線が鮮やかに回収され、超絶どんでん返しの末に現れる驚愕の真相に、涙が落ちる。一気読み必至! 最注目の新鋭作家による、大満足の長編ミステリー。
Amazon内容紹介より。

夢の中で殺されると現実でも死ぬという都市伝説を、丸ごと取り込んだ特殊設定の本格ミステリ。またまた新手の設定が出ましたよ。あまり期待してませんでしたが、読み進めるほどに面白くなります。中盤までは夢の中ならではの妙な話が続き、殺人等全く無関係な雰囲気で進んでいきます。最初の事件が起きてから、それが連続する事がほのめかされ、俄然生き生きして来ます。

ユメトピアで過ごす事に関しては様々なルールがあり、それが解決編で活かされます。解決編とは言っても概ねエピローグに集約されており、最後の最後まで目が離せません。その直前に意外過ぎる事実が明かされ、衝撃が冷めやらぬうちに更に追い打ちを掛ける様に読者を翻弄します。ちょっとややこしい感もなくはないですが、読み終われば充実、そして納得の一冊でした。

No.1584 6点 残酷依存症- 櫛木理宇 2023/02/03 22:30
サークル仲間の三人が何者かに監禁される。犯人は彼らの友情を試すかのような指令を次々と下す。互いの家族構成を話せ、爪を剝がせ、目を潰せ。要求は次第にエスカレートし、リーダー格の航平、金持ちでイケメンの匠、お調子者の渉太の関係性に変化が起きる。さらに葬ったはずの罪が暴かれていき......。殺るか殺られるかのデスゲームが今始まる。
Amazon内容紹介より。

うーん・・・『殺人依存症』の続編には違いないんですが、そっちじゃんないんだよなって感じで。私の勝手な願望をよそに物語は好まない方向に進んでしまいました。前作よりもストーリーの広がりが感じられず、絡み合う人間関係みたいなものも薄く、こちらの方がワンランク落ちる感触を覚えました。

前作で主役だった浦杉がなあー。私としてはどういった形であろうとも、決着を付けて欲しかったですね。まあ更なる続編が描かれるのなら、そちらで白黒はっきり付けて頂きたいと思います。
タイトル通り残酷描写は前作といい勝負でしょうが、どちらが心に突き刺さるかとなるとやはり『殺人依存症』の方です。何だか今回は全体の構図が逆転してしまって、それが面白いという人もおられるでしょうし、こちらを先に読んだ人は多分単体で十分楽しめたのではないかとは思います。ただ個人的には『殺人依存症』の方が好みです。

No.1583 3点 輝く断片- シオドア・スタージョン 2023/02/01 22:40
雨降る夜に瀕死の女をひろった男。友達もいない孤独な男は決意する――切ない感動に満ちた名作8篇を収録した、異色ミステリ傑作選。第36回星雲賞海外短編部門受賞「ニュースの時間です」収録。
Amazon内容紹介より。

久しぶりにハズレを引かされました。『取り替え子』は発想が子供だし『ミドリザルとの情事』は訳が分からないし『旅する巌』は印象に残らない。その後読み進めるも、どれもこれも締まりのない箸にも棒にも掛からないものばかりで、いい加減投げ出そうかと思いました。それでも何とか読了しましたが、少し好みのシチュエーションだったのは表題作のみ。それも何の捻りもないまま終わってしまい、いささか不満が残りました。

本当なら1点にしようかと思いましたが、考え直し3点にしました。それ以上はどう考えても付けられませんね。世評は高いし、文春ミステリーベスト10では3位だし、全く世の中どうなってるんですかね。もしかして私だけですか、この作品の良さが分っていないのは。何とも情けないですわ。しばらく翻訳物はいいやと思わされましたが・・・。また読むけど。
読者を怒らせるのは作者の罪だが、退屈させるのは最もたちの悪い最大の罪だと私は思います。

No.1582 7点 殺人依存症- 櫛木理宇 2023/01/30 22:14
息子を六年前に亡くした捜査一課の浦杉は、その現実から逃れるように刑事の仕事にのめり込む。そんな折、連続殺人事件が勃発。捜査線上に、実行犯の男達を陰で操る一人の女の存在が浮かび上がる。彼女は一体何者なのか―。息をするように罪を重ねる女と、最愛の家族を失い死んだように生きる刑事。二人が対峙した時、衝撃の真実が明らかになる。
『BOOK』データベースより。

本格警察小説の佳作。
これ程胸糞の悪くなる小説は久しぶりに読んだ気がします。初っ端からエログロ全開で、その後も要所要所で同じような描写が見られます。その合間に堅実な捜査が行われ、犯人グループを追い詰めていきます。『ホーンテッド・キャンパス』シリーズしか読んでいないファンは、これを読んだら結構ショックを受けるでしょうね。この人はこんな作品も書いていたのかと嘆く声もあるでしょうし、称賛する人も当然いると思います。それでも文章は淀みなく流れるような筆致で、作者の実力の程が伺えます。

主人公の浦杉と隣の部屋の幼女との触れ合いと次第に深まっていく絆はある種清涼剤として、この殺伐とした物語を中和する作用を齎しています。
まあそれにしても、この世の中にはどうしようもない男どもがゴロゴロしている現状が浮き彫りにされ、なかなかの衝撃を受けました。後味は只管悪く、良くない余韻を残します。このままじゃ終われない、と続編を希望するも『残酷依存症』がそれに当たると思っていたのに違ったようで残念です。と思ったらやはり続編に当たるもののようでした。いずれにせよ私は本作を支持します。グロくても救いのない物語でも、嫌いにはなれません。

No.1581 5点 妖琦庵夜話 魔女の鳥籠- 榎田ユウリ 2023/01/28 22:48
都内に佇む茶室、妖〓(き)庵。美貌の主・洗足伊織はヒトとは僅かに違うDNAを持つ妖人であり、ある特別な能力を持っている。一方、警視庁妖人対策本部(Y対)の刑事・脇坂は、不可思議な事件を耳にした。聞き慣れない妖人属性を自称するふたりの女性が、同日、同じマンションで自殺を図ったというのだ。その裏に潜んでいたのは、母と娘の複雑な愛情と憎しみであり…。本当に怖いのは、人か、妖か。人気作第4弾、文庫書き下ろし。
『BOOK』データベースより。

キャラクター小説としては非常に素晴らしい、最高の作品です。妖琦庵の主洗足伊織を含めた妖人三人、そしてY対の刑事二人は各々確りとした世界を構築しており、誰に感情移入するもアリで、それは個人の好みに寄ります。この作者は女性だと勝手に思っています(年齢性別不詳)が、逆に男を描くのが上手いようです。

一方ミステリとしては早々にトリックがばれてしまい、初心者の方でもミエミエでしょう。最後に一捻りしているものの、評価は下げざるを得ません。
キャラ小説として8点、ミステリとして2点、均して5点ってとこでしょうね。安定した面白さは変わりませんが、今回はやはりこれまでのシリーズ中最も低レベルだと思います。Amazonの評価は当てになりません。ほとんどがファン投票でしょうし。

No.1580 6点 ジョニーは戦場へ行った- ドルトン・トランボ 2023/01/26 22:55
【ネタバレ】注意





戦場で砲弾にあたり、目、鼻、口、耳をそぎとられ、両脚、両腕まで切断された青年ジョニーが過去から現在、現在から未来へとめぐらす想念…。発禁にあいながら反戦の想いをこめて版を重ねた問題作。
Amazon内容紹介より。

これは激しく読者を選ぶ作品ですね。上記の様に第一次世界大戦の為四肢を切断された上、五感の内四感を失ってしまったジョー(タイトルではジョニーになっているが作中では何故かジョーである)が主人公という設定なので、それに嫌悪感を抱く人はその時点で本作を忌避するでしょう。しかし一方で人間というものはどこか欠落した人を奇異の目で見て興味をそそられるさがを持っているもので、そちらに傾いた人達は躊躇うことなく読み進めるでしょう。

第一部ではジョーの回想がほとんどで、一応反戦小説の筈だけどと思ったりして、やや違和感を覚え大いに失望したものです。しかし第二部で、ジョーは病院の一室でベッドの振動を頼りに、どうしたら看護婦とコミュニケーションを取れるかを模索していきます。そして辿り着いたのが・・・。果たしてその願いは叶うのか。
そしてラストでは心の中で声高に反戦を叫ぶジョーの姿が痛々しく読者に迫ってきます。其処では己を見世物にして金を稼ぎ、それを元手に自分を介助してくれという自虐の心情も吐露しています。
発禁と絶版を繰り返した本作、間違いなく問題作でありますが、手持ちの本の奥付きには初版の昭和46年から平成4年までで50版の重版があり、やはり少なからず反戦運動、戦争反対の運気や個人的な興味の的になったとは言えるでしょう。

No.1579 7点 新・本格推理03りら荘の相続人- アンソロジー(国内編集者) 2023/01/24 22:51
本格推理界の新しい旗手となり得るか?いつにも増して優秀な書き手が勢揃いした本書。アマチュアのレベルをはるかに超えた8作品がずらりと並んだ。特に全くの新人から驚くべき鬼才が登場。その才能をぜひ見極めていただきたい。このシリーズを誕生させ、10年間に亘って見守り育ててきた鮎川哲也。本書は氏監修の最後の1冊となった―。
『BOOK』データベースより。

『本格推理』は何作か読んでいますが『新・本格推理』は初めて。投稿者のレベルが上がっていた為か、編集者の二階堂黎人も書いていますが、今回の投稿作がたまたま粒揃いだったのか、予想以上にプロに近い水準だったと思います。特に3編も選出された小貫風樹に触れなければならないでしょう。『夢の国の悪夢』は他に比べると一段落ちる感じですが、『とむらい鉄道』は全作品の中でもトップクラスですね。登場人物が少ない中、どう謎を解明、ではなく解決するのかに焦点が絞られます。ただ途中の余計なトリックは邪魔だったかな。返って品位を落とす結果になってしまった様な気がします。この『とむらい鉄道』と『稷下公案』はトーンが似ています。どちらも陰鬱な雰囲気が漂っていて、余人には書けない作風だと感じます。又『夢の国の悪夢』はトリックは別として根底に横たわる悪意にはゾッとしました。何故この人が専業作家にならなかったのかが不思議です。

しかしそんな中、これらの作品を超えたと個人的に思ったのは大山誠一郎の『聖ディオニシウスのパズル』です。これは飽くまで好みの問題ですが、フー、ホワイ、ハウダニット三拍子揃っていますし、新興宗教と孤島のマッチングが素晴らしいです。『悪夢まがいのイリュージョン』も不可能趣味のサスペンス物で良かったです。イマイチだったのはバカミスの『ポポロ島変死事件』ですかね。途中までは良かったんですけどね、トリックがどうも。

No.1578 6点 本格ミステリ・クロニクル300- 事典・ガイド 2023/01/21 22:23
本書は、日本の本格ミステリ十五年史を概観するブックガイドである。編年体で作品を並べ、各年ごとの状況を素描するページを設けた。本書自体が年表の役割を果たせるような作りになっている。取り上げた作品は三〇〇冊。作品の選定にあたっては、単なるベスト作品選びではなく…あの時、その年、あるいは五年、十年、十五年のスパンで、本格シーンにおいて特徴的な役割を果たした作品をピックアップする。
『BOOK』データベースより。

新本格が開幕してからの十五年を振り返るミステリ・ガイドブック。一般的な単行本より一回り大きく、内容もぎっしり詰まっているので、読み応えは十分です。コラムや主だった作家たちによるショート・エッセイも挟まれています。しかし、チョイスが当たり前すぎて途中で飽きてきました、ディケイドの時はそうはならなかったんですけどね。これは読んでないなとか見逃していたと云った作品がほとんどなくて、ちょっとがっかりしました。もう少し隠れた名作や幻の傑作的なのが入っているともっと良かったのではないかと思います。

300冊中既読は174冊という結果に。如何にも中途半端な数字ですが、自分としてはよく読んだ方だと勝手に満足しています。約6割ですからね、打率としてはまあ高いほうじゃないですかね。
それにしても、これだけ取り上げられていて、未読でしかも読んでみたいと思った作品は2、3冊で、その意味ではあまり参考にはなりませんでした。ただ、ミステリ初心者には恰好のガイド本である事には違いないでしょう。
最後に思ったのは、どこかの出版社で裏ベストみたいなのを出してくれないかなって事でした。

No.1577 7点 絶叫委員会- 評論・エッセイ 2023/01/19 22:36
町には、偶然生まれては消えてゆく無数の詩が溢れている。突然目に入ってきた「インフルエンザ防御スーツ」という巨大な看板、電車の中で耳にした「夏にフィーバーは暑いよね」というカップルの会話。ぼんやりしていると見過ごされてしまう言葉たち…。不合理でナンセンスで真剣だからこそ可笑しい、天使的な言葉の数々。
『BOOK』データベースより。

タイトルから想像される様な物々しさはありません。普通のエッセイです、いや違うな、巷に溢れる言葉達にフォーカスしそれらを考察したエッセイです。もしも誰かにこの本は面白いかと問われれば、躊躇なく面白いと答えるでしょう。数ページに一度は笑える楽しい読み物です。それだけで歌人らしい言葉遣いでサラッと読ませ、そのくせ何とも奥が深いです。それぞれの物語がまるで小宇宙のようにその世界観を繰り広げ、読者を引っ張り込んでいきます。

以下、太字で表記された言葉を印象深いものからピックアップしていきましょう。
「妊娠してなかったら何でも買ってやる」切実な男心。よくある話だけど、この言い回しはどうなの?
「Nが生き返るなら、俺、指4本切ってもいいよ」自殺した友を想う男の心情。しかし、何故4本なのか・・・それは本書を読んでみて。
「彼女が泣くと永遠を感じます」嗚呼、分かる気がする。平和な日常が一瞬にして変貌する瞬間。
「マツダのち○○はまるっこいです」小学生の汚れ無き一言。著者曰く大きいでも小さいでもなく、まるいでもなくまるっこいところが良いんだそう。
「どうして手に玉をもってるの」スポーツに興味のない女性が、ボクシングを観乍ら放った一言。確かに知らない人から見るとそうなのかも。
「放し飼い卵」スーパーの張り紙。言いたいことは解るが、卵が跳ねたりして楽しそうな様子を想像するようだ。

他に、例えば梅干しの種の毛やバナナを剥いた時にひも状のものがあるけれど、それは何と云う名称なのだろう、みたいなイマジネーションを掻き立てる様な本当に些細で何気ない事柄を見付けては、エッセイにしてしまう著者の観察力や洞察力に感心させられました。

No.1576 7点 電脳山荘殺人事件- 天樹征丸 2023/01/18 22:42
新本格ミステリー作家、法月綸太郎氏が絶賛!「仮面劇(マスカレード)の舞台へようこそ。パソコン通信を使った虚構のゲームが、吹雪の山荘を見知らぬ者同士の血で染める。小説ならではのトリックは、まさに『絵にも描けない』面白さ」
パソコン通信の仲間が集まった山荘で皆殺しのゲームのスイッチが入る。完全オリジナル第3弾!
Amazon内容紹介より。

法月綸太郎が褒めているだけあって、かなり面白かったです。前半ちょっとダレるというか、殺人が連続している割りには緊迫感が足りない印象でした。しかしその裏では着々と伏線が張られて、仕掛けもひっそりと進められていきます。それを見逃していた私は、まあいつもの事ですが、読者への挑戦状が挟まれていても全くどう推理して良いのかの切っ掛けさえ見当たりません。それどころか、これで果たして犯人が指摘できるだけの材料が揃っているのかと勘繰りたくなりました。

しかし、最終的には圧巻の真相解明が行われます。ここに至って漸くそうだったのかと、膝を打つことしきり。キッチリ伏線が回収されていくカタルシスを味わう事が出来ました。
敢えて苦言を呈するなら、吹雪の山荘にミステリマニアが集まっているのに、ミステリに関する話題がほとんど出て来ない事くらいでしょうか。もう少し読者サービスとしてミステリ蘊蓄を語って欲しかったですね。

No.1575 7点 飛ぶ男、墜ちる女- 白峰良介 2023/01/17 22:56
「男」が、飛び降りた。目撃者が駆けつけてみると、そこには「女」の死体が転がっていた。続いて起こる第2の殺人。被害者は死の直前に「オンナは逆から、オトコは反対へ、赤いシルシには裏がある」と謎の言葉を残した。全編にちりばめられた仕掛けと伏線。稀有の言語感覚を有する新人、新本格推理デビュー作。
『BOOK』データベースより。

どうしても読みたいと思い始めて20年以上。現在Amazonで4点出品されていますが、いずれも送料込みで48580円。私が随分前から見てきた限りでは誰も買っていません。そりゃそうでしょう、定価税抜き699円のノベルス本ですからねえ。それが5万近くのプレミア価格、結構な希少価値があるとは思います。しかしそれにしてもこの値段はボッタクリすぎじゃないでしょうか、とても手が出ません。私が入手したのは昨年の事、この価格に比べれば只みたいなものでした、しかも帯付き。私はラッキーでした。一生読めないかも知れないと思っていましたからね。勿体ないので、機が熟すのを待ってから漸く読み始めました。

さて前置きが長くなりましたが、本作一言で表現すると地味。外連味がないのは良いですが、その分文章のキレ味の鋭さが足りない感じがしました。まあ結果読み易くはあったのですが。そして何と言っても冒頭の不可解な状況の謎があまりに魅力的で、それに引っ張られて最後まで興味が薄れず読めたというのが率直なところ。
初期の新本格に並ぶ作品として帯裏に表記されているだけあって、人間が描けてないのはご愛敬。それでも、解決編では芋づる式に謎が解けていく様は、読んでいてスッキリしました。メイントリックも納得です、大技ではないものの、○○を駆使した秀逸なものでした。

No.1574 7点 恋物語- 西尾維新 2023/01/15 22:42
“片思いをずっと続けられたら―それは両想いよりも幸せだと思わない?”阿良々木暦を守るため、神様と命の取引をした少女・戦場ケ原ひたぎ。約束の“命日”が迫る冬休み彼女が選んだのは、真っ黒で、最悪の手段だった…。「物語」はその重圧に軋み、捩れ、悲鳴を上げる―。
『BOOK』データベースより。

これは詐欺師貝木泥舟が探偵の真似事を行う、シリーズとしては珍しい探偵譚となっています、否、ハードボイルドと言って良いでしょう。どんな経緯で仙石撫子が蛇神となって、暦とひたぎを殺そうと計画しているのかよく分かりませんが、戦場ヶ原ひたぎの依頼を受けて撫子を騙そうとするダークヒーローのひたむきさに心打たれました。悪のイメージしかない貝木泥舟が何故かその身を投げ打ってまで、ひたぎとの約束を守ろうとするのかも、貝木の一人称で描かれている為、その心情がよく理解できます。

謎も幾つか用意されており、その意味でもシリーズ屈指のミステリ寄りの作品でしょう。
ラストの貝木対撫子の勝負はなかなか迫力があり、クライマックスとしてはかなり盛り上がります。後味も良いです。しかし、この物語の主人公は本来なら忍野メメだったのではないかと思うにつけ、返す返すも彼の不在が残念でなりません。いつか復活する日が来るのでしょうか。

No.1573 7点 オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case- 森博嗣 2023/01/13 22:30
「F」の衝撃、再び
孤島に聳えるオメガ城への招待に応じた六人の天才と一人の雑誌記者。
そこには、サイカワ・ソウヘイも含まれていた。彼らが城へやってきた
理由は、ただ一つ。招待状に記された「マガタ・シキ」の名前だった。
島へ渡るには、一日一便の連絡船を使用。帰りは、あらかじめ船を呼ぶ
必要がある閉じた空間。執事すら主催者の顔を知らず、招待の意図は
誰にもわからない。謎が多い中の晩餐をしかし七人は大いに楽しんだ。
そして、深夜。高い叫び声のような音が響き、城は惨劇の場と化した。
Amazon内容紹介より。

森フリークはどこにでも一定数存在すると思っているので、世間の評価はその分差し引いて考慮する様に努めていますが、余りにAmazonの高評価ぶりに欲求を抑えきれなくなり購入しました。まあそんな事は置いといて、本作は最低でも『すべてがFになる』とVシリーズのいずれか、あと出来れば四季シリーズを読んでおかないと、どういう事?となり兼ねません。逆に森作品は全作読んでいるぞと云う猛者は必読でしょうね。

ストーリーは所謂孤島物ですが、ちょっと異色です。其処に関してはあまり語らないほうが良いと思いますので割愛しますが。途中までは典型的な型に嵌った孤島ものではあります。途中からね・・・。
まあ私なんぞは真賀田四季に遭えるのかとワクワクしながら読んだクチで、ミーハーなんですが、その期待は果たして叶うのか?乞うご期待。それにしても、犀川創平ってこんな感じだったかなと、ちょっとばかり違和感を覚えましたね。年月が経っているので仕方ないのかと思いましたけど。
最後残り少ないページ数になっても、一向に解決編が見えて来ないのに焦りましたが、杞憂に終わりました。見事に着地を決めて見せましたよ。

No.1572 6点 赤穂浪士伝- 海音寺潮五郎 2023/01/11 22:49
本所・吉良邸において大石内蔵助を中心とした元浅野家中四十七人が本懐を遂げた元禄十五年十二月十四日。この大望の日を迎えるまでの浪士たちのそれぞれの日々を、丹念に綴った著者得意の列伝。上巻は、高田馬場の決闘で一躍名を挙げた中山安兵衛が堀部弥兵衛の養子となるまでの経緯を描いた「養父の押売り」他六篇を収録。
『BOOK』データベースより。

史実に虚構を交えた或いは完全なフィクションで描かれた、赤穂浪士達の討ち入り前の物語。ほぼ人情劇で、家族や想い人ら浪士を支えた人たちとの交情が叙情的に描かれており、止むに止まれぬ事情で別れを告げなければならなかった辛さ、悲願成就の為大切な人をも欺かねばならなかった武士道精神が心を打ちます。

登場順に、堀部安兵衛、堀部弥兵衛、奥田孫太夫、不破数右衛門、高田郡兵衛、矢頭右衛門七、大高源五が主人公。他に本所松坂町の吉良の屋敷の図面を恋人に用立てさせて苦悩する岡野金右衛門、片岡源五右衛門、磯貝十郎左衛門らも脇役で出て来ます。大石内蔵助は出番が少ない印象。
それにしても、みんな涙もろ過ぎです。

No.1571 5点 推理小説- 秦建日子 2023/01/10 22:38
会社員、高校生、編集者…面識のない人々が相次いで惨殺された。事件をつなぐのは「アンフェアなのは、誰か」と書かれた本の栞のみ。そんな中、出版社に届けられた原稿には事件の詳細と殺人予告、そして「事件を防ぎたければ、この小説の続きを落札せよ」という要求が書かれていた…最注目作家、驚愕のデビュー作。
『BOOK』データベースより。

作中でフェアとかアンフェアとか叙述トリックだとか、ああでもないこうでもないと言及していて、ミステリを上から目線で弄んでいる様に思える事が、多くのミステリマニアの怒りを買っている気がします。どうせこんな感じで書いとけば良いんでしょ?みたいな不遜とも思える作者の姿勢が見え隠れしています。
作品としては大風呂敷を広げて、結局ショボい結末で終わってしまう典型的な竜頭蛇尾なものではないでしょうか。推理小説と言うより、安易なサイコ・サスペンスの様な感じです。

しかしながら、視点をコロコロ変え目先の面白さに拘り、犯人解明までの疾走感は評価出来ます。又、様々な工夫を凝らして読者を飽きさせない手法はアリだと思います。ただやはり、結末が貧弱。意外性もないし動機もうーんって感じでねえ。女刑事の雪平は魅力的。

No.1570 6点 少女には向かない職業- 桜庭一樹 2023/01/08 22:38
あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した…あたしはもうだめ。ぜんぜんだめ。少女の魂は殺人に向かない。誰か最初にそう教えてくれたらよかったのに。だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけだったから―。これは、ふたりの少女の凄絶な“闘い”の記録。『赤朽葉家の伝説』の俊英が、過酷な運命に翻弄される少女の姿を鮮烈に描いて話題を呼んだ傑作。
『BOOK』データベースより。

13歳、それ以上でも以下でもない等身大の少女の姿が窺い知れます。陽気で元気な、時には涙を流す喜怒哀楽が激しい主人公で語り手の「あたし」大西葵。そしてもう一人の少女宮之下静香は影のある図書委員。二人の少女の個性、陽と陰、陰と陽が重なり合う時、何かが起こる。

葵のセンセーショナルな告白で始まる、この物語は大人達への挑戦とも取れる無謀な戦いの様相を呈します。序盤はごく普通の青春小説の様でもあり、少女の心模様が手に取るように分かる、なかなか筆達者ぶりを作者は見せつけてくれます。それがやがて不穏な空気を纏ってきて、二人の少女の出会いがとんでもない事件に発展します。
まあ面白いと言えば面白いんですが、ただやはり子供のする事、犯罪計画はかなり杜撰でトリックとかロジックとかを重視する読者にはお薦めできません。そういう細かい事を気にしなければ十分楽しめる良作であると思います。ミステリとしてよりも青春小説として評価したいですね。

No.1569 6点 サクリファイス- 近藤史恵 2023/01/07 22:31
ぼくに与えられた使命、それは勝利のためにエースに尽くすこと―。陸上選手から自転車競技に転じた白石誓は、プロのロードレースチームに所属し、各地を転戦していた。そしてヨーロッパ遠征中、悲劇に遭遇する。アシストとしてのプライド、ライバルたちとの駆け引き。かつての恋人との再会、胸に刻印された死。青春小説とサスペンスが奇跡的な融合を遂げた!大藪春彦賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

スポーツ青春小説として、如何にも万人受けしそうな作品だと思います。人間模様や自転車レースの定石やマナー等が分かり易く描かれています。自転車競技に興味のない人でも難なく引き込まれるでしょう。そりゃもう一気読み必至ですよ。とても良く出来ているとは思いますが、例えば誉田哲也の武士道シリーズに比べると、迫力や試合での熱さ、スポーツの持つ心理戦や奥深さに於いて、到底及ばないというのが個人的感想です。

私はみなさんと意見が少々違いますが、ミステリの部分に結構惹かれました。其処には期待していなかっただけに、逆にそうだったのかみたいな驚きを覚えました。主題は自転車レースにあるのは誰の目から見ても明らかです、だからと言ってミステリとして弱いとは私は思いません。
蛇足ですが、紅一点の香乃の扱いが雑だと感じました。雑と言うか、誰でも良いんかいと突っ込みたくなりました。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 2008件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(30)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(20)
日日日(20)
中山七里(19)
森博嗣(19)