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[ 本格/新本格 ]
デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士
デフ・ヴォイスシリーズ
丸山正樹 出版月: 2011年07月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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文藝春秋
2011年07月

文藝春秋
2015年08月

No.2 6点 斎藤警部 2026/02/11 00:30
<今まで、本当にありがとう>
<でも、これでお別れじゃありません>
<私たちは、いつまでも家族です>

熱いぜ .. 冷たいぜ .. 熱いぜ ... 狭山の公園で発見された刺殺死体は、聾児施設 「海馬(うみうま)の家」 の理事長と判明した。 奇しくも十七年前、被害者の父である、同施設の前理事長も(こちらは施設内の一室で)刺殺体で見つかっている。 十七年前の事件の際、当時事務員として勤めていた警察署内で、臨時に容疑者取調べの手話通訳者として苦々しい仕事をしたのが、本作の主人公。 彼はCODA(聾者の親・家族のもとに育った健聴者)である。 警察事務員を辞して後は夜間警備員として勤める主人公だったが、少しでもペイの良い仕事を求めて手話通訳士の資格を取り、エージェントを通して、クライアントである聾者に銀行や病院へと付き添う仕事をこなしていた。

ある日、裁判所での手話通訳を依頼され、不如意な結果ながらも、或る大きな信頼を得た主人公は、これをきっかけに、聾者とそれを支援する者たちのコミュニティから接触を受ける。 また昔の警察同僚と再会し、その対話の中で、二代に渡る 「海馬の家」 理事長刺殺事件真相解明への意欲を掻き立てられる。 初代事件の犯人とされたのは、主人公が “取調べ” に手話通訳で立ち会った、聾児である娘を同施設にあずけていた、自らも聾者である中年の男だった。 既に釈放されているが、現在行方知れずであるこの男は、今回の事件と何らかの関係を持っているのではないかとの疑いに晒されている。

主人公を取り巻くのは、聾者たちと支援者たち、警察の元同僚に加え、別れた元妻、再婚を考え始めた女性とその一人娘、その元夫、認知症を患う聾者の母、厄介な聾者の兄とその家族、初代事件の “犯人” とその家族、と多岐にわたる。 やがて厄介な謎の壁が立ちはだかる。 十七年前の “取調べ” の際、主人公に向かい強烈な一言を ‘手話で’ 吐いた、容疑者の娘(施設にあずけられていた姉ではなく、健聴者である妹のほう)が、何故か、存在しないことになっている。 死んだとか失踪したのではなく、元からそんな人物はいませんでしたと。 これはいったい何のイリュージョンか。 不可解な謎に悩まされ、私生活のトラブルを抱え、過去からの苦悩を背負いながらも ‘二つの’ 事件の真相解明に心を燃やす主人公。

本作、一方に社会問題提起(あるいは社会の一側面紹介)という要素があり、一方にはもちろんミステリ小説の要素があるが、その二つががっちり嚙み合って “社会派ミステリ” を成しているかと言えば、そこはちょっと微妙な気はする。 だが、社会派の風がミステリ文脈に少しでも吹き込むだけでスリルとサスペンスが段違いに締まっている事実は否めず、どことなく距離があるも結果オーライな共存関係を見せているのではないかと思う。(まあどうでもいいことですかね)

大きな減点対象は、ミステリの核心を成すと思われる ‘◯◯の操作’ に関わる諸々が、その中心的関与者の置かれた立場に照らして、あまりに簡単に行き過ぎているように見えるのと、それとやっぱり結末が、いくらなんでも突発性キラキラのお花畑に過ぎませんかという違和感。 この結末では、せっかくの物語の深い余韻残響にフタをされてしまうような気がします。 結末に至る直前の◯◯◯シーンは、ミステリ的にも文芸的にも誠に意外性と感動に溢れた、トリッキーにして激熱無比の貴重な逸品なのですがね。。 だからこそ、残念!

本作ならではの美点としては、聾者と手話を取り巻く環境の一枚岩でないことがあらためて紹介・確認されていたり、手話の描写が上手く、親しみが自然と湧いたり、その ‘手話’ ならではのちょっとした ‘トリック’ やら泣かせどころ、時にユーモラスなシーンなどが意外性たっぷりな登場をする所が挙げられると思います。

二つの事件の真犯人像とその周辺事項には一捻りした熱さがあり、過去と現在のクロスオーヴァー案件は心に楔を打ち込んで来る。 主人公と元同僚刑事とのラギッドな友情は沁みる。 そもそも警察を追われた理由が凄まじい。

それやこれやで読みどころの豊富な意欲作。 リーダビリティが高すぎて長篇感がやや削られているきらいもありますが、とりあえずササーッと一気読みしてみてはいかがでしょうか。 私のようにNHKドラマで観ちゃったよという人も、臆せずGOしてみましょう。

No.1 5点 メルカトル 2022/08/13 22:50
今度は私があなたたちの“言葉"をおぼえる

荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。弱き人々の声なき声が聴こえてくる、感動の社会派ミステリー。
仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。彼は両親がろう者、兄もろう者という家庭で育ち、ただ一人の聴者(ろう者の両親を持つ聴者の子供を"コーダ"という)として家族の「通訳者」であり続けてきたのだ。ろう者の法廷通訳を務めていたら若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始め…。マイノリティーの静かな叫びが胸を打つ。衝撃のラスト!
『BOOK』データベースより。

ラストシーンは良かったと思います。しかしそれまでが、真面目に描かれ過ぎていると言うか、余りにも遊び心が無くて読んでいていささか疲れました。登場人物が多い割りには説明不足のせいか、誰が誰だか分からないという現象が。主要登場人物一覧が欲しかったところですね。
200ページ過ぎ辺りまで、散文的でどこに重点を置いて読めば良いのか迷いました。又文章が硬く面白みに欠けます。そして何より肝心の二つの殺人事件が蔑ろにされている気がして、どうも感心しません。

聴覚障碍者あるあるや、ろう社会に関する刑法四十条や差別の問題に切り込んでいる姿勢は買います。そして下手に同情を惹こうとする事なく、障害者も健常者も区別なく描写しているのは小説として褒められるべきポイントだと思います。それと引き換えに情に訴える部分がありませんので、突き放された様な感触は拭えません。
Amazonの評価が高いのは、読者の多くに私が読み取れなかった何かが心に刺さったのでしょう。でもミステリとしては特に突出したものはありませんでした。これは間違いないと思います。


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