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臣さん
平均点: 5.90点 書評数: 660件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.12 6点 ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー 2023/07/11 15:54
さすがクリスティー、いろいろとアイデアが出てくるのですね。
プロットはすばらしいし、登場人物どうしの情感もいろいろあって楽しめるし、それに犯人の設定もいい。しかもスイスイと読める。

ただ好き嫌いが多いというのはよくわかる。
ミステリーを決定づける何かが足らないからでしょう。というか、こういったアイデア勝負では喜べないっていう人が多いのでしょう。もっと手荒な反則技のほうがいいのかもしれません。ポアロでは役不足だからバトル警視が探偵役になったのでは、と思ってしまいます。ポアロが陰ながら応援しているように読めたのは、グッドです。
それと、人並由真さんのマクワーターに対する言及は、まさにそのとおり。別の手段を採用できなかったのかな?
とにかくボロの出やすい、突っ込まれやすい作品なのですよね。

以上、どちらかというと長所より欠点が気になった作品ですが、全体として酷い出来ということもないし、まあまあ楽しめたので評点はごく普通です。なんともいえぬ奇妙なロマンス要素が効いていたのかもしれません。

No.11 4点 書斎の死体- アガサ・クリスティー 2018/05/25 13:03
書斎に見知らぬ女性の死体が・・・
たしかに斬新な冒頭シーンかもしれません。
全体を通してみれば、登場人物が多く、その人間関係もプロットも複雑で、背景もいろいろあります。
でもそのわりに、ミステリー的には平板な感じがします。
むしろマープルとバントリー夫人の会話が楽しめました。

トリックや伏線など見るべき箇所はありますが、個人的には切迫したサスペンスが伝わってこず、平凡な印象を受けました。
どうしても安楽椅子探偵モノには抵抗を感じます。

No.10 5点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2016/09/22 13:33
記念すべきデビュー作。
ポアロシリーズの第1作でもあり、本作ですでにヘイスティングズが登場している。しかも、このヘイスティングズがなんともいえない良い味を出している。

意外な犯人モノで、読者に対するミスリードは心憎いほど巧みです。クリスティーらしさは全開です。
これは作者の技量にはちがいありませんが、他の名作群にくらべると、テクニック抜群という感じではなく、なんとなくの巧さによるもののようです。

文章が拙いという評者の方がおられましたが、たしかにそのとおりで、本作に限らずクリスティーはそもそも文章が巧くないのかもしれません。それに人物造形だってイマイチというところがあるように思います。
でも、ミステリー性とのバランスが抜群です。というか、文章や人物造形のマイナスポイントがミステリー要素を引き立てているようです。

No.9 8点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2015/06/23 09:56
列車内での殺人。犯人は10数人の乗客、乗員の中の誰なのか。
クリスティー作品の中でも人気の作品。
仕掛けが有名で、その後の流用もあります。
好きな点、上手い点としては、被害者が一人ということ、ポワロの最初の推理の対象人物があの人だったこと、そしてポワロの謎解きの締めくくり方、ですね。

本作は2度読み、3度読みにも耐えられる内容となっています。
といっても、伏線を確認しながらという理由ではなく、つぎのように解釈したからです。

この作品はじつは、ミステリーというよりはむしろ
(ここから少しネタバレ風)

忠臣蔵なんですね。
直近の年末か年始にテレビで放映された、三谷幸喜版の「オリエント」を観て、そう思いました。
このドラマには第2部があって、そこで、あだ討ち(殺人の実行)までのエピソードが明かされる。これが第1部と同じぐらいに面白い。
こんな作り方、楽しみ方もあるのだなと感心しました。そして今回の再読。
背景を想像しながら再読すれば、忠臣蔵と同じように、なんどでも楽しめます。

当然ですが、本格ミステリーとしての価値は、仕掛けを知らずに読む1回目にあります。
その際に、フェアと感じるか、アンフェアと感じるかは読者しだい。
私は、本書が本格ミステリーであると標榜する以上、アンフェアと判断されてもしかたなしとは思います。が、それでも当時楽しめたので、潜在的に忠臣蔵を感じとっていたのかもしれませんw

以上の理由で、再読でも面白い。
本作のジャンルは、本格ミステリーではなく、本格ミステリー風復讐モノ超娯楽作品なのです。

好きな作品なので以上のように擁護しましたが、正直なところ、再読はやはりねぇ~(笑)。

No.8 5点 パーカー・パイン登場- アガサ・クリスティー 2012/10/16 09:51
前半6編は、パインが複数の部下を使って事件を解決する話です。いや事件というほどではなく、対象は個人のちょっとした悩みばかり。まあ、悩み相談室ってところでしょう。
その程度のことで、スタッフを使って一芝居打つ必要があるのだろうか、と言ってしまうと身も蓋もありません。そのへんはご愛嬌です。そういった軽いノリのシリーズです。この前半は、皆さんがそうであるように人気があるようです。
後半6編は事件が絡んできて、お手軽な短編推理小説として楽しめます。

前半と後半でどちらがいいか。いずれも意外な結末があり平均的に楽しめるので、結局は好みによると思いますが、クリスティーの意外性を見出したいならなら前半、あくまでもミステリーをというなら後半でしょう。
個人的にはやはり後半のほうが好きで、なかでも「高価な真珠」「デルファイの神託」がよかったですね。

クリスティーは、どろどろの愛憎が背景にある殺人を扱ったものこそが真骨頂だと思っています。でもそのドロドロ感は軽い文章によって重苦しさはなくなっています。そのやや軽くなった愛憎話と、ミステリー要素(トリック)とがほどよくまざりあって調和し、互いに引き立てあうところがクリスティーの魅力だと思います。
本書は、そもそもが軽い話なので、前半はもちろん後半でさえもそんな魅力は薄めですが、クリスティの多彩ぶりは間違いなく確認できると思います。

No.7 7点 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー 2010/11/05 13:17
キャルガリがジャッコの無実を家族に伝える冒頭の引き込みの上手さもさることながら、そのことで家族たちが疑心暗鬼におちいっていく様は実にうまく描かれています。冤罪がテーマなだけに、全体として地味でサスペンスも少なく、謎解き自体も物足りませんが、それを感じさせない上質な作品だと思います。
初読のときは、その暗さで不覚にも居眠りしてしまった映画化作品「ドーバー海峡殺人事件」に引きずられて、凡作の印象しか残りませんでしたが、今回の再読では、予想に反して素晴らしい作品であるとの印象を受けました。再読せずに記憶だけで評していたら、たぶん4、5点だったでしょう。

巻末の濱中利信氏の解説では、複数視点のことをとやかく指摘していますが、それなら「そして誰もいなくなった」だってそうですし、これこそがクリスティーのテクニックだとも思うのですが。一部の状況しか知らない探偵役が謎解きしたことについても指摘していますが、これには納得です。

No.6 7点 アクロイド殺し- アガサ・クリスティー 2010/10/14 10:01
このサイトを訪れるまでは、ストーリー、トリック、読後感のすべてを忘れていた。
でも、サイトの書評を斜め読みしただけで、忘れていたメインのトリックをあっという間に思い出してしまう、そんなデリケート作品である。
本書がきっかけでミステリにはまったという人は多いと思うが、私の場合、すべてが忘却の彼方というぐらいだから、もちろんそうではない。実は、サイトの評を見て代表作であることを再認識したという、実にお粗末なファンである。初読は20年以上も前だが、そのときにすでに、この大トリックの既読感があったのかもしれない。
その程度の位置付けだから読み直す必要もないんだろうけど、なんとなく読んでしまった。
再読して思うことは、歴史的価値は色あせてはいないが、後続の同種の作品によって、いまでは驚愕度が希釈されていることはまちがいない。同種のトリックが氾濫しているから初心者にしかお薦めできない。なぁ~んだ、その程度か、と感じる人もいるはず。
よかったのは、麻雀シーンと、ポアロの天才探偵ぶりと、伏線を確認しながらニヤリとする再読ならではの楽しみ方ができたこと。

No.5 4点 蒼ざめた馬- アガサ・クリスティー 2010/08/31 12:33
「蒼ざめた馬」(聖書に出てくる言葉です。)という名の館に住む魔法使い(?)たちが重要な役割として登場し、クリスティーにはめずらしくオカルティックな雰囲気を持ったミステリー作品となっています。オカルト風味をけっこう好むほうなので、期待しながら読み始めましたが、魔女、呪術など楽しげなワードが飛び出してくるわりには不気味さもサスペンスもなく、展開に起伏もなく、会話がだらだらと続くなど淡々としすぎているように感じられました。本格ミステリーとしても合格レベルには達せず、どちらかといえば期待はずれな作品でした。

No.4 7点 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー 2010/02/24 12:52
リチャード・アバネシーの葬儀の終えた後から、すべての物語が始まります。遺言公開の席上でのリチャードの妹のとんでもない発言、そしてその翌日の殺人、さらに数日後の怪事件と、アパネシー家を中心とした事件が次々に発生します。
前半は被害者の近辺やその他アパネシーの一族への聞き込みを中心とした展開、中盤からはポアロが家族たちをリチャード宅に集めての長い大団円の展開と、やや単調なストーリーですが、その分を差し引いても十分に評価できる作品だと思います。

(以下、ネタバレ風)
典型的な意外な犯人モノなのかもしれません。私はなんとなく直感で気付いてしまいましたが、もちろん何の根拠もありません。仕掛けも全く見破ることはできなかったので、そのトリックや真相を知ったときはあ然としました。とにかくミスリーディングについては秀逸ですね。単調なストーリーにもわけがあったような気がします。どちらかというと、意外な犯人に驚かされたというよりも、ミスディレクションに翻弄されて楽しめたという印象が強いですね。トリックの実現可能性については疑問が残りますが、よく考えたものだなと感心もしています。この犯人、知恵もさることながら度胸もありますね。

No.3 5点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2009/10/27 14:04
ポアロとヘイスティングズのコンビ作品で、ヘイスティングズの一人称で語られている、典型的な捜査中心の探偵小説です。
ポアロは犯人の知恵と知性に翻弄されるし(ポアロが犯人に振り回されるのはけっこう面白いですね)、ヘイスティングズもへまをやらかすなど、ミスディレクション要素はたっぷりあって、読者もいっしょに寄り道をしてしまいますが、肝心のトリックは大掛かりで緻密なわりには、解けてしまえばやや大味かなという気がします。犯人の意外性は楽しめますが、全体としては、ごく平均的なミステリだと思います。でも、クリスティーの場合、異色作が多いせいか、こんな王道的な作品であっても十分に興味をそそられることも事実です。
また、プロットはさすがに良くできていると思うのですが、私が読んだ新潮版は翻訳がイマイチ合わず、読んでいて何度もつまづいてしまいました。ハヤカワか創元推理にすれば良かったかな、と後悔しています。

No.2 10点 そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー 2009/07/06 10:03
名探偵の代名詞であるホームズと同様、ミステリファンでなくても、本作のタイトルを知らない人はいないのではないでしょうか。円熟期に書かれた、クローズドサークル&見立て殺人物であって、他の追随を許さない超傑作です。
孤島に招待された人たちが、童話になぞられて一人ずつ殺されていくストーリーには、クリスティーの文章表現も手伝って、恐怖感が指数関数的に増大させられます。作中の人物といっしょに読者も味わえるこの恐怖感は最高です。
この作品は、プロットはもちろん絶品ですが、実は文章の巧みさが際立つ作品だと思います。その巧みさは、たんに叙述トリックの巧さということだけではなく、むしろ、会話文と、地の文と、話者が特定できない心情吐露の独白文とによる表現力の豊かさにあると思います。そして、その表現力でもって、登場人物の心情変化が発現されて、サスペンスに満ちた作品となっています。
翻訳(誤訳)のせいで多少のアンフェア感が出ていましたが、作品を楽しむうえではほとんど問題はなかったように思います。かりに、翻訳文ではなく原文にアンフェアな記述があり、本格派推理小説として認められなかったとしても、これほどのアイデアと構成を考え出したことと、秀逸なサスペンス作品に仕上げたことに対して満点の評価は変わらないと思います。
映画も懐かしいですね。たしかラストが原作とは違っていたように記憶しています。

No.1 9点 検察側の証人- アガサ・クリスティー 2009/07/06 09:55
フレンチ婦人殺人事件の嫌疑をかけられたレナード・ボールの裁判において、アリバイを証明するはずの妻ローマインが、なぜか検察側の証人として証言台に立つ。これが最大の謎です。そしてラストには、重なるどんでん返しが待ち受けています。これには背筋が震えます。人物描写にすぐれた作品で、ローマインが魅力的で、人間的に描かれています。
本作を読めば、物語性重視の私にとっては、トリックや謎解きだけでなく、プロットや文章表現を重視した作品こそがミステリの名作になりえるのだなということが再確認できます。映画『情婦』も良かったですね。

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臣さん
ひとこと
あいかわらず読書のペースが遅い。かといってじっくり読んでいるわけではない。
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採点傾向
平均点: 5.90点   採点数: 660件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(15)
横溝正史(12)
東野圭吾(12)
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